説明

竹繊維およびその製造方法ならびに竹繊維を用いた複合材の製造方法

【課題】実質的にヘミセルロースを含まず、セルロースに富み、繊維長の短い竹繊維を提供し、また、化学的な処理操作や高圧での処理操作を伴わず、あるいは使用した化学物質を後処理する必要のない竹繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】竹繊維は、熱重量減少の微分曲線において、180〜320℃の温度範囲に実質的にピークを有さず、300〜400℃の温度範囲にピークを有し、繊維長1000μm以下の繊維の含有量が80質量%以上であり、竹繊維の製造方法は、竹を180〜320℃の温度の常圧過熱水蒸気で1〜3時間加熱処理した後、粉砕する。竹繊維と高分子材料を配合し溶融成形して複合材を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、竹繊維およびその製造方法ならびに竹繊維を用いた複合材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
竹は、その長手方向に維管束が並んで、一方向強化材の役目を果たしている。一つの維管束は四つの維管束鞘と複数の導管や師管から構成されている。維管束鞘は多数の繊維(厚壁細胞)の集まりである。維管束鞘は、繊維断面にほとんど空孔が見られず、この一方向に並んだ繊維(竹繊維)が竹の強度を支えている。
竹は、豊富に存在するバイオマス資源であり、竹から取り出した竹繊維には、広範な用途がある。
【0003】
竹の材料化、言い換えれば竹からの竹繊維の取り出しは、その硬い構造を解きほぐすことから始まる。従来、竹を破砕あるいは粉砕するための物理的方法が多数開示されてきた。
例えば、ギヤまたはスクリュー歯合の揉摺機を用いて常温で綿状に竹を揉摺する技術や、まず表面の硬い部分を研削した後に、幹材を等間隔に複数分割して板状竹材とし、さらにこの板状竹材を破砕して粉末にする技術や、特殊な回転切削歯を持った竹粉製造装置や、オガ粉製造装置を使って竹を粉砕し、篩分けで残ったサイズの大きい粉末を再度オガ粉製造装置に再送して竹粉を作成する技術等が開示されている。
しかし、竹粉(竹繊維)を物理的に製造するためには、上記のように特殊な粉砕装置を必要とし、あるいは処理に多大な手間がかかる。また、繊維方向に長い(アスペクト比の大きい)竹繊維を取り出すことが難しいという問題もある。
【0004】
これらの問題点を解決することを目的として、所定長さに切断した天然の竹材を例えば耐圧が10kg/cmの圧力缶体に入れ、100℃以上、例えば170〜175℃の温度とその温度に対応する圧力とを備えた水蒸気を供給する加圧加熱操作と、圧力を急速に開放する減圧操作とを繰り返すことにより竹繊維相互を分離させる竹繊維の製造方法が開示されている(特許文献1参照)。
しかし、圧力容器を用いることは、高圧のため設備費がかかるばかりでなく、安全性の確保が必要であり、スケールアップも難しいものと考えられる。
【0005】
また、竹を予めチップ状にまで切断処理をし、次に二酸化硫黄または硫酸の存在下に100〜200℃の水または水蒸気を用いて予備加水分解した後、水、アルカリおよびアントラキノンからなる薬液で蒸解してパルプ化する技術が開示されている(特許文献2参照)。
しかし、この場合、使用した化学物質の後処理の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−155677号公報
【特許文献2】特表2008−501074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする第一の問題点は、従来の竹繊維の取り出し技術は、実質的にヘミセルロースを含まず、セルロースに富む、数mmを大きく下回る短繊維長の竹繊維が得られない点である。
また、解決しようとする第二の問題点は、従来の竹繊維の取り出し技術は、アルカリ性や酸性物質を使った化学的な処理操作や高圧での処理操作を伴い、あるいは、さらに使用した化学物質を後処理する必要がある点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る竹繊維は、熱重量減少の微分曲線において、180〜320℃の温度範囲に実質的にピークを有さず、300〜400℃の温度範囲にピークを有し、繊維長1000μm以下の繊維の含有量が80質量%以上であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る竹繊維は、好ましくは、平均アスペクト比が5以上であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る竹繊維の製造方法は、竹を180〜320℃の温度の常圧過熱水蒸気で加熱処理した後、解繊することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る竹繊維の製造方法は、好ましくは、破砕および粉砕のうちのいずれか一方または双方の方法により解繊することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る竹繊維の製造方法は、好ましくは、加熱処理時間が1〜3時間であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る複合材の製造方法は、上記の竹繊維と高分子材料を配合し溶融成形することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る複合材料の製造方法は、好ましくは、前記竹繊維と前記高分子材料の配合比率が、質量比で、竹繊維:高分子材料=70:30〜5:95であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る竹繊維は、熱重量減少の微分曲線において、180〜320℃の温度範囲に実質的にピークを有さず、300〜400℃の温度範囲にピークを有し、繊維長1000μm以下の繊維の含有量が80質量%以上であるため、合成木材等の複合材の用途に好適に用いることができる。
また、本発明に係る竹繊維の製造方法は、竹を180〜320℃の温度の常圧過熱水蒸気で加熱処理した後、解繊するため、圧力容器を必要とせず、また、後処理が必要な化学物質を使用することなく、セルロース繊維とリグニンあるいはセルロース繊維同志を結合させているヘミセルロースを効率的に分解、除去することができ、これにより、容易に粉化された竹繊維を得ることができる。
また、本発明に係る複合材の製造方法は、上記の竹繊維と高分子材料を配合し溶融成形するため、木質系の複合材を好適に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は実施例2の竹繊維の光学顕微鏡写真を示す図である。
【図2】図2は常圧過熱水蒸気処理された孟宗竹の熱重量分析結果を示す図であり、上図は残重量率変化を、下図は重量減少度の微分(DTG)曲線を、それぞれ示す。
【図3】図3は実施例4のストランドを割った面の光学顕微鏡写真を示す図である。
【図4(A)】図4(A)は実施例1の粉砕された孟宗竹中の針状のセルロース短繊維の長さのヒストグラムと累積頻度曲線を示す図である。
【図4(B)】図4(B)は実施例2の粉砕された孟宗竹中の針状のセルロース短繊維の長さのヒストグラムと累積頻度曲線を示す図である。
【図4(C)】図4(C)は実施例3の粉砕された孟宗竹中の針状のセルロース短繊維の長さのヒストグラムと累積頻度曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。
【0018】
竹は、広義には、イネ目イネ科タケ亜科のうち、木本のように茎が木質化する種の総称である。日本に生育する竹は600種あるといわれており、そのうちの代表的なものとして、マダケ、モウソウチク(孟宗竹)、ハチク等が挙げられる。
本発明の実施の形態において用いる竹の種類を限定するものではない。また、本発明の実施の形態において、竹とは幹、枝、葉、および根からなる総体的なものを意味するが、とりわけ、セルロース繊維成分が豊富な幹部が好適である。
竹は、その主要な構成成分として、セルロース、ヘミセルロースおよびリグニンからなる。ヘミセルロースはセルロースとリグニン、あるいはセルロース同士を結合させる接着剤の役割を担っている。このヘミセルロースは、例えば、生竹粉末を高分子材料にブレンドして高温で成形した際、分解生成物、いわゆる竹酢液成分が揮発し、ブレンド体の物性を低下させるのみならず、作業環境の悪化を引き起こす。
【0019】
本実施の形態に係る竹繊維は、熱重量減少の微分曲線において、180〜320℃の温度範囲に実質的にピークを有さず、300〜400℃の温度範囲にピークを有し、繊維長1000μm以下の繊維の含有量が80質量%以上である。
なお、本実施の形態に係る竹繊維は、少なくとも50質量%以上のセルロース繊維を主成分とする竹粉末であり、セルロース繊維以外に、リグニン粉末やセルロース成分とリグニン成分両者の結合した粉末成分等の竹由来成分が含まれていてもよい。
熱重量減少の微分曲線は、示差熱重量測定装置(Differential Thermal Gravimetrical Analyzer)等で測定することができる。180〜320℃の温度範囲のピークは、ヘミセルロースの分解に基づくものであり、竹繊維がこの温度範囲に実質的にピークを有さないとは、竹繊維が実質的にヘミセルロースを含まないことを意味する。300〜400℃の温度範囲のピークは、セルロースの分解に基づくものであり、竹繊維がこの温度範囲にピークを有するとは、竹繊維がセルロースを含むことを意味する。本実施の形態に係る竹繊維は、実質的にヘミセルロースを含まず、セルロースに富む。竹繊維中のセルロースの含有量は、原材料である竹の種類や竹の部位によって若干異なる。例えば孟宗竹の場合、その幹部の組成は、セルロースが約50%であり、ヘミセルロースとリグニンがそれぞれ25%程度であることが知られている。
竹繊維の繊維長は、倍率を調整可能な顕微鏡観察で得られた1cm×1cm画像中の繊維について直接測定して得る。繊維長1000μm以下の質量%は、繊維長と質量が実質的に比例関係にあることに基づいて、繊維長の累積頻度%を測定して、これを質量%と置き換える方法により得る。
竹繊維の繊維長は、好ましくは、1000〜10μmであり、より好ましくは500〜50μmである。竹繊維の繊維長は、基本的に大きければ大きいほど好ましい。しかし、繊維長が極端に大きい場合、複合材の原料として用いるときに、その繊維長を保持したまま、均一に分散することが困難になるおそれがある。なお、繊維径は、150〜1μmであることが好ましく、100〜10μmであることがより好ましい。
【0020】
以上説明した本実施の形態に係る竹繊維は、ヘミセルロースを実質的に含まず、かつセルロースに富み、さらに、繊維長1000μm以下の繊維の含有量が80質量%以上であるため、例えば合成木材などの複合材の用途に好適に用いることができる。
【0021】
また、本実施の形態に係る竹繊維は、平均アスペクト比が5以上であると、例えば、複合材等の用途に好適に用いることができる。
繊維の平均アスペクト比とは、繊維の繊維長を繊維径で割った値の平均値であり、長い繊維ほど大きいアスペクト比を有する。
竹繊維の平均アスペクト比は、後述する複合材の原料として用いる場合は、5以上であることが好ましく、さらに好ましくは10以上、より好ましくは15以上である。一方、竹繊維の平均アスペクト比の上限は特にないが、例えば最大100程度あれば十分である。
ここで、竹繊維の平均アスペクト比は、倍率を調整可能な顕微鏡観察で得られた1cm×1cm画像中の全繊維について画像統計処理方法で測定して得られるアスペクト比の算術平均値である。
【0022】
次に、本実施の形態に係る竹繊維を好適に得ることができる、本実施の形態に係る竹繊維の製造方法について説明する。
本実施の形態に係る竹繊維の製造方法は、竹を180〜320℃の温度の常圧過熱水蒸気で加熱処理した後、解繊する。解繊は、適宜の方法で行うことができ、例えば、水中等で弱い力を加えながら長い時間をかけて行うことができる。この場合、解繊後、乾燥して水分を除去、調整する。ただし、常圧過熱水蒸気で加熱処理することにより乾燥できた竹繊維に、水分を加えた後に再度の乾燥を行うことによるエネルギー消費を避け、また、短時間で目的とする繊維長の竹繊維を効率的に得るためには、破砕および粉砕のうちのいずれか一方または双方の方法により解繊することが好ましい。このとき、加熱処理時間は特に限定するものではないが、1〜3時間であると、好適である。
ここで、常圧過熱水蒸気とは、定容積状態で加熱して得られる加圧飽和水蒸気と異なり、膨張できる状態で100℃の水蒸気をさらに加熱して得られる、標準気圧下で100℃以上の過熱水蒸気をいう。
常圧過熱水蒸気のメリットは、圧力が常圧であるため、(1)例えば反応容器を用いる場合、容器の耐圧が不要であり、(2)スケールアップが容易であるという点である。また、(3)常圧過熱水蒸気によって分解除去される成分が、水蒸気流に乗って排出されるため、例えば反応容器を用いる場合、反応容器内で分解気化物が液化滞留しない点である。さらに、(4)170℃の水への逆転移温度以上では、乾燥空気以上に処理物の乾燥速度が速くなるため、処理後の生成物の乾燥工程が不要という点である。
【0023】
加熱処理は、常圧反応容器内に竹を配置し、常圧反応容器に常圧過熱水蒸気を導入して行うことができる。この場合、竹を常圧反応容器の内部に収容できる寸法、例えば、最大寸法が数十cmになるように切って用いる。なお、大型の常圧反応容器を用いれば、竹の裁断は実質的にほとんど不要になる。
また、加熱処理は、連続コンベアー上に常圧過熱水蒸気を吹き付けて行う方式を採用してもよく、この場合、竹の裁断は実質的に不要となり、また、連続処理により処理効率が高い。
さらにまた、加熱処理は、ロータリーキルン内で常圧過熱水蒸気を吹き付けて行う方式を採用してもよく、この場合、竹と水蒸気との接触がより均一となり、さらに、竹の破砕および粉砕を装置内で同時に行うこともできるため、処理効率が高い。
常圧過熱水蒸気の温度が180℃を下回る場合、ヘミセルロースの除去が十分に行われないおそれがある。常圧過熱水蒸気の温度は、190℃以上であることがより好ましく、210℃以上であることがさらに好ましい。一方、常圧過熱水蒸気の温度が320℃を上回る場合、セルロースが分解、除去されて、竹繊維の歩留まりが低下するおそれがある。
加熱処理後の竹は、易分解性のヘミセルロースが分解し、揮発除去されているため、容易に粉砕することができる。
破砕および粉砕は、適宜の装置を用いて行うことができる。また、このとき、粗破砕後に微粉砕を行う2段処理を行ってもよい。
【0024】
破砕あるいは粉砕後に、さらに篩分けを行い、100meshパス分が80質量%以上の竹繊維とすることが好ましい。
【0025】
以上説明した本実施の形態に係る竹繊維の製造方法は、アルカリ性や酸性物質を使った化学的な処理操作を実質的に伴なわず、また、高圧で処理したり、使用した化学物質を後処理することなく、簡易な方法で竹繊維を得ることができる。また、本実施の形態に係る竹繊維を好適に得ることができる。
【0026】
次に、本実施の形態に係る複合材の製造方法について説明する。
本実施の形態に係る複合材の製造方法は、本実施の形態に係る竹繊維と高分子材料を配合し溶融成形する。竹繊維と高分子材料は、質量比で、竹繊維:高分子材料=70:30〜5:95の比率で配合することが好ましく、60:40〜10:90の比率で配合することがより好ましく、55:45〜20:80の比率で配合することがさらに好ましい。
【0027】
高分子材料は、竹繊維と複合化可能なものあれば何ら制限なく用いることが可能である。成型性の容易さの観点からは、熱可塑性プラスチック類を好適に用いることができる。熱可塑性プラスチックとしては、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン類;ポリスチレンやアクリロニトニル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトニル−スチレン(AS)樹脂、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン(MBS)樹脂などのスチレン系樹脂類;ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどの芳香族ポリエステル類;ポリ乳酸やポリカプロラクトン、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸)、ポリテトラメチルグリコリド、ポリグリコール酸などの脂肪族ポリエステル類等を挙げることができる。これらの熱可塑性プラスチックの中でも、ポリオレフィン類が特に好適である。これらの熱可塑性プラスチックは、単独で用いてもよく、あるいは混合して用いてもよい。
熱可塑性プラスチック以外でも、竹繊維と複合化可能な高分子材料として、熱硬化性プラスチック類がある。代表的な熱硬化性ブラスチック類としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シラン架橋ポリエチレン、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン、架橋ゴムなどである。これらの熱硬化性プラスチック類の中でも、入手の容易さなどから、エポキシ樹脂、ポリウレタン、不飽和ポリエステル樹脂が好適である。
【0028】
竹繊維と高分子材料を配合し溶融成形する方法は、竹繊維を高分子材料中に均一に分散させることのできる方法であれば、公知の方法を何ら制限なく利用することができる。
例えば、熱可塑性プラスチックを熱溶融させて、竹繊維にせん断応力をかけながら練り込む溶融混練法、熱可塑性プラスチックを溶剤に溶解し、竹繊維を加え分散させた後に、溶剤を気化除去する溶液混合法、熱したロール上で熱可塑性プラスチックを柔らかくし、その上に竹繊維を添加し、熱ロールによって圧着しながら練り込む成型方法などがある。
熱硬化性プラスチック類との複合化の方法に関しては、原料モノマーや硬化前のプレポリマーと竹繊維とをブレンドし、その後に硬化反応を行い複合化する方法が好適に実施される。以上の複合化の方法の中でも、効率性と汎用性、さらに頻度の点で、熱可塑性プラスチック類との溶融混練法が最も好適である。
【0029】
例えば射出成型機を用いて複合材料を成形する場合、高い溶融流動性が要求されるため、竹繊維が長い繊維を含むことは好ましくない。また、金型内に充填する前にスクリーンを通してサイズの大きい不溶物を濾取するため、長い繊維長を持った竹繊維は、スクリーンに目詰まりを起こしやすい。この点、本実施の形態に係る竹繊維は、このような不具合がない。
また、本実施の形態に係る竹繊維は、ヘミセルロースを予め分解除去したものであるため、高分子材料とのブレンド時の分解を抑制することができる。
【0030】
以上説明した本実施の形態に係る複合材の製造方法は、木質系複合材を好適に得ることができる。
得られる複合材は、合成木材として各種建築資材類に、また、家電・IT機器類の各種部品や自動車内装品等の用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本発明の範囲を制限するものではない。
【0032】
(竹繊維製造の実施例1〜3)
孟宗竹(直径約10〜15cm、長さ約30cm、重量約1kg)を以下の仕様の直本工業社製過熱水蒸気処理装置に入れ、下表1に示した条件で常圧過熱水蒸気処理を行った。
処理した孟宗竹を取り出し、下記の粗粉砕装置を用いて破砕した後、微粉砕装置を用いて粉砕を行った。粉砕したサンプルは、嵩比重を測定した後、含水量測定器を用いて水分量を測定し、さらに篩分けによって粒度分布を確認した。結果を表1に併記した。表1中、アスペクト比は顕微鏡観察による実測定の方法により行った。なお比較例として、常圧過熱水蒸気処理をしていない孟宗竹(上記寸法)についても、同じ装置を用いて破砕・微粉砕試験を試みたが、孟宗竹の強度が大きいため、粉砕不可であった。
過熱水蒸気処理装置の仕様:
蒸気発生部: ヒーター容量 6.3kW
換算蒸発量 9.45kg/h
最高使用圧力 0.11MPa
処理槽: ヒーター容量 8kW
庫内寸法 W590xD385xH555 mm
粉砕装置の仕様:
粗破砕 : マキノ式ハンマークラッシャーHC-400型粉砕機
微粉砕 : マキノ式DD-2型粉砕機
【0033】
【表1】

【0034】
表1の結果から、孟宗竹を過熱水蒸気処理することによって、容易に粉砕されることがわかる。また、水蒸気処理温度の低い実施例1よりも水蒸気処理温度の高い実施例2、3の方が粉砕時間が短くてすむことがわかる。また、100meshパスが81.6〜99.3%に達し、アスペクト比が7.8〜17.2と極めて高い値を有する針状のセルロース短繊維が生成することがわかる。しかも、その水分率は5%以下であり、そのまま乾燥工程なしに、以下に説明する高分子材料との複合化が可能であった。
図1に実施例2の粉砕された孟宗竹の光学顕微鏡写真を示す。また、図4(A)〜図4(C)に実施例1〜3の粉砕された孟宗竹中の針状のセルロース短繊維の長さのヒストグラムと累積頻度曲線を示す(頻度、累積頻度の単位はいずれも質量%)。各図とも、200〜300μmのサイズの短繊維を中心にして、50μm以下のサイズから、950〜1000μmのサイズまで様々の長さのセルロース短繊維が広く分布し、また、いずれも最大繊維長が1000μm以下であることがわかる。また、実施例1に比べて、実施例2、3の方が最大繊維長が小さいことがわかる。
【0035】
(示差熱分析計による熱特性の分析)
孟宗竹を300℃の常圧過熱水蒸気で60分間処理を行った。処理後の竹のサンプルをアルミニウムパンに取り、セイコーインスツルメンツ社製TG/DTA6200を用いて100mL/分の窒素気流下、10℃/分の昇温速度で熱重量分析を行った。熱重量減少曲線(上図)とその微分(DTG)曲線(下図)を図2に示す。水蒸気処理後のサンプルは、180〜320℃の温度範囲においてヘミセルロースの分解に基づくピークを有さず、300〜400℃の温度範囲にセルロースの分解に基づくピークを示した。また、400℃以上の温度範囲のリグニン成分の分解に基づくピークも認められた。一方、比較例としての水蒸気処理前の竹は、180〜320℃の温度範囲にヘミセルロースの分解に基づくピークと300〜400℃の温度範囲にセルロースの分解に基づくピークの双方を示した。これらの結果は、過熱水蒸気処理によって、竹組織の中のヘミセルロース成分が選択的に分解除去され、またリグニンの一部も分解されたことを示している。リグニンの分解に基づくピークが、比較例に比べて水蒸気処理後のサンプルの方が大きいのは、ヘミセルロースを含まない分だけサンプル中のリグニン含有量が大きいことによるものと考えられる。
【0036】
(複合材料製造の実施例4、5)
実施例2で製造した竹繊維と、ポリプロピレン(日本ポリプロピレン株式会社製ノバテックPP FY-6)または直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリプロピレン株式会社製ノバテックLL UF840)を、それぞれ竹繊維:ポリプロピレン=50:50(重量比)で混合し、これを井本製作所製ベント付2軸混練押出機160B型(同方向回転2軸スクリュー、スクリュー直径:20mm、L/D:25、ベント口数:1)を用いて溶融混練し、複合材料を製造した。ポリプロピレンとの複合化(実施例4)の溶融混練条件は、ホッパー下温度60℃、バレル内温度180℃、ダイス温度175℃、スクリュー回転数25rpmで行った。また、直鎖状低密度ポリエチレンとの複合化(実施5)の溶融混練条件は、ホッパー下温度60℃、バレル内温度140℃、ダイス温度135℃、スクリュー回転数25rpmで行った。
【0037】
実施例4、5いずれの場合も、ホッパーから投入された竹繊維とポリオレフィンとの溶融混練物は、約3分でダイスよりストランドとして押し出された。成形状況は良好であり、目詰まりなどは一切起こらなかった。製造されたストランドを液体窒素中で冷却した後、割って内部のセルロース繊維の状況を偏光板を付けた光学顕微鏡を用いて観察した結果、セルロース短繊維がストランドの流れ方向に配向している状況が確認された。図3に実施例4のストランドを割った面の光学顕微鏡写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱重量減少の微分曲線において、180〜320℃の温度範囲に実質的にピークを有さず、300〜400℃の温度範囲にピークを有し、繊維長1000μm以下の繊維の含有量が80質量%以上であることを特徴とする竹繊維。
【請求項2】
平均アスペクト比が5以上であることを特徴とする請求項1記載の竹繊維。
【請求項3】
竹を180〜320℃の温度の常圧過熱水蒸気で加熱処理した後、解繊することを特徴とする竹繊維の製造方法。
【請求項4】
破砕および粉砕のうちのいずれか一方または双方の方法により解繊することを特徴とする請求項3記載の竹繊維の製造方法。
【請求項5】
加熱処理時間が1〜3時間であることを特徴とする請求項3記載の竹繊維の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2記載の竹繊維と高分子材料を配合し溶融成形することを特徴とする複合材の製造方法。
【請求項7】
前記竹繊維と前記高分子材料の配合比率が、質量比で、竹繊維:高分子材料=70:30〜5:95であることを特徴とする請求項6記載の複合材の製造方法。

【図2】
image rotate

【図4(A)】
image rotate

【図4(B)】
image rotate

【図4(C)】
image rotate

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−40701(P2012−40701A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181361(P2010−181361)
【出願日】平成22年8月13日(2010.8.13)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【Fターム(参考)】