説明

筆記具のスプリング装着部構造及びスプリング装着部の成形方法

【課題】 成形金型の設計を容易にして筆記具の製造コストを低減する。
【解決手段】 スプリング装着部41b2は、コイルスプリング61の外周面に近接又は接触するように、少なくとも軸筒軸方向の両側に第1及び第2の抱持部41b21,41b22を設けることで、これら抱持部間におけるクリップ幅方向の両端に、コイルスプリング61を通過不能であって且つ部分的に露出する大きさの複数の開口部41b23,41b24を有し、両抱持部間の空間部Sにおける軸筒軸方向縦断面s1が、クリップ幅方向のどの位置においても、複数の開口部の軸筒軸方向縦断面s2,s3を軸筒軸方向へ移動せずに重ね合わせてなる仮想合成断面s4に含まれるように、空間部Sを形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸筒とクリップ部の間のスプリングによってクリップ部を閉鎖方向へ付勢するようにした筆記具におけるスプリング装着部構造及びスプリング装着部の成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の発明には、特許文献1に記載されたもののように、軸筒(10)とクリップ部(10)との間のスプリング装着部(43b)にコイルスプリング(44)を装着し、該コイルスプリング(44)によって前記クリップ部(10)を閉鎖方向へ付勢するようにした筆記具がある。
この筆記具によれば、スプリング装着部(43b)の両側部に、コイルスプリング(44)の外周部を露出する切欠部(43b1)を有するため、コイルスプリング(44)とスプリング装着部(43b)の摩擦抵抗を軽減して、コイルスプリング(44)の伸縮及びクリップ部(10)の開閉動作をスムーズに行うことができる。
【0003】
しかしながら、前記従来技術では、前記スプリング装着部(43b)を成形するために、クリップ幅方向の両側へ抜ける二つの金型と、コイルスプリング軸方向へ抜けるピン状金型との三つの金型が必要になる。
すなわち、仮に、前記スプリング装着部(43b)を、クリップ幅方向の両側へ抜ける二つの金型のみによって成形しようとした場合には、コイルスプリング(44)を挿入する空間の最大部分が切欠部(43b1)よりも軸筒軸方向へ大きいため、金型をクリップ幅方向へ抜く際に所謂むり抜きとなってしまい、成形後のスプリング装着部(43b)が破損したりその寸法制度が低下したり等するおそれがある。
そこで、前記切欠部(43b1)を、コイルスプリング(44)の挿入空間の最大部分よりも軸筒軸方向へ大きくすればよいことになるが、この場合には、前記コイルスプリング(44)が前記切欠部(43b1)から抜けて脱落してしまうおそれがある。
したがって、スプリング装着部(43b)の前記空間の最大部分よりも前記切欠部(43b1)を小さくする必要があり、その成形のためには、少なくとも前記三つの金型が必要であり、このことによって、複雑な金型設計を要し、成形コストの高騰、及び筆記具の製造コストの高騰等を招いているのが現状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−126135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来事情に鑑みてなされたものであり、その課題とする処は、コイルスプリングの脱落を防ぐとともにクリップ部の開閉抵抗を軽減することができる上、成形金型の設計を容易にして筆記具の製造コストを低減することができる筆記具のスプリング装着部構造及びスプリング装着部の成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための技術的手段は、軸筒とクリップ部との間のスプリング装着部にコイルスプリングを装着し、該コイルスプリングによって前記クリップ部を閉鎖方向へ付勢するようにした筆記具におけるスプリング装着部構造であって、前記スプリング装着部は、前記コイルスプリングの外周面に近接又は接触するように、少なくとも軸筒軸方向の両側に抱持部を設けることで、これら抱持部間におけるクリップ幅方向の両端に、前記コイルスプリングを通過不能であって且つ部分的に露出する大きさの複数の開口部を有し、前記両抱持部間の空間部における軸筒軸方向縦断面が、クリップ幅方向のどの位置においても、前記複数の開口部の軸筒軸方向縦断面を軸筒軸方向へ移動せずに重ね合わせてなる仮想合成断面に含まれるように、前記空間部を形成したことを特徴とする筆記具のスプリング装着部構造。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、以上説明したように構成されているので、以下に記載されるような作用効果を奏する。
スプリング装着部を、ピン状金型を用いることなく、クリップ幅方向へ抜ける二つの金型のみによって成形することが可能となり、その金型設計を容易に行うことができる。
また、スプリング装着部にコイルスプリングを装着した状態では、該コイルスプリングの外周が前記開口部から露出されるため、クリップ部の開閉により該スプリングが伸縮する際に、該コイルスプリングの外周部がスプリング装着部の内周面に摺接して、スプリングの収縮及びクリップの開閉動作に抵抗を生じるのを軽減することができる。
しかも、前記開口部がコイルスプリングを通過不能な大きさに形成されているため、コイルスプリングがスプリング装着部から抜けて脱落するようなことも防ぐことができる。
よって、コイルスプリングの脱落を防ぐとともにクリップ部の開閉抵抗を軽減することができる上、成形金型の設計を容易にして筆記具の製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係るスプリング装着部構造を適用した筆記具の一例を示す断面図である。
【図2】クリップ支持用押子の一例を示す斜視図である。なお、本図では、輪郭を明確にするために、曲面と平面の境目を実線で示している。
【図3】スプリング装着部及び金型の一例を示す構造図であり、(a)は金型を組み合わせた状態、(b)は金型を抜いた状態を示す。
【図4】スプリング装着部の空間部の断面図であり、(III-I)は図3における空間部の(III-I)-(III-I)線断面、(III-II)は同空間部の(III-II)-(III-II)線断面、(III-I)は同空間部の(III-III)-(III-III)線断面、(III-I)+(III-III)は仮想合成断面を示す。
【図5】クリップ支持用押子の他例を示す斜視図である。なお、本図では、輪郭を明確にするために、曲面と平面の境目を実線で示している。
【図6】スプリング装着部及び金型の他例を示す構造図であり、(a)は金型を組み合わせた状態、(b)は金型を抜いた状態を示す。
【図7】スプリング装着部の空間部の断面図であり、(VI-I)は図3における空間部の(VI-I)-(VI-I)線断面、(VI-II)は同空間部の(VI-II)-(VI-II)線断面、(VI-III)は同空間部の(VI-III)-(VI-III)線断面、(VI-I)+(VI-III)は仮想合成断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を実施するための一形態では、軸筒とクリップ部との間のスプリング装着部にコイルスプリングを装着し、該コイルスプリングによって前記クリップ部を閉鎖方向へ付勢するようにした筆記具におけるスプリング装着部構造であって、前記スプリング装着部は、前記コイルスプリングの外周面に近接又は接触するように、少なくとも軸筒軸方向の両側に抱持部を設けることで、これら抱持部間におけるクリップ幅方向の両端に、前記コイルスプリングを通過不能であって且つ部分的に露出する大きさの複数の開口部を有し、前記両抱持部間の空間部における軸筒軸方向縦断面が、クリップ幅方向のどの位置においても、前記複数の開口部の軸筒軸方向縦断面を軸筒軸方向へ移動せずに重ね合わせてなる仮想合成断面に含まれるように、前記空間部を形成した。
【0010】
さらに、より金型設計を容易にする形態としては、前記抱持部は、軸筒軸方向の一方側に設けられた第1の抱持部と、その他方側に設けられた第2の抱持部とからなり、前記第1の抱持部の内面には、クリップ幅方向の一方へ向かう平坦部と、該平坦部に連続するとともに前記コイルスプリングの外周面に沿う曲面部とが設けられ、前記第2の抱持部の内面には、クリップ幅方向の他方へ向かう平坦部と、該平坦部に連続するとともに前記コイルスプリングの外周面に沿う曲面部とが設けられる。
【0011】
さらに好ましい形態では、前記第2の抱持部の内面形状は、前記第1の抱持部の内面形状を前記コイルスプリングの中心を基準に180度回転させた形状である。
【0012】
また、成形金型の設計を容易にする他の好ましい形態としては、前記抱持部は、軸筒軸方向の一方側に設けられた第1の抱持部と、その他方側に設けられた第2の抱持部と、これら第1及び第2の抱持部間におけるクリップ幅方向の一方側に位置するとともに第1及び第2の抱持部と間隔を置いて設けられる第3の抱持部とからなり、前記第1の抱持部の内面には、クリップ幅方向の他方へ向かう平坦部と、該平坦部に連続するとともに前記コイルスプリングの外周面に沿う曲面部とが設けられ、前記第2の抱持部の内面には、クリップ幅方向の前記他方へ向かう平坦部と、該平坦部に連続するとともに前記コイルスプリングの外周面に沿う曲面部とが設けられる。
【0013】
さらに、好ましい成形方法としては、前記第1の抱持部の平坦部及び曲面部に沿って前記両抱持部間の空間部に位置するように形成された第1の金型と、前記第2の抱持部の平坦部及び曲面部に沿って前記両抱持部間の空間部に位置するように形成されるとともに前記第1の金型に当接可能な第2の金型とを用いたスプリング装着部の成形方法であって、前記第1の金型と前記第2の金型を当接させた状態で、前記第1の抱持部及び前記第2の抱持部を成形し、その後、前記第1の金型と前記第2の金型をクリップ幅方向に沿って互いに逆方向へ抜くようにした。
【0014】
また、他の好ましい成形方法では、前記第1の抱持部と前記第2の抱持部の間に位置するとともに突端面が前記第3の抱持部の内側部分に沿うように凸状に形成された第1の金型と、前記第1の抱持部の平坦部及び曲面部に沿うとともに前記第2の抱持部の平坦部及び曲面部に沿い、前記第3の抱持部の外側部分及び両側部に沿い、且つ前記第1の金型の凸状部分に対し軸筒軸方向の両側から接触するように形成された第2の金型と、を用いた前記スプリング装着部の成形方法であって、前記第1の金型と前記第2の金型を組み合わせた状態で、前記第1の抱持部、前記第2の抱持部及び前記第3の抱持部を成形し、その後、前記第1の金型と前記第2の金型をクリップ幅方向に沿って互いに逆方向へ抜くようにした。
【0015】
以下、上記形態の特に好ましい具体例を、図面に基づいて詳細に説明する。
なお、以下の説明中、「軸筒軸方向」とは、軸筒10の軸心(中心線)が延びる方向(図1に示す筆記具1の前後方向)を意味する。
また、「クリップ幅方向」とは、前記軸筒軸方向に対し略直交する方向であって、且つクリップ部60を付勢するコイルスプリング61の中心線に対し略直交する方向(クリップ部60の幅方向)を意味する。
【0016】
図1は、本発明に係わるスプリング装着部構造及びスプリング装着部の成形方法を適用して製造され筆記具1を示している。
この筆記具1は、軸筒10と、該軸筒10の後端側に設けられたクリップ部60とを備え、軸筒10とクリップ部60との間のスプリング装着部にコイルスプリング61を装着し、該コイルスプリング61によってクリップ部60の前端側が閉鎖動作するように付勢している。
【0017】
軸筒10は、図示例によれば、前側軸筒11に、後側軸筒12を接続してなる長尺筒状の部材である。
この軸筒10の他例としては、一本の筒体からなる態様や、筒体の先端側に先細状の先口を接続した態様、3本以上の筒体からなる態様等とすることが可能である。
この軸筒10の内部には、シャープペンシル用リフィール21及びボールペン用リフィール22と、これらリフィール21,22をそれぞれ軸方向へ案内するリフィールガイド部材30と、これらリフィール21,22の後端にそれぞれ接続されたクリップ支持用押子41及び直接操作用押子42と、これら押子41,42の進退を案内する押子ガイド体50とを備えている。
【0018】
シャープペンシル用リフィール21は、筆記部21a側の段部21bを軸筒10前端の開口部11a1の内縁に係止された状態で、圧縮スプリング21cよりも後側の芯タンク21dが押されて軸方向へ往復動することによって、筆記部21aから鉛芯を繰り出す周知構造を有する。
また、各ボールペン用リフィール22は、インクが充填されたインク収容管22bの前端に、回転自在に転写ボールを抱持したチップ22aを嵌着してなる。
【0019】
リフィールガイド部材30は、軸筒10内における軸方向の中央よりも若干後ろ側に固定され、シャープペンシル用リフィール21及びボールペン用リフィール22,22のそれぞれを軸方向へ貫通挿入するとともに、リフィール21,22のそれぞれに環装された付勢部材31(図示例によれば圧縮コイルスプリング)の先端部を受けている。
【0020】
クリップ支持用押子41は、その前端側がスペーサ43を介してシャープペンシル用リフィール21の後端部に接続され、前記付勢部材31によって後方へ付勢されている。このクリップ支持用押子41の後端側には、軸筒10外に突出してクリップ60を支持する支持突部41bが設けられる。
このクリップ支持用押子41は、装着される前記クリップ部60が指等でスライド操作されることで進退する。
【0021】
また、直接操作用押子42は、その前端側がボールペン用リフィール22に接続され、前記付勢部材31によって後方へ付勢されている。この直接操作用押子42の後端側には、指等によって直接操作される操作突部42bが設けられる。
【0022】
押子ガイド体50は、クリップ支持用押子41及び直接操作用押子42のそれぞれを、リフィール21,22前端を軸筒10前端から突出させた前進位置と、同リフィール21,22を軸筒10内に没入させた後退位置との間でスライドさせるように支持している。
さらに、この押子ガイド体50は、クリップ支持用押子41又は直接操作用押子42を前記前進位置で係止した状態で、軸筒10に相対して軸方向へ往復動するように設けられ、その往復動操作のためのノック部52を、軸筒10外後方へ突出している。
この構成によれば、クリップ支持用押子41を前記前進位置で後退不能に係止した状態で、ノック部52がノック操作されると、押子ガイド体50の往復運動がクリップ支持用押子41を介してシャープペンシル用リフィール21の後部側に伝達され、シャープペンシル用リフィール21前端から鉛芯が繰り出される。
【0023】
クリップ部60は、その後端部が軸筒軸心方向へ押圧されることで、前端部を軸筒10外周面から離間するように開放し、前記押圧力が除去されると、コイルスプリング61の付勢力によって前端部を軸筒10外周面に接近させるように、クリップ支持用押子41後端側の支持突部41bに枢支されている。
このクリップ部60の後端側の内面は、平坦状に形成され、この平坦面によってコイルスプリング61の一端部(図1によれば上端部)を受けている。コイルスプリング61は、前記一端部に、他の部分よりも一回りほど外径の大きい座巻き部61aを有し、該座巻き部61aによってクリップ60内面に対し安定的に当接する。
なお、図示例以外の態様としては、クリップ部60の後端側の内面に、コイルスプリング61の前記一端部を連続環状に囲む環状突起や、前記一端部を断続環状に囲む複数の突起、前記一端部の内周面に嵌り合う略円柱状の突起、前記一端部を挿入させる凹部等を形成することも可能である。
【0024】
また、クリップ支持用押子41の支持突部41bには、クリップ部60を揺動可能に支持する支点部41b1よりも後側に、コイルスプリング61を伸縮自在に装着するスプリング装着部41b2が設けられる。
【0025】
スプリング装着部41b2は、コイルスプリング61の端部側(図1によれば下半部)の外周面に近接又は接触するように、少なくとも軸筒軸方向の両側に第1及び第2の抱持部41b21,41b22を設けることで、これら抱持部間におけるクリップ幅方向の両端に、コイルスプリング61を通過不能であって且つ部分的に露出する大きさの複数(図1の一例によれば二つ)の開口部41b23,41b24を有する。
そして、スプリング装着部41b2は、第1及び第2の抱持部41b21,41b22及び開口部41b23,41b24に囲まれた空間部Sに、コイルスプリング61を、軸筒軸方向に対し略直交し且つ軸筒径方向に対しても略直交するように保持する。
【0026】
スプリング装着部41b2は、前記空間部Sの軸筒軸方向縦断面が、クリップ幅方向(図3の上下方向)のどの位置においても、前記複数の開口部41b23,41b24の軸筒軸方向縦断面を軸筒軸方向(図3の左右方向)へ移動せずに重ね合わせてなる仮想合成断面に含まれるように、前記空間部Sを形成している。
【0027】
より具体的に説明すれば、図4に示すように、空間部Sの軸筒軸方向縦断面s1は、クリップ幅方向のどの位置においても、一方の開口部41b23の軸筒軸方向縦断面s2と、他方の開口部41b24の軸筒軸方向縦断面s3とを、軸筒軸方向(図4によれば左右方向)移動せずに重ね合わせてなる仮想合成断面s4に含まれる。
換言すれば、空間部Sの軸筒軸方向縦断面s1の幅Wが、クリップ幅方向のどの位置においても、一方の開口部41b23における軸筒軸方向の一端から他方の開口部41b24における軸筒軸方向の他端までの距離W’と略同等又は距離W’よりも短くなるように設定されている。
【0028】
また、スプリング装着部41b2における第1及び第2の抱持部41b21,41b22の形状について詳細に説明すれば、先ず、第1の抱持部41b21は、その内面に、クリップ幅方向の一方へ向かう平坦部aと、該平坦部aに連続するとともにコイルスプリング61の外周面に沿う曲面部bと、該曲面部bの端部からクリップ幅方向へ直線的に延びて前記開口部41b24を形成する平坦部cとを有するように形成される。
【0029】
また、前記平坦部aから前記曲面部bにわたる範囲には、コイルスプリング61中心方向へ向かって突出することで、コイルスプリング61の外周面を押圧保持する保持突部dが設けられる。この保持突部dは、コイルスプリング61の一端に対向する空間部S内の底部41b25からクリップ部60方向(図3によれば手前方向)へ延び、その途中で、その突出量を小さくした階段状に形成される(図2参照)。この構成によれば、空間部Sに挿入されるコイルスプリング61を段階的に押圧することができ、コイルスプリング61の挿入作業を良好に維持した上で、コイルスプリング61に対する保持力を十分に得ることができる。
【0030】
また、第2の抱持部41b22の内面形状は、第1の抱持部41b21の内面をコイルスプリング61の中心を基準に180度回転させた形状とされ、平坦部a,曲面部b,平坦部c,保持突部dを有する(図3参照)。
【0031】
上記構成のスプリング装着部41b2は、ピン状金型を用いることなく、クリップ幅方向へ抜ける二つの金型のみによって成形することが可能であり、その金型設計を容易にすることができる。
前記金型は、例えば、第1の抱持部41b21の平坦部a、曲面部b、平坦部c及び保持突部dに沿って前記空間部Sに位置するように形成された第1の金型91と、第2の抱持部41b22の平坦部a、曲面部b、平坦部c及び保持突部dに沿って前記空間部Sに位置するように形成されるとともに第1の抱持部41b21に当接可能な第2の金型92とから構成される。
【0032】
第1の金型91は、第1の抱持部41b21の平坦部a、曲面部b、平坦部c及び保持突部dにならう成形面91aと、第2の抱持部41b22の平坦部cにならう成形面91bと、第2の金型92との当接面91cとを有するように形成される。
【0033】
同様に第2の金型92は、第2の抱持部41b22の平坦部a、曲面部b、平坦部c及び保持突部dにならう成形面92aと、第1の抱持部41b21の平坦部cにならう成形面92bと、第1の金型91との当接面92cとを有するように形成される。
【0034】
前記当接面91c及び当接面92cは、第1の抱持部41b21内の曲面部bと平坦部cとの境目から、第2の抱持部41b22内の曲面部bと平坦部cとの境目まで延びるように形成された傾斜する平面である。
【0035】
上記構成の第1の金型91及び第2の金型92を用いたスプリング装着部41b2の成形方法について説明すれば、先ず、第1の金型91と第2の金型92を当接させた状態で、図示しない金型キャビティ内へ溶融樹脂材料を充填し、第1の抱持部41b21及び第2の抱持部41b22を成形する(図3(a)参照)。この成形の後、第1の金型91と第2の金型92を、クリップ幅方向に沿って互いに逆方向へ抜く(図3(b)参照)。
この際、第1の金型91及び第2の金型92は、互いに引っかかったり、第1の抱持部41b21又は第2の抱持部41b22に引っかかってむり抜きされたりすることなく、スムーズに抜くことができる。
【0036】
次に、本発明に係る筆記具のスプリング装着部構造の他例について説明する。なお、以下に示す他例は、上記形態を一部変更したものであるため、主にその変更箇所について詳述し、上記形態と略同様の箇所は同一の符号を付けることで重複する詳細説明を省略する。
【0037】
図5〜7に示す筆記具のスプリング装着部構造は、上述したクリップ支持用押子41をクリップ支持用押子41’に置換することで構成される。クリップ支持用押子41’(図5参照)は、上記クリップ支持用押子41に対し、スプリング装着部41b2を、スプリング装着部41b3に置換することで構成される。
【0038】
スプリング装着部41b3は、コイルスプリング61の端部側の外周面に近接又は接触するように、軸筒軸方向の一方側に設けられた第1の抱持部41b31と、その他方側に設けられた第2の抱持部41b32と、これら第1及び第2の抱持部間におけるクリップ幅方向の一方側に位置するとともに第1及び第2の抱持部と間隔を置いて設けられる第3の抱持部41b33とからなり、これら抱持部間におけるクリップ幅方向の両端に、コイルスプリング61を通過不能であって且つ部分的に露出する大きさの複数(図6の一例によれば三つ)の開口部41b34,41b35,41b36を有する。
そして、スプリング装着部41b3は、第1、第2及び第3の抱持部41b31,41b32,41b33、及び開口部41b34,41b35,41b36に囲まれた空間部S’に、コイルスプリング61を軸筒軸方向に対し略直交し且つ軸筒径方向に対しても略直交するように保持する。
【0039】
スプリング装着部41b3は、前記空間部S’の軸筒軸方向縦断面が、クリップ幅方向(図6の上下方向)のどの位置においても、前記複数の開口部41b34,41b35,41b36の軸筒軸方向縦断面を軸筒軸方向(図6の左右方向)へ移動せずに重ね合わせてなる仮想合成断面に含まれるように、前記空間部S’を形成している。
【0040】
より具体的に説明すれば、図7に示すように、空間部S’の軸筒軸方向縦断面s1’は、クリップ幅方向のどの位置においても、一方の開口部41b34の軸筒軸方向縦断面s2’と、他方の二つの開口部41b35,41b36の軸筒軸方向縦断面s3’,s3’とを、軸筒軸方向(図7の左右方向)へ移動せずに重ね合わせてなる仮想合成断面s4’に含まれる。
換言すれば、空間部S’の軸筒軸方向縦断面s1’の幅Wが、クリップ幅方向のどの位置においても、一方の開口部41b34における軸筒軸方向の一端から、他方の開口部41b35,41b36における軸筒軸方向の他端までの距離W’と略同等又は距離W’よりも短くなるように設定されている。
【0041】
また、スプリング装着部41b3における第1、第2及び第3の抱持部41b31,41b32,41b33の形状について詳細に説明すれば、先ず、第1の抱持部41b31は、その内面に、クリップ幅方向の他方(図6の下方向)へ向かう平坦部a’と、該平坦部a’に連続するとともにコイルスプリング61の外周面に沿う曲面部b’と、曲面部b’の端部からクリップ幅方向へ直線的に延びて開口部41b34を形成する平坦部c’とを有するように形成される。
【0042】
前記平坦部a’から前記曲面部b’にわたる範囲には、コイルスプリング61中心方向へ向かって突出することで、コイルスプリング61の外周面を押圧保持する保持突部d’が設けられる。この保持突部d’は、コイルスプリング61の一端に対向する空間部S’内の底部41b37からクリップ部60方向(図6の手前方向)へ延び、その途中で、その突出量を小さくした階段状に形成される(図5参照)。この構成によれば、空間部Sに挿入されるコイルスプリング61を段階的に押圧することができ、コイルスプリング61の挿入作業を良好に維持した上で、コイルスプリング61に対する保持力を十分に得ることができる。
【0043】
また、第2の抱持部41b32の内面形状は、第1の抱持部41b31の内面を、軸筒軸方向に直交する仮想平面を基準にして左右対象に配置した形状を呈し、平坦部a’,曲面部b’,平坦部c’,保持突部d’を有する(図6参照)。
【0044】
また、第3の抱持部41b33は、コイルスプリング61の外周面に対し近接又は接触する平坦面eを有し、図示例によれば略四角柱状に形成される。
【0045】
上記構成のスプリング装着部41b3は、コイルスプリング軸方向へ抜けるピン状金型を用いることなく、クリップ幅方向へ抜ける二つの金型のみによって成形することが可能であり、その金型設計を容易にすることができる。
前記金型は、例えば、図6に示す第1の金型93と、該第1の金型93に組み合わせられる第2の金型94とからなる。
【0046】
第1の金型93は、第1の抱持部41b31と第2の抱持部41b32の間に位置する凸状部93aを有する。この凸状部93aは、第1及び第2の抱持部41b31,41b32における平坦部c’,c’間に挿入され、第1及び第2の抱持部41b31,41b32の平坦部a’、曲面部b’及び保持突部d’に対し間隔を置き、その突端面を第3の抱持部41b33の内側部分(平坦面e)に沿わせるように形成される。
凸状部93aは、その幅寸法(図6の左右方向の寸法)が第3の抱持部41b33の幅方向の寸法と略同等に設定され、詳細には、型抜き方向(図6の下方向)へ向かって前記幅寸法を徐々に拡大している。
【0047】
また、第2の金型94は、第1の抱持部41b31の平坦部a’,曲面部b’及び保持突部d’に沿うとともに、第2の抱持部41b32の平坦部a’,曲面部b’及び保持突部d’に沿い、第3の抱持部41b33の外側部分及び両側部(図6の平坦面e以外の外周部分)に沿い、さらに第1の金型93の凸状部93aに対し軸筒軸方向(図6の左右方向)の両側から接触するように形成される。
【0048】
上記構成の第1の金型93及び第2の金型94を用いたスプリング装着部41b3の成形方法について説明すれば、先ず、第1の金型93と第2の金型94を組み合わせた状態で、図示しない金型キャビティ内へ溶融樹脂材料を充填し、第1の抱持部41b31、第2の抱持部41b32及び第3の抱持部41b33を成形する(図6(a)参照)。この成形の後、第1の金型93と第2の金型94を、クリップ幅方向に沿って互いに逆方向へ抜く(図6(b)参照)。
この際、第1の金型93及び第2の金型94は、互いに引っかかったり、第1の抱持部41b31,第2の抱持部41b32又は第3の抱持部41b33に引っかかってむり抜きされたりすることなく、スムーズに抜くことができる。
【0049】
なお、上記実施の形態によれば、軸筒10から突出するクリップ支持用押子41にスプリング装着部41b2を設けるようにしたが、他例としては、軸筒10の外周面に直接スプリング装着部41b2を設けた構成とすることも可能である。
【0050】
また、上記実施の形態によれば、コイルスプリング61及びスプリング装着部41b2を支持突部41bの支点部41b1よりも後側に配置し、コイルスプリング61の弾発力によってクリップ部60の前端側を閉じるように付勢したが、他例としては、支持突部41bの支点部41b1よりも前側に引張りスプリング及び該スプリングの装着部を設け、この引張りスプリングの引張力によってクリップ部60の前端側を閉じるように付勢する構成とすることも可能である。
【0051】
また、上記実施の形態では、2又は3箇所の抱持部を設けたが、他例としては、4箇所以上の抱持部を配設した態様とすることも可能である。
【符号の説明】
【0052】
41,41’:クリップ支持用押子 41b:支持突部
41b2,41b3:スプリング装着部 41b21,41b31:第1の抱持部
41b22,41b32:第2の抱持部 41b33:第3の抱持部
41b23,41b24,41b34,41b35,41b36:開口部
61:コイルスプリング 91,93:第1の金型
92,94:第2の金型 a,a’:平坦部
b,b’:曲面部 c,c’:平坦部
e:平坦面 S:空間部
s1:軸筒軸方向縦断面 s2,s3:軸筒軸方向縦断面
s4:仮想合成断面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒とクリップ部との間のスプリング装着部にコイルスプリングを装着し、該コイルスプリングによって前記クリップ部を閉鎖方向へ付勢するようにした筆記具におけるスプリング装着部構造であって、
前記スプリング装着部は、前記コイルスプリングの外周面に近接又は接触するように、少なくとも軸筒軸方向の両側に抱持部を設けることで、これら抱持部間におけるクリップ幅方向の両端に、前記コイルスプリングを通過不能であって且つ部分的に露出する大きさの複数の開口部を有し、
前記両抱持部間の空間部における軸筒軸方向縦断面が、クリップ幅方向のどの位置においても、前記複数の開口部の軸筒軸方向縦断面を軸筒軸方向へ移動せずに重ね合わせてなる仮想合成断面に含まれるように、前記空間部を形成したことを特徴とする筆記具のスプリング装着部構造。
【請求項2】
前記抱持部は、軸筒軸方向の一方側に設けられた第1の抱持部と、その他方側に設けられた第2の抱持部とからなり、
前記第1の抱持部の内面には、クリップ幅方向の一方へ向かう平坦部と、該平坦部に連続するとともに前記コイルスプリングの外周面に沿う曲面部とが設けられ、
前記第2の抱持部の内面には、クリップ幅方向の他方へ向かう平坦部と、該平坦部に連続するとともに前記コイルスプリングの外周面に沿う曲面部とが設けられることを特徴とする請求項1記載の筆記具のスプリング装着部構造。
【請求項3】
前記第2の抱持部の内面形状は、前記第1の抱持部の内面形状を前記コイルスプリングの中心を基準に180度回転させた形状であることを特徴とする請求項2記載の筆記具のスプリング装着部構造。
【請求項4】
前記抱持部は、軸筒軸方向の一方側に設けられた第1の抱持部と、その他方側に設けられた第2の抱持部と、これら第1及び第2の抱持部間におけるクリップ幅方向の一方側に位置するとともに第1及び第2の抱持部と間隔を置いて設けられる第3の抱持部とからなり、
前記第1の抱持部の内面には、クリップ幅方向の他方へ向かう平坦部と、該平坦部に連続するとともに前記コイルスプリングの外周面に沿う曲面部とが設けられ、
前記第2の抱持部の内面には、クリップ幅方向の前記他方へ向かう平坦部と、該平坦部に連続するとともに前記コイルスプリングの外周面に沿う曲面部とが設けられることを特徴とする請求項1記載の筆記具のスプリング装着部構造。
【請求項5】
前記第1の抱持部の平坦部及び曲面部に沿って前記両抱持部間の空間部に位置するように形成された第1の金型と、前記第2の抱持部の平坦部及び曲面部に沿って前記両抱持部間の空間部に位置するように形成されるとともに前記第1の金型に当接可能な第2の金型とを用いたスプリング装着部の成形方法であって、
前記第1の金型と前記第2の金型を当接させた状態で、前記第1の抱持部及び前記第2の抱持部を成形し、その後、前記第1の金型と前記第2の金型をクリップ幅方向に沿って互いに逆方向へ抜くようにしたことを特徴とする請求項2又は3記載の筆記具のスプリング装着部構造におけるスプリング装着部の成形方法。
【請求項6】
前記第1の抱持部と前記第2の抱持部の間に位置するとともに突端面が前記第3の抱持部の内側部分に沿うように凸状に形成された第1の金型と、
前記第1の抱持部の平坦部及び曲面部に沿うとともに前記第2の抱持部の平坦部及び曲面部に沿い、前記第3の抱持部の外側部分及び両側部に沿い、且つ前記第1の金型の凸状部分に対し軸筒軸方向の両側から接触するように形成された第2の金型と、を用いた前記スプリング装着部の成形方法であって、
前記第1の金型と前記第2の金型を組み合わせた状態で、前記第1の抱持部、前記第2の抱持部及び前記第3の抱持部を成形し、その後、前記第1の金型と前記第2の金型をクリップ幅方向に沿って互いに逆方向へ抜くようにしたことを特徴とする請求項4記載の筆記具のスプリング装着部構造におけるスプリング装着部の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−200900(P2012−200900A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64913(P2011−64913)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000108328)ゼブラ株式会社 (172)
【Fターム(参考)】