説明

精密ロール旋盤

【課題】ロールの外周面に周方向の縦溝を高精度に加工できるだけでなく、長手方向の横溝についても高精度に加工することができるようにする。
【解決手段】ベッド10と、ベッド10上に設置され、ロール形状のワークの一端をチャックで保持しながら該ワークに回転を与えるとともに、ワークの円周方向の割出しを行う割出し軸(C軸)を有する主軸台12と、主軸台12に対向してベッド10上に配置され、ワークの一端を回転自在に支持する心押台14と、ワークの長手方向(Z軸)を移動可能にベッド上に設置されたサドル26と、ワークの長手方向と直角の方向(X軸)に移動可能に前記サドル上に設置されたテーブル28と、テーブル28上に設置され、割出し軸(B軸)を有する刃物旋回台30と、複数のバイト36が取り付けられ、刃物旋回台30上に設置された刃物台33と、刃物台33に設置されたフライカッタスピンドル装置34と、からロール旋盤が構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロールに対して溝加工を行う精密旋盤に係り、特に、ロールの外周に周方向の溝を加工するだけでなく、軸方向に溝を高精度に加工することができる精密ロール旋盤に関する。
【背景技術】
【0002】
ロールを加工する工作機械にはロール研削盤やロール旋盤がある。ロール研削盤は、主軸台、心押台、往復台を備えており、往復台には研削砥石が設けられている。
【0003】
従来、ロール研削盤では、ロールの外周面を砥石で研削する加工の他、外周面に溝を加工することが行われる。特許文献1には、溝を切削する切削鋸刃を有する溝加工装置を往復台に設けたロール研削盤が記載されている。
【0004】
ロール旋盤は、ダイヤモンドバイトを取り付けた刃物台を往復台に設置した旋盤である。主軸台でロールを回転させ、往復台を前後方向(X軸)に送りながら周方向の溝を加工するのが基本的な使い方である。軸方向に溝を加工する場合は、主軸台(C軸)でロールを割り出しながら、往復台を左右方向(Z軸)に高速移動させることにより、軸方向に溝を創生することができる。
【0005】
近年、制御技術の進歩によって、旋盤による超精密加工が実現されている。これにより、光学レンズを成形する金型を旋盤で加工できるようになってきている。例えば、本出願人は、フレネルレンズ成形用の金型を加工できる立旋盤を提案している(特許文献2)。この立旋盤では、フレネルレンズ成形金型のV形レンズ溝を高精度に加工することができる。
【0006】
ところで、液晶表示装置の普及により、液晶パネルのバックライトに使用されるレンズシートの需要が増大している。この種のレンズシートには、前述したフレネルレンズの他、レンチキュラーレンズシート、クロスレンチキュラーレンズシート、プリズムシートなどがある。
【0007】
最近では、レンチキュラーレンズシート、クロスレンチキュラーレンズシート、プリズムシートをロール形状の金型を用いて、押出機で成形することが検討されている。
【特許文献1】特開2003−94239号公報
【特許文献1】特開2004−358624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらのレンズシート成形用の金型をロール旋盤で加工する場合、ロールの外周面には、周方向の溝(縦溝)と長手方向の溝(横溝)を精密に加工する必要があるが、次のような問題がある。
【0009】
縦溝の加工では、上述したように、主軸台でロールを高速に回転させながら、ダイヤモンドバイトを半径方向に送って溝を旋削するので、ロールの高速回転により必要十分な切削速度の下で良好な加工面を得ることができる。
【0010】
ところが、横溝の加工となると、主軸台でロールを割り出してから、主軸台を長手方向に送るので、十分な切削速度が得られないという問題がある。すなわち、理想的な切削速度は、材質が銅、ニッケルメッキを施したロールの場合、約300m/分であるのに対して、高速な往復台といえども、移動速度は10m/分程度である。目一杯速く往復台を移動させたとしても、高精度の加工面を得られるだけの切削速度にはとうてい足りず、レンズシートを成形する金型に要求される超精密の加工面を得ることができなかった。
【0011】
そこで、本発明の目的は、前記従来技術の有する問題点を解消し、ロールの外周面に周方向の縦溝を高精度に加工できるだけでなく、長手方向の横溝についても高精度に加工することができるようにした精密ロール旋盤を提供することにある。
【0012】
また、本発明の他の目的は、摺動面の発熱による熱変形を少なくし、高精度のロール加工を行えるようにした精密ロール旋盤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成するために、本発明は、ベッドと、前記ベッド上に設置され、ロール形状のワークの一端をチャックで保持しながら該ワークに回転を与えるとともに、ワークの円周方向の割出しを行う割出し軸(C軸)を有する主軸台と、前記主軸台に対向して前記ベッド上に配置され、前記ワークの一端を回転自在に支持する心押台と、前記ワークの長手方向(Z軸)を移動可能に前記ベッド上に設置されたサドルと、ワークの長手方向と直角の方向(X軸)に移動可能に前記サドル上に設置されたテーブルと、前記テーブル上に設置され、割出し軸(B軸)を有する刃物旋回台と、複数のバイトが取り付けられ、前記刃物旋回台上に設置された刃物台と、前記フライカッターを回転させるカッタースピンドルを有し、前記刃物台に設置されたフライカッタスピンドル装置とを具備することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、刃物旋回台上の刃物台とフライカッタスピンドル装置を使い分けることにより、ロール形状のワークに対して縦溝(周方向の溝)を切削できるのはもちろん、横溝(軸方向の溝)についても高精度の加工を行うことができる。
【0015】
また、往復台の案内に転がり案内を用いた機械で横溝を加工するときには、往復台のZ軸送りを比較的低速で済ませることができるので、Z軸の転がり案内面での発熱は抑制でき、これにより、転がり案内による運動性能を活用しつつベッドやサドルの熱変形による加工精度の低下を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明による精密ロール旋盤の一実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明による精密ロール旋盤の側面図で、図2は同精密ロール旋盤の平面図である。
図1および図2において、参照番号10は、ベッドを示す。このベッド10の上には、主軸台12、心押台14、往復台16が配置されている。工作物はロール形状のワークWであり、主軸台12と心押台14とで回転自在に支持されている。
【0017】
主軸台12は、ベッド10の長手方向の一端部に配置されている。この主軸台12は、本体部17と、主軸18と、主軸18の先端に取り付けられたチャック19と、主軸18を駆動するサーボモータ20を含む。主軸18は本体部17に内蔵されている図示しない油静圧軸受により支持されている。チャック19は、ワークWの軸を把持し、主軸19の回転をワークに伝達する。この主軸台12では、サーボモータ20は、ワークWを高速で回転させるために主軸18を駆動する。これに加えて、エンコーダ22によりサーボモータ20の回転量を検出し、サーボモータ20の回転量を制御することにより、ワークWの円周方向の割出しを行う割出し軸(C軸)としての機能が主軸台12に付加されている。なお、主軸台12の軸受には、油静圧軸受の他、空気軸受、ベアリング軸受であってもよい。
【0018】
次に、心押台14は、主軸台12に対向してベッド10上に配置されている。ベッド10の上面には図示しない案内面が設けられ、心押台14は移動可能に設置されている。心押台14は、ワークWの軸をセンタ25で回転自在に支持する。なお、心押台14では、センタ25の取り付けられた心押軸は空気軸受により支持されている。この実施形態では、主軸台12と心押台14でワークWを支持する形態であるが、心押台14の代わりに、モータをもたない軸受とチャックからなる支持機構を用いるようにしてもよい。
【0019】
次に、往復台16について説明する。
往復台16は、ワークWの軸方向に移動可能にベッド10上に設置されているサドル26を含む。このサドル26の上には、ワークWの軸方向と直角の方向に移動可能にテーブル28が設置されている。本実施形態の精密ロール旋盤では、サドル26を送る軸がZ軸で、サドル26上でテーブル28を送る軸がX軸である。そして、この精密ロール旋盤では、X軸、Z軸の他、主軸台12にはC軸、テーブル28に設けられた刃物旋回台30にはB軸が設けられており、合計4軸制御の工作機械である。
【0020】
図3は、刃物旋回台30を示す。図4は、ベッド10やサドル26からカバー類を取り外した状態で刃物旋回台30を示す図である。本実施形態による刃物旋回台30は、旋回台本体31と、天板32とを含む。天板32の上には、複数のバイトが取り付けられた刃物台33と、フライカッタースピンドル装置34が取り付けられている。
【0021】
旋回台本体31の内部には、刃物台33の任意のバイトまたはフライカッタスピンドル装置34のフライカッタを割り出すためのB軸を構成するビルトイン型のサーボモータが組み込まれている。天板32を支持する軸はこのサーボモータに駆動され、天板32は旋回することができる。
【0022】
この天板32の片側には、刃物台33が取り付けられ、他方の片側に寄った位置にフライカッタスピンドル装置34が配置されている。この場合、フライカッタスピンドル装置34は、刃物台33に固定されたブラケット45によって支持されている。刃物台33は略半円柱の刃物台で、周方向に所定の間隔でダイヤモンドバイト36が配列されている。この実施形態では、ダイヤモンドバイト36が3本、天板32といっしょに刃物台33を90度ごとに旋回させることで割り出せるようになっているが、ダイヤモンドバイトを4本にして旋回60度毎に割り出すようにするなど、種々の形態がある。刃物台33の上面には、フライカッタースピンドル装置34の重量とバランスさせるためのカウンタウェイト37が設置されている。
【0023】
次に、フライカッタースピンドル装置34について説明する。図4において、このフライカッタースピンドル装置34は、本体部34aと、サーボモータ35と、フライカッター39が取り付けられたカッターホルダ38を含む。本体部34aの内部では、図示されないカッタースピンドルが空気軸受により支持されており、このカッタースピンドルはサーボモータ35により直接駆動され、高速で回転する。カッタスピンドルの先端に取り付けられているカッターホルダ38は、周速を大きくするため円板状のカッタホルダである。このカッターホルダ38の外周部にはダイヤモンドバイトからなるフライカッター39が1個保持されている。この場合、カッタスピンドル装置34は、カッタースピンドルをX軸方向とZ軸方向に共に直角な姿勢で支持し、フライカッター39をX−Z平面内で高速に回転させる。刃物台33に取り付けられているダイヤモンドバイト36の刃先は、フライカッター39の回転するX−Z平面と同じ平面内にある。
【0024】
以上のように構成される刃物旋回台30は、図4に示すように、サドル26の上面には、V形の凸条からなるX軸案内40が延びており、このX軸案内面40には、リテーナにより保持された多数のコロ41が配列された転がり案内面が構成されている。同様に、往復台16のサドル26は、ベッド10の上面のZ軸案内42により案内される。このZ軸案内42もコロ43が配列された転がり案内面になっている。
【0025】
なお、サドル26を送るZ軸送り駆動装置、刃物旋回台30を搭載したテーブル28を送るX軸送り駆動装置はともに、リニアモータから構成されている。参照番号44は、X軸送り機構のリニアモータを構成する永久磁石列を示し、45は、Z軸案内面40と平行に延びる永久磁石列を示す。
本実施形態による精密ロール旋盤は、以上のように構成されるものであり、次に、その作用並びに効果について説明する。
まず、本実施形態の精密ロール旋盤の往復台16に搭載された刃物旋回台30の機能について説明する。
【0026】
この刃物旋回台30には、ダイヤモンドバイト36の取り付けられた刃物台33に加えて、フライカッタースピンドル装置34が搭載されているので、B軸の割り出し機能を使って、刃物台33とフライカッタースピンドル装置34を適宜使い分けて複合的な加工を行うことができる。
【0027】
また、フライカッタスピンドル装置34はサーボモータ35と空気軸受が一体にユニット化されたコンパクトな構造をもち、刃物台33への設置が容易であるとともに、カウンタウェイト37で重量をバランスさせてB軸で刃物台33の刃物を割り出す場合に誤差が生じないようにしている。
【0028】
刃物旋回台30上の刃物台33とフライカッタスピンドル装置34を以下のように使い分けることにより、ワークWに対して縦溝(周方向の溝)を切削できるのはもちろん、横溝(軸方向の溝)についても高精度の加工を行うことができる。
【0029】
まず、ワークWに縦溝を切削する加工について説明する。
縦溝の加工は、通常のロール旋盤と同様である。すなわち、刃物台33のダイヤモンドバイト36のうち使用するバイトをB軸で割出す。また、主軸台12のサーボモータ20でワークWを回転させる。そして、テーブル28をX軸方向に送り、ダイヤモンドバイト36でワークWに切込み、横溝を旋削することができる。
【0030】
図5に示すように、例えば、レンチキュラーレンズ成形用の金型に用いられるロールを加工する場合には、1本の縦溝50を切削する毎に、溝幅分だけバイト36をZ軸方向に送りつつ縦溝を切削する。
【0031】
これに対して、横溝を加工する場合には、刃物旋回台30では、フライカッタースピンドル装置34をB軸で割出す。そして、図3に示すように、フライカッタースピンドル装置34のカッタホルダ38をワークWに直面させる。他方、主軸台12のC軸でワークWの横溝を加工すべき周方向の位置を割り出す。
【0032】
フライカッタースピンドル装置34のサーボモータ35を起動し、図6に示すように、カッターホルダ38を高速で回転させ、フライカッタ39をX軸方向に切り込ませる。そして、フライカッター39をZ軸で送りながら横溝52を切削する。これにより、フライカッター37は、断続的にワークWを切削し、横溝52を創成していく。
【0033】
フライカッタースピンドル装置34のカッタホルダ38は高速で回転しているので、フライカッター37には理想の切削速度(約300m/分)を与えることができる。このように、往復台16の能力によって限界があるZ軸送り速度とは無関係に、必要な切削速度で横溝を加工できるので、従来のように、往復台16の送り速度に限界があって必要な切削速度が得られないため、横溝の精密な加工面が得られなかったという課題は克服される。
【0034】
また、送り速度を限界近くまで高速にした従来のロール旋盤とは逆に、往復台16のZ軸送りは比較的低速で済ませることができるので、Z軸のころがり案内面での発熱は抑制される。これにより、転がり案内による運動性能を活用しつつベッド10やサドルの熱変形による加工精度の低下を防止することができる。
【0035】
以上のようにして、本実施形態の精密ロール旋盤によれば、横溝、縦溝のいずれをも高精度に加工できるので、同じロールに縦溝と横溝を縦横に加工するといったロール加工も可能となる。例えば、クロスレンチキュラーレンズシート成形用の金型や、プリズムシート成形用の金型等、種々のレンズシート成形用の金型加工を実現できる。
【0036】
なお、本実施形態の精密ロール旋盤では、以上説明した以外にも、刃物台33のダイヤモンドバイト36を使って、往復台16をZ軸送りしながらワークWに横溝を切削することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態による精密ロール旋盤の側面図。
【図2】同精密ロール旋盤の平面図。
【図3】同精密ロール旋盤の往復台に設けられた刃物旋回台を正面図。
【図4】同刃物旋回台の斜視図。
【図5】本発明の精密ロール旋盤によるロールへの縦溝の加工の説明図。
【図6】本発明の精密ロール旋盤によるロールへの横溝の加工の説明図。
【符号の説明】
【0038】
10 ベッド
12 主軸台
14 心押台
16 往復台
19 チャック
20 サーボモータ
26 サドル
28 テーブル
30 刃物旋回台
33 刃物台
34 フライカッタースピンドル装置
36 ダイヤモンドバイト
39 フライカッター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベッドと、
前記ベッド上に設置され、ロール形状のワークの一端をチャックで保持しながら該ワークに回転を与えるとともに、ワークの円周方向の割出しを行う割出し軸(C軸)を有する主軸台と、
前記主軸台に対向して前記ベッド上に配置され、前記ワークの一端を回転自在に支持する心押台と、
前記ワークの長手方向(Z軸)を移動可能に前記ベッド上に設置されたサドルと、
ワークの長手方向と直角の方向(X軸)に移動可能に前記サドル上に設置されたテーブルと、
前記テーブル上に設置され、割出し軸(B軸)を有する刃物旋回台と、
複数のバイトが取り付けられ、前記刃物旋回台上に設置された刃物台と、
前記フライカッターを回転させるカッタースピンドルを有し、前記刃物台に設置されたフライカッタスピンドル装置とを具備することを特徴とする精密ロール旋盤。
【請求項2】
前記フライカッタスピンドル装置は、カッタを外周部に保持する円板状のカッタホルダと、前記カッタスピンドルを支持する空気軸受を内蔵する本体と、前記カッタスピンドルを直接駆動するサーボモータと、からなることを特徴とする請求項2に記載の精密ロール旋盤。
【請求項3】
前記カッタスピンドル装置は、前記フライカッターを前記刃物台のバイトと同じ高さのX−Z平面内で回転させることを特徴とする請求項2に記載の精密ロール旋盤。
【請求項4】
前記刃物台は、略半円柱形の刃物台本体を有し、刃物台本体の周方向に所定の間隔でバイトが取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の精密ロール旋盤。
【請求項5】
前記刃物台上には、フライカッタースピンドル装置の重量とバランスさせるカウンタウェイトを搭載したことを特徴とする請求項4に記載の精密ロール旋盤。
【請求項6】
前記往復台の送りを案内するZ軸案内面は、前記ベッドの上面にZ軸と平行に多数のローラが配列された転がり案内からなることを特徴とする請求項1に記載の精密ロール旋盤。
【請求項7】
X軸およびZ軸の送り駆動装置は、それぞれリニアモータからなることを特徴とする請求項1に記載の精密ロール旋盤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−290103(P2007−290103A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−123626(P2006−123626)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(000003458)東芝機械株式会社 (843)
【Fターム(参考)】