説明

精製ヘモグロビンの製造方法

【課題】人工酸素運搬体等、医薬品の原料として用いることができる精製ヘモグロビンを効率良く製造する方法であり、特に、工業的に大量生産も可能な該方法の提供。
【解決手段】限外ろ過を含む精製工程により赤血球溶血液から精製ヘモグロビンを得るに際して、前記限外ろ過を、アルブミン阻止率が50%以下、かつγ−グロブリン阻止率が98%以上であるフィルタースペックの限外ろ過膜により実施する、精製ヘモグロビンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製ヘモグロビンの製造方法、特に工業的実施可能な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液中のヘモグロビンを血液製剤などに加工して使用する際には、採取した血液を溶血して赤血球溶血液を得た後、精製する。血液から分離した赤血球は、浸透圧ショックで溶血させることができるが、近年の一般的な溶血技術は、ソルベントデタージェント(SD処理)法と称される有機溶媒(solvent)と界面活性剤(detergent)とを用いてウイルスの不活化を兼ねて溶血する方法である。このSD方法で溶血後、界面活性剤、有機溶媒を合成吸着剤で除去して、赤血球溶血液を得る。
また、ヘモグロビンを血液製剤などに加工し、治療目的のためにヒトに投与するにあたっては、製剤の無菌性およびウイルス不活化を保証する必要があることから、赤血球溶血液には、特にウイルス安全性も保証するウイルス不活化処理を含む精製が施される。
【0003】
ウイルス不活化技術は、各種知られているが、このうちでも、ヘモグロビンの精製には、ヘモグロビン変質のおそれから適用が制限されるエネルギーによるウイルス不活化以外の技術、具体的には、化学的ウイルス不活化処理および物理的ウイルス除去処理を適用することができる。化学的ウイルス不活化処理は、典型的には、上記生物学的適合性の有機溶媒および界面活性剤を用いるSD処理方法である。
物理的ウイルス除去処理は、典型的にはサイズ排除であり、ウイルスを除去しうる極めて微細な孔径を有するフィルター(ウイルス除去膜と称される)によりウイルスをろ過除去するナノろ過である。
【0004】
現在の典型的な精製ヘモグロビンの製造では、赤血球をSD処理して得られた赤血球溶血液を、合成吸着剤で吸着処理した後、分画分子量100,000の限外ろ過膜により処理することで、SD処理に用いた溶媒および界面活性剤、ストローマおよびシアル酸等の血液型物質などの不要な物質を除去し、さらに、ナノろ過によるウイルス除去を行い、一定の濃度まで濃縮することで、精製ヘモグロビンを得ることができる(特許文献1参照)。
【0005】
これらの工程において、上記分画分子量100,000の限外ろ過膜を用いる限外ろ過処理は、ろ過ボリューム、処理時間およびヘモグロビン回収率などの点で最も生産効率のキーとなる工程である。この工程におけるヘモグロビンの回収率を上げる方法として、限外ろ過装置を循環型にして、さらに一次側に、弱アルカリ性のリン酸緩衝液や炭酸水素ナトリウム溶液等の希釈液を加えて、ダイアフィルトレーションや、加水濃縮をする技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2006/003926号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ヘモグロビンは貴重な資源であり、これを高い収率で回収することが望まれる。しかしながら、上記限外ろ過工程において、ヘモグロビンの回収率を上げるには、大量の希釈液を準備する必要があり、貯液タンクも大きなものが必要である。さらに、限外ろ過処理によって、ヘモグロビン濃度が低下して、容量が増えることで、大きな設備投資が必要である。たとえば、ヘモグロビン濃度0.2g/gの赤血球溶血液100kgを希釈液100kgによる加水濃縮操作法により限外ろ過膜処理を実施する際には、現況、75%のヘモグロビン回収量を得るのに600kgの希釈液によるろ過を必要としている。
このように、ヘモグロビンの高回収率を達成するために、多大な労力と非常に長い時間とを要する。
【0008】
本発明は、血液から、ウイルス不活化および無菌性が保証されたヘモグロビンを高収率で回収し得る、工業的実施の可能な精製ヘモグロビンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、精製ヘモグロビンの製造において、特に、限外ろ過工程の効率的を目論んで該工程で使用される限外ろ過膜に着目して検討を行ったところ、分画分子量100,000の限外ろ過膜を、特定のフィルタースペックとすることで、具体的には、アルブミン阻止率の違いが僅かであっても収率に非常に効果があるという知見を得た。限外ろ過膜は、工業的に製造された市販品として入手可能であるが、このうちから、特定のフィルタースペックを選択して使用することで本発明を実施し、その効果を得ることができる。
【0010】
具体的には、従来の市販されている限外ろ過膜を使用する場合、アルブミン阻止率は80%であるが、アルブミンとヘモグロビンとの分子量がほぼ同等であると前提した時の理論値を計算すれば、アルブミン阻止率50%以下のフィルタースペックのものに限定することにより、前述の従来の必要希釈液量(約600kg)に対し、約100kgで同等の回収ができる可能性に着目した。
同様に、90%のヘモグロビン回収率を得るのにアルブミン阻止率が80%のフィルターでは1000kgの希釈液によるろ過が必要であるのに対し、アルブミン阻止率50%のフィルターでは約300kgで同等の回収ができる可能性についても着目した。
精製ヘモグロビンの製造の工業化を考えた場合、例で示した希釈液量、ろ過液量はさらに2倍、3倍とスケールアップされることになる。従って、最適なフィルタースペックを選択することより、設備投資費用の削減、限外ろ過膜処理時間およびその後の濃縮時間も著しく短縮が可能となる。
【0011】
なお、上記理論値は、以下のとおり算出した。
前提条件として、貯液タンク100kgは全量ろ過される、またヘモグロビン(Hb)はフィルタースペックで規定されるアルブミン阻止率に従い透過したと仮定し、その後、希釈液100kgによる加水濃縮を繰り返す。また、アルブミン(分子量:67,000)とヘモグロビン(分子量:64,500)の分子量はほぼ同等であり限外ろ過処理では同等のろ過性を示すと仮定する。
たとえば、ヘモグロビン濃度0.2g/gの赤血球溶血液100kgを希釈液100kgによる加水濃縮操作法により限外ろ過膜処理を実施する。貯液タンク100kgを全量ろ過し、その後、希釈液100kgによる加水濃縮を繰り返した場合、各回収率に必要な希釈液量は以下の通りとなる。
【0012】
【表1】

【0013】
上記から、
(1)アルブミン阻止率50%のフィルターの場合
75%(Hb15kgに相当)のHb回収に必要な希釈液量:100kg
90%(Hb18kgに相当)のHb回収に必要な希釈液量:300kg
(2)アルブミン阻止率80%のフィルターの場合
75%(Hb15kgに相当)のHb回収に必要な希釈液量:600kg
90%(Hb18kgに相当)のHb回収に必要な希釈液量:1000kg
【0014】
したがって、ヘモグロビン精製工程で特定のフィルタースペックの限外ろ過膜を使用する本発明を想到するに至った。
すなわち、本発明に係る精製ヘモグロビンの製造方法は、限外ろ過を含む精製工程により赤血球溶血液から精製ヘモグロビンを得るに際して、前記限外ろ過を、アルブミン阻止率が50%以下、かつγ−グロブリン阻止率が98%以上であるフィルタースペックの限外ろ過膜により実施する。該限外ろ過膜の分画分子量は、好ましくは約100,000である。
【0015】
上記赤血球溶血液は、有機溶媒と界面活性剤とを用いるソルベントデタージェント法により赤血球を溶血して得られた化学的ウイルス不活化赤血球溶血液が好ましい。
【0016】
本発明では、上記限外ろ過後、通常、孔径約15〜70nmのフィルターによりナノろ過する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る精製ヘモグロビンの製造方法では、赤血球溶血液を限外ろ過膜(通常、分画分子量100,000)で処理する際、限外ろ過膜のフィルタースペックを限定することで、希釈液の加水量を最小限度に押さえることが出来、さらに高いヘモグロビン濃度のろ過液を得ることが出来、高いヘモグロビン回収率を達成できる。これによって、工業化に向けた製造設備投資費用の削減、限外ろ過膜処理時間およびその後の濃縮時間も著しく短縮できる。
本発明は、SD処理法により溶血された赤血球溶血液が精製される場合には、使用された溶媒および界面活性剤を、ストローマおよび血液型物質などの血液由来の不要物質とともに使用されるヒトまたは何らかの生物学的系により許容されるレベルにまで除去したヘモグロビンを血液から高い収率で回収することを可能とする、工業的に実施可能な精製ヘモグロビンの製造方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をより具体的に説明する。
本発明は、血液からヘモグロビンを回収、精製する過程において、溶媒および界面活性剤組み合わせ物によりウイルス不活化処理し、合成吸着剤の利用および限外ろ過処理の順で組み合わせた処理、すなわち、添加した溶媒、界面活性剤および不要となる物質、たとえばストローマおよび血液型物質などを合成吸着剤により吸着除去し、さらに約100,000の分画分子量を有する孔径の限外ろ過処理を行うことにより、合成吸着剤により吸着除去できなかった溶媒、界面活性剤および不要となる物質、たとえばストローマおよび血液型物質などを、ヘモグロビンが使用されるヒトまたは何らかの生物学的系により許容されるレベルにまで除去し、その結果、物理的ウイルス除去処理として行うナノろ過処理の効率を高め、さらに滅菌用フィルターによるろ過により、ウイルスの不活化および無菌性を保証、かつヘモグロビンの精製を高い収率にて回収することを可能にする方法に関する。
【0019】
エンベロープを有するウイルスの化学的不活化処理および溶血処理としてSD処理法に使用される溶媒および界面活性剤の組み合わせ物は、合成吸着剤処理および限外ろ過操作により除去が可能であれば当該技術分野において既知のいかなる溶媒および界面活性剤組み合わせ物であっても良い。とりわけ、トリアルキルホスフェートたとえばトリ−(n−ブチル)ホスフェートとTween80として知られている生成物ならびに非イオン性オイル可溶性水性洗剤たとえば商標名TritonX−100、ナトリウムコーレート、およびその他のような当該技術分野において既知の溶媒および界面活性剤の組み合わせ物が好んで用いられる。また、ヘモグロビンの精製で施す化学的ウイルス不活化処理は、赤血球をあらかじめ溶血した状態、溶血していない状態のどちらでも良い。
【0020】
本発明における化学的ウイルス不活化処理として、血液中に添加した溶媒および界面活性剤の除去手段として使用できる合成吸着剤は、スチレンまたはアクリルとジビニルベンゼンの共重合体である市販のアンバーライトXADシリーズ(FPX−66、XAD−2000)が有効であり、合成吸着剤によって、添加した溶媒および界面活性剤の大部分が除去される。さらには、ヘモグロビンの精製として、不要となるストローマおよび血液型物質などの除去が可能となる。
【0021】
合成吸着剤により処理を行った調製物は、限外ろ過処理により、合成吸着剤による吸着処理で除去できなかった溶媒、界面活性剤およびヘモグロビンの精製として不要な物質、たとえばストローマおよび血液型物質などが除去される。
さらには、限外ろ過操作がナノろ過処理のプレフィルター処理として作用し、ある程度のウイルスが除去可能となる。合成吸着剤の使用量ならびに処理時間は、除去効果と経済性とを考慮して自体所望の濃度、時間を選択することができる。
また、限外ろ過処理で除去する溶媒−界面活性剤、あるいはストローマおよび血液型物質の量は、前工程で行う合成吸着剤処理で使用する合成吸着剤量、処理時間など合成吸着剤処理条件との兼ね合いで決定される。
さらに、合成吸着剤はアルカリおよび熱に対する耐性が強く、使用前におけるアルカリ水溶液浸漬による加温条件での滅菌操作が可能であり、調製物のパイロジェンフリーおよび無菌性を保証することが可能となる。また、アルカリ水溶液としては水酸化ナトリウムが好んで用いられる。
【0022】
化学的ウイルス不活化処理を行った調製物を、そのまま限外ろ過処理することは、調製物中の溶媒、界面活性剤およびストローマなどがフィルターの目詰まりを生じさせ、その結果、ろ過時間の増加、高価なフィルターの膜面積の増加、フィルターの高頻度の交換を必要とし、さらに収率の低下を導くことになる。このため、限外ろ過処理の前段には、通常、合成吸着剤による吸着処理を行う。
【0023】
本発明で行う限外ろ過は、クロスフローろ過、タンジェンシャルフローろ過(TFF)とも呼ばれ、ろ過滅菌等で行う方法であるデッドエンドろ過と異なり、ろ過膜面に平行に液を流し、汚れを取り除きながらろ過を行う方法である。すなわち、クロスフローろ過に用いるろ過膜カセットは平膜状に積層された構造をしており、処理液が平膜と平膜との間を並行に連続して流れ、平膜と並行に流れる処理液の流れにより平膜面に堆積する粒子を洗い流し、粒子の堆積によるゲル層の発生を防ぎ安定したろ過が行える方法である。
【0024】
ろ過膜の材質としては、一般的に酢酸セルロースなどの再生セルロースおよびポリエーテルスルホンなどの合成高分子が好ましく用いられる。
また、ろ過膜はその目的に応じた分画分子量および孔径のものを用いるが、正確な孔径は、液状調製物中に維持されねばならない物質、および除去すべき溶媒―界面活性剤はもちろんのこと、ある程度のウイルスおよび液状調製物中に維持する必要のない物質のサイズによって決定されるべきである。とりわけ、血液からヘモグロビンを精製する場合にはストローマおよび血液型物質を除去する目的、かつ物理的ウイルス不活化処理として行うナノろ過処理の効率を高める目的では約100,000の分画分子量を有する孔径が適している。
【0025】
さらに、本発明者らは、約100,000の分画分子量の限外ろ過膜のフィルタースペックとヘモグロビン回収率および除去目的物質除去率との関係について鋭意検討を重ね、フィルタースペックとして規定されるアルブミン(分子量:67,000)阻止率とヘモグロビン回収率、除去目的物質除去率にある相関関係を見出した。本発明によれば、アルブミン阻止率50%以下の限外ろ過膜を選択して使用するが、それにより、前述の例で示したとおりアルブミン阻止率80%のものを用いた場合との希釈液量、ろ過液量の差は、工業的スケールでは、さらに2倍、3倍とスケールアップされることになり、また、フィルタースペックであるアルブミン阻止率値に従い必要となる液量差も同様に2倍、3倍の差が生じることになる。
なお、限外ろ過膜の他のフィルタースペックとして、γ−グロブリン阻止率は、98%以上であることが好ましい。
【0026】
また、クロスフローろ過システムにおいてはろ過装置に装着するろ過膜カセットの有効ろ過面積を制御することにより処理液量に応じた膜面積での運転が可能である。即ち、処理液量に応じろ過装置に重ねて装着するろ過膜カセットの枚数を制御することにより小容量から大容量までのスケールへの対応が可能となる。
【0027】
また、さらに、本発明においてクロスフローろ過装置を用いた場合にはインライン滅菌が可能となることから、合成吸着剤処理と同様、調製物のパイロジェンフリーおよび無菌性を保証することが可能となる。インライン滅菌の方法としては、高温スチームまたは約50℃に加温したアルカリ水溶液の装置内循環が一般的に行われる。また、アルカリ水溶液としては水酸化ナトリウムが好んで用いられる。
【0028】
クロスフローろ過では、クロスフローろ過装置内を循環する必要物質の液量を制御せずろ過を行い一定量となった段階で分散媒にて循環液量を規定量まで戻すという過程を繰り返すバッチ方式と、透過する液量に合わせて循環液に供給する分散媒量を制御し循環液の液量を規定量に保つダイアフィルトレーション方式があるが、本発明ではどちらの方式を用いても良い。
【0029】
分散媒については必要物質を安定的に分散、溶解させうる溶媒であれば限定されることはない。また分散媒中に、浸透圧調整剤やpH調整剤などの成分の有無についてはクロスフロー膜を劣化、破壊させる作用がない限り何ら限定されるものではない。
【0030】
次いで、得られる調製物は、ナノろ過処理によって物理的ウイルス除去処理が施される。ナノろ過に用いるフィルターは、一般的に再生セルロースで形成された中空糸微多孔膜やPVDF膜などが用いられる。ナノろ過によるウイルス除去は主としてマルチシーブ効果によるメカニズム、つまりウイルス粒子の物理的な除去によりなされるため、正確な孔径は、調製物中に維持させなければならない物質、およびサイズ排除によって除去させねばならないウイルスのサイズにしたがって決定されるべきである。
【0031】
本発明における血液からヘモグロビンを精製する過程においては、Pall社製のUltipor VF DV20およびMillipore社製のViresolve NFPが有効に利用できた。
【0032】
ナノろ過のクリティカルパラメーターの一つに、調製物中に含まれる不純物量があげられるが、本発明においては、化学的ウイルス不活化処理として添加した溶媒―界面活性剤、およびストローマおよび血液型物質を、合成吸着剤の利用および限外ろ過操作の組み合わせにより除去し、ナノろ過処理の効率の向上、すなわち処理時間の減少、収率の向上を可能とした。
【0033】
次いで、得られる調製物は、限外ろ過により余分な水分が脱水され濃縮が施される。本発明において、濃縮操作で行う限外ろ過は、溶媒―界面活性剤およびストローマ、血液型物質の除去操作として上述した限外ろ過と同様のシステム、すなわち、クロスフローろ過、タンジェンシャルフローろ過(TFF)を用いて行われる。
【0034】
ろ過膜はその目的に応じた分画分子量および孔径のものを用いるが、正確な孔径は、液状調製物中に維持されねばならない物質、および液状調製物中に維持する必要のない物質のサイズによって決定されるべきである。とりわけ、ヘモグロビンを濃縮する場合には約10,000〜30,000の分画分子量を有する孔径が適している。本発明により、ヘモグロビン濃度として45w/w%の濃縮を可能とした。
【0035】
次いで、得られる調製物は、滅菌を目的とした孔径0.2μmを有する滅菌フィルターによりろ過が施される。滅菌フィルターに用いられるフィルターの膜材質としては、酢酸セルロースなどの再生セルロースおよびポリエーテルスルホン、PVDFなどが用いられる。本発明における血液からヘモグロビンを精製する過程では、ヘモグロビン濃度として45w/w%の濃度を有し、非常に粘度が高いにもかかわらず、非常に良好なろ過特性によりろ過が可能である。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を示し本発明をさらに詳しく説明するが、これらは何ら本発明を限定するものではない。
(実施例1)
ヒト天然血液全血から血小板、白血球、血漿成分を除去した濃厚赤血球製剤に適量の生理食塩水を加え、遠心分離操作後下相を回収し、洗浄赤血球25kgを得た。
この洗浄赤血球25kgにウイルス不活化用SD溶液(TNBP,TritonX含有水溶液)25kgを添加し、溶媒および界面活性剤濃度が0.3%TNBP−0.2%TritonX−100となるウイルス不活化処理溶血処理液50kgを得た。
ウイルス不活化溶血処理液を、合成吸着剤アンバーライトXADシリーズ(FPX−66)樹脂10Lを充填したカラムにて循環処理を行った。
【0037】
その後、アルブミン阻止率≦44%,γ−グロブリン阻止率≧99.7%のフィルタースペックのろ過膜(材質:ポリエーテルスルホン、孔径:分画分子量100,000、有効ろ過面積:4.2m、ザルトリウス製)を装着したクロスフローろ過装置(ザルトコン2プラス、ザルトリウス製)にて限外ろ過処理を行い透過液を得た。
この限外ろ過処理は、最初30kgのろ過液を回収し、その後、残存液20kgに対し分散媒として20mMに調製した炭酸水素ナトリウム水溶液10kgを加水し、透過液10kgをろ過により回収する一連の操作を15回繰り返すことで、約180kgの限外ろ過処理液を得た。
【0038】
次いで、限外ろ過処理液をウイルス除去フィルターViresolve NFP Opticap Capsule(Millipore製)により0.2MPa条件によりナノろ過処理を行った。
得られた処理液全量について、ろ過膜(材質:ポリエーテルスルホン、孔径:分画分子量30,000、有効ろ過面積:1.2m、ザルトリウス製)を装着したクロスフローろ過装置(ザルトコン2プラス、ザルトリウス製)にて濃縮を行い、ヘモグロビン濃度42w/w%の調製液を得た。
得られたヘモグロビン調製液は約7.5kgであり、仕込み洗浄赤血球におけるヘモグロビン量に対して得られたヘモグロビン調製液ヘモグロビン量の割合から算出されるヘモグロビン収率は54.3%であった。
【0039】
その後、滅菌を目的とした孔径0.2μmを有する滅菌フィルターsartopore2(材質:ポリエーテルスルホン、有効ろ過面積0.45m)ろ過によりろ過滅菌を行った。
上記処理によるSD除去効果(TNBP、TritonX−100の定量)およびストローマ除去効果(ホスファチジルセリンの定量)の分析を行った。分析結果を表1に示す。
【0040】
表1に示すとおり、最終的に得られたヘモグロビン溶液中における溶媒TNBPは、添加量に対して約99.999%が除去されていた。また、界面活性剤TritonX−100は定量限界以下に除去されていた。
ストローマ分析では、ホスファチジルセリンは1.0μg/gに除去されていた。
また、合成吸着剤処理、限外ろ過処理の順で操作することにより、限外ろ過処理およびナノろ過における時間および収率の観点で安定な処理が可能であった。
【0041】
(比較例1)
実施例1において、限外ろ過処理を、アルブミン阻止率≦62%,γ−グロブリン阻止率≧99.7%のフィルタースペックのろ過膜に代えて実施した以外は、実施例1と同様の洗浄赤血球に同様のウイルス不活化処理、カラム循環処理、限外ろ過処理後のナノろ過処理、クロスフローろ過の各工程を課して、ヘモグロビン濃度42w/w%のヘモグロビン調製液を得た。
【0042】
得られたヘモグロビン調製液は約2.8kgであり、仕込み洗浄赤血球におけるヘモグロビン量に対して得られたヘモグロビン調製液ヘモグロビン量の割合から算出されるヘモグロビン収率は18.2%であった。
【0043】
ヘモグロビン調製液に、実施例1と同様の孔径0.2μm滅菌フィルターによりろ過滅菌を行った。
実施例1と同様にしてSD除去効果(TNBP、TritonX−100の定量)およびストローマ除去効果(ホスファチジルセリンの定量)の分析を行った。分析結果を表1に示す。
表1に示すとおり、最終的に得られたヘモグロビン溶液中における溶媒TNBPは添加量に対して約99.997%が除去された。また、界面活性剤TritonX−100は定量限界以下に除去された。また、ストローマ分析を行ったホスファチジルセリンは、0.6μg/gに除去された。また、合成吸着剤処理、限外ろ過処理の順で操作することにより、限外ろ過処理およびナノろ過における時間および収率の観点で安定な処理が可能であった。
しかしながら、仕込み洗浄赤血球におけるヘモグロビン量に対して得られたヘモグロビン調製液ヘモグロビン量の割合から算出されるヘモグロビン収率は18.2%となった。
【0044】
実施例1と比較例1における仕込み洗浄赤血球におけるヘモグロビン量に対して得られたヘモグロビン調製液ヘモグロビン量の割合から算出されるヘモグロビン収率を比較した場合、比較例1では18.2%であるのに対し、実施例1では54.3%となり、限外ろ過膜のフィルタースペックとして規定されるアルブミン阻止率とヘモグロビン回収率に相関関係があり、アルブミン阻止率50%以下のフィルターを使用することが回収率に関して優れていることが明らかとなった。
【0045】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
限外ろ過を含む精製工程により赤血球溶血液から精製ヘモグロビンを得るに際して、前記限外ろ過を、アルブミン阻止率が50%以下、かつγ−グロブリン阻止率が98%以上であるフィルタースペックの限外ろ過膜により実施する、精製ヘモグロビンの製造方法。
【請求項2】
前記赤血球溶血液が、有機溶媒と界面活性剤とを用いるソルベントデタージェント法により赤血球を溶血して得られた化学的ウイルス不活化赤血球溶血液である、請求項1に記載の精製ヘモグロビンの製造方法。
【請求項3】
前記限外ろ過後に、孔径15〜70nmのフィルターによりナノろ過する、請求項1または2に記載の精製ヘモグロビンの製造方法。

【公開番号】特開2013−75838(P2013−75838A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215413(P2011−215413)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】