説明

糖鎖の製造方法

【課題】タンパク質製剤の製造に必要な糖鎖を安価かつ大量に供給可能な糖鎖の製造方法を提供する。
【解決手段】糖鎖の製造方法は、エミュー(Dromaius novaehollandiae)の卵から、シアル酸が結合した糖鎖を分離する糖鎖分離工程を有することを特徴とする。糖タンパク質製剤の製造方法は、タンパク質に糖鎖を結合させる糖鎖結合工程を有し、前記糖鎖として、糖鎖の製造方法により製造された糖鎖を用いることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖鎖の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エリスロポエチン(EPO)、IgG等のタンパク質製剤が実用化されている。タンパク質製剤は、主に、遺伝子組換え(特許文献1)、有機化学的合成(非特許文献1)等を利用した製造方法により製造されている。
【0003】
前記遺伝子組換えを利用した製造方法の場合、組換えタンパク質を発現させる宿主により、組換えタンパク質に結合する糖鎖の種類が異なり、それによって、哺乳類動物に対する活性が異なることが知られている(非特許文献2)。例えば、前記EPOは、大腸菌で発現させた場合、糖鎖がないため哺乳類動物に対する活性がなく、血中で分解される。また、酵母、昆虫細胞で発現させた場合、哺乳類型とは異なる糖鎖を持つため、前述の活性がなく、肝臓等で分解される。これに対して、哺乳類由来細胞で発現させた場合、前記EPOは、シアル酸が結合した哺乳類型糖鎖を持ち、前述の活性を有する。しかし、前記哺乳類由来細胞を用いた製造方法は、コストが高く、かつ、糖鎖が不揃いになるという問題がある。
【0004】
一方、有機化学的合成を利用した製造方法の場合、現状、製造可能な糖鎖は、2本鎖糖鎖に限られる。また、自然界において、キジ科の鳥の卵には、シアル酸が結合した2本鎖糖鎖が存在するが、シアル酸が各分岐鎖に結合した、3本鎖以上の分岐鎖を有する糖鎖は存在しない(非特許文献3および4)。このため、シアル酸が結合した3本鎖または4本鎖の糖鎖を結合したタンパク質製剤を、安価かつ大量に供給する手段が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平7−68272号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】平野ら、Angew.Chem.Int.Ed.、2009年、Vol.48、p.9557−9560
【非特許文献2】竹内ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1989年、Vol.86、p.7819−7822
【非特許文献3】住吉ら、Biosci.Biotechnol.Biochem.、2009年、Vol.73、No.3、p.543−551
【非特許文献4】住吉ら、Biosci.Biotechnol.Biochem.、2010年、Vol.74、No.3、p.606−613
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、タンパク質製剤の製造に必要な糖鎖を安価かつ大量に供給可能な糖鎖の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、糖タンパク質製剤を安価かつ大量に供給可能な糖タンパク質製剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の糖鎖の製造方法は、糖鎖の製造方法であって、
エミュー(Dromaius novaehollandiae)の卵から、シアル酸が結合した糖鎖を分離する糖鎖分離工程を有することを特徴とする。
【0009】
本発明の糖タンパク質製剤の製造方法は、糖タンパク質製剤の製造方法であって、
タンパク質に糖鎖を結合させる糖鎖結合工程を有し、
前記糖鎖として、本発明の糖鎖の製造方法により製造された糖鎖を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の糖鎖の製造方法によれば、タンパク質製剤の製造に必要な糖鎖を安価かつ大量に供給可能である。また、本発明のタンパク質製剤の製造方法によれば、前記本発明の糖鎖の製造方法により製造された糖鎖を用いるため、安価かつ大量にタンパク質製剤を供給可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、実施例1における乾固分のゲルろ過クロマトグラムである。
【図2】図2は、実施例1におけるPA化糖鎖混合物の陰イオン交換HPLCプロフィールである。
【図3】図3は、実施例1における糖鎖分画の逆相HPLCプロフィールである。
【図4】図4は、実施例1における糖鎖分画および標準品の逆相HPLCプロフィールである。
【図5】図5は、実施例1における糖鎖分画および標準品の各酵素処理物の逆相HPLCプロフィールである。
【図6】図6は、実施例1における糖鎖分画のマススペクトルである。
【図7】図7は、実施例2における糖鎖分画の逆相HPLCプロフィールである。
【図8】図8は、実施例2における糖鎖分画および標準品の逆相HPLCプロフィールである。
【図9】図9は、実施例2における糖鎖分画および標準品の各酵素処理物の逆相HPLCプロフィールである。
【図10】図10は、実施例2における糖鎖分画のマススペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の糖鎖の製造方法は、前記糖鎖分離工程が、
前記エミュー(Dromaius novaehollandiae)の卵から、糖タンパク質画分を分画する糖タンパク質分画工程と、
分画された前記糖タンパク質画分を、糖鎖画分とタンパク画分とに分画する糖鎖分画工程と、
前記糖鎖画分から、前記シアル酸が結合した糖鎖画分を分画するシアル酸結合糖鎖分画工程とを含むことが好ましい。
【0013】
本発明の糖鎖の製造方法は、前記糖鎖が、3本または4本の分岐鎖を有し、前記3本または4本の分岐鎖全てにシアル酸が結合していることが好ましい。
【0014】
本発明の糖鎖の製造方法は、前記糖鎖が、下記化学式(1)または(2)で表わされるものであることが好ましい。
【化1】

【化2】

【0015】
本発明の糖タンパク質製剤の製造方法は、前記糖タンパク質製剤が、エリスロポエチン(EPO)、IgG、インターロイキンまたはインターフェロンであるのが好ましい。
【0016】
<糖鎖の製造方法>
本発明の糖鎖の製造方法は、前述のように、糖鎖の製造方法であって、エミュー(Dromaius novaehollandiae)の卵から、シアル酸が結合した糖鎖を分離する糖鎖分離工程を有することを特徴とする。本発明の糖鎖の製造方法は、前記糖鎖分離工程において、前記エミューの卵から、シアル酸が結合した糖鎖を分離することが特徴であって、その他の工程は、何ら制限されない。
【0017】
前記エミューの卵としては、例えば、全卵、卵黄、卵白、脱脂卵黄、粉末卵黄、粉末卵白等が挙げられ、好ましくは、卵白である。前記エミューの卵は、例えば、市販品を用いてもよいし、前記エミューを飼育し、産卵させたものを用いてもよい。
【0018】
前記糖鎖の種類は、特に制限されないが、例えば、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖類が挙げられ、好ましくは、オリゴ糖、多糖類である。前記オリゴ糖または多糖類の場合、前記糖鎖としては、例えば、N−結合型糖鎖、O−結合型糖鎖等が挙げられ、好ましくは、N−結合型糖鎖である。本発明の製造方法により製造される糖鎖は、例えば、タンパク質に結合して糖タンパク質を生成可能な、糖タンパク質糖鎖である。
【0019】
前記糖鎖を構成する糖残基は、特に制限されないが、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、グルコサミン、N−アセチルグルコサミン、ガラクトサミン、N−アセチルガラクトサミン、フコース、キシロース、N−アセチルノイラミン酸、N−グリコリルノイラミン酸等が挙げられる。前記糖残基は、例えば、修飾されていてもよい。前記修飾としては、特に制限されないが、例えば、エステル化、アシル化、アミノ化、エーテル化、ニトロ化、加水分解、脱水反応、酸化還元等による修飾が挙げられる。
【0020】
前記糖鎖は、前述のように、シアル酸が結合している。シアル酸は、ノイラミン酸((4S,5R,6R,7S,8R)−5−アミノ−4,6,7,8,9−ペンタヒドロキシ−2−オキソノナン酸)の官能基が置換された物質の総称であり、具体的には、例えば、前述のN−アセチルノイラミン酸、N−グリコリルノイラミン酸等が挙げられる。前記シアル酸が結合した糖鎖は、一般に、哺乳類型糖鎖と呼ばれ、インフルエンザの感染には、鳥類においても、前記シアル酸の関与が報告されている。前記糖鎖において、前記シアル酸の数は、特に制限されず、例えば、1つでもよいし、2つ以上でもよい。前記糖鎖におけるシアル酸の結合部位は、特に制限されないが、例えば、糖鎖の非還元末端が好ましい。
【0021】
前記糖鎖は、例えば、直鎖型であってもよいし、分岐鎖型であってもよいが、分岐鎖型が好ましい。前記糖鎖が分岐鎖型の場合、前記分岐鎖の数は、例えば、2〜5本であり、好ましくは、3〜4本であり、より好ましくは、4本である。なお、本発明において、前記分岐鎖とは、例えば、主鎖から分岐した糖鎖をいう。前記糖鎖が分岐鎖型の場合、前記シアル酸は、全ての分岐鎖に結合していてもよいし、一部の分岐鎖に結合していてもよい。前記糖鎖は、例えば、シアル酸が1〜4個結合した4本鎖糖鎖、シアル酸が1〜3個結合した3本鎖糖鎖、シアル酸が1または2個結合した2本鎖糖鎖が挙げられる。前記糖鎖において、前記シアル酸は、例えば、全ての各分岐鎖に結合しているのが好ましく、全ての各分岐鎖の非還元末端に結合しているのがより好ましい。前記糖鎖は、3本または4本の分岐鎖を有し、前記3本または4本の分岐鎖全てにシアル酸が結合していることが好ましい。前記シアル酸が結合することにより、前記糖鎖は、生体内における分解(代謝)が抑制される。また、結合したシアル酸の数が多いほど、前記糖鎖が結合した糖タンパク質は、生体内における分解が一層抑制される。
【0022】
前記シアル酸が結合した糖鎖の具体例としては、下記化学式(1)または(2)の糖鎖が挙げられる。
【化3】

【化4】

【0023】
前記化学式(1)の糖鎖の分子式は、Siaα2−3Galβ1−4GlcNAcβ1−2(Siaα2−3Galβ1−4GlcNAcβ1−4)Manα1−3(Siaα2−3Galβ1−4GlcNAcβ1−2(Siaα2−3Galβ1−4GlcNAcβ1−6)Manα1−6)Manβ1−4GlcNAcβ1−4GlcNAcで表わされる。前記化学式(1)の糖鎖は、均一な4本の分岐鎖を有し、各分岐鎖の非還元末端にシアル酸が結合している。また、前記化学式(2)の糖鎖の分子式は、Siaα2−3Galβ1−4GlcNAcβ1−2(Siaα2−3Galβ1−4GlcNAcβ1−4)Manα1−3(Siaα2−3Galβ1−4GlcNAcβ1−2Manα1−6)Manβ1−4GlcNAcβ1−4GlcNAcで表わされる。前記化学式(2)の糖鎖は、均一な3本の分岐鎖を有し、各分岐鎖の非還元末端にシアル酸が結合している。
【0024】
以下に、本発明の糖鎖の製造方法の一実施形態を説明する。なお、本発明の糖鎖の製造方法は、以下の実施形態に制限されない。
【0025】
(実施形態1)
本実施形態における糖鎖の製造方法は、前記エミューの卵から、糖タンパク質画分を分画する糖タンパク質分画工程と、分画された前記糖タンパク質画分を、糖鎖画分とタンパク画分とに分画する糖鎖分画工程と、前記糖鎖画分から、前記シアル酸が結合した糖鎖画分を分画するシアル酸結合糖鎖分画工程とを含む。
【0026】
[糖タンパク質分画工程]
前記エミューの卵を準備し、卵白と卵黄に分ける。一方、抽出溶媒として、メタノールとクロロホルムとの混合溶媒を調製する。前記卵白と、等容量の前記混合溶媒とを混合し、ホモジナイズする。この混合液を遠心分離し、水相と有機相との界面に形成された界面層を回収する。前記界面層に、抽出溶媒として等重量のアセトンを加えて混合する。この混合液を遠心分離し、沈殿物を回収する。前記沈殿物を減圧条件下で乾燥し、糖タンパク質画分を得る。
【0027】
前記糖タンパク質画分は、例えば、糖タンパク質、糖ペプチドおよび糖アミノ酸を含む。前記糖タンパク質画分は、例えば、糖タンパク質、糖ペプチドおよび糖アミノ酸以外の成分を含んでもよい。前記成分としては、特に制限されない。
【0028】
前記抽出溶媒は、前述のメタノールとクロロホルムとの混合溶媒、アセトン等に制限されず、前記糖タンパク質画分を分画可能な溶媒であればよい。前記抽出溶媒としては、例えば、水性溶媒、有機溶媒が挙げられる。前記水性溶媒としては、例えば、水等が挙げられる。前記有機溶媒としては、例えば、メタノール、クロロホルム、アセトン、ジクロロメタン、ジクロロエタン等が挙げられる。前記抽出溶媒は、1種類でもよいし、2種類以上を組み合わせた混合溶媒でもよい。前記混合溶媒としては、前述のメタノールとクロロホルムとの混合溶媒以外に、例えば、水飽和フェノールとクロロホルムとの混合溶媒等が挙げられる。前記混合溶媒において、各溶媒の容積比は、糖タンパク質の極性等に応じて適宜設定可能であり、特に制限されない。
【0029】
前記抽出条件は、前述の方法に制限されず、従来公知の条件を採用できる。また、前記回収方法も、前述の方法に制限されず、従来公知の方法を採用できる。
【0030】
[糖鎖分画工程]
つぎに、十分に乾燥させた試験管に、前記糖タンパク質画分とヒドラジン化合物とを入れて撹拌し、前記糖タンパク質画分を前記ヒドラジン化合物に溶解させる。この試験管を、密閉状態にして加熱し、前記糖タンパク質画分中の糖タンパク質から糖鎖を遊離させる。さらに、前記試験管を、室温になるまで静置後、減圧下で、前記ヒドラジン化合物を留去する。残渣をトルエンで懸濁し、前記ヒドラジン化合物を減圧留去する処理を繰り返し、糖鎖画分を得る。
【0031】
前記ヒドラジン化合物としては、例えば、ヒドラジン一水和物等のヒドラジン水和物、無水ヒドラジン等が挙げられ、好ましくは、無水ヒドラジンである。前記ヒドラジン水和物は、前記無水ヒドラジンよりも、爆発等による危険性が低く、安価である。このため、前記ヒドラジン化合物として、前記ヒドラジン水和物を用いた場合、前記糖鎖を、より安全かつ安価に製造できる。前記ヒドラジン化合物は、糖タンパク質1グラム当量に対して、例えば、30〜1000グラム当量を使用するのが好ましく、より好ましくは、30〜100グラム当量である。
【0032】
前記糖鎖分画工程において、前記溶解、加熱、減圧留去等の条件は、特に制限されず、前記糖タンパク質量等に応じて、適宜設定できる。
【0033】
前記糖鎖画分に含まれる糖鎖は、前述のヒドラジン分解によりアセチル基が脱離している。このため、前記糖鎖画分をアセチル化剤で処理し、前記糖鎖を再アセチル化する。前記アセチル化剤は、特に制限されず、例えば、アセチルクロライド、アセチルブロマイド等のアセチルハライド、無水酢酸等が挙げられ、好ましくは、無水酢酸である。前記アセチル化剤は、アミノ基1モル当量に対して、例えば、100〜1000モル当量を使用するのが好ましく、より好ましくは、100〜200モル当量である。
【0034】
さらに、前記糖鎖分画工程の前に、前記糖タンパク質分画工程で分画された糖タンパク質に含まれるタンパク質を、酵素分解してもよい。前記酵素としては、特に制限されないが、例えば、トリプシン、ペプシン、サーモリシン、プロナーゼ等が挙げられる。前記分解条件は、例えば、前記酵素の種類、処理量等の条件に応じて、適宜設定可能である。前記酵素分解により、例えば、不要なペプチド等が分解除去されるため、前記糖タンパク質が低分子化される。このため、糖鎖の製造効率を向上できる。
【0035】
[シアル酸結合糖鎖分画工程]
そして、前記糖鎖画分に水を加えて溶解し、凍結乾燥する。この凍結乾燥物をピリジルアミノ(PA)化試薬に溶解して反応させる。このPA化反応液に、還元試薬を加えて反応させる。この還元反応液に、水と有機溶媒との混合溶媒を加えて遠心処理し、下層の有機相を除去する。この除去処理を数回繰り返した後、液体部分を除去し、乾固分を回収する。前記乾固分を、ゲルろ過クロマトフラフィー、陰イオン交換カラムクロマトグラフィーおよび逆相カラムクロマトグラフィー法により分画および精製し、シアル酸結合糖鎖を得る。
【0036】
前記PA化試薬は、特に制限されないが、例えば、2−アミノピリジンを含む酢酸溶液等が挙げられる。前記還元試薬は、特に制限されないが、例えば、メチルアミンボラン錯体を含む酢酸溶液が挙げられる。前記有機溶媒は、特に制限されないが、例えば、フェノール、クロロホルム等が挙げられる。
【0037】
前記シアル酸結合糖鎖分画工程において、各種反応、遠心処理、各種クロマトグラフィーの条件は、特に制限されず、適宜設定できる。前記分画および精製方法は、特に制限されず、従来公知の方法を適宜採用できる。
【0038】
<糖タンパク質製剤の製造方法>
本発明の糖タンパク質製剤の製造方法は、前述のように、糖タンパク質製剤の製造方法であって、タンパク質に糖鎖を結合させる糖鎖結合工程を有し、前記糖鎖として、本発明の糖鎖の製造方法により製造された糖鎖を用いることを特徴とする。
【0039】
前記糖鎖タンパク質製剤の製造方法は、前記糖鎖結合工程を有し、前記糖鎖として、本発明の糖鎖の製造方法により製造された糖鎖を用いること以外は、何ら制限されず、例えば、従来公知の方法を採用できる。前記糖タンパク質製剤は、本発明の糖鎖の製造方法により製造された、シアル酸が結合した糖鎖を含む。このため、前記糖タンパク質製剤は、例えば、生体に対する活性が高い。
【0040】
以下に、本発明の糖タンパク質製剤の製造方法の一実施形態を説明する。なお、本発明の糖タンパク質製剤の製造方法は、以下の実施形態に制限されない。
【0041】
(実施形態2)
本実施形態における糖タンパク質製剤の製造方法は、シアル酸が結合した糖鎖を製造する糖鎖製造工程と、タンパク質を製造するタンパク質製造工程と、前記タンパク質と前記糖鎖とを結合する結合工程とを含む。
【0042】
[糖鎖製造工程]
まず、前記実施形態1の糖鎖の製造方法を用いて、前記シアル酸結合糖鎖を得る。前記シアル酸結合糖鎖を、酸加水分解し、炭酸水素アンモニウムと混合後、ハロゲノ酢酸と反応させて、ハロゲノアセトアミド化(−NH−COCHX、X=ハロゲノ基)する。前記ハロゲノ基は、特に制限されず、例えば、クロロ基、ブロモ基等が挙げられる。前記ハロゲノアセトアミド化方法は、特に制限されず、例えば、従来公知の方法を適宜採用できる。
【0043】
[タンパク質製造工程]
つぎに、前記糖鎖と結合させる組換えタンパク質を作製する。具体的には、所望のタンパク質をコードするDNA断片を宿主に導入して形質転換体を作製し、前記形質転換体を培養して培養物を回収し、前記培養物を精製する。
【0044】
前記タンパク質は、特に制限されないが、例えば、エリスロポエチン(EPO)、IgG、インターロイキン、インターフェロンを構成するタンパク質等が挙げられる。前記インターフェロンとしては、特に制限されないが、例えば、IFN−α、IFN−β、IFN−ω、IFN−ε、IFN−κ、IFN−γ、IFN−λ等が挙げられる。前記インターロイキンとしては、特に制限されないが、例えば、IL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、IL−14、IL−15、IL−16、IL−17、IL−18等が挙げられる。
【0045】
前記宿主は、特に制限されないが、例えば、大腸菌、酵母、糸状菌、放線菌、COS細胞、CHO細胞、Sf9細胞等が挙げられる。前記大腸菌は、特に制限されないが、例えば、S17−1、BL21(DE3)、BL21−CodonPlus(DE3)−RIL、Rosetta2(DE3)、Rosetta−gami2(DE3)等の菌株が挙げられる。
【0046】
前記タンパク質製造工程において、前記宿主へのDNA断片の導入、形質転換体の培養、培養物の回収および精製方法は、特に制限されず、例えば、従来公知の方法を適宜採用できる。本発明において、前記タンパク質の製造方法は、前述の組換えタンパク質の作製方法に限られず、例えば、従来公知の方法を適宜採用できる。
【0047】
[結合工程]
前記ハロゲノアセトアミド化糖鎖および前記タンパク質に、縮合剤を添加して縮合させて、粗糖タンパク質を得る。前記粗糖タンパク質を精製し、糖タンパク質製剤を得る。
【0048】
前記縮合剤は、特に制限されないが、4−メルカプトフェニル酢酸(MPAA)等が挙げられる。前記縮合条件は、特に制限されず、例えば、従来公知の条件を適宜設定できる。前記精製方法は、特に制限されず、例えば、従来公知の方法を採用できる。前記結合工程において、各官能基は、例えば、適宜保護剤により保護してもよい。また、前記結合工程において、前記保護された官能基は、例えば、適宜、脱保護剤により脱保護してもよい。前記保護剤および脱保護剤は、特に制限されない。
【0049】
前記糖タンパク質製剤は、例えば、薬剤、生理活性物質等として利用可能な糖タンパク質が挙げられ、特に制限されない。前記糖タンパク質は、具体的には、例えば、糖鎖の結合した前述のエリスロポエチン(EPO)、IgG、インターロイキン、インターフェロン等が挙げられる。前記インターフェロンとしては、特に制限されず、例えば、前述のインターフェロンが挙げられる。前記インターロイキンとしては、特に制限されず、例えば、前述のインターロイキンが挙げられる。
【0050】
前記結合工程において、前記糖鎖としては、本発明の糖鎖の製造方法により製造された糖鎖以外に、さらに、その他の糖鎖を用いてもよい。
【0051】
前記その他の糖鎖の種類、糖残基、修飾、糖鎖の本数等は、特に制限されないが、例えば、前記糖鎖の製造方法における糖鎖と同様である。前記その他の糖鎖は、例えば、シアル酸が結合していてもよいし、結合していなくてもよいが、好ましくは、前者である。前記その他の糖鎖の製造方法は、特に制限されず、例えば、従来公知の方法を適宜採用できる。
【0052】
(実施形態3)
本実施形態における糖タンパク質製剤の製造方法は、前記糖鎖製造工程、前記タンパク質製造工程および前記結合工程に加えて、ペプチド製造工程および糖ペプチド製造工程を含み、前記結合工程において、糖ペプチドとタンパク質とを結合する。
【0053】
[糖鎖製造工程]
まず、前記実施形態2と同様にして、ハロゲノアセトアミド化糖鎖を得る。
【0054】
[ペプチド製造工程]
つぎに、以下のようにして、固相合成法により、ペプチドを製造する。
【0055】
まず、カラムに担体を充填する。前記カラムにアミノ基を含む縮合試薬を添加して、前記担体にアミノ基を導入する。つぎに、前記カラムに洗浄試薬を添加して、前記アミノ基を導入した担体を洗浄する。洗浄後、脱保護試薬を添加して、前記アミノ基を脱保護する。そして、前記カラムに前記アミノ基を含む縮合試薬を添加して、ペプチドを伸長させる。前記脱保護試薬を除去後、前記カラムに前記開裂試薬を添加し、前記伸長させたペプチドを前記担体から切り出す。
【0056】
前記担体は、特に制限されないが、例えば、トリチルクロライド樹脂、HMPB(4−(4−ヒドロキシメチル−3−メトキシフェノキシ)酪酸)−PEGA(ポリ(エチレングリコール)−ポリ(ジメチルアクリルアミド)コポリマー)樹脂等が挙げられる。前記カラムは、例えば、ペプチド合成に汎用される合成カラムが挙げられ、特に制限されない。前記担体のカラムへの充填方法は、特に制限されず、適宜設定できる。
【0057】
前記アミノ基を含む縮合試薬は、例えば、保護基で保護したアミノ酸と縮合剤とを溶媒に添加して調製する。前記保護基は、特に制限されないが、例えば、フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)基、tert−ブトキシカルボニル(Boc)基等が挙げられる。前記縮合剤は、特に制限されないが、例えば、2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)1,1,3,3−テトラメチルアミニウム ヒキサフルオロホスフェイト(HBTU)、1−ヒドロキシ−1H−ベンゾトリアゾール(HOBt)、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)等が挙げられる。前記溶媒は、特に制限されないが、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジクロルメタン(DCM)等が挙げられる。前記導入反応の条件は、特に制限されず、適宜設定できる。
【0058】
前記洗浄試薬は、特に制限されないが、例えば、前述の溶媒等が挙げられる。前記洗浄条件は、特に制限されず、適宜設定できる。
【0059】
前記脱保護試薬は、例えば、脱保護剤を溶媒に添加して調製する。前記脱保護剤は、特に制限されないが、例えば、ピペリジン、2−メルカプトエタノール、TFA(アセトニトリル)、TIS(トリイソプロピルシラン)、EDT(エタンジチオール)等が挙げられる。前記溶媒は、特に制限されないが、例えば、前述の溶媒等が挙げられる。前記脱保護反応の条件は、特に制限されず、適宜設定できる。
【0060】
前記伸長反応の条件は、特に制限されず、適宜設定できる。前記洗浄、脱保護および伸長反応を繰り返し、さらに、ペプチドを伸長させる。前記ペプチドの長さは、特に制限されないが、例えば、1〜100アミノ酸残基であり、好ましくは、5〜50アミノ酸残基であり、より好ましくは、10〜20アミノ酸残基である。
【0061】
前記開裂試薬は、例えば、開裂剤を溶媒に添加して調製する。前記開裂剤は、特に制限されないが、例えば、酢酸−トリフルオロエタノール溶液等が挙げられる。前記溶媒は、特に制限されないが、例えば、前述の溶媒等が挙げられる。前記切り出し条件は、特に制限されず、適宜設定できる。
【0062】
本発明において、前記ペプチドの製造方法は、前記固相合成法に限られず、例えば、従来公知の方法を適宜採用できる。
【0063】
[糖ペプチド製造工程]
前記担体から切り出したペプチドおよび前記ハロゲノアセトアミド化糖鎖に、縮合試薬を添加して反応させて、糖ペプチドを得る。
【0064】
前記ペプチドと糖鎖との縮合試薬は、特に制限されないが、4−メルカプトフェニル酢酸(MPAA)等が挙げられる。前記縮合反応の条件は、特に制限されず、適宜設定できる。
【0065】
[タンパク質製造工程]
前記実施形態2と同様にして、組換えタンパク質を得る。
【0066】
[結合工程]
前記糖ペプチドを、チオエステル化試薬と混合し、前記糖ペプチドのC末端のα−カルボン酸を、チオエステル化する。前記チオエステル化した糖ペプチドと、前記組換えタンパク質とを、緩衝液に添加して反応させ、粗糖タンパク質を得る。前記粗糖タンパク質を、脱保護試薬を添加して数時間撹拌し、保護基を除去する。脱保護した前記粗糖タンパク質を精製し、糖タンパク質製剤を得る。
【0067】
前記チオエステル化試薬は、特に制限されないが、例えば、チオフェノール、PyBOP(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシトリピロリジノホスフォニウム ヘキサフルオロホスフェイト)およびDIPEAの混合液等が挙げられる。前記チオエステル化の条件は、特に制限されず、適宜設定できる。
【0068】
前記緩衝液は、特に制限されないが、例えば、リン酸緩衝液(PBS)等が挙げられる。前記緩衝液は、例えば、チオフェノール(PhSH)、ベンジルメルカプタン(BnSH)、エチルメルカプタン(EtSH)等の添加剤を含んでもよい。前記反応条件は、特に制限されず、適宜設定できる。
【0069】
前記脱保護試薬は、例えば、前述の脱保護試薬等が挙げられる。前記脱保護反応の条件は、特に制限されず、適宜設定できる。
【0070】
前記粗タンパク質の精製方法は、特に制限されず、例えば、従来公知の方法を採用できる。
【0071】
前記結合工程において、各官能基は、例えば、保護剤により適宜保護してもよい。また、前記結合工程において、前記保護された官能基は、例えば、適宜、脱保護剤により脱保護してもよい。
【0072】
前記糖タンパク質製剤は、例えば、前述の糖タンパク質製剤が挙げられる。
【0073】
本発明において、前記結合方法は、前述の方法に限られず、例えば、従来公知の方法を適宜採用できる。
【実施例】
【0074】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、下記の実施例により制限されない。
【0075】
<実施例1>
本例では、エミュー(Dromaius novaehollandiae)の卵から糖鎖を調製し、この糖鎖を結合した糖タンパク質を合成した。
【0076】
[糖タンパク質画分の分画]
前記エミューの卵(常南グリーンシステム社製)5個を、卵黄と卵白とに分離した。5個分の卵白に、メタノールとクロロホルムとを1:1(容積比)に混合した抽出液を等容量で混合し、ホモジナイズした。この混合液を、3000×g(gは重力加速度、以下同様)で20分間遠心分離し、水相と有機相との界面に形成された界面層を回収した。この界面層に、等重量のアセトンを加えて混合し、前述と同条件で遠心分離した。遠心分離後、沈殿物を回収し、減圧条件下、3日間乾燥し、粉末の糖タンパク質画分を得た。
【0077】
[糖鎖画分の分画]
十分に乾燥させたスクリューキャップ付きの試験管(例えば内径15mm×長さ150mm)内に、前記糖タンパク質画分50mgを入れ、さらに、ヒドラジン一水和物(H2NNH2・H2O、ナカライテスク社製)5mLを加えた。前記試験管のスクリューキャップを締め、ボルテックスミキサー(登録商標)を用いて撹拌し、前記糖タンパク質画分を前記ヒドラジン一水和物に溶解させた。前記スクリューキャップと前記試験管本体との境界を、ナイロンテープで目張りし、前記試験管内を密閉状態にした。この試験管を、90℃で10時間加熱し、前記糖タンパク質画分から糖鎖を遊離させた。加熱後、前記試験管を、室温になるまで静置した。前記試験管から、前記ナイロンテープを除去し、前記スクリューキャップを開けた後、−70℃の冷却トラップ付きの真空ポンプを用いて、減圧下で、前記ヒドラジン一水和物を留去した。この試験管に、トルエン0.2mLを加え、撹拌して懸濁し、前述と同様にして減圧留去を行った。前記トルエンを用いたヒドラジン一水和物の留去を、3回繰り返し、糖鎖画分を得た。
【0078】
[糖鎖の再アセチル化]
前記試験管内に、氷冷した飽和炭酸水素ナトリウム水溶液5mLと無水酢酸0.2mLとを加えて、前記糖鎖画分2mgと5分間混合した。さらに、前記試験管内に、氷冷した飽和炭酸水素ナトリウム水溶液5mLと無水酢酸0.2mLとを加え、氷冷下で約5分間に1回混合しながら、30分間反応させた。100mLのビーカーに、得られた反応液を入れ、陽イオン交換樹脂(商品名:DOWEX 50WX8(200〜400メッシュ、H型)、Dow Chemical社製)約25gを、前記反応液のpHが約3になるまで加えた。この反応液および陽イオン交換樹脂を、ガラスカラムに充填し、前記カラム下部から、溶出液を回収した。さらに、前記陽イオン交換樹脂体積の5倍量の水を用いて、前記ガラスカラムを洗浄し、洗浄液を回収した。なす型フラスコに前記溶出液および洗浄液を入れ、ロータリーエバポレーターを用いて留去し、乾固させた。
【0079】
[シアル酸結合糖鎖の分画および精製]
前記なす型フラスコ内に少量の水を加えて、前記乾固分2mgを溶解した。この溶解液を、コニカル型テフロン(登録商標)シール付きスクリューキャップ試験管(内径25mm×長さ90mm)に入れ、凍結乾燥した。前記凍結乾燥後、前記試験管に、2−アミノピリジン(ナカライテスク社製)2760mgを1mLの酢酸に溶解したPA化試薬0.5mLを加え、ドライヤーの温風で暖めながら、前記試験管内の残査を完全に溶かし、90℃で1時間反応させた。この試験管内に、ジメチルアミンボラン錯体6gを酢酸2.4mLおよび水1.5mLに溶解した還元試薬1.75mLを加えて混合し、80℃で35分間反応させた。この反応液に、水で飽和させたフェノールとクロロホルムとを等量で混合した水飽和フェノール/クロロホルム溶液5mLと水3.75mLとの混合溶媒を加えて、混合した。この混合液を、1000×gで2分間遠心分離し、下層の有機相を除去した。上層の水相に、再度、水飽和フェノール/クロロホルム溶液5mLを加え、混合した。この混合液を、前述と同条件で遠心分離し、下層を除去した。この除去処理を2回繰り返した。そして、上層の水相にクロロホルム5mLを加えて混合し、前述と同条件で遠心分離し、下層の有機相を除去した。コンセントレーターを用いて、上層の水相の液体部分を除去し、乾固した。
【0080】
前記乾固分を、以下の条件でゲルろ過に供した。
【0081】
(ゲルろ過の分析条件)
(1)検出機器:蛍光検出器付HPLCシステム(島津製作所社製)
(2)カラム:TOYOPARL HW−40F
(内径2.6mm×40cm、東ソー社製)
(3)カラム平衡用緩衝液:
10mmol/L酢酸−アンモニア緩衝液(pH6.0)
(4)移動相: 溶媒 10mmol/L酢酸−アンモニア緩衝液(pH6.0)
流速 50mL/h
(5)分取量: 3.8mL/分画
【0082】
図1に、前記乾固分の前記ゲルろ過クロマトグラムを示す。図1において、縦軸は、蛍光強度であり、横軸は、分画番号である。図1のVo付近のピーク(P1)の溶離液を分取した。
【0083】
前記溶離液を濃縮し、蛍光標識化されたPA化糖鎖の混合物を回収した。この混合物を、以下の条件で陰イオン交換HPLCに供した。
【0084】
(陰イオン交換HPLCの分析条件)
(1)分析機器:蛍光検出器付HPLCシステム(島津製作所社製)
(2)カラム:商品名:Q−Sepharose Fast Flow
(内径20mm×10cm、GE Healthcare社製)
(3)カラム平衡用緩衝液:アンモニア水(pH9.0)
(4)移動相:溶媒 A:アンモニア水(pH9.0)
B:0.5mol/L酢酸−アンモニア緩衝液(pH9.0)
グラジエント条件:時間(溶媒比(A:B))
0分(A:B=100:0)
10分(A:B=100:0)
40分(A:B=60:40)
流速 3mL/min
【0085】
図2に、前記PA化糖鎖混合物の前記陰イオン交換HPLCプロフィールを示す。図2において、縦軸は、蛍光強度であり、横軸は、リテンション時間(分)である。図2のS4で示すピーク(シアル酸が4つ結合したテトラシアリル化糖鎖画分、A4)の溶離液を分取した。
【0086】
前記テトラシアリル化糖鎖画分を、以下の条件で、逆相HPLCに供した。
【0087】
(逆相HPLCの分析条件)
(1)分析機器:蛍光検出器付HPLCシステム(島津製作所社製)
(2)カラム:商品名:Cosmosil 5C18−P
(内径10mm×25cm、ナカライテスク社製)
(3)カラム平衡用緩衝液:20mmol/L酢酸−アンモニア緩衝液
+0.35%n−ブタノール緩衝液(pH4.0)
(4)移動相: 溶媒 20mmol/L酢酸−アンモニア緩衝液
+0.35%n−ブタノール緩衝液(pH4.0)
流速 3mL/min
【0088】
図3に、前記テトラシアリル化糖鎖画分の前記逆相HPLCプロフィールを示す。図3において、縦軸は、蛍光強度であり、横軸は、リテンション時間(分)である。図3の矢印で示すピーク(P2)の溶離液(糖鎖画分)を分取した。
【0089】
前記逆相HPLCにより分離された糖鎖画分を、以下の条件で、サイズ分画HPLCに供した。
【0090】
(サイズ分画HPLCの分析条件)
(1)分析機器:蛍光検出器付HPLCシステム(島津製作所社製)
(2)カラム: 商品名:TSK gel Amide80
(内径2.0mm×25cm、東ソー社製)
(3)カラム平衡用緩衝液:AおよびBの混合溶媒(溶媒比(A:B)=8:2)
A:アセトニトリル
B:50mmol/L蟻酸−アンモニア緩衝液(pH4.4)
(4)移動相:溶媒 A:アセトニトリル
B:50mmol/L蟻酸−アンモニア緩衝液(pH4.4)
グラジエント条件:時間(溶媒比(A:B))
0分(A:B=80:20)
10分(A:B=70:30)
35分(A:B=30:70)
流速 0.18mL/min
【0091】
[糖鎖の確認]
前記化学式(1)に表わされるシアル酸が結合した4本鎖糖鎖の標準品を、前述の陰イオン交換HPLC、逆相HPLCおよびサイズ分画HPLCに供した。なお、前記標準品が前記化学式(1)に表わされるシアル酸が結合した4本鎖糖鎖であることは、ExPASy Proteomics ServerのGlycomod Tool(スイスバイオインフォマティクス研究所、http://au.expasy.org/tools/glycomod/)を用いて確認した。前記各画分と前記標準品との前記陰イオン交換HPLC、逆相HPLCおよび前記サイズ分画HPLCにおけるピークの溶出位置を比較し、糖鎖の構造を確認した。
【0092】
前記サイズ分画HPLCにより得られた画分の収量を、長谷ら(Methods Mol.、1993年、Vol.14、p.69−80)の方法に基づき、以下のようにして算出した。まず、蛍光標識糖として、N−アセチルグルコサミンにPAが結合したPA−GluNAcをXpmol(X=10〜100)測り、前述と同様にして、前記サイズ分画HPLCに供し、蛍光強度を測定した。そして、得られたクロマトグラムから、ピーク面積(A)を算出した。他方、前記画分と前記標準品について、前記蛍光標識糖と同様にして、それぞれ、ピーク面積(B)を算出した。算出したピーク面積を下記式1に代入し、前記画分および前記標準品の収量を算出した。
収量=((A/B)×X)/Factor値 ・・・(1)
A=前記蛍光標識糖のピーク面積
B=前記画分または前記標準品のピーク面積
X=HPLCに供した前記蛍光標識糖量(pmol)
Factor値=1.3
【0093】
前記テトラシアリル化糖鎖画分、前記逆相HPLCにより分離された糖鎖画分および前記標準品を、それぞれ、50mUのエキソグリコシダーゼを含む酢酸−アンモニア緩衝液に添加し、37℃で10分間反応させた。なお、前記エキソグリコシダーゼとしては、β−ガラクトシダーゼ、β−N−アセチルヘキソサミニダーゼ(生化学工業社製)およびα2,3−シアリダーゼ(タカラバイオ社製)をそれぞれ用いた。各反応液を、前述の逆相HPLCおよびサイズ分画HPLCに供した。前記各画分の酵素処理物と前記標準品の酵素処理物との前記逆相HPLCおよび前記サイズ分画HPLCにおけるピークの溶出位置を比較し、酵素処理による挙動を比較した。
【0094】
図4に、前記テトラシアリル化糖鎖画分と前記標準品との前記逆相HPLCプロフィールを示し、図5に、前記テトラシアリル化糖鎖画分のシアリダーゼ処理物と前記標準品のシアリダーゼ処理物との前記逆相HPLCプロフィールを示す。図4および図5において、縦軸は、蛍光強度であり、横軸は、リテンション時間(分)である。なお、両図は、ピークを比較しやすいように、上段に、前記テトラシアリル化糖鎖画分のプロフィールを示し、下段に、前記標準品のプロフィールを示している。図4に示すように、前記テトラシアリル化糖鎖画分のピークは、前記標準品のピークに一致した。また、図5に示すように、酵素処理後の両ピークも一致した。この結果から、前記テトラシアリル化糖鎖画分は、シアル酸が結合した4本鎖糖鎖であることが示された。
【0095】
前記逆相HPLCにより得られた各画分を、337nmの窒素レーザーを備えた質量分析装置(装置名:AUTOFLEX II、BRUKER社製)を用いて、MALDI−TOF法(ネガティブモード)による構造分析に供し、分子質量を測定した。なお、前記測定は、引出電圧を20kVとし、マトリックスとして、1mg/mL 2,5−ジヒドロキシ安息香酸を含む30v/v%エタノールを用い、質量範囲がm/z 280〜4,080の陽イオンモードおよびm/z 80〜3,300の陰イオンモードのリフレクターモードで行った。また、各スペクトルは、150回のレーザーショットにより測定した。
【0096】
図6に、前記MALDI−TOF法(ネガティブモード)により得られたマススペクトルを示す。図6において、縦軸は、イオン強度(a.u)であり、横軸は、m/zである。図6に示すように、m/z 3612.003に[M−H]のピークが検出された。また、前述のように、この糖鎖は、前記シアル酸が結合した4本鎖糖鎖である。これらの結果から、前記シアル酸が結合した4本鎖糖鎖は、前記化学式(1)で表わされる、Siaα2−3Galβ1−4GlcNAcβ1−2(Siaα2−3Galβ1−4GlcNAcβ1−4)Manα1−3(Siaα2−3Galβ1−4GlcNAcβ1−2(Siaα2−3Galβ1−4GlcNAcβ1−6)Manα1−6)Manβ1−4GlcNAcβ1−4GlcNAcであることが示された。また、前記4本鎖糖鎖の収量は、前記エミューの卵1個あたり30mgであった。
【0097】
<実施例2>
本例では、前記陰イオン交換HPLCにおいて、前記図2のS3で示すピーク(シアル酸が3つ結合したトリシアリル化糖鎖画分、A3)の溶離液を分取し、前記標準品として、前記化学式(2)に表わされるシアル酸が結合した3本鎖糖鎖を用いた以外は、前述と同様にして、前記エミューの卵から糖鎖を分画し、糖鎖の構造を確認した。
【0098】
図7に、前記トリシアリル化糖鎖画分の前記逆相HPLCプロフィールを示す。図7において、縦軸は、蛍光強度であり、横軸は、リテンション時間(分)である。図7の矢印で示すピーク(P3)の溶離液(糖鎖画分)を分取した。
【0099】
図8に、前記トリシアリル化糖鎖画分と前記標準品との前記逆相HPLCプロフィールを示し、図9に、前記トリシアリル化糖鎖画分のシアリダーゼ処理物と前記標準品のシアリダーゼ処理物との前記逆相HPLCプロフィールを示す。図8および図9において、縦軸は、蛍光強度であり、横軸は、リテンション時間(分)である。なお、両図は、ピークを比較しやすいように、上段に、前記トリシアリル化糖鎖画分のプロフィールを示し、下段に、前記標準品のプロフィールを示している。図8に示すように、前記トリシアリル化糖鎖画分のピークは、前記標準品のピークに一致した。また、図9に示すように、酵素処理後の両ピークも一致した。この結果から、前記トリシアリル化糖鎖画分は、シアル酸が結合した3本鎖糖鎖であることが示された。
【0100】
図10に、前記MALDI−TOF法(ネガティブモード)により得られたマススペクトルを示す。図10において、縦軸は、イオン強度(a.u)であり、横軸は、m/zである。図10に示すように、m/z 2955.230に[M−H]のピークが検出された。また、前述のように、この糖鎖は、前記シアル酸が結合した3本鎖糖鎖である。これらの結果から、前記シアル酸が3つ結合した糖鎖は、前記化学式(2)で表わされる、Siaα2−3Galβ1−4GlcNAcβ1−2(Siaα2−3Galβ1−4GlcNAcβ1−4)Manα1−3(Siaα2−3Galβ1−4GlcNAcβ1−2Manα1−6)Manβ1−4GlcNAcβ1−4GlcNAcであることが示された。また、前記3本鎖糖鎖の収量は、前記エミューの卵1個あたり60mgであった。
【0101】
以上のように、前記エミューの卵から、前記化学式(1)に示す各分岐鎖にシアル酸が結合した4本鎖糖鎖、および前記化学式(2)に示す各分岐鎖にシアル酸が結合した3本鎖糖鎖を製造できた。ヒト以外の生体およびその産生物において、前記各分岐鎖にシアル酸が結合した3本鎖糖鎖または4本鎖糖鎖を含むものは、ほとんど存在せず、本発明者らが確認したエミュー以外の鳥の卵においては、確認されていない。このため、前記エミューの卵を利用することにより、シアル酸が結合した3本鎖糖鎖または4本鎖糖鎖を安価かつ大量に供給可能である。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によれば、タンパク質製剤の製造に必要な糖鎖を安価かつ大量に供給可能である。このため、本発明によれば、タンパク質製剤を安価かつ大量に供給可能である。したがって、本発明は、医療分野等の幅広い分野に適用可能であり、その適用分野は制限されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖鎖の製造方法であって、
エミュー(Dromaius novaehollandiae)の卵から、シアル酸が結合した糖鎖を分離する糖鎖分離工程を有することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記糖鎖分離工程が、
前記エミュー(Dromaius novaehollandiae)の卵から、糖タンパク質画分を分画する糖タンパク質分画工程と、
分画された前記糖タンパク質画分を、糖鎖画分とタンパク画分とに分画する糖鎖分画工程と、
前記糖鎖画分から、前記シアル酸が結合した糖鎖画分を分画するシアル酸結合糖鎖分画工程とを含むことを特徴とする請求項1記載の糖鎖の製造方法。
【請求項3】
前記糖鎖が、3本または4本の分岐鎖を有し、前記3本または4本の分岐鎖全てにシアル酸が結合していることを特徴とする請求項1または2記載の糖鎖の製造方法。
【請求項4】
前記糖鎖が、下記化学式(1)または(2)で表わされるものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の糖鎖の製造方法。
【化1】

【化2】

【請求項5】
糖タンパク質製剤の製造方法であって、
タンパク質に糖鎖を結合させる糖鎖結合工程を有し、
前記糖鎖として、請求項1から4のいずれか一項に記載の製造方法により製造された糖鎖を用いることを特徴とする製造方法。
【請求項6】
前記糖タンパク質製剤が、エリスロポエチン(EPO)、IgG、インターロイキンまたはインターフェロンである請求項5記載の糖タンパク質製剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−41395(P2012−41395A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181592(P2010−181592)
【出願日】平成22年8月16日(2010.8.16)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】