説明

糖鎖固定化高分子基材、その製造方法および医療器具

【課題】 安全性や血液適合性が高く、また、ベロ毒素のなかでも、毒性の強いVT2型ベロ毒素に対する吸着除去能の高い糖鎖固定化高分子基材、その製造方法、該糖鎖固定化高分子基材を用いた医療器具を提供すること。
【解決手段】 分子内にメチレン基を有する高分子基材に、糖鎖を結合した繰り返し単位(A)の高分子鎖が、前記基材の単位面積当たり0.01〜1〔μmol/cm〕の割合で結合している糖鎖固定化高分子基材、その製造方法、該糖鎖固定化高分子基材を用いた医療器具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は毒素を除去するための糖質固定化高分子基材、その製造方法および医療器具に関する。
【0002】
本発明は、「平成18年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願」(旧「平成18年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願」)である。
【背景技術】
【0003】
ある種の糖質は、毒素などの病原体に特異的に相互作用し、このような糖質を高分子に結合してなる糖質高分子はクラスター効果によってタンパク質などの病原体と結合することにより、毒性、感染性が阻害されることが知られている。例えば、ベロ毒素は、ガラクトシルラクトースをポリマーに結合した糖質高分子と結合する。
【0004】
このように病原体と特異的に相互作用する糖質を固定化することでさまざまな用途に適用可能な高分子素材となる。以下、これらの例を挙げる。
【0005】
(1)毒素の除去の例として、高分子に糖鎖を結合してなる糖質高分子を中空糸内面に化学結合してなる病原性微粒子吸着性中空糸が知られている(特許文献1および非特許文献1参照)。例えば、特許文献1には、再生セルロースを始めとする高分子基材に水酸化ナトリウム水溶液を加え、次に1,4−ブタンジオールグリシジルエーテルの水−ジメチルスルフォキシド混合溶液を加え、高分子基材を活性化させた後、先に合成したアクリルアミドを主鎖とする糖質高分子の溶液と接触させることにより、基材に糖鎖を導入する方法が記載されている。また、非特許文献1にはセルロース表面を水酸化ナトリウムを用いて活性化しておき、ブロモ酢酸と反応させて表面にカルボキシ基を導入し、先に合成したアクリルアミドを主鎖とする糖質高分子と表面のカルボキシ基をWSC(Water Soluble Carbodiimide)を用いて縮合し、基材に糖鎖を導入する方法が記載されている。
【0006】
(2)糖鎖を基材に固定化する例として、Galα1→4Galβ1→4Glc(Gb) 又はGalα1→4Galβ1(Gb)で表される糖鎖を、市販の「BIACORE CM5」の様なカルボキシメチルデキストラン鎖を有するチップ表面にカルボキシ基を介して固定化するものや、金表面に1−チオ−アルカン−ω−アミン、1−チオ−アルカン−ω−カルボン酸、リポ酸、システミンなどを表面処理して、それらのアミノ基やカルボキシ基を介してチップ表面に固定化するものが知られている(特許文献2)。
(3)グロボ多糖を結合した構成ユニット(X)と、水溶性を高めるためのアクリルアミドからなる構成ユニット(Y)とのブロックコポリマからなる化合物をベロ毒素中和剤として用いる例が知られている(特許文献3)。ベロ毒素(Vero Toxin、VT)は、大きく2種類(VT1、VT2)に分類されている。一つは、志賀赤痢菌が産生する志賀毒素と同じ構造のVT1、もう一つは、VT1と生物学的性状はよく似ているが、免疫学的性状や物理化学的性状のまったく異なるVT2であり、このVT2はVT1に比べ毒性が強いことが知られている。しかしながら、VT2におけるグロボ多糖への吸着力はVT1に比べて約1/10程度と弱いことも知られていた(非特許文献3)。そこで特許文献3に記載のベロ毒素中和剤は、グロボ多糖を結合した構成ユニット(X)のみからなる直鎖高分子化合物を用いることにより、VT2との相互作用を高めることができたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−135596号公報
【特許文献2】特開2003−226697号公報
【特許文献3】特開2005−289907号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】A. Miyagawa et al, Biomaterials, 27, 3304 (2006)
【非特許文献2】岩田博夫著、高分子学会編「バイオマテリアル」共立出版、2005年
【非特許文献3】Susan C.Head et al,The Journal Of Biological Chemistry, vol.266,No.6,p.3617−3621(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
(1)で挙げた特許文献1および非特許文献1に記載の高分子基材はその製造方法に由来してアルカリ処理が必要な上、ブロモ酢酸や1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルなどの毒性(アレルギー性皮膚炎、皮膚炎、粘膜炎症性など)の強い化合物を用いなければならないことから安全性に懸念があり、従って安全性を確保する為に徹底した洗浄処理が必要であった。
【0010】
また、体外循環による吸着除去に用いる場合には、血液を体外に置かれた中空糸モジュールに通液後、連続的に血液を体内に戻すことが必要となるため、吸着除去にあたって血液が凝固しないことが必須となるものの、基材表面へ水酸基や官能基を導入すると、糖質高分子と結合しなかった水酸基や官能基が未反応のまま基材表面に残り、その結果、血液凝固系因子である補体がこれら水酸基、官能基によって活性化されることから(非特許文献2参照)、血液適合性を低下させる要因にもなっていた。
【0011】
(2)で挙げた特許文献2に記載のバイオセンサーは、高真空下で金を加熱して蒸着させる工程が必要であるため原材料費や製造コストがかかり、かつ工程も煩雑であった。また、得られた糖鎖固定化基材も、センサー用途であるため糖鎖密度が非常に少なく、その結果、吸着除去効果が非常に小さいものであった。また、BIACORE CM5は、デキストラン鎖自身の立体障害により、毒素を接触させてもデキストラン鎖内部へ浸透しづらく、センサーチップ表面でしか相互作用しないため、センサー機能を発揮するには充分であっても、吸着除去効果は発揮できなかった。
(3)で挙げた特許文献3では、ベロ毒素中和剤の場合において、直鎖を構成する構成ユニットのうち、グロボ多糖を結合した構成ユニット(X)のみで直鎖を構成することによってVT2型ベロ毒素の細胞接触阻害活性を大きくできると記載している。しかしながら、本発明者らは本発明の構成、すなわちグロボ多糖を結合した高分子鎖を高分子基材に固定化させることによってVT2型ベロ毒素を吸着除去する場合においては、単に糖鎖密度を大きくすればよいというわけではなく、特異的な範囲があることを明かにした。
【0012】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、安全性や血液適合性が高く、また、ベロ毒素のなかでも、毒性の強いVT2型ベロ毒素に対する吸着除去能の高い糖鎖固定化高分子基材、その製造方法、該糖鎖固定化高分子基材を用いた医療器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意研究した結果、糖鎖を有する重合性化合物を、高分子基材へ重合、固定化することによって、安全性や血液適合性が高く、また、ベロ毒素のなかでも、毒性の強いVT2型ベロ毒素に対する吸着除去能の高い糖鎖固定化高分子基材が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、分子内にメチレン基を有する高分子基材に、下記一般式(1)
【0015】
【化1】

【0016】
〔式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Xはアルキレン基または−R−Z−R−(但しR及びRは各々独立してアルキレン基を表し、Zは−O−、−NH−、−NR−(但しRは水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を表す)又は−S−を表す)を表し、Gは糖鎖を表す。〕で表される繰り返し単位(A)を有する高分子鎖が、または、前記一般式(1)で表される繰り返し単位(A)と一般式(2)
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Rは水酸基またはアミノ基を表す)で表される繰り返し単位(B)を有する高分子鎖が結合しており、前記一般式(1)で表される繰り返し単位(A)が前記基材の単位面積当たり0.01〜1〔μmol/cm〕の割合で結合していることを特徴とする糖鎖固定化高分子基材を提供する。
また、本発明は、一般式(3)で表される繰り返し単位(C)
【0019】
【化3】

【0020】
(式中、Rはカルボキシ基、活性エステル残基を表し、Rは水素原子またはメチル基を表す)が結合している高分子基材に、下記一般式(4)
【0021】
【化4】

(式中、Xは2価の連結基を表し、Gは糖鎖を表す)で表される化合物を接触させ、アミド化反応を行うことを特徴とする糖鎖固定化高分子基材の製造方法を提供する。
更に、上記糖鎖固定化高分子基材を備えてなる医療器具であって、糖鎖固定化高分子基材が中空糸膜を用いたモジュールを提供し、当該モジュールを用いたベロ毒素を含む溶液からベロ毒素を除去する方法をも提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の糖鎖固定化高分子基材は毒素といった病原体、とくにベロ毒素、そのなかでも、毒性の強いVT2型ベロ毒素に対する吸着除去能の高い糖鎖固定化高分子基材を提供することができる。また本発明の糖鎖固定化高分子基材は、その製造方法に由来してアルカリ処理やブロモ酢酸や1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルといった毒性の強い化合物を用いずに糖質を高分子基体に固定化することができるため、安全性の高い糖鎖固定化高分子基材を提供することができる。また、基材表面に水酸基や官能基がないため、血液凝固系因子である補体を活性化させる原因を取り除くことができ、その結果、基材自身がもともと有している血液適合性を維持することができるため、高い血液適合性を有する糖鎖固定化高分子基材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の糖鎖固定化高分子基材を利用した吸着装置を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
・糖鎖固定化高分子基材の製造方法について
本発明の糖鎖固定化高分子基材の製造方法は、一般式(3)で表される繰り返し単位(C)
【0025】
【化5】

【0026】
(式中、Rはカルボキシ基、活性エステル残基を表し、Rは水素原子またはメチル基を表す)が結合している高分子基材に、下記一般式(4)
【0027】
【化6】

(式中、Xは2価の連結基を表し、Gは糖鎖を表す)で表される化合物を接触させ、アミド化反応を行うことを特徴とする。以下、詳述する。
【0028】
・・一般式(3)で表される繰り返し単位(C)が結合している高分子基材について
本発明で用いる、一般式(3)で表される繰り返し単位(C)
【0029】
【化7】

【0030】
(式中、Rはカルボキシ基、活性エステル残基を表し、Rは水素原子またはメチル基を表す)が結合している高分子基材は、血液適合性を有するものであればどのようなものを用いてもかまわず、公知慣用のものであってもよい。以下に、一般式(3)で表される繰り返し単位(C)が結合している高分子基材の好ましい例を挙げる。
【0031】
・・・高分子基材
本発明に用いる高分子基材は、電離放射線照射によって発生したラジカルに、モノマーがグラフト重合することができ、かつ、血液適合性の高いものであれば、公知慣用の高分子基材を用いることができる。この様な高分子基材として、分子内にメチレン基を有するような高分子化合物が挙げられる。本発明に用いる高分子基材の具体例としては、例えば、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、スルホン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エステル系樹脂、エーテル系樹脂またはセルロースアセテートが挙げられ、より具体的にはポリエチレンテレフタレート、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレンまたはポリ−4−メチルペンテン等を例示できる。
【0032】
高分子基材の形状は特に限定はなく、中空糸膜、ビーズ、不織布など種々の形態のものとして用いることができる。体外循環への適用時には血液が滞留する構造を持つビーズや不織布として用いることも可能であるが、ビーズや不織布は滞留部において血栓の発生が多くなることから、このような用途を目的とする場合は中空糸膜を使用することが望ましい。また、中空糸膜をろ過膜として使用しないのであれば、多孔質である必要もない為、用途に応じて中空糸の形態は選択すればよい。
【0033】
・・一般式(3)で表される繰り返し単位(C)の高分子基材への結合法について
一般式(3)で表される繰り返し単位(C)の高分子基材への結合は、前記高分子基材に、エチレン性不飽和結合を有する重合性化合物(以下、単に「重合性化合物」という)を接触させる工程(1)と、前記高分子基材に前記重合性化合物を接触させた状態で電離放射線を照射する工程(2)とをこの順で、または、
前記高分子基材に電離放射線を照射する工程(3)と、電離放射線を照射した前記高分子基材に前記重合性化合物を接触させる工程(4)とをこの順で行う。
【0034】
・・・重合性化合物
エチレン性不飽和結合を有する重合性化合物としては、血液適合性の高いものであれば特に限定することなく用いることができるが、好ましくはHC=CR(但し、Rは水素原子またはメチル基を表し、Rはカルボキシ基、活性エステル残基を表す。)で表されるエチレン性不飽和結合を有する重合性化合物が挙げられる。このうち好ましい化合物の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、活性エステル残基とアクリル酸の縮合物、活性エステル残基とメタクリル酸の縮合物などが挙げられ、ここで用いられる活性エステル残基としては、ヒドロキシスクシンイミド、ヒドロキシベンゾトリアゾールなど、後述するアミド化反応で挙げた慣用の活性エステルの残基を挙げることができる。上述した重合性化合物のうち、異なる重合性化合物を2種以上用いることもできる。
【0035】
・・・接触方法
前記高分子基材と前記重合性化合物との接触方法は、前記重合性化合物を水系溶媒に溶解させて水溶液とした上で、上記高分子基材と接触させればよい。本発明においては、前記高分子基材表面におけるグラフト重合を優先的に進行させることから、水溶液中の前記重合性化合物の濃度は低い方が好ましい。あまり高い濃度、例えば20質量%以上では、ラジカルが溶液中に拡散し溶液中で重合反応が同時進行する場合がある。具体的には、使用する重合性化合物各々の溶解度により上限が限定されるが、概ね0.1質量%以上、好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは0.1〜15質量%の範囲である。
【0036】
・・・電離放射線の照射
前記高分子基材に電離放射線を照射して発生させたラジカルにより、前記重合性化合物が有するエチレン性不飽和結合部位を高分子基材にグラフト重合させる。グラフト重合に際して用いる電離放射線源としては、α線、β線、γ線、加速電子線、X線等があげられ、実用的にはγ線、加速電子線が望ましい。
【0037】
グラフト重合法は前記高分子基材と重合性化合物とを接触させて電離放射線を照射する同時照射グラフト重合法と高分子基材を予め照射した後、重合性化合物と接触させる前照射グラフト重合法のいずれでも可能であり、目的に合わせて選択できる。
【0038】
本発明に用いる電離放射線を用いたグラフト重合法において、照射線量や加速電圧は高分子基材によって異なるため一概には範囲を決めることができず、高分子基材の素材、形態、厚みなどを考慮し適宜調整することが必要である。たとえば、照射量が多いと帯電による絶縁破壊が発生し、照射量が少ないと重合反応が進まない。このため、高分子基材の材質や形態などを考慮し、帯電による絶縁破壊が発生せず、かつ重合反応が充分に進む照射量を適宜調整すればよい。また、加速電圧は透過性に関係し、高分子基材の厚みによって異なる。フィルムなどの薄い形態の場合、加速電圧は一般には小さくて済み、高分子基材の形態によって選択すればよい。
【0039】
たとえば、高分子基材が4−メチル−1−ペンテンからなる厚さ0.1(μm)〜10(μm)の中空糸の場合においては、10(kGy)以上、300(kGy)以下であり、さらに望ましくは90(kGy)以下である。また、加速電圧は0.1(kV)以上、10〔kV〕以下、好ましくは5(kV)以下である。
【0040】
前記照射グラフト重合において、照射後の基材中のラジカルは温度の上昇、酸素との接触によって速やかに不活化される。従って、照射後は十分に酸素を除いた状態で低温にて貯蔵し、速やかに固定化を行うことが好ましい。また前記の理由から、固定化においては脱酸素下、または不活性ガス下で実施することが望ましい。
【0041】
重合後の高分子基材は、水洗など種々の方法で未反応の重合性化合物を除去すればよい。未反応の重合性化合物はもともと水溶性であること、かつ、高分子基材に固定化されていないものはある程度高分子量化したものが中心であるため、アルカリ処理やブロモ酢酸や1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルを用いた化学結合法に比べるとより簡便な洗浄工程で構わない。水洗など種々の方法で未反応の重合性化合物等を除去した後、適宜、乾燥工程を加えることもできる。なお、未反応の重合性化合物等の除去は、GPCによる測定で検出限界以下まで行う。
【0042】
なお、高分子基材の形状が中空糸膜であり、該中空糸膜へ前記重合性化合物を固定化する場合には、実施形態に応じて糸の内面、外面のどちらかまたは両方に固定化することを選択できるが、例えば中空糸内部に血液を還流させる時は中空糸内部に、前記重合性化合物を中空糸内部に接触させ高分子鎖を固定化すれば良く、逆に、外部還流時には中空糸外部に前記重合性化合物を接触させ高分子鎖を固定化すれば良い。さらに中空糸膜をろ過膜として使用する場合には両面に接触させ高分子鎖を固定化すれば良い。
【0043】
このようにして得られた一般式(3)で表される繰り返し単位(C)の繰り返し単位数は1以上である。
【0044】
一般式(3)で表される繰り返し単位(C)の単位面積当たりの繰り返し単位数はグラフトモノマー換算で0.01〔μmol/cm〕以上であり、アクリル酸固定化量の増加は基材内部からのグラフト重合進行による変形や、変質をもたらし、洗浄を困難にすることから、0.1〜5〔μmol/cm〕が好ましい。
【0045】
・・・一般式(4)で表される化合物
本発明で用いる一般式(4)
【0046】
【化8】

(式中、Xは2価の連結基を表し、Gは糖鎖を表す)で表される化合物において、式中、Xは2価の連結基を表し、病原体や後述する糖鎖の種類によって一般には異なるが、アルキレン基、任意の位置が単一または複数の炭素以外の元素(酸素原子、窒素原子、硫黄原子など)で置換されたアルキレン基などが挙げられる。具体的に前記Xとしては炭素原子数1〜30のアルキレン基、または−R−Z−R−で表される基が挙げられる。但し、R及びRはアルキレン基、具体的には炭素原子数1〜30のアルキレン基を表し、Zは−O−、−NH−、−NR−(但しRは水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を表す)又は−S−を表す。
【0047】
さらに、式中、Gは糖鎖を表す。本発明に用いる糖鎖は、種々の糖質、その組合せからなり、吸着対象となる毒素の種類に応じて優れた吸着活性を有する糖質を適宜選択すればよい。具体的には、吸着対象がベロ毒素の場合は、下記一般式(5)
【0048】
【化9】

(式中、nは0〜1の整数を表す)で表されるガラクトシルラクトース(Gb3、Pサッカライド)、ガラクトシルガラクトース(Gb2)等を例示できる。
【0049】
・・アミド化反応
上述の方法などで得られた一般式(3)で表される繰り返し単位(C)が結合している高分子基材に、一般式(4)で表される化合物を接触させ、アミド化反応する。アミド化反応の方法は、例えば、活性エステルによるアミド化、縮合剤によるアミド化、これらの併用、混合酸無水物法、アジド法、酸化還元法、DPPA法、ウッドワード法など、ペプチド合成などで用いられている公知慣用のアミド化反応を用いればよい。
【0050】
活性エステルによるアミド化としては、例えば、NHS(N−ヒドロキシスクシンイミド)、ニトロフェノール、ペンタフルオロフェノール、DMAP(4−ジメチルアミノピリジン)、HOBT(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)、HOAT(ヒドロキシアザベンゾトリアゾール)、HOSu(ヒドロキシスクシンイミド)などを用いて、脱離能の高い基をカルボキシ基と一旦縮合させた活性エステルを形成させておき、これにアミノ基を反応させる方法が挙げられる。縮合剤によるアミド化は、それ単独で用いても良いが、上記活性エステルと併用することができる。縮合剤としては、EDC(1−(3−ジメチルアミノプロピル−3−エチル−カルボジイミドヒドロクロライド)、HONB(エンド−N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキサミド)、DCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)、BOP(ベンゾトリアゾール−1−イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)、HBTU(O−ベンゾトリアゾール−1−イル−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート)、TBTU(O−ベンゾトリアゾール−1−イル−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート)、HOBt(1-ヒドロキシベンゾトリアゾール)、HOOBt(3,4-ジヒドロ-3-ヒドロキシ-4-オキソ-1,2,3-ベンゾトリアジン)、ジ−p−トリオイルカルボジイミド、DIC(ジイソプロピルカルボジイミド)、BDP(1−ベンゾトリアゾールジエチルホスフェート−1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリニルエチル)カルボジイミド)、フッ化シアヌル、塩化シアヌル、TFFH(テトラメチルフルオロホルムアミジニウムヘキサフルオロホスホスフェート)、DPPA(ジフェニルホスホラジデート)、TSTU(O−(N−スクシニミジル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート)、HATU(N−[(ジメチルアミノ)−1−H−1,2,3−トリアゾロ[4,5,6]−ピリジン−1−イルメチレン]−N−メチルメタンアミニウム・ヘキサフルオロホスフェート・N−オキシド)、BOP−Cl(ビス(2−オキソ−3−オキサゾリジニル)ホスフィンクロライド)、PyBOP((1−H−1,2,3−ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ)−トリス(ピロリジノ)ホスホニウム・テトラフルオロホスフェート)、BrOP(ブロモトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウム・ヘキサフルオロホスフェート)、DEPBT(3−(ジエトキシホスホリルオキシ)−1,2,3−ベンゾトリアジン−4(3H)−オン)、PyBrOP(ブロモトリス(ピロリジノ)ホスホニウム・ヘキサフルオロホスフェート)などが挙げられる。
【0051】
このうち、カルボキシ基を一旦、NHS化した後に、一般式(4)で表される化合物のアミノ基と反応させアミド化する方法が好ましく、さらに、NHSにEDCを加えてアミド化する方法がより好ましい。
【0052】
これらのアミド化方法において、利用できる有機溶媒もこの種のペプチド合成に用いられる溶媒を挙げることができ、例えばジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサホスホロアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル等、およびこれらの混合溶媒やこれらを含む水溶液が挙げられる。
【0053】
カルボキシ基への活性化エステル残基導入割合は用いる活性化剤の種類や、試薬の過剰量に依存する。一般的に、溶液中での反応と比較し、アクリル酸ポリマーが固定化されていることで、反応性が落ちる為、導入量を上げる為には反応試薬をかなり過剰量用いる必要があると考えられる。従って、カルボキシ基固定化量に対する活性化剤と縮合剤反応試薬の量比は一概には規定できないが、概ねモル比で、1から100程度用いることが望ましい。末端アミンの糖鎖量は活性エステル残基のモル比で1から100倍程度過剰量用いることができるが、高価な糖鎖をあまり過剰量用いることは、好ましくなく、望ましくはモル比で1〜20である。
【0054】
未反応の活性エステル残基はアンモニア水溶液との反応で、アミドに変換し、取り除くことができる。アンモニア以外の反応後除去の容易な1級アミンを用いてアミド化することで、取り除くこともできる。いずれにせよ、基材に残存しないよう除去しておくのが望ましい。
【0055】
・糖鎖固定化高分子基材
次に、本発明の糖鎖固定化高分子基材について説明する。本発明の糖鎖固定化高分子基材は、分子内にメチレン基を有する高分子基材に、下記一般式(1)
【0056】
【化10】

【0057】
〔式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Xはアルキレン基または−R−Z−R−(但しR及びRは各々独立してアルキレン基を表し、Zは−O−、−NH−、−NR−(但しRは水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を表す)又は−S−を表す)を表し、Gは糖鎖を表す。〕で表される繰り返し単位(A)を有する高分子鎖が、または、前記一般式(1)で表される繰り返し単位(A)と一般式(2)
【0058】
【化11】

【0059】
(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Rは水酸基またはアミノ基を表す)で表される繰り返し単位(B)を有する高分子鎖が結合しており、前記一般式(1)で表される繰り返し単位(A)が前記基材の単位面積当たり0.01〜1〔μmol/cm〕の割合で結合していることを特徴とする。
【0060】
但し、R乃至R、X、Gは前述のとおりである。
また、前記一般式(1)における繰り返し単位(A)と前記一般式(2)で表される繰り返し単位(B)の比率は特に限定されるものではなく、病原体によって最適な糖鎖密度に調整したり、または高分子基材への固定化量を増加させる場合に応じて、適宜調節すればよいが、前記基材の単位面積当たり0.01〜1〔μmol/cm〕の割合、好ましくは0.02〜0.6〔μmol/cm〕の割合である。0.01〔μmol/cm〕以上、かつ1〔μmol/cm〕以下の範囲で毒素などの病原体に対する吸着除去能が特異的に向上する。
【0061】
また、本発明における糖鎖固定化高分子基材に用いる高分子基材としては、一般式(1)と同様のものが挙げられる。
【0062】
本発明の糖鎖固定化高分子基材は、前記製造方法により容易に得ることができる。この場合、前記繰り返し単位(A)、(B)、(C)の、基材と逆側の片末端はいづれも上述した重合性化合物残基である。
【0063】
・用途
本発明の糖鎖固定化高分子基材の製造方法は高分子素材の材質や形態に関して広範囲に適用できることから、目的、用途に応じた糖質固定化高分子素材を得ることができ、上記用途以外にも病原体の精製、分離に用いることができる。
【0064】
また、本発明の糖鎖固定化高分子基材は病原体吸着性を有し糖質に応じて目的とする病原体を吸着除去することができ、病原体の体外循環用吸着除去カラムに適用できる。特に、Gで表される糖鎖が下記一般式(5)
【0065】
【化12】

(式中、nは0〜1の整数を表す)で表されるガラクトシルラクトース(Gb3、Pサッカライド)、ガラクトシルガラクトース(Gb2)などのグロボ多糖である場合には、ベロ毒素(VT1、VT2)などの各種毒素を吸着除去する用途に特に好ましく用いることができる。さらに、本発明の糖鎖固定化高分子基材は、VT1の吸着除去効果だけでなく、毒性がより強いにもかかわらず、Gb3、Gb2との相互作用がVT1と比べて1/10のため、これまで吸着除去効果を発揮することが困難であったVT2に対しても優れた吸着効果を発揮できるため好ましい。
【0066】
糖鎖Gが、上記一般式(5)で表されるグロボ多糖である場合にも、前記基材の単位面積当たり0.01〜1〔μmol/cm〕の割合、好ましくは0.02〜0.2〔μmol/cm〕の割合で、毒素などの病原体、特にベロ毒素、その中でも毒性の強いVT2型ベロ毒素に対する吸着除去能が特異的に向上する。
【0067】
一般的に、血液浄化モジュール内部の血液に接触する面積が大きいと、その分、血液の凝固等を招きやすく、流路の閉塞が起き易い。しかしながら、本発明の糖鎖固定化高分子基材は単位面積当たりの毒素の吸着量が多いことから、モジュールの小型が可能となる結果、中空糸の総面積を小さくでき、血液浄化モジュール内部の血液接触面積を小さくできる。また、血液の流量を上げて、治療時間を短縮することができ、いずれも患者負担が軽減される。
【0068】
・・医療器具および使用方法
本発明のベロ毒素を除去する方法においては、対象とするベロ毒素を含む溶液とは、ベロ毒素を含む水溶液、血液、血漿等を挙げることができるが、これらに限らない。
糖鎖固定化高分子基材の使用方法は、例えば血液、血漿、血清等の体液と接触させて、体液中の毒素を吸着除去することができればいずれの方法でもよいが、例えば以下の方法を挙げることができる。
(1)中空糸内部に吸着材を担持させておき、これに体液を流す方法。
(2)体液の入口と出口とを有し、その出口に体液は通過するが吸着材は通過しないフィルターを装着した容器に吸着材を充填し、これに体液を流す方法。
(3)体液を取り出してバック等に貯留し、これを吸着材に混合して毒素を吸着除去した後、吸着材を濾別して毒素が除去された体液を得る方法。
【0069】
いずれの方法を用いることもできるが、(1)や(2)の方法は操作が簡単である点で好ましく、対外循環回路に組み込むことにより患者の体液から効率よくオンラインで毒素を除去することが可能である。このうちさらに、(1)による方法が最も好ましい方法として挙げられる。(2)や(3)の方法では、血液の凝固を防止するため、血液を血球と血漿に分離し、血漿のみを処理する必要があるが、(1)の方法ではこのような分離を必要とせず、操作が最も簡便でかつ患者への負担が少ないためである。また、中空糸表面には凹凸があり、平滑な表面を持つ他の基材と比較して高い表面積を持つことから、血液との接触面積が大きくなり、血液中の毒素を効率良く吸着することができる。
【0070】
本発明の糖鎖固定化高分子基材を用いた医療器具の一例をその概略断面図に基づき説明する。
【0071】
図1には、中空糸モジュールの一例を示す。図では、液体の流入口または流出口1、液体の流出口または流入口2、本発明の 糖鎖3が内壁に固定化された高分子基材からなる中空糸4が束になって内部に収納されている。また、中空糸の端面部はウレタン封止剤などからなる隔壁6により封止されている。この容器の形状及び材質は特に限定されないが、体外循環に適用する場合、好ましくは、内部液量10〜400〔mL〕の範囲であり、外径は2〜10〔cm〕程度の筒状容器である。もっとも好ましくは、内部液量20〜200〔mL〕の範囲であり、外径は2.5〜4〔cm〕程度の筒状容器である。
これらのモジュールは通常公知の方法によって製造することができる。
【0072】
以下に、中空糸への固定化、毒素の吸着について、糖質としてGb3を用い、高分子基材としてポリ4−メチル−1−ペンテン中空糸膜、病原体としてベロ毒素を用いた例でさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0073】
(合成例1)

【0074】
上記化学式で示される12−Aminododecyl α−D−galactopyranosyl(1→4)−β−D−galactopyranosyl−(1→4)−β−D−glucopyranoside(以下、「Gb3OC12NH2化合物」と略記する)を特許文献3、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7および非特許文献8の方法に準じて合成した。以下、詳述する。
【0075】
【非特許文献4】V. P. Kamath et al, Carbohydrate Research, 339, 1141 (2004)
【非特許文献5】K. Matsuoka et al, Tetrahedoron Lett., 40, 7839 (1999)
【非特許文献6】P. B. van Seeventer et al, Carbohydrate Research, 300, 369 (1997)
【非特許文献7】S. Svedhem et al Langmuir, 18, 2848 (2002))
【非特許文献8】F.Vito,et al, J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1,15,2169(1994)
【0076】
【化13】

【0077】
(合成例1−1)<12−Bromododecyl 2,3,4,6−tetra−O−benzoyl−α−D−galactopyranosyl−(1→4)−2,3,6−tri−O−benzoyl−β−D−galactopyranosyl−(1→4)−2,3,6−tri−O−benzoyl−β−D−glucopyranoside(2)の合成>
【0078】
α−D−galactopyranosyl−(1→4)−β−D−galactopyranosyl−(1→4)−β−D−glucopyranose(シグマアルドリッチ社、商品名Globotriose)を非特許文献8の方法に準じて、ベンゾイル保護体とした後、非特許文献7記載の方法で2,3,4,6−tetra−O−benzoyl−α−D−galactopyranosyl−(1→4)−2,3,6−tri−O−benzoyl−β−D−galactopyranosyl−(1→4)−2,3,6−tri−O−benzoyl−β−D−glucopyranoside trichloroacetoimidate(1)を合成した。次に、該trichloroacetoimidate(1)0.155〔g〕、12−ブロモドデカノール(東京化成)40〔mg〕を塩化メチレン3〔mL〕に加えて溶解し、モレキュラーシーブ4A(和光純薬)0.16〔g〕を加えて1時間攪拌後、氷冷し、トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル1.8〔μL〕を加えた。2時間後、NaHCO粉末を加えて反応を停止し、ろ過、濃縮後、シリカゲルカラム精製(ヘキサン/酢酸エチル=3/1)を行い、化合物(2)を合成した。収率72%。
【0079】
H NMR(300 MHz, CDCl) δ 5.47 (d, 1H), 4.90 (d, 1H), 4.66 (d, 1H), 13C NMR (75 MHz, CDCl) δ 101.3, 100.9, 98.8
【0080】
(合成例1−2)<12−azidododecyl 2,3,4,6−tetra−O−benzoyl−α−D−galactopyranosyl−(1→4)−2,3,6−tri−O−benzoyl−β−D−galactopyranosyl−(1→4)−2,3,6−tri−O−benzoyl−β−D−glucopyranoside(3)の合成>
合成例1−1で得られた化合物(2)1.37〔g〕、アジ化ナトリウム0.1〔g〕をDMF27〔mL〕に加えて80℃で2時間、加熱攪拌して化合物(3)を合成した。酢酸エチル/水で分液し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過、濃縮後、次工程にそのまま用いた。
【0081】
(合成例1−3)<12−Aminododecyl α−D−galactopyranosyl−(1→4)−β−D−galactopyranosyl−(1→4)−β−D−glucopyranoside(Gb3OC12NH2化合物の合成>
合成例2で得られた化合物(3)約1〔g〕に5%Pd/Cを約10重量%加えて水素置換し、3時間攪拌した。
【0082】
ろ過、濃縮後、ナトリウムメトキシド42〔mg〕、THF3〔mL〕、MeOH15〔mL〕を加えて45℃で7時間加熱撹拌した。中和後、濃縮、乾固し、Gb3OC12NH2化合物を得た。収率89%(3工程)。
【0083】
H NMR(300 MHz, DO) δ 4.84 (d, 1H), 4.42 (d, 1H), 4.31 (d, 1H), 13C NMR (75 MHz, DO) δ 104.2, 103.2, 101.2
(合成例2)
【0084】
【化14】

【0085】
上記化学式で示される6−(2−aminoethylthio)hexyl α−D−galactopyranosyl−(1→4)−β−D−galactopyranosyl−(1→4)−β−D−glucopyranoside(以下、「Gb3OCSNH2化合物」と略記する)を特許文献3、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6および非特許文献8の方法に準じて合成した。以下、詳述する。
【0086】
【化15】

【0087】
(合成例2−1)<5−hexenyl 2,3,4,6−tetra−O−benzoyl−α−D−galactopyranosyl−(1→4)−2,3,6−tri−O−benzoyl−β−D−galactopyranosyl−(1→4)−2,3,6−tri−O−benzoyl−β−D−glucopyranoside(4)の合成>
【0088】
2,3,4,6−tetra−O−benzoyl−α−D−galactopyranosyl−(1→4)−2,3,6−tri−O−benzoyl−β−D−galactopyranosyl−(1→4)−2,3,6−tri−O−benzoyl−β−D−glucopyranoside trichloroacetoimidate(1)3.08〔g〕、1−ヘキセノール(東京化成)0.27〔g〕、モレキュラーシーブ4A(和光純薬)3〔g〕を塩化メチレン60〔mL〕に加えて1時間かくはんし、氷冷後、トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル(和光純薬)33〔μL〕を加えて2時間かくはんした。NaHCO粉末を加えて反応を停止し、ろ過、濃縮後、後処理後、シリカゲルカラム精製(ヘキサン/酢酸エチル3/1)を行い、化合物(4)を得た。収量1.91〔g〕、収率61%。
【0089】
H NMR(300 MHz, CDCl) δ 5.47(d,1H), 4.91(d,1H), 4.66(d,1H)
13C NMR (75 MHz, CDCl) δ 138.5(C=C), 114.4(C=C),101.3,100.9,98.8
【0090】
(合成例2−2)<6−(2−aminoethylthio)hexyl 2,3,4,6−tetra−O−benzoyl−α−D−galactopyranosyl−(1→4)−2,3,6−tri−O−benzoyl−β−D−galactopyranosyl−(1→4)−2,3,6−tri−O−benzoyl−β−D−glucopyranoside(5)の合成>
【0091】
合成例2−2で得られた化合物(4)1.91〔g〕、2−アミノエタンチオール塩酸塩(和光純薬)0.66〔g〕をTHF40mLに加えて減圧窒素置換し、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、和光純薬)0.19〔g〕を加えて75℃に加熱した。4時間後、AIBNを120〔mg〕追加し、さらに2時間加熱して化合物(5)を合成した。室温まで冷却し、酢酸エチル/炭酸水素ナトリウム水溶液で分液し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、ろ過、濃縮し、次工程にそのまま用いた。
【0092】
(合成例2−3)<6−(2−aminoethylthio)hexyl α−D−galactopyranosyl−(1→4)−β−D−galactopyranosyl−(1→4)−β−D−glucopyranoside(Gb3OCSNH2)の合成>
【0093】
合成例2−3で得られた化合物(5)全量にナトリウムメトキシド(和光純薬)63〔mg〕、メタノール20〔mL〕、THF4〔mL〕を加えて45℃に加熱した。6時間後中和し、ろ過、乾固してGb3CSNH2化合物を得た。収量0.74〔g〕、収率95%(2工程)。
【0094】
H NMR(300 MHz, DO) δ 4.81(d,1H), 4.37(d,1H), 4.34(d,1H)
13C NMR (75 MHz, DO) δ 104.1,102.9,101.2
【0095】
(参考合成例1)
【0096】
【化16】

【0097】
上記化学式で示される6−[2−(N−Acryloylamino)ethylthio]hexyl α−D−galactopyranosyl−(1→4)−β−D−galactopyranosyl−(1→4)−β−D−glucopyranoside(以下、Gb3モノマーという)を特許文献3、非特許文献4、非特許文献5および非特許文献6の方法に準じて合成した。以下、詳述する。
【0098】
【化17】

【0099】
(参考合成例1−1)<6−[2−(N−Acryloylamino)ethylthio]hexyl 2,3,4,6−tetra−O−acetyl−α−D−galactopyranosyl−(1→4)−2,3,6−tri−O−actyl−β−D−galactopyranosyl−(1→4)−2,3,6−tri−O−acetyl−β−D−glucopyranoside(7)の合成>
【0100】
5−hexenyl 2,3,4,6−tetra−O−acetyl−α−D−galactopyranosyl−(1→4)−2,3,6−tri−O−acetyl−β−D−galactopyranosyl−(1→4)−2,3,6−tri−O−acetyl−β−D−glucopyranoside(6)50〔mg〕(0.05〔mmol〕)およびアミノエタンチオール塩酸塩28〔mg〕(0.25〔mmol〕)をTHF2〔mL〕に溶解、懸濁し、AIBN2〔mg〕を加えて減圧窒素置換後、油浴温度70℃で加熱撹拌した。反応の進行はTLC(ヘキサン/酢酸エチル=1/2)で確認した。原料消失後、酢酸エチルと炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて分液し、酢酸エチル層に無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥、ろ過後、次工程にそのまま用いた。
【0101】
酢酸エチル溶液にトリエチルアミン12〔mg〕(0.12〔mmol〕)を加えて氷冷下、アクリル酸クロリド5.4〔mg〕(0.06〔mmol〕)を滴下した。10分後、TLC(酢酸エチル/メタノール=1/2)で原料の消失を確認した。水を加えて分液、後処理を行い、シリカゲルカラムクロマト(トルエン/酢酸エチル=1/3)で精製し、化合物(7)を得た。収量51.4〔mg〕、収率90%。
【0102】
H NMR(300 MHz, CDCl) δ 6.29 (dd, 1H), 6.13 (br 1H), 6.12 (dd, 1H), 5.65 (dd, 1H), 5.58 (d, 1H), 5.39 (dd, 1H), 5.23−5.16 (m 2H), 5.11 (dd, 1H), 4.99 (d, 1H), 4.88 (dd, 1H), 4.74 (dd, 1H), 4.53−4.40 (m, 5H), 4.20−4.08 (m, 4H), 4.01 (d, 1H), 3.84−3.45 (m, 7H), 2.69 (t, 2H), 2.52 (t, 2H), 2.13−1.86 (m, 30H), 1.58−1.35 (m, 8H)
【0103】
13C NMR (75 MHz, CDCl) δ 170.58, 170.37, 170.00, 169.64, 169.47, 168.82, 165.45, 130.73, 126.46, 101.03, 100.50, 99.55, 76.58, 76.44, 73.09, 72.76, 72.51, 71.79, 69.87, 69.00, 68.81, 67.90, 67.11, 67.06, 62.19, 61.33, 60.26, 38.38, 31.71, 31.55, 29.39, 29.19, 28.31, 25.32, 20.84, 20.80, 20.64, 20.55, 20.51, 20.44
【0104】
(参考合成例1−2)<6−[2−(N−Acryloylamino)ethylthio]hexyl α−D−galactopyranosyl−(1→49−β−D−galactopyranosyl−(1→4)−β−D−glucopyranoside(「Gb3モノマー」と略記する)の合成>
【0105】
参考合成例1−1で得られた化合物(7)51.4〔mg〕(0.0452〔mmol〕)をメタノール1〔mL〕に溶解し、MeONa2.4〔mg〕(0.0452mmol)を加えて室温で撹拌した。LC(MeOH/HO=20/80)で反応の進行を確認した。イオン交換樹脂で中和し、濃縮乾固して目的物のGb3モノマーを得た。収量 30.5〔mg〕、収率90%。
【0106】
H NMR(300 MHz, DO) δ 6.21−6.05 (m, 2H), 5.65 (d, 1H), 4.84 (d, 1H), 4.40 (d, 1H), 4.39 (d, 1H), 4.24 (t, 1H), 3.92−3.18 (m, 21H), 2.63 (t, 2H), 2.49(t, 2H), 1.51−1.40 (m, 4H), 1.31−1.22 (m, 4H)
【0107】
13C NMR (75 MHz, DO) δ 169.45, 130.81, 128.26, 104.14, 102.87, 101.20, 79.63, 78.26, 76.29, 75.66, 75.40, 73.81, 73.08, 71.83, 71.74, 71.43, 70.02, 69.84, 69.44, 61.42, 61.25, 60.99, 39.71, 31.90, 31.19, 29.48, 28.46, 25.45
【0108】
(参考合成例2)<オクタデシルアクリルアミドの合成>
オクタデシルアミン(東京化成)5.39〔g〕、トリエチルアミン(関東化学)2.45〔g〕をTHFに溶解し、氷冷下アクリル酸クロリド(東京化成)1.99〔g〕を滴下した。1時間後、水を加えて分液し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮した。シリカゲルカラム(ヘキサン/酢酸エチル 2/1)で精製し、目的物を得た。収率66%。
H NMR(300 MHz, DO) δ 6.25(dd, 1H), 6.07(dd, 1H), 5.62 (dd, 1H), 5.60(br, 1H), 3.32(q 2H), 1.50(m, 2H), 1.25(m, 30H), 0.88(t, 3H)
【0109】

Gb3/C18
【0110】
(参考合成例3)<Gb3モノマーとオクタデシルアクリルアミドの共重合物(「Gb3/C18化合物」と略記する)の合成>
参考合成例1で得られたGb3モノマー0.1〔g〕と、参考合成例2で得られたオクタデシルアクリルアミド4.7〔mg〕とをDMSO250〔μL〕、トルエン50〔μL〕の混合溶媒に溶解し、減圧脱気、窒素置換した。AIBN1〔mg〕を加えて70℃に加熱し、7時間かくはんした。冷却後、エタノールによる再沈殿で精製した。収率87%。Mw 11326(GPC,東ソー製 HLC8220)。
H NMR(300 MHz, DO) δ 4.82(Gb3), 4.37(Gb3), 4.32(Gb3), 0.80(−CH
【0111】
(実施例1)<糖鎖固定化高分子基材の製造例>
アクリル酸モノマー1〔g〕をイオン交換水100〔g〕に溶解して1〔質量%〕水溶液とし、撹拌しながら減圧することで水溶液中の溶存酸素を除去した。
【0112】
次にポリ−4−メチルペンテン−1製の中空糸束(中空糸表面積:200〔cm〕、DIC(株)製)をガラス製試験管に入れ、ゴム栓にて密閉し、試験管内部を窒素置換した。その後、4.8〔MeV〕の加速エネルギーで90〔kGy〕の電子線を照射した。
【0113】
次に、23〔℃〕で、電子線を照射した中空糸束入り試験管内を真空にしてから、脱酸素したアクリル酸モノマー水溶液を加えて電子線グラフト重合を行った。23〔℃〕で4時間静置した後、中空糸束を取り出し、3回水洗して未反応のモノマー等を除去し、未反応のモノマー等がGPC測定で検出限界(1〔μg/mL〕。以下同様。)以下になったことを確認した。こうして、アクリル酸ポリマーを固定化した中空糸を得た。中空糸に固定化されたポリアクリル酸の量は重量増加から確認した。アクリル酸ポリマー固定化量18〔mg〕。平均重合度3600。1.3〔μmol/cm〕。
【0114】
次に、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS、和光純薬)28〔mg〕、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC、同仁化学)46〔mg〕をDMF8〔mL〕に溶解し、続いて、該DMF溶液にアクリル酸ポリマー固定化中空糸100〔cm〕を浸漬し、一晩静置した。その後中空糸を洗浄後、(合成例1)で得られたGb3OC12NH2化合物の1〔mg/mL〕含有DMF溶液に23℃で16時間浸漬後、アンモニア水溶液を10〔μL〕加えて、未反応の活性エステルを除去し、水100〔mL〕に10分浸漬後、水を交換して、再浸漬を数回繰り返して洗浄して、Gb3固定化中空糸(1)を得た。浸漬前後でGb3OC12NH2化合物濃度をHPLCにより測定し、単位面積当たりの糖固定化量を算出した(表1)。
【0115】
(実施例2)<糖鎖固定化高分子基材の製造例>
アクリル酸モノマー1〔g〕をイオン交換水100〔g〕に溶解して1〔質量%〕水溶液とし、撹拌しながら減圧することで水溶液中の溶存酸素を除去した。
【0116】
次にポリ−4−メチルペンテン−1製の中空糸束(中空糸表面積:200〔cm〕、DIC(株)製)をガラス製試験管に入れ、ゴム栓にて密閉し、試験管内部を窒素置換した。その後、4.8〔MeV〕の加速エネルギーで90〔kGy〕の電子線を照射した。
【0117】
次に、23〔℃〕で、電子線を照射した中空糸束入り試験管内を真空にしてから、脱酸素したアクリル酸モノマー水溶液を加えて電子線グラフト重合を行った。23〔℃〕で4時間静置した後、中空糸束を取り出し、3回水洗して未反応のモノマー等を除去し、未反応のモノマー等がGPC測定で検出限界以下になったことを確認した。こうして、アクリル酸ポリマーを固定化した中空糸を得た。中空糸に固定化されたポリアクリル酸の量は重量増加から確認した。アクリル酸ポリマー固定化量20.2〔mg〕。平均重合度4040。1.4〔μmol/cm〕。
【0118】
次に、NHS36〔mg〕、EDC59〔mg〕をDMF8〔mL〕に溶解し、続いて、該DMF溶液にアクリル酸ポリマー固定化中空糸100〔cm〕を浸漬し、一晩静置した。中空糸を洗浄後、(合成例1)で得られたGb3OC12NH2化合物の10〔mg/mL〕含有DMF溶液に23℃で16時間浸漬後、アンモニア水溶液を10〔μL〕加えて、未反応の活性エステルを除去し、水100〔mL〕に10分浸漬後、水を交換して、再浸漬を数回繰り返して洗浄して、Gb3固定化中空糸(2)を得た。浸漬前後でGb3OC12NH2化合物濃度をHPLCにより測定し、単位面積当たりの糖固定化量を算出した(表1)。
【0119】
(実施例3)<糖鎖固定化高分子基材の製造例>
アクリル酸モノマー5〔g〕をイオン交換水100〔g〕に溶解して5質量%水溶液とし、撹拌しながら減圧することで水溶液中の溶存酸素を除去した。
【0120】
次にポリ−4−メチルペンテン−1製の中空糸束(中空糸表面積:500〔cm〕、DIC(株)製)をガラス製試験管に入れ、ゴム栓にて密閉し、試験管内部を窒素置換した。その後4.8〔MeV〕の加速エネルギーで90〔kGy〕の電子線を照射した。
【0121】
次に、23℃で、電子線を照射した中空糸束入り試験管内を真空にしてから、脱酸素したアクリル酸モノマー水溶液を加えて電子線グラフト重合を行った。23℃で4時間静置した後、中空糸束を取り出し、3回水洗して未反応のモノマー等を除去し、未反応のモノマー等がGPC測定で検出限界以下になったことを確認した。こうして、アクリル酸ポリマーを固定化した中空糸を得た。中空糸に固定化されたポリアクリル酸の量は重量増加から確認した。アクリル酸ポリマー固定化量170〔mg〕。平均重合度13600。4.7〔μmol/cm〕。
【0122】
次に、NHS22〔mg〕、EDC36〔mg〕をDMF8〔mL〕に溶解し、続いて、該DMF溶液にアクリル酸ポリマー固定化中空糸20〔cm〕を浸漬し、一晩静置した。中空糸を洗浄後、(合成例2)で得られたGb3OCSNH2化合物の1〔mg/mL〕含有DMF溶液に23℃で16時間浸漬後、アンモニア水溶液を10〔μL〕加えて、未反応の活性エステルを除去し、水100〔mL〕に10分浸漬後、水を交換して、再浸漬を数回繰り返して洗浄して、Gb3固定化中空糸(3)を得た。浸漬前後でGb3OCSNH2化合物濃度をHPLCにより測定し、単位面積当たりの糖固定化量を算出した(表1)。
【0123】
(実施例4)<糖鎖固定化高分子基材の製造例>
アクリル酸モノマー5〔g〕をイオン交換水100〔g〕に溶解して5質量%水溶液とし、撹拌しながら減圧することで水溶液中の溶存酸素を除去した。
【0124】
次にポリ−4−メチルペンテン−1製の中空糸束(中空糸表面積:500〔cm〕、DIC(株)製)をガラス製試験管に入れ、ゴム栓にて密閉し、試験管内部を窒素置換した。その後4.8〔MeV〕の加速エネルギーで90〔kGy〕の電子線を照射した。
【0125】
次に、23℃で、電子線を照射した中空糸束入り試験管内を真空にしてから、脱酸素したアクリル酸モノマー水溶液を加えて電子線グラフト重合を行った。23℃で4時間静置した後、中空糸束を取り出し、3回水洗して未反応のモノマー等を除去し、未反応のモノマー等がGPC測定で検出限界以下になったことを確認した。こうして、アクリル酸ポリマーを固定化した中空糸を得た。中空糸に固定化されたポリアクリル酸の量は重量増加から確認した。アクリル酸ポリマー固定化量170〔mg〕。平均重合度13600。4.7〔μmol/cm〕。
【0126】
次に、NHS22〔mg〕、EDC36〔mg〕をDMF8〔mL〕に溶解し、続いて、該DMF溶液にアクリル酸ポリマー固定化中空糸20〔cm〕を浸漬し、一晩静置した。中空糸を洗浄後、(合成例2)で得られたGb3OCSNH2化合物の10〔mg/mL〕含有DMF溶液に23℃で16時間浸漬後、アンモニア水溶液を10〔μL〕加えて、未反応の活性エステルを除去し、水100〔mL〕に10分浸漬後、水を交換して、再浸漬を数回繰り返して洗浄して、Gb3固定化中空糸(4)を得た。浸漬前後でGb3OCSNH2化合物濃度をHPLCにより測定し、単位面積当たりの糖固定化量を算出した(表1)。
【0127】
(参考例1)<糖鎖固定化高分子基材の参考製造例>
アクリル酸モノマー10〔g〕をイオン交換水100〔g〕に溶解して10質量%水溶液とし、撹拌しながら減圧することで水溶液中の溶存酸素を除去した。
【0128】
次にポリ−4−メチルペンテン製の中空糸束(中空糸表面積:500〔cm〕、DIC(株)製)をガラス製試験管に入れ、ゴム栓にて密閉し、試験管内部を窒素置換した。その後4.8〔MeV〕の加速エネルギーで90〔kGy〕の電子線を照射した。
【0129】
次に、23℃で、電子線を照射した中空糸束入り試験管内を真空にしてから、脱酸素したアクリル酸モノマー水溶液を加えて電子線グラフト重合を行った。23℃で4時間静置した後、中空糸束を取り出し、3回水洗して未反応のモノマー等を除去したものの、未反応のモノマー等がGPC測定で検出されたため、該測定を行いながら検出限界以下になるまでさらに水洗を続け、10回以上水洗を繰り返し行ったところで未反応のモノマー等が検出限界以下になったことを確認した。こうして、アクリル酸ポリマーを固定化した中空糸を得た。中空糸に固定化されたポリアクリル酸の量は重量増加から確認した。アクリル酸ポリマー固定化量1.14〔g〕。平均重合度90000。32〔μmol/cm〕。
【0130】
次に、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS、和光純薬)146〔mg〕、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC、同仁化学)243〔mg〕をDMF8〔mL〕に溶解し、続いて、該DMF溶液にアクリル酸ポリマー固定化中空糸20〔cm〕を浸漬し、一晩静置した。その後中空糸を洗浄後、(合成例1)で得られたGb3OC12NH2化合物の1〔mg/mL〕含有DMF溶液に23℃で16時間浸漬後、アンモニア水溶液を10〔μL〕加えて、未反応の活性エステルを除去し、水100〔mL〕に10分浸漬後、水を交換して、再浸漬を数回繰り返して洗浄して、Gb3固定化中空糸(5)を得た。浸漬前後でGb3OC12NH2化合物濃度をHPLCにより測定し、単位面積当たりの糖固定化量を算出した(表1)。
【0131】
(参考例2)<糖鎖固定化高分子基材の参考製造例>
Gb3/C18化合物を50%含水エタノールに溶解し、中空糸80〔cm〕を16時間浸漬した。取り出して、水による洗浄を行い、Gb3固定化中空糸(6)を得た。浸漬前後のGPC測定からGb3/C18化合物の中空糸表面への吸着量を算出した(表1)。
【0132】
(実施例5)<メタクリル酸モノマーを用いた糖鎖固定化高分子基材の製造例>
メタクリル酸モノマー1〔g〕をイオン交換水100〔g〕に溶解して1〔質量%〕水溶液とし、撹拌しながら減圧することで水溶液中の溶存酸素を除去した。
【0133】
次に、ポリ−4−メチルペンテン−1製の中空糸束(中空糸表面積:200cm、DIC(株)製)をガラス製試験管に入れ、ゴム栓にて密閉し、試験管内部を窒素置換してから4.8〔MeV〕の加速エネルギーで90〔kGy〕の電子線を照射した。
【0134】
次に、23℃で、電子線を照射した中空糸束入り試験管内を真空にしてから、脱酸素したメタクリル酸モノマー水溶液を加えて電子線グラフト重合を行った。23℃で4時間静置した後、中空糸束を取り出し、3回水洗して未反応のモノマー等を除去し、未反応のモノマー等がGPC測定で検出限界以下になったことを確認した。こうして、メタクリル酸ポリマーを固定化した中空糸を得た。中空糸に固定化されたポリメタクリル酸の量は重量増加から確認した。メタクリル酸ポリマー固定化量34.8〔mg〕。平均重合度7000。2.0〔μmol/cm〕。
【0135】
次に、NHS51〔mg〕、EDC84〔mg〕をDMF8〔mL〕に溶解し、続いて、該DMF溶液にメタクリル酸ポリマー固定化中空糸100〔cm〕を浸漬し、一晩静置した。中空糸を洗浄後、(合成例1)で得られたGb3OCSNH2化合物の1〔mg/mL〕含有DMF溶液に23℃で16時間浸漬後、アンモニア水溶液を10〔μL〕加えて、未反応の活性エステルを除去し、水100〔mL〕に10分浸漬後、水を交換して、再浸漬を数回繰り返して洗浄して、Gb3固定化中空糸(7)を得た。浸漬前後でGb3OCSNH2化合物濃度をHPLCにより測定し、単位面積当たりの糖固定化量を算出した(表2)。
【0136】
(実施例6)<中空糸膜モジュールの製造>
アクリル酸モノマー5[g]をメタノール100[mL]に溶解して5[g/dL]メタノール溶液とし、窒素ガスを溶液中に導入してメタノール溶液中の溶存酸素を除去した。次にポリ−4―メチルペンテン―1製の中空糸束(中空糸表面積:240[cm]、DIC(株)製)をガラス製試験管に入れ、ゴム栓にて密閉し、試験管内部を窒素置換した。その後、4.8[MeV]の加速エネルギーで90[kGy]の電子線を照射した。
次に、23℃で、電子線を照射した中空糸束入り試験管内を真空にしてから、脱酸素したアクリル酸モノマーのメタノール溶液を加えて電子線グラフト重合を行った。23℃で4時間静置した後、中空糸束を取り出し、メタノールで数回洗浄して未反応のモノマー等を除去し、未反応のモノマー等がGPC測定で検出限界以下になったことを確認した。こうして、アクリル酸ポリマーを固定化した中空糸を得た。中空糸に固定化されたポリアクリル酸の量は重量増加から確認した。アクリル酸ポリマー固定化量28.7[mg]。1.7[μmol/cm]。
【0137】
次に、NHS92[mg]、EDC158[mg]をDMF15[mL]に溶解し、続いて、該DMF溶液にアクリル酸ポリマー固定化中空糸240[cm2]を浸漬し、一晩静置した。中空糸を洗浄後、(合成例1)で得られたGb3OC12NH2化合物の1[mg/mL]含有DMF溶液に23℃で16時間浸漬後、アンモニア水溶液を10[μL]加えて、未反応の活性エステルを除去し、水100[mL]に10分浸漬後、水を交換して、再浸漬を数回繰り返して洗浄して、Gb3固定化中空糸(8)を得た。浸漬前後でGb3OC12NH2化合物濃度をHPLCにより測定し、単位面積当たりの糖固定化量を算出したところ、0.4[μmol/cm]であった。
Gb3固定化中空糸(8)を束ねて両端部をホットメルト接着剤(エスダイン8512XS 積水化学(株)製)で目止めした。その後、中空糸モジュール用ハウジングパイプ(内径18mm×外径22mm、全長60mm)に挿入し、両端部に治具を取付て遠心機にセットし、350rpmで回転させてから、ハウジングパイプに設けたポッティング剤注入口よりポッティング剤を注入した。なお、ポッティング剤にはポリウレタン樹脂(主剤:コロネート4421、硬化剤:ニッポラン4221、日本ポリウレタン工業(株)製)を用いた。
【0138】
ポッティング剤が硬化してから、遠心機の回転を止め、ハウジングパイプを遠心機から取り出し、ハウジングパイプ両端部から突出したGb3固定化中空糸束および硬化したポッティング剤の不要部分を切断して除去し、流体流出入ポートをハウジングパイプの両端に接着してGb3固定化中空糸モジュールを得た。
【0139】
(試験例1)<ベロ毒素吸着量の測定試験>
ベロ毒素の吸着能は、ベロ毒素に感受性を有するベロ細胞(アフリカミドリサル腎臓由来)を用いたバイオアッセイ法により評価した。Gb3固定化中空糸(1)〜(7)各5〔cm〕を別々の容器に入れ、それぞれベロ毒素(VT1またはVT2、いずれもナカライテスク(株)製)を100〔ng/mL〕(1%BSA−PBS溶液)になるよう加えた後、23℃で4時間反応させた。反応液を緩衝液で10倍ずつ段階希釈し、ベロ細胞を予め2×10〔cells/ml〕の濃度にて培養してある96穴ウェルマイクロプレート(10%FBSを含むDMEM(インビトロジェン(株)製)培地,培養液量100〔μL〕)にそれぞれ10〔μL〕ずつ添加した。37℃、5%CO条件にて72時間培養し、培養上清を吸引除去後、各ウェルをHank’s Balanced Salt Solution(インビトロジェン(株)製)にて洗浄、吸引した。さらに各ウェルにWST−8試薬(同仁化学(株)製)/DMEM(1:10容量比)110〔μL〕ずつ添加し、37℃、5%CO条件で呈色反応を行った。マイクロプレートリーダーで450〔nm〕の吸光度を測定し、各希釈率でのベロ細胞の細胞生存率を算出し、50%細胞生存率をGb3未固定化中空糸と比較して毒素の吸着率%を算出した(表1)。
【0140】
ただし、表1〜2において「電子線グラフトモノマー」欄において、AA/アクリル酸モノマー、MA/メタクリル酸モノマーを表す。また、「ベロ毒素吸着率(%)」欄において「−」は未測定を表す。
【0141】
【表1】

【0142】
表1の結果から、実施例1〜4で得られた本発明の糖鎖固定化高分子基材は、VT2型ベロ毒素に対して極めて高い吸着除去効果を呈することが明かとなった。また、参考例1の結果から、糖鎖が単位面積当たり1.5〔μmol/cm〕の糖鎖固定化高分子基材では、実施例1〜4の結果と対比して、むしろVT2型ベロ毒素の吸着率が低くなったことが明かとなり、その結果、単に糖鎖密度を上げたとしても、VT2型ベロ毒素に対する吸着除去効果を上げられるわけではないこともわかった。
【0143】
【表2】

【0144】
表2の結果から、実施例5で得られた本発明の糖鎖固定化高分子基材は、糖鎖を固定化するために用いるポリアクリル酸を構成するモノマーユニットをアクリル酸からメタクリル酸に替えても、また、糖鎖とポリアクリル酸との連結基を替えても、実施例1〜4と同様に、VT2型ベロ毒素に対して極めて高い吸着除去効果を呈することが明かとなった。
【0145】
(試験例2)<ベロ毒素吸着量の測定試験>
実施例4で得られたGb3固定化中空糸(4)5〔cm〕を別々の容器に入れ、それぞれVT2型ベロ毒素(ナカライテスク(株)製)を20〔ng/mg〕、100〔ng/mg〕、1000〔ng/mg〕になるよう加えた後、試験例1と同様にして評価し、VT2型ベロ毒素の吸着量及び吸着率を算出した(表3)。
【0146】
【表3】

【0147】
表3の結果から、本発明の糖鎖固定化高分子基材は、VT2型ベロ毒素濃度が高い場合でも、極めて高い吸着除去効果を呈することが明かとなった。
【0148】
(試験例3)<中空糸モジュールを用いたベロ毒素吸着量の測定試験>
ベロ毒素の吸着能は、オーソVT1/VT2 大腸菌ベロ毒素キット(オーソ・クリニカル・ダイアグノスティック(株)製)を用いたELISA法により評価した。
Gb3固定化中空糸モジュール100cmに対し、室温にてVT2溶液100ng/mL(1%BSA−PBS(−))6mLを流速0.2mL/minで4時間還流させた。0.5、1、2、4時間ごとに50μLずつ還流液を採取し、ELISAにてVT2濃度を測定し、その値からGb3固定化中空糸のVT2除去能を算出し、表3に示した。
【0149】
【表4】

【0150】
表4の結果から、本発明の中空糸モジュールは、VT2型ベロ毒素に対して極めて高い吸着除去効果を示すことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明により得られる、安全性や血液適合性が高く、また、ベロ毒素のなかでも、毒性の強いVT2型ベロ毒素に対する吸着除去能の高い糖鎖固定化高分子基材、該糖鎖固定化高分子基材を用いた中空糸モジュール等の医療器具は医療用として利用が可能である。
【符号の説明】
【0152】
1 流出口
2 流入口
3 糖鎖
4 中空糸
5 容器
6 隔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内にメチレン基を有する高分子基材に、下記一般式(1)
【化1】

(1)
〔式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Xはアルキレン基または−R−Z−R−(但しR及びRは各々独立してアルキレン基を表し、Zは−O−、−NH−、−NR−(但しRは水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を表す)又は−S−を表す)を表し、Gは糖鎖を表す。〕で表される繰り返し単位(A)を有する高分子鎖が、または、前記一般式(1)で表される繰り返し単位(A)と一般式(2)
【化2】

(2)
(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Rは水酸基またはアミノ基を表す)で表される繰り返し単位(B)を有する高分子鎖が結合しており、前記一般式(1)で表される繰り返し単位(A)が前記基材の単位面積当たり0.01〜1〔μmol/cm〕の割合で結合していることを特徴とする糖鎖固定化高分子基材。
【請求項2】
前記高分子基材が、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、スルホン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エステル系樹脂、エーテル系樹脂またはセルロースアセテートである請求項1記載の糖鎖固定化高分子基材。
【請求項3】
前記オレフィン系樹脂が、4−メチル−1−ペンテンの重合体である請求項2記載の糖鎖固定化高分子基材。
【請求項4】
前記高分子基材が中空糸膜である請求項1〜3のいずれか一項に記載の糖鎖固定化高分子基材。
【請求項5】
請求項4に記載の糖鎖固定化高分子基材よりなる中空糸膜モジュール。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の糖鎖固定化高分子基材を備えてなる医療器具。
【請求項7】
請求項5に記載の中空糸膜モジュールを用いることを特徴とする、ベロ毒素を含む溶液からベロ毒素を除去する方法。
【請求項8】
一般式(3)
【化3】

(3)
(式中、Rはカルボキシ基、活性エステル残基を表し、Rは水素原子またはメチル基を表す)で表される繰り返し単位(C)が結合している高分子基材に、下記一般式(4)
【化4】

(4)
(式中、Xは2価の連結基を表し、Gは糖鎖を表す)で表される化合物を接触させ、アミド化反応を行うことを特徴とする糖鎖固定化高分子基材の製造方法。
【請求項9】
前記Xは、アルキレン基または−R−Z−R−(但しR及びRは各々独立してアルキレン基を表し、Zは−O−、−NH−、−NR−(但しRは水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を表す)又は−S−を表す)である請求項8記載の糖鎖固定化高分子基材の製造方法。
【請求項10】
前記高分子基材が、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、スルホン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エステル系樹脂、エーテル系樹脂またはセルロースアセテートである請求項8記載の糖鎖固定化高分子基材の製造方法。
【請求項11】
前記オレフィン系樹脂が、4−メチル−1−ペンテンの重合体である請求項10記載の糖鎖固定化高分子基材の製造方法。
【請求項12】
前記高分子基材が中空糸膜であって、該中空糸膜の内側または外側もしくは両面に、前記一般式(4)で表される化合物を接触させる請求項8〜11のいずれか一項に記載の糖鎖固定化高分子基材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−287011(P2009−287011A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90928(P2009−90928)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】