説明

索状体の衝撃吸収構造及び防護柵

【課題】衝撃力に対して継続して安定した衝撃吸収性能が得られ、所望の衝撃吸収性能を容易に得ることが可能となる衝撃吸収構造を提供すること。
【解決手段】支持体31間に架設された索状体13に衝撃力が作用したときにその衝撃力を吸収するための衝撃吸収構造3に関する。衝撃吸収構造3は、スリット35が形成された衝撃吸収部材33を備える。スリット35は、索状体13が交差して挿通された挿通部36と、衝撃力が作用したときに索状体13が挿通部36から移動可能となる方向に延びた幅狭部37とを有する。幅狭部37は、索状体13の直径より小さいスリット幅に形成されている。これにより、幅狭部37のスリット側面35aの一部が索状体13との摩擦により磨耗したとしても、磨耗していない幅狭部37のスリット側面35aを索状体13がスリット長手方向P1に徐々に摺動することになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支柱や築堤等の支持体間に架設された索状体に衝撃力が作用したときにその衝撃力を吸収するための索状体の衝撃吸収構造及びこれが用いられる防護柵に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、支柱等の支持体間に架設された索状体に対して衝撃力が作用したときにその衝撃力を吸収する衝撃吸収構造として、様々なものが提案されている。
【0003】
特許文献1や特許文献2においては、挟み付け構造の衝撃吸収構造が提案されている。これは、複数の板材により索状体を挟み付けたうえで、ボルトやカシメ等により複数の板材を締め付けておき、索状体に衝撃力が作用したときに、板材の押さえ面と索状体との間の摩擦により衝撃吸収可能な構造とされている。
【0004】
また、特許文献3においては、直列に配置された索状体の接続部に用いられる衝撃吸収構造が提案されている。これは、一方の索状体の端部に取り付けられた外筒と、外筒内に収容されており、他方の索状体の端部に接続された抵抗体と、抵抗体と外筒との間に設置され、他方の索状体の移動に応じて圧縮して衝撃力を吸収する弾性体とを備えている。これにより、衝撃力が作用したときに、索状体の移動に応じて弾性体が圧縮しつつ、弾性体の内部を抵抗体が強引に通過することにより衝撃吸収可能な構造とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−301418号公報
【特許文献2】特開2010−144433号公報
【特許文献3】特開2009−150097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1等のような挟み付け構造の衝撃吸収構造では、締め付けることにより索状体を押さえ付けている板材の押さえ面以外が摩擦をし難い構造となっている。このため、同構造では、板材の押さえ面が摩擦により磨耗してしまうことにより徐々に摩擦力が減少してしまい、継続して安定した衝撃吸収性能が得られないという問題点がある。また、同構造は、ボルトやカシメ等による締め付け力の調整により衝撃吸収性能を調整する構造であるが、所望の衝撃吸収性能を得るうえではボルト等による締め付け力を細かく調整する必要があるうえ、ボルト等による締め付け力の調整を現場作業員がすることになるため締め付け力にバラツキが生じやすくなる。この結果、同構造では、所望の衝撃吸収性能を容易に得ることが困難であるという問題点がある。
【0007】
また、特許文献3のような衝撃吸収構造では、索状体の端部にしか取り付けることができないため、索状体の長さが長い場合にその取り付け数を増やすことができないという問題点がある。また、衝撃吸収構造の設置間隔が索状体の全長より短くなるような場合は、索状体が短くなるようにあえて切断する必要があり、その分、施工手間が増えるという問題点がある。
【0008】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、衝撃力に対して継続して安定した衝撃吸収性能が得られ、所望の衝撃吸収性能を容易に得ることができ、更には上述の問題点を有利に解決することを可能とする索状体の衝撃吸収構造及びこれが用いられる防護柵を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上述した課題を解決するために、鋭意検討の末、下記の索状体の衝撃吸収構造及びこれが用いられる防護柵を発明した。
第1発明に係る索状体の衝撃吸収構造は、支持体間に架設された索状体に衝撃力が作用したときにその衝撃力を吸収するための衝撃吸収構造であって、スリットが形成された衝撃吸収部材を備え、前記スリットは、前記索状体が挿通された挿通部と、前記衝撃力が作用したときに前記索状体が前記挿通部から移動可能となる方向に延びた幅狭部とを有し、前記幅狭部は、前記索状体の直径より小さいスリット幅に形成されていることを特徴とする。
第2発明に係る索状体の衝撃吸収構造は、第1発明において、前記衝撃吸収部材は、前記支持体の正面又は背面に取り付けられ、前記幅狭部は、前記支持体の前後方向に延びて形成されていることを特徴とする。
第3発明に係る索状体の衝撃吸収構造は、第1発明又は第2発明において、前記スリットは、前記衝撃力が作用したときに前記索状体が前記挿通部から移動可能となる方向の前側において設けられたスリット底面を更に有することを特徴とする。
第4発明に係る索状体の衝撃吸収構造は、第1発明〜第3発明の何れかにおいて、前記索状体を軸方向にスライド可能な状態で位置保持する位置保持部材を、前記衝撃吸収部材の側方に備え、前記位置保持部材は、前記衝撃力が作用したときに前記索状体が前記挿通部から移動可能となる方向の前側において当該索状体を位置保持していることを特徴とする。
第5発明に係る索状体の衝撃吸収構造は、支持体間に架設された索状体に衝撃力が作用したときにその衝撃力を吸収するための衝撃吸収構造であって、前記索状体の一部を輪状にしてなるループ部が巻き付けられた衝撃吸収部材と、前記索状体のループ部が巻き付けられた部位に沿って前記衝撃吸収部材に形成されたスリットとを備え、前記スリットは、前記索状体の直径より小さいスリット幅に形成された幅狭部を有することを特徴とする。
第6発明に係る索状体の衝撃吸収構造は、第5発明において、前記スリットは、前記幅狭部のスリット長手方向両側に形成された挿通部を更に有し、前記索状体は、前記ループ部の中間部が前記スリットの幅狭部に巻き付けられるとともに、前記ループ部の両端部が前記挿通部を挿通されていることを特徴とする。
第7発明に係る索状体の衝撃吸収構造は、第5発明又は第6発明において、前記衝撃吸収部材は、筒状体から構成されており、前記スリットは、前記衝撃吸収部材の周方向の全部に亘る範囲に形成されていることを特徴とする。
第8発明に係る索状体の衝撃吸収構造は、第5発明〜第7発明の何れかにおいて、前記衝撃吸収部材は、前記支持体に取り付けられていることを特徴とする。
第9発明に係る索状体の衝撃吸収構造は、第1発明〜第8発明の何れかにおいて、前記幅狭部は、前記索状体の直径より小さいスリット幅であって、前記衝撃力が作用したときに前記索状体が破断することなく当該幅狭部をスリット長手方向の所定長さに亘って移動可能となるスリット幅に形成されていることを特徴とする。
第10発明に係る索状体の衝撃吸収構造は、第1発明〜第9発明の何れかにおいて、前記スリットを間に挟んだ前記衝撃吸収部材の上部と下部とに亘って取り付けられたスリット幅保持部材を更に備えることを特徴とする。
第11発明に係る防護柵は、横方向に間隔を空けて立設された複数の支柱から構成された支持体と、複数の支持体間に架設された索状体とを備え、前記索状体は、第1発明〜第10発明の何れかの索状体の衝撃吸収構造が用いられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明によれば、幅狭部のスリット側面の一部が索状体との摩擦により磨耗したとしても、磨耗していない幅狭部のスリット側面を索状体がスリット長手方向に徐々に摺動することになるので、衝撃力に対して継続して安定した衝撃吸収性能を発揮させることが可能となる。また、所望の衝撃吸収性能を得るうえで、ボルトやカシメ等による細かい締め付け力の調整が不要となり、所望の衝撃吸収性能を容易に得ることが可能となる。索状体の何れの部位においても衝撃吸収部材を取り付けることが可能となるので、索状体の長さによる制限を受けることなく用いることが可能となる。
第3発明によれば、衝撃力により索状体がスリット内をスリット長手方向に移動した後において、索状体がそのスリットから抜け出るのを防止しつつ、索状体から支持体に衝撃力を伝達可能となる。
第4発明によれば、衝撃力により索状体がスリット内をスリット長手方向に移動した後において、支持体間での索状体の架設長さを長くすることが可能となる。
第5発明によれば、幅狭部のスリット側面の一部が索状体との摩擦により磨耗したとしても、磨耗していない幅狭部のスリット側面を索状体がスリット長手方向に徐々に摺動することになるので、衝撃力に対して継続して安定した衝撃吸収性能を発揮させることが可能となる。また、所望の衝撃吸収性能を得るうえで、ボルトやカシメ等による細かい締め付け力の調整が不要となり、所望の衝撃吸収性能を容易に得ることが可能となる。衝撃力により索状体がスリット内をスリット長手方向に移動した後において、支持体間での索状体の架設長さを長くすることが可能となる。索状体の何れの部位においても衝撃吸収部材を取り付けることが可能となるので、索状体の長さによる制限を受けることなく用いることが可能となる。
第10発明によれば、索状体が移動するときに、索状体が幅狭部のスリット幅を押し広げようとする押し広げ力に抵抗することにより、幅狭部のスリット幅を保持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(a)は第1実施形態に係る衝撃吸収構造が用いられる防護柵の構成を示す平面図であり、(b)はその背面図である。
【図2】(a)は第1実施形態に係る衝撃吸収構造が用いられる支持体としての支柱の構成を示す側面断面図であり、(b)はその背面図である。
【図3】(a)は第1実施形態に係る衝撃吸収構造の作用効果を説明するための平面図であり、(b)はその側面断面図である。
【図4】(a)は第2実施形態に係る衝撃吸収構造が用いられる支持体としての支柱の構成を示す側面断面図であり、(b)はその背面図である。
【図5】(a)は第3実施形態に係る衝撃吸収構造が用いられる支持体としての支柱の構成を示す拡大平面図であり、(b)は(a)のAA線断面図であり、(c)は(a)の側面断面図である。
【図6】(a)は第3実施形態に係る衝撃吸収構造の作用効果を説明するための拡大平面図であり、(b)はその平面図である。
【図7】(a)は第4実施形態に係る衝撃吸収構造の構成を示す拡大平面図であり、(b)はその作用効果を説明するための拡大平面図であり、(c)は第4実施形態に係る衝撃吸収構造の構成を拡大したものを示す拡大側面断面図である。
【図8】(a)は第5実施形態に係る衝撃吸収構造の索状体の移動前の構成を示す拡大側面図であり、(b)はその移動後の構成を示す拡大側面図であり、(c)はその作用効果を説明するための拡大平面断面図である。
【図9】(a)は第6実施形態に係る衝撃吸収構造が用いられる防護柵の構成を示す平面図であり、(b)はその背面図である。
【図10】(a)は第6実施形態に係る衝撃吸収構造に用いられる衝撃吸収部材に索状体のループ部を巻き付けた状態を示す平面断面図であり、(b)はその正面図である。
【図11】(a)は第6実施形態に係る衝撃吸収構造に用いられる衝撃吸収部材の構成を示す側面図であり、(b)はその衝撃吸収部材に索状体のループ部を巻き付けた状態を示す部分断面側面図であり、(c)は図10(a)のBB線断面図である。
【図12】(a)は第7実施形態に係る衝撃吸収構造に用いられる衝撃吸収部材に索状体のループ部を巻き付けた状態を示す正面図であり、(b)はその衝撃吸収部材の側面図である。
【図13】(a)は第8実施形態に係る衝撃吸収構造に用いられる衝撃吸収部材の構成を示す平面図であり、(b)はその正面図であり、(c)はその部分断面側面図である。
【図14】(a)は第8実施形態に係る衝撃吸収構造に用いられる衝撃吸収部材に索状体のループ部を巻き付けた状態を示す平面図であり、(b)はその正面図であり、(c)はその部分断面側面図である。
【図15】(a)は第8実施形態の第1変形形態に係る衝撃吸収構造に用いられる衝撃吸収部材に索状体のループ部を巻き付けた状態を示す平面図であり、(b)はその正面図であり、(c)はその部分断面側面図である。
【図16】(a)は第8実施形態の第2変形形態に係る衝撃吸収構造に用いられる衝撃吸収部材に索状体のループ部を巻き付けた状態を示す平面図であり、(b)はその正面図である。
【図17】(a)は第8実施形態の第3変形形態に係る衝撃吸収構造に用いられる衝撃吸収部材の構成を示す平面図であり、(b)はその正面図である。
【図18】(a)は第9実施形態に係る衝撃吸収構造が用いられる支持体としての支柱の構成を示す側面断面図であり、(b)はその平面断面図である。
【図19】(a)は防護柵の他の形態の構成を示す正面図であり、(b)はその平面図である。
【図20】(a)は図18の形態に係る防護柵の支柱の構成を示す側面図であり、(b)は(a)のC部部分断面拡大図である。
【図21】(a)は実施例1で用いた万能試験機の部分正面図であり、(b)は(a)のDD線断面図である。
【図22】実施例1の実験条件により得られた荷重―変位量の関係を示すグラフである。
【図23】(a)は実施例2において用いた衝撃吸収部材に索状体のループ部を巻き付けた状態を示す平面図であり、(b)はその正面図であり、(c)はその衝撃吸収部材の構成を示す正面図である。
【図24】実施例2の実験条件により得られた荷重−変位量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用した索状体の衝撃吸収構造を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
本発明に係る衝撃吸収構造は、例えば、落石や雪崩等の落下物と衝突することによりこれらの落下を防止するための防護柵や、仮設工事等のときに高所で作業する作業員の落下を防止するために用いられる親綱や親綱支柱等に適用される。以下においては、落石の落下を防止するための防護柵に用いられる場合を例に説明する。
【0014】
防護柵1は、図1〜図3に示すように、横方向に間隔を空けて立設された複数の支柱11と、複数の支柱11の例えば背面側である山側において支柱11間に架設された索状体13と、索状体13に取り付けられた金網等からなる網体15とを備えている。
【0015】
支柱11は、索状体13や網体15を支持するものである。支柱11は、例えば、H形鋼、鋼管等から構成される。支柱11は、第1実施形態において、防護柵1の長手方向両端に立設された末端支柱11と、末端支柱11間に立設された中間支柱11とを備えている。
【0016】
索状体13は、支柱11のような支持体31間に架設されるものであり、第1実施形態においては、上下方向に複数段に亘って架設されている。索状体13が架設される支持体31としては、支柱11、親綱支柱、築堤、地盤等が挙げられる。索状体13は、例えば、ワイヤーロープ等の索状のものから構成される。
【0017】
防護柵1は、第1実施形態において、索状体13と網体15とにより落石等の落下物Aを捕捉する防護面が形成されている。第1実施形態に係る索状体13に対しては、例えば、防護柵1の背面側から正面側に向けて落下する落下物Aが防護面により捕捉されたときに、支持体31の前後方向P2と平行な方向P3の衝撃力が作用することになる。
【0018】
第1実施形態に係る衝撃吸収構造3は、支持体31に取り付けられた衝撃吸収部材33と、衝撃吸収部材33に形成されたスリット35とを備えている。
【0019】
衝撃吸収部材33は、索状体13に衝撃力が作用したときにその衝撃力を吸収するものである。
【0020】
衝撃吸収部材33は、第1実施形態において、平板状の単一の板材から構成されているが、これに限定するものではなく、曲板状等の単一の板材の他、後述のような複数の板材や、種々の形状の部材から構成されていてもよい。衝撃吸収部材33は、例えば、鋼材等の金属や合成樹脂から構成される。衝撃吸収部材33のスリット35は、第1実施形態において、板材に切削加工、穿孔加工等をすることにより形成される。
【0021】
衝撃吸収部材33は、第1実施形態において、支持体31としての中間支柱11の山側である背面に取り付けられている。衝撃吸収部材33の取り付け位置は、この他にも支持体31の正面でもよい。衝撃吸収部材33は、第1実施形態において、その端部33aが支持体31としての中間支柱11に突き合せられたうえで溶接等により接合して取り付けられている。
【0022】
スリット35は、第1実施形態において、索状体13が挿通された挿通部36と、挿通部36からスリット長手方向P1に連続して設けられた幅狭部37とを有している。スリット35の挿通部36に挿通された索状体13は、衝撃吸収部材33が取り付けられた支持体31や衝撃吸収部材33により支持されている。
【0023】
スリット35は、第1実施形態において、直線状に形成されているが、この他にも曲線状等に形成されていてもよい。
【0024】
挿通部36は、第1実施形態において、索状体13の直径より大きいスリット幅W1に形成されており、これによって、衝撃吸収部材33に対する索状体13の取り付け作業を容易にすることが可能となっている。挿通部36のスリット幅W1は、この他にも、索状体13の直径と同程度、又は直径より小さいスリット幅であってもよい。
【0025】
幅狭部37は、索状体13に衝撃力が作用したときにその索状体13が挿通部36から移動可能となる方向に延びて形成されており、第1実施形態においては、支持体31の前後方向P2、換言すると、衝撃力の作用する方向P3に延びて形成されている。
【0026】
幅狭部37は、索状体13の直径より小さいスリット幅W2に形成されている。これにより、衝撃力により索状体13が挿通部36から移動したときに、相対向する一対のスリット側面35aに対して索状体13を確実に摺動させることが可能となる。幅狭部37の好ましいスリット幅W2については後述する。
【0027】
なお、スリット35は、第1実施形態において、索状体13が移動可能となる方向の前側において設けられたスリット底面35bを更に有している。これにより、索状体13がスリット35内をスリット長手方向P1に移動した後において、索状体13がそのスリット35から抜け出るのを防止しつつ、索状体13から支持体31に衝撃力を伝達可能となる。
【0028】
また、スリット35は、第1実施形態において、挿通部36から幅狭部37に向かうにつれて徐々に幅狭となる案内面35cが、挿通部36と幅狭部37との間のスリット側面35aに形成されている。これにより、衝撃力により索状体13が挿通部36から幅狭部37に移動するときに、索状体13に過度の応力が作用するのを抑制することが可能となる。
【0029】
次に、第1実施形態に係る衝撃吸収構造3の作用効果について説明する。
【0030】
索状体13に対しては、第1実施形態において、落下物Aが防護面により捕捉されたとき等に、支持体31の前後方向P2に衝撃力が作用する。これにより、索状体13がスリット35の挿通部36から幅狭部37にかけてスリット長手方向P1に移動することになるが、このとき、幅狭部37の相対向する一対のスリット側面35aを索状体13が摺動し、その結果、幅狭部37のスリット側面35aと索状体13との間の摩擦により衝撃力が吸収されることになる。
【0031】
ここで、第1実施形態に係る衝撃吸収構造3によれば、幅狭部37のスリット側面35aの一部が索状体13との摩擦により磨耗したとしても、磨耗していない幅狭部37のスリット側面35aを索状体13がスリット長手方向P1に徐々に摺動することになるので、衝撃力に対して継続して安定した衝撃吸収性能を発揮させることが可能となる。
【0032】
因みに、幅狭部37のスリット側面35aと索状体13との摩擦により衝撃力が総て吸収された場合は、幅狭部37のスリット長手方向の途中位置で索状体13の移動が止まることになる。また、衝撃力が総て吸収されない場合であって、スリット35がスリット底面35bを有する場合は、索状体13がスリット底面35bに接触し、それ以降は索状体13から支持体31に衝撃力が伝達されることになる。
【0033】
また、第1実施形態に係る衝撃吸収構造3によれば、スリット35の幅狭部37のスリット幅W2を調整することにより衝撃吸収性能を調整することが可能となっている。具体的には、幅狭部37のスリット幅W2が狭くなるほど摩擦力が増大して大きい衝撃吸収性能が得られ、スリット幅W2が広くなるほど摩擦力が低減して小さい衝撃吸収性能が得られる。
【0034】
このように、第1実施形態に係る衝撃吸収構造3によれば、スリット35の幅狭部37のスリット幅W2を調整することにより所望の衝撃吸収性能を得ることが可能となっている。このようなスリット幅W2の調整は、隙間ゲージ等の利用により容易に実現できる。このため、第1実施形態に係る衝撃吸収構造3によれば、ボルトやカシメ等による細かい締め付け力の調整が不要となり、所望の衝撃吸収性能を容易に得ることが可能となる。
【0035】
次に、第2実施形態に係る衝撃吸収構造3について説明する。なお、上述した構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付すことにより以下での説明を省略する。
【0036】
第2実施形態に係る衝撃吸収構造3の衝撃吸収部材33は、図4に示すように、互いに間隔を空けて配置された複数の板材34から構成されている。複数の板材34は、それらの間にスリット幅W2の幅狭部37を有するスリット35が形成されるように配置されたうえで支持体31に取り付けられている。第2実施形態に係る衝撃吸収構造3の衝撃吸収部材33は、スリット35の幅狭部37が挿通部36を兼ねている。
【0037】
複数の板材34は、第2実施形態において、索状体13の軸方向に位置をずらして配置されている。この位置をずらす程度は、複数の板材34の角部34a間において、索状体13をスリット35内に挿通可能となる隙間が形成される程度とされている。また、この位置をずらす程度は、衝撃力により索状体13がスリット35内を移動したときに、上側の板材34のスリット側面35aと下側の板材34のスリット側面35aとの両方を索状体13が摺動可能となる程度とされている。
【0038】
第2実施形態に係る衝撃吸収構造3によれば、板材に穿孔加工等することが不要となるので、実現が容易であるうえ、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0039】
次に、第3実施形態に係る衝撃吸収構造3について説明する。
【0040】
第3実施形態に係る衝撃吸収構造3は、図5、図6に示すように、索状体13を軸方向にスライド可能な状態で位置保持する位置保持部材41が、衝撃吸収部材33の側方において支持体31に取り付けられている。位置保持部材41は、第2実施形態において、Uボルトから構成されているものを例示しているが、これに限定するものではない。Uボルトから構成された位置保持部材41は、支持体31としての中間支柱11にUボルトの両端部41aが挿通されてナット42が螺合され、そのUボルトの凹部41b内に索状体13が挿通されている。このUボルトから構成された位置保持部材41は、索状体13に衝撃力が作用したときに軸方向にスライド可能となるように、ナット42の螺合の程度が調整されている。
【0041】
また、位置保持部材41は、衝撃力が作用したときに索状体13がスリット35の挿通部36から移動可能となる方向の前側において、その索状体13を位置保持している。図示の例では、Uボルトから構成された位置保持部材41の凹部41bとスリット35の幅狭部37とがほぼ同軸上に位置するように、衝撃吸収部材33の左右両側において二つの位置保持部材41が配置されている。そして、衝撃吸収部材33の挿通部36に挿通された索状体13は、その移動可能となる方向の前側において二つの位置保持部材41の凹部41bにより位置保持されており、これにより索状体13が凸状に配置されている。
【0042】
以上の第3実施形態によれば、衝撃力により索状体13がスリット35内をスリット長手方向P1に移動した後において、支持体31間での索状体13の架設長さを長くすることが可能となる。この結果、第3実施形態に係る衝撃吸収構造3を防護柵に用いた場合は、隣り合う支持体31同士を通る直線と平行な直線L1に対する索状体13の傾斜角θを大きくすることが可能となる。このとき、傾斜角θが大きくなるほど、索状体13に引張力として作用した衝撃力の支持体31の前後方向成分が大きくなり、落下物Aからの衝撃力を支持体31に対してより効果的に伝達することが可能となり、ひいては、支持体31による衝撃吸収性能を効果的に発揮させることが可能となる。
【0043】
また、網体15を備えた防護柵1に第2実施形態に係る衝撃吸収構造3を用いた場合は、下記のような効果が発揮される。隣り合う支持体31間に同一長さの索状体13と網体15とを取り付けた場合について検討する。この場合、支持体31の前後方向P2に索状体13と網体15とが変位したとすると、一般には、ある程度変位した段階で網体15より索状体13の方が早期に破断してしまう傾向がある。これは、最大張力に到達するまでに必要となる前後方向P2の変位量が索状体13より網体15の方が大きいためである。このように索状体13の方が早期に破断してしまうと、網体15による衝撃吸収性能を十分に発揮させることが困難になってしまう。
【0044】
ここで、第2実施形態に係る衝撃吸収構造3のように、支持体31間での索状体13の架設長さを長くすることが可能となれば、最大張力に到達するまでに必要となる前後方向P2の変位量を索状体13と網体15とで同程度に調整することが可能となり、ひいては、索状体13と網体15との両方による衝撃吸収性能を十分に発揮させることが可能となる。
【0045】
次に、第4実施形態に係る衝撃吸収構造3について説明する。
【0046】
第4実施形態に係る衝撃吸収構造3は、図7に示すように、衝撃吸収部材33の側方において固定板32に取り付けられた位置保持部材41を更に備えている。位置保持部材41は、索状体13を軸方向にスライド可能な状態で位置保持するものである。
【0047】
衝撃吸収部材33は、第4実施形態において、図1に示す支持体31に接合されることなく索状体13に取り付けられており、索状体13に吊り支持された状態とされている。また、索状体13は、衝撃吸収部材33に対する軸方向両側において、図1に示す支持体31に固定されている。
【0048】
以上の第4実施形態に係る衝撃吸収構造3によれば、第3実施形態において説明したのと同様に、図1に示す支持体31間での索状体13の架設長さを衝撃力による索状体13の移動後において長くすることが可能となる。これにより、第3実施形態において説明したのと同様の理由により、支持体31による衝撃吸収性能を効果的に発揮させることが可能となるうえ、索状体13と図1に示す網体15との両方による衝撃吸収性能を十分に発揮させることが可能となる。
【0049】
また、第4実施形態によれば、索状体13の端部や図1に示す支持体31近傍に限らず、索状体13の何れの部位においても衝撃吸収部材33を取り付けることが可能となるので、索状体13の長さによる制限を受けることなく用いることが可能となる。
【0050】
次に、第5実施形態に係る衝撃吸収構造3について説明する。
【0051】
第5実施形態に係る衝撃吸収構造3は、図8に示すように、衝撃吸収部材33において、スリット35の側方に、衝撃吸収部材33を貫通する穴状に設けられた索状体固定部40を更に備えている。索状体固定部40は、索状体13をカシメ金具16(位置保持部材41)で挟み込んだ状態で固定するものである。索状体固定部40は、これに限らず、索状体13を溶接等により固定するものでもよい。
【0052】
衝撃吸収部材33は、第5実施形態において、図1に示す支持体31に接合されることなく索状体13に取り付けられており、索状体13に吊り支持された状態とされている。また、索状体13は、衝撃吸収部材33に対する軸方向両側において、図1に示す支持体31に固定されている。
【0053】
索状体13は、挿通部36においてカシメ金具16(位置保持部材41)等で挟み込まれて軸方向に対し固定され、固定板32の前面側又は後面側において、その架設長さを長くした状態で位置保持されている。索状体13は、衝撃力が作用したときに、カシメ金具16(位置保持部材41)に挟み込まれた状態で、挿通部36から幅狭部37へ移動する。
【0054】
以上の第5実施形態に係る衝撃吸収構造3によれば、第3実施形態において説明したのと同様に、図1に示す支持体31間での索状体13の架設長さを衝撃力による索状体13の移動後において長くすることが可能となる。これにより、第3実施形態において説明したのと同様の理由により、支持体31による衝撃吸収性能を効果的に発揮させることが可能となるうえ、索状体13と図1に示す網体15との両方による衝撃吸収性能を十分に発揮させることが可能となる。
【0055】
また、第5実施形態によれば、索状体13の端部や図1に示す支持体31近傍に限らず、索状体13の何れの部位においても衝撃吸収部材33を取り付けることが可能となるので、索状体13の長さによる制限を受けることなく用いることが可能となる。
【0056】
次に、第6実施形態に係る衝撃吸収構造3について説明する。
【0057】
第6実施形態に係る衝撃吸収構造3は、図9〜図11に示すように、索状体13の一部を輪状にしてなるループ部14が巻き付けられた衝撃吸収部材33と、索状体13のループ部14が巻き付けられた部位に沿って衝撃吸収部材33に形成されたスリット35とを備えている。
【0058】
衝撃吸収部材33は、第1実施形態〜第3実施形態において説明した衝撃吸収部材33と一部が異なるものであるので、第1実施形態〜第3実施形態において説明したものと異なる点についてのみ説明し、共通する点については説明を省略する。
【0059】
衝撃吸収部材33は、第6実施形態において、筒状体から構成されているが、これに限定するものではなく、後述のように、板材をU字状、V字状等に屈曲させた屈曲体や、平板状の板材等から構成されていてもよい。
【0060】
衝撃吸収部材33は、第6実施形態において、支持体31に接合されることなく索状体13に取り付けられており、索状体13に吊り支持された状態とされている。
【0061】
スリット35は、第6実施形態において、曲線状に形成されている。スリット35は、第6実施形態において、衝撃吸収部材33の周方向の一部に亘る範囲にのみ形成されている。スリット35は、この他にも、後述のように衝撃吸収部材33の周方向の全部に亘る範囲に形成されていてもよい。
【0062】
幅狭部37は、第6実施形態において、衝撃吸収部材33の外周面側から内側に向かうにつれて徐々に幅狭となる案内面37aがスリット側面35aに形成されている。これにより、衝撃力により索状体13が衝撃吸収部材33の外周面側から内側に移動するときに、索状体13に過度の応力が作用するのを抑制することが可能となる。
【0063】
索状体13は、第6実施形態において、ループ部14の中間部14aがスリット35の幅狭部37に巻き付けられるとともに、ループ部14の両端部14bのそれぞれがスリット35の挿通部36を挿通されている。索状体13は、第6実施形態において、ループ部14の端部14bがスリット長手方向一端側の挿通部36と他端側の挿通部36とのそれぞれに挿通されている。
【0064】
なお、衝撃吸収部材33は、第6実施形態において、補剛部材61を有している。補剛部材61は、衝撃力により索状体13のループ部14が縮径するように変形したときに、衝撃吸収部材33の内側に狭まるような変形を抑えてスリット35の形状を保持して、安定して所望の衝撃吸収性能を発揮させるために取り付けられるものであり、同様の効果が得られれば、どのような形状であってもよい。補剛部材61は、第6実施形態において、衝撃吸収部材33のスリット35を間に挟んだ上部33bと下部33cとのそれぞれの内周面に十字状に取り付けられた板材から構成されている。
【0065】
また、第6実施形態に係る衝撃吸収構造3は、衝撃吸収部材33に対して索状体13の軸方向両側において索状体13を支持体31に固定する固定部材65を備えている。
【0066】
次に、第6実施形態に係る衝撃吸収構造3の作用効果について説明する。
【0067】
索状体13に対しては、第6実施形態において、落下物Aが防護面により捕捉されたとき等に、衝撃力が軸方向の引張力として作用する。これにより、索状体13のループ部14が縮径するように変形しようとし、スリット35と交差している索状体13の一部がスリット35の幅狭部37をスリット長手方向P1に移動することになる。このとき、幅狭部37の相対向する一対のスリット側面35aを索状体13が摺動し、その結果、幅狭部37のスリット側面35aと索状体13との間の摩擦により衝撃力が吸収されることになる。
【0068】
以上の第6実施形態に係る衝撃吸収構造3によれば、第1実施形態において説明したのと同様の理由により、衝撃力に対して継続して安定した衝撃吸収性能を発揮させることが可能となる。
【0069】
また、第6実施形態によれば、第3実施形態において説明したのと同様に、支持体31間での索状体13の架設長さを衝撃力による索状体13の移動後において長くすることが可能となる。これにより、第3実施形態において説明したのと同様の理由により、支持体31による衝撃吸収性能を効果的に発揮させることが可能となるうえ、索状体13と網体15との両方による衝撃吸収性能を十分に発揮させることが可能となる。
【0070】
また、第6実施形態によれば、索状体13の端部や支持体31近傍に限らず、索状体13の何れの部位においても衝撃吸収部材33を取り付けることが可能となるので、索状体13の長さによる制限を受けることなく用いることが可能となる。
【0071】
次に、第7実施形態に係る衝撃吸収構造3について説明する。
【0072】
第7実施形態に係る衝撃吸収構造3は、図12に示すように、スリット35を間に挟んだ衝撃吸収部材33の上部33bと下部33cとに亘って取り付けられたスリット幅保持部材67を更に備えている。
【0073】
スリット幅保持部材67は、索状体13のループ部14がスリット35の幅狭部37をスリット長手方向P1に移動するときに、索状体13が幅狭部37のスリット幅W2を押し広げようとする押し広げ力に抵抗することにより、幅狭部37のスリット幅W2を保持するために取り付けられる。
【0074】
スリット幅保持部材67は、第7実施形態において、衝撃吸収部材33の上部33bと下部33cとのそれぞれに接合された一組の板材68と、これら一組の板材68に挿通されてナット70が螺合されたボルト69とから構成されている。ナット70は、索状体13による押し広げ力に十分に抵抗可能となる程度に螺合される。スリット幅保持部材67は、このような構造のものに限定するものではなく、例えば、後述のように、衝撃吸収部材33の上部33bと下部33cとに亘って配置され、その上部33bと下部33cとのそれぞれに接合された板材等から構成されていてもよい。
【0075】
次に、第8実施形態に係る衝撃吸収構造3について説明する。
【0076】
第8実施形態に係る衝撃吸収構造3は、図13、図14に示すように、衝撃吸収部材33の周方向の全部に亘る範囲にスリット35が形成されている。スリット35は、第8実施形態において、幅狭部37のみが形成されている。
【0077】
衝撃吸収部材33は、第8実施形態において、その周方向に間隔を空けて複数のスリット幅保持部材67が取り付けられており、スリット幅保持部材67は、索状体13が挿通可能となるように挿通溝71が設けられている。スリット幅保持部材67の挿通溝71は、衝撃吸収部材33のスリット35と連続しており、挿通溝71内に挿通された索状体13がスリット35内に移動可能となるようにされている。図14に示す例では、索状体13のループ部14の交差部14cにおいて重なっている部分が、スリット幅保持部材67の挿通溝71に挿通されているものを例示している。この例において挿通溝71は、衝撃吸収部材33の径方向に長く形成されており、その挿通溝71内において索状体13の交差部14cが衝撃吸収部材33の径方向にずれて挿通されている。この他にも挿通溝71は、図15に示すように、衝撃吸収部材33の高さ方向に長く形成され、その挿通溝71内において索状体13の交差部14cが衝撃吸収部材33の高さ方向にずれて挿通されていてもよい。
【0078】
衝撃吸収部材33は、索状体13に衝撃力が作用したときに、その索状体13の軸方向に対する衝撃吸収部材33の中心軸Sの傾きを拘束する拘束部材73が取り付けられている。拘束部材73は、第8実施形態において、ループ部14の交差部14cから離れた位置にある索状体13の二箇所の部分を、衝撃吸収部材33の軸心方向P3の両側から挟むように配置された一対の板材から構成されている。これにより、索状体13に衝撃力が作用することにより、図14(a)の方向P0に示すような回転荷重が衝撃吸収部材33に作用したときに、衝撃吸収部材33の中心軸Sが索状体13の軸方向に対して傾いたとしても、索状体13が拘束部材73に接触することによりそれ以上の傾きが拘束される。この結果、索状体13に衝撃力が作用したときに、スリット35の幅狭部37内に安定して索状体13を入り込ませて、索状体13を幅狭部37内で摺動させることが可能となる。
【0079】
なお、拘束部材73は、この他にも、図16に示すように、ループ部14の交差部14cから離れた位置にある索状体13の二箇所の部分が挿通される挿通孔74を有する部材から構成されていてもよい。なお、図示の例では、拘束部材73がスリット幅保持部材67を兼ねている。
【0080】
なお、スリット幅保持部材67は、第8実施形態において、単一の板材からなるものを例示しているが、この他にも、図17に示すように、複数の板材とボルトやナット等を組み合わせることにより構成されていてもよい。
【0081】
次に、第9実施形態に係る衝撃吸収構造3について説明する。
【0082】
第9実施形態に係る衝撃吸収構造3は、図18に示すように、衝撃吸収部材33が支持体31としての支柱11に溶接等により接合して取り付けられている。第9実施形態に係る衝撃吸収部材33は、板材の中間部を内側に屈曲させた屈曲部38と、板材の両端部を外側に屈曲させた張出部39とを有する屈曲体として構成されており、その張出部39は、支持体31に当接させて溶接等により接合されている。衝撃吸収部材33のスリット35は、その屈曲部38から両側に向けて延びて形成されている。
【0083】
次に、スリット35の幅狭部37の好ましいスリット幅W2について説明する。
【0084】
上述のように、各実施形態に係る衝撃吸収構造3では、スリット35の幅狭部37のスリット幅W2が狭くなるほど大きい衝撃吸収性能が得られるが、その一方で索状体13が破断する恐れも高くなってしまう。索状体13が破断してしまうと幅狭部37のスリット側面35aと索状体13との摩擦力が十分に得られず、所望の衝撃吸収性能が得られなくなる。このため、衝撃力に対して継続して安定した衝撃吸収性能を発揮させるうえで、スリット35の幅狭部37は、索状体13の直径より小さいスリット幅W2であって、衝撃力が作用したときに索状体13が破断することなく幅狭部37をスリット長手方向P1の所定長さに亘って移動可能となるスリット幅W2に形成されていることが好ましい。ここでいう所定長さは、求められる性能に対して十分な衝撃吸収性能が得られる長さが設定される。この長さと衝撃吸収性能との相関関係は実験等により求めればよい。
【0085】
ここで、スリット35の幅狭部37による衝撃吸収性能に対しては、幅狭部37のスリット幅W2の他にも、幅狭部37での衝撃吸収部材33の板厚、索状体13がワイヤーロープである場合にはそのワイヤーロープの撚り線数、挿通部36から幅狭部37への索状体13の移動経路途中にあるスリット35の形状等が影響している。このため、所望の衝撃吸収性能を安定して得ることを考慮した場合、第1実施形態に係るスリット35の幅狭部37の好ましいスリット幅W2を定量的に導出するのは困難であるが、一応の目安としては、索状体13の直径より小さく、直径の50%以上のスリット幅W2に形成されていることが好ましい。スリット幅W2が50%未満であると、索状体13が幅狭部37内をスリット長手方向P1に摺動するときに、幅狭部37の途中で索状体13が破断してしまう恐れが高く、所望の衝撃吸収性能を安定して得られないためである。また、幅狭部37のスリット幅W2は、第1実施形態〜第5実施形態のような形態の場合、索状体13の直径の70%以上に形成されていればより好ましく、第6実施形態〜第9実施形態のような形態の場合、索状体13の直径の60%以上に形成されていればより好ましい。これにより所望の衝撃吸収性能を更に安定して得ることが可能となる。
【0086】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明したが、前述した実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【0087】
例えば、本発明に係る衝撃吸収構造3が用いられる防護柵1は、図19、図20に示すように、索状体13が隣り合う支柱11に螺旋状に巻き掛けられるような構造とされていてもよい。索状体13は、図示の例において、隣り合う支柱11間において交差するように巻き掛けられており、支柱11に取り付けられた位置保持部材72を通して支柱11に対して位置保持されている。
【実施例1】
【0088】
実施例1においては、第1実施形態〜第5実施形態に係る衝撃吸収部材33のスリット35の幅狭部37について、スリット幅W2の衝撃吸収性能に対する影響を確認するために以下に説明するような実験を行なった。
【0089】
本実験では、図21に示すように、500kN万能試験機の上部クロスヘッドのチャック81に対して、第1実施形態において説明したような衝撃吸収部材33を取り付けた。衝撃吸収部材33としては、SS400を用いた。
【0090】
また、衝撃吸収部材33のスリット35の挿通部36には、索状体13を挿通させた状態で固定した。索状体13としては、7本線3撚り、直径14mm、全長625mmの鋼製ワイヤーロープを用いることとし、その両側に予めロック加工により環状のアイ部13aを設けたものを用いた。索状体13は、下部クロスヘッド82に取り付けられた二枚一組の板材83間にアイ部13aを配置し、一組の板材83とアイ部13aとに挿通されるボルト84により下部クロスヘッド82に固定した。このとき、左右二組の板材83の一方を左右方向に移動させておき、索状体13に初期張力5kNを負荷させておいた。
【0091】
そして、上部クロスヘッドを下方に駆動させるようにして、そのときのスリット35の幅狭部37のスリット長手方向一端からの変位量に対する載荷荷重を測定することとした。
【0092】
図22は、実施例1の実験条件により得られた荷重―変位量の関係を示すグラフである。
【0093】
このように、スリット35の幅狭部37のスリット幅W2がワイヤーロープの直径の60%、50%である場合、ワイヤーロープのより線が途中で破断してしまい、その後にワイヤーロープと幅狭部37のスリット側面35aとの間で摩擦が生じることなくワイヤーロープがスリット底面35bまで移動した。これは、スリット幅が50%、60%のときには摩擦による衝撃吸収能力が安定して発揮し難いことを意味している。
【0094】
これに対して、スリット35の幅狭部37のスリット幅W2がワイヤーロープの直径の70%、80%、90%である場合、ワイヤーロープのより線が破断することなくワイヤーロープがスリット長手方向の途中位置まで移動した。何れのスリット幅W2の場合も、ほぼ一定の荷重載荷時にワイヤーロープがスリット側面35aに対して摺動しており、スリット幅が70%のときは13kN前後の荷重載荷時、80%のときは9kN前後の荷重載荷時、90%のときは4kN前後の荷重載荷時にワイヤーロープの摺動が発生している。これは、スリット幅が70%〜90%のときには摩擦による衝撃吸収能力を安定して発揮可能であることを意味している。
【実施例2】
【0095】
実施例2においては、第6実施形態〜第9実施形態に係る衝撃吸収部材33のスリット35の幅狭部37について、スリット幅W2の衝撃吸収性能に対する影響を確認するために以下に説明するような実験を行った。
【0096】
本実験では、図23に示すような形態の衝撃吸収部材33に索状体13を巻き付けることとした。衝撃吸収部材33としては、SS400を用い、図示の寸法のものを用いた。
【0097】
索状体13としては、24本線6撚り、直径14mmの鋼製ワイヤーロープを用いることとした。索状体13は、その一端を固定した状態で、その他端を油圧シリンダにより引っ張ることとした。実験においては、索状体13を引っ張ったときの変位量に対する荷重を測定することとした。
【0098】
図24は、実施例2の実験条件により得られた荷重−変位量の関係を示すグラフである。
【0099】
スリット35の幅狭部37のスリット幅W2がワイヤーロープの直径の60%、80%である場合、ワイヤーロープのより線が破断することなくワイヤーロープがスリット長手方向の途中位置まで移動した。スリット幅Wが60%のときは10〜15kN前後の荷重によるワイヤーロープの引っ張り時、スリット幅Wが80%のときは4kNの荷重によるワイヤーロープの引っ張り時にワイヤーロープの摺動が発生している。これは、スリット幅Wが60%〜80%のときに摩擦による衝撃吸収能力を安定して発揮可能であることを意味している。
【0100】
なお、上述の実施例1、2は、あくまで図示の形態の場合における効果の一例を示すものであり、これに発明内容が限定されるものではない。
【符号の説明】
【0101】
1 :防護柵
3 :衝撃吸収構造
11 :支柱
13 :索状体
14 :ループ部
15 :網体
16 :カシメ金具
31 :支持体
32 :固定板
33 :衝撃吸収部材
35 :スリット
36 :挿通部
37 :幅狭部
40 :索状体固定部
41 :位置保持部材
61 :補剛部材
65 :固定部材
67 :スリット幅保持部材
71 :挿通溝
73 :拘束部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体間に架設された索状体に衝撃力が作用したときにその衝撃力を吸収するための衝撃吸収構造であって、
スリットが形成された衝撃吸収部材を備え、
前記スリットは、前記索状体が挿通された挿通部と、前記衝撃力が作用したときに前記索状体が前記挿通部から移動可能となる方向に延びた幅狭部とを有し、
前記幅狭部は、前記索状体の直径より小さいスリット幅に形成されていること
を特徴とする索状体の衝撃吸収構造。
【請求項2】
前記衝撃吸収部材は、前記支持体の正面又は背面に取り付けられ、
前記幅狭部は、前記支持体の前後方向に延びて形成されていること
を特徴とする請求項1記載の索状体の衝撃吸収構造。
【請求項3】
前記スリットは、前記衝撃力が作用したときに前記索状体が前記挿通部から移動可能となる方向の前側において設けられたスリット底面を更に有すること
を特徴とする請求項1又は2記載の索状体の衝撃吸収構造。
【請求項4】
前記索状体を軸方向にスライド可能な状態で位置保持する位置保持部材を、前記衝撃吸収部材の側方に備え、
前記位置保持部材は、前記衝撃力が作用したときに前記索状体が前記挿通部から移動可能となる方向の前側において当該索状体を位置保持していること
を特徴とする請求項1〜3の何れか1項記載の索状体の衝撃吸収構造。
【請求項5】
支持体間に架設された索状体に衝撃力が作用したときにその衝撃力を吸収するための衝撃吸収構造であって、
前記索状体の一部を輪状にしてなるループ部が巻き付けられた衝撃吸収部材と、
前記索状体のループ部が巻き付けられた部位に沿って前記衝撃吸収部材に形成されたスリットとを備え、
前記スリットは、前記索状体の直径より小さいスリット幅に形成された幅狭部を有すること
を特徴とする索状体の衝撃吸収構造。
【請求項6】
前記スリットは、前記幅狭部のスリット長手方向両側に形成された挿通部を更に有し、
前記索状体は、前記ループ部の中間部が前記スリットの幅狭部に巻き付けられるとともに、前記ループ部の両端部が前記挿通部を挿通されていること
を特徴とする請求項5記載の索状体の衝撃吸収構造。
【請求項7】
前記衝撃吸収部材は、筒状体から構成されており、
前記スリットは、前記衝撃吸収部材の周方向の全部に亘る範囲に形成されていること
を特徴とする請求項5又は6記載の索状体の衝撃吸収構造。
【請求項8】
前記衝撃吸収部材は、前記支持体に取り付けられていること
を特徴とする請求項5〜7の何れか1項記載の索状体の衝撃吸収構造。
【請求項9】
前記幅狭部は、前記索状体の直径より小さいスリット幅であって、前記衝撃力が作用したときに前記索状体が破断することなく当該幅狭部をスリット長手方向の所定長さに亘って移動可能となるスリット幅に形成されていること
を特徴とする請求項1〜8の何れか1項記載の索状体の衝撃吸収構造。
【請求項10】
前記スリットを間に挟んだ前記衝撃吸収部材の上部と下部とに亘って取り付けられたスリット幅保持部材を更に備えること
を特徴とする請求項1〜9の何れか1項記載の索状体の衝撃吸収構造。
【請求項11】
横方向に間隔を空けて立設された複数の支柱から構成された支持体と、
複数の支持体間に架設された索状体とを備え、
前記索状体は、請求項1〜10の何れか1項記載の索状体の衝撃吸収構造が用いられていること
を特徴とする防護柵。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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