説明

紫外線照射装置

【課題】 作業環境内への不活性ガスの漏洩を極力抑制し、安全性の高い紫外線照射装置を提供するる。
【解決手段】 空気より重い不活性ガスを入れるための容器3を備え、この容器3内に被照射物5を入れて紫外線照射を行う紫外線照射装置1である。
容器3には、底壁部7と、この底壁部7から立設された筒状の内側壁部9と、この内側壁部9を外側から囲む筒状の外側壁部11が備えられている。内側壁部9は、その上端よりも所定位置下がった位置に開口15が形成され、内側壁部9と外側壁部11との間の外側空間31には排気手段としての排気ブロア29が接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる紫外線硬化型インキ、紫外線硬化型塗料、紫外線硬化型樹脂(以下「紫外線硬化型樹脂等」という)は、溶剤の揮発を必要としないこと、硬化に必要な時間とエネルギが極めて少ないこと等により、幅広い分野で好んで使用される傾向にある。これらの紫外線硬化型樹脂等は、そのほとんどが光開始剤によるラジカル重合反応を利用しており、このラジカルは酸素と反応して消失し、重合しなくなる。このため、紫外線照射による硬化反応を不活性ガス雰囲気中で行う必要があり(例えば特許文献1参照)、例えば硬化反応に使用される紫外線照射装置100として図5に示されるものが使用される。このものは、上面を開口した容器103と、この容器103に付設された紫外線ランプ105とからなり、容器103内にドライアイス107を入れて不活性ガス(二酸化炭素)109を充填した状態で、被照射物111に紫外線照射を行う。
【特許文献1】特開平9−25140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この紫外線照射装置100では、ドライアイス107の量を調整することによって、容器103の上面から不活性ガス109がオーバーフローしないようにするが、万一、図5に示すようにオーバーフローした場合には、作業環境内に二酸化炭素が漏れ出すことなり安全上好ましくない。特に、不活性ガスは無色であるため、作業環境内にオーバーフローしていることを目視で確認することができないため、作業環境内に極力漏れ出さないように配慮しなければならない。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、作業環境内への不活性ガスの漏洩を極力抑制し、安全性の高い紫外線照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、空気より重い不活性ガスを入れるための容器を備え、この容器内に被照射物を入れて紫外線照射を行う装置において、前記容器には、底壁部と、この底壁部から立設された筒状の内側壁部と、この内側壁部を外側から囲む筒状の外側壁部が備えられるとともに、前記内側壁部には、その上端よりも所定位置下がった位置に開口が設けられ、前記内側壁部と前記外側壁部との間の空間には排気手段が接続されていることを特徴とする紫外線照射装置である。
【0005】
請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記開口の下縁付近には、前記内側壁部から内側へ突出した鍔状の板部材が設けられていることを特徴とする。
【0006】
請求項3の発明は、空気より重い不活性ガスを入れるための容器を備え、この容器内に被照射物を入れて紫外線照射を行う装置において、前記容器には、底壁部と、この底壁部から立設された筒状の内側壁部と、この内側壁部を外側から囲み、かつ前記内側壁部の上端より上方位置まで延びた筒状の外側壁部が備えられており、前記内側壁と前記外側壁との間の空間には排気手段が接続されていることを特徴とする紫外線照射装置である。
【発明の効果】
【0007】
<請求項1の発明>
本請求項の構成の発明によれば、以下に示す作用効果を奏する。すなわち、底壁部と内側壁部に囲まれた空間内の不活性ガス量が増えてくると、不活性ガスのガス面が上昇する。そして、ガス面が内側壁部の開口まで到達すると、不活性ガスは開口から内側壁部と外側壁部との間の空間にオーバーフローして流れ込む。そして、この不活性ガスは、排気手段により、作業環境外へ排気される。よって、不活性ガスの作業環境への漏れを抑制することができる。
【0008】
<請求項2の発明>
図3(A)に示されるように内側壁部9に、開口15を設けた構造では、不活性ガス2のうち一部は、矢印で示すように内側壁部9に沿って、上方へ移動して開口15から排気される。この不活性ガス2の上方移動(図中、上向き矢印)により不活性ガス2のガス面2Aが乱れて、不活性ガス2の層と空気の層49が混合しやすくなり、容器内の不活性ガス雰囲気が乱されるおそれがある。本請求項の発明の構成によれば、開口15の下縁付近には、内側壁部9から内側へ突出した鍔状の板部材21が設けられているから、図3(B)に示されるように、内側壁部9に沿って上方へ移動する不活性ガス2の移動を抑制することができ、不活性ガス2の層と空気の層49との混合を抑制することができる。
【0009】
<請求項3の発明>
本請求項の構成の発明によれば、以下に示す作用効果を奏する。すなわち、底壁部と内側壁部に囲まれた空間内の不活性ガス量が増えてくると、不活性ガスのガス面が上昇する。そして、ガス面が内側壁部の上端を超えると、不活性ガスは内側壁部と外側壁部との間の空間に流れ込む。そして、この不活性ガスは、排気手段により、作業環境外へ排気される。よって、不活性ガスの作業環境への漏れ出しを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<第1実施形態>
本発明の一実施形態を図1ないし図3を参照しつつ説明する。
本実施形態の紫外線照射装置1は、空気より重い不活性ガス2を入れるための容器3を備え、この容器3内に被照射物5を入れて紫外線照射を行うものである。容器3は、全体として上面を開放した有底の二重管構造をなし、円板状の底壁部7と、底壁部7の周縁より所定距離内側から上方に気密的に立設された円筒状の内側壁部9と、底壁部7の周縁から上方に気密的に立設されて内側壁部9を外側から囲む外側壁部11とを備えてなる。この容器3は、底壁部7を下にした状態で設置される。なお、内側壁部9と外側壁部11の上端位置はほぼ同一高さとされている。
【0011】
内側壁部9の内径L1は、300mm程度とされており、外側壁部11の内径L2は400mm程度とされている。なお、内側壁部9及び底壁部7により囲まれた内側空間13内には、被照射物5がつり下げられるようにして入れられる。
【0012】
内側壁部9には、上端から200mm程度、下方位置に矩形状の複数の開口15が略同一高さ位置にて周設されている(図2中、L3が200mmとされている)。各開口15は同一間隔にて周設されており、内側壁部9の全周からほぼ均等に不活性ガス2が排気されるようにされている。
各開口15には、開口15と略同一サイズの開口率調整板17が備えられている。この開口率調整板17は、開口15の両側に取り付けられた一対のL字状のガイド部19によってガイドされつつ、上下にスライド移動可能に設けられている。この開口率調整板17を上下にスライド移動させて開口15の開口率を変化させることで、不活性ガス2の排気量が調整可能とされている。また、開口15の下縁付近には、内側壁部9から内側へ例えば50mm程度突出した鍔状の板部材21が設けられている。
【0013】
外側壁部11の開口15よりも下方位置には紫外線ランプ23が取り付けられており、紫外線ランプ23の前方に位置する外側壁部11及び内側壁部9は、部分的に石英等の透明材料によって形成され、紫外線ランプ23から放射される紫外線が内側空間13の被照射物5に照射されるようにされている。なお、透明材料によって形成された部分は、照射窓部9A,11Aとされている。
【0014】
外側壁部11の底壁部7付近には、ガス排気口25が設けられ、ここに排気管27が気密的に取り付けられている。排気管27の途中には排気手段としての排気ブロア29が備えられ、この排気ブロア29が作動すると内側壁部9と外側壁部11との間の外側空間31内のガスが、屋外に排気されるようにされている。なお、外側空間31の上端部は、開口している(符号31Aは開口部を示している)。
【0015】
底壁部7の内側壁部9が立設した位置よりも内側位置には、貫通孔が形成され、この貫通孔にガス導入管33が気密状態で挿入されている。ガス導入管33により、ガスボンベ等の不活性ガス供給源35からの所定の不活性ガス(例えば、アルゴン、二酸化炭素あるいはそれらの混合)を、内側壁部9で囲まれた内側空間13内に供給する。なお、ガス導入管33の途中には、ガス流量を測定するための流量計37、ガスを送り出すためのポンプ39、ガス流量を調整するためのバルブ41が設けられている。
【0016】
外側空間31の上方位置には、酸素濃度を検出するためのガス濃度センサー43が取り付けられている。ガス濃度センサー43と排気ブロア29は、制御手段45に接続され、制御手段45はガス濃度センサー43の検出値に応じて、排気手段としての排気ブロア29の回転数を調節する(なお、制御手段45には、インバータが内蔵されており、排気ブロア29のモータをインバータ制御する)。具体的には、予め、ガス濃度センサー43の検出値に対して、排気ブロア29等の回転数が対応させられているテーブルを制御手段45のメモリ上に電子的に格納する。
制御手段45に格納された制御プログラムは、ガス濃度センサー43の検出値を用いて上記テーブルを参照し、排気ブロア29等の回転数を決定し、この回転数となるように排気ブロア29を制御する。
なお、上記テーブルは、ガス濃度センサー43の検出値と、その検出値における最適な回転数を実験的に決定したものであり、例えば、酸素濃度が低くなる(言い換えれば不活性ガス濃度が高くなる)につれて、回転数が上昇するようにされている。このように酸素濃度に応じて回転数を制御すると、ガス供給量がガス排気量を上回って不活性ガス2が容器3から漏れ出した場合(酸素濃度が低下した場合)に、回転数を上げて排気量を増加させ、不活性ガス2の漏れを最小限に食い止めることができる。
【0017】
以上のように、本実施形態の紫外線照射装置1は構成されており、この構成により、以下に示す作用効果を奏する。すなわち、底壁部7と内側壁部9に囲まれた内側空間13内の不活性ガス2量が増えてくると、不活性ガス2のガス面2Aが上昇する。そして、ガス面2Aが内側壁部9の開口15まで到達すると、不活性ガス2は開口15から外側空間31にオーバーフローして流れ込む。そして、排気ブロア29により、外側空間31内には、その上端の開口部31Aから下方に向かう気流が生じ、この気流に乗って、不活性ガス2は作業環境外へ排気される。よって、不活性ガス2の作業環境への漏れを抑制することができる。また、開口15の下縁付近には、内側壁部9から内側へ突出した鍔状の板部材21が設けられているから、図3(B)に示されるように、内側壁部9に沿って上方へ移動する不活性ガス2の移動を抑制することができ、不活性ガス2の層と空気層49との混合を抑制することができる。
また、本実施形態の構成によれば、開口15は内側壁の上端から200mm程度、下方位置に設けられているから、上端から200mm以内には不活性ガス2はほとんど存在しない。よって、作業者が内側空間13に顔を入れたとしても、不活性ガス2をほとんど吸い込むことが無くなり安全性が向上する。
【0018】
<第2実施形態>
次に本発明の第2実施形態について図4を参照しつつ説明する。なお、第1実施形態と同じ構成については、同一の符号を付し、構造、作用及び効果の説明は省略する。
第2実施形態では、内側壁部9の上端と外側壁部11の上端の高さの位置関係が第1実施形態と異なる。
すなわち、図4に示されるように容器3の外側壁部11は、内側壁部9の上端より上方まで延設されている。
本実施形態の構成によれば、内側空間13内の不活性ガス量が増えてくると、不活性ガス2のガス面2Aが上昇する。そして、ガス面2Aが内側壁部9の上端を超えると、不活性ガス2はオーバーフローして内側壁部9と外側壁部11との間の外側空間31に流れ込む。そして、この不活性ガス2は、排気ブロア29により、作業環境外へ排気される。よって、不活性ガス2が容器3から作業環境に漏れ出すことを防止できる。
【0019】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
(1)上記実施形態では、内側壁部9で囲まれた内側空間13内に、被照射物5がつり下げられるようにして保持されているが、被照射物5の内側空間13内での保持方法は特に限定されない。例えば、内側空間13内に設けた台の上に載置してもよい。
(2)上記実施形態では、酸素濃度を検出するガス濃度センサー43を用いて、容器3の上端付近の酸素濃度を測定し、検出値に応じて排気ブロア29の回転数を制御するものとしたが、不活性ガス濃度を検出するガス濃度センサー43を用いてもよい。この場合には、例えば、ガス濃度センサー43の検出値が大きくなると、それに伴って回転数が上昇するテーブルを用いる。また、ガス濃度センサー43を設けない構成であってもよいことはもちろんである。
(3)上記実施形態では、ガス濃度センサー43の検出値に応じて排気ブロア29回転数を制御して排気量を変化させるものとしたが、排気管27の途中に電動バルブを設け、この開度を調整して排気量を変化させてもよい。
(4)上記実施形態では、排気手段として排気ブロア29を用いたが、排気手段は、これに限られず周知のものを用いることができる。
(5)上記実施形態では、円筒状の内側壁部9及び外側壁部11としたが、内側壁部9及び外側壁部11は、角筒状であってもよい。
(6)上記実施形態では、内側壁部9の内径L1、及び外側壁部11の内径L2を特定の寸法としたが、これらの寸法は特に限定されない。
(7)上記第1実施形態では、開口15の位置を内側壁部9の上端から200mm程度、下方位置としたが、開口15の位置は特に限定されない。但し、開口15の位置を内側壁部9の上端から200mm以上400mm以下とすることが好ましい。200mm以上とすることによって、内側空間13内に作業者が顔を入れたとしても、不活性ガスをほとんど吸い込むことが無くなり安全性が向上する。その反面、400mmよりも大きくすると、容器3が大型化し好ましくないからである。
(8)上記第1実施形態では、内側壁部9の上端と外側壁部11の上端は、同一高さとしたが、両者の高さが異なっていてもよい。例えば、外側壁部11の上端が内側壁部9の上端よりも低くても、外側壁部11の上端が開口15よりも高ければ構わない。
(9)なお、上記実施形態では、開口率調整板17は、周知のロック手段により、ガイド部19の任意の位置において保持されるようにされている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】紫外線照射装置の概略斜視図
【図2】紫外線照射装置の概略断面図
【図3】容器の概略断面図
【図4】第2実施形態の紫外線照射装置の概略断面図
【図5】従来例の紫外線照射装置の概略斜視図
【符号の説明】
【0021】
1…紫外線照射装置
2…不活性ガス
3…容器
5…被照射物
7…底壁部
9…内側壁部
11…外側壁部
13…内側空間
15…開口
21…板部材
23…紫外線ランプ
25…ガス排気口
27…排気管
29…排気ブロア(排気手段)
31…外側空間
33…ガス導入管
35…不活性ガス供給源
43…ガス濃度センサー
45…制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気より重い不活性ガスを入れるための容器を備え、この容器内に被照射物を入れて紫外線照射を行う装置において、
前記容器には、底壁部と、この底壁部から立設された筒状の内側壁部と、この内側壁部を外側から囲む筒状の外側壁部が備えられるとともに、前記内側壁部には、その上端よりも所定位置下がった位置に開口が設けられ、
前記内側壁部と前記外側壁部との間の空間には排気手段が接続されていることを特徴とする紫外線照射装置。
【請求項2】
前記開口の下縁付近には、前記内側壁部から内側へ突出した鍔状の板部材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の紫外線照射装置。
【請求項3】
空気より重い不活性ガスを入れるための容器を備え、この容器内に被照射物を入れて紫外線照射を行う装置において、
前記容器には、底壁部と、この底壁部から立設された筒状の内側壁部と、この内側壁部を外側から囲み、かつ前記内側壁部の上端より上方位置まで延びた筒状の外側壁部が備えられており、
前記内側壁と前記外側壁との間の空間には排気手段が接続されていることを特徴とする紫外線照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−760(P2006−760A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−180087(P2004−180087)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000004282)日本電池株式会社 (48)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】