説明

細胞カップリングモジュール、細胞カップリング装置及び細胞カップリング方法

【課題】 マイクロ流路内での細胞カップリングを簡便かつ迅速に行うことができる細胞カップリングモジュール、その装置及び方法を提供する。
【解決手段】
細胞捕捉流路16に搬送媒体とともに卵子13及びドナー細胞15を搬送する第1の導入流路12と、細胞捕捉流路16内に搬送媒体を供給する媒体供給路18と、細胞捕捉流路16に交流電界を生じさせるための電極対19と、細胞捕捉流路16に設けられた誘電体31、32の間隙からなり交流電界の作用により生成する電界勾配により卵子13を捕捉するための捕捉ギャップ33とを設け、捕捉ギャップ33の裏面側には、搬送媒体を排出して卵子13を捕捉ギャップ33から解放するための排出用流路17を設ける。卵子13の捕捉ギャップの位置rxまでの誘導は、コントローラ24によるPID制御と、細胞捕捉流路16の幅方向yにおける位置を考慮した制御、及び卵子13の大きさを考慮した制御により行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞カップリングモジュール、細胞カップリング装置及び細胞カップリング方法に関し、更に詳細には、クローン胚の作出、細胞融合などに際して、適確かつ迅速に細胞同士をカップリングさせることができる細胞カップリングモジュール、細胞カップリング装置及び細胞カップリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生化学の分野を中心に微小流路をガラス基板やプラスチック基板に形成し、その微小閉空間内で化学反応を起こすマイクロ(化学)チップが開発されている。特にDNAのPCR(ポリメラーゼ連鎖反応:Polymerase Chain Reaction)法の応用として、従来技術と比較し数倍〜十数倍の高速分離検出を可能とした多くの製品開発がされている(例えば、非特許文献1参照。)。現在その応用先は生化学反応を中心とした分野であり、細胞の分離や加工などの操作における細胞単体の個別搬送、個別加工などの技術は確立されていない。
【0003】
ところで、クローン技術の確立は今後の医療・化学産業を革新的に変化させると期待される技術である。ファンクショナルジェノミクスの分野では、遺伝子の影響を調べるために特定の遺伝子を持ったマウス(KOマウス)を作成し、様々な創薬や治療の研究に使われている。KOマウスの作成方法では、主として、ES細胞からキメラマウスを作り、その子孫からKOマウスを作成する方法が採られているが、安定したクローン技術により、ES細胞から直接クローン技術でKOマウスを作る方法や、体細胞で遺伝子をノックアウトしてクローンマウスを作る方法が有用となってくる。特に、ES細胞が樹立されていない動物種やマウスの系統では、体細胞からのクローン体の作成は非常に有効である。一方、現状のクローニングにおける核移植作業は、移植工程中に多くの手作業が含まれており(例えば、非特許文献2参照。)、研究の効率化、妥当な評価の障害になっている。例えば、移植後の卵細胞に対し、添加薬品の効果を比較する場合、手作業による卵子の損傷のばらつきが大きいと、薬品の効果を正確に評価することができない。
【0004】
このように自動化による研究の省力化と実験条件の安定化はファンクショナルジェノミクスの技術発展に必要不可欠であり、また、今後の産業化を考慮する上でも作業の自動化は重要であることに鑑み、種々の検討が行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2006−325429号公報
【非特許文献1】ANDREW J. DEMELLO, “Microfluidics: DNA amplification moves on”, Nature 422, 28-29 (06 March 2003); doi:10.1038/422028a.
【非特許文献2】T. WAKAYAMA, A. C. F. PERRY, M. ZUCCOTTI, K. R. JOHNSON, R. YANAGIMACHI, “Full-term development of mice from enucleated oocytes injected with cumulus cell nuclei”, Nature 394, 369-374 (23 July 1998); doi:10.1038/28615.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の実情から、特願2008−309806号に記載されているように、マイクロ流路内で電極間の細胞径より小さいギャップを設け、交流電界により生じる誘電泳動力により細胞を誘導し、保持し、カップリングさせる装置が開発されている。しかしながら、この装置では、以下のような問題がある、即ち、細胞等の微粒子に働く誘電泳動力は(電界強度)2の勾配に比例するため、捕捉ギャップからの距離の増大に伴って著しく小さくなる。また、誘電泳動力は(粒子半径)3に比例するため、小さな細胞に対して働く力は弱くなり、上記とあいまって細胞を捕捉可能な領域はギャップのごく近傍に限られることになる。更に、マイクロ流路を搬送される細胞の大きさが異なると、搬送に要する時間や誘電泳動力も区々となるため、細胞の大きさに適した流速での細胞の搬送が行われず、細胞のカップリングに要する時間も区々となるという問題がある。また、電極間のギャップに生じる交流電界が細胞に与えるダメージも区々であり、場合によっては細胞に致命傷を与えてしまう場合もある。
【0006】
従って、本発明の目的は、マイクロ流路内での細胞カップリングを適確かつ迅速に行うことができる細胞カップリングモジュール、細胞カップリング装置及び細胞カップリング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の細胞カップリングモジュールは、マイクロ流路内の搬送媒体中を順次搬送される複数の細胞を捕捉してカップリングさせるための細胞捕捉流路を有する細胞カップリングモジュールであって、前記細胞捕捉流路における上流側から搬送媒体を供給して前記細胞を搬送するための媒体供給路と、前記細胞捕捉流路に設けられた誘電体の間隙からなり、交流電界の作用により生成する電界勾配により前記細胞を捕捉するための捕捉ギャップと、前記細胞捕捉流路における前記捕捉ギャップの近傍に前記交流電界を生じさせるための電極対と、前記捕捉ギャップから前記搬送媒体を排出してカップリング後の前記細胞を前記捕捉ギャップから解放するための排出用流路とを備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明の細胞カップリングモジュールにおいては、細胞捕捉流路内の細胞の搬送媒体中に電極対を用いて交流電界を生じさせ、その交流電界中には誘電体の間隙からなる捕捉ギャップが設けられている。細胞捕捉流路内を搬送される細胞は、この捕捉ギャップ近傍で停止し、続いて電極対によって生じる交流電界の作用により、細胞は捕捉ギャップの方向に移動して捕捉ギャップに捕捉されることになる。捕捉ギャップに細胞が捕捉されると、捕捉ギャップにおける電界勾配は変化し、捕捉された細胞の表面を頂点とする電場勾配が新たに生じることとなる。そして、捕捉された細胞に他の細胞が接近すれば、その細胞にも上記新たな電場勾配により誘電泳動力が作用し、先に捕捉されている細胞に付着することとなる。このようにして、細胞のカップリングが成立する。カップリング後の細胞は、捕捉ギャップから細胞捕捉流路に向けて排出される排出用流路からの搬送媒体により、細胞捕捉流路に解放される。
【0009】
また、本発明の細胞カップリングモジュールは、前記細胞捕捉流路の上流側に、前記搬送媒体とともに前記複数の細胞のうちの一つを前記細胞捕捉流路まで搬送する第1の導入流路を更に備え、前記細胞の前記細胞捕捉流路への搬送に際して、前記第1の導入流路から供給される搬送媒体と、前記媒体供給路から供給される搬送媒体とにより、前記細胞捕捉流路内に二層流が形成されるように構成してもよい。
【0010】
上記のように、捕捉ギャップには交流電界の集中による電場勾配が生じ、その近傍の細胞は、その電場勾配の方向に誘電泳動力を受けて捕捉ギャップに捕捉されることになる。ここで、誘電泳動力は(電場)2の勾配に比例するため、捕捉ギャップからの距離の増大に伴って著しく小さくなる。そのため、細胞捕捉流路の幅が広く細胞が捕捉ギャップから遠い場所にある場合には、十分な大きさの誘電泳動力が細胞に作用せず、細胞を捕捉できない可能性がある。このような場合、捕捉ギャップからの距離に応じて電極対間の印加電圧を高くする必要があるが、強い電場による細胞損傷の虞があり、また、誘電泳動力以外の力又は流れが発生したり、機器の高出力化による影響が懸念される。本発明では、この点に鑑み、細胞が捕捉ギャップ近傍を通過するように、細胞捕捉流路内に二層流を生じさせて細胞を捕捉ギャップに近づけるための媒体供給路が細胞捕捉流路の上流側に設けられている。
【0011】
また、本発明の細胞カップリングモジュールは、前記搬送媒体とともに前記複数の細胞のうちの他の一つを前記細胞捕捉流路まで搬送する第2の導入流路を更に備えていてもよい。
【0012】
上記発明は、前記複数の細胞の一つが卵子であり、前記複数の細胞の他の一つがドナー細胞である場合に好適に使用される。
【0013】
本発明の細胞カップリング装置は、上記の細胞カップリングモジュールと、前記媒体供給路に前記搬送媒体を送出する媒体送出ポンプと、前記排出用流路に前記搬送媒体を送出する排出用ポンプと、前記細胞捕捉流路における画像を撮像する画像センサと、前記細胞捕捉流路の流れ方向xにおける前記捕捉ギャップの位置をrxとし、媒体送出ポンプからの前記搬送媒体の送出量を調整することにより、該捕捉ギャップの位置rxと前記画像センサで撮像された画像から求められる細胞の位置xとの偏差Δx(=x−rx)を用いた位置決め制御により前記細胞を前記捕捉ギャップの位置rxに停止させるコントローラとを備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明では、細胞捕捉流路内での細胞の位置は画像センサで撮像された画像から求められ、その位置に基づく位置決め制御により、細胞の細胞捕捉流路内での搬送が制御されている。具体的には、細胞捕捉流路の流れ方向xにおける前記捕捉ギャップの位置をrxとし、該捕捉ギャップの位置rxと前記画像センサで撮像された画像から求められる細胞の位置xとの偏差Δx(=x−rx)が細胞の流れ方向xにおける位置の制御に使用されて、前記媒体供給路からの搬送媒体の供給量が調節される。
【0015】
また、上記において、前記コントローラは、前記画像センサで撮像された画像から求められる前記細胞捕捉流路の幅方向yにおける前記細胞の位置と、前記細胞捕捉流路の幅方向yにおける前記搬送媒体の流速分布とに基づいて、前記幅方向yにおける前記細胞の位置に基づく第1の比例ゲインを求めるとともに、前記細胞の断面積に基づく第2の比例ゲインを求め、該第1の比例ゲイン及び該第2の比例ゲインにより前記位置決め制御の演算の出力を調整し、該調整後の出力により前記媒体送出ポンプの前記搬送媒体の送出量を調節して、前記細胞を前記捕捉ギャップの位置rxに停止させることを特徴とする。
【0016】
本発明では、位置決め制御の出力に対して更に以下のような補正が加えられる。即ち、細胞捕捉流路内には、図5に示すように、流速分布が存在し、細胞捕捉流路の中央では流速が大きく、壁面に近づくほど小さくなっているので、細胞が幅方向yのどの位置を流動するかによって、同じポンプ流量に対する細胞の移動速度が異なることになる。本発明ではこの幅方向yの位置に依存する影響を打ち消すための比例ゲインを、以下の考えに基づいて生成している。即ち、細胞捕捉流路の幅方向の位置yに細胞が位置しているとすると、微小流路内で搬送媒体は層流をなしていることから、流速分布V(y)として以下のモデルが考えられる。
【0017】
【数1】

【0018】
ここで、y0は細胞捕捉流路の中央、aは細胞捕捉流路の幅の2分の1の寸法、Cは定数である。上式の影響を打ち消すため、ゲインKy(y)は以下のように設定することができる。
【0019】
【数2】

【0020】
ここで、b及びcは定数である。ただし、発散しないようにするため、定数b>y02とする。
【0021】
また、本発明では、搬送される細胞の大きさにより、細胞が受ける力が異なることを考慮し、以下のようにして、細胞の大きさを考慮した比例ゲインも求められる。即ち、搬送媒体の流れから細胞が受ける加速度x''は、質量mと流れから受ける力Fにより決まる。ここで、細胞の質量mは体積に比例するので、細胞の半径をrとすると、m∝r3である。また、搬送媒体の流れから受ける力Fは断面積に比例するので、F∝r2である。画像センサで検知した細胞の面積をAとすると、A∝r2である。よって、細胞が流体中で浮遊していると仮定すると、加速度x”∝A-1/2である。よって、この影響を打ち消すため、ゲインKA(A)を以下のように設定することができる。
【0022】
【数3】

【0023】
これらの比例ゲインKy(y)、KA(A)を、上述の位置決め制御の演算の出力に乗算することにより、媒体供給路からの搬送媒体の供給量を調節するための出力が得られる。そして、このような制御により、細胞は最終的に細胞捕捉流路の流れ方向xにおける前記捕捉ギャップの幅方向の中心線、即ち捕捉ギャップの位置rxに停止することになる。これにより、迅速に細胞を捕捉ギャップの位置rxまで移動させることができる。
【0024】
本発明の細胞カップリング装置では、前記コントローラは、前記電極対に交流を印加して前記捕捉ギャップの近傍に交流電界を生じさせることにより、前記細胞を前記捕捉ギャップに捕捉するように制御を行うよう構成され得る。
【0025】
また、前記コントローラは、前記細胞が前記捕捉ギャップに捕捉された後、前記電極対により生じる交流電界を弱め、前記細胞捕捉流路に前記搬送媒体を供給して前記複数の細胞の他の一つを前記細胞捕捉流路の流れ方向xにおける捕捉ギャップの位置rxまで搬送した後、更に前記捕捉ギャップの近傍に生じている交流電界を強めることにより、前記複数の細胞の他の一つを前記捕捉ギャップに捕捉されている細胞にカップリングさせるように制御を行うよう構成され得る。
【0026】
更に、前記コントローラは、前記複数の細胞の他の一つが前記捕捉ギャップに捕捉されている細胞に付着した後、前記排出用流路に前記搬送媒体を供給して、前記捕捉ギャップに捕捉されているカップリング後の複数の細胞を前記捕捉ギャップから解放するように制御を行うよう構成され得る。
【0027】
本発明の細胞カップリング装置は、前記複数の細胞の一つが卵子であり、前記複数の細胞の他の一つがドナー細胞である場合に好適に使用され得る。
【0028】
本発明の細胞カップリング方法は、上記の細胞カップリング装置を用いた細胞カップリング方法であって、前記媒体供給路に前記搬送媒体を送出して前記細胞捕捉流路内の前記複数の細胞のうちの第1の細胞を搬送し、前記細胞捕捉流路の流れ方向xにおける前記捕捉ギャップの位置をrxとし、媒体送出ポンプからの前記搬送媒体の送出量を調整することにより、該捕捉ギャップの位置rxと前記画像センサで撮像された画像から求められる細胞の位置xとの偏差Δx(=x−rx)を用いた位置決め制御により前記細胞を前記捕捉ギャップの位置rxに停止させ、前記電極対に交流を印加して前記捕捉ギャップの近傍に交流電界を生じさせることにより、前記細胞を前記捕捉ギャップに捕捉し、前記細胞が前記捕捉ギャップに捕捉された後、前記電極対により生じる交流電界を弱め、前記細胞捕捉流路に前記搬送媒体を供給して前記複数の細胞の他の一つを前記細胞捕捉流路の流れ方向xにおける捕捉ギャップの位置rxまで搬送し、更に前記捕捉ギャップの近傍に生じている交流電界を強めることにより、前記複数の細胞の他の一つを前記捕捉ギャップに捕捉されている細胞にカップリングさせることを特徴とする。
【0029】
本発明の細胞カップリング方法においては、捕捉ギャップの位置rxと画像センサで撮像された画像から求められる細胞の位置xとの偏差Δx(=x−rx)を用いた位置決め制御により、細胞を適確に捕捉ギャップの位置まで移動させることができる。
【0030】
また、上記においては、前記位置決め制御において、前記画像センサで撮像された画像から求められる前記細胞捕捉流路の幅方向yにおける前記細胞の位置と、前記細胞捕捉流路の幅方向yにおける前記搬送媒体の流速分布とに基づいて前記幅方向yにおける前記細胞の位置に基づく第1の比例ゲインを求めるとともに、前記細胞の断面積に基づく第2の比例ゲインを求め、該第1の比例ゲイン及び該第2の比例ゲインにより前記位置決め制御の演算の出力を調整し、該調整後の出力により前記媒体送出ポンプの前記搬送媒体の送出量を調節して、前記細胞を前記捕捉ギャップの位置rxに停止させるように構成され得る。
【0031】
上記の細胞カップリング方法においても、細胞捕捉流路の幅方向yにおける細胞の流動位置と搬送される細胞の断面積に基づいた比例ゲインが求められるので、適確かつ迅速に細胞を捕捉ギャップの位置まで移動させることができる。
【0032】
また、本発明の細胞カップリング方法においては、前記複数の細胞の他の一つが前記捕捉ギャップに捕捉されている細胞に付着した後、前記捕捉ギャップの近傍の交流電界の生成を止め、更に前記排出用流路に前記搬送媒体を供給して、前記捕捉ギャップに捕捉されているカップリング後の複数の細胞を前記捕捉ギャップから解放するように構成し得る。
【0033】
本発明の細胞カップリング方法も、前記複数の細胞の一つが卵子であり、前記複数の細胞の他の一つがドナー細胞である場合に好適に使用され得る。
【発明の効果】
【0034】
本発明の細胞カップリングモジュール、細胞カップリング装置及び細胞カップリング方法を使用すれば、細胞の搬送に際して、通常の位置決め制御に加え、細胞捕捉流路の幅方向yにおける位置を考慮した制御、及び細胞の大きさを考慮した制御が行われるので、細胞の大きさのばらつきや、搬送媒体の流れの状態等に依存することなく、所定の時間内に迅速に細胞を捕捉ギャップの位置rxまで移動させることができる。また、交流電界に置かれた誘電体の間の捕捉ギャップに形成された電場勾配の作用により、細胞を確実に捕捉ギャップに捕捉するとともに、他の細胞を捕捉した細胞にカップリングさせることができるので、細胞を機械的に把持するような機構は不要となり、人手を介することなく細胞融合操作の自動化を容易に図ることができる。更に、捕捉ギャップから搬送媒体を排出する排出用流路を備えているので、容易にカップリング後の細胞を回収することができる。また、前記細胞捕捉流路内に二層流を形成する構成では、捕捉ギャップに形成された交流電界と二層流との相乗作用により、細胞をより適確かつ確実に捕捉ギャップに捕捉することができる。また、細胞を捕捉ギャップに捕捉した後、交流電界の強度が弱められるので、交流電界により受ける細胞の損傷も最小限に抑制することができる。更に、前記捕捉ギャップから前記搬送媒体を排出する排出用流路を備えた構成では、細胞の解放も確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態に係る細胞カップリング装置の概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る細胞カップリングモジュールの詳細平面図である。
【図3】図2におけるA部の拡大平面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る細胞カップリング装置における制御ブロック図である。
【図5】細胞捕捉流路における幅方向の流速分布を表す図である。
【図6】細胞捕捉流路内における捕捉ギャップ近傍に形成される交流電界を解析により求めた平面図である。
【図7】細胞捕捉流路内に卵子が捕捉されている場合における捕捉ギャップ近傍に形成される交流電界を解析により求めた平面図である。
【図8】細胞捕捉流路に導入された細胞が捕捉ギャップの位置rxまで移動する様子を表す平面図である。
【図9】捕捉ギャップの位置rxで停止した細胞が交流電界の作用により捕捉ギャップに誘導される様子を表す平面図である。
【図10】捕捉ギャップに細胞が捕捉された状態を表す平面図である。
【図11】捕捉ギャップに捕捉された卵子にドナー細胞がカップリングされるまでの様子を示す平面図である。
【図12】卵子を捕捉ギャップに捕捉した後、ドナー細胞が卵子にカップリングするまで、細胞捕捉流路の部分を連続撮影した写真画像を表す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。本実施形態では、卵子からクローン胚を作出する際の操作を例として説明する。クローン胚の作出に際しては、卵子の透明帯が除去された後、卵子が二分割され、分割されたうちの無核卵子(核の無い方)にドナー細胞がカップリングされる。ここで、本明細書におけるカップリングとは、例えば電気融合において電圧を印加する前に、融合すべき細胞同士を接着した状態にすることをいう。
【0037】
図1は、本発明の一実施形態に係る細胞カップリング装置の概略構成図である。本実施形態の細胞カップリング装置は、マイクロ流路11を形成したPDMS(ポリジメチルシロキサン)からなる細胞カップリングモジュール10と、ZFM(Zimmerman's fusion medium)などの搬送媒体をマイクロ流路11内に送出する媒体送出ポンプ23、卵子用送液ポンプ20、ドナー用送液ポンプ22、排出用ポンプ25とを備えている。また、本実施形態の装置は、媒体送出ポンプ23卵子用送液ポンプ20、ドナー用送液ポンプ22及び排出用ポンプ25の送液量(速度)を制御するコントローラ24を備え、更にマイクロ流路11内の画像を撮像する画像センサ28と、マイクロ流路11の画像の監視と装置全体の運転状況を表示及び監視するためのモニタ26とを備えている。
【0038】
本実施形態における細胞カップリングモジュール10の詳細を図2に示す。また、細胞のカップリングが行われる図2におけるA部の拡大平面図を図3に示す。図2及び図3に示すように、マイクロ流路11は、無核卵子13を搬送媒体とともに搬送する第1の導入流路12と、第1の導入流路12に続く幅の広くなった細胞捕捉流路16とを有しており、この細胞捕捉流路16は、図2に示すように、相対する電極19a及び電極19bからなる電極対19と、この電極対19に連なる出口16aまでのPDMSとによって形成されている。電極19a及び電極19bからなる電極対19は、細胞捕捉流路16に交流電界を生じさせるために設けられ、電極19a及び電極19bには交流電源装置29が接続されている。また、マイクロ流路11は、電極19bの上流側において細胞捕捉流路16に接続された媒体供給路18と、卵子にカップリングするためのドナー細胞を搬送媒体とともに細胞捕捉流路16まで搬送するドナー搬送流路14と、後述する捕捉ギャップ33に搬送媒体を供給する排出用流路17とを有している。更に、本実施形態では、図2に示すように、第1の導入流路12、ドナー搬送流路14、排出用流路17及び媒体供給路18の端部には、搬送媒体を供給するとともに搬送媒体を供給するためのチューブを接続するための膨らみを持たせたPDMSの空洞からなる接続ポート12a,14a,17a,18aがそれぞれ設けられている。また、細胞捕捉流路16の端部にも、搬送媒体を排出するための出口16aがそれぞれ設けられている。
【0039】
本実施形態の細胞捕捉流路16には、図3に示すように、細胞捕捉流路16の上流側から下流側に延びる突起部31と、方形部42及び弧状部43からなる島状部32とが設けられ、これらの突起部31及び島状部32もPDMSにより形成されている。そして、突起部31と島状部32の方形部42との間隙が、細胞を捕捉するための捕捉ギャップ33である。本実施形態の装置では、卵子13が捕捉ギャップ33の中央の線上(捕捉ギャップの位置rx)まで搬送媒体の流れにより搬送され、その後、電極対19により生成される交流電界により、捕捉ギャップ33に捕捉される。突起部31及び方形部42は細胞捕捉流路16の延設方向、即ち搬送媒体の流れの方向に沿って設けられ、従って捕捉ギャップ33は流れに対して直角の向きに開口するように設けられており、捕捉ギャップ33の裏面側には、前述の排出用流路17が接続されている。
【0040】
本実施形態では、細胞捕捉流路16の最大幅(電極19a及び電極19b間の距離)W1=400μm、電極19bと方形部42との距離W2=260μm、突起部31の先端から電極対19の端部までの距離W3=400μm、捕捉ギャップ33の間隙W4=40μm、弧状部43の半径R=200μm、突起部31の先端部の幅W5=50μmである。この捕捉ギャップ33の間隙W4は、捕捉すべき卵子13の直径より小さく、卵子13の直径の2分の1程度が好ましい。
【0041】
本実施形態におけるマイクロ流路11は、以下のようにして作成される。まず、基板上にリソグラフィー用の光硬化剤(レジスト)の塗膜を形成し、次に、フォトマスクを用いてマイクロ流路11の形状の部分に光照射して硬化させる。更に、未照射の部分を除去することにより、マイクロ流路11の形状の凸状パターンを基板上に形成する。次に、このパターンを覆って基板上にPDMS(ポリジメチルシロキサン)を塗布し、これを硬化させた後に基板から取り外す。このようにしてマイクロ流路11を形成したPDMSをガラス基板上に貼り合わせることにより、マイクロ流路11が形成された細胞カップリングモジュール10が得られる。このようにして作成したマイクロ流路11の断面形状はほぼ矩形であり、その深さは、本実施形態では125μmとなっている。
【0042】
以上の構成を有する装置を用いた細胞カップリング方法について説明する。まず、卵子用送液ポンプ20及び/又はドナー用送液ポンプ22と、媒体送出ポンプ23から搬送媒体を送出し、マイクロ流路11のすべてを搬送媒体で満たす。次に、マイクロピペット、ガラス毛細管などを用いて無核卵子13が接続ポート12aを介して投入される。なお、卵子13及び後述するドナー細胞15は、接着性を高めるために予めPHA(Phytohemagglutinin)で処理してある。次に、第1の導入流路12を介して卵子13を細胞捕捉流路16内に導くために卵子用送液ポンプ20から搬送媒体が送出される。その際、第1の導入流路12への搬送媒体の供給と同時に、媒体供給路18にも搬送媒体が送出される。このように、細胞捕捉流路16では、第1の導入流路12からの搬送媒体と、媒体供給路18からの搬送媒体とが合流することになる。このような2つの流れが合流すると、図8の破線34に示すように、その合流地点から下流には二層流が形成され、第1の導入流路12からの搬送媒体と媒体供給路18からの搬送媒体との間に境界面が生じることとなる。このような二層流の形成により、卵子13は突起部31の側に押しやられることになる。次に、卵子13が細胞捕捉流路16内に導入されると、卵子用送液ポンプ20の送液を停止し、媒体送出ポンプ23からのみ搬送媒体が供給される。
【0043】
本実施形態では、細胞捕捉流路16内における卵子13の移動は、画像センサ28で得られる画像から求めた卵子13の位置情報に基づいて、図4の制御ブロック図に従って制御される。ここで、搬送媒体が流れる方向をx、細胞捕捉流路16の幅方向をyとする(図3)。本実施形態では、卵子13は、上述のように搬送媒体の流れによって捕捉ギャップ33の中央線上の捕捉ギャップの位置rxまで搬送される。卵子13を捕捉ギャップ33まで搬送する際の媒体供給路18からの搬送媒体の流量の制御は、まず、通常のPID制御(位置決め制御)によって行われる(図4)。即ち、媒体供給路18からの搬送媒体の流量の制御は、細胞の位置xと捕捉ギャップの位置rxとの偏差Δx(=x−rx)に基づくPID制御により行われる。
【0044】
しかしながら、幅方向yにおいて搬送媒体の流速は一定ではなく、幅方向yの位置によって異なっている。また、卵子13の細胞捕捉流路16への導入の際の条件により、卵子13が幅方向yのどの位置を移動するか異なっている。従って、卵子13が移動する幅方向y方向における位置は、卵子13の移動速度に影響することになる。本実施形態では、上記PID制御に加えて、細胞捕捉流路16の幅方向yにおける卵子13の移動位置を考慮した比例ゲインが考慮されている。図5は、細胞捕捉流路16の幅方向yと流速との関係を示しており、細胞捕捉流路16の中心がy0、細胞捕捉流路16の壁面がA及びBで表され、y0から壁面までの距離=aで表されている。図5に示すように、搬送媒体の流速は、細胞捕捉流路16の中心y0で最も大きく、細胞捕捉流路16の壁面A及びBで0となっている。このように、細胞捕捉流路16を流れる搬送媒体には速度分布が存在するため、卵子13が幅方向yのどの位置を移動するかによって、捕捉ギャップ33に到達するまでの時間が異なることになる。
【0045】
本実施形態ではこの幅方向yの位置に依存する影響を打ち消すための比例ゲインを、以下の考えに基づいて生成している。即ち、細胞捕捉流路の幅方向の位置yに細胞が位置しているとすると、図5の流速分布V(y)として以下のモデルが考えられる。
【0046】
【数4】

【0047】
ここで、aは細胞捕捉流路の幅の2分の1の寸法、Cは定数である。従って、上式の影響を打ち消すため、ゲインKy(y)は以下のように設定することができる。
【0048】
【数5】

【0049】
0は細胞捕捉流路の幅方向yの中央、b及びcは定数である。ただし、発散しないようにするため、定数b>y02とする。図4に示すように、この式から求めた比例ゲインKy(y)が、上述のPID演算の出力に乗算されることになる。
【0050】
また、本実施形態の装置では、搬送される細胞の大きさにより、細胞が受ける力が異なることを考慮し、以下のようにして、細胞のサイズを考慮した比例ゲインも求められる。即ち、搬送媒体の流れから細胞が受ける加速度x''は、質量mと搬送媒体の流れから受ける力Fとにより決まる。ここで、細胞の質量mは体積に比例するので、細胞の半径をrとすると、m∝r3である。また、搬送媒体の流れから受ける力Fは断面積に比例するので、F∝r2である。画像センサで検知した細胞の面積をAとすると、A∝r2である。よって、加速度x”∝F/m∝A-1/2である。従って、この影響を打ち消すため、ゲインKA(A)を以下のように設定することができる。
【0051】
【数6】

【0052】
この式から求めた比例ゲインKA(A)が、図4に示すように、上述のPID制御から求めた出力に比例ゲインKy(y)を乗算したものにさらに乗算されることにより、媒体供給路からの搬送媒体の供給量を調節するための最終的な出力が得られる。そして、このような出力による搬送媒体の供給量の調節により、細胞は最終的に細胞捕捉流路の流れ方向xにおける前記捕捉ギャップの幅方向の中心線の位置、即ち捕捉ギャップの位置rxに停止することになる。これにより、細胞の大きさや搬送媒体の流れの状態に依存することなく、所定の時間内に迅速に細胞を捕捉ギャップの位置rxまで移動させることができる。
【0053】
次に、捕捉ギャップの位置rxで卵子13が停止すると、コントローラ24(図1)は、電極19a及び電極19bの間に、3MHz、8〜10Vrmsの矩形波の交流を印加し、細胞捕捉流路16内に交流電界を生じさせる。細胞捕捉流路16に何も存在しなければ、交流電圧の印加により細胞捕捉流路16には一様な交流電界が形成されるが、細胞捕捉流路16内には誘電体(PDMS)からなる突起部31及び島状部32が形成されているため、突起部31及び島状部32の間の捕捉ギャップ33近傍では交流電界は一様とはならない。図6は、細胞捕捉流路16内における捕捉ギャップ33近傍に形成される交流電界を解析により求めたものである。解析の際の交流は、3MHz、1Vrmsの正弦波であるが、矩形波の場合や電圧が異なる場合も同様の結果となる。同図に示すように、生成する交流電界は捕捉ギャップ33近傍では一様とならず、電場勾配を生じている。このような電場勾配が生じている捕捉ギャップ33の近傍に卵子13が存在すると、図9に示すように、卵子13は誘電泳動力により捕捉ギャップ33の方向へ移動し、図10に示すように捕捉ギャップ33に捕捉されることとなる。なお、卵子などの誘電体が電場勾配から何れの方向に誘電泳動力を受けるかは、誘電体の誘電率、交流の周波数などの条件によって決まることが知られている。本実施形態では、卵子13が捕捉ギャップ33に引かれるような条件に設定されている。
【0054】
卵子13が捕捉ギャップ33に捕捉されると、次に、コントローラ24は、交流電界による卵子13の損傷等が生じるのを避けるため、電極19a及び電極19b間の交流を3MHz、6〜8Vrmsの矩形波として交流電界を弱める。
【0055】
次に、ドナー細胞15がマイクロピペット、ガラス毛細管などを用い接続ポート14aを介して投入される。ドナー用送液ポンプ22(図1)からの搬送媒体の送出により、ドナー細胞15はドナー搬送流路14を介して細胞捕捉流路16に到達する。ドナー細胞15の搬送に際しても、前述の卵子13の場合と同様に二層流を形成するように媒体供給路18から搬送媒体を送出することが好ましい。細胞捕捉流路16では、ドナー用送液ポンプ22の送液は停止され、従ってドナー細胞15の搬送は媒体供給路18から搬送媒体の送出のみにより行われる。その際、上述の卵子13の場合と同様に、PID制御、細胞捕捉流路の幅方向yにおける位置を考慮した制御、及びドナー細胞15の大きさを考慮した制御が行われて、ドナー細胞15は捕捉ギャップの位置rxで停止することになる。
【0056】
ドナー細胞15が捕捉ギャップの位置rxで停止すると、ドナー細胞15を捕捉ギャップ33の方へ移動させるために電極対19間の交流が3MHz、8〜10Vrmsの矩形波に戻される。しかし、既に卵子13が捕捉ギャップ33に捕捉されている場合、捕捉ギャップ33おける交流電界は図6とは異なっている。図7は捕捉ギャップ33に卵子13が捕捉されている場合の交流電界を解析により求めたものである。解析の際の交流は、前述と同様に3MHz、1Vrmsの正弦波であるが、矩形波の場合や電圧が異なる場合も同様の結果となる。卵子13が捕捉されている場合、同図に示すように、捕捉された卵子13を頂点とする電場勾配が新たに生じていることがわかる。このような電場勾配が生じている卵子13の近傍にドナー細胞15が停止すると、図11に示すように、その電場勾配によりドナー細胞15は卵子13にカップリングされることとなる。図12は、卵子13を捕捉ギャップ33に捕捉した後、ドナー細胞15が卵子13にカップリングするまで細胞捕捉流路16の部分を連続撮影した写真画像を表している。図12から、ドナー細胞15は細胞捕捉流路16内を移動して捕捉ギャップの位置rxに到達した後、捕捉ギャップ33の方向へ移動して卵子13にカップリングする様子が分かる。
【0057】
次に、コントローラ24は、電極19a及び電極19bへの交流電圧の印加を止め、更に排出用流路17から搬送媒体を送出させることにより、カップリングした卵子13及びドナー細胞15は捕捉ギャップ33から解放されて細胞捕捉流路16を流動して出口16a(図2)で回収されることとなる。
【0058】
本実施形態の細胞カップリングモジュールを使用すれば、通常のPID制御に加えて、細胞捕捉流路の幅方向yにおける位置を考慮した制御、及びドナー細胞15の大きさを考慮した制御が行われるので、細胞の大きさや搬送媒体の流れの状態に依存することなく、所定の時間内に迅速に細胞を捕捉ギャップの位置rxまで移動させることができる。また、交流電界に置かれた誘電体の間の捕捉ギャップ33に形成された交流電界の作用により、卵子13を確実に捕捉ギャップ33に捕捉するとともに、ドナー細胞15を卵子13にカップリングさせることができるので、人手を介することなく細胞融合の操作の自動化を容易に図ることができる。更に、捕捉ギャップ33から搬送媒体を排出する排出用流路17を備えているので、容易にカップリング後の卵子13及びドナー細胞15を回収することができる。
【0059】
加えて、上記実施形態では、卵子13の細胞捕捉流路16への導入、卵子13の捕捉ギャップの位置rxまでの搬送、卵子13の捕捉ギャップ33への捕捉、ドナー細胞15の細胞捕捉流路16への導入、ドナー細胞15の捕捉ギャップの位置rxまでの搬送、ドナー細胞15の卵子13へのカップリング、カップリング後のドナー細胞15及び卵子13の搬送及び取り出し等がシーケンシャル制御により行われ、卵子13の捕捉ギャップの位置rxまでの搬送及びドナー細胞15の捕捉ギャップの位置rxまでの搬送がフィードバック制御により行われるので、本実施形態によれば、迅速に細胞融合を行う完全自動化された細胞カップリング装置の提供が可能となる。
【0060】
なお、上記ではドナー搬送流路14からドナー細胞15を供給したが、ドナー搬送流路14を設けることなく、第1の導入流路12からドナー細胞15を供給するように構成してもよい。
【0061】
また、上記で説明した実施形態では、第1の細胞が分割した卵子であり、第2の細胞がドナー細胞である場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、2つの細胞をカップリングする操作について適用することができる。その場合、第1の細胞及び第2の細胞の大きさに応じて、第1の導入流路12、ドナー搬送流路14、媒体供給路18、細胞捕捉流路16、捕捉ギャップ33等の大きさや幅を変更することが好ましい。
【0062】
更に、本実施形態では、マイクロ流路11の断面形状が矩形の場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、断面が矩形以外の例えば円形であっても差し支えない。
【0063】
また、上記では、位置決め制御としてPID制御を使用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、細胞の位置を安定して定めることができる制御であれば、何れの制御をも使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の細胞カップリングモジュール、細胞カップリング装置及び細胞カップリング方法は、細胞融合、クローン家畜生産などに有用なので、バイオ産業、畜産業などにおいて利用可能である。
【符号の説明】
【0065】
10 細胞カップリングモジュール
11 マイクロ流路
12 第1の導入流路
12a 接続ポート
13 無核卵子
14 ドナー搬送流路
14a 接続ポート
15 ドナー細胞
16 細胞捕捉流路
16a 出口
17 排出用流路
17a 接続ポート
18 媒体供給路
18a 接続ポート
19 電極対
19a 電極
19b 電極
20 卵子用送液ポンプ
22 ドナー用送液ポンプ
23 媒体送出ポンプ
24 コントローラ
25 排出用ポンプ
26 モニタ
28 画像センサ
29 交流電源装置
31 突起部
32 島状部
33 捕捉ギャップ
42 方形部
43 弧状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ流路内の搬送媒体中を順次搬送される複数の細胞を捕捉してカップリングさせるための細胞捕捉流路を有する細胞カップリングモジュールであって、
前記細胞捕捉流路における上流側から搬送媒体を供給して前記細胞を搬送するための媒体供給路と、
前記細胞捕捉流路に設けられた誘電体の間隙からなり、交流電界の作用により生成する電界勾配により前記細胞を捕捉するための捕捉ギャップと、
前記細胞捕捉流路における前記捕捉ギャップの近傍に前記交流電界を生じさせるための電極対と、
前記捕捉ギャップから前記搬送媒体を排出してカップリング後の前記細胞を前記捕捉ギャップから解放するための排出用流路と
を備えたことを特徴とする細胞カップリングモジュール。
【請求項2】
前記細胞捕捉流路の上流側に、前記搬送媒体とともに前記複数の細胞のうちの一つを前記細胞捕捉流路まで搬送する第1の導入流路を更に備え、前記細胞の前記細胞捕捉流路への搬送に際して、前記第1の導入流路から供給される搬送媒体と、前記媒体供給路から供給される搬送媒体とにより、前記細胞捕捉流路内に二層流が形成されることを特徴とする請求項1に記載の細胞カップリングモジュール。
【請求項3】
前記搬送媒体とともに前記複数の細胞のうちの他の一つを前記細胞捕捉流路まで搬送する第2の導入流路を更に備えている請求項2に記載の細胞カップリングモジュール。
【請求項4】
前記複数の細胞の一つが卵子であり、前記複数の細胞の他の一つがドナー細胞である請求項1乃至3の何れかに記載の細胞カップリングモジュール。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の細胞カップリングモジュールと、
前記媒体供給路に前記搬送媒体を送出する媒体送出ポンプと、
前記排出用流路に前記搬送媒体を送出する排出用ポンプと、
前記細胞捕捉流路における画像を撮像する画像センサと、
前記細胞捕捉流路の流れ方向xにおける前記捕捉ギャップの位置をrxとし、媒体送出ポンプからの前記搬送媒体の送出量を調整することにより、該捕捉ギャップの位置rxと前記画像センサで撮像された画像から求められる細胞の位置xとの偏差Δx(=x−rx)を用いた位置決め制御により前記細胞を前記捕捉ギャップの位置rxに停止させるコントローラと
を備えたことを特徴とする細胞カップリング装置。
【請求項6】
前記コントローラは、前記画像センサで撮像された画像から求められる前記細胞捕捉流路の幅方向yにおける前記細胞の位置と、前記細胞捕捉流路の幅方向yにおける前記搬送媒体の流速分布とに基づいて、前記幅方向yにおける前記細胞の位置に基づく第1の比例ゲインを求めるとともに、前記細胞の断面積に基づく第2の比例ゲインを求め、該第1の比例ゲイン及び該第2の比例ゲインにより前記位置決め制御の演算の出力を調整し、該調整後の出力により前記媒体送出ポンプの前記搬送媒体の送出量を調節して、前記細胞を前記捕捉ギャップの位置rxに停止させることを特徴とする請求項5に記載の細胞カップリング装置。
【請求項7】
前記コントローラは、前記電極対に交流を印加して前記捕捉ギャップの近傍に交流電界を生じさせることにより、前記細胞を前記捕捉ギャップに捕捉するように制御を行うことを特徴とする請求項5又は6に記載の細胞カップリング装置。
【請求項8】
前記コントローラは、前記細胞が前記捕捉ギャップに捕捉された後、前記電極対により生じる交流電界を弱め、前記細胞捕捉流路に前記搬送媒体を供給して前記複数の細胞の他の一つを前記細胞捕捉流路の流れ方向xにおける捕捉ギャップの位置rxまで搬送した後、更に前記捕捉ギャップの近傍に生じている交流電界を強めることにより、前記複数の細胞の他の一つを前記捕捉ギャップに捕捉されている細胞にカップリングさせるように制御を行うことを特徴とする請求項7に記載の細胞カップリング装置。
【請求項9】
前記コントローラは、前記複数の細胞の他の一つが前記捕捉ギャップに捕捉されている細胞に付着した後、前記排出用流路に前記搬送媒体を供給して、前記捕捉ギャップに捕捉されているカップリング後の複数の細胞を前記捕捉ギャップから解放するように制御を行うことを特徴とする請求項8に記載の細胞カップリング装置。
【請求項10】
前記複数の細胞の一つが卵子であり、前記複数の細胞の他の一つがドナー細胞である請求項5乃至9の何れかに記載の細胞カップリング装置。
【請求項11】
請求項5乃至10の何れかに記載の細胞カップリング装置を用いた細胞カップリング方法であって、
前記媒体供給路に前記搬送媒体を送出して前記細胞捕捉流路内の前記複数の細胞のうちの第1の細胞を搬送し、
前記細胞捕捉流路の流れ方向xにおける前記捕捉ギャップの位置をrxとし、媒体送出ポンプからの前記搬送媒体の送出量を調整することにより、該捕捉ギャップの位置rxと前記画像センサで撮像された画像から求められる細胞の位置xとの偏差Δx(=x−rx)を用いた位置決め制御により前記細胞を前記捕捉ギャップの位置rxに停止させ、
前記電極対に交流を印加して前記捕捉ギャップの近傍に交流電界を生じさせることにより、前記細胞を前記捕捉ギャップに捕捉し、
前記細胞が前記捕捉ギャップに捕捉された後、前記電極対により生じる交流電界を弱め、
前記細胞捕捉流路に前記搬送媒体を供給して前記複数の細胞の他の一つを前記細胞捕捉流路の流れ方向xにおける捕捉ギャップの位置rxまで搬送し、
更に前記捕捉ギャップの近傍に生じている交流電界を強めることにより、前記複数の細胞の他の一つを前記捕捉ギャップに捕捉されている細胞にカップリングさせる
ことを特徴とする細胞カップリング方法。
【請求項12】
前記位置決め制御において、前記画像センサで撮像された画像から求められる前記細胞捕捉流路の幅方向yにおける前記細胞の位置と、前記細胞捕捉流路の幅方向yにおける前記搬送媒体の流速分布とに基づいて前記幅方向yにおける前記細胞の位置に基づく第1の比例ゲインを求めるとともに、前記細胞の断面積に基づく第2の比例ゲインを求め、該第1の比例ゲイン及び該第2の比例ゲインにより前記位置決め制御の演算の出力を調整し、該調整後の出力により前記媒体送出ポンプの前記搬送媒体の送出量を調節して、前記細胞を前記捕捉ギャップの位置rxに停止させることを特徴とする請求項11記載の細胞カップリング方法。
【請求項13】
前記複数の細胞の他の一つが前記捕捉ギャップに捕捉されている細胞に付着した後、前記捕捉ギャップの近傍の交流電界の生成を止め、更に前記排出用流路に前記搬送媒体を供給して、前記捕捉ギャップに捕捉されているカップリング後の複数の細胞を前記捕捉ギャップから解放することを特徴とする請求項12に記載の細胞カップリング方法。
【請求項14】
前記複数の細胞の一つが卵子であり、前記複数の細胞の他の一つがドナー細胞である請求項11乃至13の何れかに記載の細胞カップリング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−188834(P2011−188834A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59709(P2010−59709)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者 (社)計測自動制御学会 刊行物名1 第10回(社)計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会講演概要集 第289ページ 刊行物名2 第10回(社)計測自動制御学会システムインテグレーション部門 講演会論文集 第1631〜1632ページ 発行年月日 2009年12月24日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度生物系特定産業技術研究支援センター「生物系産業創出のための異分野融合研究支援事業」産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】