説明

組立式風呂桶及び風呂桶の木製側板

【課題】周壁を形成する各側板の接合箇所に上から見て円弧状の係合突条と係合溝とを導入して、風呂桶の底のサイズや形状を問わずに側板を共用できるとともに品質のバラツキが少ない、組立式風呂桶を提供する。
【解決手段】ループ形の輪郭を有する底壁の外周に、垂直な複数の側板を連ねて成る木製の周壁を組み付けて、各側板間の接合角を側外方への鈍角とした組立式風呂桶にあって、上記底壁2の輪郭に沿って上記接合角Acを調整できるように、その接合箇所で向かい合う2枚の側板8の一端に、上から見て円弧状の外形を有する係合突条10を、また他端にその係合突条10を回動可能に受ける断面円弧状の受面20cを有する係合溝14をそれぞれ縦設しており、さらに係合突条10及び係合溝14の曲率半径をr、側板8の板厚をdとするときに次式が成立する。
[数式1]2r<d

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般家庭や温泉施設などで浴槽として用いられる組立式風呂桶であって、少なくとも周壁を木製としたものと、この周壁を構成するための木製側板とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、昔ながらの木製風呂桶は減り続け、一般家庭ではほとんど使われなくなった。しかしながら、その香り・温かみ・肌触り・外観など木の質感が好まれ、人気の高級設備として温泉施設などでは広く使われている。
【0003】
一般的な木製風呂桶は、複数の板材で形成する円盤状の底壁に周壁の下部を組み付けてなり、この周壁は、複数の縦長帯状の板材(側板)を円筒状に連ねるとともに、これら側板同士を蟻ホゾ・蟻溝で継いだり(特許文献1)、各側板の端面同士を半径方向のフラットな面として周囲からタガで締め付けた構造であり(非特許文献1の第111頁)、その製造は桶職人による手作りが主体になっている。
【0004】
こうした風呂桶は、完成状態で搬送し設置されるのが一般的であるが、サイズの大きいものでは部材として搬送され、桶職人が現地で完成させている。また、その修理や交換なども桶職人の手によって行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平2−31586号
【特許文献2】特開平11−225582号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】岩本恵三著 「木と木材がわかる本」P110 日本実業出版社 2008年7月1日(出版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の木製風呂桶においては次のような問題があった。
【0008】
第1に、前述の通り木製風呂桶の製造は、現在でも職人の手作りが主体であり、そのために量産品の樹脂製浴槽などに比べて製造コストが高く、品質のバラツキも出やすかった。何故手作りなのかと言えば、側板の曲面加工や接合面調整などが機械化に適しないからである。
【0009】
第2に、風呂桶のサイズや形状によって側板の曲率や接合面の角度が異なるので、それぞれに合わせた専用の側板を作る必要があり、製造効率が低かった。
【0010】
第3に、完成品状態では一人で運べない大きさと重量になるので、搬送コストがかかり、設置後の移動も簡単ではなかった。さらにサイズが大きいものでは玄関や窓を通り抜けられず、搬送や設置が困難であった。
【0011】
第4に、反り、割れ、腐朽など木材特有の傷みが発生した場合に、一般の人では傷んだ部分だけを交換することができなかった。
【0012】
出願人は、これらの問題を鋭意検討し、桶の周壁を構成する各側板の端面に上方から見て円弧形状の係合突条と係合溝を形成し、組立時には底壁の形状に対応して側板同士の接合角度を調整できるようにするとともに、桶に水を張ったときにはタガの締め付け効果と相まって係合溝が係合突条を挟み付けてガタつかないようにするという構成の着想を得た。
【0013】
この着想を得た後に出願人が調査したところでは、風呂桶でこうした構造を採用したものは見当たらない。さらに隣接する容器の分野では、植物のプランター(植木鉢の一種)において、木製の周壁を構成する側板の端部を断面円弧形の係合突条と係合溝との形成したものが知られているが(特許文献2)、係合突条の先部が浅く係合溝に係合しているに過ぎず、またタガとの相互作用に関する研究も尽くされておらず、到底そのまま風呂桶に転用できるものではない。いうまでもなく風呂桶とプランターとでは、設計上で要求される強度や使用される状況などが異なる。例えば風呂桶では利用者が入浴中に周壁の一部にもたれかけたり、或いは風呂桶内に入るときに周壁の一部に手をかけて体重を預けたりするものである。プランターの場合には使用期間中に周壁の一部に局部的に力が加わることはまずない。本願との具体的な構造の相違については後述する。
【0014】
本発明の第1の目的は、周壁を形成する各側板の接合箇所に上から見て円弧状の係合突条と係合溝とを導入して、風呂桶の底のサイズや形状を問わずに側板を共用できるとともに品質のバラツキが少ない、組立式風呂桶を提供することである。
【0015】
本発明の第2の目的は、係合箇所の曲率半径や木材の特性により、上記係合溝と係合突条とが確実に係合するように設計した、組立式風呂桶を提供することである。
【0016】
本発明の第3の目的は、タガと側板とが各側板との巾方向の二か所で当接することで風呂桶の周壁をしっかりと結合させた、組立式風呂桶を提供することである。
【0017】
本発明の第4の目的は、内面の肌触りが良い組立式風呂桶を提供することである。
【0018】
本発明の第5の目的は、上記組立式風呂桶のパーツとして適した風呂桶用の木製側板を提供することである。
【0019】
本発明の第6の目的は、木材の膨張性を利用して、側板間の不測の空隙が浴槽としての使用時に閉塞するようにした、組立式風呂桶を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
課題を解決するための手段として、第1の手段から第8の手段を掲げてそれぞれ説明するが、まず各手段に共通する基本的な構造を説明する。
【0021】
本発明は、ループ形の輪郭を有する底壁の外周に、垂直な複数の側板を連ねて成る木製の周壁を組み付けて、本願図2に示す如く各側板間の接合角Acを側外方へ突出する鈍角とするとともに、上記周壁を外側から締め付けるタガを設けてなる組立式風呂桶に係るものである。そして、上記底壁2の輪郭に沿って上記接合角Acを調整できるように、その接合箇所で向かい合う2枚の側板8の一端に、上から見て円弧状の外形を有する係合突条10を、また他端に、係合突条を回動可能に受けることができる断面円弧状の受面20cを有する係合溝14をそれぞれ縦設している。
【0022】
本発明の基本構造の一つの要点は、組立段階での側板同士の接合角を自由に変えられることであり(接合角の可変性)、各側板の接合箇所を、上から見た姿、すなわち平面視形状が円弧形の係合突条と、対応する係合溝とを組み合わせることで構成することで風呂桶の形状を柔軟に変化させることができる。例えば、図9(A)は接合角Acが平角(180°)、同図(B)は接合角が165°、同図(C)は接合角が150°の場合をそれぞれ示している。従ってさまざまな大きさの底壁に同じ規格の側板を組み付けて効率的に風呂桶を製造することが可能となる。また上記係合突条及び係合溝は機械での製造も容易である。この機能を実現するためには周壁が直筒形であることが好ましい。なお、好適な図示例では、各側板の一端に係合突条を、他端に係合溝をそれぞれ形成しているが、後述の通り両端に係合突条を有する側板と両端に係合溝を有する側板とで周壁を構成することもできる。
【0023】
本発明の基本構造の他の要点は、組立作業後には側板間の接合角を固定できることであり、底壁の輪郭を略ループ状として各側板の接合角が側外方へ突出する鈍角となるようにし、その外側からタガで締め付けることにより、平面視円弧状の側板の端同士が一定角度で保持できるようにすることである。つまり組み付け作業中とは逆にタガで締め付けた状態では、側板間の接合角度は固定される。その仕組みを説明すると、上記の構造では、周壁を構成する一連の側板の内面(図示例では係止凹溝の底面)は底壁外縁に外接し、かつこれら側板の外面はタガの内周面に内接している。この状態で、図2に示すように側板同士の接合箇所の角に外側から外力Fが加わったときには、この角が鈍角から平角(180°)に近づくから、角両側の各側板が周方向反対側へ移動しようとする。これに対して、2枚以外の一連の側板はタガの内周面に沿って圧縮され上記外力に抵抗する。この抵抗力により、平面視円弧状の係合溝からの係合突条の脱落を防止して、周壁の機能を維持するという機能を生ずる。
【0024】
この機能を実現させるためには、底壁の輪郭を略ループ状とする必要がある。例えば輪郭の一部が凹んだヒョウタン形などでは、凹み箇所でタガとの間に隙間を生じてしまうし、接合角が平角(180°)となる箇所で角度を保持することができないからである。本明細書において「ループ」とは、曲線的に一周する図形であって、その図形と外接する等辺多角形の任意の頂角が側外方へ突出する鈍角となるものという程度の意味である。例えば真円や楕円、図4のような卵形の他に、正多角形の各辺を側外方へ弯曲させた形状も該当する。何れの形状でも側板の全ての接合箇所をタガの内周面に内接させることができるからである。またタガは、ネジ機構などを利用して締め付け力を調整できるものが好適である。さらにタガは全ての側板の少なくとも一箇所に当接して食い込むことが可能とするものとするが、後述の好適な図示例では側板の巾方向の二箇所と当接している。
【0025】
以上述べた第1の要点(組立時の接合角の可変性)及び第2の要点(組立後の接合角の不変性)との他に、本発明の風呂桶に求められる重要な機能として、少なくとも桶中に水を張ったときに側板同士が水密に接することがあげられる。前述の特許文献2の木製プランターの発明では、平面視円弧状とした側板の端同士を当接させれば水が漏れない旨のことが開示されている。植物の鉢植えに用いるプランターは、一般的に風呂桶よりも小さく、かつプランター内の土を湿らせる程度に注水するだけであるから、木板の平面視円弧状の端同士を密接させる程度でも十分に漏水を防止することは可能であろうと推測される。しかしながら、風呂桶のような大型の容器を構成しようとすれば、側板の端面同士を平面視円弧形(部分円柱形)に加工して相互に密接させると言っても加工誤差も生じる。
【0026】
既存の木製風呂桶は側板の端面を半径方向のフラットな面とするものが多い。端面を断面弧状に加工する場合に比べれば単純な形であるが、それでも専門家である職人が精密に木材の寸法を計測して面同士の隙間が生じないように仕上げるのである。まして平面視円弧形の端面同士を接合する場合には、曲率中心の位置や曲率半径を精密にコントロールしなければ、底壁に側板を組み付けた段階で側板円弧面同士が完全に密接するということはない。出願人が試作したときには、底壁へ側板を組み付け、かつ周囲からタガで締め付けても側板同士の間に目視可能な程度のわずかな隙間が生じた。こうした実際の製作で得られた知見に基づいて、本出願人は、2つのアイディアを提案している。その一つは、係合溝と係合突条とが深く係合する構造とすることであり(第1の手段から第6の手段)、他の一つは、木材の膨張により側板の端面同士の隙間を閉じるようにすること(第7の手段から第8の手段)である。
【0027】
第1の手段は、上記基本構造を有し、かつ
上記係合突条10側の円弧長を係合溝14側の円弧長よりも長くかつそれら両円弧の各曲率半径をほぼ等しくし、
さらにこれら係合突条10及び係合溝14の曲率半径をr、側板8の板厚をdとするときに次式が成立している。
[数式1]2r<d
本手段では、係合突条及び係合溝の曲率半径を、側板の厚さの半分よりも小としている。換言すれば、図6のように側板の各端面のうち厚さ方向の一部(図示例では厚さ方向の中間部)にだけ係合突条及び係合溝を形成している。このように構成することで、係合溝を深く形成することができ、係合溝を係合突条に十分にフィットさせることができるからである。また、係合突条側の円弧長を係合溝の円弧長よりも長くした理由は、2つの円弧の長さの差が係合突条側の側板に対する係合溝側の側板の回動範囲となるからである。図8に示す如く、係合突条側の円弧の両端と曲率中心と結ぶ扇形の中心角(以下円弧の中心角という)をθ、係合溝側の円弧の中心角をθとすると、2つの中心角の差分θの範囲で側板相互の回動が可能である。
【0028】
係合突条及び係合溝の曲率半径を2r≧dとしても側板間の接合角を調整することは可能であるが、そうすると係合突条側の円弧は、図10に示すように半円より短い弧(劣弧)となり、そうなると係合溝側の円弧はそれより更に浅くなってしまう。本手段の構成によれば係合溝を深い溝とし、係合突条に十分に係合させることができる。好適な図示例では、係合突条側の円弧を半円より長い円弧(優孤)とし、係合溝側の円弧を劣弧としている。
【0029】
第2の手段は、第1の手段を有し、かつ
上記係合溝14の受面20cの内縁部と外縁部とが係合突条10の内外両側を挟むようにして、風呂桶に水を張ったときに木材の吸水作用により係合溝14と係合突条10とが噛み合うように構成している。
【0030】
本手段では、湿潤状態の各側板の係合溝と係合突条が噛み合う構造を提案する。そのためには、側板の端面のうち内縁部と外縁部とを残して、厚さ方向の中間部のみを抉って係合溝とすればよい。係合溝の両側の内壁部分と外壁部分とは、係合突条の両側を挟む挟持腕の役目を有する。係合溝と係合突条との噛み合いの作用により漏水が防止され、かつ接合箇所の強度も向上する。
【0031】
噛み合いの作用には、木材の吸水性とタガの締付け力と係合溝及び係合突条の構造とが寄与する。すなわち、各側板は水を吸って膨張しようとするが、タガにより周壁の径が大きくなることができない。従って係合溝の外壁部分及び内壁部分は円弧の曲率中心へ近づく方向へ、他方、係合突条は円弧の曲率中心から遠ざかる方向へそれぞれ膨張しようとするので、係合溝内面と係合突条の表面とが圧接する。それにより噛み合いを生ずる。非特許文献1の桶の如く、側板の端面がフラットなタイプは、木材の膨張とタガの締付けにより面同士が圧接されるが、噛み合う部分が存在しない。また、特許文献1の桶の如く蟻溝とホゾとで接続するタイプは、タガによる締付がなくても十分な接合強度を有するが、蟻溝穿設箇所やホゾ付設箇所を含む周壁全体が膨張してしまうために、十分な噛み合い力が作用しない。なお、本手段の構造では、組立時には木材が乾燥しているので、噛み合い作用は生ぜず、組立作業の邪魔にならない。
【0032】
係合溝側の円弧は、係合突条を噛むために十分に大きな円弧長さを有するものとする。その円弧の中心角は、120°以上180°未満とするとよい。
【0033】
第3の手段は、第1の手段又は第2の手段を有し、かつ
上記係合突条10及び係合溝14の曲率中心を、上から見て各側板の厚さ方向の中心を通る仮想線よりも内側に位置するようにして、上記タガ50と各側板8とがそれら側板外面の巾方向両端側の2か所で当接するように構成している。
【0034】
本手段では、側板の接合箇所の両側に均等にタガの締め付け力が作用するようにしている。そのために平面視円弧状の係合突条及び係合溝の曲率中心が図7に示すように側板の厚さ方向の中心を通る仮想線(中心線Lc)よりも内方に位置させている。出願人がシミュレーションしたところでは、図16に示すように平面視円弧状の係合突条及び係合溝の曲率中心が側板の中心線上にあると、側板同士を屈折させたときに環状のタガが係合突条だけに当接することが判明した。そうすると接合箇所を構成する係合突条と係合溝のうち前者のみにタガの締め付け力が作用することになり、係合突条が係合溝から外れやすくなる。他方、本手段のように係合突条及び係合溝の曲率中心を中心線より内側へオフセットすることで、図6に示す如く側板の左右2箇所にタガとの接点が生じ、各接点に均等に圧力がかかる。
【0035】
図示例においてタガとの接点と係合突条との間の端面部分は側板外面に対して傾斜面となっている。側板同士を接合した状態で、隣り合う接点間の部分は、左右対称の扇形の深い溝となり、デザイン性を向上させる。
【0036】
第4の手段は、第1の手段から第3の手段のいずれかを有し、かつ
各側板8の内面から段差sを介して係合突条10の突面内部分を側外方へ凹没させるとともに、その段差sの巾を、側板8内面から係合溝14の受面20c内縁までの距離dEと等しくして、上記接合角Acを介して隣接する側板8の内面が同一包絡面S上で連なるように構成している。
【0037】
本手段では、上記構成とすることで、接合箇所両側の側板内面の端点が互いに近づき、これら両端点は接触するか、或いは浅い扇状の縦溝を形成する。従って入浴時の肌触りを良好とする。
【0038】
第5の手段は、第1の手段から第4の手段のいずれかを有し、かつ
上記タガ50は、周壁6からの離脱可能な着脱自在であるとともに、締付け力を調整可能な締結部を有し、さらに上記側板8も底壁2に対して着脱可能に形成している。
【0039】
本手段では、タガ及び側板を外すことができるようにして、一般人でも分解・組立が容易にできるようにしている。これにより設置後に移動したり、傷んだ部分を交換することが簡単となる。さらにタガは締付け力を調整可能な構造を有する。桶の経時的な収縮に応じて、タガを締め直すことができるようにするためである。一般に、桶は、湿潤時の膨張と乾燥時の収縮を繰り返すために、長い間には元のサイズより少し小さくなる。この現象を加圧収縮という(非特許文献1の110頁)。この収縮に対応するために、通常の木製桶は上端がやや大径のテーパ状で、周壁の表面上でタガを上方へスライドできるようにしている。しかし、本発明では、周壁をテーパ状とできない訳ではないが、そうすると多様なサイズ・形状の周壁に対して同一規格の側板を共用するというメリットが失われる。そこで本手段では、タガ自身に締付け力が調整可能な締結具を設けている。「締結部」は、タガが周壁を締め付ける部分の長さを調整することができるものとする。
【0040】
第6の手段は、第1の手段からから第5の手段のうちのいずれかに記載した構造を有する、組立用風呂桶用の木製側板である。
【0041】
各手段に記載した構造のうち、特に重要であることは、既述数式1に記載したように平面視円弧形の係合突条及び係合溝が板厚の半分より小さい曲率半径を有し、故に係合溝内に係合突条が深く係合することが可能としたこと、さらに側板を木製とすることにより、湿潤状態で係合溝が係合突条と噛み合うことである。
【0042】
第7の手段は、上記基本構造を有し、かつ
さらに側板8の第1端面18の略全体に形成する係合突条10と、側板の第2端面20の略全体で形成する係合溝14との間に、乾燥状態で係合溝の受面に沿った空隙40を存して、側板8を連設させ、周壁6内に水を張った状態で側板が第1、第2端面18、20と内面とから水を吸って膨張することで係合突条10と係合溝14とが水密に密着するようにタガ50で締め付け、
さらに組立状態から周壁6の直径を小さくする方向に調整できるように、周壁6の各側板8を底壁の外周面との間に遊びA1を存して組み付けるとともに、タガ50の締め付け長さを調整できるようにしている。
【0043】
本手段では、入浴に使用するような大型の桶を各側板の平面視円弧状の係合突条と係合溝とを当接させて組み立てるときに僅かな空隙(隙間)が存するという前提で、湿潤時の木材の膨張により空隙が閉じる構造を提案している。そのために周囲からタガで締め付け、このタガが膨張時の周壁外面に食い込むようにしている。上記空隙は底壁上方の側板部分のうち少なくとも上下方向の一部に存する。風呂桶内に水を張ったときに水の一部が空隙内に入って側板の第1端面及び第2端面を濡らす。これにより側板は両端面及び内面から水を吸って膨張し、空隙を閉じる。木材が膨張・収縮を繰り返すと加圧収縮を生ずるために、側板間の空隙が過度に広がる可能性がある。そこで底壁の外周面と側板の組み付け箇所の内面との間に遊びを設けるとともに、タガの締め付け長さを調整できるようにしている。こうすることで、加圧収縮を生じたときに、各側板を底壁外周部に対してさらに深く組み付け、側板間の空隙を調整できるようにしている。底壁の外周面との間に遊びを存して側板を組み付けるための構造としては、例えば側板の下端から一定距離を存して係止凹溝を横設し、この係止凹溝の底面との間に遊びを存して底壁を浅く嵌合させればよい。
【0044】
第8の手段は、第7の手段を有し、さらに
上記周壁6を構成する側板8のうち半数以上を板目材で構成している。
【0045】
乾燥させた木材は繊維方向への膨張量が大きい。そこで本手段では図12に示すように側板の巾方向(周壁の周方向)に繊維が配向する板目材を、側板の厚さ方向(周壁の半径方向)に繊維が配向する柾目材と比べて多用して、湿潤時の係合溝と係合突条との密着の度合いを高めている。
【発明の効果】
【0046】
第1の手段及び第7の手段に係る発明によれば次の効果を奏する。
○係合突条10及び係合溝14はともに断面円弧状だから、風呂桶のサイズや底壁の輪郭にかかわらず、一つの又は複数の規格の側板を共用できるので製造効率が高まる。
○係合手段を、機械での製造に適した断面円弧状としたから、従来よりも品質のバラツキが少ないものを安価に提供できる。
【0047】
第1の手段に係る発明によれば、係合突条10の曲率半径rを側板の厚さdの半分未満としたから、係合突条を係合溝に深く係合させることができる。
【0048】
第2の手段に係る発明によれば、木材の吸水作用とタガの締め付け作用との相乗効果により係合溝が係合突条と噛み合うので係合力がさらに高まる。
【0049】
第3の手段に係る発明によれば、接合箇所の両側の側板の端部にタガが当接するようにしたから、周壁の内側から荷重(例えば利用者の体重の一部)が作用しても、円弧状の係合箇所に半径方向のずれ応力が作用することを防止することができる。
【0050】
第4の手段に係る発明によれば、隣接する側板8の内面が同一包絡面S上で連なるから、肌触りがよい。
【0051】
第5の手段に係る発明によれば、一般の人でも分解・組立が容易にできるため、コンパクトな形態により低コストで搬送又は移動することができ、かつ設置後の移動や傷んだ部分の交換も可能となる。
【0052】
第6の手段に係る発明によれば、上記の組立式風呂桶の組立及び損傷した一部の側板の交換に利用できる。
【0053】
第7の手段に係る発明によれば、木材の膨張により側板間の空隙を閉じるようにすることができ、かつ底壁に対して側板を遊びを存して組み付けたから、加圧収縮により上記空隙が大きくなったときに周壁の径を調整することができる。
【0054】
第8の手段に係る発明によれば、側板の半数以上を板目材で形成したから、湿潤時に側板間の空隙を確実に閉じるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の第1実施形態に係る風呂桶の縦断面図である。
【図2】図1の風呂桶の平面図である。
【図3】図1の風呂桶の変形例の平面図である。
【図4】図1の風呂桶の他の変形例の平面図である。
【図5】図1の風呂桶のパーツであるタガの斜視図である。
【図6】図1の風呂桶の平面図の要部拡大図である。
【図7】図1の風呂桶のパーツである側板の平面図である。
【図8】図7の側板の接合箇所の平面図である。
【図9】図7の側板の作用説明図である。
【図10】図16の比較例から本発明の側板の構造を設計するための説明図である。
【図11】図1の風呂桶の底壁と周壁との組み付け箇所の横断面図である。
【図12】本発明の第2実施形態に係る風呂桶の平面図である。
【図13】図12の風呂桶の要部の乾燥状態での拡大図である。
【図14】図13に対応する箇所の作用説明図である。
【図15】図13の要部の湿潤状態での拡大図である。
【図16】図7の側板との比較例の構造を示す平面図である。
【図17】本発明の実験例での係合突条及び係合溝の噛み合いの程度を写真で示す図である。
【図18】同実験例での乾燥状態において係合突条と係合溝との間に空隙が存する状態を示す図である。
【図19】同実験例の湿潤状態で係合突条と係合溝とが密着した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
図1から図9は、本発明の第1実施形態に係る組立式風呂桶を示している。
【0057】
この組立式風呂桶は、図1に示すように底壁2と周壁6とタガ50とで構成されている。まずこの構造のうち一般的な部分を説明する。
【0058】
まず底壁2及び周壁6の主要な部分は木材で形成する。一般的に耐水性に優れたヒノキやサワラを使用することが望ましい。
【0059】
底壁2は、図2に示すように全体として円盤状であり、図示例では排水口3付きの基盤部2aと足部2bとで形成している。基盤部2aは、複数の木製の横板材4を本実継ぎや接着材で連結させたものを丸くカットして形成する。足部2bは、基盤部の下面に複数の角材をネジ止めして形成できる。この底壁2は、組立式風呂桶の部品として完成された形で一般に提供する。尚、変形例として図3のような楕円形、図4のような卵形の底壁2を用いてもよい。
【0060】
周壁6は、上記底壁2の外周部に沿って、垂直な複数の側板8を円筒形に連ねて、各側板の下部を底壁2の外周部に組み付け、かつ側板8の端部同士を水密に接合させてなる。側板の巾Dが底壁の周縁長さLに比べて十分に小さいものとすると、両者の関係はL≒n×D(nは十分に大きい整数)となる。側板の枚数に関しては後述する。上記側板8は、風呂桶の内外方向(厚さ方向)に比べて周方向(巾方向)に広くかつ垂直方向に長く延びる長方体である。側板の下端部内面にはコの字の係止凹溝9が横設されている。この係止凹溝内に底壁2の外周部を挟持させている。図1に示す如く係止凹溝9の内周面(底面)と底壁2の外周面との間には遊びを設ける。
【0061】
図示例では、各側板の働き巾(基線L上での係合溝から係合突条の先端までの長さ)が一定であるが、必ずしもこれに限られない。デザイン上の要請などからさまざまな変形例があり得る。また周壁は図示例のように上下方向に亘って一定の径を有する直筒形とすることが望ましい。一つの規格の側板をさまざまな大きさの風呂桶に共用できるからである。上端大径のテーパ状の周壁の場合には、一つの規格の側板で構成することができず、製作が面倒となる。
【0062】
タガ50は、図5に示す如く、周壁の周囲に巻き付けるベルト状のものであり、腐食しにくく、剛弾性を有し、周壁に食い込み可能な構造を有することが望ましい。好適な材料は、ステンレスなどの金属である。このタガ50は、経時的変化により木製の周壁6が収縮したときに、締め直すことが簡単にできるものであることが望ましい。図示例のタガは、ベルト部52と、締結部54とで、締め付け力を調整可能に形成する。締結部54は、ベルト部52の基端側に付設した基部54aと、ベルト部の先端側に付設した先部54bとからなる。基部54aは、ベルト部への取付け部分から、ベルト部の延長方向と反対側へナット付きのボルト部分を突出している。また先部54bは、ベルト部の延長方向と一致する向きにボルト挿通孔を有する。使用するときには、まずボルト部分からナットを外して、ボルト挿通孔にボルト部分を通し、このボルト部分に再びナットを取り付ければよい。このナットは、図示していないが、ナット本体の両側へ指当て片を突出した形状であって、一般の人が指で簡単に回すことができる。この実施形態に限らず、締結部の構造は一般人が締め易いものであればなんでもよい。
【0063】
本発明においては、側板8の一方の端面(第1端面)18には、上から見て曲率半径rの円弧状の外形を有する係合突条10を、また他方の端面(第2端面)20には、同一の曲率半径の断面円弧状の係合溝14をそれぞれ側板の長手方向全長に亘って縦設する。別の言い方をすれば、係合突条10は、円柱を中心軸と平行な平面で切断して得られる部分円柱形(半円柱形を含む)に形成している。そして係合溝14の受面20cは、上記部分円柱形の表面の周方向の任意の一部に対応する大きさと形状を有する。そうして係合突条10の突面18cと係合溝14の受面20cとが相互に回動可能に相合するように形成する。これにより側板間の接合角Acを一定の範囲内で任意に調整することができ、一般人でも簡単に風呂桶を組立できる。本発明では、周壁全周に表れる接合角Acが全て側外方へ突出する鈍角となっている。好適な角度は150°≦Ac<180°である(図9参照)。角度が直角に近づくと、タガ50の締め付け力が係合溝14の受面20cの外側部分に強く作用し、係合溝を損傷する可能性がある。
【0064】
なお、図示例では、各側板の一方端面(第1端面)18に係合突条10を、他方端面(第2端面)20に係合溝14を形成しているが、図示しない変形例として、両端面に係合突条を有する第1の側板と、両端面に係合溝を有する第2の側板とそれぞれ形成し、これら第1、第2の側板を交互に底壁の外周に連ねて組み付けるようにしてもよい。もっともこの例では、周壁を構成する側板の枚数が偶数に限られるので設計上の自由度が限定され、また2種類の同数の側板を用意しなければならない。故に図示例の方が製造効率がよい。
【0065】
なお、図2では周壁6を12枚の側板8で周壁を構成しているが、同図では特に側板の数が少ない例を示した。風呂桶の全体図の中で側板の上端面の形を大きく表わすためである。一般家庭向けの普通サイズの風呂桶でも、図示例の倍の24枚程度(或いはそれ以上)の側板を用いることは通常である。
【0066】
係合突条10及び係合溝14は、側板8の第1端面18及び第2端面20の厚さ方向中間部にそれぞれ縦設されている。図6に示すように、係合突条10外方の第1端面部分18aと、係合溝14外方の第2端面部分20aとは、内から外へ半径周方向と傾斜して、側板の外面22両端に表れる、タガへの当接用の第1接点Eないし第2接点Eに至る。これら接点の役割に関しては後述する。また、係合突条10内方の第1端面部分18b及び係合溝14内方の第2端面部分20bも半径方向に対して傾斜して、係合突条10の内面及び係合溝14の内縁と側板8の内面24との間に段差sを設けている。そして上記側板8のうち係合溝14の内外両側の壁部分は、風呂桶に水を張ったときに係合突条を挟む内外一対の挟持腕26,28として機能する程度の強度と厚さとを有する。また図7に示す例では、内側の挟持腕26の先端での厚さと係合溝の板厚方向の巾と外側の挟持腕28の先端での厚さの比は、おおよそ1:9:2としている。
【0067】
上記のように各端面の中間部に突条ないし溝を設けた構造では、それら係合突条10及び係合溝14の曲率半径rは、側板8の厚さdの半分未満となる。こうすることで、係合突条の横断面を半円より大の部分円とすることができ、係合溝に係合突条を深く噛み合わせることができる。
【0068】
図8に示すように係合突条側の円弧の中心角をθ、係合溝側の円弧の中心角をθ、一方の側板に対して他方の側板が回動可能な角度をθとすると、これらの間には次の数式の関係がある。係合突条10の横断面を半円より大きくすること、すなわち、突条側の円弧を優孤とすることにより、θが大きくなる。側板の回動角度θが一定であるとすれば、係合溝側の円弧の中心角θも大となる。これは係合突条と係合溝とが接する範囲が広がることを意味し、係合力が向上する。
[数式2]θ≧θ+θ
係合溝の円弧の中心角θは、150°≦θ<180°とするとよい。円弧の中心角が小さ過ぎると、係合溝が係合突条を噛む作用は期待できない。他方、中心角が180°以上となると、係合突条をスムーズに嵌合させることができない。図示例では、係合溝側の円弧の中心角を150°としている。また、図示の係合突条の円弧の中心角は約200°程度である。
【0069】
また一般的に、常時水を内蔵する樽では、周方向への膨張率が大きい板目材を使用するのに対して、乾燥・湿潤を繰り返す桶では、半径方向への膨張率が大きい柾目材を使用するものとされている。前述の加圧収縮の傾向を小さくするためである(非特許文献1)。しかしながら板目材及び柾目材は一つの丸太から一定の割合でしかとれないので、特定の材種の木材しか使えないということがコストアップを生ずる。本発明の特長の一つは、板目材及び柾目材のいずれか任意の一方だけを使うこともできるし、板目材及び柾目材を併用することもできる。板目材だけを使用する場合には、加圧収縮によって長い使用期間の後にタガ50の締め付けが緩むことが予想されるが、これに対してはタガを締め直せばよい。締め直しの作業においては、例えば木槌で側板の下端部を叩いて底壁への側板の食い込みを深くさせてから、タガ50のナットを基部54aの本体側へ螺進させ、タガの締め付け長さを短くすればよい。側板8の接合箇所32が平面視円弧形の端面18,20を継いだルーズな(接合角の自由度がある)接合構造であること、及び後述の如く底壁2外周と側板8との間に遊びがあることが、タガ50の締め直しを容易としている。
【0070】
一般的な風呂桶に使用する木材は、また桶には、一般に既述の加圧収縮(湿潤・乾燥の繰り返しに伴う経時的な収縮)の影響を抑制するために、板目材よりも膨張率が小さい柾目材を使用する。もっとも本発明の場合には、タガ50により締め直しが可能であるので、材料選択の自由度がある。
【0071】
次に側板8同士の接合箇所32の構造を、図6を用いて説明する。同図に示すように接合箇所32の外側には深い扇形の第1縦溝34が形成されている。この第1縦溝は、風呂桶全周に亘って規則正しく趣きのある意匠を構成する。接合箇所32の内側には浅い扇形の第2縦溝36が形成される。この第2縦溝36の左右両縁は図示のように包絡面Sに沿って連続している。従って溝が小さくなるので、利用者への身体に引っ掛りが少なくなり、肌触りがよい。
【0072】
さらに側板8の係合突条10及び係合溝14の曲率中心Oi(i=1、2…)について説明する。図7に示す側板8を例にとると、係合突条10の曲率中心Oと係合溝14の曲率中心Oとを結ぶ基線Lが側板8の厚さ方向中心を通る中心線Lと平行であり、かつこれら曲率中心が中心線より内方に位置している。このような配置にする理由は、タガ50が安定的に各側板8に接するようにするために必要だからである。例えば図16(A)に示すように曲率中心O及びOが中心線L上にあるように構成した側板8を考える。この構造の側板を等角的に連ねた周壁6を環状のタガ50で締めた場合をシミュレーションすると、タガは側板の係合突条の突面18c側にのみ接し、側板8の外面には接していない(図16(B)参照)。この側板の外面(特に側板外面のうち係合溝側の部分)に当接させるためには、外面全体を係合突条の円弧に連なる現在の位置から外側へずらさなければならない。
【0073】
どの程度ずれている必要があるかを、図10を用いて説明する。まず側板の外面と係合溝との関係を調べるために、図10(A)のように係合溝の外縁が尖鋭化した仮想的な側板8を想定する。この側板を図10(B)のように係合突条10の回りで回転させる。回転角度は大き目に45°と設定する。この2枚の側板の接合角の2等分線Lを作図し、この2等分線と係合突条の突面18cとの交点Cを求める。側板が正多角形状に配列されている場合には、底壁の中心はL上にあるから、タガ50は上記交点Cと接する。このために各側板8の外面はタガとは接しないことになる。タガ50の軌跡に代えて上記交点Cを通過する接線Lを作図する。この接線よりも外側に側板外面22の巾方向の両端(第1接点E及び第2接点E)が位置するように図10(B)に想像線で示す如く側板外面22の位置を所定巾Δxだけ外方にずらせばよい。同図を目視すると、Δx=0.1×r程度である(rは曲率半径)。従って回転角度が45°以下の場合にはおおよそこの程度ずらせばよい。
【0074】
次に第1接点E及び第2接点Eがタガ50に同時に接するための条件は、図9(A)に示すように曲率中心Oから第1の接点Eへ半径と基線とが成す角度∠Eと、曲率中心Oから第2の接点Eへ半径と基線とが成す角度∠Eとが等しいことである。何故ならば、図9(C)に示すように底壁に沿って側板8…を配列した状態において、底壁の中心(或いはタガの中心)Oから一つの曲率中心Oまでの線分を一辺とする2つの三角形△OOと△OOとを考えると、∠E=∠Eならば∠EO=∠EOであり、頂角が等しい。さらに2つの三角形はE=Eであり、OOを共有するから、合同条件を満たす。従ってOE=OEである。従ってこの接合箇所32においては、第1接点28及び第2接点30が同時にタガ50に接する。他の接合箇所についても同じである。従って底壁の中心Oから各第1、第2接点までの距離は一定値(R)となる。なお、図4のような非円形の桶の場合にも、上記底壁の中心を接合箇所の近傍のタガ部分の曲率中心に代えて考えれば、∠E=∠Eという条件が導かれる。
【0075】
本発明の構成において、風呂桶を組み立てるときには、まず底壁2及び所定数の側板8を用意して、組立現場に持ち込めばよい。風呂桶そのものに比べて嵩張らないので、廉価に運搬することができ、窓や玄関の通り抜けも容易となった。組立作業においては、底壁2の外周部に各側板8の係止凹溝9を嵌め込んで組み付ける。側板8同士は、各端面の係合溝14内に係合突条10を係合させる。これら係合突条10及び係合溝14は、平面視円弧状であり、かつ側板の前後方向全長に亘って形成されているので、蟻溝・蟻ホゾなどを接続する場合と異なり、一般人でも簡単に係合できる。好適な一例として、既に周壁に組み付けられた側板8の係合溝14の受面20cに、これから取り付けようとする側板8の係合突条10を当てるともに、側板8の係止凹溝9を底壁2の高さに合わせる。そして側板8の下端部外面を木槌などで叩くと、底壁2の外周部が係止凹溝9内に差し込まれる。ここで底壁2の外周部は図11に示すように係止凹溝9の深さ方向の半ばまで差し込ませ、底壁2の外周面と係止凹溝9の内周面との間に遊びAを設けることが望ましい。また組立時には木材が乾燥しているから、側板同士の間には多少の(0.5mm〜1mm程度の)空隙Aがある。従って最後の側板8を嵌め込むときでも板同士の間には隙間がある。そこで底壁外周部に全ての側板を緩く組み付け、全体として内側に押込めば、比較的容易に嵌合させることができる。その後にタガ50を周壁6に巻き付け、締結部50bを操作して締め付ければ、風呂桶が完成する。
【0076】
上記の如く係合突条の曲率半径の2倍は側板の厚さに比べて小さいので係合溝に深く係合し、タガ50の締め付け力と相俟って側板を強く結束させる。これにより一般的なプランターなどに比べて大容量の風呂桶を、平面視円弧形の係合手段で組み立てることを可能とした。さらに風呂桶に水を張った状態では、側板の内面24から、或いは係合突条10との間の微細な間隙から、木材が水を吸うので、係合溝の内外両側の挟持腕26,28及び係合突条が膨張しようとする。ところが周壁の外側からタガで締め付けられているので、挟持腕は溝内方へ膨張し、係合突条との間に強い噛み合い力を生ずる。
【0077】
本発明は、木が水分を吸収して膨張することで、接合箇所が密着して水漏れを防ぐという点では、従来の桶や樽と同じである。しかしながら、これら従来品では、主として側板同士の接合面に周方向の圧縮力が作用するものであり、技術的な意味合いが異なる。
[実験例]
出願人は、おおよそ図示例どおりの平面視形状を有する側板を製作し、係合突条及び係合溝の機能実験を行った。側板の厚さは2.5cm、働き巾は9.5cm、長さは69・5cmである。素材はヒノキであり、重量は730〜770gである。
【0078】
ほぼ同一規格の柾目材の側板1枚と板目材の側板2枚とを用いて、これらのうち適当な2枚を組み合わせて湿潤時の噛み合い力を測定した。具体的には下記の表1の列側に一の側板の係合溝20の受面18cに刷毛で水を塗って湿潤状態とし、同じ表の行側にある他の側板の係合突条10を噛ませた。そうすると大多数の組み合わせでは、一枚の側板の重量を支えることができた。表1中の重量とは、柾目1・板目1・板目2の重量である。図17は、その状態を撮影した写真を示している。写真中の側板は何れも板目材である。
【0079】
さらに他の側板側にウェートを付け、かつそのウェートを徐々に増やして、一の側板から他の側板が分離するときのウェートを量ると下記のようになった。これにより湿潤時の接続箇所の密閉性が向上し、かつ接続箇所の強度も高まる。
【0080】
【表1】

【0081】
以下、本発明の他の実施形態を説明する。これらの説明において第1の実施形態と同じ構成については説明を省略する。
【0082】
図12から図16は本発明の第2の実施形態に係る風呂桶を示している。本実施形態では、乾燥状態で側板8の第1端面18及び第2端面20の間に存する空隙40が、湿潤状態では木材の膨張とタガ50の締付け力とによって閉じ、両端面が水密に密着するように構成している。従ってこの構成では、風呂桶に水を張った直後には空隙40を介して外部へ若干漏水するが、木材の膨張によりじきに水の漏れが停止する。本実施形態では、周壁の周方向への膨張率を大きくするために、側板8の半分以上を板目材とすることが望ましい。板目材を多用すると加圧収縮の傾向が強まるので、係止凹溝9と底壁2の外周面との遊びAを大きくとることが望ましい。そのためには、係止凹溝9を深く、例えば側板の厚さの半分程度に穿設し、さらに底壁2の外周部は係止凹溝9の深さの1/3〜1/2程度の差し込み巾で差し込むとよい。係止凹溝9内への底壁の差込みが浅くても、基盤部2aの裏面に足部2bを付設することで底壁への荷重を十分に支えることができる。
【0083】
上記の空隙40は、側板8の第1端面18及び第2端面20の加工誤差や加工後の木材の歪みによって生ずるものであるので、全ての接合箇所32に現れるとは限らないし、また、側板の上下方向全長に亘って生ずるとは限らない。そこで底壁2上方の周壁部分に複数のタガ50を好ましくは等間隔に巻き付け、湿潤時に確実に空隙40が閉じるように設ける。
【0084】
上記構成においては、乾燥状態では図13に示すように係合突条10と係合溝14との間に空隙40が存在するが、風呂桶内に水を張ると、空隙40内に水が進入する。これにより側板8は内面24だけではなく、第1端面18及び第2端面20から水を吸い、膨張する。これにより側板8の働き巾が増長するとともに、側板の係合溝側は曲率中心に近づく方向へ、係合突条側は曲率中心から遠ざかる方向へ膨張する。従って上記空隙40が閉じ、係合溝14は係合突条10を抱持する。風呂桶の下部に浅く水を張っただけでも、空隙40から入った水が、この空隙又は側板の繊維を通って上方へ吸い上げられる。その結果として、側板が上下方向全体に亘って膨張して空隙が密閉するが、より早く空隙をなくすには最初に風呂桶全体に水をかけて湿らせればよい。
【0085】
本実施形態では木材が膨張により歪んで空隙が塞がることを内容とするので、側板をある程度柔らかい木質で形成することが必要である。出願人が実験用の試作品の素材に用いたヒノキは、木材のうちでは中程度の堅さであるであるが、乾燥時に0.5〜1mm程度の巾の空隙40が風呂桶に水を張った状態で塞がることを確認した。従って、少なくともヒノキと同等の木材かそれ以上に柔らかい木材(例えばサワラ)であればよい。
【0086】
図18及び図19は、上記実験の様子を写真撮影したものである。
【0087】
図示例では第1端面18のほぼ全体を半円弧状の係合突条10とし、第2端面20のほぼ全体を劣弧状の係合溝14としている。しかしながら、図2のように各端面の厚さ方向の一部を係合突条及び係合溝としてもよい。なお、係合突条10を半円弧状にした場合には、図示通りの構造では、前述の通り、側板8の係合溝側の端部とタガ50との間に隙間を生じてしまうが、この隙間を埋めるためのスペーサなどをタガ50の内面などに付設することは可能である。
【符号の説明】
【0088】
2…底壁 2a…基盤部 3…排水口 4…横板材 2b…足部 6…周壁
8…側板 9…係止凹溝 10…係合突条 18c…突面 14…係合溝
20c…受面 18…第1端面 20…第2端面 22…側板外面
24…側板内面 26…内側挟持腕、28…外側挟持腕
32…接合箇所 34…第1縦溝 36…第2縦溝 40…空隙
50…タガ 52…ベルト部 54…締結部 54a…同基部 54b…同先部
Ac…接合角 L…基線 L…中心線 L…2等分線 L…接線
C…交点 O…底壁の中心 E1…第1接点 E2…第2接点 s…段差
…包絡面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ループ形の輪郭を有する底壁の外周に、垂直な複数の側板を連ねて成る木製の周壁を組み付けて、各側板間の接合角を側外方へ突出する鈍角とするとともに、上記周壁を外側から締め付けるタガを設けてなる組立式風呂桶にあって、
上記底壁2の輪郭に沿って上記接合角Acを調整できるように、その接合箇所で向かい合う2枚の側板8の一端に、上から見て円弧状の外形を有する係合突条10を、また他端に、係合突条を回動可能に受けることができる断面円弧状の受面20cを有する係合溝14をそれぞれ縦設し、
上記係合突条10側の円弧長を係合溝14側の円弧長よりも長くかつそれら両円弧の各曲率半径をほぼ等しくし、
さらにこれら係合突条10及び係合溝14の曲率半径をr、側板8の板厚をdとするときに次式が成立することを特徴とする、組立式風呂桶。
[数式1]2r<d
【請求項2】
上記係合溝14の受面20cの内縁部と外縁部とが係合突条10の内外両側を挟むようにして、風呂桶に水を張ったときに木材の吸水作用により係合溝14と係合突条10とが噛み合うように構成したことを特徴とする、請求項1記載の組立式風呂桶。
【請求項3】
上記係合突条10及び係合溝14の曲率中心を、上から見て各側板の厚さ方向の中心を通る仮想線よりも内側に位置するようにして、上記タガ50と各側板8とがそれら側板外面の巾方向両端側の2か所で当接するように構成したことを特徴とする、請求項1又は請求項2記載の組立式風呂桶。
【請求項4】
各側板8の内面から段差sを介して係合突条10の突面内部分を側外方へ凹没させるとともに、その段差sの巾を、側板8内面から係合溝14の受面20c内縁までの距離dEと等しくして、上記接合角Acを介して隣接する側板8の内面が同一包絡面S上で連なるように構成したことを特徴とする、請求項1から請求項3記載の何れかに記載の組立式風呂桶。
【請求項5】
上記タガ50は、周壁6からの離脱可能な着脱自在であるとともに、締付け力を調整可能な締結部を有し、さらに上記側板8も底壁2に対して着脱可能に形成したことを特徴とする、請求項1から請求項4記載の何れかに記載の組立式風呂桶。
【請求項6】
請求項1から請求項5のうちのいずれかに記載した構造を有する、組立用風呂桶用の木製側板。
【請求項7】
ループ形の輪郭を有する底壁の外周に、垂直な複数の側板を連ねて成る木製の周壁を組み付けて、各側板間の接合角を側外方へ突出する鈍角とするとともに、上記周壁を外側から締め付けるタガを設けてなる組立式風呂桶にあって、
上記底壁2の輪郭に沿って上記接合角Acを調整できるように、その接合箇所で向かい合う2枚の側板8の一端に、上から見て円弧状の外形を有する係合突条10を、また他端に、係合突条を回動可能に受けることができる断面円弧状の受面を有する係合溝14をそれぞれ縦設し、
さらに側板8の第1端面18の略全体に形成する係合突条10と、側板の第2端面20の略全体で形成する係合溝14との間に、乾燥状態で係合溝の受面に沿った空隙40を存して、側板8を連設させ、周壁6内に水を張った状態で側板が第1、第2端面18、20と内面とから水を吸って膨張することで係合突条10と係合溝14とが水密に密着するようにタガ50で締め付け、
さらに組立状態から周壁6の直径を小さくする方向に調整できるように、周壁6の各側板8を底壁の外周面との間に遊びA1を存して組み付けるとともに、タガ50の締め付けを調整できるようにしたことを特徴とする、組立式風呂桶。
【請求項8】
上記周壁6を構成する側板8のうち半数以上を板目材で構成したことを特徴とする、請求項7記載の組立式風呂桶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−172500(P2010−172500A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18506(P2009−18506)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(508050026)
【出願人】(509029999)
【Fターム(参考)】