説明

組織結合用弾性体及びその製造方法

【課題】低コストで簡単に製造可能であって、内視鏡による観察下での病変部位に対する内視鏡処置について、その熟練度が要求されることなく短時間で効率的に行うことを可能にすることで、施術者及び患者への負担を大幅に軽減することが可能なコンパクトな組織結合用弾性体を提供する。
【解決手段】体内の生体組織の少なくとも2箇所の部位を互いに結合するために用いられる組織結合用弾性体であって、無端状に連続して形成された樹脂製の環状弾性体2を備えており、環状弾性体は、その厚さTを200μmに設定することで、当該環状弾性体自身の形状を一定の中空リング状に保持可能に構成されている。この場合、環状弾性体は、天然ゴムラテックスで成形されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡による観察下で内視鏡処置を行う際に用いられる組織結合用弾性体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡による観察下において、患者体内の生体組織に生じた病変部位に内視鏡処置(例えば、切除、治療など)を施す場合、当該病変部位の状態(例えば、位置、大きさ、形状など)を検査して特定した後、その特定した病変部位を切除或いは治療するといった処置が一般的に行われている。なお、病変部位の切除では、例えばレーザーメス、その他の執刀用メス、鉗子、ロープワイヤー等の処置具によって当該病変部位を切り取って除去する方法が知られている。
【0003】
ところで、内視鏡による観察下では、その観察視野に制限があるため、病変部位に対する内視鏡処置を簡単かつ効率的に行うことが困難になってしまう場合がある。
例えば病変部位を切除する場合を想定すると、体内に生じた病変部位の状態(位置、大きさ、形状など)によっては、内視鏡の観察視野内において、当該病変部位を観察可能な方向や領域が限定されてしまう場合がある。
【0004】
そうなると、観察視野内に捉えられない状態にある病変部位に対する切除では、上記した処置具の操作に熟練度が要求されるため、その切除に要する時間が長引いてしまう場合がある。この場合、当該病変部位に対する内視鏡処置を効率的に行うことが困難になってしまう。
そこで、特許文献1には、内視鏡処置を施す際に、所定の弾性力によって病変部位近傍の生体組織を一部つり上げた状態に支持することで、病変部位に対する観察視野を広く確保し、内視鏡処置を効率的に行うための技術思想が示されている。
【0005】
特許文献1には、その技術思想として、管状の滑性部材に伸縮自在に挿通された棒状の弾性部材と、弾性部材の一端側に連結部材を介して連結されたクリップ(以下、第1のクリップという)と、弾性部材の他端側に取り付けられたリング状の係合部とを備えたつり上げ用クリップが示されている。
ここで、患者体内の生体組織に生じた病変部位に内視鏡処置を施す場合、つり上げ用クリップを操作ワイヤの先端にセットした状態で、内視鏡に構成された挿通用チャンネルを通して患者体内に送り込む。
【0006】
次に、操作ワイヤによって第1のクリップを病変部位近傍の生体組織に装着させた後、当該操作ワイヤを挿通用チャンネルから引き抜いて、その先端に新たなクリップ(以下、第2のクリップという)をセットする。そして、当該操作ワイヤを再び挿通用チャンネルに通すことで、第2のクリップを患者体内に送り込む。続いて、操作ワイヤによって第2のクリップを、リング状の係合部に係合させた状態で、当該係合部と共に病変部位に対向する生体組織(以下、支持用生体という)に装着させる。
【0007】
このとき、弾性部材は伸長した状態となり、その伸長量に応じた復元力(収縮力)が第1及び第2のクリップに作用するため、第1のクリップは、第2のクリップの方向に相対的に引っ張られた状態となる。この結果、患者体内において、当該第1のクリップが装着された病変部位近傍の生体組織は、当該第2のクリップが装着された支持用生体の方向に向けて、つり上げられた状態に支持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−62004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の技術思想(つり上げ用クリップ)は、管状の滑性部材や、その中に挿通された弾性部材、及び、連結部材やクリップ、並びに、係合部といった多数の部品を要して構成されているため、当該部品点数に応じて、製造プロセスが煩雑化してしまう共に、その煩雑化した製造プロセスに応じて、製造コストも上昇してしまうといった問題が生じる。
【0010】
また、特許文献1の技術思想(つり上げ用クリップ)は、多数の部品を要する関係上、コンパクト化に一定の限界があるため、内視鏡処置を効率的に行うことが困難になってしまう場合がある。例えば、病変部位が患者体内の比較的狭い体腔領域に生じているような場合を想定すると、管状の滑性部材に伸縮自在に挿通された棒状の弾性部材の向きや配置等の自由度が制限されることで、第1及び第2のクリップの装着位置が限定され、その結果、病変部位近傍の生体組織に対するつり上げ状態が不十分になってしまう虞がある。そうなると、病変部位に対する観察視野を広く確保することができず、内視鏡処置を効率的に行うことが困難になってしまうといった問題が生じる。更に、特許文献1のつり上げ用クリップでは、内視鏡の反転操作が困難であると共に、つり上げた病変部位の反対側に対する内視鏡処置ができないといった問題もある。
【0011】
また、特許文献1の技術思想(つり上げ用クリップ)において、第1及び第2のクリップは、棒状の弾性部材の両端側に互いに比較的遠距離に離間した位置関係に配置されているため、内視鏡による観察下において、例えば操作ワイヤによって第1のクリップを病変部位近傍の生体組織に装着すると共に、第2のクリップを支持用生体に装着するといった処置には、ある程度の熟練度が要求される。この場合、施術者の熟練度によっては、病変部位の切除に要する時間がかかるため、それに応じて、施術者の内視鏡処置に要する負担が増加してしまうと共に、患者自身の身体的な負担も大きくなってしまうといった問題が生じる。
【0012】
本発明は、このような問題を解決するためになされており、その目的は、低コストで簡単に製造可能であって、内視鏡による観察下での病変部位に対する内視鏡処置について、その熟練度が要求されることなく短時間で効率的に行うことを可能にすることで、施術者及び患者への負担を大幅に軽減することが可能なコンパクトな組織結合用弾性体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的を達成するために、本発明は、体内の生体組織の少なくとも2箇所の部位を互いに結合するために用いられる組織結合用弾性体であって、無端状に連続して形成された樹脂製の環状弾性体を備えており、環状弾性体は、その厚さを200μmに設定することで、当該環状弾性体自身の形状を一定の中空リング状に保持可能に構成されている。この場合、環状弾性体は、天然ゴムラテックスで成形されている。
さらに、本発明は、体内の生体組織の少なくとも2箇所の部位を互いに結合するために用いられる組織結合用弾性体であって、無端状に連続して形成された樹脂製の環状弾性体と、環状弾性体のうちの互いに異なる位置に存する部位を、相互に当接させた状態で締結するための締結部材とを備えており、締結部材によって相互に締結された状態の環状弾性体において、締結部材の両側には、それぞれ、その形状を一定の中空リング状に保持可能な保形部が構成されている。
また、本発明は、体内の生体組織の少なくとも2箇所の部位を互いに結合するために用いられる組織結合用弾性体の製造方法であって、無端状に連続した樹脂製の環状弾性体を形成する工程と、環状弾性体のうちの互いに異なる位置に存する部位を、締結部材によって相互に当接させた状態で締結する工程とを有しており、締結部材によって相互に締結された状態の環状弾性体において、締結部材の両側には、それぞれ、その形状を一定の中空リング状に保持可能な保形部が構成される。
この場合、中空リング状の保形部には、当該保形部の一部を体内の生体組織に連結させるために用いる連結機構が取付可能である。なお、環状弾性体は、厚さが60μm〜150μmの範囲に、幅が1.5mm〜2.5mmの範囲に設定されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低コストで簡単に製造可能であって、内視鏡による観察下での病変部位に対する内視鏡処置について、その熟練度が要求されることなく短時間で効率的に行うことを可能にすることで、施術者及び患者への負担を大幅に軽減することが可能なコンパクトな組織結合用弾性体を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る組織結合用弾性体の全体構成を示す斜視図。
【図2】組織結合用弾性体を構成する環状弾性体の斜視図。
【図3】環状弾性体の直径の設定方法を示す斜視図。
【図4】組織結合用弾性体の保形部に連結機構を取り付けて、当該保形部の一部を患者体内の生体組織に連結させる状態を示す斜視図。
【図5】組織結合用弾性体が内視鏡の先端にセットされた状態を模式的に示す斜視図。
【図6】組織結合用弾性体が患者体内の生体組織上に送り込まれた状態を示す斜視図。
【図7】組織結合用弾性体の保形部を連結機構を介して患者体内の生体組織に連結させた状態において、組織結合用弾性体の引っ張り力によって病変部位近傍の生体組織を互いに引き寄せて結合した状態を示す図。
【図8】組織結合用弾性体によって生体組織を互いに結合した状態において、病変部位に内視鏡処置を施している状態を示す図。
【図9】病変部位に対する内視鏡処置に際し、組織結合用弾性体の引っ張り力によって生体組織が、めくり上げられた状態を示す図。
【図10】病変部位に対する内視鏡処置に際し、組織結合用弾性体の引っ張り力によって生体組織が、さらに、めくり上げられた状態を示す図。
【図11】組織結合用弾性体と共に、病変部位が生体組織から切除された状態を示す図。
【図12】本発明の変形例に係る組織結合用弾性体が患者体内の生体組織上に送り込まれた状態を示す斜視図。
【図13】図12に示された組織結合用弾性体を連結機構を介して患者体内の生体組織に連結させた状態において、組織結合用弾性体の引っ張り力によって病変部位近傍の生体組織を互いに引き寄せて結合した状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係る組織結合用弾性体について、添付図面を参照して説明する。
なお、本実施形態の組織結合用弾性体は、内視鏡による観察下において、患者体内の生体組織に生じた病変部位に内視鏡処置(例えば、切除、治療など)を施す際に、当該病変部位近傍の生体組織の少なくとも2箇所の部位を互いに結合するために用いられる。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の組織結合用弾性体1は、無端状に連続して形成された樹脂製の環状弾性体2と、環状弾性体2のうちの互いに異なる位置に存する部位を、相互に当接させた状態で締結するための締結部材4とを備えており、締結部材4によって相互に締結された状態の環状弾性体2において、締結部材4の両側には、それぞれ、その形状を一定の中空リング状に保持可能な保形部P1,P2が構成されている。
【0018】
ここで、環状弾性体2を形成するための樹脂材料としては、生体組織に影響のないものを選択することが好ましい。例えば、天然ゴムラテックス、ポリウレタン樹脂(アニオン性水系ポリウレタン)、イソプレン、ニトリル等の樹脂材料を選択することができる。なお、環状弾性体2に弾性を持たせる点では、天然ゴムラテックスが優れているが、患者体内の生体組織の性質や種類等によってはアレルギー反応を示す場合もあるため、その場合には、ポリウレタン樹脂を選択すればよい。
【0019】
また、図2に示すように、環状弾性体2は、その厚さTが60μm〜150μmの範囲に設定されている。なお、環状弾性体2の厚さTについては、上記した範囲に限定されることはなく、60μm〜100μmの範囲に設定することができる。この場合、環状弾性体2の厚さTのベストモードとしては、60μm或いは100μmに設定することが好ましい。なお、このような環状弾性体2は、例えば圧縮成形や射出成形などの既存の成形法によって成形することができるため、その説明は省略する。
【0020】
また、図2に示すように、環状弾性体2は、その幅Wが1.5mm〜2.5mmの範囲に設定されている。なお、環状弾性体2の幅Wについては、上記した範囲に限定されることはなく、1.8mm〜2.2mmの範囲に設定することができる。この場合、環状弾性体2の幅Wのベストモードとしては、2mmに設定することが好ましい。
【0021】
更に、図3に示すように、環状弾性体2の直径については、当該環状弾性体2の内周面2a(図2参照)を直線状に、かつ長手方向に互いに接触させた状態において、その環状弾性体2の長手寸法Lを測定して設定することができる。なお、長手寸法Lは、組織結合用弾性体1を内視鏡Sの先端部Stにセットした状態において(図5参照)、その全体が内視鏡Sの先端部St内に収容される程度に設定される。
【0022】
別の捉え方をすると、環状弾性体2の直径(長手寸法L)は、組織結合用弾性体1が内視鏡Sの先端部St(図5参照)から外部にはみ出ない程度に設定される。この場合、環状弾性体2の直径は、内視鏡Sの先端Stの収容スペースに応じて最適な長手寸法Lに設定されるため、特に数値限定はしないが、本実施形態では一例として、長手寸法Lのベストモードを10mmに設定した場合を想定する。なお、長手寸法Lを10mmに設定した場合、当該環状弾性体2の直径は、10mm以下(例えば、6〜7mm程度)になることは言うまでもない。
【0023】
ここで、上記した環状弾性体2の厚さT、幅W、長手寸法Lについて、そのベストモードにおける相対比率で示す場合、厚さTが60μm(或いは100μm)を「1」とすると、当該厚さT、幅W、長手寸法Lの関係は、下記の通りとなる。
T(60μm):W(2mm):L(10mm)=1:33:167
T(100μm):W(2mm):L(10mm)=1:20:100
【0024】
また、図1及び図4に示すように、上記した環状弾性体2は、そのうちの互いに異なる位置に存する部位を締結部材4によって相互に当接させた状態で締結される。この場合、締結部材4としては、生体組織に影響のないものを選択することが好ましい。例えば、ナイロン縫合糸、アミロン縫合糸、ポリエステル縫合糸など、市販されている各種の滅菌済み医療用糸を選択することができる。
【0025】
ここで、締結部材(医療用糸)4によって環状弾性体2を締結する方法としては、例えば、環状弾性体2の内周面2a(図2参照)を直線状に、かつ長手方向に互いに接触させた状態において、その環状弾性体2の長手寸法Lの中央部分に、締結部材(医療用糸)4を巻き付けて締結すればよい。この場合、締結部材(医療用糸)4の巻き付け数は、1回或いは2回以上のいずれでもよい。なお、締結部材(医療用糸)4の巻き付け処理は、例えば、既存の糸巻き機械を用いて自動的に行ってもよいし、或いは、人手により行ってもよい。
【0026】
このように、締結部材(医療用糸)4によって環状弾性体2を締結した状態において、当該環状弾性体2には、締結部材4の両側にそれぞれ、その形状を一定の中空リング状に保持可能な保形部P1,P2が構成される。この場合、それぞれの保形部P1,P2は、その自然状態(外的負荷力が作用していない状態)において、自身の保形力によって、中空のリング形状が定常的に保持された状態に維持されると共に、外的負荷力が作用した際には、それに応じて弾性変形して伸縮する特性を発揮する。
【0027】
かかる保形部P1,P2自身の保形力は、上記した環状弾性体2の厚さT、幅W、長手寸法Lについての設定値が上記した相対比率の関係に維持されることで、初めて認められた本実施形態の組織結合用弾性体1の特有の効果である。なお、かかる特有の効果を創出する場合、環状弾性体2に対する締結部材(医療用糸)4の締結位置は、環状弾性体2の長手寸法Lの中央部分から多少左右にずれても構わない。
【0028】
図4に示すように、締結部材4の両側に中空リング状の保形部P1,P2が構成された組織結合用弾性体1において、その保形部P1,P2には、当該保形部P1,P2の一部を患者体内の生体組織に連結させるために用いる連結機構6が取付可能である。この場合、連結機構6としては、医療用処置具として市販されている例えばクリップやフックなどを適用することができるが、ここでは一例として、一対の把持爪6aを備えたクリップ6を想定する。
【0029】
また、かかる連結機構(クリップ)6を保形部P1,P2に取り付ける方法としては、当該連結機構(クリップ)6を、市販されている各種の滅菌済み取付部材(例えば、バンド、糸、ひも等)によって保形部P1,P2に予め取り付けるようにしてもよいが、ここでは一例として、連結機構(クリップ)6を生体組織に連結させる際に、一対の把持爪6aの間に保形部P1,P2を挟み込むことで(図4参照)、当該連結機構(クリップ)6を保形部P1,P2に取り付ける場合を想定する。
【0030】
次に、上記した組織結合用弾性体1を用いて、患者体内の生体組織に生じた病変部位に内視鏡処置を施す際のプロセスについて説明する。
まず、図5に示すように、先端部Stに亘って挿通用チャンネルS1が形成された内視鏡Sを用意し、上記した組織結合用弾性体1を操作ワイヤ8によって先端部Stにセットする。なお、内視鏡Sには、その先端部Stに、挿通用チャンネルS1のチャンネル開口S2が形成されていると共に、図示しない光源からの光で患者体内を照明するためのライトガイドS3や、患者体内の様子を目視観察するための対物レンズS4などが設けられている。
【0031】
ここで、組織結合用弾性体1を操作ワイヤ8によって先端部Stにセットする方法としては、例えば、操作ワイヤ8の先端に連結機構6(以下、第1のクリップ6という)を取り付けた後、当該第1のクリップ6と組織結合用弾性体1とを例えば滅菌済み糸10で連結し、その状態で、組織結合用弾性体1と共に操作ワイヤ8を挿通用チャンネルS1に挿通することで、組織結合用弾性体1を内視鏡Sの先端部Stにセットすればよい。このとき、組織結合用弾性体1は、挿通用チャンネルS1内において、第1のクリップ6とチャンネル開口S2との間に位置付けられ、その全体が内視鏡Sの先端部St内に収容された状態となっている。
【0032】
続いて、内視鏡Sを患者体内に挿入し、その先端部Stを生体組織Fに生じた病変部位Gに向けて位置付けた後(図6参照)、操作ワイヤ8によって第1のクリップ6を挿通用チャンネルS1のチャンネル開口S2から患者体内に送り出す。これにより、図6に示すように、第1のクリップ6に連結された組織結合用弾性体1も、チャンネル開口S2から患者体内に送り出される。このとき、患者体内に送り出された組織結合用弾性体1は、その各保形部P1,P2(以下、第1及び第2の保形部P1,P2という)が自身の保形力によって中空のリング形状に定常的に保持された状態に維持される。なお、組織結合用弾性体1は、上記した滅菌済み糸10で連結された状態にあるため、患者体内に送り出された際に見失うことはなく、簡単に内視鏡Sの観察視野内に位置付けることができる。
【0033】
次に、操作ワイヤ8によって、第1のクリップ6の一対の把持爪6aの間に第1の保形部P1を挟み込みながら(図4参照)、当該一対の把持爪6aを病変部位G近傍の生体組織(以下、第1の生体組織F1という)に噛み込ませて、当該第1の保形部P1の一部を当該第1の生体組織F1に連結させる。続いて、操作ワイヤ8を挿通用チャンネルS1から引き抜いて、その先端に新たな連結機構6(以下、第2のクリップ6という)を取り付けた後、当該操作ワイヤ8を再び挿通用チャンネルS1に通すことで、第2のクリップ6を患者体内に送り込む。
【0034】
そして、上記同様に、操作ワイヤ8によって、第2のクリップ6の一対の把持爪6aの間に第2の保形部P2を挟み込みながら(図4参照)、当該一対の把持爪6aを病変部位G近傍の生体組織(以下、第2の生体組織F2という)に噛み込ませて、当該第2の保形部P2の一部を当該第2の生体組織F2に連結させる。この場合、第2の生体組織F2の位置は、病変部位Gを挟んで第1の生体組織F1とは反対側に特定し、一対の把持爪6aの間に挟み込んだ第2の保形部P2を第2の生体組織F2に向けて引っ張りながら、当該一対の把持爪6aを当該第2の生体組織F2に噛み込ませる
【0035】
このとき、組織結合用弾性体1は、第1及び第2のクリップ6の間で伸長した状態となり、その伸長量に応じた復元力(収縮力)が当該第1及び第2のクリップ6相互に作用する。このため、第1のクリップ6を介して第1の保形部P1が連結された第1の生体組織F1は、組織結合用弾性体1の復元力(収縮力)によって、第2のクリップ6を介して第2の保形部P2が連結された第2の生体組織F2の方向に相対的に引っ張られた状態に支持される。
【0036】
これにより、図7に示すように、病変部位G近傍の第1及び第2の生体組織F1,F2は、組織結合用弾性体1の引っ張り力によって、他の生体組織Fよりも突出し、かつ、互いに引き寄せられて結合した状態に維持される。この場合、患者体内の生体組織Fに生じた病変部位Gに対する内視鏡処置を施す部位を、内視鏡Sの観察視野内に明瞭に露出させることができる。この結果、病変部位Gに対する観察視野を広く確保することができるため、例えば病変部位Gに対する切除では、内視鏡Sの観察視野内において、複数の切除可能部位M1,M2を簡単かつ確実に目視確認することができる。
【0037】
ここで、図8に示すように、病変部位Gに対する内視鏡処置の一例として、切除可能部位M1から病変部位Gに対する切除を行う場合を想定して説明する。
まず、図9に示すように、例えばレーザーメス等の処置具によって切除可能部位M1を切除していくと、その切除量に応じて、第1の生体組織F1は、組織結合用弾性体1の引っ張り力によって、徐々に、めくり上げられる。
【0038】
続いて、図10に示すように、当該切除可能部位M1に対する切除量を増加させていくと、その増加量に応じて、当該第1の生体組織F1は、組織結合用弾性体1の引っ張り力によって、さらに、めくり上げられる。この場合、切除された第1の生体組織F1が、順次、めくり上げられることで、内視鏡Sの観察視野内には、常に新しい切除可能部位M1が露出されることになる。このため、施術者は、切除方向や切除量等を簡単に目視確認しながら、切除可能部位M1に対する内視鏡処置を安全確実に施すことができる。
【0039】
そして、図11に示すように、病変部位Gが生体組織Fから切除されたとき、当該病変部位Gは、その近傍の生体組織F1,F2が組織結合用弾性体1によって互いに引き寄せられて結合した状態で、当該組織結合用弾性体1と共に生体組織Fから切り離される。別の言い方をすると、当該病変部位Gは、組織結合用弾性体1の引っ張り力で互いに結合した生体組織F1,F2の中に丸め込まれた状態に維持される。このため、既存の専用治具によって、病変部位Gを、組織結合用弾性体1及び第1及び第2のクリップ6と共に簡単かつ確実に回収し、体外へ摘出することができる。
【0040】
以上、本実施形態の組織結合用弾性体1によれば、その構成は、環状弾性体2と締結部材4だけであるため、上記した特許文献1の技術思想(つり上げ用クリップ)や他の従来品に比べて、部品点数を大幅に削減することができる。この場合、組織結合用弾性体1の製造プロセスは、例えば、圧縮成形や射出成形などの既存の成形法で環状弾性体2を成形した後、環状弾性体2の異なる部位を締結部材(医療用糸)4で相互に締結するだけである。これによれば、製造プロセスを簡略化することができるため、製造コストを大幅に低減させることができる。更に、上記した特許文献1では、体内にクリップが残留してしまうが、本実施形態では、病変部位Gと、組織結合用弾性体1及び第1及び第2のクリップ6とが共に体外へ排出されるため、体内に残留するものは一切無い。
【0041】
また、本実施形態の組織結合用弾性体1によれば、環状弾性体2と締結部材4の2つの部品だけで構成することができるため、使用環境や使用目的に応じたコンパクト化の要請に十分に対応することができる。これによれば、例えば病変部位Gが患者体内の比較的狭い体腔領域に生じているような場合でも、当該組織結合用弾性体1の向きや配置等の自由度が制限されることなく、内視鏡処置を効率的に行うことができる。
【0042】
また、本実施形態の組織結合用弾性体1によれば、締結部材(医療用糸)4によって環状弾性体2を締結した状態において、締結部材4の両側にそれぞれ、その形状が定常的に中空のリング状に保持可能な保形部P1,P2を構成することができる。この場合、内視鏡処置に際し、内視鏡Sから組織結合用弾性体1を患者体内に送り出したとき、保形部P1,P2は、例えば体液等で濡れて捩れたり、くっ付いたりすることなく、常に一定の中空リング状に維持される。これによれば、内視鏡処置に際し、連結機構(クリップ)6を保形部P1,P2に短時間で簡単にかつ確実に取り付けることができるため、内視鏡処置を効率的に行うことができる。
【0043】
また、本実施形態の組織結合用弾性体1によれば、病変部位G近傍の第1及び第2の生体組織F1,F2を、当該組織結合用弾性体1の引っ張り力によって、他の生体組織Fよりも突出し、かつ互いに引き寄せられて結合した状態に維持させることができる。これによれば、患者体内の生体組織Fに生じた病変部位Gに対する内視鏡処置を施す部位(複数の切除可能部位M1,M2)を、常に、内視鏡Sの観察視野内に明瞭に露出させることができる。この場合、例えば病変部位Gに対する切除では、内視鏡Sの観察視野内に、常に新しい切除可能部位M1が露出されることになるため、施術者は、切除方向や切除量等を簡単かつ確実に目視確認しながら、切除可能部位M1に対する内視鏡処置を安全確実にかつ効率的に施すことができる。この結果、例えば病変部位G近傍の生体組織Fの切除領域を必要最小限に抑えることができるため、患者自身の身体的な負担を大幅に軽減することができる。
【0044】
また、本実施形態の組織結合用弾性体1によれば、上記した連結機構(クリップ)6を保形部P1,P2に取り付けて、第1及び第2の生体組織F1,F2に連結させた後、例えば病変部位Gに対する切除を行うといった内視鏡処置は、内視鏡Sの観察視野内で簡単に行うことができる。このため、当該組織結合用弾性体1を用いた内視鏡処置には、施術者の熟練度が一切要求されることはない。これによれば、施術者の熟練度を問わず、病変部位Gの切除を短時間に終わらせることができる。この結果、施術者の内視鏡処置に要する負担を大幅に軽減することができると共に、患者自身の身体的な負担も大幅に軽減することができる。
【0045】
また、本実施形態の組織結合用弾性体1によれば、当該組織結合用弾性体1を内視鏡Sの先端部Stにセットした状態において、その全体が内視鏡Sの先端部St内に収容されて、外部に、はみ出ないように構成されている。これによれば、組織結合用弾性体1は、その衛生状態が常に維持されると共に、外界物との接触による磨耗や損傷等の影響を受けることはない。
【0046】
また、本実施形態の組織結合用弾性体1によれば、環状弾性体2及び締結部材(医療用糸)4は、患者体内に影響を与えない材質で構成することができるため、アレルギー等の問題も生じない。
【0047】
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されることはなく、以下のような変形例も本発明の技術範囲に含まれる。
上記した実施形態では、環状弾性体2の長手寸法Lの中央部分に締結部材(医療用糸)4を巻き付けることにより、組織結合用弾性体1に2つの保形部P1,P2を構成する場合を想定したが、これに代えて、3つ以上の保形部を構成してもよい。
【0048】
この場合、上記した厚さT、幅W、長手寸法Lの相対比率の関係を維持しつつ、例えば環状弾性体2の長手寸法Lを3等分した位置に、2つの締結部材(医療用糸)4を巻き付けることにより、組織結合用弾性体1に3つの保形部を構成することができる。そして、各保形部にそれぞれ連結機構6を取り付けて生体組織Fに連結させることにより、病変部位G近傍の3ヶ所の生体組織を他の部位よりも突出させることができる。
このように、保形部の数を増やすことで、病変部位Gに対する内視鏡処置を施すことが可能な部位の選択の自由度を増加させることができるため、内視鏡処置の効率化をさらに向上させることができる。
【0049】
また、上記した実施形態では、環状弾性体2の厚さTを60μm〜150μmの範囲に設定する場合を想定して説明したが、これに代えて、厚さTを200μmに設定し、天然ゴムラテックスで環状弾性体2を成形するようにしても良い。なお、当該環状弾性体2の幅W、直径(長手寸法L)は、上記した実施形態と同様もよいが、幅Wを2mm、長手寸法Lを8mm(直径=5mm)に設定することが好ましい。
かかる変形例によれば、上記した締結部材4を用いること無く、環状弾性体2自身に保形力を持たせることができるため、その形状を一定の中空リング状に保持可能な環状弾性体2を構成することができる。
【0050】
また、本変形例によれば、内視鏡処置を行う際、内視鏡Sから患者体内に送り出された組織結合用弾性体1(即ち、環状弾性体2)は、当該環状弾性体2自身の保形力によって中空のリング形状に定常的に保持された状態に維持される(図12参照)。これにより、環状弾性体2を第1及び第2のクリップ6で挟み込みながら、病変部位G近傍の生体組織の両側(第1の生体組織F1、第2の生体組織F2)に、短時間に且つ確実に連結させることができる。
【0051】
このとき、図13に示すように、病変部位G近傍の第1及び第2の生体組織F1,F2は、組織結合用弾性体1(即ち、環状弾性体2)の引っ張り力によって、他の生体組織Fよりも突出し、かつ、互いに引き寄せられて結合した状態に維持される。この場合、患者体内の生体組織Fに生じた病変部位Gに対する内視鏡処置を施す部位を、内視鏡Sの観察視野内に明瞭に露出させることができる。この結果、病変部位Gに対する観察視野を広く確保することができるため、例えば病変部位Gに対する切除では、内視鏡Sの観察視野内において、複数の切除可能部位M1,M2を簡単かつ確実に目視確認することができる。
なお、本変形例における内視鏡処置(切除)プロセス、並びに効果については、上記した実施形態と同様に適用することができるため、その説明は省略する。
【符号の説明】
【0052】
2 環状弾性体
4 締結部材
6 連結機構
P1,P2 保形部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内の生体組織の少なくとも2箇所の部位を互いに結合するために用いられる組織結合用弾性体であって、
無端状に連続して形成された樹脂製の環状弾性体を備えており、
環状弾性体は、その厚さを200μmに設定することで、当該環状弾性体自身の形状を一定の中空リング状に保持可能に構成されていることを特徴とする組織結合用弾性体。
【請求項2】
環状弾性体は、天然ゴムラテックスで成形されていることを特徴とする請求項1に記載の組織結合用弾性体。
【請求項3】
体内の生体組織の少なくとも2箇所の部位を互いに結合するために用いられる組織結合用弾性体であって、
無端状に連続して形成された樹脂製の環状弾性体と、
環状弾性体のうちの互いに異なる位置に存する部位を、相互に当接させた状態で締結するための締結部材とを備えており、
締結部材によって相互に締結された状態の環状弾性体において、締結部材の両側には、それぞれ、その形状を一定の中空リング状に保持可能な保形部が構成されていることを特徴とする組織結合用弾性体。
【請求項4】
中空リング状の保形部には、当該保形部の一部を体内の生体組織に連結させるために用いる連結機構が取付可能であることを特徴とする請求項3に記載の組織結合用弾性体。
【請求項5】
環状弾性体は、厚さが60μm〜150μmの範囲に、幅が1.5mm〜2.5mmの範囲に設定されていることを特徴とする請求項3又は4に記載の組織結合用弾性体。
【請求項6】
体内の生体組織の少なくとも2箇所の部位を互いに結合するために用いられる組織結合用弾性体の製造方法であって、
無端状に連続した樹脂製の環状弾性体を形成する工程と、
環状弾性体のうちの互いに異なる位置に存する部位を、締結部材によって相互に当接させた状態で締結する工程とを有しており、
締結部材によって相互に締結された状態の環状弾性体において、締結部材の両側には、それぞれ、その形状を一定の中空リング状に保持可能な保形部が構成されることを特徴とする組織結合用弾性体の製造方法。
【請求項7】
中空リング状の保形部には、当該保形部の一部を体内の生体組織に連結させるために用いる連結機構が取付可能であることを特徴とする請求項6に記載の組織結合用弾性体の製造方法。
【請求項8】
環状弾性体は、厚さが60μm〜150μmの範囲に、幅が1.5mm〜2.5mmの範囲に設定されていることを特徴とする請求項6又は7に記載の組織結合用弾性体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−217937(P2011−217937A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90115(P2010−90115)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(000000550)オカモト株式会社 (118)
【出願人】(510099970)学校法人順天堂大学 (1)
【Fターム(参考)】