説明

結晶シリコン系太陽電池

【課題】薄いp型単結晶あるいは多結晶シリコン基板を用いたヘテロ接合太陽電池において、光電変換効率に優れた結晶シリコン太陽電池を提供する。
【解決手段】厚みが150μm以下のp型単結晶シリコン基板2あるいはp型多結晶シリコン基板を用い、前記基板の光入射面にn型シリコン系薄膜層4を有し、前記基板と前記n型シリコン系薄膜層の間に実質的に真正なシリコン系薄膜層3を備え、前記基板の裏面にp型シリコン系薄膜層7を有し、前記基板と前記p型シリコン系薄膜層の間に実質的に真正なシリコン系薄膜層6を備えた結晶シリコン太陽電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶シリコン基板表面にヘテロ接合を有する結晶シリコン太陽電池に関し、更に詳しくは光電変換効率に優れた結晶シリコン太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
結晶シリコン基板を用いた結晶シリコン太陽電池は、光電変換効率が高く、既に太陽光発電システムとして広く一般に実用化されている。中でも単結晶シリコンとはバンドギャップの異なる非晶質シリコン系薄膜を単結晶表面へ製膜し、拡散電位を形成した結晶シリコン太陽電池はヘテロ接合太陽電池と呼ばれている。
【0003】
さらに、中でも拡散電位を形成するための導電型非晶質シリコン系薄膜と結晶シリコン表面の間に薄い真性の非晶質シリコン層を介在させる太陽電池は、変換効率の最も高い結晶シリコン太陽電池の形態の一つとして知られており、n型単結晶シリコンを用いたものが実用化され、高い変換効率を実現している(例えば、非特許文献1参照)。結晶シリコン表面と導電型非晶質シリコン系薄膜の間に薄い真性な非晶質シリコン層を製膜することで、製膜による新たな欠陥準位の生成を低減しつつ、結晶の表面に存在する欠陥(主にシリコンの未結合手)を水素で終端化処理することができる。また、導電型非晶質シリコン系薄膜を製膜する際の、キャリア導入不純物の結晶シリコン表面への拡散を防止することもできる。
【0004】
近年、結晶シリコン太陽電池のコスト低減の観点から供給量の多いp型単結晶シリコン基板あるいはp型多結晶シリコン基板を用いる検討が精力的に行われている。しかしながら、p型単結晶シリコン基板を用いたヘテロ接合太陽電池では、n型非晶質シリコンとのヘテロ接合界面で得られるマイノリティーキャリアのエネルギー障壁(バンドオフセット)が小さいことや、p型単結晶シリコンおよび光入射と反対側(裏面側)のp型非晶質シリコンのマイノリティーキャリアの移動度が高いことによる裏面側でのキャリア再結合による太陽電池駆動時の電圧低下が指摘されている(例えば、非特許文献2参照)。実際、p型単結晶あるいは多結晶シリコン基板を用いたヘテロ接合太陽電池では、n型単結晶シリコン基板を用いたものと比較して2割程度低い変換効率のものしか得られていない(例えば、非特許文献3参照)。
【0005】
また、キャリアとなる電子と正孔では、通常シリコンにおいては正孔の拡散長は電子の拡散長の3分の1程度であるため、p型単結晶あるいは多結晶シリコンの光入射に近い側で光生成された正孔は、その拡散長の短さから十分に裏面側に到達できず、十分に発電に寄与することができないという問題もあった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K. Kawamoto et.al, Technical Digest 12th Intern. PVSEC, Korea, 289−290 (2001)
【非特許文献2】R. Stangl et.al, 17th EPVSEC, Munich, 345, (2001).
【非特許文献3】D.H. Levi et.al, Mat. Res. Soc. Symp. Proc. Vol. 808, A8.3.1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、薄いp型単結晶あるいは多結晶シリコン基板を用いたヘテロ接合太陽電池において、光電変換効率に優れた結晶シリコン太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、薄いp型単結晶あるいは多結晶シリコン基板を用いたヘテロ接合太陽電池において、p型単結晶あるいは多結晶シリコン基板の光入射側にi型非晶質シリコン層/n型シリコン系薄膜を形成し、かつ裏面側にi型非晶質シリコン層/p型シリコン系薄膜を形成することで、生産コストを低減し、かつn型単結晶あるいは多結晶シリコン基板を用いた場合と同程度の変換効率が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、厚みが150μm以下のp型単結晶シリコン基板あるいはp型多結晶シリコン基板を用い、前記基板の光入射面にn型シリコン系薄膜層を有し、前記基板と前記n型シリコン系薄膜層の間に実質的に真正なシリコン系薄膜層を備え、前記基板の裏面にp型シリコン系薄膜層を有し、前記基板と前記p型シリコン系薄膜層の間に実質的に真正なシリコン系薄膜層を備えたこととを特徴とする結晶シリコン太陽電池に関する。
【0010】
好ましい実施態様は、前記n型シリコン系薄膜層がn型シリコンカーバイド薄膜層またはn型シリコン酸化物薄膜層で構成されていることを特徴とする前記の結晶シリコン太陽電池に関する。
【0011】
好ましい実施態様は、前記p型シリコン系薄膜層がp型シリコンカーバイド薄膜層またはp型シリコン酸化物薄膜層で構成されていることを特徴とする前記の結晶シリコン太陽電池に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、光入射側のヘテロ接合により発生するバンドオフセットを最適化することが可能となり、また裏面側のキャリアの再結合による特性低下を抑制し、また150μm以下という薄いp型単結晶あるいは多結晶シリコン基板を用いることで、正孔の拡散長の短さによる特性低下を抑制し、さらにはp型基板を用いることによる低コストを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1に係る結晶シリコン太陽電池の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお本願の各図において、厚さや長さなどの寸法関係については図面の明瞭化と簡略化のため適宜変更されており、実際の寸法関係を表してはいない。また、各図において、同一の参照符号は同一部分または相当部分を表している。
【0015】
本発明の結晶シリコン太陽電池は、厚みが150μm以下のp型単結晶シリコン基板あるいはp型多結晶シリコン基板を用い、前記基板の光入射面にn型シリコン系薄膜層を有し、前記基板と前記n型シリコン系薄膜層の間に実質的に真正なシリコン系薄膜層を備え、前記基板の裏面にp型シリコン系薄膜層を有し、前記基板と前記p型シリコン系薄膜層の間に実質的に真正なシリコン系薄膜層を備えたこととを特徴とする。
【0016】
一般に、結晶シリコン基板へ入射した光が最も多く吸収される入射側のへテロ接合を逆接合として強い電場を設けることで、電子正孔対を効率的に分離回収することができる。よって入射側のヘテロ接合は逆接合とすることが好ましい。一方で、ホールと電子を比較した場合、有効質量及び散乱断面積の小さい電子の方が一般的に移動度は大きい。
【0017】
以上の観点から、使用する半導体基板は、n型単結晶シリコン半導体基板であることが好ましいが、本発明においては、コスト低減の観点から、p型単結晶あるいは多結晶シリコン基板(以下、特に断りのない限りp型結晶シリコン基板ともいう)を用い、n型結晶シリコン基板を用いた場合と同程度の変換効率を以下の形態によって実現するものである。
【0018】
本発明の基本的な構成としては、結晶シリコン太陽電池1は、例えば、p型結晶シリコン基板2に光入射面i型非晶質シリコン系薄膜層3/n型シリコン系薄膜層4/光入射面透明導電膜層5となり、光入射側がn層である。また裏面側は、p型結晶シリコン基板2に裏面i型非晶質シリコン系薄膜層6/p型シリコン系薄膜層7/裏面透明導電膜層8とすることが好ましい。
【0019】
前記のp型結晶シリコン基板2の厚みは、p型結晶シリコン中のキャリア移動度の観点から、150μm以下であることが好ましく、更に好ましくは100μm以下である。一方、p型結晶シリコン基板2の厚みの下限値は、製造時の安定性と光吸収の観点から、30μm以上が好ましく、さらには50μm以上がより好ましい。
【0020】
つぎに、光入射面透明導電膜層5及び裏面透明導電膜層8(以下、まとめて透明導電膜層5および8ともいう)については、例えばITO(酸化インジウム・スズ)、SnO2あるいは酸化亜鉛(以下、ZnOともいう)等の導電性金属酸化物から形成されることが好ましく、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)、スパッタ、蒸着、電着、塗布等の方法を用いて形成されることが好ましい。特に、導電性の観点から、酸化亜鉛層の上に酸化インジウムといった別種の導電性金属酸化物層を製膜することが好ましい。この場合、酸化亜鉛層の膜厚は、光学的に光を効果的に入射させる観点から、10nm以上であることが好ましく、酸化亜鉛層を含む導電性金属酸化物層の膜厚は60〜140nmであることが好ましく、80〜120nmであることが更に好ましい。
【0021】
前記のスパッタ蒸着を用いる場合、酸化亜鉛のドーパントはAlやGa、In、Siといったものが挙げられるが、Alをドーパントとして1〜5%添加したものが好ましく用いられる。製膜時のスパッタガスはArであることが好ましい。また、透明導電膜層5および8上に、公知の方法にて集電極9および10を形成することが好ましい。
【0022】
熱CVD法によって製膜された酸化亜鉛は結晶粒が大きく、表面に微細なテクスチャを有する傾向がある。このテクスチャは、反射防止構造や光散乱構造として機能するため、光学的に好ましい。この場合のドーパントとしては、例えばBが挙げられる。また、熱CVD法による酸化亜鉛層を用いる場合、n型シリコン層へのB原子の拡散を抑えるために、B添加量を製膜初期には無くすか、減らしておくと好ましい。また、熱CVD法による製膜前に、結晶性の低いInやSiといったドーパントを含む酸化亜鉛層を製膜しておいても良い。
【0023】
裏面透明導電膜層8に反射層を形成すると更に好ましい(図1では図示せず)。反射層はAgやAlといった金属層でも良く、MgOやAl23、白色亜鉛といった金属酸化物からなる白色高反射材料でも良い。但し、セラミック系材料は絶縁体であるため透明導電膜層上に集電極を形成した後に製膜することが好ましい。
【0024】
p型結晶シリコン基板2が単結晶シリコン基板の場合の入射面は(100)面であるように切り出されていることが好ましい。これは、エッチングする場合に(100)面と(111)面のエッチングレートが異なる異方性エッチングによって容易にテクスチャ構造を形成できるためである。一般的にテクスチャサイズはエッチングが進行すればするほど大きくなる。例えば、エッチング時間を長くするとテクスチャサイズは大きくなるが、反応速度が大きくなるようにエッチャント濃度、供給速度の増加や液温の上昇等によってもテクスチャサイズを大きくすることができる。また、エッチングが開始される表面状態によってもエッチング速度が異なるため、ラビング等の工程を実施した表面とそうでない表面とではテクスチャサイズが異なる。また、基板表面に形成されたテクスチャの鋭い谷部では、薄膜を製膜する際の圧縮応力によって、欠陥が発生しやすいため、テクスチャ形成エッチング後に形成したテクスチャの谷や山の形状を緩和する工程として、(100)面と(111)面の選択性の低い等方性エッチングを行うことが好ましい。またp型結晶シリコン基板2が多結晶シリコン基板の場合も基板表面にテクスチャを持つように加工することが好ましい。
【0025】
テクスチャ形成後、p型結晶シリコン基板2の表面にシリコン系薄膜を製膜する。製膜方法としては、プラズマCVD法が好ましい。シリコン系薄膜の形成条件としては、基板温度100〜300℃、圧力20〜2600Pa、高周波パワー密度0.003〜0.5W/cm2が好ましく用いられる。シリコン系薄膜形成に使用する原料ガスとしては、例えばSiH4、Si26等のシリコン含有ガス、またはそれらのガスとH2を混合したものが好ましく用いられる。シリコン系薄膜におけるp型またはn型層を形成するためのドーパントガスとしては、例えば、B26またはPH3等が好ましく用いられる。また、PやBといった不純物の添加量は微量でよいため、予めSiH4やH2で希釈された混合ガスを用いることが好ましい。また、CH4、CO2、NH3、GeH4等といった異種元素を含むガスを添加することで、合金化しエネルギーギャップを変更することもできる。
【0026】
実質的に真正な光入射面i型シリコン系薄膜層3および裏面i型シリコン系薄膜層6は、シリコンと水素で構成されるi型非晶質シリコンであることが好ましい。i型非晶質シリコン層のCVD製膜時にp型結晶シリコン基板2への不純物拡散を抑えつつ表面パッシベーションを有効に行うことができる。また、膜中の水素量を変化させることで、エネルギーギャップにキャリア回収を行う上で有効なプロファイルを持たせることができる。
【0027】
なお、本発明のように半導体のpn接合を用いる光電変換装置の場合、光電変換に寄与するキャリアが発生するのはpn接合界面近傍に形成される空乏層であり、そのため空乏層に入射する光を多くする必要がある。p型結晶シリコン基板を用いる場合、光入射面に薄いn層を形成することで、光入射面の近傍に空乏層を形成し、空乏層に入射する光のロスを低減することができるため好ましい。また裏面側は、界面の欠陥によるロスを低減し、かつ導電性を高める観点からも同導電型であるp層を形成する構造が好ましい。
【0028】
n型シリコン系薄膜層4は、n型シリコンカーバイド層かn型シリコン酸化物層であることが好ましく、非晶質であることが好ましいが、結晶成分を含んでいても構わない。n型シリコンカーバイド層あるいはn型シリコン酸化物層は、n型非晶質シリコンよりもp型結晶シリコン基板2と大きいバンドオフセットを形成し、またワイドギャップの低屈折率層として光学的なロスを低減できる点において好ましい。
【0029】
p型シリコン系薄膜層7は、裏面側でのキャリアの再結合によるロスを抑制するためにマイノリティーキャリアの拡散長が小さいp型シリコンカーバイド層あるいはp型シリコン酸化物層が好ましく、非晶質であるとより好ましい。
【0030】
透明導電膜層5および8上には集電極9および10が形成される。集電極は、インクジェット、スクリーン印刷、導線接着、スプレー等の公知技術によって作製できるが、生産性の観点からスクリーン印刷がより好ましい。スクリーン印刷は金属粒子と樹脂バインダーからなる導電ペーストをスクリーン印刷によって印刷し、集電極を形成する工程が好ましく用いられる。
【0031】
集電極に用いられる導電ペーストの固化も兼ねてセルのアニールが行われうる。アニールによって、透明導電膜層の透過率/抵抗率比の向上、接触抵抗や界面準位の低減といった各界面特性の向上なども得られる。アニール温度としては実質的に真正なシリコン系薄膜の製膜温度から100℃前後の高温度領域が好ましい。アニール温度が高すぎると、導電型シリコン系薄膜層から真性シリコン系薄膜層へのドーパントの拡散、透明導電膜層からシリコン領域への異種元素の拡散による不純物準位の形成、実質的に真正なシリコン中での欠陥準位の形成などによって、特性が悪化する場合がある。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
(実施例1)
図1は、本発明に従う実施例1の結晶シリコン太陽電池を示す模式的断面図である。本実施例の結晶シリコン太陽電池はヘテロ接合太陽電池であり、p型単結晶シリコン基板2の両面にそれぞれテクスチャを備えている。p型単結晶シリコン基板2の光入射面にはi型非晶質シリコン層3/n型非晶質シリコンカーバイド層4/酸化インジウム層5が製膜されている。酸化インジウム層5の上には集電極9が形成されている。一方、p型単結晶シリコン基板2の裏面にはi型非晶質シリコン層6/p型非晶質シリコンカーバイド層7/酸化亜鉛層8が製膜されている。酸化亜鉛層8の上には集電極10が形成されている。
【0034】
図1に示す実施例1の結晶シリコン太陽電池1を以下のようにして製造した。
【0035】
入射面の面方位が(100)で、厚みが80μmのp型単結晶シリコン基板をアセトン中で洗浄した後、2重量%のHF水溶液に3分間浸漬し、表面の酸化シリコン膜を除去し、超純水によるリンスを2回行った。次に70℃に保持した5/15重量%のKOH/イソプロピルアルコール水溶液に15分間浸漬し、基板表面をエッチングすることでテクスチャを形成した。その後に超純水によるリンスを2回行った。AFM(Pacific Nanotechnology社のNano−Rシステム)によるp型単結晶シリコン基板2の表面観察を行ったところ、基板表面はエッチングが最も進行しており(111)面が露出したピラミッド型のテクスチャが形成されていた。
【0036】
エッチングが終了したp型単結晶シリコン基板2をCVD装置へ導入し、入射面にi型非晶質シリコン層3を3nm製膜した。本実験において製膜した薄膜の膜厚は、ガラス基板上に同条件にて製膜した場合の膜厚を分光エリプソメトリー(ジェー・エー・ウーラム・ジャパン(株)のVASE)にて測定し、製膜速度を求め、同じ製膜速度にて製膜されていると仮定して算出した。i型非晶質シリコン層3の製膜条件は、基板温度が170℃、圧力120Pa、SiH4/H2流量比が3/10、投入パワー密度が0.011W/cm-2であった。i型非晶質シリコン層3の上にn型非晶質シリコンカーバイド層4を4nm製膜した。n型非晶質シリコンカーバイド層4の製膜条件は、基板温度が170℃、圧力60Pa、SiH4/CH4/PH3流量比が1/2/3、投入パワー密度が0.01W/cm-2であった。なお、本実験でいうPH3ガスは、PH3濃度を5000ppmまでH2で希釈したガスを用いた。
【0037】
次に裏面側にi型非晶質シリコン層6を6nm製膜した。i型非晶質シリコン層6の製膜条件は、基板温度が170℃、圧力120Pa、SiH4/H2流量比が3/10、投入パワー密度が0.011W/cm-2であった。i型非晶質シリコン層6上にp型非晶質シリコンカーバイド層7を4nm製膜した。p型非晶質シリコンカーバイド層7の製膜条件は、基板温度が170℃、圧力60Pa、SiH4/CH4/B26流量比が1/2/2、投入パワー密度が0.01W/cm-2であった。なお、本実験でいうB26ガスは、B26濃度を5000ppmまでH2で希釈したガスを用いた。
【0038】
次に裏面のp型非晶質シリコンカーバイド層7上に、スパッタリング法により酸化亜鉛層8を100nm製膜した。スパッタリングターゲットはAl23をZnOへ2%添加したものを用いた。n型非晶質シリコンカーバイド層4上に酸化インジウム層5をスパッタリング法によって100nm製膜した。スパッタリングターゲットはIn23へSnを10%添加したものを用いた。最後に、これら透明導電膜層5および8上に、銀ペーストをスクリーン印刷し、櫛形電極を形成し、集電極9および10とした。
【0039】
(実施例2)
実施例2においては、p型結晶シリコン基板として80μmの厚みを有するp型多結晶シリコン基板2を用いた点においてのみ実施例1と異なっていた。
【0040】
(実施例3)
実施例3においては、光入射側に4nmの膜厚のn型非晶質シリコン酸化物層4を用いた点においてのみ実施例1と異なっていた。このときn型非晶質シリコン酸化物層4の製膜条件は、基板温度が170℃、圧力60Pa、SiH4/CO2/PH3流量比が1/3/5、投入パワー密度が0.01W/cm-2であった。
【0041】
(実施例4)
実施例4においては、裏面側に4nmの膜厚のp型非晶質シリコン酸化物層7を用いた点においてのみ実施例1と異なっていた。このときp型非晶質シリコン酸化物層7の製膜条件は、基板温度が170℃、圧力60Pa、SiH4/CO2/B26流量比が1/1/5、投入パワー密度が0.01W/cm-2であった。
【0042】
(参考例1)
参考例1においては、実施例1において基板としたp型単結晶シリコン基板の代わりに80μmの厚みを有するn型単結晶シリコン基板2を用い、光入射側にp型非晶質シリコン層4を用い、更に裏面側にn型非晶質シリコン層7を用い、p層側から光入射した点においてのみ実施例1と異なっていた。
【0043】
(参考例2)
参考例2においては、参考例1において基板としたn型単結晶シリコン基板の代わりに80μmの厚みを有するn型多結晶シリコン基板2を用いた点においてのみ比較例1と異なっていた。
【0044】
(実施例5)
実施例5においては、実施例1において製膜したn型非晶質シリコンカーバイド層の代わりに、n型非晶質シリコン層4を4nm製膜した点においてのみ実施例1と異なっていた。
【0045】
(実施例6)
実施例6においては、裏面のp型非晶質シリコンカーバイド層の代わりにp型非晶質シリコン層7を4nm製膜した点においてのみ実施例1と異なっていた。
【0046】
(比較例1)
比較例1においては、厚みが200μmのp型単結晶シリコン基板2を用いた点においてのみ実施例1と異なっていた。
【0047】
(比較例2)
比較例2においては、厚みが200μmのp型単結晶シリコン基板2を用いた点においてのみ実施例5と異なっていた。
【0048】
(比較例3)
比較例3においては、厚みが200μmのp型単結晶シリコン基板2を用いた点においてのみ実施例6と異なっていた。
【0049】
上記実施例及び比較例の太陽電池セルの光電変換特性を、ソーラーシミュレータを用いて評価した。比較例1の太陽電池モジュールの開放電圧(Voc)、短絡電流(Jsc)、曲線因子(F.F.)、変換効率を1として、それぞれを相対評価した。評価結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
実施例1はp型単結晶シリコン基板を用いたにもかかわらず、参考例1と同等の変換効率を示しており、p型としては十分高い特性が得られたといえる。また実施例2はp型多結晶シリコン基板を用いたにもかかわらず、n型多結晶シリコン基板を用いた参考例2とほぼ同等の結果が得られている。
【0052】
また、比較例1は200μmという厚いp型単結晶シリコン基板を用いたことにより、実施例1と比較して十分な特性が得られていない。更に、実施例5および実施例6は、p型シリコン薄膜層あるいはn型シリコン薄膜層について非晶質シリコン層を用いたことにより、十分なバンドオフセットが得られずVocが低く、実施例1に比べ明らかに低い変換効率となったが、200μmという厚いp型単結晶シリコン基板を用いた比較例2および比較例3よりは高い特性が得られており、薄いp型単結晶シリコン基板を用いた効果が得られている。
【符号の説明】
【0053】
1.結晶シリコン太陽電池
2.p型結晶シリコン基板(p型単結晶シリコン基板)
3.光入射面:実質的に真正なシリコン系薄膜層(i型非晶質シリコン層)
4.n型シリコン系薄膜層(n型非晶質シリコンカーバイド層)
5.光入射面透明導電膜層(酸化インジウム層)
6.裏面:実質的に真正なシリコン系薄膜層(i型非晶質シリコン層)
7.p型シリコン系薄膜層(p型非晶質シリコンカーバイド層)
8.裏面透明導電膜層(酸化亜鉛層)
9.集電極
10.集電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが150μm以下のp型単結晶シリコン基板あるいはp型多結晶シリコン基板を用い、前記基板の光入射面にn型シリコン系薄膜層を有し、前記基板と前記n型シリコン系薄膜層の間に実質的に真正なシリコン系薄膜層を備え、前記基板の裏面にp型シリコン系薄膜層を有し、前記基板と前記p型シリコン系薄膜層の間に実質的に真正なシリコン系薄膜層を備えたこととを特徴とする結晶シリコン太陽電池。
【請求項2】
前記n型シリコン系薄膜層がn型シリコンカーバイド薄膜層またはn型シリコン酸化物薄膜層で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の結晶シリコン太陽電池。
【請求項3】
前記p型シリコン系薄膜層がp型シリコンカーバイド薄膜層またはp型シリコン酸化物薄膜層で構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の結晶シリコン太陽電池。

【図1】
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【公開番号】特開2011−3654(P2011−3654A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144388(P2009−144388)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】