説明

絶縁不良検出用電極構造および絶縁不良検出方法

【課題】絶縁被覆の不良箇所を破壊することなく、安全に、また確実に絶縁電線の絶縁被覆の不良箇所を検出することができる絶縁不良検出用電極構造を提供する。
【解決手段】金属導体4に少なくとも一つの絶縁層3を被覆して形成された絶縁電線2に対して、製造ライン上で絶縁不良を検出するための少なくとも一つの電極1を備えた絶縁不良検出用電極構造において、所定の電圧を印加したときに、絶縁電線2に絶縁不良がある場合にはコロナ放電が生じるように絶縁電線2との間に所定の距離5を有するように、電極1を絶縁電線2に近接配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線の製造中や巻返し中の電線走行中に、ピンホールや耐圧不足などの絶縁電線の絶縁被膜の電気的な不良箇所を検出する絶縁不良検出用電極構造、絶縁不良検出システムならびに絶縁不良検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器のトランスの巻線として使用される絶縁電線に対し、製造ライン上で、そのピンホールや異物混入などによる耐圧不足による絶縁被膜の不良箇所を検出する技術には、破壊検査と非破壊検査がある。
【0003】
破壊検査としては、従来より行われているスパークテスタを用いた絶縁耐圧試験がある。これは、スパークテストの規格に準じる電圧を規定の周波数で印加して、ピンホールや耐圧不足などによる絶縁被膜の不良箇所が破壊されることにより流れる異常電流を検出し良否を判定する技術である。
【0004】
また、非破壊検査としては、静電容量測定装置(キャパシタンスモニタ)を用いて、電線の静電容量を測定し、一定の閾値と比較することで電線の良否判定を行う技術や、高電圧ケーブルの検査用に、試験電圧を印加し絶縁被覆内の部分放電を検出する方法が知られている(特許文献1を参照のこと)。
【特許文献1】特公平7−66024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、スパークテスタを用いた絶縁耐圧試験では、絶縁電線の絶縁被覆に不良箇所があった場合、その不良箇所は破壊されてしまい、異常部分の解析や原因追及が困難である。加えて、この絶縁耐圧試験では、例えば、絶縁耐圧約3kVの電線に対して約10kVの高電圧を印加するが、電線の絶縁耐圧が高くなるとその電圧をより高く設定しなければならず、その結果、良品電線へストレスが与えられるといった問題や、装置を大型化しなければならないといった問題や、さらに高電圧を印加することによる安全上の制約といった問題がある。
【0006】
また、静電容量測定装置を用いた場合は、原理的に測定される静電容量が平均値であるため、絶縁被覆の耐圧不足を局所的に検出することは困難であり、全長保証としては不十分である。特に、断面四角形の電線の場合には、欠陥が無くても、導体の回転による静電容量の変化を絶縁被覆の欠陥として誤って検出してしまうという問題もあった。
【0007】
さらに、上述の部分放電を検出する方法では、外部半導電層と中心導体間への電圧印加が必要であり、外部半導電層を持たない一般的な絶縁電線に適用することは困難である。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、絶縁被覆の不良箇所を破壊することなく、また破壊電圧より低い電圧で確実に絶縁電線の絶縁被覆の不良箇所を検出することができる絶縁不良検出用電極構造、絶縁不良検出システムならびに絶縁不良検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明の絶縁不良検出用電極構造の第1の態様は、金属導体に少なくとも一つの絶縁層を被覆して形成された絶縁電線の製造ライン上で、該絶縁電線の絶縁不良を検出するための少なくとも一つの電極を備えた絶縁不良検出用電極構造であって、前記電極が、所定の電圧を印加したときに、前記絶縁電線に絶縁不良がある場合にはコロナ放電が生じるように前記絶縁電線との間に所定の距離を有するように前記絶縁電線に近接配置されている絶縁不良検出用電極構造である。
【0010】
ここで、電極が絶縁電線との間に所定の距離を有するように近接配置されているというのは、電極が絶縁電線と少なくとも一部で所定の距離をあけて配置され、他の部分で接する場合も含むものとする。
【0011】
このように絶縁電線と電極との間に所定の距離を設け、所定の電圧を印加して絶縁不良箇所にコロナ放電を生じさせることにより絶縁不良を検出するので、絶縁電線の走行中での検査が可能である。また、絶縁不良による異常箇所に過度な電気的なストレスを与えたり、破壊したりすることがないので、該当箇所の原因を突きとめることができる。
【0012】
この発明の絶縁不良検出用電極構造の第2の態様は、前記電極に、前記所定の電圧を印加したときに、前記絶縁電線の表面電界が勾配を持つように前記所定の距離に傾斜が設けられていることを特徴とする絶縁不良検出用電極構造である。この場合、所定の距離に傾斜が設けられているので、検出範囲を広くすることができる。
【0013】
この発明の絶縁不良検出用電極構造の第3の態様は、前記電極が前記電線を覆うように設けられた一つの管状の電極からなることを特徴とする絶縁不良検出用電極構造である。この場合、絶縁電線の一部において、その外周全体を電極が覆うので、絶縁不良を確実に検出することができる。
【0014】
この発明の絶縁不良検出用電極構造の第4の態様は、前記電極が、それぞれが略円柱形状の少なくとも一対の電極からなり、前記絶縁電線の短手方向に、前記絶縁電線を挟むように設けられていることを特徴とする絶縁不良検出用電極構造である。この場合、一対の電極からなる絶縁不良検出用電極構造を複数の箇所に設けることによって、電線の外周に渡って絶縁不良を検出しても良いし、一対の電極を複数設けて、それらを接続して絶縁不良を検出しても良い。
【0015】
この発明の絶縁不良検出用電極構造の第5の態様は、前記電極がループ形状電極からなり、前記絶縁電線の短手方向に前記絶縁電線を巻くように設けられていることを特徴とする絶縁不良検出用電極構造である。この場合、電極が絶縁電線を巻いているので、電線の外周に渡って確実に絶縁不良を検出することができる。
【0016】
この発明の絶縁不良検出用電極構造の第6の態様は、前記電極が略円柱形状の複数の電極からなり、前記絶縁電線の長手方向に平行に、前記絶縁電線の外周を覆うように配置されていることを特徴とする絶縁不良検出用電極構造である。この場合、略円柱状の複数の電極が絶縁電線の外周を覆っているので、電線の外周に渡って確実に絶縁不良を検出することができる。
【0017】
この発明の絶縁不良検出用電極構造の第7の態様は、前記電線の断面形状が略四角形であることを特徴とする絶縁不良検出用電極構造である。
【0018】
この発明の絶縁不良検出用電極構造の第8の態様は、前記所定の距離が50〜100μmであることを特徴とする絶縁不良検出用電極構造である。
【0019】
この発明の絶縁不良検出システムの第1の態様は、上述した絶縁不良検出用電極構造と、前記電極に電圧を印加するための電圧印加部、放電を検出するための放電検出回路および放電検出結果を表示するための表示部を少なくとも備えた部分放電検出装置と、を備える絶縁不良検出システムである。
【0020】
この発明の絶縁不良検出方法の第1の態様は、金属導体に少なくとも一つの絶縁層を被覆して形成された絶縁電線の製造ライン上で、該絶縁電線の絶縁不良を検出する絶縁不良検出方法であって、前記絶縁電線との間に所定の距離を有するように少なくとも一つの電極を該絶縁電線に近接配置する電極配置工程と、前記絶縁電線に絶縁不良がある場合にはコロナ放電が生じるように電圧を印加する電圧印加工程と、を具備する絶縁不良検出方法である。
【0021】
ここで、電極が絶縁電線との間に所定の距離を有するように近接配置されているというのは、電極が絶縁電線と少なくとも一部で所定の距離をあけて配置され、他の部分で接する場合も含むものとする。
【0022】
このように絶縁電線と電極との間に所定の距離を設け、所定の電圧を印加して絶縁不良箇所にコロナ放電を生じさせることにより絶縁不良を検出するので、絶縁電線の走行中での検査が可能である。また、絶縁不良による異常箇所に過度な電気的なストレスを与えたり、破壊したりすることがないので、該当箇所の原因を突きとめることができる。
【0023】
この発明の絶縁不良検出方法の第2の態様は、前記電極が一つの管状の電極からなり、前記電極配置工程において、前記絶縁電線を覆うように前記電極を配置することを特徴とする絶縁不良検出方法である。この場合、絶縁電線の一部において、その外周全体を電極が覆うので、絶縁不良を確実に検出することができる。
【0024】
この発明の絶縁不良検出方法の第3の態様は、前記電極が、それぞれが略円柱形状の少なくとも一対の電極からなり、前記電極配置工程において、前記絶縁電線の短手方向に、前記絶縁電線を挟むように前記電極を配置することを特徴とする絶縁不良検出方法である。この場合、一対の電極を複数の箇所に設けることによって、電線の外周に渡って絶縁不良を検出しても良い。
【0025】
この発明の絶縁不良検出方法の第4の態様は、前記電極がループ形状電極からなり、前記電極配置工程において、前記絶縁電線の短手方向に前記絶縁電線を巻くように前記電極を配置することを特徴とする絶縁不良検出方法である。この場合、電極が絶縁電線を巻いているので、電線の外周に渡って確実に絶縁不良を検出することができる。
【0026】
この発明の絶縁不良検出方法の第5の態様は、前記電極が略円柱形状の複数の電極からなり、前記電極配置工程において、前記絶縁電線の長手方向に平行に、前記絶縁電線の外周を覆うように前記電極を配置することを特徴とする絶縁不良検出方法である。この場合、略円柱状の複数の電極が絶縁電線の外周を覆っているので、電線の外周に渡って確実に絶縁不良を検出することができる。
【0027】
この発明の絶縁不良検出方法の第6の態様は、前記電極の断面形状が略四角形であることを特徴とする絶縁不良検出方法である。
【0028】
この発明の絶縁不良検出方法の第7の態様は、前記所定の距離が50〜100μmであることを特徴とする絶縁不良検出方法である。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、絶縁電線を走行中に全長に渡り絶縁不良を検出することができる。また、絶縁不良による異常箇所に過度な電気的なストレスを与えたり、破壊したりすることがないので、該当箇所の原因を突きとめることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、本書において、絶縁電線の絶縁被覆におけるボイド、ピンホール、外部からの異物混入、材料となる樹脂の変性、樹脂自体への不純物混入、絶縁被覆の傷や削れなどによる絶縁不足や絶縁不良をまとめて絶縁不良と称する。
【0031】
図1は、本発明の一実施形態による電極構造と絶縁電線を示す図であり、図1(A)はその短手断面図であり、図1(B)はその長手断面図である。図1において、1は電極、2は絶縁電線を示す。
【0032】
本書において、絶縁電線2は、中心に位置して銅等からなる金属導体4と、金属導体4を覆う絶縁層3からなる。絶縁層3は、エナメルまたは樹脂のいずれかからなる単層でもよく、またその両方による複層でもよく、要求される絶縁性に応じて選択される。
【0033】
図1に示すように、電極1は絶縁電線2を覆うように設けられている。したがって、電極1は円管状であり、その内径が絶縁電線2の外径よりも僅かに(例えば、0.1mm程度)大きく設定されている。
【0034】
絶縁電線2と電極1は、絶縁電線2の絶縁層3と電極1の間に空気ギャップ5を有して近接配置されている。この空気ギャップ5は、その絶縁層3と電極1の内周の間の幅(距離)が、絶縁層3の全周に渡ってほぼ等しくなるように形成されている。後述するが、この空気ギャップ5の幅(距離)は、印加した電圧により、電極1と絶縁電線2との間に電界が生じるが、この電界強度が、絶縁電線2に絶縁不良がなければコロナ放電を生じず、絶縁電線2に絶縁不良があればコロナ放電を生じる大きさになるように設定されるものであり、本発明によれば、そのコロナ放電の有無によって絶縁電線2の絶縁不良の有無を判定し、したがって絶縁電線2の良否を断定することができる。
【0035】
次に、この一実施形態による電極構造を用いた場合の絶縁電線2の絶縁不良検出について図8を用いて説明する。
【0036】
図8は、絶縁電線2と空気ギャップ5の幅(電極1の内径と絶縁電線2の絶縁層3の外径の間の距離)に対する放電の関係を示すグラフである。空気ギャップ5の幅としては、使用する絶縁電線の寸法等から、50〜100μmが好ましい。図8において、所定の電圧を印加したときの絶縁電線2に絶縁不良がない場合の絶縁電線の表面電界がE1であり、絶縁電線2に絶縁不良がある場合の絶縁電線の表面電界がE2である。グラフ中の太線は放電開始電界を示し、太線より上の領域が放電する領域を示す。たとえば、図1における空気ギャップ5の幅から、絶縁電線2に絶縁不良がない場合の絶縁電線2の表面電界が点Aであるとすると、絶縁電線2に絶縁不良があった場合、表面電界は点A’になり、放電開始電界を越えることになる。したがって放電が発生する。このように、発生する放電の有無を観測することによりに絶縁不良の有無を判断することが可能となる。
【0037】
ここで、実際にコロナ放電を検出するには、放電の電荷量の閾値を、たとえば10pCとする。10pCの電荷量を得るためには、800Vの電圧が必要であるとすると、電極には750Vの電圧を印加する。750Vの電圧では、絶縁電線に絶縁不良がない場合には、10pCの閾値を超えることはないが、絶縁不良があった場合には、10pCを超える電荷量が検出され、放電を確認することができる。また、本発明によると、10pCの電荷量によって放電を確認することができるので、従来の破壊検査による方法に比べて、非常にわずかな電荷量から確実に絶縁不良を検出することが可能となる。
【0038】
図2は、図1の電極構造の変形例を示す図であり、(A)はその斜視図であり、(B)は短手断面図である。図1では、絶縁電線2が断面円形状であり、絶縁電線2を覆う電極1も円管状であったが、図2の絶縁電線2は断面略四角形であり、同じく絶縁電線2を覆う電極1も断面略四角形の管状である。図1の電極同様、図2の電極1も絶縁電線2との間に空気ギャップ5を設けて近接配置されており、空気ギャップ5はその幅(絶縁電線2と電極1の間の距離)が絶縁電線2の全周に渡ってほぼ等しくなるように設定されている。
【0039】
図2に示す電極構造においても、例えば、絶縁電線2に絶縁不良がないとき、印加する電圧と空気ギャップ5の幅により絶縁電線2の表面電界の強度が図8の点Aであるとすると、絶縁電線2に絶縁不良があるときは表面電界が点A’となり、コロナ放電が生じる。これにより、絶縁不良の有無を判定することができる。
【0040】
なお、図2の電極1は電線の金属導体4が接地されており、電極1には部分放電検出装置と交流電源が接続されているが、この接続については全ての実施形態の電極構造に当てはまる。
【0041】
図3は、本発明の第二の実施形態による電極構造を示す図であり、(A)はその短手断面図であり、(B)はその長手断面図である。図1同様、1は断面円形の電極、2は断面円形の絶縁電線、3は絶縁層、4は金属導体、そして5は空気ギャップを示す。この実施形態においても、電極1は絶縁電線2との間に空気ギャップ5を設けて近接配置されている。
【0042】
第一の実施形態による電極構造と異なる点として、図3(B)に示すように、第二の実施形態による電極構造では、その空気ギャップ5の幅(絶縁電線2と電極1の間の距離)が、絶縁電線2の長手方向に沿って傾斜を有するように、すなわち、図の右から左に向かって幅が狭まるように形成されている。
【0043】
このような形状の空気ギャップ5を設けた電極構造について、絶縁電線2の絶縁不良検出を、図8を用いて説明する。図8において、図3の空気ギャップ5の幅の変動から、所定の電圧を印加したとき、絶縁電線2に絶縁不良がない場合の絶縁電線2の表面電界が点Aから点Bの範囲にあるとする。絶縁電線2に絶縁不良があった場合、点A〜点Bは、点A’〜点B’になり、放電開始電界を越えて放電が発生することとなる。このように、空気ギャップ5の幅(絶縁電線2と電極1の間の距離)に勾配を設けた場合には、点A’から点B’の範囲で放電の有無を観測することができ、つまりは検出範囲を広くすることができる。
【0044】
なお、図3(B)において、電極1はその図中左端において、幅が最小になっているが、その空気ギャップの最小の位置で絶縁電線2に接してもよいし、接しなくても良い。電極1が絶縁電線2に近接配置されるとは、このように、部分的に電極1と絶縁電線2が接する場合も含むものとし、少なくとも一部において、電極1と絶縁電線2の間に所定の距離があいていればよい。
【0045】
図4は、図3に示す本発明の第二の実施形態による電極構造の変形例を示す図であり、(A)はその短手断面図であり、(B)はその長手断面図である。この変形例における絶縁電線3は、断面略四角形の電線である。また、図3に示した電極構造は、断面円形の絶縁電線2を覆う一つの円管状の電極1から構成されていたが、図4の電極構造は、円柱形状で二本の電極1からなる。この二本の電極1は絶縁電線2に対し、水平面において直交する方向に、絶縁電線2の上下に一本ずつ近接配置される。このとき、絶縁電線2と各電極1との間には、図4(B)に示すように、円弧と直線を組み合わせた形状の空気ギャップ5が形成される。この空気ギャップ5は、電極1の断面における中心から図中左右方向に向かって幅が広くなり、略くさび型の勾配を持つ。このように、空気ギャップ5の幅(絶縁電線2と電極1の間の距離)に傾斜を設けることで、図3に示した電極構造のように、検出範囲を広くすることができる。
【0046】
なお、電極1は、必要に応じて、各辺や角に配置しても良い。絶縁電線が断面略四角形状の場合には、このように一対の電極1を複数用意して、各辺と角部に設けることで、絶縁電線外周に渡って絶縁不良を検知することができる。さらに、電極1はその空気ギャップの最小の位置で絶縁電線2に接しても接しなくても良く、少なくとも一部において、電極1と絶縁電線2の間に所定の距離があいていればよい。
【0047】
図5は、図4における一対の電極1を二組設けた電極構造を示す図であり、(A)は電極構造の斜視図であり、(B)はその空気ギャップ5を詳細に示す図である。この例において、絶縁電線2は断面略四角形であり、電極1(1a〜1d)は円柱形状である。電極1(1a〜1d)は絶縁電線2の長手方向の2箇所に一組ずつ設けられている。一組の電極1aおよび1bは図4に示したように絶縁電線2に対し水平面において直交する方向に絶縁電線2を挟んで設けられており、もう一組の電極1cおよび1dは垂直平面において直交する方向に絶縁電線2を挟んで設けられている。電極1a〜1dは図5(A)に示すように接続されている。電極1a〜1dをこのように設けることで、断面四角形の電線の上下面と両側面の両方において、絶縁電線2の絶縁不良を検出することができる。また、電極1a,1bと電極1c,1dを一定の距離を置いて設けることで、絶縁不良が上下面と側面のいずれかにあったのか確認することもできる。
【0048】
図5(B)に示すように、この例における空気ギャップ5は、図4の例同様、略くさび型の勾配を持つ。このように、空気ギャップ5の幅(絶縁電線2と電極1の間の距離)に傾斜を設けることで、図3に示した電極構造のように、検出範囲を広くすることができる。
【0049】
なお、電極1の形状は円柱に限られず、楕円柱、角が丸く削られた四角柱を含む角柱等、さまざまな形状の電極を用いることができる。
【0050】
また、電極1の数はこれに限られず、必要に応じて適宜決めることができる。また、電極1は、必要に応じて、角に配置しても良い。さらに、電極1a〜1dはその空気ギャップの最小の位置で絶縁電線2に接しても接しなくても良く、少なくとも一部において、電極1と絶縁電線2の間に所定の距離があいていればよい。また、複数組の電極を設けた場合には、絶縁電線2に接する電極と接しない電極を併せ持つように構成することもできる。
【0051】
図6は、第二の実施形態による電極構造の更なる変形例を示す図である。図6において、(A)は電極構造の斜視図であり、(B)はその空気ギャップ5を示す図である。図6において、断面略円形の絶縁電線2に対し、ループ形状の電極1を一巻きするように配置している。このように電極1を巻きつけることで、絶縁電線2の全周に渡って絶縁不良を検出することが可能となる。
【0052】
図6(B)に示すように、この例においても、近接配置された絶縁電線2と電極1の間には所定の距離(空気ギャップ5)が設けられ、この空気ギャップ5も、図4の例同様、くさび型の勾配を持つ。このように、空気ギャップ5の幅(絶縁電線2と電極1の間の距離)に傾斜を設けることで、図3に示した電極構造のように、検出範囲を広くすることができる。
【0053】
なお、電極1はその空気ギャップの最小の位置で絶縁電線2に接しても接しなくてもよく、少なくとも一部において、電極1と絶縁電線2の間に所定の距離があいていればよい。
【0054】
また、この例のループ形状の電極1は断面が略円形であるが、この形状に限らず、略四角や略三角など、電極1と絶縁電線2の間の少なくとも一部に所定の距離をあけて、絶縁電線2を巻くように配置される電極1であればよい。
【0055】
図7は、第二の実施形態による電極構造の更なる変形例を示す図である。図7において、(A)は電極構造の斜視図であり、(B)はその空気ギャップ5の形状を示す図である。なお、図7(B)において、電極1の一部を省略している。
【0056】
図7に示す絶縁電線2は断面略四角形である。その絶縁電線2に略平行に、また絶縁電線を覆うように、円柱状の複数の電極1が横並びに配置されている。このように、複数の電極1が絶縁電線2の外周を覆うように設けられているので、絶縁電線2の全周に渡って絶縁不良を検出することができるとともに、長手方向に電極1を絶縁電線2に沿うように配置することで、絶縁不良を確実に検出することができる。
【0057】
また、この例においても、絶縁電線2と電極1はその間に所定の距離(空気ギャップ5)が設けて近接配置されている。この空気ギャップ5の形状は、図7(B)に示すように、絶縁電線2の平面の直線と電極1の円柱外周の円弧からなる形状で、勾配を持つ。このように、空気ギャップ5の幅(絶縁電線2と電極1の間の距離)に傾斜を設けることで、図3に示した電極構造のように、検出範囲を広くすることができる。
【0058】
なお、電極1はその空気ギャップの最小の位置で絶縁電線2に接しても接しなくてもよく、少なくとも一部において、電極1と絶縁電線2の間に所定の距離があいていればよい。
【0059】
また、この例の電極1は円柱形であるが、この形状に限らず、楕円柱、角が丸く削られた四角柱を含む角柱等、さまざまな形状の電極を用いることができ、電極1と絶縁電線2の間の少なくとも一部に所定の距離をあけて、絶縁電線2を覆うように配置される電極1であればよい。
【0060】
さらに、複数の電極1は互いに接しても接しなくてもよく、少なくとも、絶縁電線2に略平行に近接配置された複数の電極1が、絶縁電線2を部分的にも覆うような構造を保つことができればよい。
【0061】
次に、図9を用いて、本発明の電極構造を用いた絶縁電線の押出製造ラインでの絶縁不良検出システムの例を説明する。図9において、2は絶縁電線、7は押出機、8は引取機、そして9は巻取機である。絶縁電線2は、押出機7によって、金属導体4に絶縁被覆が施され、引取機8によって連続的に引き取られる。本発明の絶縁不良検出システムとしては、電極(電極構造)1と部分放電検出装置6が含まれる。
【0062】
部分放電検出装置6は、その測定端子の一方を、絶縁電線2の一端の絶縁被覆3を取り除いた金属導体4に接続し、その測定端子の他方を電極1に接続する。使用する部分放電検出装置6は、高電圧を印加するための高圧トランス(電圧印加部)を内蔵し、放電を検出する回路を持つものが望ましい。また、放電を検出した結果を表示する表示部を備えていても良い。
【0063】
電極1の設置箇所は、押出機7と引取機8の間が望ましい。このように配置することで、電線の製造中に全長を保障する検査が可能となる。
【0064】
電極1は、印加される電圧に対し、絶縁電線2が正常であれば、すなわち絶縁不良が無ければコロナ放電を発生しない電界になるように、また絶縁電線2に絶縁不良があればコロナ放電を生じるように、絶縁電線2との間に所定の距離(空気ギャップ)が設けられている。
【0065】
また、部分放電検出装置6は、電極1と絶縁電線2の間の距離(空気ギャップ)において、絶縁電線2に絶縁不良が無ければコロナ放電を発生しないように、また絶縁電線2に絶縁不良があればコロナ放電を生じるように、印加する電圧を設定する。
【0066】
このように、電極1と絶縁電線2の間の距離(空気ギャップ)と、部分放電検出装置6により印加される電圧を、絶縁電線2に絶縁不良が無ければコロナ放電を発生しないように、また絶縁電線2に絶縁不良があればコロナ放電を生じるように、設定することで、放電の有無を検出するだけで、絶縁電線の良否を連続的に判定することができる。
【0067】
また、放電の有無により絶縁電線の良否を判定するので、破壊電圧に比べて低い部分放電開始電圧を印加すればよく、これにより異常個所に過度な電気的なストレスを与えたり、破壊したりすることはなくなり、電線に異常があった場合、該当箇所の原因解明に役立つことになる。また、破壊されないので、絶縁電線を走行中に全長に渡り検査することが可能である。
【0068】
本発明は上記実施形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施形態において、絶縁電線は、断面が略円形、略角形などさまざまな形状の絶縁電線に使用することができ、また電極の形状も、円柱形、楕円柱形、角が丸く削られた角形等、さまざまな電極を用いることができる。また、絶縁電線や電極の配置や電極の数も、図示した形態に限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の第一の実施形態による電極構造を示す図((A)は短手断面図であり、(B)は長手断面図である)
【図2】上記第一の実施形態による電極構造の変形例を示す図((A)は電極構造の斜視図であり、(B)は短手断面図である)
【図3】本発明の第二の実施形態による電極構造を示す図((A)は短手断面図であり、(B)は長手断面図である)
【図4】上記第二の実施形態による電極構造の変形例を示す図((A)は短手断面図であり、(B)は長手断面図である)
【図5】上記第二の実施形態による電極構造の更なる変形例を示す図((A)は電極構造の斜視図であり、(B)は空気ギャップの詳細図である)
【図6】上記第二の実施形態による電極構造の更なる変形例を示す図((A)は電極構造の斜視図であり、(B)は空気ギャップの詳細図である)
【図7】上記第二の実施形態による電極構造の更なる変形例を示す図((A)は電極構造の斜視図であり、(B)は空気ギャップの詳細図である)
【図8】空気ギャップの幅に対する放電の関係を示すグラフ
【図9】本発明の電極構造を用いた電気試験装置の一例を示す図
【符号の説明】
【0070】
1,1a〜1d.電極 6.部分放電検出装置
2.絶縁電線 7.押出機
3.絶縁被覆 8.引取機
4.金属導体 9.巻取機
5.空気ギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属導体に少なくとも一つの絶縁層を被覆して形成された絶縁電線の製造ライン上で、該絶縁電線の絶縁不良を検出するための少なくとも一つの電極を備えた絶縁不良検出用電極構造であって、前記電極が、所定の電圧を印加したときに、前記絶縁電線に絶縁不良がある場合にはコロナ放電が生じるように前記絶縁電線との間に所定の距離を有するように前記絶縁電線に近接配置されている絶縁不良検出用電極構造。
【請求項2】
前記電極に、前記所定の電圧を印加したときに、前記絶縁電線の表面電界が勾配を持つように前記所定の距離に傾斜が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の絶縁不良検出用電極構造。
【請求項3】
前記電極が前記電線を覆うように設けられた一つの管状の電極からなることを特徴とする請求項1または2に記載の絶縁不良検出用電極構造。
【請求項4】
前記電極が、それぞれが略円柱形状の少なくとも一対の電極からなり、前記絶縁電線の短手方向に、前記絶縁電線を挟むように設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の絶縁不良検出用電極構造。
【請求項5】
前記電極がループ形状電極からなり、前記絶縁電線の短手方向に前記絶縁電線を巻くように設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の絶縁不良検出用電極構造。
【請求項6】
前記電極が略円柱形状の複数の電極からなり、前記絶縁電線の長手方向に平行に、前記絶縁電線の外周を覆うように配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の絶縁不良検出用電極構造。
【請求項7】
前記電線の断面形状が略四角形であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の絶縁不良検出用電極構造。
【請求項8】
前記所定の距離が50〜100μmであることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の絶縁不良検出用電極構造。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の絶縁不良検出用電極構造と、
前記電極に電圧を印加するための電圧印加部、放電を検出するための放電検出回路および放電検出結果を表示するための表示部を少なくとも備えた部分放電検出装置と、
を備える絶縁不良検出システム。
【請求項10】
金属導体に少なくとも一つの絶縁層を被覆して形成された絶縁電線の製造ライン上で、該絶縁電線の絶縁不良を検出する絶縁不良検出方法であって、
前記絶縁電線との間に所定の距離を有するように少なくとも一つの電極を該絶縁電線に近接配置する電極配置工程と、
前記絶縁電線に絶縁不良がある場合にはコロナ放電が生じるように電圧を印加する電圧印加工程と、を具備する絶縁不良検出方法。
【請求項11】
前記電極が一つの管状の電極からなり、
前記電極配置工程において、前記絶縁電線を覆うように前記電極を配置することを特徴とする請求項10に記載の絶縁不良検出方法。
【請求項12】
前記電極が、それぞれが略円柱形状の少なくとも一対の電極からなり、
前記電極配置工程において、前記絶縁電線の短手方向に、前記絶縁電線を挟むように前記電極を配置することを特徴とする請求項10に記載の絶縁不良検出方法。
【請求項13】
前記電極がループ形状電極からなり、
前記電極配置工程において、前記絶縁電線の短手方向に前記絶縁電線を巻くように前記電極を配置することを特徴とする、請求項10に記載の絶縁不良検出方法。
【請求項14】
前記電極が略円柱形状の複数の電極からなり、
前記電極配置工程において、前記絶縁電線の長手方向に平行に、前記絶縁電線の外周を覆うように前記電極を配置することを特徴とする、請求項10に記載の絶縁不良検出方法。
【請求項15】
前記電極の断面形状が略四角形であることを特徴とする、請求項10から14のいずれかに記載の絶縁不良検出方法。
【請求項16】
前記電極配置工程において、前記所定の距離が50〜100μmであることを特徴とする請求項10から15のいずれかに記載の絶縁不良検出方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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