説明

絶縁平角銅線及びそれを用いたコイル

【課題】エッジワイズ曲げ加工を施した際の曲げ加工部分における耐電圧特性の低下を抑制した絶縁平角銅線で製造したコイルを提供する。
【解決手段】エッジワイズ曲げ加工が施される絶縁平角銅線10は、0.2%耐力が150MPa以下である無酸素銅で形成された平角銅線11とそれを被覆するように設けられた絶縁被覆層12とを備える。上記平角銅線は、側面の断面外郭形状が外向きに凸の曲線であり、長さ方向に沿った算術平均粗さ(Ra)が5μm以下である。また、上記絶縁被覆層がポリイミド樹脂で形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絶縁平角銅線及びそれを用いたコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車等のモータのコイルとして、導体占積率を高める視点から、絶縁平角銅線にエッジワイズ曲げ加工を施したものが用いられている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−220093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
絶縁平角銅線にエッジワイズ曲げ加工を施して製造されたコイルでは、製品によっては、曲げ加工部分において耐電圧特性が大きく低下するものがある。
【0005】
本発明の課題は、エッジワイズ曲げ加工を施した際の曲げ加工部分における耐電圧特性の低下を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の絶縁平角銅線は、エッジワイズ曲げ加工が施されるものであって、0.2%耐力が150MPa以下である無酸素銅で形成された平角銅線と、該平角銅線を被覆するように設けられた絶縁被覆層と、を備える。
【0007】
本発明のコイルは、本発明の絶縁平角銅線にエッジワイズ曲げ加工が施されて形成されたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、平角銅線が、0.2%耐力が150MPa以下である無酸素銅で形成されていることにより、エッジワイズ曲げ加工を施した際の曲げ加工部分における耐電圧特性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(a)及び(b)は実施形態に係る絶縁平角銅線の斜視図である。
【図2】(a)〜(c)はコイルの斜視図である。
【図3】コイルの曲げ加工部分における伸び歪みの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1(a)及び(b)は実施形態に係る絶縁平角銅線10を示す。
【0011】
本実施形態に係る絶縁平角銅線10は、横断面(長手方向に垂直な断面)が平角形状である平角銅線11とそれを被覆するように設けられた絶縁被覆層12とを備えた横断面が平角形状のものである。本実施形態に係る絶縁平角銅線10は、エッジワイズ曲げ加工が施され、電気自動車のモータのコイル等に製造されるものである。
【0012】
本実施形態に係る絶縁平角銅線10及びその本体部分を構成する平角銅線11は、例えば、幅が2〜30mm(より好ましくは7〜25mm、さらに好ましくは10〜24mm)、及び厚さが0.1〜2mmであり、幅Aと厚さBの比A/Bが1〜300であることが好ましく、5〜30であることがより好ましい。絶縁被覆層12の厚さは例えば1〜100μmである。
【0013】
本出願において「平角」とは、幅が厚さよりも大きい偏平形状であって、角部が直角の横長矩形よりも広い概念である。従って、本実施形態に係る絶縁平角銅線10及びその本体部分を構成する平角銅線11の形状としては、例えば、図1(a)に示すように角部の断面外郭形状が1/4円弧である断面横長矩形状や図1(b)に示すように側面の断面外郭形状が半円弧である断面横長偏平形状(フィールドトラック形状)も含まれる。角部が直角であると、角部の絶遠被覆層の厚さが他の部分より厚くなる、いわゆるドックボーンと呼ばれる形状となる場合があるが、角部に外向きに凸の曲率を設けるとドックボーンを形成せず、角部の絶遠被覆層の厚さが他の部分と均一となるため好ましい。
【0014】
ここで、従来の絶縁平角銅線にエッジワイズ曲げ加工を施して製造されたコイルでは、製品によっては、曲げ加工部分において耐電圧特性が大きく低下するものがあった。本発明者らは、その原因が曲げ加工部分の曲げ外周部における絶縁被覆層の破壊による絶縁特性の低下であるとの仮説に基づいて、鋭意検討した結果、平角銅線を0.2%耐力が150MPa以下である無酸素銅で形成することにより、エッジワイズ曲げ加工を施した際の曲げ加工部分における耐電圧特性の低下を抑制することができることを見出した。このことは、平角銅線が硬い場合、エッジワイズ曲げ加工を施した際、曲げ加工部分の曲げ外周部では曲げに沿って伸び歪みが不均一に生じ、そのため絶縁被覆層には局所的に過大な伸び歪みが生じて破壊に至るのに対し、平角銅線が軟らかい場合、エッジワイズ曲げ加工を施した際、曲げ加工部分の曲げ外周部では曲げに沿って伸び歪みが均一に生じ、そのため絶縁被覆層における破壊に至るような過大な伸び歪みの発生が抑制されるためであると推測される。
【0015】
以上のことから、本実施形態に係る絶縁平角銅線10では、平角銅線11は、0.2%耐力が150MPa以下である無酸素銅で形成されている。平角銅線11は、耐電圧特性の低下を抑制する観点から、0.2%耐力が100MPa以下である無酸素銅で形成されていることが好ましく、80MPa以下である無酸素銅で形成されていることがより好ましい。一方、平角銅線11は、0.2%耐力が20MPa以上である無酸素銅で形成されていることが好ましく、30MPa以上である無酸素銅で形成されていることがより好ましい。ここで、無酸素銅とは、銅(Cu)の純度が99.96質量%以上で且つ酸素(O2)の含有率が10ppm以下である高純度の銅(Cu)であって、JIS H3100における合金番号C1020で表されるものである。また、0.2%耐力はJIS C3002に基づいて測定される。
【0016】
平角銅線11は、引張強さが150MPa以上である無酸素銅で形成されていることが好ましく、200MPa以上である無酸素銅で形成されていることがより好ましい。平角銅線11は、伸びが20%以上である無酸素銅で形成されていることが好ましく、30%以上である無酸素銅で形成されていることがより好ましい。引張強さ及び伸びはJIS C3002に基づいて測定される。平角銅線11は、ビッカース硬さが20〜100HVである無酸素銅で形成されていることが好ましく、30〜65HVである無酸素銅で形成されていることがより好ましい。ビッカース硬さはJIS Z2244に基づいて測定される。
【0017】
平角銅線11は、エッジワイズ曲げ加工を施した際、曲げ加工部分の曲げ外周部で曲げに沿って生じる伸び歪みを均一化させる観点から、側面の断面外郭形状が外向きに凸の曲線であることが好ましい。従って、平角銅線11の形状は、図1(a)に示すような断面横長矩形状であるよりも、図1(b)に示すような側面の断面外郭形状が外向きに凸の半円弧である断面横長偏平形状であることが好ましい。
【0018】
平角銅線11は、エッジワイズ曲げ加工を施した際、曲げ加工部分の曲げ外周部で曲げに沿って生じる伸び歪みを均一化させる観点から、長さ方向に沿った算術平均粗さ(Ra)が5μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。表面粗さはJIS B0601に基づいて測定される。
【0019】
平角銅線11は、例えば、テープ状の圧延材に対してスリット加工を施した後にダイスを通して伸線することにより製造することができる。
【0020】
絶縁被覆層12を形成する材料としては、例えば、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ホルマール樹脂等が挙げられる。これらのうちポリイミド樹脂が好ましく、特開2005−174561号公報及び特開2010−108725号公報に開示された分子骨格中にシロキサン結合を有するブロック共重合ポリイミド樹脂が特に好ましい。
【0021】
絶縁被覆層12による平角銅線11の被覆は、例えば、電着塗装やディッピング塗装によって行うことができる。これらのうち絶縁被覆層12の平角銅線11への密着性が高いという観点から電着塗装が好ましい。
【0022】
本実施形態に係る絶縁平角銅線10は、エッジワイズ曲げ加工が施されて、図2(a)〜(c)に示すようにコイルCに形成される。このコイルCは例えば電気自動車のモータ等に用いられるものである。
【0023】
コイルCは、図2(a)に示すように、平面視において、一対の直線部分の両側のそれぞれが半円部分で連結されたフィールドトラック形状であってもよく、図2(b)に示すように、隣接辺が円弧で連結された矩形状であってもよく、図2(c)に示すように、平面視において、円形状であってもよい。図3に示すように、コイルCの曲げ加工部分における伸び歪み、つまり、幅方向中心部の曲率半径s1に対する曲げ外周部の曲率半径s2と幅方向中心部s1の曲率半径との差((曲げ外周部の曲率半径s2−幅方向中心部の曲率半径s1)/幅方向中心部の曲率半径s1)は50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。
【0024】
なお、本実施形態では、本実施形態に係る絶縁平角銅線10にエッジワイズ曲げ加工を施して形成されたコイルCを例としたが、特にこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
エッジワイズ曲げ加工を施した際の曲げ加工部分における耐電圧特性の低下の無い発 明例1及び2の絶縁平角銅線並びに耐電圧特性の低下の有る比較例の絶縁平角銅線の引 張試験、ビッカース硬さ測定試験、表面粗さ測定試験、寸法測定、並びに金属組織観察 及び断面観察を行った。なお、発明例1及び2は、平角銅線上に、分子骨格中にシロキ サン結合を有するブロック共重合ポリイミド樹脂を電着被覆して、厚さが約30μmの 絶縁被覆層とした、絶縁平角銅線である。ただし、発明例1と発明例2は、用いた平角 銅線の断面寸法が異なるものであり、発明例1は厚さ約0.7mmm、幅約14mm、 発明例2は厚さ約0.14mm、幅約19mmであった。
【0026】
(引張試験)
発明例1及び2並びに比較例のそれぞれについて、JIS C3002に基づいて引張試験を行い、引張強度、伸び、及び0.2%耐力を測定した。
【0027】
結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
引張強度は、発明例1が235.7MPa、発明例2が228.3MPa、及び比較例が259.5MPaであった。
【0030】
伸びは、発明例1が41.6%、発明例2が40.5%、及び比較例が20.2%であった。
【0031】
0.2%耐力は、発明例1が78.1MPa、発明例2が77.9MPa、及び比較例が195.4MPaであった。
【0032】
(ビッカース硬さ測定試験)
発明例1及び2並びに比較例のそれぞれについて、JIS Z2244に基づいてビッカース硬さ測定試験を行い、ビッカース硬さを測定した。
【0033】
結果を表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
ビッカース硬さは、発明例1が56.0HV、発明例2が55.8HV、及び比較例が91.8HVであった。
【0036】
(表面粗さ測定試験)
発明例1及び2並びに比較例のそれぞれについて、JIS B0601に基づいて長さ方向に沿った算術平均粗さを測定した。
【0037】
結果を表3に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
算術平均粗さ(Ra)は、発明例1が1μm、発明例2が1μm、及び比較例が10μmであった。
【0040】
(寸法測定)
発明例1及び2並びに比較例のそれぞれについて、長さ100mmにおける一方端、中央、及び他方端の厚さ、並びに中央の幅を測定し、中央の断面積を算出した。
【0041】
結果を表4に示す。
【0042】
【表4】

【0043】
発明例1は、厚さが、一方端で0.701mm、中央で0.691mm、及び他方端で0.703mmであり、並びに中央の幅が14.066mm、及び中央の断面積が9.815mm2であった。
【0044】
発明例2は、厚さが、一方端で0.143mm、中央で0.141mm、及び他方端で0.140mmであり、並びに中央の幅が19.041mm、及び中央の断面積が2.685mm2であった。
【0045】
比較例は、厚さが、一方端で0.695mm、中央で0.699mm、及び他方端で0.701mmであり、並びに中央の幅が13.969mm、及び中央の断面積が9.750mm2であった。
【0046】
(耐電圧特性)
発明例1及び2並びに比較例のそれぞれについて、JIS C 3216−5(4.絶縁破壊)に準拠して、B法金属箔法により、AC破壊電圧を測定した。すなわち、1cmのスズ箔を絶縁電線に巻き付け、導体−すず箔間にて測定した。そして、各板に交流電圧発生装置を接続し、1秒間当たり100Vの速度で電圧を上昇させて、短絡(漏れ電流値10mA以上)した電圧を破壊電圧とした。破壊電圧が2.0kV以上を合格とし、破壊電圧が2.0kV未満の場合を不合格とした。
【0047】
その結果、発明例1及び2は合格、一方、比較例は不合格であった。
【0048】
(金属組織観察及び断面観察)
発明例1及び2の金属組織はほぼ完全な等軸晶であったが、比較例の結晶組織は再結晶したものに加工が加わったものであった。
【0049】
発明例1及び2の表面は長さ方向に沿って平滑に形成されていたが、比較例の表面には長さ方向に沿って剪断加工の痕跡が見られた。
【0050】
発明例1及び2の断面は、側面の断面外郭形状が半円弧である断面横長偏平形状(フィールドトラック形状)であったが、比較例の断面は、角部の断面外郭形状が1/4円弧である断面横長矩形状であった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は絶縁平角銅線及びそれを用いたコイルについて有用である。
【符号の説明】
【0052】
10 絶縁平角銅線
11 平角銅線
12 絶縁被覆層
C コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エッジワイズ曲げ加工が施される絶縁平角銅線であって、
0.2%耐力が150MPa以下である無酸素銅で形成された平角銅線と、該平角銅線を被覆するように設けられた絶縁被覆層と、を備えた絶縁平角銅線。
【請求項2】
請求項1に記載された絶縁平角銅線において、
上記平角銅線の幅が2〜30mmである絶縁平角銅線。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された絶縁平角銅線において、
上記平角銅線は、側面の断面外郭形状が外向きに凸の曲線である絶縁平角銅線。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載された絶縁平角銅線において、
上記平角銅線は、長さ方向に沿った算術平均粗さ(Ra)が5μm以下である絶縁平角銅線。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載された絶縁平角銅線において、
上記絶縁被覆層がポリイミド樹脂で形成されている絶縁平角銅線。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載された絶縁平角銅線にエッジワイズ曲げ加工が施されて形成されたコイル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−4444(P2013−4444A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137104(P2011−137104)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】