説明

継ぎ手シール

【課題】一対の配管流路が芯ズレした状態にあっても継ぎ手シールを円滑に装着することができ、しかも簡易な構造の継ぎ手シールを提供する。
【解決手段】継ぎ手シールは、筒状金具とその外径面に被着されるゴム状弾性体を有する。筒状金具は一定の外径寸法を備える外径面を有する形状とされ、ゴム状弾性体は軸方向一対のシールリップを有する形状とされる。一対の配管流路が芯ズレした状態にあるとき当該継ぎ手シールは配管流路に対し斜めに傾いた姿勢で装着され、このときシールリップ以外の部分は配管流路の内径面と干渉せずシールリップのみが配管流路の内径面に対し全周に亙って密接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに離間して同一中心軸線上に配置される一対の配管流路を接続するために用いられる継ぎ手シールに関する。本発明の継ぎ手シールは例えば、自動車関係(補機類を含む)、一般産機関係または建機関係の分野などに幅広く用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来から図5に示すように、互いに離間して同一中心軸線0上に配置される一対の配管流路51,52を接続するために用いられる筒状の継ぎ手シール61であって、各配管流路51,52の開口部に差し込まれる筒状金具62を有し、この筒状金具62の両端部外径面にそれぞれOリング等のパッキン63を嵌着した構造の継ぎ手シール61が知られている。
【0003】
しかしながらこの従来技術によると、筒状金具62の両端部外径面にそれぞれフランジ64が設けられるとともにフランジ64の外径面に装着溝65が設けられ、この装着溝65にパッキン63が嵌着されているために、筒状金具62の外径寸法φdと配管流路51,52の内径寸法φDとの間には極く僅かな寸法差が設定されているに過ぎない。
【0004】
したがって、一対の配管流路51,52が互いに芯ズレ(偏心)した状態にあるときに当該継ぎ手シール61を組み付けようとすると、筒状金具62がフランジ64の外径面で配管流路51,52の内径面と干渉してしまい、よって当該シール61を組み付けることができない不都合がある。
【0005】
また、他の従来技術として図6に示すように、互いに離間して同一中心軸線0上に配置される一対の配管流路51,52を接続するために用いられる筒状の継ぎ手シール61であって、各配管流路51,52の開口部に差し込まれる筒状金具62を有し、この筒状金具62の外径面に全面に亙ってゴム状弾性体66を被着した構造の継ぎ手シール61が知られている。
【0006】
しかしながらこの従来技術によると、筒状金具62の外径面に被着されたゴム状弾性体66が全長に亙って均一な厚みに成形されているために、継ぎ手シール61全体として径方向ボリュームが大きなものとなっている。
【0007】
したがって図示するように、一対の配管流路51,52が互いに芯ズレ(偏心)した状態にあるときに当該継ぎ手シール61を組み付けようとすると、ゴム状弾性体66がその一部(矢印Aにて示す部位)で極端に大きく圧縮され、挿入がきつくなり、よって当該シール61を組み付けることができない不都合がある。
【0008】
したがって従来は、やむなく高価な耐圧ホースやクランプを使って配管流路51,52を接続しており(特許文献1参照)、これに対し、一対の配管流路51,52が芯ズレした状態にあっても円滑に装着することができる簡易な構造の継ぎ手シールが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−211876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は以上の点に鑑みて、一対の配管流路が芯ズレした状態にあっても継ぎ手シールを円滑に装着することができ、しかも簡易な構造の継ぎ手シールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1による継ぎ手シールは、互いに離間して同一中心軸線上に配置される一対の配管流路を接続するために用いられる筒状の継ぎ手シールであって、一方の前記配管流路の開口部に一方の端部を差し込まれるとともに他方の前記配管流路に他方の端部を差し込まれる筒状金具と、前記筒状金具の外径面に被着されてシール作用をなすゴム状弾性体とを有し、前記筒状金具は、フランジや溝を有さず全長に亙って一定の外径寸法を備える外径面を有する形状とされ、前記ゴム状弾性体は、前記筒状金具の一方の端部の外径面に被着されるとともに一方の前記配管流路の内径面に密接する一方のシールリップ、および前記筒状金具の他方の端部の外径面に被着されるとともに他方の前記配管流路の内径面に密接する他方のシールリップを有する形状とされ、前記一対の配管流路が芯ズレした状態にあるときに当該継ぎ手シールは前記配管流路に対し斜めに傾いた姿勢で装着され、このとき前記シールリップ以外の部分は前記配管流路の内径面と干渉せず前記シールリップのみが前記配管流路の内径面に対し全周に亙って密接することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項2による継ぎ手シールは、上記した請求項1記載の継ぎ手シールにおいて、前記シールリップの先端部は、前記芯ズレに伴う接触の角度変化に追随しやすい断面アール形状とされていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項3による継ぎ手シールは、上記した請求項1または2記載の継ぎ手シールにおいて、前記一対のシールリップは、これらよりも外径寸法が小さな被膜部を介して互いに一体成形されていることを特徴とする。
【0014】
上記構成を備える本発明において、継ぎ手シールは、筒状金具とその外径面に被着されたゴム状弾性体によって構成され、筒状金具は、フランジや溝を有さず全長に亙って一定の外径寸法を備える外径面を有する形状とされ、ゴム状弾性体は、筒状金具の両端部外径面にそれぞれシールリップを有する形状とされているために、継ぎ手シールの外径寸法は、シールリップを設けた部位で大、その他の部位で小となっており、よってシールリップが配管流路の内径面に密接した状態においてその他の部位の外径面と配管流路の内径面との間には比較的大きな寸法差が設定されることになる。したがって当該継ぎ手シールを芯ズレした状態の配管流路に装着すると、シールリップ以外の部分は配管流路の内径面と干渉せずシールリップのみが配管流路の内径面に対し全周に亙って密接する状態が実現されるために、上記従来技術のようにシール装着不可となることなく、シールを装着することが可能となる。
【0015】
シールリップは、リップ形状であるので、配管流路の内径面に密接する環状の先端部(リップ端)を有する。この先端部の形状は、断面直線形状(円筒面形状)であっても良いが、丸みを帯びた断面アール形状であっても良く、このように断面アール形状にすると、配管流路の芯ズレに伴ってシールリップの配管流路内径面に対する接触の角度が変わっても接触の状態(姿勢)が変わりにくくシール面圧が維持されるので、シール性が安定する。
【0016】
軸方向一対のシールリップは、互いに別体として個別に成形しても良いが、互いに一体成形しても良く、このように一体成形すると、筒状金具への被着面積が増大するためにシールリップが筒状金具から剥がれにくくなったり、型内に設定するキャビティ空間が1つに集約されるためにゴム成形型の構造が簡素化されたりする等の効果を期待することができる。この場合には、一対のシールリップ同士は互いに軸方向に離間しているので、両シールリップをこれらよりも外径寸法の小さな被膜部を介して互いに一体成形することになる。
【0017】
尚、本発明の継手シールは例えば、以下の装置・機械類に用いられる。
(1)ディストリビューター(分配器)
(2)オイルパンとオイルフィルター間のシール
(3)冷却器のつなぎ部
【発明の効果】
【0018】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0019】
すなわち、以上説明したように本発明によれば、継ぎ手シールを芯ズレした状態の配管流路に装着したときにシールリップ以外の部分は配管流路の内径面と干渉せずシールリップのみが配管流路の内径面に対し全周に亙って密接する状態が実現されるために、従来のようにシール装着不可となることなく、シールを円滑に装着することができる。またその構造は、筒状金具の両端部外径面にシールリップを設けると云う至って簡易なものである。したがって本発明所期の目的どおり、一対の配管流路が芯ズレした状態にあっても継ぎ手シールを円滑に装着することができ、しかも簡易な構造の継ぎ手シールを提供することができる。
【0020】
また、シールリップの先端部を断面アール形状とする場合には、シール性を安定させることができ、一対のシールリップを一体成形する場合には、シールリップが筒状金具から剥がれにくくなる、ゴム成形型の構造が簡素化される等の効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例に係る継ぎ手シールの断面図
【図2】同実施例における配管流路が芯ズレした状態の断面図
【図3】本発明の他の実施例に係る継ぎ手シールの断面図
【図4】同実施例における配管流路が芯ズレした状態の断面図
【図5】従来例に係る継ぎ手シールの半裁断面図
【図6】他の従来例に係る継ぎ手シールの断面図であって配管流路が芯ズレした状態の断面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施例に係る継ぎ手シール1を示している。当該実施例に係る継ぎ手シール1は、互いに軸方向に離間して同一中心軸線0上に配置される一対の配管流路(流路)51,52を接続するために用いられる筒状の継ぎ手シール1であって、以下のように構成されている。
【0024】
すなわち先ず、一方の配管流路51の開口部に一方の端部2aを差し込まれるとともに他方の配管流路52に他方の端部2bを差し込まれる筒状金具(パイプ)2が設けられており、この筒状金具2の外径面2cにシール作用をなすためのゴム状弾性体3が被着(加硫接着)されている。配管流路51,52はそれぞれ各種ハウジングに穴状のものとして設けられ、またはパイプの内径部に設けられている。
【0025】
筒状金具2は、フランジや溝などの凹凸形状を有さず軸方向全長に亙って一定の外径寸法φdを備える円筒面状の外径面2cを有する形状とされ、その外径寸法φdは配管流路51,52の内径寸法φDよりも随分と小さく設定されている。またこの筒状金具2は外径面および内径面ともに軸方向ストレートな円筒面状とされ、全体として表面に凹凸の類をまったく有しない断面長方形状の単純な円筒体とされている。
【0026】
一方、ゴム状弾性体3は、筒状金具2の一方の端部2aの外径面に被着されるとともに一方の配管流路51の内径面に密接する一方のシールリップ4と、筒状金具2の他方の端部2bの外径面に被着されるとともに他方の配管流路52の内径面に密接する他方のシールリップ5とを有する形状とされ、これらシールリップ4,5の外径寸法φdは配管流路51,52の内径寸法φDよりも大きく設定されている。ゴム状弾性体3の材質は特に限定されず、例えば、FKM、EPDM、ACM、HNBR、NBR等とされる。
【0027】
一対のシールリップ4,5はそれぞれ断面三角形状に成形され、その先端部(リップ端)4a,5aは断面アール形状(断面円弧形状)に成形されている。
【0028】
また、一対のシールリップ4,5は、筒状金具2の外径面2cに被着された薄膜状の被膜部6を介して互いに一体に成形され、被膜部6の外径寸法φdは配管流路51,52の内径寸法φDよりも小さく設定されている。
【0029】
上記構成の継ぎ手シール1は、図示するように装着されて、一対の配管流路51,52を接続する機能、配管流路51,52を流れる流体が外部へ漏洩するのを抑制するシール機能、および泥水やダスト等の外部異物が配管流路51,52内へ侵入するのを抑制するシール機能を奏するものであって、更に上記構成により以下の作用効果を発揮する点に特徴を有している。
【0030】
すなわち上記構成の継ぎ手シール1においては、当該継ぎ手シール1が筒状金具2とその外径面に被着されたゴム状弾性体3によって構成され、筒状金具2がフランジや溝などの凹凸形状を有さず軸方向全長に亙って一定の外径寸法φdを備える円筒面状の外径面2cを有する形状とされ、ゴム状弾性体3が筒状金具2の軸方向両端部2a,2b外径面にそれぞれシールリップ4,5を有するとともに両シールリップ4,5間の軸方向中央部外径面に薄膜状の被膜部6を有する形状とされているために、継ぎ手シール1全体の外径寸法としては、シールリップ4,5を設けた軸方向両端部で比較的大、被膜部6を設けた軸方向中央部で比較的小となっており、よってシールリップ4,5が配管流路51,52の内径面に密接した状態において被膜部6の外径面と配管流路51,52の内径面との間に比較的大きな寸法差が設定されている。したがって図2に示すように当該継ぎ手シール1が芯ズレした状態の配管流路51,52に装着されると、シールリップ4,5以外の部分は配管流路51,52の内径面と干渉せずシールリップ4,5のみが配管流路51,52の内径面に対し全周に亙って密接する状態が実現されるために、上記従来技術のようにシール装着不可となることなく、当該継ぎ手シール1を円滑に装着することができる。
【0031】
また、その構造は、円筒状の外径面2cを備える筒状金具2の軸方向両端部2a,2b外径面にシールリップ4,5を設けるとともに両リップ4,5間の軸方向中央部外径面に薄膜状の被膜部6を設けるものであるため、至って簡易なものである。
【0032】
したがって本発明所期の目的どおり、一対の配管流路51,52が芯ズレした状態にあっても継ぎ手シール1を円滑に装着することができ、しかも簡易な構造の継ぎ手シール1を提供することができる。
【0033】
また、シールリップ4,5の先端部4a,5aが断面アール形状に成形されているために、上記したとおりシール性を安定させることができる。また、一対のシールリップ4,5が被膜部6を介して一体成形されているために、被着面積が増大することによってシールリップ4,5が筒状金具2から剥がれるのを抑制することができ、キャビティ空間が1つに集約されることによってゴム成形型の構造を簡素化することができる。
【0034】
尚、上記実施例では、シールリップ4,5を断面三角形状としたうえでその先端部4a,5aを断面アール形状としたが、シールリップ4,5全体を断面アール形状とすることによりその一部として先端部4a,5aを断面アール形状としても良い。
【0035】
その一例として図3および図4に示す他の実施例では、シールリップ4,5全体が断面アール形状(断面半円形、半楕円形)とされ、その一部として先端部4a,5aが断面アール形状とされている。
【0036】
また、この図3および図4に示すように、継ぎ手シール1の軸方向両端部にはそれぞれシールリップ4,5が設けられていない端部領域(突出端部)7,8が設けられても良く、この場合、シールリップ4,5は、継ぎ手シール1の軸方向端面から若干軸方向中央寄りの位置に設けられることになる。また、この端部領域7,8は筒状金具2にゴム状弾性体3が被着されておらずに筒状金具2の外径面2cが表面露出した状態のものであっても良く、更にこの端部領域7,8にはテーパー状の面取りなどが設けられていても良い。
【符号の説明】
【0037】
1 継ぎ手シール
2 筒状金具
2a,2b 軸方向端部
2c 外径面
3 ゴム状弾性体
4,5 シールリップ
4a,5a リップ先端部
6 被膜部
7,8 端部領域
51,52 配管流路
0 中心軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに離間して同一中心軸線上に配置される一対の配管流路を接続するために用いられる筒状の継ぎ手シールであって、
一方の前記配管流路の開口部に一方の端部を差し込まれるとともに他方の前記配管流路に他方の端部を差し込まれる筒状金具と、前記筒状金具の外径面に被着されてシール作用をなすゴム状弾性体とを有し、
前記筒状金具は、フランジや溝を有さず全長に亙って一定の外径寸法を備える外径面を有する形状とされ、
前記ゴム状弾性体は、前記筒状金具の一方の端部の外径面に被着されるとともに一方の前記配管流路の内径面に密接する一方のシールリップ、および前記筒状金具の他方の端部の外径面に被着されるとともに他方の前記配管流路の内径面に密接する他方のシールリップを有する形状とされ、
前記一対の配管流路が芯ズレした状態にあるときに当該継ぎ手シールは前記配管流路に対し斜めに傾いた姿勢で装着され、このとき前記シールリップ以外の部分は前記配管流路の内径面と干渉せず前記シールリップのみが前記配管流路の内径面に対し全周に亙って密接することを特徴とする継ぎ手シール。
【請求項2】
請求項1記載の継ぎ手シールにおいて、
前記シールリップの先端部は、前記芯ズレに伴う接触の角度変化に追随しやすい断面アール形状とされていることを特徴とする継ぎ手シール。
【請求項3】
請求項1または2記載の継ぎ手シールにおいて、
前記一対のシールリップは、これらよりも外径寸法が小さな被膜部を介して互いに一体成形されていることを特徴とする継ぎ手シール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−255470(P2012−255470A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127972(P2011−127972)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】