継目無金属管の製造方法
【課題】溶融割れを抑制できる継目無金属管の製造方法を提供する。
【解決手段】
本実施の形態による継目無金属管の製造方法は、質量%で、Cr:20〜30%及びNi:22%を超えて60%以下を含有する高合金を第1加熱炉で加熱する工程(S2)と、第1加熱炉で加熱された高合金を第1穿孔機を用いて穿孔圧延して中空素管を製造する工程(S3)と、中空素管を第2加熱炉で加熱する工程(S4)と、第2の加熱炉で加熱された中空素管を、第1穿孔機又は第1穿孔機と異なる第2穿孔機を用いて延伸圧延する工程(S5)とを備える。
【解決手段】
本実施の形態による継目無金属管の製造方法は、質量%で、Cr:20〜30%及びNi:22%を超えて60%以下を含有する高合金を第1加熱炉で加熱する工程(S2)と、第1加熱炉で加熱された高合金を第1穿孔機を用いて穿孔圧延して中空素管を製造する工程(S3)と、中空素管を第2加熱炉で加熱する工程(S4)と、第2の加熱炉で加熱された中空素管を、第1穿孔機又は第1穿孔機と異なる第2穿孔機を用いて延伸圧延する工程(S5)とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、継目無金属管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
継目無金属管の製造方法として、プレス方式のユジーン法と、傾斜圧延方式のマンネスマン法とがある。
【0003】
ユジーン法では、機械加工又は穿孔プレスにより軸心に貫通孔が形成された中空の丸ビレットを準備する。そして、押出装置を利用して、中空の丸ビレットを熱間押出加工して継目無金属管を製造する。
【0004】
マンネスマン法では、穿孔機を用いて丸ビレットを穿孔圧延して中空素管(Hollow Shell)を製造する。製造された中空素管を圧延機で延伸圧延して中空素管を小径化及び/又は薄肉化し、継目無金属管を製造する。圧延機は例えば、プラグミル、マンドレルミル、ピルガーミル、サイザ等である。
【0005】
ユジーン法は、丸ビレットに高加工度を加えることが可能であり、製管性に優れる。高合金は一般的に高い変形抵抗を有する。そのため、高合金からなる継目無金属管は、主としてユジーン法により製造される。
【0006】
しかしながら、ユジーン法は、マンネスマン法と比較して、生産効率が低い。これに対して、マンネスマン法は、生産効率が高く、大径管、長尺管も製造可能である。したがって、高合金の継目無金属管を製造するために、ユジーン法よりも、マンネスマン法を利用できる方が好ましい。
【0007】
しかしながら、マンネスマン法により製造された高合金の継目無金属管の内面には、溶融割れに起因する内面疵が発生する場合がある。溶融割れは、中空素管の肉中の粒界が溶融することにより発生する。上述のとおり高合金は高い変形抵抗を有する。さらに、高合金のNi含有量が高い場合、状態図における固相線温度が低い。このような高合金を穿孔機により穿孔圧延する場合、変形抵抗が高い分、加工発熱が大きくなる。穿孔圧延中のビレット内において、加工発熱により、温度がビレットの融点近傍又は融点を超える部分が生じる。このような部分では、粒界が溶融し、割れが発生する。このような割れを溶融割れという。
【0008】
中空素管の内面疵の発生を抑制する技術は、特開2002−239612号公報(特許文献1)、特開平5−277516号公報(特許文献2)、特開平4−187310号公報(特許文献3)に提案されている。
【0009】
特許文献1及び2は次の事項を開示する。特許文献1及び2は、SUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼からなる継目無鋼管の製造を目的とする。特許文献1及び2では、素材を機械加工により中空素管にして加熱炉に装入する。そして、加熱された中空素管を穿孔機により延伸圧延する。中空素管を延伸圧延する場合の加工量は、中実の丸ビレットと比較して低い。そのため、加工発熱量が低減し、内面疵の発生が抑制される。
【0010】
特許文献3は次の事項を開示する。特許文献3は、マンネスマン法において、2つの穿孔機(穿孔機及びエロンゲータ)を利用する、いわゆる「ダブル・ピアシング」方式の製造方法を採用する。特許文献3は、エロンゲータにおいて中空素管内面疵の発生を抑制することを目的とする。特許文献3では、エロンゲータのロール傾斜角と延伸比とを調整して、エロンゲータの圧延負荷を低減する。これにより、内面疵の発生が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−239612号公報
【特許文献2】特開平5−277516号公報
【特許文献3】特開平4−187310号公報
【特許文献4】特開昭64−27707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2では、機械加工によりビレットを中空素管にする。機械加工による中空素管の製造コストは高いため、継目無金属管の製造コストも高くなる。さらに、機械加工により中空素管を製造する場合、生産効率が低下する。
【0013】
さらに、特許文献3では、エロンゲータのロール傾斜角と延伸比とを調整して、エロンゲータの圧延負荷を低減するものの、依然として溶融割れに起因する内面疵が発生する場合がある。
【0014】
本発明の目的は、溶融割れに起因する内面疵の発生を抑制できる継目無金属管の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本実施の形態による継目無金属管の製造方法は、質量%で、Cr:20〜30%及びNi:22%を超えて60%以下を含有する高合金を第1加熱炉で加熱する工程と、第1加熱炉で加熱された高合金を第1穿孔機を用いて穿孔圧延して中空素管を製造する工程と、中空素管を第2加熱炉で加熱する工程と、第2加熱炉で加熱された中空素管を第1穿孔機又は第1穿孔機と異なる第2穿孔機を用いて延伸圧延する工程とを備える。
【0016】
本実施の形態による継目無金属管の製造方法は、溶融割れに起因する内面疵の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本実施の形態による継目無金属管の製造ラインの全体構成図である。
【図2】図2は、本実施の形態による継目無金属管の製造工程を示すフロー図である。
【図3】図3は、図1中の加熱炉の模式図である。
【図4】図4は、図1中の穿孔機の模式図である。
【図5】図5は、第1穿孔機による穿孔圧延後、再加熱せずに第2穿孔機により延伸圧延を実施した場合の、各工程での中空素管の内面、外面、肉中の温度の推移を示す図である。
【図6】図6は、第2加熱炉を用いて穿孔圧延後の中空素管を再加熱した後、第2穿孔機により延伸圧延を実施した場合の、各工程での中空素管の内面、外面、肉中の温度の推移を示す図である。
【図7】図7は、第2加熱炉の加熱時間と、中空素管の外面温度、内面温度及び肉中温度との関係を示す図である。
【図8】図8は、図7と異なる条件における、第2加熱炉の加熱時間と、中空素管の外面温度、内面温度及び肉中温度との関係を示す図である。
【図9】図9は、図7及び図8と異なる条件における、第2加熱炉の加熱時間と、中空素管の外面温度、内面温度及び肉中温度との関係を示す図である。
【図10】図10は、第2加熱炉における加熱時間と中空素管の偏熱との関係を示す図である。
【図11】図11は、図10と異なる条件における、第2加熱炉における加熱時間と中空素管の偏熱との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0019】
[第1の実施の形態]
高合金の継目無金属管をマンネスマン法により製造する場合、ダブル・ピアシング方式が適する。高合金は変形抵抗が高い。そのため、1回の穿孔圧延での加工度が高ければ、一般的な鋼(低合金鋼等)と比較して、穿孔機への負荷が高くなる。さらに、加工度が高ければ加工発熱も大きくなるため、溶融割れが発生しやすくなる。2つの穿孔機(第1穿孔機及び第2穿孔機)又は1つの穿孔機を用いて、穿孔圧延及び延伸圧延を実施すれば、つまり、ダブル・ピアシング方式を利用すれば、1回の穿孔圧延、延伸圧延当たりの加工度を抑えることができる。
【0020】
しかしながら、高合金の継目無金属管を製造するためにダブル・ピアシング方式を利用する場合であっても、溶融割れが発生し得る。特に、穿孔圧延により製造された高合金の中空素管(ホローシェル)を第1又は第2穿孔機により延伸圧延する場合、加工発熱により溶融割れが発生する可能性がある。
【0021】
本発明者らは、ダブル・ピアシング方式により高合金の継目無金属管を製造する場合の加工発熱の抑制方法について検討した。その結果、本発明者らは次の知見を得た。
【0022】
穿孔圧延後の中空素管は肉厚方向に温度分布を持つ。穿孔圧延中の中空素管の内面はプラグと接触して抜熱され、中空素管の外面は傾斜ロールと接触して抜熱される。一方、中空素管の肉中(中空中空素管の肉厚の中心部)の温度は加工発熱により上昇する。したがって、中空素管内面及び外面の温度が低下し、肉中の温度が最も高くなる。特に、傾斜ロールのサイズは大きいため、中空素管外面温度は抜熱により内面温度よりも低くなる。したがって、中空素管の肉中と外面との温度差が最も大きくなる。以降、中空素管の肉中と外面との温度差を「偏熱」と称する。
【0023】
偏熱が大きい中空素管を延伸圧延すれば、溶融割れが発生しやすくなる。その理由として、次の事項が推定される。偏熱は、延伸圧延中の中空素管の肉中において、局所的な歪みの集中を引き起こす。このような歪みの集中は、肉中での加工発熱を顕著に高め、その結果、溶融割れを引き起こす。
【0024】
偏熱は、上述のとおり第1穿孔機による穿孔圧延時に発生し、中空素管が第1穿孔機から第2穿孔機に搬送された後も残る。このような偏熱を抑えるために、穿孔圧延後の中空素管を延伸圧延する前に、中空素管を加熱炉に装入して再加熱する。この加熱炉は、中空素管の偏熱を小さくする役割を果たす。具体的には、この加熱炉において、穿孔圧延での加工発熱により過剰に高くなった中空素管の肉中温度が低められて、抜熱により低下した外面温度が高められる。
【0025】
このように、偏熱を低減するための加熱炉を設ければ、延伸圧延前の中空素管の偏熱を抑えることができる。そのため、高合金の中空素管でも、ダブル・ピアシング方式において溶融割れの発生を抑制できる。
【0026】
以上の知見に基づいて完成した本実施の形態による継目無金属管の製造方法は次のとおりである。
【0027】
本実施の形態による継目無金属管の製造方法は、質量%で、Cr:20〜30%及びNi:22%を超えて60%以下を含有する高合金を第1加熱炉で加熱する工程と、第1加熱炉で加熱された高合金を第1穿孔機を用いて穿孔圧延して中空素管を製造する工程と、中空素管を第2加熱炉で加熱する工程と、第2加熱炉で加熱された中空素管を、第1穿孔機又は第1穿孔機と異なる第2穿孔機を用いて延伸圧延する工程とを備える。
【0028】
この場合、穿孔圧延後の中空素管内の偏熱は、第2加熱炉により小さくなる。そのため、中空素管を延伸圧延したとき、肉中温度が過剰に高くなるのを抑制でき、溶融割れの発生を抑制できる。その結果、継目無金属管の内面疵の発生が抑制される。
【0029】
好ましくは、中空素管を前記第2加熱炉で加熱する工程では、外面温度が1000℃以上の中空素管を前記第2加熱炉に装入する。
【0030】
この場合、第2加熱炉が中空素管偏熱を有効に抑制する。さらに、生産性及び製造コスト(燃料原単位)が改善される。
【0031】
好ましくは、中空素管を第2加熱炉で加熱する工程では、加熱時間を少なくとも300秒以上にする。
【0032】
加熱時間が少なくとも300秒以上であれば、中空素管の偏熱は十分に小さくなる。
【0033】
好ましくは、穿孔圧延する工程では、式(1)で定義される穿孔比が1.1〜2.0以下であり、延伸圧延する工程では、式(2)で定義される延伸比が1.05〜2.0以下であり、式(3)で定義される総延伸比が2.0よりも高い。
穿孔比=穿孔圧延後の中空素管長さ/穿孔圧延前のビレット長さ (1)
延伸比=延伸圧延後の中空素管長さ/延伸圧延前の中空素管長さ (2)
総延伸比=延伸圧延後の中空素管長さ/穿孔圧延前のビレット長さ (3)
【0034】
この場合、高い加工度で高合金の継目無金属管を製造できる。
【0035】
以下、本実施の形態による継目無金属管の製造方法の詳細を説明する。
【0036】
[製造設備]
図1は、本実施の形態による継目無金属管の製造ラインの一例を示すブロック図である。
【0037】
図1を参照して、製造ラインは、加熱炉F1と、穿孔機P1と、加熱炉F2と、穿孔機P2と、圧延機(本例では圧延機10及び定径圧延機20)とを備える。各設備の間には、搬送装置50が配置される。搬送装置50は例えば、搬送ローラ、プッシャ、ウォーキングビーム式搬送装置等である。圧延機10はたとえばマンドレルミルであり、定径圧延機20はサイザ又はストレッチレデューサである。
【0038】
図1では、穿孔機P1と穿孔機P2との間に、加熱炉F1と異なる加熱炉F2が配置される。図1では加熱炉F2は製造ラインに含まれている。しかしながら、加熱炉F2は、製造ラインに含まれず、いわゆるオフラインに配置されてもよい。
【0039】
[製造フロー]
図2は、本実施の形態による継目無金属管の製造工程を示すフロー図である。本実施の形態による継目無金属管の製造方法では次の工程を実施する。初めに、高合金の丸ビレットを準備する(S1:準備工程)。準備した丸ビレットを加熱炉F1に装入し、加熱する(S2:第1加熱工程)。加熱された丸ビレットを穿孔機P1で穿孔圧延して中空素管(ホローシェル)を製造する(S3:穿孔圧延工程)。中空素管を加熱炉F2に装入し、再加熱する(S4:第2加熱工程)。加熱された中空素管を穿孔機P2で延伸圧延する(S5:延伸圧延工程)。延伸圧延された中空素管を、圧延機10及び定径圧延機20で圧延し、継目無金属管にする(S6)。以下、各工程について詳述する。
【0040】
[準備工程(S1)]
初めに、高合金からなる丸ビレットを準備する。丸ビレットは、質量%で、20〜30%のCrと、22%を超えて60%以下のNiとを含有する。好ましくは、丸ビレットは、C:0.005〜0.04%、Si:0.01〜1.0%、Mn:0.01〜5.0%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Cr:20〜30%、Ni:22%を超えて60%以下、Cu:0.01〜4.0%、Al:0.001〜0.3%、N:0.005〜0.5%を含有し、残部はFe及び不純物からなる。また、必要に応じて、Feの一部に代えて、Mo:11.5%以下及びW:20%以下の1種以上を含有してもよい。さらに、Feの一部に代えて、Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下、Ti:0.001〜1.0%、V:0.001〜0.3%、Nb:0.0001〜0.5%、Co:0.01〜5.0%及びREM:0.2%以下の1種以上を含有してもよい。
【0041】
丸ビレットは周知の方法で製造される。例えば、丸ビレットは次の方法により製造される。上記化学組成の溶鋼を製造する。溶鋼を造塊法によりインゴットにする。又は、溶鋼を連続鋳造法により鋳片(スラブ)にする。インゴット又は鋳片を熱間加工して、ビレットを製造する。熱間加工は例えば、熱間鍛造である。連続鋳造法により、高合金の丸ビレットを製造してもよい。また上述以外の他の方法により、高合金の丸ビレットを製造してもよい。
【0042】
[第1加熱工程(S2)]
準備された丸ビレットを加熱炉F1装入し、加熱する。好ましい加熱温度は1150℃〜1250℃である。この温度範囲で丸ビレットを加熱すれば、穿孔圧延時中の丸ビレットで粒界溶融が発生しにくい。好ましい加熱温度の上限は1220℃以下である。加熱時間は特に限定されない。
【0043】
加熱炉F1は周知の構成を備える。加熱炉F1は例えば、図3に示すロータリー炉であってもよいし、周知のウォーキングビーム炉であってもよい。
【0044】
[穿孔圧延工程(S3)]
加熱炉F1で加熱された丸ビレットを、穿孔機P1を用いて穿孔圧延する。図4は、穿孔機P1の構成図である。図4を参照して、穿孔機P1は、一対の傾斜ロール1と、プラグ2とを備える。一対の傾斜ロール1は、パスラインPLを挟んで互いに対向して配置される。各傾斜ロール1は、パスラインPLに対して、傾斜角及び交叉角を有する。プラグ2は一対の傾斜ロール1の間であって、パスラインPL上に配置される。
加熱炉F1から丸ビレットを抽出する。抽出された丸ビレットを、搬送装置50(搬送ローラ、プッシャ等)により、速やかに穿孔機P1の入側に搬送する。そして、穿孔機P1を用いて丸ビレットを穿孔圧延して中空素管を製造する。
【0045】
穿孔圧延における好ましい穿孔比は、1.1〜2.0以下である。穿孔比は、次の式(1)で定義される。
穿孔比=穿孔圧延後の中空素管長さ/穿孔圧延前のビレット長さ (1)
【0046】
上述の穿孔比の範囲で穿孔圧延を実施すれば、溶融割れが発生しにくい。なお、加熱炉F1での加熱温度が1100℃未満であれば、穿孔機P1での負荷が大きくなりすぎるため、穿孔圧延が困難である。
【0047】
加熱温度が高い程、低い穿孔比で溶融割れが発生する。丸ビレットの加熱温度と穿孔圧延による加工発熱の合算値が、材料固有の粒界溶融温度を上回った場合、溶融割れが発生する。加工発熱は、穿孔比が低いほど低くなる。したがって、加熱温度が高い程、穿孔比を低くする方が好ましい。
【0048】
[第2加熱工程(S4)]
穿孔圧延により製造された中空素管を加熱炉F2に装入し、加熱する。加熱炉F2は、加熱炉F1と同様に、周知の構成を有する。したがって、第2加熱炉は例えば、図3に示すロータリー炉、又は、ウォーキングビーム炉等である。
【0049】
穿孔圧延直後の中空素管の肉中温度は、中空素管の外面温度よりも顕著に高い。上述のとおり、中空素管の横断面(中空素管の軸方向に垂直な断面)における肉中(肉厚の中心位置)の温度から、中空素管外面の温度を差分した値を「偏熱」(℃)と定義する。穿孔比が上述の範囲である場合、偏熱は100〜230℃程度になる。偏熱が大きいまま、穿孔機P2を用いて延伸圧延を実施する場合、偏熱に起因して肉中に局所的に歪みが集中し、加工発熱が顕著に増大する。加工発熱の増大は、偏熱が大きいほど顕著になる。したがって、中空素管の偏熱が大きいまま、穿孔機P2で延伸圧延を実施すれば、中空素管で溶融割れが発生しやすくなる。
【0050】
そこで、本実施の形態では、加熱炉F2を配置し、穿孔圧延後の中空素管を速やかに加熱炉F2に装入する。そして、加熱炉F2で中空素管を、中空素管の肉中温度よりも低く、外面温度よりも高い温度で加熱する。このとき、加工発熱により過剰に高くなった中空素管肉中温度が低下し、穿孔圧延により低下した中空素管外面温度(及び内面温度)が高まる。これにより、中空素管の温度分布のばらつきを抑え、偏熱を小さくする。
【0051】
図5は、穿孔機P1による穿孔圧延後、再加熱せずに穿孔機P2により延伸圧延を実施した場合の、各工程(加熱炉F1抽出時、穿孔圧延直後、延伸圧延直前)での中空素管の内面温度、外面温度、肉中温度の推移を示す図である。図6は、加熱炉F2を用いて穿孔圧延後の中空素管を再加熱した後、穿孔機P2により延伸圧延を実施した場合の、各工程(加熱炉F1抽出時、穿孔圧延直後、加熱炉F2抽出時、延伸圧延直前)での中空素管の内面温度、外面温度、肉中温度の推移を示す図である。図5及び図6は次の数値解析により得られた。
【0052】
上述の化学組成を満たす高合金からなる丸ビレットを想定した。丸ビレットの外径は70mm、長さは500mmとした。加熱炉F1の加熱温度は1210℃とした。穿孔機P1を用いた穿孔圧延により製造される中空素管の外径は75mm、肉厚は10mm、長さは942mmとした。穿孔比は1.88であった。加熱炉F2の加熱温度は1200℃とした。加熱炉F2において、中空素管の内面温度、外面温度及び肉中温度が加熱温度(1200℃)になるまで、中空素管を十分な時間加熱したと仮定した。穿孔機P2を用いた延伸圧延により製造される中空素管の外径は86mm、肉厚は7mm、長さは1107mmとした。延伸比は1.18であった。加熱炉F2から穿孔機P2入側までの搬送時間は20秒とした。穿孔機P1から加熱炉F2を経由せずに穿孔機P2に至るまでの搬送時間(図6に対応)は60秒とした。
【0053】
以上の製造条件に基づいて、数値解析モデルを構築した。そして差分法により、中空素管の外面温度OT、内面温度IT、肉中温度(肉厚の中心位置での温度)MTを求めた。求めた各温度に基づいて、図5及び図6を作成した。
【0054】
図5及び図6中のMT(「▲」印)は、肉中温度を示す。IT(「■」印)は、内面温度を示す。OT(「●」印)は、外面温度を示す。図5を参照して、加熱炉F2での再加熱を実施しない場合、穿孔圧延工程後の偏熱(肉中温度MTと外面温度OTとの差分値)は200℃以上であり、肉中温度MTは1280℃以上であった。そして、延伸圧延直前、つまり、第2穿孔機の入側での偏熱量は230℃以上であり、かつ、肉中温度MTは1230℃以上であった。つまり、加工発熱により、肉中温度MTは加熱炉F1の加熱温度よりも高くなった。
【0055】
一方、図6を参照して、加熱炉F2での再加熱を実施した場合、加熱炉F2において、中空素管の外面温度OT、内面温度IT及び肉中温度MTはいずれも1200℃になるため、穿孔圧延直後の偏熱は再加熱により解消される。そして、穿孔機P2の入側での偏熱量も80℃以内であり、かつ、肉中温度MTは1200℃未満であった。
【0056】
以上より、加熱炉F2により、中空素管の肉中温度MTを低下することができ、その結果、偏熱も小さくできる。そのため、穿孔機P2での延伸圧延時に、粒界が溶融するのを抑制でき、内面割れの発生を抑制できる。
【0057】
加熱炉F2の好ましい加熱温度は1100〜1250℃である。好ましくは、加熱炉F2の加熱温度は、加熱炉F1の加熱温度よりも低い。穿孔機P2は中空素管を延伸圧延する。そのため、中実の丸ビレットを穿孔圧延する穿孔機P1よりも、穿孔機P2が受ける負荷は小さい。したがって、加熱炉F2の加熱温度が加熱炉F1の加熱温度よりも低くても、中空素管を延伸圧延することができる。
【0058】
生産性と加熱炉F2の燃料原単位の向上とを考慮すれば、穿孔圧延された中空素管をなるべく早く加熱炉F2に装入するのが好ましい。しかしながら、製造レイアウトにおいて、穿孔機P1の配置と加熱炉F2の配置にも物理的な制限が伴う場合が多い。したがって、穿孔機P1で穿孔圧延された中空素管が加熱炉F2に装入されるまでにある程度の時間が必要である。しかしながら、加熱炉F1とは別個に加熱炉F2を配置することにより、加熱炉F2により、穿孔圧延後の中空素管を速やかに再加熱することができる。
【0059】
加熱炉F2に装入される中空素管の外面温度(つまり、装入直前の外面温度)は、好ましくは1000℃以上であり、さらに好ましくは1050℃以上である。この場合、加熱炉F2での好ましい加熱時間は300秒以上である。
【0060】
図7〜図9は加熱炉F2の加熱時間と、中空素管の外面温度OT、内面温度IT、肉中温度MTの温度との関係を示す図である。図7では、加熱炉F1の加熱温度を1210℃とし、加熱炉F2の加熱温度を1200℃とした。中空素管の肉厚を25mmとした。その他の条件は図6を求めたときと同じ条件とした。以上の条件に基づいて、数値解析モデルを構築した。そして差分法により、各加熱時間における中空素管の外面温度OT、内面温度IT、肉中温度(肉厚の中心位置での温度)MTを差分法により求め、図7を作成した。
【0061】
図8では、図7の条件と比較して、中空素管の肉厚が異なり、50mmであった。その他の条件は図7と同じであった。図9では、図8の条件と比較して、加熱炉F2の加熱温度が異なり、1150℃であった。その他の条件は図8の条件と同じであった。
【0062】
図7〜図9中の曲線MTは、中空素管の肉中温度(℃)を示す。曲線ITは、中空素管内面温度(℃)を示す。曲線OTは、中空素管の外面温度(℃)を示す。図7〜図9を参照して、いずれにおいても、少なくとも加熱時間が300秒経てば、偏熱が10℃以下になる。なお、図7〜図9の加熱初期において、内面温度ITは、加熱炉F2の炉内雰囲気温度(つまり、加熱温度)からの熱伝達と、炉内雰囲気温度(加熱温度)よりも高い肉中温度MTを有する肉中からの熱伝導とにより、加熱温度よりも上昇する。しかしながら、時間の経過とともに、内面温度ITは加熱温度に近づく。
【0063】
図10は、加熱炉F1の加熱温度が1210℃であり、加熱炉F2の加熱温度が1200℃である場合の、加熱炉F2における加熱時間と中空素管の偏熱(肉中温度MT−外面温度OT)との関係を示す図である。図11は、加熱炉F1の加熱温度が1210℃であり、加熱炉F2の加熱温度が1150℃である場合の、加熱炉F2における加熱時間と中空素管の偏熱との関係を示す図である。図10及び図11中の曲線T25は、中空素管肉厚が25mmの場合の偏熱を示す。曲線T50は、中空素管肉厚が50mmの場合の偏熱を示す。図10及び図11は、図7〜図9のデータを編集して作成された。
【0064】
図10及び図11を参照して、偏熱は、肉厚が25mm、50mmの場合のいずれにおいても、加熱炉F2の加熱時間が経過するにしたがって急速に小さくなる。そして、加熱時間が300秒を経過すると、再加熱時間が経過に伴う偏熱の低下の度合いが小さくなる。加熱時間が300秒以上であれば、偏熱は10℃以下になる。
【0065】
図7〜図11より、加熱炉F2において少なくとも300秒以上加熱すれば、偏熱は十分に小さくなる。そのため、加熱時間を300秒以上とすれば、次工程の延伸圧延において、溶融割れの発生が抑えられる。
【0066】
加熱炉F2での好ましい加熱時間の上限は、1000秒以下であり、さらに好ましくは600秒以下である。この場合、偏熱を十分に低減でき、かつ、生産効率も高まる。
【0067】
[延伸圧延工程(S5)]
加熱炉F2から中空素管を抽出し、穿孔機P2に搬送する。そして、穿孔機P2を用いて中空素管を延伸圧延する。
【0068】
穿孔機P2の構成は、図4に示す穿孔機P1と同じである。つまり、穿孔機P2も、一対の傾斜ロール1と、プラグ2とを備える。ただし、傾斜ロール1、プラグ2の形状は、穿孔機P1のものと異なっていてもよい。
【0069】
延伸圧延における好ましい延伸比は、1.05〜2.0以下である。穿孔比は、次の式(2)で定義される。
延伸比=延伸圧延後の中空素管長さ/延伸圧延前の中空素管長さ (2)
【0070】
加熱炉F2での加熱温度と、延伸比との関係は、加熱炉F1の場合と同じである。なお、加熱炉F2での加熱温度が1100℃未満であれば、延伸圧延が困難である。したがって、好ましい延伸比は1.05〜2.0である。
さらに、式(3)で定義される総延伸比の好ましい値は、2.0よりも高く、4.0以下である。
総延伸比=延伸圧延後の中空素管長さ/穿孔圧延前のビレット長さ (3)
【0071】
本実施の形態では、穿孔圧延後、加熱炉F2で中空素管を再加熱(均熱)する。そのため、穿孔圧延の加工発熱により過剰に高くなった肉中温度が下がり、偏熱が小さくなる。そのため、延伸圧延において、溶融割れの発生が抑制される。したがって、総延伸比が2.0よりも高くなっても、内面割れの発生が抑制される。
【0072】
[延伸工程以降の工程(S6)]
延伸工程以降の工程は、周知のマンネスマン法と同様である。例えば、延伸された中空素管を圧延機10により延伸圧延する。圧延機10は直列に配列された複数のロールスタンドを含む。圧延機10は例えば、プラグミルやマンドレルミル等である。さらに、圧延機10により延伸圧延された中空素管を、定径圧延機20により定径圧延する。定径圧延機20は、直列に配列された複数のロールスタンドを含む。定径圧延機20は例えば、サイザやストレッチレデューサ等である。以上の工程により、高合金からなる継目無金属管が製造される。
【0073】
[第2の実施の形態]
第1の実施の形態では、穿孔機P2を用いて延伸圧延を実施する。しかしながら、穿孔機P2に代えて、穿孔機P1を用いて延伸圧延を実施してもよい。要するに、穿孔機P1は、加熱炉F1で加熱された丸ビレットを穿孔圧延し(図2中のS3)、さらに、加熱炉F2で加熱された中空素管を延伸圧延する(図2中のS5)。この場合であっても、加熱炉F2が、過剰に高い肉中温度を低下し、偏熱を小さくする。したがって、穿孔機P1で中空素管を延伸圧延しても、溶融割れが発生しにくい。
【実施例】
【0074】
質量%で、C:0.02%、Si:0.3%、Mn:0.6%、Cr:25%、Ni:31%、Cu:0.8%、Al:0.06%、N:0.09%及びMo:3%を含有し、残部はFe及び不純物からなる高合金の丸ビレットを準備した。丸ビレットに対してダブル・ピアシング(第1穿孔機による穿孔圧延、第2穿孔機による延伸圧延)を実施し、継目無金属管とした。製造された継目無金属管の内面割れの有無を調査した。
【0075】
[本発明例]
本発明例の継目無金属管を、次の方法で製造した。上述の化学組成の高合金の丸ビレットを3本準備した。各丸ビレットの外径は70mmであり、長さは500mmであった。各丸ビレットを加熱炉F1に装入し、1210℃で1時間加熱した。加熱後、加熱炉F1から丸ビレットを抽出し、穿孔機P1で穿孔圧延して中空素管にした。中空素管の外径は75mm、肉厚は10mm、長さは942mmであり、穿孔比は1.88であった。
【0076】
穿孔圧延後の中空素管を速やかに加熱炉F2に装入して加熱した。装入時の中空素管の外面温度は1050℃であった。加熱炉F2での加熱温度は1200℃、加熱時間は600秒(10分)であった。
【0077】
加熱後、中空素管を加熱炉F2から抽出し、穿孔機P2で延伸圧延して継目無金属管を製造した。穿孔機P2の入側での中空素管の外面温度(つまり、延伸圧延直前での中空素管の外面温度)は1120℃であった。製造された継目無金属管の外径は86mm、肉厚は7mm、長さは1107mmであり、延伸比は1.18であった。総延伸比は、2.21であった。
【0078】
製造された各継目無金属管の溶融割れの有無を調査した。具体的には、各継目無金属管を超音波探傷後に軸方向に沿って切断し、内面の溶融割れの有無を目視観察した。溶融割れが1つでも観察された場合、その継目無金属管では溶融割れが発生したと判断した。
【0079】
[比較例]
比較例の継目無金属管を、次の方法で製造した。本発明例と同じ化学組成及び寸法の丸ビレットを3本準備した。本発明例と同じ条件で、丸ビレットを加熱炉F1で加熱し、穿孔機P1を用いて穿孔圧延して中空素管とした。製造された中空素管の寸法は本発明例と同じであった。製造された中空素管を加熱炉F2に装入せず、穿孔機P2を用いて本発明例と同じ条件で延伸圧延して継目無金属管を製造した。製造された継目無金属管の寸法は本発明例と同じであった。穿孔機P2の入側での中空素管の外面温度は990℃であった。製造された継目無金属管の溶融割れの有無を、本発明例と同じ方法で調査した。
【0080】
[調査結果]
本発明例の3本の継目無金属管では、いずれも内面に溶融割れが発生しなかった。一方、比較例の3本の継目無金属管では、いずれも内面に溶融割れが発生した。
【0081】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0082】
10 圧延機
20 定径圧延機
F1,F2 加熱炉
P1,P2 穿孔機
【技術分野】
【0001】
本発明は、継目無金属管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
継目無金属管の製造方法として、プレス方式のユジーン法と、傾斜圧延方式のマンネスマン法とがある。
【0003】
ユジーン法では、機械加工又は穿孔プレスにより軸心に貫通孔が形成された中空の丸ビレットを準備する。そして、押出装置を利用して、中空の丸ビレットを熱間押出加工して継目無金属管を製造する。
【0004】
マンネスマン法では、穿孔機を用いて丸ビレットを穿孔圧延して中空素管(Hollow Shell)を製造する。製造された中空素管を圧延機で延伸圧延して中空素管を小径化及び/又は薄肉化し、継目無金属管を製造する。圧延機は例えば、プラグミル、マンドレルミル、ピルガーミル、サイザ等である。
【0005】
ユジーン法は、丸ビレットに高加工度を加えることが可能であり、製管性に優れる。高合金は一般的に高い変形抵抗を有する。そのため、高合金からなる継目無金属管は、主としてユジーン法により製造される。
【0006】
しかしながら、ユジーン法は、マンネスマン法と比較して、生産効率が低い。これに対して、マンネスマン法は、生産効率が高く、大径管、長尺管も製造可能である。したがって、高合金の継目無金属管を製造するために、ユジーン法よりも、マンネスマン法を利用できる方が好ましい。
【0007】
しかしながら、マンネスマン法により製造された高合金の継目無金属管の内面には、溶融割れに起因する内面疵が発生する場合がある。溶融割れは、中空素管の肉中の粒界が溶融することにより発生する。上述のとおり高合金は高い変形抵抗を有する。さらに、高合金のNi含有量が高い場合、状態図における固相線温度が低い。このような高合金を穿孔機により穿孔圧延する場合、変形抵抗が高い分、加工発熱が大きくなる。穿孔圧延中のビレット内において、加工発熱により、温度がビレットの融点近傍又は融点を超える部分が生じる。このような部分では、粒界が溶融し、割れが発生する。このような割れを溶融割れという。
【0008】
中空素管の内面疵の発生を抑制する技術は、特開2002−239612号公報(特許文献1)、特開平5−277516号公報(特許文献2)、特開平4−187310号公報(特許文献3)に提案されている。
【0009】
特許文献1及び2は次の事項を開示する。特許文献1及び2は、SUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼からなる継目無鋼管の製造を目的とする。特許文献1及び2では、素材を機械加工により中空素管にして加熱炉に装入する。そして、加熱された中空素管を穿孔機により延伸圧延する。中空素管を延伸圧延する場合の加工量は、中実の丸ビレットと比較して低い。そのため、加工発熱量が低減し、内面疵の発生が抑制される。
【0010】
特許文献3は次の事項を開示する。特許文献3は、マンネスマン法において、2つの穿孔機(穿孔機及びエロンゲータ)を利用する、いわゆる「ダブル・ピアシング」方式の製造方法を採用する。特許文献3は、エロンゲータにおいて中空素管内面疵の発生を抑制することを目的とする。特許文献3では、エロンゲータのロール傾斜角と延伸比とを調整して、エロンゲータの圧延負荷を低減する。これにより、内面疵の発生が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−239612号公報
【特許文献2】特開平5−277516号公報
【特許文献3】特開平4−187310号公報
【特許文献4】特開昭64−27707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2では、機械加工によりビレットを中空素管にする。機械加工による中空素管の製造コストは高いため、継目無金属管の製造コストも高くなる。さらに、機械加工により中空素管を製造する場合、生産効率が低下する。
【0013】
さらに、特許文献3では、エロンゲータのロール傾斜角と延伸比とを調整して、エロンゲータの圧延負荷を低減するものの、依然として溶融割れに起因する内面疵が発生する場合がある。
【0014】
本発明の目的は、溶融割れに起因する内面疵の発生を抑制できる継目無金属管の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本実施の形態による継目無金属管の製造方法は、質量%で、Cr:20〜30%及びNi:22%を超えて60%以下を含有する高合金を第1加熱炉で加熱する工程と、第1加熱炉で加熱された高合金を第1穿孔機を用いて穿孔圧延して中空素管を製造する工程と、中空素管を第2加熱炉で加熱する工程と、第2加熱炉で加熱された中空素管を第1穿孔機又は第1穿孔機と異なる第2穿孔機を用いて延伸圧延する工程とを備える。
【0016】
本実施の形態による継目無金属管の製造方法は、溶融割れに起因する内面疵の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本実施の形態による継目無金属管の製造ラインの全体構成図である。
【図2】図2は、本実施の形態による継目無金属管の製造工程を示すフロー図である。
【図3】図3は、図1中の加熱炉の模式図である。
【図4】図4は、図1中の穿孔機の模式図である。
【図5】図5は、第1穿孔機による穿孔圧延後、再加熱せずに第2穿孔機により延伸圧延を実施した場合の、各工程での中空素管の内面、外面、肉中の温度の推移を示す図である。
【図6】図6は、第2加熱炉を用いて穿孔圧延後の中空素管を再加熱した後、第2穿孔機により延伸圧延を実施した場合の、各工程での中空素管の内面、外面、肉中の温度の推移を示す図である。
【図7】図7は、第2加熱炉の加熱時間と、中空素管の外面温度、内面温度及び肉中温度との関係を示す図である。
【図8】図8は、図7と異なる条件における、第2加熱炉の加熱時間と、中空素管の外面温度、内面温度及び肉中温度との関係を示す図である。
【図9】図9は、図7及び図8と異なる条件における、第2加熱炉の加熱時間と、中空素管の外面温度、内面温度及び肉中温度との関係を示す図である。
【図10】図10は、第2加熱炉における加熱時間と中空素管の偏熱との関係を示す図である。
【図11】図11は、図10と異なる条件における、第2加熱炉における加熱時間と中空素管の偏熱との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0019】
[第1の実施の形態]
高合金の継目無金属管をマンネスマン法により製造する場合、ダブル・ピアシング方式が適する。高合金は変形抵抗が高い。そのため、1回の穿孔圧延での加工度が高ければ、一般的な鋼(低合金鋼等)と比較して、穿孔機への負荷が高くなる。さらに、加工度が高ければ加工発熱も大きくなるため、溶融割れが発生しやすくなる。2つの穿孔機(第1穿孔機及び第2穿孔機)又は1つの穿孔機を用いて、穿孔圧延及び延伸圧延を実施すれば、つまり、ダブル・ピアシング方式を利用すれば、1回の穿孔圧延、延伸圧延当たりの加工度を抑えることができる。
【0020】
しかしながら、高合金の継目無金属管を製造するためにダブル・ピアシング方式を利用する場合であっても、溶融割れが発生し得る。特に、穿孔圧延により製造された高合金の中空素管(ホローシェル)を第1又は第2穿孔機により延伸圧延する場合、加工発熱により溶融割れが発生する可能性がある。
【0021】
本発明者らは、ダブル・ピアシング方式により高合金の継目無金属管を製造する場合の加工発熱の抑制方法について検討した。その結果、本発明者らは次の知見を得た。
【0022】
穿孔圧延後の中空素管は肉厚方向に温度分布を持つ。穿孔圧延中の中空素管の内面はプラグと接触して抜熱され、中空素管の外面は傾斜ロールと接触して抜熱される。一方、中空素管の肉中(中空中空素管の肉厚の中心部)の温度は加工発熱により上昇する。したがって、中空素管内面及び外面の温度が低下し、肉中の温度が最も高くなる。特に、傾斜ロールのサイズは大きいため、中空素管外面温度は抜熱により内面温度よりも低くなる。したがって、中空素管の肉中と外面との温度差が最も大きくなる。以降、中空素管の肉中と外面との温度差を「偏熱」と称する。
【0023】
偏熱が大きい中空素管を延伸圧延すれば、溶融割れが発生しやすくなる。その理由として、次の事項が推定される。偏熱は、延伸圧延中の中空素管の肉中において、局所的な歪みの集中を引き起こす。このような歪みの集中は、肉中での加工発熱を顕著に高め、その結果、溶融割れを引き起こす。
【0024】
偏熱は、上述のとおり第1穿孔機による穿孔圧延時に発生し、中空素管が第1穿孔機から第2穿孔機に搬送された後も残る。このような偏熱を抑えるために、穿孔圧延後の中空素管を延伸圧延する前に、中空素管を加熱炉に装入して再加熱する。この加熱炉は、中空素管の偏熱を小さくする役割を果たす。具体的には、この加熱炉において、穿孔圧延での加工発熱により過剰に高くなった中空素管の肉中温度が低められて、抜熱により低下した外面温度が高められる。
【0025】
このように、偏熱を低減するための加熱炉を設ければ、延伸圧延前の中空素管の偏熱を抑えることができる。そのため、高合金の中空素管でも、ダブル・ピアシング方式において溶融割れの発生を抑制できる。
【0026】
以上の知見に基づいて完成した本実施の形態による継目無金属管の製造方法は次のとおりである。
【0027】
本実施の形態による継目無金属管の製造方法は、質量%で、Cr:20〜30%及びNi:22%を超えて60%以下を含有する高合金を第1加熱炉で加熱する工程と、第1加熱炉で加熱された高合金を第1穿孔機を用いて穿孔圧延して中空素管を製造する工程と、中空素管を第2加熱炉で加熱する工程と、第2加熱炉で加熱された中空素管を、第1穿孔機又は第1穿孔機と異なる第2穿孔機を用いて延伸圧延する工程とを備える。
【0028】
この場合、穿孔圧延後の中空素管内の偏熱は、第2加熱炉により小さくなる。そのため、中空素管を延伸圧延したとき、肉中温度が過剰に高くなるのを抑制でき、溶融割れの発生を抑制できる。その結果、継目無金属管の内面疵の発生が抑制される。
【0029】
好ましくは、中空素管を前記第2加熱炉で加熱する工程では、外面温度が1000℃以上の中空素管を前記第2加熱炉に装入する。
【0030】
この場合、第2加熱炉が中空素管偏熱を有効に抑制する。さらに、生産性及び製造コスト(燃料原単位)が改善される。
【0031】
好ましくは、中空素管を第2加熱炉で加熱する工程では、加熱時間を少なくとも300秒以上にする。
【0032】
加熱時間が少なくとも300秒以上であれば、中空素管の偏熱は十分に小さくなる。
【0033】
好ましくは、穿孔圧延する工程では、式(1)で定義される穿孔比が1.1〜2.0以下であり、延伸圧延する工程では、式(2)で定義される延伸比が1.05〜2.0以下であり、式(3)で定義される総延伸比が2.0よりも高い。
穿孔比=穿孔圧延後の中空素管長さ/穿孔圧延前のビレット長さ (1)
延伸比=延伸圧延後の中空素管長さ/延伸圧延前の中空素管長さ (2)
総延伸比=延伸圧延後の中空素管長さ/穿孔圧延前のビレット長さ (3)
【0034】
この場合、高い加工度で高合金の継目無金属管を製造できる。
【0035】
以下、本実施の形態による継目無金属管の製造方法の詳細を説明する。
【0036】
[製造設備]
図1は、本実施の形態による継目無金属管の製造ラインの一例を示すブロック図である。
【0037】
図1を参照して、製造ラインは、加熱炉F1と、穿孔機P1と、加熱炉F2と、穿孔機P2と、圧延機(本例では圧延機10及び定径圧延機20)とを備える。各設備の間には、搬送装置50が配置される。搬送装置50は例えば、搬送ローラ、プッシャ、ウォーキングビーム式搬送装置等である。圧延機10はたとえばマンドレルミルであり、定径圧延機20はサイザ又はストレッチレデューサである。
【0038】
図1では、穿孔機P1と穿孔機P2との間に、加熱炉F1と異なる加熱炉F2が配置される。図1では加熱炉F2は製造ラインに含まれている。しかしながら、加熱炉F2は、製造ラインに含まれず、いわゆるオフラインに配置されてもよい。
【0039】
[製造フロー]
図2は、本実施の形態による継目無金属管の製造工程を示すフロー図である。本実施の形態による継目無金属管の製造方法では次の工程を実施する。初めに、高合金の丸ビレットを準備する(S1:準備工程)。準備した丸ビレットを加熱炉F1に装入し、加熱する(S2:第1加熱工程)。加熱された丸ビレットを穿孔機P1で穿孔圧延して中空素管(ホローシェル)を製造する(S3:穿孔圧延工程)。中空素管を加熱炉F2に装入し、再加熱する(S4:第2加熱工程)。加熱された中空素管を穿孔機P2で延伸圧延する(S5:延伸圧延工程)。延伸圧延された中空素管を、圧延機10及び定径圧延機20で圧延し、継目無金属管にする(S6)。以下、各工程について詳述する。
【0040】
[準備工程(S1)]
初めに、高合金からなる丸ビレットを準備する。丸ビレットは、質量%で、20〜30%のCrと、22%を超えて60%以下のNiとを含有する。好ましくは、丸ビレットは、C:0.005〜0.04%、Si:0.01〜1.0%、Mn:0.01〜5.0%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Cr:20〜30%、Ni:22%を超えて60%以下、Cu:0.01〜4.0%、Al:0.001〜0.3%、N:0.005〜0.5%を含有し、残部はFe及び不純物からなる。また、必要に応じて、Feの一部に代えて、Mo:11.5%以下及びW:20%以下の1種以上を含有してもよい。さらに、Feの一部に代えて、Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下、Ti:0.001〜1.0%、V:0.001〜0.3%、Nb:0.0001〜0.5%、Co:0.01〜5.0%及びREM:0.2%以下の1種以上を含有してもよい。
【0041】
丸ビレットは周知の方法で製造される。例えば、丸ビレットは次の方法により製造される。上記化学組成の溶鋼を製造する。溶鋼を造塊法によりインゴットにする。又は、溶鋼を連続鋳造法により鋳片(スラブ)にする。インゴット又は鋳片を熱間加工して、ビレットを製造する。熱間加工は例えば、熱間鍛造である。連続鋳造法により、高合金の丸ビレットを製造してもよい。また上述以外の他の方法により、高合金の丸ビレットを製造してもよい。
【0042】
[第1加熱工程(S2)]
準備された丸ビレットを加熱炉F1装入し、加熱する。好ましい加熱温度は1150℃〜1250℃である。この温度範囲で丸ビレットを加熱すれば、穿孔圧延時中の丸ビレットで粒界溶融が発生しにくい。好ましい加熱温度の上限は1220℃以下である。加熱時間は特に限定されない。
【0043】
加熱炉F1は周知の構成を備える。加熱炉F1は例えば、図3に示すロータリー炉であってもよいし、周知のウォーキングビーム炉であってもよい。
【0044】
[穿孔圧延工程(S3)]
加熱炉F1で加熱された丸ビレットを、穿孔機P1を用いて穿孔圧延する。図4は、穿孔機P1の構成図である。図4を参照して、穿孔機P1は、一対の傾斜ロール1と、プラグ2とを備える。一対の傾斜ロール1は、パスラインPLを挟んで互いに対向して配置される。各傾斜ロール1は、パスラインPLに対して、傾斜角及び交叉角を有する。プラグ2は一対の傾斜ロール1の間であって、パスラインPL上に配置される。
加熱炉F1から丸ビレットを抽出する。抽出された丸ビレットを、搬送装置50(搬送ローラ、プッシャ等)により、速やかに穿孔機P1の入側に搬送する。そして、穿孔機P1を用いて丸ビレットを穿孔圧延して中空素管を製造する。
【0045】
穿孔圧延における好ましい穿孔比は、1.1〜2.0以下である。穿孔比は、次の式(1)で定義される。
穿孔比=穿孔圧延後の中空素管長さ/穿孔圧延前のビレット長さ (1)
【0046】
上述の穿孔比の範囲で穿孔圧延を実施すれば、溶融割れが発生しにくい。なお、加熱炉F1での加熱温度が1100℃未満であれば、穿孔機P1での負荷が大きくなりすぎるため、穿孔圧延が困難である。
【0047】
加熱温度が高い程、低い穿孔比で溶融割れが発生する。丸ビレットの加熱温度と穿孔圧延による加工発熱の合算値が、材料固有の粒界溶融温度を上回った場合、溶融割れが発生する。加工発熱は、穿孔比が低いほど低くなる。したがって、加熱温度が高い程、穿孔比を低くする方が好ましい。
【0048】
[第2加熱工程(S4)]
穿孔圧延により製造された中空素管を加熱炉F2に装入し、加熱する。加熱炉F2は、加熱炉F1と同様に、周知の構成を有する。したがって、第2加熱炉は例えば、図3に示すロータリー炉、又は、ウォーキングビーム炉等である。
【0049】
穿孔圧延直後の中空素管の肉中温度は、中空素管の外面温度よりも顕著に高い。上述のとおり、中空素管の横断面(中空素管の軸方向に垂直な断面)における肉中(肉厚の中心位置)の温度から、中空素管外面の温度を差分した値を「偏熱」(℃)と定義する。穿孔比が上述の範囲である場合、偏熱は100〜230℃程度になる。偏熱が大きいまま、穿孔機P2を用いて延伸圧延を実施する場合、偏熱に起因して肉中に局所的に歪みが集中し、加工発熱が顕著に増大する。加工発熱の増大は、偏熱が大きいほど顕著になる。したがって、中空素管の偏熱が大きいまま、穿孔機P2で延伸圧延を実施すれば、中空素管で溶融割れが発生しやすくなる。
【0050】
そこで、本実施の形態では、加熱炉F2を配置し、穿孔圧延後の中空素管を速やかに加熱炉F2に装入する。そして、加熱炉F2で中空素管を、中空素管の肉中温度よりも低く、外面温度よりも高い温度で加熱する。このとき、加工発熱により過剰に高くなった中空素管肉中温度が低下し、穿孔圧延により低下した中空素管外面温度(及び内面温度)が高まる。これにより、中空素管の温度分布のばらつきを抑え、偏熱を小さくする。
【0051】
図5は、穿孔機P1による穿孔圧延後、再加熱せずに穿孔機P2により延伸圧延を実施した場合の、各工程(加熱炉F1抽出時、穿孔圧延直後、延伸圧延直前)での中空素管の内面温度、外面温度、肉中温度の推移を示す図である。図6は、加熱炉F2を用いて穿孔圧延後の中空素管を再加熱した後、穿孔機P2により延伸圧延を実施した場合の、各工程(加熱炉F1抽出時、穿孔圧延直後、加熱炉F2抽出時、延伸圧延直前)での中空素管の内面温度、外面温度、肉中温度の推移を示す図である。図5及び図6は次の数値解析により得られた。
【0052】
上述の化学組成を満たす高合金からなる丸ビレットを想定した。丸ビレットの外径は70mm、長さは500mmとした。加熱炉F1の加熱温度は1210℃とした。穿孔機P1を用いた穿孔圧延により製造される中空素管の外径は75mm、肉厚は10mm、長さは942mmとした。穿孔比は1.88であった。加熱炉F2の加熱温度は1200℃とした。加熱炉F2において、中空素管の内面温度、外面温度及び肉中温度が加熱温度(1200℃)になるまで、中空素管を十分な時間加熱したと仮定した。穿孔機P2を用いた延伸圧延により製造される中空素管の外径は86mm、肉厚は7mm、長さは1107mmとした。延伸比は1.18であった。加熱炉F2から穿孔機P2入側までの搬送時間は20秒とした。穿孔機P1から加熱炉F2を経由せずに穿孔機P2に至るまでの搬送時間(図6に対応)は60秒とした。
【0053】
以上の製造条件に基づいて、数値解析モデルを構築した。そして差分法により、中空素管の外面温度OT、内面温度IT、肉中温度(肉厚の中心位置での温度)MTを求めた。求めた各温度に基づいて、図5及び図6を作成した。
【0054】
図5及び図6中のMT(「▲」印)は、肉中温度を示す。IT(「■」印)は、内面温度を示す。OT(「●」印)は、外面温度を示す。図5を参照して、加熱炉F2での再加熱を実施しない場合、穿孔圧延工程後の偏熱(肉中温度MTと外面温度OTとの差分値)は200℃以上であり、肉中温度MTは1280℃以上であった。そして、延伸圧延直前、つまり、第2穿孔機の入側での偏熱量は230℃以上であり、かつ、肉中温度MTは1230℃以上であった。つまり、加工発熱により、肉中温度MTは加熱炉F1の加熱温度よりも高くなった。
【0055】
一方、図6を参照して、加熱炉F2での再加熱を実施した場合、加熱炉F2において、中空素管の外面温度OT、内面温度IT及び肉中温度MTはいずれも1200℃になるため、穿孔圧延直後の偏熱は再加熱により解消される。そして、穿孔機P2の入側での偏熱量も80℃以内であり、かつ、肉中温度MTは1200℃未満であった。
【0056】
以上より、加熱炉F2により、中空素管の肉中温度MTを低下することができ、その結果、偏熱も小さくできる。そのため、穿孔機P2での延伸圧延時に、粒界が溶融するのを抑制でき、内面割れの発生を抑制できる。
【0057】
加熱炉F2の好ましい加熱温度は1100〜1250℃である。好ましくは、加熱炉F2の加熱温度は、加熱炉F1の加熱温度よりも低い。穿孔機P2は中空素管を延伸圧延する。そのため、中実の丸ビレットを穿孔圧延する穿孔機P1よりも、穿孔機P2が受ける負荷は小さい。したがって、加熱炉F2の加熱温度が加熱炉F1の加熱温度よりも低くても、中空素管を延伸圧延することができる。
【0058】
生産性と加熱炉F2の燃料原単位の向上とを考慮すれば、穿孔圧延された中空素管をなるべく早く加熱炉F2に装入するのが好ましい。しかしながら、製造レイアウトにおいて、穿孔機P1の配置と加熱炉F2の配置にも物理的な制限が伴う場合が多い。したがって、穿孔機P1で穿孔圧延された中空素管が加熱炉F2に装入されるまでにある程度の時間が必要である。しかしながら、加熱炉F1とは別個に加熱炉F2を配置することにより、加熱炉F2により、穿孔圧延後の中空素管を速やかに再加熱することができる。
【0059】
加熱炉F2に装入される中空素管の外面温度(つまり、装入直前の外面温度)は、好ましくは1000℃以上であり、さらに好ましくは1050℃以上である。この場合、加熱炉F2での好ましい加熱時間は300秒以上である。
【0060】
図7〜図9は加熱炉F2の加熱時間と、中空素管の外面温度OT、内面温度IT、肉中温度MTの温度との関係を示す図である。図7では、加熱炉F1の加熱温度を1210℃とし、加熱炉F2の加熱温度を1200℃とした。中空素管の肉厚を25mmとした。その他の条件は図6を求めたときと同じ条件とした。以上の条件に基づいて、数値解析モデルを構築した。そして差分法により、各加熱時間における中空素管の外面温度OT、内面温度IT、肉中温度(肉厚の中心位置での温度)MTを差分法により求め、図7を作成した。
【0061】
図8では、図7の条件と比較して、中空素管の肉厚が異なり、50mmであった。その他の条件は図7と同じであった。図9では、図8の条件と比較して、加熱炉F2の加熱温度が異なり、1150℃であった。その他の条件は図8の条件と同じであった。
【0062】
図7〜図9中の曲線MTは、中空素管の肉中温度(℃)を示す。曲線ITは、中空素管内面温度(℃)を示す。曲線OTは、中空素管の外面温度(℃)を示す。図7〜図9を参照して、いずれにおいても、少なくとも加熱時間が300秒経てば、偏熱が10℃以下になる。なお、図7〜図9の加熱初期において、内面温度ITは、加熱炉F2の炉内雰囲気温度(つまり、加熱温度)からの熱伝達と、炉内雰囲気温度(加熱温度)よりも高い肉中温度MTを有する肉中からの熱伝導とにより、加熱温度よりも上昇する。しかしながら、時間の経過とともに、内面温度ITは加熱温度に近づく。
【0063】
図10は、加熱炉F1の加熱温度が1210℃であり、加熱炉F2の加熱温度が1200℃である場合の、加熱炉F2における加熱時間と中空素管の偏熱(肉中温度MT−外面温度OT)との関係を示す図である。図11は、加熱炉F1の加熱温度が1210℃であり、加熱炉F2の加熱温度が1150℃である場合の、加熱炉F2における加熱時間と中空素管の偏熱との関係を示す図である。図10及び図11中の曲線T25は、中空素管肉厚が25mmの場合の偏熱を示す。曲線T50は、中空素管肉厚が50mmの場合の偏熱を示す。図10及び図11は、図7〜図9のデータを編集して作成された。
【0064】
図10及び図11を参照して、偏熱は、肉厚が25mm、50mmの場合のいずれにおいても、加熱炉F2の加熱時間が経過するにしたがって急速に小さくなる。そして、加熱時間が300秒を経過すると、再加熱時間が経過に伴う偏熱の低下の度合いが小さくなる。加熱時間が300秒以上であれば、偏熱は10℃以下になる。
【0065】
図7〜図11より、加熱炉F2において少なくとも300秒以上加熱すれば、偏熱は十分に小さくなる。そのため、加熱時間を300秒以上とすれば、次工程の延伸圧延において、溶融割れの発生が抑えられる。
【0066】
加熱炉F2での好ましい加熱時間の上限は、1000秒以下であり、さらに好ましくは600秒以下である。この場合、偏熱を十分に低減でき、かつ、生産効率も高まる。
【0067】
[延伸圧延工程(S5)]
加熱炉F2から中空素管を抽出し、穿孔機P2に搬送する。そして、穿孔機P2を用いて中空素管を延伸圧延する。
【0068】
穿孔機P2の構成は、図4に示す穿孔機P1と同じである。つまり、穿孔機P2も、一対の傾斜ロール1と、プラグ2とを備える。ただし、傾斜ロール1、プラグ2の形状は、穿孔機P1のものと異なっていてもよい。
【0069】
延伸圧延における好ましい延伸比は、1.05〜2.0以下である。穿孔比は、次の式(2)で定義される。
延伸比=延伸圧延後の中空素管長さ/延伸圧延前の中空素管長さ (2)
【0070】
加熱炉F2での加熱温度と、延伸比との関係は、加熱炉F1の場合と同じである。なお、加熱炉F2での加熱温度が1100℃未満であれば、延伸圧延が困難である。したがって、好ましい延伸比は1.05〜2.0である。
さらに、式(3)で定義される総延伸比の好ましい値は、2.0よりも高く、4.0以下である。
総延伸比=延伸圧延後の中空素管長さ/穿孔圧延前のビレット長さ (3)
【0071】
本実施の形態では、穿孔圧延後、加熱炉F2で中空素管を再加熱(均熱)する。そのため、穿孔圧延の加工発熱により過剰に高くなった肉中温度が下がり、偏熱が小さくなる。そのため、延伸圧延において、溶融割れの発生が抑制される。したがって、総延伸比が2.0よりも高くなっても、内面割れの発生が抑制される。
【0072】
[延伸工程以降の工程(S6)]
延伸工程以降の工程は、周知のマンネスマン法と同様である。例えば、延伸された中空素管を圧延機10により延伸圧延する。圧延機10は直列に配列された複数のロールスタンドを含む。圧延機10は例えば、プラグミルやマンドレルミル等である。さらに、圧延機10により延伸圧延された中空素管を、定径圧延機20により定径圧延する。定径圧延機20は、直列に配列された複数のロールスタンドを含む。定径圧延機20は例えば、サイザやストレッチレデューサ等である。以上の工程により、高合金からなる継目無金属管が製造される。
【0073】
[第2の実施の形態]
第1の実施の形態では、穿孔機P2を用いて延伸圧延を実施する。しかしながら、穿孔機P2に代えて、穿孔機P1を用いて延伸圧延を実施してもよい。要するに、穿孔機P1は、加熱炉F1で加熱された丸ビレットを穿孔圧延し(図2中のS3)、さらに、加熱炉F2で加熱された中空素管を延伸圧延する(図2中のS5)。この場合であっても、加熱炉F2が、過剰に高い肉中温度を低下し、偏熱を小さくする。したがって、穿孔機P1で中空素管を延伸圧延しても、溶融割れが発生しにくい。
【実施例】
【0074】
質量%で、C:0.02%、Si:0.3%、Mn:0.6%、Cr:25%、Ni:31%、Cu:0.8%、Al:0.06%、N:0.09%及びMo:3%を含有し、残部はFe及び不純物からなる高合金の丸ビレットを準備した。丸ビレットに対してダブル・ピアシング(第1穿孔機による穿孔圧延、第2穿孔機による延伸圧延)を実施し、継目無金属管とした。製造された継目無金属管の内面割れの有無を調査した。
【0075】
[本発明例]
本発明例の継目無金属管を、次の方法で製造した。上述の化学組成の高合金の丸ビレットを3本準備した。各丸ビレットの外径は70mmであり、長さは500mmであった。各丸ビレットを加熱炉F1に装入し、1210℃で1時間加熱した。加熱後、加熱炉F1から丸ビレットを抽出し、穿孔機P1で穿孔圧延して中空素管にした。中空素管の外径は75mm、肉厚は10mm、長さは942mmであり、穿孔比は1.88であった。
【0076】
穿孔圧延後の中空素管を速やかに加熱炉F2に装入して加熱した。装入時の中空素管の外面温度は1050℃であった。加熱炉F2での加熱温度は1200℃、加熱時間は600秒(10分)であった。
【0077】
加熱後、中空素管を加熱炉F2から抽出し、穿孔機P2で延伸圧延して継目無金属管を製造した。穿孔機P2の入側での中空素管の外面温度(つまり、延伸圧延直前での中空素管の外面温度)は1120℃であった。製造された継目無金属管の外径は86mm、肉厚は7mm、長さは1107mmであり、延伸比は1.18であった。総延伸比は、2.21であった。
【0078】
製造された各継目無金属管の溶融割れの有無を調査した。具体的には、各継目無金属管を超音波探傷後に軸方向に沿って切断し、内面の溶融割れの有無を目視観察した。溶融割れが1つでも観察された場合、その継目無金属管では溶融割れが発生したと判断した。
【0079】
[比較例]
比較例の継目無金属管を、次の方法で製造した。本発明例と同じ化学組成及び寸法の丸ビレットを3本準備した。本発明例と同じ条件で、丸ビレットを加熱炉F1で加熱し、穿孔機P1を用いて穿孔圧延して中空素管とした。製造された中空素管の寸法は本発明例と同じであった。製造された中空素管を加熱炉F2に装入せず、穿孔機P2を用いて本発明例と同じ条件で延伸圧延して継目無金属管を製造した。製造された継目無金属管の寸法は本発明例と同じであった。穿孔機P2の入側での中空素管の外面温度は990℃であった。製造された継目無金属管の溶融割れの有無を、本発明例と同じ方法で調査した。
【0080】
[調査結果]
本発明例の3本の継目無金属管では、いずれも内面に溶融割れが発生しなかった。一方、比較例の3本の継目無金属管では、いずれも内面に溶融割れが発生した。
【0081】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0082】
10 圧延機
20 定径圧延機
F1,F2 加熱炉
P1,P2 穿孔機
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Cr:20〜30%及びNi:22%を超えて60%以下を含有する高合金を第1加熱炉で加熱する工程と、
前記第1加熱炉で加熱された前記高合金を第1穿孔機を用いて穿孔圧延して中空素管を製造する工程と、
前記中空素管を第2加熱炉で加熱する工程と、
前記第2の加熱炉で加熱された前記中空素管を、前記第1穿孔機又は前記第1穿孔機と異なる第2穿孔機を用いて延伸圧延する工程とを備える、継目無金属管の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の継目無金属管の製造方法であって、
前記中空素管を前記第2加熱炉で加熱する工程では、外面温度が1000℃以上の前記中空素管を前記第2加熱炉に装入する、継目無金属管の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の継目無金属管の製造方法であって、
前記中空素管を前記第2加熱炉で加熱する工程では、加熱時間を少なくとも300秒以上にする、継目無金属管の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の継目無金属管の製造方法であって、
前記穿孔圧延する工程では、式(1)で定義される穿孔比が1.1〜2.0以下であり、前記延伸圧延する工程では、式(2)で定義される延伸比が1.05〜2.0以下であり、式(3)で定義される総延伸比が2.0よりも高い、継目無金属管の製造方法。
穿孔比=穿孔圧延後の中空素管長さ/穿孔圧延前のビレット長さ (1)
延伸比=延伸圧延後の中空素管長さ/延伸圧延前の中空素管長さ (2)
総延伸比=延伸圧延後の中空素管長さ/穿孔圧延前のビレット長さ (3)
【請求項1】
質量%で、Cr:20〜30%及びNi:22%を超えて60%以下を含有する高合金を第1加熱炉で加熱する工程と、
前記第1加熱炉で加熱された前記高合金を第1穿孔機を用いて穿孔圧延して中空素管を製造する工程と、
前記中空素管を第2加熱炉で加熱する工程と、
前記第2の加熱炉で加熱された前記中空素管を、前記第1穿孔機又は前記第1穿孔機と異なる第2穿孔機を用いて延伸圧延する工程とを備える、継目無金属管の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の継目無金属管の製造方法であって、
前記中空素管を前記第2加熱炉で加熱する工程では、外面温度が1000℃以上の前記中空素管を前記第2加熱炉に装入する、継目無金属管の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の継目無金属管の製造方法であって、
前記中空素管を前記第2加熱炉で加熱する工程では、加熱時間を少なくとも300秒以上にする、継目無金属管の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の継目無金属管の製造方法であって、
前記穿孔圧延する工程では、式(1)で定義される穿孔比が1.1〜2.0以下であり、前記延伸圧延する工程では、式(2)で定義される延伸比が1.05〜2.0以下であり、式(3)で定義される総延伸比が2.0よりも高い、継目無金属管の製造方法。
穿孔比=穿孔圧延後の中空素管長さ/穿孔圧延前のビレット長さ (1)
延伸比=延伸圧延後の中空素管長さ/延伸圧延前の中空素管長さ (2)
総延伸比=延伸圧延後の中空素管長さ/穿孔圧延前のビレット長さ (3)
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−94825(P2013−94825A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240610(P2011−240610)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
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