説明

線維筋痛症とうつ病の評価方法、線維筋痛症・うつ病評価装置および線維筋痛症・うつ病評価方法

【課題】血液中のアミノ酸の濃度のうち線維筋痛症およびうつ病の状態と関連するアミノ酸の濃度を利用して線維筋痛症およびうつ病の状態を精度よく評価することができる線維筋痛症とうつ病の評価方法、線維筋痛症・うつ病評価装置および線維筋痛症・うつ病評価方法を提供することを課題とする。
【解決手段】評価対象から採取した血液からアミノ酸の濃度値に関するアミノ酸濃度データを測定し、測定した評価対象のアミノ酸濃度データに含まれるPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つの濃度値に基づいて評価対象につき線維筋痛症およびうつ病の状態を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液(血漿)中のアミノ酸濃度を利用した線維筋痛症とうつ病の評価方法、線維筋痛症・うつ病評価装置および線維筋痛症・うつ病評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
線維筋痛症は、全身にわたる慢性の痛みを主訴とする非炎症性の疾患であり、患者の運動制限をもたらし社会的活動を大きく損なう。そのため、線維筋痛症の迅速な診断と線維筋痛症への的確な対応が求められている。現状では、血清や尿における確定された診断マーカーは存在しない。また、線維筋痛症は、臨床的に、3ヶ月以上の痛みが持続すること、および診断基準で指定された18箇所の圧痛点を4kgfの力で押したときに11箇所以上痛むこと、などで診断されている。しかし、現状の診断には、3ヶ月以上の観察を必要とするといった問題や、痛みの定量化が困難であり、また痛みが自覚的訴えに依存し、さらに圧痛点によらず医師の主観等で線維筋痛症と診断される可能性があるといった問題、などがある。
【0003】
ところで、長期に亘る痛み症状には、しばしば気分障害等の精神症状を伴うことが知られ、また抗うつ薬が一定の臨床的効果を示すことも認められている。また、精神科領域でうつ病と診断される患者の中に、疼痛などの身体愁訴を訴える、いわゆる身体化障害を呈する患者が存在することも知られている。
【0004】
そして、血中アミノ酸の濃度が、線維筋痛症患者やうつ病患者で変化することについては知られている。
【0005】
例えば、Maes Mら(非特許文献1参照)は、線維筋痛症患者の血漿中にて、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、BCAAs(バリン、ロイシン、イソロイシンの総和)、CAA(バリン、ロイシン、イソロイシン、チロシン、フェニルアラニンの総和)の濃度が減少することを示している。Lauraら(非特許文献2参照)は、線維筋痛症患者の血漿中にて、タウリン、アラニン、チロシン、バリン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、必須アミノ酸の総和、トリプトファンのCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン、チロシン、フェニルアラニンの総和)、チロシン/チロシンのCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、フェニルアラニンの総和)の濃度が減少することを示している。
【0006】
また、Altamura Cら(非特許文献3参照)は、大うつ病患者の血漿中にて、タウリン、セリン/グリシンの濃度が増加し、グリシンの濃度が減少することを示している。Mitani H(非特許文献4参照)らは、大うつ病患者の血漿中にて、タウリン、グリシン、グルタミン、グルタミン酸の濃度が増加することを示している。Mauri MC(非特許文献5、非特許文献6参照)らは、大うつ病患者の血漿中にて、リジン、タウリン、グルタミン酸、チロシン/LNAAs(バリン、ロイシン、イソロイシン、チロシン、フェニルアラニンの総和)の濃度が増加し、トリプトファン/LNAAsの濃度が減少することを示している。岸本(非特許文献7参照)は、大うつ病患者の血漿中にて、トリプトファン、チロシン、リジン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、アラニン、グルタミン酸、アルギニン、ヒスチジンの濃度が減少することを示している。
【0007】
また、Altamura Cら(非特許文献3参照)は、グリシン、グルタミン酸、タウリンを用いた線形判別式によって大うつ病を判別可能であることを示している。Mauri MC(非特許文献5、非特許文献6参照)らは、チロシン/LNAAs、トリプトファン/LNAAsが抗うつ剤の薬効指標となり得ることを示している。
【0008】
さらに、先行特許として、アミノ酸濃度と生体状態とを関連付ける方法に関する特許文献1および特許文献2が公開されており、また、アミノ酸濃度を用いて、抑うつ病または大うつ病を少なくとも含むストレスの状態を評価する方法に関する特許文献3が公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2004/052191号
【特許文献2】国際公開第2006/098192号
【特許文献3】国際公開第2008/016101号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Maes M, Verkerk R, Delmeire L, Van Gastel A, Van Hunsel F, Scharpe S(2000) Psychiatry Res.97(1). 11−20.
【非特許文献2】Laura B, Lionella P, Gino G, Alessandra R, Francesca D F, Camilo G, Laura G, Stefano B, Antonio L(2009) Clinical Biochemistry.[Epub ahead of print]
【非特許文献3】Altamura C, Maes M, Dai J, Meltzer HY(1995) Eur Neuropsychopharmacol.5. Suppl71−5.
【非特許文献4】Mitani H, Shirayama Y, Yamada T, Maeda K, Ashby CR Jr, Kawahara R (2006) Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry. 30(6).1155−8.
【非特許文献5】Mauri MC, Ferrara A, Boscati L, Bravin S, Zamberlan F, Alecci M, Invernizzi G(1998) Neuropsychobiology. 37(3).124−9.
【非特許文献6】Mauri MC, Boscati L, Volonteri LS, Scalvini ME, Steinhilber CP, Laini V, Zamberlan F (2001) Neuropsychobiology.44(3).134−8.
【非特許文献7】岸本英爾(1993),脳と精神の医学,第4巻,第2号,1993年4月.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、線維筋痛症とうつ病との鑑別もしくはオーバーラップについては、臨床のみならず病因論的にも未だ困難であるという問題点がある。また、特許文献1、特許文献2および特許文献3に開示されている指標式群で線維筋痛症およびうつ病の状態を評価しても、十分な精度を得ることができないという問題点がある。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、血液中のアミノ酸の濃度のうち線維筋痛症およびうつ病の状態と関連するアミノ酸の濃度を利用して線維筋痛症およびうつ病の状態を精度よく評価することができる線維筋痛症とうつ病の評価方法、線維筋痛症・うつ病評価装置および線維筋痛症・うつ病評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討した結果、線維筋痛症患者とうつ病患者の診断に対して、より特異的なアミノ酸変数を初めて探索・同定する(換言すると、線維筋痛症患者とうつ病患者とで、血漿中アミノ酸パターンに差異があることを初めて見出す)と共に同定したアミノ酸がこれら疾患の鑑別において有用である可能性を示し、さらに同定したアミノ酸の濃度を変数として含む多変量判別式(指標式、相関式)がこれら疾患の状態に有意な相関があることを見出し、本発明を完成するに至った。血漿中アミノ酸濃度の測定は迅速且つ定量的に行えるため、血漿中アミノ酸濃度から算出した指標式は公知技術の問題点を解決できる。また、これらの知見から、慢性疼痛とアミノ酸の病因論的意義が示されたことより、今後、新たな疼痛治療薬の開発につながる可能性がある。
【0014】
すなわち、上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる線維筋痛症とうつ病の評価方法は、評価対象から採取した血液からアミノ酸の濃度値に関するアミノ酸濃度データを測定する測定ステップと、前記測定ステップで測定した前記評価対象の前記アミノ酸濃度データに含まれるPro,ABA(aminobutyric acid,アミノ酪酸),Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つの前記濃度値に基づいて、前記評価対象につき、線維筋痛症およびうつ病の状態を評価する濃度値基準評価ステップとを含むことを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかる線維筋痛症とうつ病の評価方法は、前記に記載の線維筋痛症とうつ病の評価方法において、前記濃度値基準評価ステップは、前記測定ステップで測定した前記評価対象の前記アミノ酸濃度データに含まれるPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つの前記濃度値に基づいて、前記評価対象につき、線維筋痛症患者群またはうつ病患者群であるか否かを判別する濃度値基準判別ステップをさらに含むことを特徴とする。
【0016】
また、本発明にかかる線維筋痛症とうつ病の評価方法は、前記に記載の線維筋痛症とうつ病の評価方法において、前記濃度値基準評価ステップは、前記測定ステップで測定した前記評価対象の前記アミノ酸濃度データに含まれるPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つの前記濃度値、および前記アミノ酸の濃度を変数とする予め設定した多変量判別式であってPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つを前記変数として含む前記多変量判別式に基づいて、当該多変量判別式の値である判別値を算出する判別値算出ステップと、前記判別値算出ステップで算出した前記判別値に基づいて、前記評価対象につき、前記線維筋痛症および前記うつ病の前記状態を評価する判別値基準評価ステップとをさらに含むことを特徴とする。
【0017】
また、本発明にかかる線維筋痛症とうつ病の評価方法は、前記に記載の線維筋痛症とうつ病の評価方法において、前記判別値基準評価ステップは、前記判別値算出ステップで算出した前記判別値に基づいて、前記評価対象につき、線維筋痛症患者群またはうつ病患者群であるか否かを判別する判別値基準判別ステップをさらに含むことを特徴とする。
【0018】
また、本発明にかかる線維筋痛症とうつ病の評価方法は、前記に記載の線維筋痛症とうつ病の評価方法において、前記多変量判別式は、1つの分数式または複数の前記分数式の和、またはロジスティック回帰式、線形判別式、重回帰式、サポートベクターマシンで作成された式、マハラノビス距離法で作成された式、正準判別分析で作成された式、決定木で作成された式のいずれか1つであることを特徴とする。
【0019】
また、本発明にかかる線維筋痛症とうつ病の評価方法は、前記に記載の線維筋痛症とうつ病の評価方法において、前記多変量判別式は、数式1の前記分数式、Ser,ABA,Trp,Orn,Lysを前記変数とする前記ロジスティック回帰式、またはSer,Asn,Pro,ABA,Orn,Lysを前記変数とする前記線形判別式であることを特徴とする。
(ABA/Ser)+b(His/Trp)+c(Lys/Orn)+d
・・・(数式1)
(数式1において、a,b,cおよびdは任意の実数である。)
【0020】
また、本発明にかかる線維筋痛症・うつ病評価装置は、制御手段と記憶手段とを備え、評価対象につき、線維筋痛症およびうつ病の状態を評価する線維筋痛症・うつ病評価装置であって、前記制御手段は、アミノ酸の濃度値に関する予め取得した前記評価対象のアミノ酸濃度データに含まれるPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つの前記濃度値、および前記アミノ酸の濃度を変数とする前記記憶手段で記憶した多変量判別式であってPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つを前記変数として含む前記多変量判別式に基づいて、当該多変量判別式の値である判別値を算出する判別値算出手段と、前記判別値算出手段で算出した前記判別値に基づいて、前記評価対象につき、前記線維筋痛症および前記うつ病の前記状態を評価する判別値基準評価手段とを備えたことを特徴とする。
【0021】
また、本発明にかかる線維筋痛症・うつ病評価装置は、前記に記載の線維筋痛症・うつ病評価装置において、前記判別値基準評価手段は、前記判別値算出手段で算出した前記判別値に基づいて、前記評価対象につき、線維筋痛症患者群またはうつ病患者群であるか否かを判別する判別値基準判別手段をさらに備えたことを特徴とする。
【0022】
また、本発明にかかる線維筋痛症・うつ病評価装置は、前記に記載の線維筋痛症・うつ病評価装置において、前記多変量判別式は、1つの分数式または複数の前記分数式の和、またはロジスティック回帰式、線形判別式、重回帰式、サポートベクターマシンで作成された式、マハラノビス距離法で作成された式、正準判別分析で作成された式、決定木で作成された式のいずれか1つであることを特徴とする。
【0023】
また、本発明にかかる線維筋痛症・うつ病評価装置は、前記に記載の線維筋痛症・うつ病評価装置において、前記多変量判別式は、数式1の前記分数式、Ser,ABA,Trp,Orn,Lysを前記変数とする前記ロジスティック回帰式、またはSer,Asn,Pro,ABA,Orn,Lysを前記変数とする前記線形判別式であることを特徴とする。
(ABA/Ser)+b(His/Trp)+c(Lys/Orn)+d
・・・(数式1)
(数式1において、a,b,cおよびdは任意の実数である。)
【0024】
また、本発明にかかる線維筋痛症・うつ病評価装置は、前記に記載の線維筋痛症・うつ病評価装置において、前記制御手段は、前記アミノ酸濃度データと前記線維筋痛症および前記うつ病の前記状態を表す指標に関する線維筋痛症・うつ病状態指標データとを含む前記記憶手段で記憶した線維筋痛症・うつ病状態情報に基づいて、前記記憶手段で記憶する前記多変量判別式を作成する多変量判別式作成手段をさらに備え、前記多変量判別式作成手段は、前記線維筋痛症・うつ病状態情報から所定の式作成手法に基づいて、前記多変量判別式の候補である候補多変量判別式を作成する候補多変量判別式作成手段と、前記候補多変量判別式作成手段で作成した前記候補多変量判別式を、所定の検証手法に基づいて検証する候補多変量判別式検証手段と、前記候補多変量判別式検証手段での検証結果から所定の変数選択手法に基づいて前記候補多変量判別式の変数を選択することで、前記候補多変量判別式を作成する際に用いる前記線維筋痛症・うつ病状態情報に含まれる前記アミノ酸濃度データの組み合わせを選択する変数選択手段と、をさらに備え、前記候補多変量判別式作成手段、前記候補多変量判別式検証手段および前記変数選択手段を繰り返し実行して蓄積した前記検証結果に基づいて、複数の前記候補多変量判別式の中から前記多変量判別式として採用する前記候補多変量判別式を選出することで、前記多変量判別式を作成することを特徴とする。
【0025】
また、本発明にかかる線維筋痛症・うつ病評価方法は、制御手段と記憶手段とを備えた情報処理装置において実行される、評価対象につき、線維筋痛症およびうつ病の状態を評価する線維筋痛症・うつ病評価方法であって、前記制御手段において実行される、アミノ酸の濃度値に関する予め取得した前記評価対象のアミノ酸濃度データに含まれるPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つの前記濃度値、および前記アミノ酸の濃度を変数とする前記記憶手段で記憶した多変量判別式であってPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つを前記変数として含む前記多変量判別式に基づいて、当該多変量判別式の値である判別値を算出する判別値算出ステップと、前記判別値算出ステップで算出した前記判別値に基づいて、前記評価対象につき、前記線維筋痛症および前記うつ病の前記状態を評価する判別値基準評価ステップとを含むことを特徴とする。
【0026】
また、本発明にかかる線維筋痛症・うつ病評価方法は、前記に記載の線維筋痛症・うつ病評価方法において、前記判別値基準評価ステップは、前記判別値算出ステップで算出した前記判別値に基づいて、前記評価対象につき、線維筋痛症患者群またはうつ病患者群であるか否かを判別する判別値基準判別ステップをさらに含むことを特徴とする。
【0027】
また、本発明にかかる線維筋痛症・うつ病評価方法は、前記に記載の線維筋痛症・うつ病評価方法において、前記多変量判別式は、1つの分数式または複数の前記分数式の和、またはロジスティック回帰式、線形判別式、重回帰式、サポートベクターマシンで作成された式、マハラノビス距離法で作成された式、正準判別分析で作成された式、決定木で作成された式のいずれか1つであることを特徴とする。
【0028】
また、本発明にかかる線維筋痛症・うつ病評価方法は、前記に記載の線維筋痛症・うつ病評価方法において、前記多変量判別式は、数式1の前記分数式、Ser,ABA,Trp,Orn,Lysを前記変数とする前記ロジスティック回帰式、またはSer,Asn,Pro,ABA,Orn,Lysを前記変数とする前記線形判別式であることを特徴とする。
(ABA/Ser)+b(His/Trp)+c(Lys/Orn)+d
・・・(数式1)
(数式1において、a,b,cおよびdは任意の実数である。)
【0029】
また、本発明にかかる線維筋痛症・うつ病評価方法は、前記に記載の線維筋痛症・うつ病評価方法において、前記制御手段において実行される、前記アミノ酸濃度データと前記線維筋痛症および前記うつ病の前記状態を表す指標に関する線維筋痛症・うつ病状態指標データとを含む前記記憶手段で記憶した線維筋痛症・うつ病状態情報に基づいて、前記記憶手段で記憶する前記多変量判別式を作成する多変量判別式作成ステップをさらに含み、前記多変量判別式作成ステップは、前記線維筋痛症・うつ病状態情報から所定の式作成手法に基づいて、前記多変量判別式の候補である候補多変量判別式を作成する候補多変量判別式作成ステップと、前記候補多変量判別式作成ステップで作成した前記候補多変量判別式を、所定の検証手法に基づいて検証する候補多変量判別式検証ステップと、前記候補多変量判別式検証ステップでの検証結果から所定の変数選択手法に基づいて前記候補多変量判別式の変数を選択することで、前記候補多変量判別式を作成する際に用いる前記線維筋痛症・うつ病状態情報に含まれる前記アミノ酸濃度データの組み合わせを選択する変数選択ステップと、をさらに含み、前記候補多変量判別式作成ステップ、前記候補多変量判別式検証ステップおよび前記変数選択ステップを繰り返し実行して蓄積した前記検証結果に基づいて、複数の前記候補多変量判別式の中から前記多変量判別式として採用する前記候補多変量判別式を選出することで、前記多変量判別式を作成することを特徴とする。
【0030】
また、本発明にかかる線維筋痛症・うつ病評価システムは、制御手段と記憶手段とを備え、評価対象につき、線維筋痛症およびうつ病の状態を評価する線維筋痛症・うつ病評価装置と、アミノ酸の濃度値に関する前記評価対象のアミノ酸濃度データを提供する情報通信端末装置とを、ネットワークを介して通信可能に接続して構成された線維筋痛症・うつ病評価システムであって、前記情報通信端末装置は、前記評価対象の前記アミノ酸濃度データを前記線維筋痛症・うつ病評価装置へ送信するアミノ酸濃度データ送信手段と、前記線維筋痛症・うつ病評価装置から送信された前記線維筋痛症および前記うつ病の前記状態に関する前記評価対象の評価結果を受信する評価結果受信手段とを備え、前記線維筋痛症・うつ病評価装置の前記制御手段は、前記情報通信端末装置から送信された前記評価対象の前記アミノ酸濃度データを受信するアミノ酸濃度データ受信手段と、前記アミノ酸濃度データ受信手段で受信した前記評価対象の前記アミノ酸濃度データに含まれるPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つの前記濃度値、および前記アミノ酸の濃度を変数とする前記記憶手段で記憶した多変量判別式であってPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つを前記変数として含む前記多変量判別式に基づいて、当該多変量判別式の値である判別値を算出する判別値算出手段と、前記判別値算出手段で算出した前記判別値に基づいて、前記評価対象につき、前記線維筋痛症および前記うつ病の前記状態を評価する判別値基準評価手段と、前記判別値基準評価手段での前記評価対象の前記評価結果を前記情報通信端末装置へ送信する評価結果送信手段と、を備えたことを特徴とする。
【0031】
また、本発明にかかる線維筋痛症・うつ病評価プログラムは、制御手段と記憶手段とを備えた情報処理装置において実行させるための、評価対象につき、線維筋痛症およびうつ病の状態を評価する線維筋痛症・うつ病評価プログラムであって、前記制御手段において実行させるための、アミノ酸の濃度値に関する予め取得した前記評価対象のアミノ酸濃度データに含まれるPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つの前記濃度値、および前記アミノ酸の濃度を変数とする前記記憶手段で記憶した多変量判別式であってPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つを前記変数として含む前記多変量判別式に基づいて、当該多変量判別式の値である判別値を算出する判別値算出ステップと、前記判別値算出ステップで算出した前記判別値に基づいて、前記評価対象につき、前記線維筋痛症および前記うつ病の前記状態を評価する判別値基準評価ステップとを含むことを特徴とする。
【0032】
また、本発明にかかる記録媒体は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体であって、前記に記載の線維筋痛症・うつ病評価プログラムを記録したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、評価対象から採取した血液からアミノ酸の濃度値に関するアミノ酸濃度データを測定し、測定した評価対象のアミノ酸濃度データに含まれるPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つの濃度値に基づいて評価対象につき線維筋痛症およびうつ病の状態を評価する。これにより、血液中のアミノ酸の濃度のうち線維筋痛症およびうつ病の状態と関連するアミノ酸の濃度を利用して線維筋痛症およびうつ病の状態を精度よく評価することができるという効果を奏する。
【0034】
また、本発明によれば、評価対象のアミノ酸濃度データに含まれるPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つの濃度値に基づいて評価対象につき線維筋痛症患者群またはうつ病患者群であるか否かを判別する。これにより、血液中のアミノ酸の濃度のうち線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別に有用なアミノ酸の濃度を利用して当該判別を精度よく行うことができるという効果を奏する。
【0035】
また、本発明によれば、評価対象のアミノ酸濃度データに含まれるPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つの濃度値およびアミノ酸の濃度を変数とする多変量判別式であってPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つを変数として含む多変量判別式に基づいて当該多変量判別式の値である判別値を算出し、算出した判別値に基づいて評価対象につき線維筋痛症およびうつ病の状態を評価する。これにより、線維筋痛症およびうつ病の状態と有意な相関がある多変量判別式で得られる判別値を利用して線維筋痛症およびうつ病の状態を精度よく評価することができるという効果を奏する。
【0036】
また、本発明によれば、判別値に基づいて評価対象につき線維筋痛症患者群またはうつ病患者群であるか否かを判別する。これにより、線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別に有用な多変量判別式で得られる判別値を利用して当該判別を精度よく行うことができるという効果を奏する。
【0037】
また、本発明によれば、多変量判別式は、1つの分数式または複数の分数式の和、またはロジスティック回帰式、線形判別式、重回帰式、サポートベクターマシンで作成された式、マハラノビス距離法で作成された式、正準判別分析で作成された式、決定木で作成された式のいずれか1つである。これにより、線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別に特に有用な多変量判別式で得られる判別値を利用して当該判別をさらに精度よく行うことができるという効果を奏する。
【0038】
また、本発明によれば、多変量判別式は、数式1の分数式、Ser,ABA,Trp,Orn,Lysを変数とするロジスティック回帰式、またはSer,Asn,Pro,ABA,Orn,Lysを変数とする線形判別式である。これにより、線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別に特に有用な多変量判別式で得られる判別値を利用して当該判別をさらに精度よく行うことができるという効果を奏する。
(ABA/Ser)+b(His/Trp)+c(Lys/Orn)+d
・・・(数式1)
(数式1において、a,b,cおよびdは任意の実数である。)
【0039】
また、本発明によれば、アミノ酸濃度データと線維筋痛症およびうつ病の状態を表す指標に関する線維筋痛症・うつ病状態指標データとを含む記憶手段で記憶した線維筋痛症・うつ病状態情報に基づいて、記憶手段で記憶する多変量判別式を作成する。具体的には、(1)線維筋痛症・うつ病状態情報から所定の式作成手法に基づいて候補多変量判別式を作成し、(2)作成した候補多変量判別式を所定の検証手法に基づいて検証し、(3)その検証結果から所定の変数選択手法に基づいて候補多変量判別式の変数を選択することで、候補多変量判別式を作成する際に用いる線維筋痛症・うつ病状態情報に含まれるアミノ酸濃度データの組み合わせを選択し、(4)複数の候補多変量判別式の中から多変量判別式として採用する候補多変量判別式を(1)、(2)および(3)を繰り返し実行して蓄積した検証結果に基づいて選出することで多変量判別式を作成する。これにより、線維筋痛症およびうつ病の状態評価に最適な多変量判別式を作成することができるという効果を奏する。
【0040】
また、本発明によれば、当該記録媒体に記録された線維筋痛症・うつ病評価プログラムをコンピュータに読み取らせて実行することでコンピュータに線維筋痛症・うつ病評価プログラムを実行させるので、前記と同様の効果を得ることができるという効果を奏する。
【0041】
なお、本発明は、線維筋痛症およびうつ病の状態を評価する際(具体的には、線維筋痛症患者群またはうつ病患者群であるか否かを判別する際)、アミノ酸の濃度以外に、その他の生体情報(例えば糖類、有機酸、脂肪酸、核酸・タンパク質・ペプチド・ミネラル・ホルモン等の生体代謝物や、例えば血糖値・血圧値・圧痛点データ・性別・年齢・肝疾患指標・食習慣・飲酒習慣・運動習慣・肥満度・疾患歴・問診データ等)をさらに用いてもかまわない。また、本発明は、線維筋痛症およびうつ病の状態を評価する際(具体的には、線維筋痛症患者群またはうつ病患者群であるか否かを判別する際)、多変量判別式における変数として、アミノ酸の濃度以外に、その他の生体情報(例えば糖類、有機酸、脂肪酸、核酸・タンパク質・ペプチド・ミネラル・ホルモン等の生体代謝物や、例えば血糖値・血圧値・圧痛点データ・性別・年齢・肝疾患指標・食習慣・飲酒習慣・運動習慣・肥満度・疾患歴・問診データ等)をさらに用いてもかまわない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、本発明の基本原理を示す原理構成図である。
【図2】図2は、第1実施形態にかかる線維筋痛症とうつ病の評価方法の一例を示すフローチャートである。
【図3】図3は、本発明の基本原理を示す原理構成図である。
【図4】図4は、本システムの全体構成の一例を示す図である。
【図5】図5は、本システムの全体構成の他の一例を示す図である。
【図6】図6は、本システムの線維筋痛症・うつ病評価装置100の構成の一例を示すブロック図である。
【図7】図7は、利用者情報ファイル106aに格納される情報の一例を示す図である。
【図8】図8は、アミノ酸濃度データファイル106bに格納される情報の一例を示す図である。
【図9】図9は、線維筋痛症・うつ病状態情報ファイル106cに格納される情報の一例を示す図である。
【図10】図10は、指定線維筋痛症・うつ病状態情報ファイル106dに格納される情報の一例を示す図である。
【図11】図11は、候補多変量判別式ファイル106e1に格納される情報の一例を示す図である。
【図12】図12は、検証結果ファイル106e2に格納される情報の一例を示す図である。
【図13】図13は、選択線維筋痛症・うつ病状態情報ファイル106e3に格納される情報の一例を示す図である。
【図14】図14は、多変量判別式ファイル106e4に格納される情報の一例を示す図である。
【図15】図15は、判別値ファイル106fに格納される情報の一例を示す図である。
【図16】図16は、評価結果ファイル106gに格納される情報の一例を示す図である。
【図17】図17は、多変量判別式作成部102hの構成を示すブロック図である。
【図18】図18は、判別値基準評価部102jの構成を示すブロック図である。
【図19】図19は、本システムのクライアント装置200の構成の一例を示すブロック図である。
【図20】図20は、本システムのデータベース装置400の構成の一例を示すブロック図である。
【図21】図21は、本システムで行う線維筋痛症・うつ病評価サービス処理の一例を示すフローチャートである。
【図22】図22は、本システムの線維筋痛症・うつ病評価装置100で行う多変量判別式作成処理の一例を示すフローチャートである。
【図23】図23は、線維筋痛症患者群とうつ病患者群のアミノ酸変数の分布を示す図である。
【図24】図24は、指標式1と同等の判別性能を有する多変量判別式の一覧を示す図である。
【図25】図25は、指標式1と同等の判別性能を有する多変量判別式の一覧を示す図である。
【図26】図26は、線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別におけるROC曲線下面積を示す図である。
【図27】図27は、線維筋痛症患者群とうつ病患者群における指標式1の値の分布を示す図である。
【図28】図28は、曲線下面積値が上位1000の指標式中に出現するアミノ酸変数の確率を示す図である。
【図29】図29は、指標式2と同等の判別性能を有するロジスティック回帰式の一覧を示す図である。
【図30】図30は、指標式2と同等の判別性能を有するロジスティック回帰式の一覧を示す図である。
【図31】図31は、線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別におけるROC曲線下面積を示す図である。
【図32】図32は、線維筋痛症患者群とうつ病患者群における指標式2の値の分布を示す図である。
【図33】図33は、曲線下面積値が上位1000の指標式中に出現するアミノ酸変数の確率を示す図である。
【図34】図34は、指標式3と同等の判別性能を有する線形判別関数の一覧を示す図である。
【図35】図35は、指標式3と同等の判別性能を有する線形判別関数の一覧を示す図である。
【図36】図36は、線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別におけるROC曲線下面積を示す図である。
【図37】図37は、線維筋痛症患者群とうつ病患者群における指標式3の値の分布を示す図である。
【図38】図38は、曲線下面積値が上位1000の指標式中に出現するアミノ酸変数の確率を示す図である。
【図39】図39は、単一アミノ酸による線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別におけるROC曲線下面積を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下に、本発明にかかる線維筋痛症とうつ病の評価方法の実施の形態(第1実施形態)、ならびに本発明にかかる線維筋痛症・うつ病評価装置、線維筋痛症・うつ病評価方法、線維筋痛症・うつ病評価システム、線維筋痛症・うつ病評価プログラムおよび記録媒体の実施の形態(第2実施形態)を、図面に基づいて詳細に説明する。なお、本実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0044】
[第1実施形態]
[1−1.本発明の概要]
ここでは、本発明にかかる線維筋痛症とうつ病の評価方法の概要について図1を参照して説明する。図1は本発明の基本原理を示す原理構成図である。
【0045】
まず、評価対象(例えば動物やヒトなどの個体)から採取した血液から、アミノ酸の濃度値に関するアミノ酸濃度データを測定する(ステップS−11)。ここで、血中アミノ酸濃度の分析は次のように行った。採血した血液サンプルを、ヘパリン処理したチューブに採取し、採取した血液サンプルを遠心することにより血液から血漿を分離した。全ての血漿サンプルはアミノ酸濃度の測定時まで−70℃で凍結保存した。アミノ酸濃度測定時にはスルホサリチル酸を添加し3%濃度調整により除蛋白処理を行い、測定には、ポストカラムでニンヒドリン反応を用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を原理としたアミノ酸分析機を使用した。なお、アミノ酸濃度の単位は、例えばモル濃度や重量濃度、これらの濃度に任意の定数を加減乗除することで得られるものでもよい。
【0046】
つぎに、ステップS−11で測定した評価対象のアミノ酸濃度データに含まれるPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つの濃度値に基づいて評価対象につき線維筋痛症および/またはうつ病の状態を評価する(ステップS−12)。
【0047】
以上、本発明によれば、評価対象から採取した血液からアミノ酸の濃度値に関するアミノ酸濃度データを測定し、測定した評価対象のアミノ酸濃度データに含まれるPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つの濃度値に基づいて評価対象につき線維筋痛症および/またはうつ病の状態を評価する。これにより、血液中のアミノ酸の濃度のうち線維筋痛症および/またはうつ病の状態と関連するアミノ酸の濃度を利用して線維筋痛症および/またはうつ病の状態を精度よく評価することができるという効果を奏する。
【0048】
ここで、ステップS−12を実行する前に、ステップS−11で測定した評価対象のアミノ酸濃度データから欠損値や外れ値などのデータを除去してもよい。これにより、線維筋痛症および/またはうつ病の状態評価をさらに精度よく評価することができる。
【0049】
また、ステップS−12では、ステップS−11で測定した評価対象のアミノ酸濃度データに含まれるPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つの濃度値に基づいて、評価対象につき、線維筋痛症患者群または非線維筋痛症群(健常群)であるか否か、または線維筋痛症患者群またはうつ病患者群であるか否かを判別してもよい。具体的には、Pro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つの濃度値と予め設定された閾値(カットオフ値)とを比較することで、評価対象につき、線維筋痛症患者群または非線維筋痛症群(健常群)であるか否か、または線維筋痛症患者群またはうつ病患者群であるか否かを判別してもよい。これにより、血液中のアミノ酸の濃度のうち線維筋痛症患者群と非線維筋痛症群(健常群)の2群判別または線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別に有用なアミノ酸の濃度を利用してこれらの判別を精度よく行うことができる。
【0050】
また、ステップS−12では、ステップS−11で測定した評価対象のアミノ酸濃度データに含まれるPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つの濃度値、およびアミノ酸の濃度を変数とする予め設定した多変量判別式であってPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つを変数として含む多変量判別式に基づいて当該多変量判別式の値である判別値を算出し、算出した判別値に基づいて評価対象につき線維筋痛症および/またはうつ病の状態を評価してもよい。これにより、線維筋痛症および/またはうつ病の状態と有意な相関がある多変量判別式で得られる判別値を利用して線維筋痛症および/またはうつ病の状態を精度よく評価することができる。
【0051】
また、ステップS−12では、算出した判別値に基づいて、評価対象につき、線維筋痛症患者群または非線維筋痛症群(健常群)であるか否か、または線維筋痛症患者群またはうつ病患者群であるか否かを判別してもよい。具体的には、判別値と予め設定された閾値(カットオフ値)とを比較することで、評価対象につき、線維筋痛症患者群または非線維筋痛症群(健常群)であるか否か、または線維筋痛症患者群またはうつ病患者群であるか否かを判別してもよい。これにより、線維筋痛症患者群と非線維筋痛症群(健常群)の2群判別または線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別に有用な多変量判別式で得られる判別値を利用してこれらの判別を精度よく行うことができる。
【0052】
なお、多変量判別式は、1つの分数式または複数の分数式の和、またはロジスティック回帰式、線形判別式、重回帰式、サポートベクターマシンで作成された式、マハラノビス距離法で作成された式、正準判別分析で作成された式、決定木で作成された式のいずれか1つでもよい。具体的には、多変量判別式は、数式1の分数式、Ser,ABA,Trp,Orn,Lysを変数とするロジスティック回帰式、またはSer,Asn,Pro,ABA,Orn,Lysを変数とする線形判別式でもよい。これにより、線維筋痛症患者群と非線維筋痛症群(健常群)の2群判別または線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別に特に有用な多変量判別式で得られる判別値を利用してこれらの判別をさらに精度よく行うことができる。
(ABA/Ser)+b(His/Trp)+c(Lys/Orn)+d
・・・(数式1)
(数式1において、a,b,cおよびdは任意の実数である。)
【0053】
また、上記した各多変量判別式は、本出願人による国際出願である国際公開第2004/052191号に記載の方法や、本出願人による国際出願である国際公開第2006/098192号に記載の方法(後述する第2実施形態に記載の多変量判別式作成処理)で作成することができる。これら方法で得られた多変量判別式であれば、入力データとしてのアミノ酸濃度データにおけるアミノ酸濃度の単位に因らず、当該多変量判別式を線維筋痛症および/またはうつ病の状態評価に好適に用いることができる。
【0054】
また、分数式とは、当該分数式の分子がアミノ酸A,B,C,・・・の和で表わされ及び/又は当該分数式の分母がアミノ酸a,b,c,・・・の和で表わされるものである。また、分数式には、このような構成の分数式α,β,γ,・・・の和(例えばα+βのようなもの)も含まれる。また、分数式には、分割された分数式も含まれる。なお、分子や分母に用いられるアミノ酸にはそれぞれ適当な係数がついてもかまわない。また、分子や分母に用いられるアミノ酸は重複してもかまわない。また、各分数式に適当な係数がついてもかまわない。また、各変数の係数の値や定数項の値は、実数であればかまわない。分数式で、分子の変数と分母の変数を入れ替えた組み合わせは、目的変数との相関の正負の符号は概して逆転するが、それらの相関性は保たれるので、判別性では同等と見なせるので、分子の変数と分母の変数を入れ替えた組み合わせも、包含するものである。
【0055】
また、多変量判別式とは、一般に多変量解析で用いられる式の形式を意味し、例えば重回帰式、多重ロジスティック回帰式、線形判別関数、マハラノビス距離、正準判別関数、サポートベクターマシン、決定木などを包含する。また、異なる形式の多変量判別式の和で示されるような式も含まれる。また、重回帰式、多重ロジスティック回帰式、正準判別関数においては各変数に係数および定数項が付加されるが、この場合の係数および定数項は、好ましくは実数であること、より好ましくはデータから判別を行うために得られた係数および定数項の99%信頼区間の範囲に属する値、さらに好ましくはデータから判別を行うために得られた係数および定数項の95%信頼区間の範囲に属する値であればかまわない。また、各係数の値、及びその信頼区間は、それを実数倍したものでもよく、定数項の値、及びその信頼区間は、それに任意の実定数を加減乗除したものでもよい。ロジスティック回帰、線形判別、重回帰分析などの表示式を指標に用いる場合、表示式の線形変換(定数の加算、定数倍)や単調増加(減少)の変換(例えばlogit変換など)は判別性能を変えるものではなく同等であるので、表示式はそれらを含むものである。
【0056】
そして、本発明は、線維筋痛症および/またはうつ病の状態を評価する際(具体的には、線維筋痛症患者群または非線維筋痛症群(健常群)であるか否かを判別する際、線維筋痛症患者群またはうつ病患者群であるか否かを判別する際)、アミノ酸の濃度以外に、その他の生体情報(例えば糖類、有機酸、脂肪酸、核酸・タンパク質・ペプチド・ミネラル・ホルモン等の生体代謝物や、例えば血糖値・血圧値・圧痛点データ・性別・年齢・肝疾患指標・食習慣・飲酒習慣・運動習慣・肥満度・疾患歴・問診データ等)をさらに用いてもかまわない。また、本発明は、線維筋痛症および/またはうつ病の状態を評価する際(具体的には、線維筋痛症患者群または非線維筋痛症群(健常群)であるか否かを判別する際、線維筋痛症患者群またはうつ病患者群であるか否かを判別する際)、多変量判別式における変数として、アミノ酸の濃度以外に、その他の生体情報(例えば糖類、有機酸、脂肪酸、核酸・タンパク質・ペプチド・ミネラル・ホルモン等の生体代謝物や、例えば血糖値・血圧値・圧痛点データ・性別・年齢・肝疾患指標・食習慣・飲酒習慣・運動習慣・肥満度・疾患歴・問診データ等)をさらに用いてもかまわない。
【0057】
[1−2.第1実施形態にかかる線維筋痛症とうつ病の評価方法]
ここでは、第1実施形態にかかる線維筋痛症とうつ病の評価方法について図2を参照して説明する。図2は、第1実施形態にかかる線維筋痛症とうつ病の評価方法の一例を示すフローチャートである。
【0058】
まず、動物やヒトなどの個体から採取した血液からアミノ酸の濃度値に関するアミノ酸濃度データを測定する(ステップSA−11)。なお、アミノ酸の濃度値の測定は上述した方法で行う。
【0059】
つぎに、ステップSA−11で測定した個体のアミノ酸濃度データから欠損値や外れ値などのデータを除去する(ステップSA−12)。
【0060】
つぎに、ステップSA−12で欠損値や外れ値などのデータが除去された個体のアミノ酸濃度データに含まれるPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つの濃度値と予め設定された閾値(カットオフ値)とを比較することで、個体につき、線維筋痛症患者群または非線維筋痛症群(健常群)であるか否か、または線維筋痛症患者群またはうつ病患者群であるか否かを判別する(ステップSA−13)。
【0061】
[1−3.第1実施形態のまとめ、およびその他の実施形態]
以上、詳細に説明したように、第1実施形態にかかる線維筋痛症とうつ病の評価方法によれば、(1)個体から採取した血液からアミノ酸濃度データを測定し、(2)測定した個体のアミノ酸濃度データから欠損値や外れ値などのデータを除去し、(3)欠損値や外れ値などのデータが除去された個体のアミノ酸濃度データに含まれるPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つの濃度値と予め設定された閾値(カットオフ値)とを比較することで、個体につき、線維筋痛症患者群または非線維筋痛症群(健常群)であるか否か、または線維筋痛症患者群またはうつ病患者群であるか否かを判別する。これにより、血液中のアミノ酸の濃度のうち線維筋痛症患者群と非線維筋痛症群(健常群)の2群判別または線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別に有用なアミノ酸の濃度を利用してこれらの判別を精度よく行うことができる。
【0062】
ここで、ステップSA−13において、ステップSA−12で欠損値や外れ値などのデータが除去された個体のアミノ酸濃度データに含まれるPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つの濃度値、およびPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つを変数として含む多変量判別式に基づいて判別値を算出し、算出した判別値と予め設定された閾値(カットオフ値)とを比較することで、個体につき、線維筋痛症患者群または非線維筋痛症群(健常群)であるか否か、または線維筋痛症患者群またはうつ病患者群であるか否かを判別してもよい。これにより、線維筋痛症患者群と非線維筋痛症群(健常群)の2群判別または線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別に有用な多変量判別式で得られる判別値を利用してこれらの判別を精度よく行うことができる。
【0063】
なお、ステップSA−13において、多変量判別式は、1つの分数式または複数の分数式の和、またはロジスティック回帰式、線形判別式、重回帰式、サポートベクターマシンで作成された式、マハラノビス距離法で作成された式、正準判別分析で作成された式、決定木で作成された式のいずれか1つでもよい。具体的には、多変量判別式は、数式1の分数式、Ser,ABA,Trp,Orn,Lysを変数とするロジスティック回帰式、またはSer,Asn,Pro,ABA,Orn,Lysを変数とする線形判別式でもよい。これにより、線維筋痛症患者群と非線維筋痛症群(健常群)の2群判別または線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別に特に有用な多変量判別式で得られる判別値を利用してこれらの判別をさらに精度よく行うことができる。
(ABA/Ser)+b(His/Trp)+c(Lys/Orn)+d
・・・(数式1)
(数式1において、a,b,cおよびdは任意の実数である。)
【0064】
[第2実施形態]
[2−1.本発明の概要]
ここでは、本発明にかかる線維筋痛症・うつ病評価装置、線維筋痛症・うつ病評価方法、線維筋痛症・うつ病評価システム、線維筋痛症・うつ病評価プログラムおよび記録媒体の概要について、図3を参照して説明する。図3は本発明の基本原理を示す原理構成図である。
【0065】
まず、本発明は、制御部で、アミノ酸の濃度値に関する予め取得した評価対象(例えば動物やヒトなどの個体)のアミノ酸濃度データに含まれるPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つの濃度値、およびアミノ酸の濃度を変数する記憶部で記憶した多変量判別式であってPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つを変数として含む多変量判別式に基づいて当該多変量判別式の値である判別値を算出する(ステップS−21)。
【0066】
つぎに、本発明は、制御部で、ステップS−21で算出した判別値に基づいて評価対象につき線維筋痛症および/またはうつ病の状態を評価する(ステップS−22)。
【0067】
以上、本発明によれば、評価対象のアミノ酸濃度データに含まれるPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つの濃度値、およびPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つを変数として含む多変量判別式に基づいて当該多変量判別式の値である判別値を算出し、算出した判別値に基づいて評価対象につき線維筋痛症および/またはうつ病の状態を評価する。これにより、線維筋痛症および/またはうつ病の状態と有意な相関がある多変量判別式で得られる判別値を利用して線維筋痛症および/またはうつ病の状態を精度よく評価することができる。
【0068】
ここで、ステップS−22では、ステップS−21で算出した判別値に基づいて、評価対象につき、線維筋痛症患者群または非線維筋痛症群(健常群)であるか否か、または線維筋痛症患者群またはうつ病患者群であるか否かを判別してもよい。具体的には、判別値と予め設定された閾値(カットオフ値)とを比較することで、評価対象につき、線維筋痛症患者群または非線維筋痛症群(健常群)であるか否か、または線維筋痛症患者群またはうつ病患者群であるか否かを判別してもよい。これにより、線維筋痛症患者群と非線維筋痛症群(健常群)の2群判別または線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別に有用な多変量判別式で得られる判別値を利用してこれらの判別を精度よく行うことができる。
【0069】
なお、多変量判別式は、1つの分数式または複数の分数式の和、またはロジスティック回帰式、線形判別式、重回帰式、サポートベクターマシンで作成された式、マハラノビス距離法で作成された式、正準判別分析で作成された式、決定木で作成された式のいずれか1つでもよい。具体的には、多変量判別式は、数式1の分数式、Ser,ABA,Trp,Orn,Lysを変数とするロジスティック回帰式、またはSer,Asn,Pro,ABA,Orn,Lysを変数とする線形判別式でもよい。これにより、線維筋痛症患者群と非線維筋痛症群(健常群)の2群判別または線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別に特に有用な多変量判別式で得られる判別値を利用してこれらの判別をさらに精度よく行うことができる。
(ABA/Ser)+b(His/Trp)+c(Lys/Orn)+d
・・・(数式1)
(数式1において、a,b,cおよびdは任意の実数である。)
【0070】
また、上記した各多変量判別式は、本出願人による国際出願である国際公開第2004/052191号に記載の方法や、本出願人による国際出願である国際公開第2006/098192号に記載の方法(後述する多変量判別式作成処理)で作成することができる。これら方法で得られた多変量判別式であれば、入力データとしてのアミノ酸濃度データにおけるアミノ酸濃度の単位に因らず、当該多変量判別式を、線維筋痛症および/またはうつ病の状態評価に好適に用いることができる。
【0071】
また、分数式とは、当該分数式の分子がアミノ酸A,B,C,・・・の和で表わされ及び/又は当該分数式の分母がアミノ酸a,b,c,・・・の和で表わされるものである。また、分数式には、このような構成の分数式α,β,γ,・・・の和(例えばα+βのようなもの)も含まれる。また、分数式には、分割された分数式も含まれる。なお、分子や分母に用いられるアミノ酸にはそれぞれ適当な係数がついてもかまわない。また、分子や分母に用いられるアミノ酸は重複してもかまわない。また、各分数式に適当な係数がついてもかまわない。また、各変数の係数の値や定数項の値は、実数であればかまわない。分数式で、分子の変数と分母の変数を入れ替えた組み合わせは、目的変数との相関の正負の符号は概して逆転するが、それらの相関性は保たれるので、判別性では同等と見なせるので、分子の変数と分母の変数を入れ替えた組み合わせも、包含するものである。
【0072】
また、多変量判別式とは、一般に多変量解析で用いられる式の形式を意味し、例えば重回帰式、多重ロジスティック回帰式、線形判別関数、マハラノビス距離、正準判別関数、サポートベクターマシン、決定木などを包含する。また、異なる形式の多変量判別式の和で示されるような式も含まれる。また、重回帰式、多重ロジスティック回帰式、正準判別関数においては各変数に係数および定数項が付加されるが、この場合の係数および定数項は、好ましくは実数であること、より好ましくはデータから判別を行うために得られた係数および定数項の99%信頼区間の範囲に属する値、さらに好ましくはデータから判別を行うために得られた係数および定数項の95%信頼区間の範囲に属する値であればかまわない。また、各係数の値、及びその信頼区間は、それを実数倍したものでもよく、定数項の値、及びその信頼区間は、それに任意の実定数を加減乗除したものでもよい。ロジスティック回帰、線形判別、重回帰分析などの表示式を指標に用いる場合、表示式の線形変換(定数の加算、定数倍)や単調増加(減少)の変換(例えばlogit変換など)は判別性能を変えるものではなく同等であるので、表示式はそれらを含むものである。
【0073】
そして、本発明は、線維筋痛症および/またはうつ病の状態を評価する際(具体的には、線維筋痛症患者群または非線維筋痛症群(健常群)であるか否かを判別する際、線維筋痛症患者群またはうつ病患者群であるか否かを判別する際)、アミノ酸の濃度以外に、その他の生体情報(例えば糖類、有機酸、脂肪酸、核酸・タンパク質・ペプチド・ミネラル・ホルモン等の生体代謝物や、例えば血糖値・血圧値・圧痛点データ・性別・年齢・肝疾患指標・食習慣・飲酒習慣・運動習慣・肥満度・疾患歴・問診データ等)をさらに用いてもかまわない。また、本発明は、線維筋痛症および/またはうつ病の状態を評価する際(具体的には、線維筋痛症患者群または非線維筋痛症群(健常群)であるか否かを判別する際、線維筋痛症患者群またはうつ病患者群であるか否かを判別する際)、多変量判別式における変数として、アミノ酸の濃度以外に、その他の生体情報(例えば糖類、有機酸、脂肪酸、核酸・タンパク質・ペプチド・ミネラル・ホルモン等の生体代謝物や、例えば血糖値・血圧値・圧痛点データ・性別・年齢・肝疾患指標・食習慣・飲酒習慣・運動習慣・肥満度・疾患歴・問診データ等)をさらに用いてもかまわない。
【0074】
ここで、多変量判別式作成処理(工程1〜工程4)の概要について詳細に説明する。
【0075】
まず、本発明は、制御部で、アミノ酸濃度データと線維筋痛症および/またはうつ病の状態を表す指標に関する線維筋痛症・うつ病状態指標データとを含む記憶部で記憶した線維筋痛症・うつ病状態情報から所定の式作成手法に基づいて、多変量判別式の候補である候補多変量判別式(例えば、y=a+a+・・・+a、y:線維筋痛症・うつ病状態指標データ、x:アミノ酸濃度データ、a:定数、i=1,2,・・・,n)を作成する(工程1)。なお、事前に、線維筋痛症・うつ病状態情報から欠損値や外れ値などを持つデータを除去してもよい。
【0076】
なお、工程1において、線維筋痛症・うつ病状態情報から、複数の異なる式作成手法(主成分分析や判別分析、サポートベクターマシン、重回帰分析、ロジスティック回帰分析、k−means法、クラスター解析、決定木などの多変量解析に関するものを含む。)を併用して複数の候補多変量判別式を作成してもよい。具体的には、多数の健常群ならびに線維筋痛症患者群および/またはうつ病患者群から得た血液を分析して得たアミノ酸濃度データおよび線維筋痛症・うつ病状態指標データから構成される多変量データである線維筋痛症・うつ病状態情報に対して、複数の異なるアルゴリズムを利用して複数群の候補多変量判別式を同時並行的に作成してもよい。例えば、異なるアルゴリズムを利用して判別分析およびロジスティック回帰分析を同時に行い、2つの異なる候補多変量判別式を作成してもよい。また、主成分分析を行って作成した候補多変量判別式を利用して線維筋痛症・うつ病状態情報を変換し、変換した線維筋痛症・うつ病状態情報に対して判別分析を行うことで候補多変量判別式を作成してもよい。これにより、最終的に、診断条件に合った適切な多変量判別式を作成することができる。
【0077】
ここで、主成分分析を用いて作成した候補多変量判別式は、全てのアミノ酸濃度データの分散を最大にするような各アミノ酸変数からなる一次式である。また、判別分析を用いて作成した候補多変量判別式は、各群内の分散の和の全てのアミノ酸濃度データの分散に対する比を最小にするような各アミノ酸変数からなる高次式(指数や対数を含む)である。また、サポートベクターマシンを用いて作成した候補多変量判別式は、群間の境界を最大にするような各アミノ酸変数からなる高次式(カーネル関数を含む)である。また、重回帰分析を用いて作成した候補多変量判別式は、全てのアミノ酸濃度データからの距離の和を最小にするような各アミノ酸変数からなる高次式である。ロジスティック回帰分析を用いて作成した候補多変量判別式は、尤度を最大にするような各アミノ酸変数からなる一次式を指数とする自然対数を項に持つ分数式である。また、k−means法とは、各アミノ酸濃度データのk個近傍を探索し、近傍点の属する群の中で一番多いものをそのデータの所属群と定義し、入力されたアミノ酸濃度データの属する群と定義された群とが最も合致するようなアミノ酸変数を選択する手法である。また、クラスター解析とは、全てのアミノ酸濃度データの中で最も近い距離にある点同士をクラスタリング(群化)する手法である。また、決定木とは、アミノ酸変数に序列をつけて、序列が上位であるアミノ酸変数の取りうるパターンからアミノ酸濃度データの群を予測する手法である。
【0078】
多変量判別式作成処理の説明に戻り、本発明は、制御部で、工程1で作成した候補多変量判別式を、所定の検証手法に基づいて検証(相互検証)する(工程2)。候補多変量判別式の検証は、工程1で作成した各候補多変量判別式に対して行う。
【0079】
なお、工程2において、ブートストラップ法やホールドアウト法、リーブワンアウト法などのうち少なくとも1つに基づいて候補多変量判別式の判別率や感度、特異性、情報量基準などのうち少なくとも1つに関して検証してもよい。これにより、線維筋痛症・うつ病状態情報や診断条件を考慮した予測性または頑健性の高い候補多変量判別式を作成することができる。
【0080】
ここで、判別率とは、全入力データの中で、本発明で評価した線維筋痛症および/またはうつ病の状態が正しい割合である。また、感度とは、入力データに記載された線維筋痛症および/またはうつ病の状態になっているものの中で、本発明で評価した線維筋痛症および/またはうつ病の状態が正しい割合である。また、特異性とは、入力データに記載された線維筋痛症および/またはうつ病が正常になっているものの中で、本発明で評価した線維筋痛症および/またはうつ病の状態が正しい割合である。また、情報量基準とは、工程1で作成した候補多変量判別式のアミノ酸変数の数と、本発明で評価した線維筋痛症および/またはうつ病の状態および入力データに記載された線維筋痛症および/またはうつ病の状態の差異と、を足し合わせたものである。また、予測性とは、候補多変量判別式の検証を繰り返すことで得られた判別率や感度、特異性を平均したものである。また、頑健性とは、候補多変量判別式の検証を繰り返すことで得られた判別率や感度、特異性の分散である。
【0081】
多変量判別式作成処理の説明に戻り、本発明は、制御部で、工程2での検証結果から所定の変数選択手法に基づいて候補多変量判別式の変数を選択することで、候補多変量判別式を作成する際に用いる線維筋痛症・うつ病状態情報に含まれるアミノ酸濃度データの組み合わせを選択する(工程3)。アミノ酸変数の選択は、工程1で作成した各候補多変量判別式に対して行う。これにより、候補多変量判別式のアミノ酸変数を適切に選択することができる。そして、工程3で選択したアミノ酸濃度データを含む線維筋痛症・うつ病状態情報を用いて再び工程1を実行する。
【0082】
なお、工程3において、工程2での検証結果からステップワイズ法、ベストパス法、近傍探索法、遺伝的アルゴリズムのうち少なくとも1つに基づいて候補多変量判別式のアミノ酸変数を選択してもよい。
【0083】
ここで、ベストパス法とは、候補多変量判別式に含まれるアミノ酸変数を1つずつ順次減らしていき、候補多変量判別式が与える評価指標を最適化することでアミノ酸変数を選択する方法である。
【0084】
多変量判別式作成処理の説明に戻り、本発明は、制御部で、上述した工程1、工程2および工程3を繰り返し実行し、これにより蓄積した検証結果に基づいて、複数の候補多変量判別式の中から多変量判別式として採用する候補多変量判別式を選出することで、多変量判別式を作成する(工程4)。なお、候補多変量判別式の選出には、例えば、同じ式作成手法で作成した候補多変量判別式の中から最適なものを選出する場合と、すべての候補多変量判別式の中から最適なものを選出する場合とがある。
【0085】
以上、説明したように、多変量判別式作成処理では、線維筋痛症・うつ病状態情報に基づいて、候補多変量判別式の作成、候補多変量判別式の検証および候補多変量判別式の変数の選択に関する処理を一連の流れで体系化(システム化)して実行することにより、線維筋痛症および/またはうつ病の状態評価に最適な多変量判別式を作成することができる。換言すると、多変量判別式作成処理では、アミノ酸濃度を多変量の統計解析に用い、最適でロバストな変数の組を選択するために変数選択法とクロスバリデーションとを組み合わせて、診断性能の高い多変量判別式を抽出する。多変量判別式としては、ロジスティック回帰、線形判別、サポートベクターマシン、マハラノビス距離法、重回帰分析、クラスター解析などを用いることができる。
【0086】
[2−2.システム構成]
ここでは、第2実施形態にかかる線維筋痛症・うつ病評価システム(以下では本システムと記す場合がある。)の構成について、図4から図20を参照して説明する。なお、本システムはあくまでも一例であり、本発明はこれに限定されない。
【0087】
まず、本システムの全体構成について図4および図5を参照して説明する。図4は本システムの全体構成の一例を示す図である。また、図5は本システムの全体構成の他の一例を示す図である。本システムは、図4に示すように、評価対象につき、線維筋痛症および/またはうつ病の状態を評価する線維筋痛症・うつ病評価装置100と、アミノ酸の濃度値に関する評価対象のアミノ酸濃度データを提供するクライアント装置200(本発明の情報通信端末装置に相当)とを、ネットワーク300を介して通信可能に接続して構成されている。
【0088】
なお、本システムは、図5に示すように、線維筋痛症・うつ病評価装置100やクライアント装置200の他に、線維筋痛症・うつ病評価装置100で多変量判別式を作成する際に用いる線維筋痛症・うつ病状態情報や、線維筋痛症および/またはうつ病の状態評価を行うために用いる多変量判別式などを格納したデータベース装置400を、ネットワーク300を介して通信可能に接続して構成されてもよい。これにより、ネットワーク300を介して、線維筋痛症・うつ病評価装置100からクライアント装置200やデータベース装置400へ、あるいはクライアント装置200やデータベース装置400から線維筋痛症・うつ病評価装置100へ、線維筋痛症および/またはうつ病の状態に関する情報などが提供される。ここで、線維筋痛症および/またはうつ病の状態に関する情報とは、ヒトを含む生物の線維筋痛症および/またはうつ病の状態に関する特定の項目について測定した値に関する情報である。また、線維筋痛症および/またはうつ病の状態に関する情報は、線維筋痛症・うつ病評価装置100やクライアント装置200や他の装置(例えば各種の計測装置等)で生成され、主にデータベース装置400に蓄積される。
【0089】
つぎに、本システムの線維筋痛症・うつ病評価装置100の構成について図6から図18を参照して説明する。図6は、本システムの線維筋痛症・うつ病評価装置100の構成の一例を示すブロック図であり、該構成のうち本発明に関係する部分のみを概念的に示している。
【0090】
線維筋痛症・うつ病評価装置100は、当該線維筋痛症・うつ病評価装置を統括的に制御するCPU等の制御部102と、ルータ等の通信装置および専用線等の有線または無線の通信回線を介して当該線維筋痛症・うつ病評価装置をネットワーク300に通信可能に接続する通信インターフェース部104と、各種のデータベースやテーブルやファイルなどを格納する記憶部106と、入力装置112や出力装置114に接続する入出力インターフェース部108と、で構成されており、これら各部は任意の通信路を介して通信可能に接続されている。ここで、線維筋痛症・うつ病評価装置100は、各種の分析装置(例えばアミノ酸アナライザー等)と同一筐体で構成されてもよい。また、線維筋痛症・うつ病評価装置100の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷等に応じた任意の単位で、機能的または物理的に分散・統合して構成してもよい。
【0091】
記憶部106は、ストレージ手段であり、例えば、RAM・ROM等のメモリ装置や、ハードディスクのような固定ディスク装置、フレキシブルディスク、光ディスク等を用いることができる。記憶部106には、OS(Operating System)と協働してCPUに命令を与え各種処理を行うためのコンピュータプログラムが記録されている。記憶部106は、図示の如く、利用者情報ファイル106aと、アミノ酸濃度データファイル106bと、線維筋痛症・うつ病状態情報ファイル106cと、指定線維筋痛症・うつ病状態情報ファイル106dと、多変量判別式関連情報データベース106eと、判別値ファイル106fと、評価結果ファイル106gと、を格納する。
【0092】
利用者情報ファイル106aは、利用者に関する利用者情報を格納する。図7は、利用者情報ファイル106aに格納される情報の一例を示す図である。利用者情報ファイル106aに格納される情報は、図7に示すように、利用者を一意に識別するための利用者IDと、利用者が正当な者であるか否かの認証を行うための利用者パスワードと、利用者の氏名と、利用者の所属する所属先を一意に識別するための所属先IDと、利用者の所属する所属先の部門を一意に識別するための部門IDと、部門名と、利用者の電子メールアドレスと、を相互に関連付けて構成されている。
【0093】
図6に戻り、アミノ酸濃度データファイル106bは、アミノ酸の濃度値に関するアミノ酸濃度データを格納する。図8は、アミノ酸濃度データファイル106bに格納される情報の一例を示す図である。アミノ酸濃度データファイル106bに格納される情報は、図8に示すように、評価対象である個体(サンプル)を一意に識別するための個体番号と、アミノ酸濃度データとを相互に関連付けて構成されている。ここで、図8では、アミノ酸濃度データを数値、すなわち連続尺度として扱っているが、アミノ酸濃度データは名義尺度や順序尺度でもよい。なお、名義尺度や順序尺度の場合は、それぞれの状態に対して任意の数値を与えることで解析してもよい。また、アミノ酸濃度データに、その他の生体情報(例えば糖類、有機酸、脂肪酸、核酸・タンパク質・ペプチド・ミネラル・ホルモン等の生体代謝物や、例えば血糖値・血圧値・圧痛点データ・性別・年齢・肝疾患指標・食習慣・飲酒習慣・運動習慣・肥満度・疾患歴・問診データ等)を組み合わせてもよい。
【0094】
図6に戻り、線維筋痛症・うつ病状態情報ファイル106cは、多変量判別式を作成する際に用いる線維筋痛症・うつ病状態情報を格納する。図9は、線維筋痛症・うつ病状態情報ファイル106cに格納される情報の一例を示す図である。線維筋痛症・うつ病状態情報ファイル106cに格納される情報は、図9に示すように、個体番号と、線維筋痛症および/またはうつ病の状態を表す指標(指標T、指標T、指標T・・・)に関する線維筋痛症・うつ病状態指標データ(T)と、アミノ酸濃度データと、を相互に関連付けて構成されている。ここで、図9では、線維筋痛症・うつ病状態指標データおよびアミノ酸濃度データを数値(すなわち連続尺度)として扱っているが、線維筋痛症・うつ病状態指標データおよびアミノ酸濃度データは名義尺度や順序尺度でもよい。なお、名義尺度や順序尺度の場合は、それぞれの状態に対して任意の数値を与えることで解析してもよい。また、線維筋痛症・うつ病状態指標データは、線維筋痛症および/またはうつ病の状態のマーカーとなる既知の単一の状態指標であり、数値データを用いてもよい。
【0095】
図6に戻り、指定線維筋痛症・うつ病状態情報ファイル106dは、後述する線維筋痛症・うつ病状態情報指定部102gで指定した線維筋痛症・うつ病状態情報を格納する。図10は、指定線維筋痛症・うつ病状態情報ファイル106dに格納される情報の一例を示す図である。指定線維筋痛症・うつ病状態情報ファイル106dに格納される情報は、図10に示すように、個体番号と、指定した線維筋痛症・うつ病状態指標データと、指定したアミノ酸濃度データと、を相互に関連付けて構成されている。
【0096】
図6に戻り、多変量判別式関連情報データベース106eは、後述する候補多変量判別式作成部102h1で作成した候補多変量判別式を格納する候補多変量判別式ファイル106e1と、後述する候補多変量判別式検証部102h2での検証結果を格納する検証結果ファイル106e2と、後述する変数選択部102h3で選択したアミノ酸濃度データの組み合わせを含む線維筋痛症・うつ病状態情報を格納する選択線維筋痛症・うつ病状態情報ファイル106e3と、後述する多変量判別式作成部102hで作成した多変量判別式を格納する多変量判別式ファイル106e4と、で構成される。
【0097】
候補多変量判別式ファイル106e1は、後述する候補多変量判別式作成部102h1で作成した候補多変量判別式を格納する。図11は、候補多変量判別式ファイル106e1に格納される情報の一例を示す図である。候補多変量判別式ファイル106e1に格納される情報は、図11に示すように、ランクと、候補多変量判別式(図11では、F(Gly,Leu,Phe,・・・)やF(Gly,Leu,Phe,・・・)、F(Gly,Leu,Phe,・・・)など)とを相互に関連付けて構成されている。
【0098】
図6に戻り、検証結果ファイル106e2は、後述する候補多変量判別式検証部102h2での検証結果を格納する。図12は、検証結果ファイル106e2に格納される情報の一例を示す図である。検証結果ファイル106e2に格納される情報は、図12に示すように、ランクと、候補多変量判別式(図12では、F(Gly,Leu,Phe,・・・)やF(Gly,Leu,Phe,・・・)、F(Gly,Leu,Phe,・・・)など)と、各候補多変量判別式の検証結果(例えば各候補多変量判別式の評価値)と、を相互に関連付けて構成されている。
【0099】
図6に戻り、選択線維筋痛症・うつ病状態情報ファイル106e3は、後述する変数選択部102h3で選択した変数に対応するアミノ酸濃度データの組み合わせを含む線維筋痛症・うつ病状態情報を格納する。図13は、選択線維筋痛症・うつ病状態情報ファイル106e3に格納される情報の一例を示す図である。選択線維筋痛症・うつ病状態情報ファイル106e3に格納される情報は、図13に示すように、個体番号と、後述する線維筋痛症・うつ病状態情報指定部102gで指定した線維筋痛症・うつ病状態指標データと、後述する変数選択部102h3で選択したアミノ酸濃度データと、を相互に関連付けて構成されている。
【0100】
図6に戻り、多変量判別式ファイル106e4は、後述する多変量判別式作成部102hで作成した多変量判別式を格納する。図14は、多変量判別式ファイル106e4に格納される情報の一例を示す図である。多変量判別式ファイル106e4に格納される情報は、図14に示すように、ランクと、多変量判別式(図14では、F(Phe,・・・)やF(Gly,Leu,Phe)、F(Gly,Leu,Phe,・・・)など)と、各式作成手法に対応する閾値と、各多変量判別式の検証結果(例えば各多変量判別式の評価値)と、を相互に関連付けて構成されている。
【0101】
図6に戻り、判別値ファイル106fは、後述する判別値算出部102iで算出した判別値を格納する。図15は、判別値ファイル106fに格納される情報の一例を示す図である。判別値ファイル106fに格納される情報は、図15に示すように、評価対象である個体(サンプル)を一意に識別するための個体番号と、ランク(多変量判別式を一意に識別するための番号)と、判別値と、を相互に関連付けて構成されている。
【0102】
図6に戻り、評価結果ファイル106gは、後述する判別値基準評価部102jでの評価結果(具体的には、後述する判別値基準判別部102j1での判別結果)を格納する。図16は、評価結果ファイル106gに格納される情報の一例を示す図である。評価結果ファイル106gに格納される情報は、評価対象である個体(サンプル)を一意に識別するための個体番号と、予め取得した評価対象のアミノ酸濃度データと、多変量判別式で算出した判別値と、線維筋痛症および/またはうつ病の状態評価に関する評価結果と、を相互に関連付けて構成されている。
【0103】
通信インターフェース部104は、線維筋痛症・うつ病評価装置100とネットワーク300(またはルータ等の通信装置)との間における通信を媒介する。すなわち、通信インターフェース部104は、他の端末と通信回線を介してデータを通信する機能を有する。
【0104】
入出力インターフェース部108は、入力装置112や出力装置114に接続する。ここで、出力装置114には、モニタ(家庭用テレビを含む)の他、スピーカやプリンタを用いることができる(なお、以下では、出力装置114をモニタ114として記載する場合がある。)。入力装置112には、キーボードやマウスやマイクの他、マウスと協働してポインティングデバイス機能を実現するモニタを用いることができる。
【0105】
制御部102は、OS(Operating System)等の制御プログラム・各種の処理手順等を規定したプログラム・所要データなどを格納するための内部メモリを有し、これらのプログラムに基づいて種々の情報処理を実行する。制御部102は、図示の如く、大別して、要求解釈部102aと閲覧処理部102bと認証処理部102cと電子メール生成部102dとWebページ生成部102eと受信部102fと線維筋痛症・うつ病状態情報指定部102gと多変量判別式作成部102hと判別値算出部102iと判別値基準評価部102jと結果出力部102kと送信部102mとを備えている。制御部102は、データベース装置400から送信された線維筋痛症・うつ病状態情報やクライアント装置200から送信されたアミノ酸濃度データに対して、欠損値のあるデータの除去・外れ値の多いデータの除去・欠損値のあるデータの多い変数の除去などのデータ処理も行う。
【0106】
要求解釈部102aは、クライアント装置200やデータベース装置400からの要求内容を解釈し、その解釈結果に応じて制御部102の各部に処理を受け渡す。閲覧処理部102bは、クライアント装置200からの各種画面の閲覧要求を受けて、これら画面のWebデータの生成や送信を行なう。認証処理部102cは、クライアント装置200やデータベース装置400からの認証要求を受けて、認証判断を行う。電子メール生成部102dは、各種の情報を含んだ電子メールを生成する。Webページ生成部102eは、利用者がクライアント装置200で閲覧するWebページを生成する。
【0107】
受信部102fは、クライアント装置200やデータベース装置400から送信された情報(具体的には、アミノ酸濃度データや線維筋痛症・うつ病状態情報、多変量判別式など)を、ネットワーク300を介して受信する。線維筋痛症・うつ病状態情報指定部102gは、多変量判別式を作成するにあたり、対象とする線維筋痛症・うつ病状態指標データおよびアミノ酸濃度データを指定する。
【0108】
多変量判別式作成部102hは、受信部102fで受信した線維筋痛症・うつ病状態情報や線維筋痛症・うつ病状態情報指定部102gで指定した線維筋痛症・うつ病状態情報に基づいて多変量判別式を作成する。具体的には、多変量判別式作成部102hは、線維筋痛症・うつ病状態情報から、候補多変量判別式作成部102h1、候補多変量判別式検証部102h2および変数選択部102h3を繰り返し実行させることにより蓄積された検証結果に基づいて、複数の候補多変量判別式の中から多変量判別式として採用する候補多変量判別式を選出することで、多変量判別式を作成する。
【0109】
なお、多変量判別式が予め記憶部106の所定の記憶領域に格納されている場合には、多変量判別式作成部102hは、記憶部106から所望の多変量判別式を選択することで、多変量判別式を作成してもよい。また、多変量判別式作成部102hは、多変量判別式を予め格納した他のコンピュータ装置(例えばデータベース装置400)から所望の多変量判別式を選択しダウンロードすることで、多変量判別式を作成してもよい。
【0110】
ここで、多変量判別式作成部102hの構成について図17を参照して説明する。図17は、多変量判別式作成部102hの構成を示すブロック図であり、該構成のうち本発明に関係する部分のみを概念的に示している。多変量判別式作成部102hは、候補多変量判別式作成部102h1と、候補多変量判別式検証部102h2と、変数選択部102h3と、をさらに備えている。候補多変量判別式作成部102h1は、線維筋痛症・うつ病状態情報から所定の式作成手法に基づいて多変量判別式の候補である候補多変量判別式を作成する。なお、候補多変量判別式作成部102h1は、線維筋痛症・うつ病状態情報から、複数の異なる式作成手法を併用して複数の候補多変量判別式を作成してもよい。候補多変量判別式検証部102h2は、候補多変量判別式作成部102h1で作成した候補多変量判別式を所定の検証手法に基づいて検証する。なお、候補多変量判別式検証部102h2は、ブートストラップ法、ホールドアウト法、リーブワンアウト法のうち少なくとも1つに基づいて候補多変量判別式の判別率、感度、特異性、情報量基準のうち少なくとも1つに関して検証してもよい。変数選択部102h3は、候補多変量判別式検証部102h2での検証結果から所定の変数選択手法に基づいて候補多変量判別式の変数を選択することで、候補多変量判別式を作成する際に用いる線維筋痛症・うつ病状態情報に含まれるアミノ酸濃度データの組み合わせを選択する。なお、変数選択部102h3は、検証結果からステップワイズ法、ベストパス法、近傍探索法、遺伝的アルゴリズムのうち少なくとも1つに基づいて候補多変量判別式の変数を選択してもよい。
【0111】
図6に戻り、判別値算出部102iは、多変量判別式作成部102hで作成した多変量判別式(例えば、Pro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つを変数として含む多変量判別式)、および受信部102fで受信した評価対象のアミノ酸濃度データ(例えば、Pro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つの濃度値)に基づいて、当該多変量判別式の値である判別値を算出する。
【0112】
ここで、多変量判別式は、1つの分数式または複数の分数式の和、またはロジスティック回帰式、線形判別式、重回帰式、サポートベクターマシンで作成された式、マハラノビス距離法で作成された式、正準判別分析で作成された式、決定木で作成された式のいずれか1つでもよい。具体的には、多変量判別式は、数式1の分数式、Ser,ABA,Trp,Orn,Lysを変数とするロジスティック回帰式、またはSer,Asn,Pro,ABA,Orn,Lysを変数とする線形判別式でもよい。
(ABA/Ser)+b(His/Trp)+c(Lys/Orn)+d
・・・(数式1)
(数式1において、a,b,cおよびdは任意の実数である。)
【0113】
判別値基準評価部102jは、判別値算出部102iで算出した判別値に基づいて評価対象につき線維筋痛症および/またはうつ病の状態を評価する。判別値基準評価部102jは、判別値基準判別部102j1をさらに備えている。ここで、判別値基準評価部102jの構成について図18を参照して説明する。図18は、判別値基準評価部102jの構成を示すブロック図であり、該構成のうち本発明に関係する部分のみを概念的に示している。判別値基準判別部102j1は、判別値に基づいて、評価対象につき、線維筋痛症患者群または非線維筋痛症群(健常群)であるか否か、または線維筋痛症患者群またはうつ病患者群であるか否かを判別する。具体的には、判別値基準判別部102j1は、判別値と予め設定された閾値(カットオフ値)とを比較することで、評価対象につき、線維筋痛症患者群または非線維筋痛症群(健常群)であるか否か、または線維筋痛症患者群またはうつ病患者群であるか否かを判別する。
【0114】
図6に戻り、結果出力部102kは、制御部102の各処理部での処理結果(判別値基準評価部102jでの評価結果(具体的には判別値基準判別部102j1での判別結果)を含む)等を出力装置114に出力する。
【0115】
送信部102mは、評価対象のアミノ酸濃度データの送信元のクライアント装置200に対して評価結果を送信したり、データベース装置400に対して、線維筋痛症・うつ病評価装置100で作成した多変量判別式や評価結果を送信したりする。
【0116】
つぎに、本システムのクライアント装置200の構成について図19を参照して説明する。図19は、本システムのクライアント装置200の構成の一例を示すブロック図であり、該構成のうち本発明に関係する部分のみを概念的に示している。
【0117】
クライアント装置200は、制御部210とROM220とHD230とRAM240と入力装置250と出力装置260と入出力IF270と通信IF280とで構成されており、これら各部は任意の通信路を介して通信可能に接続されている。
【0118】
制御部210は、Webブラウザ211、電子メーラ212、受信部213、送信部214を備えている。Webブラウザ211は、Webデータを解釈し、解釈したWebデータを後述するモニタ261に表示するブラウズ処理を行う。なお、Webブラウザ211には、ストリーム映像の受信・表示・フィードバック等を行う機能を備えたストリームプレイヤ等の各種のソフトウェアをプラグインしてもよい。電子メーラ212は、所定の通信規約(例えば、SMTP(Simple Mail Transfer Protocol)やPOP3(Post Office Protocol version 3)等)に従って電子メールの送受信を行う。受信部213は、通信IF280を介して、線維筋痛症・うつ病評価装置100から送信された評価結果などの各種情報を受信する。送信部214は、通信IF280を介して、評価対象のアミノ酸濃度データなどの各種情報を線維筋痛症・うつ病評価装置100へ送信する。
【0119】
入力装置250はキーボードやマウスやマイク等である。なお、後述するモニタ261もマウスと協働してポインティングデバイス機能を実現する。出力装置260は、通信IF280を介して受信した情報を出力する出力手段であり、モニタ(家庭用テレビを含む)261およびプリンタ262を含む。この他、出力装置260にスピーカ等を設けてもよい。入出力IF270は入力装置250や出力装置260に接続する。
【0120】
通信IF280は、クライアント装置200とネットワーク300(またはルータ等の通信装置)とを通信可能に接続する。換言すると、クライアント装置200は、モデムやTAやルータなどの通信装置および電話回線を介して、または専用線を介してネットワーク300に接続される。これにより、クライアント装置200は、所定の通信規約に従って線維筋痛症・うつ病評価装置100にアクセスすることができる。
【0121】
つぎに、本システムのネットワーク300について図4、図5を参照して説明する。ネットワーク300は、線維筋痛症・うつ病評価装置100とクライアント装置200とデータベース装置400とを相互に通信可能に接続する機能を有し、例えばインターネットやイントラネットやLAN(有線/無線の双方を含む)等である。なお、ネットワーク300は、VANや、パソコン通信網や、公衆電話網(アナログ/デジタルの双方を含む)や、専用回線網(アナログ/デジタルの双方を含む)や、CATV網や、携帯回線交換網または携帯パケット交換網(IMT2000方式、GSM方式またはPDC/PDC−P方式等を含む)や、無線呼出網や、Bluetooth(登録商標)等の局所無線網や、PHS網や、衛星通信網(CS、BSまたはISDB等を含む)等でもよい。
【0122】
つぎに、本システムのデータベース装置400の構成について図20を参照して説明する。図20は、本システムのデータベース装置400の構成の一例を示すブロック図であり、該構成のうち本発明に関係する部分のみを概念的に示している。
【0123】
データベース装置400は、線維筋痛症・うつ病評価装置100または当該データベース装置で多変量判別式を作成する際に用いる線維筋痛症・うつ病状態情報や、線維筋痛症・うつ病評価装置100で作成した多変量判別式、線維筋痛症・うつ病評価装置100での評価結果などを格納する機能を有する。図20に示すように、データベース装置400は、当該データベース装置を統括的に制御するCPU等の制御部402と、ルータ等の通信装置および専用線等の有線または無線の通信回路を介して当該データベース装置をネットワーク300に通信可能に接続する通信インターフェース部404と、各種のデータベースやテーブルやファイル(例えばWebページ用ファイル)などを格納する記憶部406と、入力装置412や出力装置414に接続する入出力インターフェース部408と、で構成されており、これら各部は任意の通信路を介して通信可能に接続されている。
【0124】
記憶部406は、ストレージ手段であり、例えば、RAM・ROM等のメモリ装置や、ハードディスクのような固定ディスク装置や、フレキシブルディスクや、光ディスク等を用いることができる。記憶部406には、各種処理に用いる各種プログラム等を格納する。通信インターフェース部404は、データベース装置400とネットワーク300(またはルータ等の通信装置)との間における通信を媒介する。すなわち、通信インターフェース部404は、他の端末と通信回線を介してデータを通信する機能を有する。入出力インターフェース部408は、入力装置412や出力装置414に接続する。ここで、出力装置414には、モニタ(家庭用テレビを含む)の他、スピーカやプリンタを用いることができる(なお、以下で、出力装置414をモニタ414として記載する場合がある。)。また、入力装置412には、キーボードやマウスやマイクの他、マウスと協働してポインティングデバイス機能を実現するモニタを用いることができる。
【0125】
制御部402は、OS(Operating System)等の制御プログラム・各種の処理手順等を規定したプログラム・所要データなどを格納するための内部メモリを有し、これらのプログラムに基づいて種々の情報処理を実行する。制御部402は、図示の如く、大別して、要求解釈部402aと閲覧処理部402bと認証処理部402cと電子メール生成部402dとWebページ生成部402eと送信部402fとを備えている。
【0126】
要求解釈部402aは、線維筋痛症・うつ病評価装置100からの要求内容を解釈し、その解釈結果に応じて制御部402の各部に処理を受け渡す。閲覧処理部402bは、線維筋痛症・うつ病評価装置100からの各種画面の閲覧要求を受けて、これら画面のWebデータの生成や送信を行う。認証処理部402cは、線維筋痛症・うつ病評価装置100からの認証要求を受けて、認証判断を行う。電子メール生成部402dは、各種の情報を含んだ電子メールを生成する。Webページ生成部402eは、利用者がクライアント装置200で閲覧するWebページを生成する。送信部402fは、線維筋痛症・うつ病状態情報や多変量判別式などの各種情報を、線維筋痛症・うつ病評価装置100へ送信する。
【0127】
[2−3.本システムの処理]
ここでは、以上のように構成された本システムで行われる線維筋痛症・うつ病評価サービス処理の一例を、図21を参照して説明する。図21は、線維筋痛症・うつ病評価サービス処理の一例を示すフローチャートである。
【0128】
なお、本処理で用いるアミノ酸濃度データは、個体から予め採取した血液を分析して得たアミノ酸の濃度値に関するものである。ここで、血液中のアミノ酸の分析方法について簡単に説明する。まず、採血した血液サンプルを、ヘパリン処理したチューブに採取し、その後、当該チューブに対して遠心分離を行うことで血漿を分離する。なお、分離したすべての血漿サンプルはアミノ酸濃度の測定時まで−70℃で凍結保存する。そして、アミノ酸濃度の測定時に、血漿サンプルに対してスルホサリチル酸を添加し3%濃度調整により除蛋白処理を行う。なお、アミノ酸濃度の測定には、ポストカラムでニンヒドリン反応を用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を原理としたアミノ酸分析機を使用した。
【0129】
まず、Webブラウザ211を表示した画面上で利用者が入力装置250を介して線維筋痛症・うつ病評価装置100が提供するWebサイトのアドレス(URLなど)を指定すると、クライアント装置200は線維筋痛症・うつ病評価装置100へアクセスする。具体的には、利用者がクライアント装置200のWebブラウザ211の画面更新を指示すると、Webブラウザ211は、線維筋痛症・うつ病評価装置100が提供するWebサイトのアドレスを所定の通信規約で線維筋痛症・うつ病評価装置100へ送信することで、アミノ酸濃度データ送信画面に対応するWebページの送信要求を、当該アドレスに基づくルーティングで線維筋痛症・うつ病評価装置100へ行う。
【0130】
つぎに、線維筋痛症・うつ病評価装置100は、要求解釈部102aで、クライアント装置200からの送信を受け、当該送信の内容を解析し、解析結果に応じて制御部102の各部に処理を移す。具体的には、送信の内容がアミノ酸濃度データ送信画面に対応するWebページの送信要求であった場合、線維筋痛症・うつ病評価装置100は、主として閲覧処理部102bで、記憶部106の所定の記憶領域に格納されている当該Webページを表示するためのWebデータを取得し、取得したWebデータをクライアント装置200へ送信する。より具体的には、利用者からアミノ酸濃度データ送信画面に対応するWebページの送信要求があった場合、線維筋痛症・うつ病評価装置100は、まず、制御部102で、利用者IDや利用者パスワードの入力を利用者に対して求める。そして、利用者IDやパスワードが入力されると、線維筋痛症・うつ病評価装置100は、認証処理部102cで、入力された利用者IDやパスワードと利用者情報ファイル106aに格納されている利用者IDや利用者パスワードとの認証判断を行う。そして、線維筋痛症・うつ病評価装置100は、認証可の場合にのみ、閲覧処理部102bで、アミノ酸濃度データ送信画面に対応するWebページを表示するためのWebデータをクライアント装置200へ送信する。なお、クライアント装置200の特定は、クライアント装置200から送信要求と共に送信されたIPアドレスで行う。
【0131】
つぎに、クライアント装置200は、線維筋痛症・うつ病評価装置100から送信されたWebデータ(アミノ酸濃度データ送信画面に対応するWebページを表示するためのもの)を受信部213で受信し、受信したWebデータをWebブラウザ211で解釈し、モニタ261にアミノ酸濃度データ送信画面を表示する。
【0132】
つぎに、モニタ261に表示されたアミノ酸濃度データ送信画面に対し利用者が入力装置250を介して個体のアミノ酸濃度データなどを入力・選択すると、クライアント装置200は、送信部214で、入力情報や選択事項を特定するための識別子を線維筋痛症・うつ病評価装置100へ送信することで、評価対象の個体のアミノ酸濃度データを線維筋痛症・うつ病評価装置100へ送信する(ステップSA−21)。なお、ステップSA−21におけるアミノ酸濃度データの送信は、FTP等の既存のファイル転送技術等により実現してもよい。
【0133】
つぎに、線維筋痛症・うつ病評価装置100は、要求解釈部102aで、クライアント装置200から送信された識別子を解釈することによりクライアント装置200の要求内容を解釈し、線維筋痛症および/またはうつ病の状態評価用の多変量判別式(具体的には、線維筋痛症患者群と非線維筋痛症群(健常群)の2群判別用の多変量判別式、線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別用の多変量判別式)の送信要求をデータベース装置400へ行う。
【0134】
つぎに、データベース装置400は、要求解釈部402aで、線維筋痛症・うつ病評価装置100からの送信要求を解釈し、Pro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つを変数として含む記憶部406の所定の記憶領域に格納した多変量判別式(例えばアップデートされた最新の多変量判別式)を線維筋痛症・うつ病評価装置100へ送信する(ステップSA−22)。
【0135】
ここで、ステップSA−22において、線維筋痛症・うつ病評価装置100へ送信する多変量判別式は、1つの分数式または複数の分数式の和、またはロジスティック回帰式、線形判別式、重回帰式、サポートベクターマシンで作成された式、マハラノビス距離法で作成された式、正準判別分析で作成された式、決定木で作成された式のいずれか1つでもよい。具体的には、多変量判別式は、数式1の分数式、Ser,ABA,Trp,Orn,Lysを変数とするロジスティック回帰式、またはSer,Asn,Pro,ABA,Orn,Lysを変数とする線形判別式でもよい。
(ABA/Ser)+b(His/Trp)+c(Lys/Orn)+d
・・・(数式1)
(数式1において、a,b,cおよびdは任意の実数である。)
【0136】
つぎに、線維筋痛症・うつ病評価装置100は、受信部102fで、クライアント装置200から送信された個体のアミノ酸濃度データおよびデータベース装置400から送信された多変量判別式を受信し、受信したアミノ酸濃度データをアミノ酸濃度データファイル106bの所定の記憶領域に格納すると共に、受信した多変量判別式を多変量判別式ファイル106e4の所定の記憶領域に格納する(ステップSA−23)。
【0137】
つぎに、線維筋痛症・うつ病評価装置100は、制御部102で、ステップSA−23で受信した個体のアミノ酸濃度データから欠損値や外れ値などのデータを除去する(ステップSA−24)。
【0138】
つぎに、線維筋痛症・うつ病評価装置100は、判別値算出部102iで、ステップSA−24で欠損値や外れ値などのデータが除去された個体のアミノ酸濃度データに含まれるPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つの濃度値およびステップSA−23で受信した多変量判別式に基づいて判別値を算出する(ステップSA−25)。
【0139】
つぎに、線維筋痛症・うつ病評価装置100は、判別値基準判別部102j1で、ステップSA−25で算出した判別値と予め設定された閾値(カットオフ値)とを比較することで、個体につき、線維筋痛症患者群または非線維筋痛症群(健常群)であるか否か、または線維筋痛症患者群またはうつ病患者群であるか否かを判別し、その判別結果を評価結果ファイル106gの所定の記憶領域に格納する(ステップSA−26)。
【0140】
つぎに、線維筋痛症・うつ病評価装置100は、送信部102mで、ステップSA−26で得た判別結果を、アミノ酸濃度データの送信元のクライアント装置200とデータベース装置400とへ送信する(ステップSA−27)。具体的には、まず、線維筋痛症・うつ病評価装置100は、Webページ生成部102eで、判別結果を表示するためのWebページを作成し、作成したWebページに対応するWebデータを記憶部106の所定の記憶領域に格納する。ついで、利用者がクライアント装置200のWebブラウザ211に入力装置250を介して所定のURLを入力し上述した認証を経た後、クライアント装置200は、当該Webページの閲覧要求を線維筋痛症・うつ病評価装置100へ送信する。ついで、線維筋痛症・うつ病評価装置100は、閲覧処理部102bで、クライアント装置200から送信された閲覧要求を解釈し、判別結果を表示するためのWebページに対応するWebデータを記憶部106の所定の記憶領域から読み出す。そして、線維筋痛症・うつ病評価装置100は、送信部102mで、読み出したWebデータをクライアント装置200へ送信すると共に、当該Webデータ又は判別結果をデータベース装置400へ送信する。
【0141】
ここで、ステップSA−27において、線維筋痛症・うつ病評価装置100は、制御部102で、判別結果を電子メールで利用者のクライアント装置200へ通知してもよい。具体的には、まず、線維筋痛症・うつ病評価装置100は、電子メール生成部102dで、利用者IDなどを基にして利用者情報ファイル106aに格納されている利用者情報を送信タイミングに従って参照し、利用者の電子メールアドレスを取得する。ついで、線維筋痛症・うつ病評価装置100は、電子メール生成部102dで、取得した電子メールアドレスを宛て先とし利用者の氏名および判別結果を含む電子メールに関するデータを生成する。ついで、線維筋痛症・うつ病評価装置100は、送信部102mで、生成した当該データを利用者のクライアント装置200へ送信する。
【0142】
また、ステップSA−27において、線維筋痛症・うつ病評価装置100は、FTP等の既存のファイル転送技術等で、判別結果を利用者のクライアント装置200へ送信してもよい。
【0143】
図21の説明に戻り、データベース装置400は、制御部402で、線維筋痛症・うつ病評価装置100から送信された判別結果またはWebデータを受信し、受信した判別結果またはWebデータを記憶部406の所定の記憶領域に保存(蓄積)する(ステップSA−28)。
【0144】
また、クライアント装置200は、受信部213で、線維筋痛症・うつ病評価装置100から送信されたWebデータを受信し、受信したWebデータをWebブラウザ211で解釈し、個体の判別結果が記されたWebページの画面をモニタ261に表示する(ステップSA−29)。なお、判別結果が線維筋痛症・うつ病評価装置100から電子メールで送信された場合には、クライアント装置200は、電子メーラ212の公知の機能で、線維筋痛症・うつ病評価装置100から送信された電子メールを任意のタイミングで受信し、受信した電子メールをモニタ261に表示する。
【0145】
以上により、利用者は、モニタ261に表示されたWebページを閲覧することで、線維筋痛症患者群と非線維筋痛症群(健常群)の2群判別または線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別に関する個体の判別結果を確認することができる。なお、利用者は、モニタ261に表示されたWebページの表示内容をプリンタ262で印刷してもよい。
【0146】
また、判別結果が線維筋痛症・うつ病評価装置100から電子メールで送信された場合には、利用者は、モニタ261に表示された電子メールを閲覧することで、線維筋痛症患者群と非線維筋痛症群(健常群)の2群判別または線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別に関する個体の判別結果を確認することができる。利用者は、モニタ261に表示された電子メールの表示内容をプリンタ262で印刷してもよい。
【0147】
これにて、線維筋痛症・うつ病評価サービス処理の説明を終了する。
【0148】
[2−4.第2実施形態のまとめ、およびその他の実施形態]
以上、詳細に説明したように、線維筋痛症・うつ病評価システムによれば、クライアント装置200は個体のアミノ酸濃度データを線維筋痛症・うつ病評価装置100へ送信し、データベース装置400は線維筋痛症・うつ病評価装置100からの要求を受けて、線維筋痛症患者群と非線維筋痛症群(健常群)の2群判別用または線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別用の多変量判別式を線維筋痛症・うつ病評価装置100へ送信する。そして、線維筋痛症・うつ病評価装置100は、(1)クライアント装置200からアミノ酸濃度データを受信すると共にデータベース装置400から多変量判別式を受信し、(2)受信したアミノ酸濃度データおよび多変量判別式に基づいて判別値を算出し、(3)算出した判別値と予め設定した閾値とを比較することで個体につき、線維筋痛症患者群または非線維筋痛症群(健常群)であるか否か、または線維筋痛症患者群またはうつ病患者群であるか否かを判別し、(4)この判別結果をクライアント装置200やデータベース装置400へ送信する。そして、クライアント装置200は線維筋痛症・うつ病評価装置100から送信された判別結果を受信して表示し、データベース装置400は線維筋痛症・うつ病評価装置100から送信された判別結果を受信して格納する。これにより、線維筋痛症患者群と非線維筋痛症群(健常群)の2群判別または線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別に有用な多変量判別式で得られる判別値を利用してこれらの判別を精度よく行うことができる。
【0149】
ここで、線維筋痛症・うつ病評価システムによれば、多変量判別式は、1つの分数式または複数の分数式の和、またはロジスティック回帰式、線形判別式、重回帰式、サポートベクターマシンで作成された式、マハラノビス距離法で作成された式、正準判別分析で作成された式、決定木で作成された式のいずれか1つでもよい。具体的には、多変量判別式は、数式1の分数式、Ser,ABA,Trp,Orn,Lysを変数とするロジスティック回帰式、またはSer,Asn,Pro,ABA,Orn,Lysを変数とする線形判別式でもよい。これにより、線維筋痛症患者群と非線維筋痛症群(健常群)の2群判別または線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別に特に有用な多変量判別式で得られる判別値を利用してこれらの判別をさらに精度よく行うことができる。
(ABA/Ser)+b(His/Trp)+c(Lys/Orn)+d
・・・(数式1)
(数式1において、a,b,cおよびdは任意の実数である。)
【0150】
また、本発明にかかる線維筋痛症・うつ病評価装置、線維筋痛症・うつ病評価方法、線維筋痛症・うつ病評価システム、線維筋痛症・うつ病評価プログラムおよび記録媒体は、上述した第2実施形態以外にも、種々の異なる実施形態にて実施されてよいものである。例えば、上述した第2実施形態で説明した各処理のうち、自動的に行なわれるものとして説明した処理の全部または一部を手動的に行うこともでき、手動的に行なわれるものとして説明した処理の全部または一部を公知の方法で自動的に行うこともできる。この他、上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種の登録データおよび検索条件等のパラメータを含む情報、画面例、データベース構成については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。例えば、線維筋痛症・うつ病評価装置100に関して、図示の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。また、線維筋痛症・うつ病評価装置100の各部または各装置が備える処理機能(特に制御部102にて行なわれる各処理機能)については、CPU(Central Processing Unit)および当該CPUにて解釈実行されるプログラムにて、その全部または任意の一部を実現することができ、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現することもできる。
【0151】
ここで、「プログラム」とは任意の言語や記述方法にて記述されたデータ処理方法であり、ソースコードやバイナリコード等の形式を問わない。なお、「プログラム」は、必ずしも単一的に構成されるものに限られず、複数のモジュールやライブラリとして分散構成されるものや、OS(Operating System)に代表される別個のプログラムと協働してその機能を達成するものを含む。なお、プログラムは、記録媒体に記録されており、必要に応じて線維筋痛症・うつ病評価装置100に機械的に読み取られる。記録媒体に記録されたプログラムを各装置で読み取るための具体的な構成や読み取り手順や読み取り後のインストール手順等については、周知の構成や手順を用いることができる。
【0152】
また、「記録媒体」とは任意の「可搬用の物理媒体」や任意の「固定用の物理媒体」や「通信媒体」を含むものとする。なお、「可搬用の物理媒体」とはフレキシブルディスクや光磁気ディスクやROMやEPROMやEEPROMやCD−ROMやMOやDVD等である。「固定用の物理媒体」とは各種コンピュータシステムに内蔵されるROMやRAMやHD等である。「通信媒体」とは、LANやWANやインターネット等のネットワークを介してプログラムを送信する場合における通信回線や搬送波のように、短期にプログラムを保持するものである。
【0153】
最後に、線維筋痛症・うつ病評価装置100で行う多変量判別式作成処理の一例について図22を参照して詳細に説明する。図22は多変量判別式作成処理の一例を示すフローチャートである。なお、当該多変量判別式作成処理は、線維筋痛症・うつ病状態情報を管理するデータベース装置400で行ってもよい。
【0154】
なお、本説明では、線維筋痛症・うつ病評価装置100は、データベース装置400から事前に取得した線維筋痛症・うつ病状態情報を、線維筋痛症・うつ病状態情報ファイル106cの所定の記憶領域に格納しているものとする。また、線維筋痛症・うつ病評価装置100は、線維筋痛症・うつ病状態情報指定部102gで事前に指定した線維筋痛症・うつ病状態指標データおよびアミノ酸濃度データを含む線維筋痛症・うつ病状態情報を、指定線維筋痛症・うつ病状態情報ファイル106dの所定の記憶領域に格納しているものとする。
【0155】
まず、多変量判別式作成部102hは、候補多変量判別式作成部102h1で、指定線維筋痛症・うつ病状態情報ファイル106dの所定の記憶領域に格納されている線維筋痛症・うつ病状態情報から所定の式作成手法に基づいて候補多変量判別式を作成し、作成した候補多変量判別式を候補多変量判別式ファイル106e1の所定の記憶領域に格納する(ステップSB−21)。具体的には、まず、多変量判別式作成部102hは、候補多変量判別式作成部102h1で、複数の異なる式作成手法(主成分分析や判別分析、サポートベクターマシン、重回帰分析、ロジスティック回帰分析、k−means法、クラスター解析、決定木などの多変量解析に関するものを含む。)の中から所望のものを1つ選択し、選択した式作成手法に基づいて、作成する候補多変量判別式の形(式の形)を決定する。つぎに、多変量判別式作成部102hは、候補多変量判別式作成部102h1で、線維筋痛症・うつ病状態情報に基づいて、選択した式選択手法に対応する種々(例えば平均や分散など)の計算を実行する。つぎに、多変量判別式作成部102hは、候補多変量判別式作成部102h1で、計算結果および決定した候補多変量判別式のパラメータを決定する。これにより、選択した式作成手法に基づいて候補多変量判別式が作成される。なお、複数の異なる式作成手法を併用して候補多変量判別式を同時並行(並列)的に作成する場合は、選択した式作成手法ごとに上記の処理を並行して実行すればよい。また、複数の異なる式作成手法を併用して候補多変量判別式を直列的に作成する場合は、例えば、主成分分析を行って作成した候補多変量判別式を利用して線維筋痛症・うつ病状態情報を変換し、変換した線維筋痛症・うつ病状態情報に対して判別分析を行うことで候補多変量判別式を作成してもよい。
【0156】
つぎに、多変量判別式作成部102hは、候補多変量判別式検証部102h2で、ステップSB−21で作成した候補多変量判別式を所定の検証手法に基づいて検証(相互検証)し、検証結果を検証結果ファイル106e2の所定の記憶領域に格納する(ステップSB−22)。具体的には、多変量判別式作成部102hは、候補多変量判別式検証部102h2で、指定線維筋痛症・うつ病状態情報ファイル106dの所定の記憶領域に格納されている線維筋痛症・うつ病状態情報に基づいて候補多変量判別式を検証する際に用いる検証用データを作成し、作成した検証用データに基づいて候補多変量判別式を検証する。なお、ステップSB−21で複数の異なる式作成手法を併用して候補多変量判別式を複数作成した場合には、多変量判別式作成部102hは、候補多変量判別式検証部102h2で、各式作成手法に対応する候補多変量判別式ごとに所定の検証手法に基づいて検証する。ここで、ステップSB−22において、ブートストラップ法やホールドアウト法、リーブワンアウト法などのうち少なくとも1つに基づいて候補多変量判別式の判別率や感度、特異性、情報量基準などのうち少なくとも1つに関して検証してもよい。これにより、線維筋痛症・うつ病状態情報や診断条件を考慮した予測性または頑健性の高い候補指標式を選択することができる。
【0157】
つぎに、多変量判別式作成部102hは、変数選択部102h3で、ステップSB−22での検証結果から所定の変数選択手法に基づいて、候補多変量判別式の変数を選択することで、候補多変量判別式を作成する際に用いる線維筋痛症・うつ病状態情報に含まれるアミノ酸濃度データの組み合わせを選択し、選択したアミノ酸濃度データの組み合わせを含む線維筋痛症・うつ病状態情報を選択線維筋痛症・うつ病状態情報ファイル106e3の所定の記憶領域に格納する(ステップSB−23)。なお、ステップSB−21で複数の異なる式作成手法を併用して候補多変量判別式を複数作成し、ステップSB−22で各式作成手法に対応する候補多変量判別式ごとに所定の検証手法に基づいて検証した場合には、ステップSB−23において、多変量判別式作成部102hは、変数選択部102h3で、ステップSB−22での検証結果に対応する候補多変量判別式ごとに所定の変数選択手法に基づいて候補多変量判別式の変数を選択する。ここで、ステップSB−23において、検証結果からステップワイズ法、ベストパス法、近傍探索法、遺伝的アルゴリズムのうち少なくとも1つに基づいて候補多変量判別式の変数を選択してもよい。なお、ベストパス法とは、候補多変量判別式に含まれる変数を1つずつ順次減らしていき、候補多変量判別式が与える評価指標を最適化することで変数を選択する方法である。また、ステップSB−23において、多変量判別式作成部102hは、変数選択部102h3で、指定線維筋痛症・うつ病状態情報ファイル106dの所定の記憶領域に格納されている線維筋痛症・うつ病状態情報に基づいてアミノ酸濃度データの組み合わせを選択してもよい。
【0158】
つぎに、多変量判別式作成部102hは、指定線維筋痛症・うつ病状態情報ファイル106dの所定の記憶領域に格納されている線維筋痛症・うつ病状態情報に含まれるアミノ酸濃度データの全ての組み合わせが終了したか否かを判定し、判定結果が「終了」であった場合(ステップSB−24:Yes)には次のステップ(ステップSB−25)へ進み、判定結果が「終了」でなかった場合(ステップSB−24:No)にはステップSB−21へ戻る。なお、多変量判別式作成部102hは、予め設定した回数が終了したか否かを判定し、判定結果が「終了」であった場合には(ステップSB−24:Yes)次のステップ(ステップSB−25)へ進み、判定結果が「終了」でなかった場合(ステップSB−24:No)にはステップSB−21へ戻ってもよい。また、多変量判別式作成部102hは、ステップSB−23で選択したアミノ酸濃度データの組み合わせが、指定線維筋痛症・うつ病状態情報ファイル106dの所定の記憶領域に格納されている線維筋痛症・うつ病状態情報に含まれるアミノ酸濃度データの組み合わせまたは前回のステップSB−23で選択したアミノ酸濃度データの組み合わせと同じであるか否かを判定し、判定結果が「同じ」であった場合(ステップSB−24:Yes)には次のステップ(ステップSB−25)へ進み、判定結果が「同じ」でなかった場合(ステップSB−24:No)にはステップSB−21へ戻ってもよい。また、多変量判別式作成部102hは、検証結果が具体的には各候補多変量判別式に関する評価値である場合には、当該評価値と各式作成手法に対応する所定の閾値との比較結果に基づいて、ステップSB−25へ進むかステップSB−21へ戻るかを判定してもよい。
【0159】
つぎに、多変量判別式作成部102hは、検証結果に基づいて、複数の候補多変量判別式の中から多変量判別式として採用する候補多変量判別式を選出することで多変量判別式を決定し、決定した多変量判別式(選出した候補多変量判別式)を多変量判別式ファイル106e4の所定の記憶領域に格納する(ステップSB−25)。ここで、ステップSB−25において、例えば、同じ式作成手法で作成した候補多変量判別式の中から最適なものを選出する場合と、すべての候補多変量判別式の中から最適なものを選出する場合とがある。
【0160】
これにて、多変量判別式作成処理の説明を終了する。
【実施例1】
【0161】
線維筋痛症患者群とうつ病患者群の血液サンプルから、前述のアミノ酸分析法により血中アミノ酸濃度を測定した。線維筋痛症患者群とうつ病患者群のアミノ酸変数の分布を図23に示す。図23において、“1”はうつ病患者群におけるアミノ酸変数の分布を示し、“2”は線維筋痛症患者群におけるアミノ酸変数の分布を示す。線維筋痛症患者群とうつ病患者群の診断を目的に2群間のt検定を実施した。
【0162】
うつ病患者群に比べて線維筋痛症患者群では、Pro,ABA,Ornが有意に減少した。これにより、アミノ酸変数Pro,ABA,Ornが線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群間の判別能を持つことが判明した。
【実施例2】
【0163】
実施例1で用いたサンプルデータを用いた。本出願人による国際出願である国際公開第2004/052191号に記載の方法を用いて、線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別性能を最大化する指標を鋭意探索した。その結果、同等の性能を持つ複数の指標の中に指標式1が得られた。また、この他に、指標式1と同等の判別性能を有する多変量判別式は複数得られた。それらを図24および図25に示す。なお、図24および図25に示す式における各係数の値は、それを実数倍したもの、あるいは任意の定数項を付加したものでもよい。
指標式1:−4.475×(ABA/Ser)−0.5327(His/Trp)+0.4769(Lys/Orn)+1.846
【0164】
線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別に関する指標式1の診断性能をROC曲線(図26)の曲線下面積で評価した。その結果、0.973±0.026(95%信頼区間は0.921〜1.000)の曲線下面積が得られた。また、指標式1による線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別の最適なカットオフ値を線維筋痛症患者群のうつ病患者群に対する有症率を40%として求めると、カットオフ値が1.403となり、感度100.000%、特異度95.454%、陽性適中93.617%、陰性適中率100.000%、正診率97.273%が得られた。この結果、指標式1は、診断性能の高い有用な指標であることが判明した。
【0165】
線維筋痛症患者群とうつ病患者群における指標式1の値の分布を図27に示す。図27において、“1”はうつ病患者群における指標式1の値の分布を示し、“2”は線維筋痛症患者群における指標式1の値の分布を示す。さらに、ROC曲線の曲線下面積値が上位1000の指標式中に出現するアミノ酸変数の確率(図28)を導出したところ、Ser,ABA,Lys,Ornといったアミノ酸は上位1000の半数以上の指標式中に出現していた。この結果、線維筋痛症患者群とうつ病患者群におけるこれらアミノ酸濃度の差異が、それぞれの診断に大きく寄与していることが判明した。
【実施例3】
【0166】
実施例1で用いたサンプルデータを用いた。線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別性能を最大化する指標をロジスティック解析(ROC最大基準による変数網羅法)により探索した。その結果、指標式2として、Ser,ABA,Trp,Orn,Lysから構成されるロジスティック回帰式(アミノ酸変数Ser,ABA,Trp,Orn,Lysの数係数と定数項は順に、0.081、−0.479、0.218、−0.265、0.103、−10.960)が得られた。また、この他に、指標式2と同等の判別性能を有するロジスティック回帰式は複数得られた。それらを図29および図30に示す。なお、図29および図30に示す式における各係数の値は、それを実数倍したものでもよい。
【0167】
線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別に関する指標式2の診断性能をROC曲線(図31)の曲線下面積で評価した。その結果、0.964±0.030(95%信頼区間は0.904〜1.000)の曲線下面積が得られた。また、指標式2による線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別の最適なカットオフ値を線維筋痛症患者群のうつ病患者群に対する有症率を40%として求めると、カットオフ値が0.430となり、感度93.333%、特異度95.455%、陽性適中93.192%、陰性適中率95.511%、正診率94.606%が得られた。この結果、指標式2は、診断性能の高い有用な指標であることが判明した。
【0168】
線維筋痛症患者群とうつ病患者群における指標式2の値の分布を図32に示す。図32において、“1”はうつ病患者群における指標式2の値の分布を示し、“2”は線維筋痛症患者群における指標式2の値の分布を示す。さらに、ROC曲線の曲線下面積値が上位1000の指標式中に出現するアミノ酸変数の確率(図33)を導出したところ、ABA,Lys,Ornといったアミノ酸は上位1000の半数以上の指標式中に出現していた。この結果、線維筋痛症患者群とうつ病患者群におけるこれらアミノ酸濃度の差異が、それぞれの診断に大きく寄与していることが判明した。
【実施例4】
【0169】
実施例1で用いたサンプルデータを用いた。線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別性能を最大化する指標を線形判別分析(変数網羅法)により探索した。その結果、指標式3として、Ser,Asn,Pro,ABA,Orn,Lysから構成される線形判別関数(アミノ酸変数Ser,Asn,Pro,ABA,Orn,Lysの数係数と定数項は順に0.171、0.150、−0.067、−0.830、−0.471、0.183、1.208)が得られた。また、この他に、指標式3と同等の判別性能を有する線形判別関数は複数得られた。それらを図34および図35に示す。なお、図34および図35に示す式における各係数の値は、それを実数倍したもの、あるいは任意の定数項を付加したものでもよい。
【0170】
線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別に関する指標式3の診断性能をROC曲線(図36)の曲線下面積で評価した。その結果、0.976±0.025(95%信頼区間は0.928〜1.000)の曲線下面積が得られた。また、指標式3による線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別の最適なカットオフ値を線維筋痛症患者群のうつ病患者群に対する有症率を40%として求めると、カットオフ値が0.951となり、感度93.333%、特異度100.000%、陽性適中100.000%、陰性適中率93.750%、正診率96.667%が得られた。この結果、指標式3は、診断性能の高い有用な指標であることが判明した。
【0171】
線維筋痛症患者群とうつ病患者群における指標式3の値の分布を図37に示す。図37において、“1”はうつ病患者群における指標式3の値の分布を示し、“2”は線維筋痛症患者群における指標式3の値の分布を示す。さらに、ROC曲線の曲線下面積値が上位1000の指標式中に出現するアミノ酸変数の確率(図38)を導出したところ、ABA,Lys,Ornといったアミノ酸は上位1000の半数以上の指標式中に出現していた。この結果、線維筋痛症患者群とうつ病患者群におけるこれらアミノ酸濃度の差異が、それぞれの診断に大きく寄与していることが判明した。
【実施例5】
【0172】
実施例1で用いたサンプルデータを用いた。単一アミノ酸による線維筋痛症患者群とうつ病患者群の診断性能(線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群判別性能)をROC曲線の曲線下面積(図39)で評価した。その結果、Orn,Pro,ABA,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,MetはROC曲線の曲線下面積が0.60以上であり、これらのアミノ酸が線維筋痛症患者群とうつ病患者群の2群間の判別能を持つことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0173】
以上のように、本発明にかかる線維筋痛症とうつ病の評価方法、線維筋痛症・うつ病評価装置および線維筋痛症・うつ病評価方法は、産業上の多くの分野、特に医薬品や食品、医療などの分野で広く実施することができ、特に、線維筋痛症およびうつ病の状態進行予測や疾病リスク予測やプロテオームやメタボローム解析などを行うバイオインフォマティクス分野において極めて有用である。
【符号の説明】
【0174】
100 線維筋痛症・うつ病評価装置
102 制御部
102a 要求解釈部
102b 閲覧処理部
102c 認証処理部
102d 電子メール生成部
102e Webページ生成部
102f 受信部
102g 線維筋痛症・うつ病状態情報指定部
102h 多変量判別式作成部
102h1 候補多変量判別式作成部
102h2 候補多変量判別式検証部
102h3 変数選択部
102i 判別値算出部
102j 判別値基準評価部
102j1 判別値基準判別部
102k 結果出力部
102m 送信部
104 通信インターフェース部
106 記憶部
106a 利用者情報ファイル
106b アミノ酸濃度データファイル
106c 線維筋痛症・うつ病状態情報ファイル
106d 指定線維筋痛症・うつ病状態情報ファイル
106e 多変量判別式関連情報データベース
106e1 候補多変量判別式ファイル
106e2 検証結果ファイル
106e3 選択線維筋痛症・うつ病状態情報ファイル
106e4 多変量判別式ファイル
106f 判別値ファイル
106g 評価結果ファイル
108 入出力インターフェース部
112 入力装置
114 出力装置
200 クライアント装置(情報通信端末装置)
300 ネットワーク
400 データベース装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象から採取した血液からアミノ酸の濃度値に関するアミノ酸濃度データを測定する測定ステップと、
前記測定ステップで測定した前記評価対象の前記アミノ酸濃度データに含まれるPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つの前記濃度値に基づいて、前記評価対象につき、線維筋痛症およびうつ病の状態を評価する濃度値基準評価ステップと
を含むことを特徴とする線維筋痛症とうつ病の評価方法。
【請求項2】
前記濃度値基準評価ステップは、
前記測定ステップで測定した前記評価対象の前記アミノ酸濃度データに含まれるPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つの前記濃度値に基づいて、前記評価対象につき、線維筋痛症患者群またはうつ病患者群であるか否かを判別する濃度値基準判別ステップ
をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の線維筋痛症とうつ病の評価方法。
【請求項3】
前記濃度値基準評価ステップは、
前記測定ステップで測定した前記評価対象の前記アミノ酸濃度データに含まれるPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つの前記濃度値、および前記アミノ酸の濃度を変数とする予め設定した多変量判別式であってPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つを前記変数として含む前記多変量判別式に基づいて、当該多変量判別式の値である判別値を算出する判別値算出ステップと、
前記判別値算出ステップで算出した前記判別値に基づいて、前記評価対象につき、前記線維筋痛症および前記うつ病の前記状態を評価する判別値基準評価ステップと
をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の線維筋痛症とうつ病の評価方法。
【請求項4】
前記判別値基準評価ステップは、
前記判別値算出ステップで算出した前記判別値に基づいて、前記評価対象につき、線維筋痛症患者群またはうつ病患者群であるか否かを判別する判別値基準判別ステップ
をさらに含むことを特徴とする請求項3に記載の線維筋痛症とうつ病の評価方法。
【請求項5】
前記多変量判別式は、1つの分数式または複数の前記分数式の和、またはロジスティック回帰式、線形判別式、重回帰式、サポートベクターマシンで作成された式、マハラノビス距離法で作成された式、正準判別分析で作成された式、決定木で作成された式のいずれか1つであること
を特徴とする請求項4に記載の線維筋痛症とうつ病の評価方法。
【請求項6】
前記多変量判別式は、数式1の前記分数式、Ser,ABA,Trp,Orn,Lysを前記変数とする前記ロジスティック回帰式、またはSer,Asn,Pro,ABA,Orn,Lysを前記変数とする前記線形判別式であること
(ABA/Ser)+b(His/Trp)+c(Lys/Orn)+d
・・・(数式1)
(数式1において、a,b,cおよびdは任意の実数である。)
を特徴とする請求項5に記載の線維筋痛症とうつ病の評価方法。
【請求項7】
制御手段と記憶手段とを備え、評価対象につき、線維筋痛症およびうつ病の状態を評価する線維筋痛症・うつ病評価装置であって、
前記制御手段は、
アミノ酸の濃度値に関する予め取得した前記評価対象のアミノ酸濃度データに含まれるPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つの前記濃度値、および前記アミノ酸の濃度を変数とする前記記憶手段で記憶した多変量判別式であってPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つを前記変数として含む前記多変量判別式に基づいて、当該多変量判別式の値である判別値を算出する判別値算出手段と、
前記判別値算出手段で算出した前記判別値に基づいて、前記評価対象につき、前記線維筋痛症および前記うつ病の前記状態を評価する判別値基準評価手段と
を備えたことを特徴とする線維筋痛症・うつ病評価装置。
【請求項8】
制御手段と記憶手段とを備えた情報処理装置において実行される、評価対象につき、線維筋痛症およびうつ病の状態を評価する線維筋痛症・うつ病評価方法であって、
前記制御手段において実行される、アミノ酸の濃度値に関する予め取得した前記評価対象のアミノ酸濃度データに含まれるPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つの前記濃度値、および前記アミノ酸の濃度を変数とする前記記憶手段で記憶した多変量判別式であってPro,ABA,Orn,Ser,Lys,Cit,Glu,His,Val,Cys2,Ile,Metのうち少なくとも1つを前記変数として含む前記多変量判別式に基づいて、当該多変量判別式の値である判別値を算出する判別値算出ステップと、
前記判別値算出ステップで算出した前記判別値に基づいて、前記評価対象につき、前記線維筋痛症および前記うつ病の前記状態を評価する判別値基準評価ステップと
を含むことを特徴とする線維筋痛症・うつ病評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図23】
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【公開番号】特開2011−80957(P2011−80957A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235398(P2009−235398)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.GSM
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【出願人】(596165589)学校法人 聖マリアンナ医科大学 (53)
【Fターム(参考)】