説明

線路下構造物構築用工事桁支持方法および工事桁支持構造

【課題】施工性を向上させ、施工時間を短縮した線路下構造物を開削工法で構築する際使用する線路下構造物構築用工事桁支持方法および工事桁支持構造を提供することを目的とする。
【解決手段】線路下構造物構築部に対応するレール4、枕木3及びバラスト2を撤去し路盤1を露出させる工程と、下部に鋼板支承8と前記鋼板支承より面積の大きな基礎鋼板9を積層した支承部を複数設置した工事桁11を仮支持部材20を介して前記路盤上に設置する工程と、前記路盤と前記支承部との間の不陸を調整して前記支承部を前記路盤上に支持する工程と、前記工事桁上のレールと隣接するレールとを連続するように取り付ける工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線路下構造物を開削工法で構築する際レールを支持する工事桁支持方法および工事桁支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
線路下構造物構築の工法として、開削工法、非開削工法がある。開削工法においては、工事桁でレールを支持する方法が採られる。
【0003】
工事桁を支持する形式として、図18に示されるように、支持層14まで達する支持杭12を打設して工事桁11を支持するものがある。支持杭12で支持された工事桁11でレール4を支持した状態で、路盤1を水平支持部材で支持された土留め壁13で保持しながら開削し、工事杭15で工事桁11の中間部を支持しつつ線路下構造物を構築する。
【0004】
また、図19に示されるように、バラスト下の路盤1を地盤改良6して支持力を向上させ、その上に直接基礎7を設置して工事桁11を支持するものがある。直接基礎7で支持された工事桁11でレール4を支持した状態で、路盤1を水平支持部材で支持された土留め壁13で保持しながら開削し、工事杭15で工事桁11の中間部を支持しつつ線路下構造物を構築する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−144346号公報
【特許文献2】特開2006−37413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、線路下構造物を開削工法で構築する際のレール4を支持する工事桁11の支持形式としての支持杭12は、支持層14まで支持杭12を打設しなければならず、杭打設のための施工時間が長いという問題がある。また、地盤改良6等の路盤強化を実施し、その上にコンクリートブロック等の直接基礎7で工事桁11を支持する形式では、地盤改良6等の大掛かりな施工が必要であり、施工時間が長いという問題がある。このように従来の工事桁11の支持形式は長時間の作業を必要とし、終電〜初電までの間に工事が終了せず、列車の一部運休という問題が発生し、鉄道利用者に迷惑をかけるだけでなく、運賃収入にも影響し、結果として高コストの施工工事となるという問題も発生する。
【0007】
本発明は、上記課題を解決する、工事桁の支持形式、施工方法を見直し、施工性を向上させ、施工時間を短縮した線路下構造物を開削工法で構築する際使用する線路下構造物構築用工事桁支持方法および工事桁支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の線路下構造物構築用工事桁支持方法は、前記課題を解決するために、線路下構造物構築部に対応するレール、枕木及びバラストを撤去し路盤を露出させる工程と、下部に鋼板支承と前記鋼板支承より面積の大きな基礎鋼板を積層した支承部を複数設置した工事桁を仮支持部材を介して前記路盤上に設置する工程と、前記路盤と前記支承部との間の不陸を調整して前記支承部を前記路盤上に支持する工程と、前記工事桁上のレールと隣接するレールとを連続するように取り付ける工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の線路下構造物構築用工事桁支持方法は、前記路盤と前記基礎鋼板との間の不陸を調整する工程を前記路盤上に配置したグラウト注入バックへのグラウト注入により実施することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の線路下構造物構築用工事桁支持方法は、前記路盤と前記基礎鋼板との間の不陸を調整する工程を前記路盤と前記基礎鋼板との間への固化剤流し込みにより実施することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の線路下構造物構築用工事桁支持構造は、線路下構造物構築部に対応するレールを支持する工事桁において、前記工事桁の下部に鋼板支承と前記鋼板支承より面積の大きな基礎鋼板を積層した支承部を複数有し、前記複数の支承部を有する工事桁をレール、枕木及びバラストを撤去した路盤上に不陸調整して直接設置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
線路下構造物構築部に対応するレール、枕木及びバラストを撤去し路盤を露出させる工程と、下部に鋼板支承と前記鋼板支承より面積の大きな基礎鋼板を積層した支承部を複数設置した工事桁を仮支持部材を介して前記路盤上に設置する工程と、前記路盤と前記支承部との間の不陸を調整して前記支承部を前記路盤上に支持する工程と、前記工事桁上のレールと隣接するレールとを連続するように取り付ける工程と、を有する構成により、長年バラスト軌道で受けた履歴荷重により締め固められ支持力の大きい路盤を工事桁の支持体とすることにより施工時間を短縮でき施工コストを低減することが可能となる。また、工事桁を鋼板支承と前記鋼板支承より面積の大きな基礎鋼板を積層した支承部で支持することで、工事桁の荷重による撓みによる支承部の路盤への食い込み量を小さくすることが可能となる。
前記路盤と前記基礎鋼板との間の不陸を調整する工程を前記路盤上に配置したグラウト注入バックへのグラウト注入により実施する構成により、不陸調整の必要な支承部のみ路盤の不陸を調整が可能で、工事桁を正確な高さで路盤上に支持することが可能となる。
前記路盤と前記基礎鋼板との間の不陸を調整する工程を前記路盤と前記基礎鋼板との間への固化剤流し込みにより実施する構成により、路盤の不陸を調整して工事桁を路盤上に支持することが可能となる。
線路下構造物構築部に対応するレールを支持する工事桁において、前記工事桁の下部に鋼板支承と前記鋼板支承より面積の大きな基礎鋼板を積層した支承部を複数有し、前記複数の支承部を有する工事桁をレール、枕木及びバラストを撤去した路盤上に不陸調整して直接設置する構成により、長年バラスト軌道で受けた履歴荷重により締め固められ支持力の大きい路盤を工事桁の支持体とすることにより施工時間を短縮でき施工コストを低減することが可能となる。また、工事桁を鋼板支承と前記鋼板支承より面積の大きな基礎鋼板を積層した支承部で支持することで、工事桁の荷重による撓みによる支承部の路盤への食い込み量を小さくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】工事桁施工前のバラスト軌道の状態を示す側面図である。
【図2】図1の横断面図である。
【図3】工事桁設置部のレール、枕木及びバラストを撤去した状態を示す側面図である。
【図4】図3の横断面図である。
【図5】露出した路盤上に不陸調整用のグラウト注入バックを設置した状態を示す側面図である。
【図6】図5の横断面図である。
【図7】下部に支承鋼板、基礎鋼板を取り付けた工事桁を配置した状態を示す側面図である。
【図8】図7の横断面図である。
【図9】グラウト注入バックにグラウトを注入して路盤と基礎鋼板の間の不陸を調整した状態を示す側面図である。
【図10】図9の横断面図である。
【図11】路盤と基礎鋼板の間の不陸を調整の他の実施形態を示す側面図である。
【図12】図11の横断面図である。
【図13】工事桁の下部に支承鋼板のみを取り付けた場合の荷重による支承鋼板の路盤への食い込み状態を示す図である。
【図14】工事桁の下部に支承鋼板と支承鋼板より面積の大きな基礎鋼板を取り付けた場合の荷重による支承鋼板の路盤への食い込み状態を示す図である。
【図15】工事桁設置後の開削工法の一実施形態の工程を示す図である。
【図16】工事桁設置後の開削工法の一実施形態の工程を示す図である。
【図17】工事桁設置後の開削工法の一実施形態の工程を示す図である。
【図18】従来の工事桁の支持形式を示す図である。
【図19】従来の工事桁の支持形式を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を図により説明する。図1は、工事桁施工前のバラスト軌道の状態を示す側面図であり、図2は、図1の横断面図である。
【0015】
バラスト軌道は、路盤1上にバラスト2が敷設され、バラスト2上に枕木3、レール4が支持される。バラスト軌道は長年の列車通過による履歴荷重により路盤1は締め固められて支持力が大きくなっている。本発明は線路下構造物を開削工法で構築する際、線路下構造物に対応する部分のレール4を支持する工事桁11を、履歴荷重により締め固められ支持力が大きくなった路盤に支持させ、施工性、施工時間の短い工事桁支持方法を提供する。
【0016】
図3は、本発明の線路下構造物構築用工事桁支持方法の第1工程を示す側面図であり、図4はその横断面図である。
【0017】
第1工程では、線路下構造物に対応する部分のレール4、枕木3、バラスト2を撤去し、路盤1の表面が露出するようにする。露出した路盤1の表面を平らに均す。
【0018】
図5は、本発明の線路下構造物構築用工事桁支持方法の一実施形態の第2工程を示す側面図であり、図6はその横断面図である。
【0019】
この実施形態の第2工程では、露出した路盤1の工事桁11の支承部に対応する位置にグラウト注入バック10を設置する。グラウト注入バック10は、路盤1と工事桁11の支承部との間の不陸を調整するものである。後述するが他の実施形態では、路盤1と工事桁11の支承部との間の不陸を他の手段により実施するので、図5、図6に示されるグラウト注入バックの路盤1への設置は実施しない。
【0020】
図7は、本発明の線路下構造物構築用工事桁支持方法の第3工程を示す側面図であり、図8はその横断面図である。
【0021】
この実施形態の第3工程では、工事桁11を仮支持部材20を介して露出した路盤1上に設置する。工事桁11は例えばH形鋼等の部材で構成される。工事桁11の下部には、鋼板支承8と基礎鋼板9を積層した支承部が複数固定される。図では工事桁11に設置される支承部が2つのものが示されているが、工事桁11の長さに応じて3つ以上の支承部を設置しても良い。また、工事桁11は複数のH形鋼を接続したものでも良い。仮支持部材20により支持された工事桁11の支承部は、不陸調整手段である路盤1上に設置されたグラウト注入バック10に支持される状態にはなっていない。鋼板支承8と基礎鋼板9からなる支承部は、下部に位置する基礎鋼板9の面積を上部に位置する支承鋼板8の面積より大きくする。支承部の構成をそのようにすることの作用、効果については後述する。工事桁11に支持された枕木に第1工程で撤去したレール4が支持されている。レール4は工事桁11の不陸調整後に設置しても良い。
【0022】
図9は、本発明の線路下構造物構築用工事桁支持方法の第4工程を示す側面図であり、図10はその横断面図である。
【0023】
この実施形態の第4工程では、路盤1に設置した不陸調整手段であるグラウト注入バック10に速硬性のグラウトを注入し、グラウト注入バック10が工事桁11の支承部に確実に接するようにする。グラウト注入バック10内の速硬性のグラウトが硬化すると、工事桁11が不陸調整されて路盤1上に支持される。この段階で仮支持部材20を撤去しても良い。
【0024】
図11は、本発明の線路下構造物構築用工事桁支持方法の不陸調整のための他の実施形態を示す側面図であり、図12はその横断面図である。
【0025】
この実施形態の不陸調整はグラウト注入バック10を用いることなく、直接路盤1と工事桁11の支承部との間に速硬性の固化剤21を流し込む。その際、工事桁11を支持している仮支持部材20を型枠として兼用しても良い。速硬性の固化剤21が固化し工事桁11が路盤1上に支持される。この段階で仮支持部材20を撤去しても良い。
【0026】
図13(a)(b)は、工事桁11の支承部が鋼板支承8のみの場合の工事桁11の荷重による撓みによる路盤1に作用する圧力状態を示す図である。工事桁支承部の路盤圧力をバラスト軌道で受けていた履歴圧力以下とするためには、支承部の鋼板を大きくする必要がある。しかし、支承部の鋼板(鋼板支承)を大きくしても、工事桁11の支承部が鋼板支承8のみの場合、工事桁11の撓みによる局所的な圧力により、支持力を発揮することが困難となる。
【0027】
図14(a)(b)は、工事桁11の支承部が鋼板支承8と鋼板支承8より面積の大きい基礎鋼板9を積層した場合の工事桁11の荷重による撓みによる路盤1に作用する圧力状態を示す図である。工事桁11の荷重による撓みにより面積の大きな基礎鋼板が工事桁11と同様に撓むことにより、路盤1面に作用する荷重を分散するので路盤1に作用する圧力が小さくなる。そのため、履歴荷重により支持力が大きくなった路盤1が工事桁11の支持地盤として十分機能する。鋼板支承8と鋼板支承8より面積の大きい基礎鋼板9を組み合わせて支承部を形成することにより、基礎鋼板9の面積(幅)を小さくすることができる。
【0028】
図15〜図17は、工事桁11の設置後の線路下構造物の構築の一実施形態の工程を示す図である。
【0029】
図15に示される工程では、工事桁11の下部の路盤1の左右に側壁エレメント16を挿入する。左右の側壁エレメント16は、橋台及び土留め壁として利用する。
【0030】
図16に示される工程では、左右の側壁エレメント16の上端と工事桁11との間に工事桁支承盛り換え17を形成し、開削部に対応する工事桁11を支持する。
【0031】
図17に示される工程では、左右の側壁エレメント16で支持された路盤1の上部を一次掘削し、その部分に型枠を設置し鉄筋コンクリート製の上床版18を形成する。その後、左右の側壁エレメント16で支持された路盤1の下部を二次掘削し、その部分に型枠を設置し鉄筋コンクリート製の下床版19を形成する。
【0032】
しかし、工事桁11の下部路盤の開削方式として図15〜図17に示されるものに限定するものではなく、他の開削方式でも良い。
【0033】
以上のように、本発明の線路下構造物構築用工事桁支持方法及び線路下構造物構築用工事桁支持構造によれば、長年バラスト軌道で受けた履歴荷重により締め固められ支持力の大きい路盤を工事桁の支持体とすることにより施工時間を短縮でき施工コストを低減することが可能となる。また、工事桁を鋼板支承と前記鋼板支承より面積の大きな基礎鋼板を積層した支承部で支持することで、工事桁の荷重による撓みによる支承部の路盤への食い込み量を小さくすることが可能となる。
【符号の説明】
【0034】
1:路盤、2:バラスト、3:枕木、4:レール、5:支持杭、6:地盤改良、7:直接基礎、8:鋼板支承、9:基礎鋼板、10:グラウト注入バック、11:工事桁、12:支持杭、13:土留め壁、14:支持層、15:工事杭、16:側壁エレメント、17:工事桁支承盛り換え、18:上床版、19:下床版、20:仮支持部材、21:固化剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線路下構造物構築部に対応するレール、枕木及びバラストを撤去し路盤を露出させる工程と、
下部に鋼板支承と前記鋼板支承より面積の大きな基礎鋼板を積層した支承部を複数設置した工事桁を仮支持部材を介して前記路盤上に設置する工程と、
前記路盤と前記支承部との間の不陸を調整して前記支承部を前記路盤上に支持する工程と、
前記工事桁上のレールと隣接するレールとを連続するように取り付ける工程と、
を有することを特徴とする線路下構造物構築用工事桁支持方法。
【請求項2】
前記路盤と前記基礎鋼板との間の不陸を調整する工程を前記路盤上に配置したグラウト注入バックへのグラウト注入により実施することを特徴とする請求項1に記載の線路下構造物構築用工事桁支持方法。
【請求項3】
前記路盤と前記基礎鋼板との間の不陸を調整する工程を前記路盤と前記基礎鋼板との間への固化剤の流し込みにより実施することを特徴とする請求項1に記載の線路下構造物構築用工事桁支持方法。
【請求項4】
線路下構造物構築部に対応するレールを支持する工事桁において、前記工事桁の下部に鋼板支承と前記鋼板支承より面積の大きな基礎鋼板を積層した支承部を複数有し、前記複数の支承部を有する工事桁をレール、枕木及びバラストを撤去した路盤上に不陸調整して直接設置することを特徴とする線路下構造物構築用工事桁支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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