説明

緩衝器

【課題】緩衝器の騒音の発生を防止することである。
【解決手段】 螺子ナット2と、螺子ナット2内に回転自在に螺合される螺子軸1と、螺子軸1側の回転が伝達されるモータMとを備え、モータMのトルクで螺子ナット2と螺子軸1の軸方向の相対移動を抑制する緩衝器Dにおいて、モータMの出力シャフト10と螺子軸1との間に制振合金材5を介装し、螺子軸1の振動を制振合金材5で消散させ、出力シャフト10を介してモータのケースへ伝達される振動を低減し、緩衝器が騒音を発生することを防止した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器に関し、特に、モータのトルクで減衰力を発生する緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
この種緩衝器としては、車体を弾性支持するコイルバネと、車軸側に連結されるボール螺子ナットに回転自在に螺合した螺子軸と、螺子軸の一端に連結されるとともに車体側に連結されるモータとで構成され、モータの電磁力による回転トルクで車体と車軸との相対移動を抑制するものがある。
【特許文献1】特開平08−197931号公報(段落番号0023,図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上述した従来の緩衝器は、油等を必要としない点で非常に有用であるが、以下の問題点がある。
【0004】
上述の通り、緩衝器は、螺子軸とボール螺子ナットとの組み合せにより軸方向の直線運動を螺子軸の回転運動に変換する機構が採用されているが、該機構の運動により螺子軸が振動し、この螺子軸の振動がモータの出力シャフトを介してモータのケースに伝達され、ケースの振動が騒音を引き起こすという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は上記弊害を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、緩衝器の騒音の発生を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するため、螺子ナットと、螺子ナット内に回転自在に螺合される螺子軸と、螺子軸側の回転が伝達されるモータとを備え、モータのトルクで螺子ナットと螺子軸の軸方向の相対移動を抑制する緩衝器において、モータの出力シャフトと螺子軸との間に制振合金材を介装したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
各請求項の発明によれば、螺子軸の振動エネルギは、制振合金材により熱エネルギに変換され消散されるので、モータの出力シャフトに伝達される振動エネルギを低減することが可能である。
【0008】
すなわち、出力シャフトの振動を低減できるので、この出力シャフトからモータのケースへ伝達される振動も低減されることとなり、モータのケースの振動を低減することにより緩衝器の騒音の発生を防止することができる。
【0009】
したがって、上記騒音の発生を防止できるので、車室内の搭乗者に与える不快感を低減でき、これにより車両における乗り心地を向上することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1は、本発明の一実施の形態における緩衝器の縦断面図である。
【0011】
図1に示すように、一実施の形態における緩衝器Dは、基本的には、モータMと、モータMに連結された螺子軸1と、螺子軸1に螺合される螺子ナットたるボール螺子ナット2と、モータMと螺子軸1との間に介装される制振合金材たる軸5とで構成され、螺子軸1とボール螺子ナット2との軸方向の相対移動を螺子軸1の回転運動に変換し、この螺子軸1の回転運動をモータMのロータRに伝達して当該モータM内の巻線14に誘導起電力を発生させることよりモータMにエネルギ回生させて電磁力を発生させ、この電磁力に起因し上記ロータRの回転に抗するトルクを上記螺子軸1の回転運動を抑制してボール螺子ナット2の直線運動を抑制する減衰力として利用するものである。
【0012】
また、この緩衝器Dにおいては、上記したように、螺子軸1とボール螺子ナット2との軸方向の相対移動の運動エネルギを回生して減衰力を発生するだけでなく、モータMを積極的に駆動することも可能で、この場合には当該緩衝器Dは、アクチュエータとしても機能する。
【0013】
すなわち、特に緩衝器Dを積極的にアクチュエータとしても機能させる場合には、緩衝器Dは減衰力を含む制御力を発生可能であり、車体を振動させないように緩衝器Dの伸縮を制御することもでき、たとえば、アクティブサスペンションとしても機能させることができる。
【0014】
以下、詳細な構造について説明する。モータMは、ロータRとステータSとで構成され、ロータRは、出力シャフト10と、出力シャフト10の外周に装着された永久磁石11とで構成され、このロータRは、その図1中上下端側がケースC内に設けたボールベアリング12,13を介して支持されケースCに対し回転自在に取付けられている。
【0015】
ちなみに、永久磁石11は、複数のブロック化された磁石で構成されて出力シャフト10の外周に接着されるものであってもよいし、環状に形成されて分割着磁されるものであってもよい。
【0016】
他方、ステータSは、ケースCの内周に装着された円筒状のステータコア14と、ステータコア14に巻回された巻線15とで構成され、上記ロータRの永久磁石11に対向させてある。
【0017】
すなわち、このモータMは、ステータSの巻線15に回転磁界を発生させてロータRを回転駆動する、いわゆる、ブラシレスモータとして構成されており、巻線15に回転磁界を発生する上で必要となるロータRの回転位置検出手段は、本実施の形態では磁気センサ16であり、この磁気センサ16は、ケースCの上端側内周にロータRの回転を阻害しないよう取付けた環状のプレートPにおける永久磁石11の上端面に対向する面に取付けてあり、たとえば、MR素子やホール素子等が用いられる。
【0018】
また、回転位置検出手段としては、上記したMR素子やホール素子以外にも、レゾルバ等も使用することが可能である。
【0019】
なお、モータMは、この場合、ブラシレスモータとして構成されているが、およそ緩衝器Dに減衰力を発生させ得る限り各種形式(たとえば、ブラシレスモータ、ヒステリシスモータ、誘導モータ等)のものが使用可能である。
【0020】
転じて、ボール螺子ナット2は、詳しくは図示しないが、その内周には、螺子軸1の螺旋状の螺子溝(付示せず)に符合するように螺旋状のボール保持部が設けられており、前記ボール保持部に多数のボールが配在されてなり、ボール螺子ナット2の内部にはボールが循環可能なように前記ボール保持部の両端を連通する通路(図示せず)が設けられているものであって、螺子軸1に前記ボール螺子ナット2が螺合された場合に、螺子軸1の螺旋状の螺子溝にボール螺子ナット2のボールが嵌合し、螺子軸1の回転運動に伴いボール自体も螺子軸2の螺子溝との摩擦力により回転するので、ラックアンドピニオン等の機構に比べ滑らかな動作が可能である。
【0021】
そして、このボール螺子ナット2は、筒18の上端に嵌着されており、この筒18の図1中下端に設けたアイ19を介して、たとえば、車両の車体側部材もしくは車体側部材の一方に連結されており、その周方向の回転が規制されるので、ボール螺子ナット2が螺子軸1に対して図1中上下方向となる軸方向に直線運動を呈すると螺子軸1は強制的に回転駆動される。
【0022】
すなわち、上記機構によりボール螺子ナット2と螺子軸1との軸方向の相対運動が螺子軸1の回転運動に変換されることとなる。
【0023】
他方、螺子軸1の上端は、上述のモータMの出力シャフト10に制振合金材たる軸5を介して連結され、モータMのケースCが車両の車体側部材もしくは車軸側部材の他方に連結されることで、緩衝器Dは、車体側部材と車軸側部材との間に介装される。
【0024】
ここで、軸5は、制振合金材料で作られている。なお、制振合金材料としては、双昌型のMn基合金や制振性を有する鉄基合金を使用すればよく、特に双昌型のMn基合金を使用する場合には、軸5は、その双昌現象により振動エネルギを熱エネルギとして消散し高い制振性を発揮する。
【0025】
また、軸5を出力シャフト10および螺子軸1に連結するのに図示するところではスプライン結合を採用しているが、他にセレーション結合もしくは溶接と言った方法も採ることができ、さらに、軸5にキーを設けるとともに出力シャフト10および螺子軸1側にキー溝を備えた穴を設け、キーとキー溝を符合させて該穴に軸5を嵌合するとしてもよい。
【0026】
そして、上記のように軸5を出力シャフト10および螺子軸1に連結する際、図示するように、軸5の中間部を一部細くしておき、この部分で撓むようにしておくと、軸5で出力シャフト10と螺子軸1の偏心や偏角を許容することができるので便利である。
【0027】
なお、螺子軸1と出力シャフト10との連結は、軸5に換えて制振合金材料で形成したカップリングを介して行ってもよく、この場合、制振合金材をカップリングとすればよい。
【0028】
また、出力シャフト10自体を制振合金材料で形成しておき、この出力シャフト10を螺子軸1にカップリング等で連結するとしてもよく、この場合には、緩衝器Dの縦方向長さを軸5の長さ分を短くすることが可能となり、緩衝器Dの搭載性が向上することになる。
【0029】
上述のように構成された緩衝器Dにあっては、車体側部材と車軸側部材とが路面からの振動入力により相対直線運動を呈すると、螺子軸1が回転駆動されるが、この螺子軸1の回転運動がモータMのロータRに伝達され、モータMのロータRが回転運動を呈すると、モータM内の巻線15が永久磁石11の磁界を横切ることとなり、誘導起電力が発生し、すなわち、運動エネルギが回生されて、モータMのロータRには誘導起電力に起因する電磁力によるトルクが作用し、上記トルクがロータRの回転運動を抑制することとなる。
【0030】
このロータRの回転運動を抑制する作用は、上記螺子軸1の回転運動を抑制することとなり、螺子軸1の回転運動が抑制されるのでボール螺子ナット2の直線運動を抑制するように働き、緩衝器Dは、上記トルクによって、この場合減衰力として働く制御力を発生し、振動エネルギを吸収緩和する。
【0031】
このとき、積極的に巻線15に電流供給する場合には、ロータRに作用するトルクを調節することで緩衝器Dの伸縮を自由に制御、すなわち、緩衝器Dの制御力を発生可能な範囲で自由に制御することが可能であるので、緩衝器Dの減衰特性を可変としたり、緩衝器Dをアクチュエータとして機能させたりすることも可能である。
【0032】
ここで、緩衝器Dにあっては、螺子軸1とボール螺子ナット2の機構により、螺子軸1とボール螺子ナット2との軸方向の相対運動を螺子軸1の回転運動に変換するため、同機構の上記相対運動時に螺子軸1は加振されて振動することとなるが、この螺子軸1の振動エネルギは、制振合金材たる軸5により熱エネルギに変換され消散されるので、モータMの出力シャフト10に伝達される振動エネルギを低減することが可能である。
【0033】
すなわち、出力シャフト10の振動を低減できるので、この出力シャフト10からケースCへ伝達される振動も低減されることとなり、ケースCの振動を低減することにより緩衝器の騒音の発生を防止することができる。
【0034】
したがって、上記騒音の発生を防止できるので、車室内の搭乗者に与える不快感を低減でき、これにより車両における乗り心地を向上することが可能となる。
【0035】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施の形態における緩衝器の縦断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 螺子軸
2 螺子ナットたるボール螺子ナット
5 制振合金材たる軸
10 出力シャフト
11 永久磁石
12,13 ボールベアリング
14 ステータコア
15 巻線
16 磁気センサ
18 筒
19 アイ
C ケース
D 緩衝器
M モータ
P プレート
R ロータ
S ステータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺子ナットと、螺子ナット内に回転自在に螺合される螺子軸と、螺子軸側の回転が伝達されるモータとを備え、モータのトルクで螺子ナットと螺子軸の軸方向の相対移動を抑制する緩衝器において、モータの出力シャフトと螺子軸との間に制振合金材を介装したことを特徴とする緩衝器。

【図1】
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【公開番号】特開2006−64100(P2006−64100A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−248376(P2004−248376)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】