説明

繊維強化プラスチックの穴あけ加工方法及び繊維強化プラスチック加工品

【課題】本発明は、炭素繊維を用いた繊維強化プラスチック(繊維強化プラスチック)の板材や円柱構造体に対して、円形、角形などの任意の形状で歩留まり良く穴あけすることができる穴あけ加工方法を提供することにある。
【解決手段】サンドブラスト耐性を有するレジスト層を繊維強化プラスチックに密着させ、レジスト層が覆われていない部分で、サンドブラストにより繊維強化プラスチックを除去した後、レジスト層を剥離除去する繊維強化プラスチックの穴あけ加工方法。この方法で得られる繊維強化プラスチック。炭素繊維を含有する強化プラスチック。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリ(パラフェニレンベンゾビスオキサゾール)等の強化繊維を用いた繊維強化プラスチックの板材や円柱構造体の穴あけ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチックは、その比強度、比剛性、耐疲労性、耐薬品性、及び振動低減性など様々な優れた特性を有しているため、日用品、スポーツ用品から自動車、航空宇宙産業用途まで、幅広い分野にわたって利用されている。これらの多くは、製品の要求特性を満足するための最適な各種成形方法により、所定の製品形状の型を用いて成形された後、必要な形状に加工されて、完成品となる。そのため、繊維強化プラスチックを所定の形状とするための、最適な成形方法についての研究開発が盛んに行われている。
【0003】
近年では、繊維強化プラスチックの利用分野の広がりに伴い、各種加工技術が併用されるに至っている。特に穴あけ加工については、ドリル(例えば、特許文献1、2参照)やレーザー光の利用(例えば、特許文献3参照)が知られているが、ドリルでは、角状形態の穴あけができない他、ドリル自体の摩耗の問題や、多点穴あけなどには向かず、問題となっていた。また、高い弾性率を有する繊維強化プラスチックでは、ドリル加工による穴あけ時に周辺にクラックが発生し易く、加工周辺部の割れや強度低下を誘発するのも問題であった。一方、強力なレーザー光を照射して繊維強化プラスチックを加工する方法では、加工部周辺へのクラックの発生は防止できるが、強化繊維まで蒸発させる必要があり、特に、強化繊維として炭素繊維を用いた場合には、照射エネルギーがかなり必要で、付随する冷却装置が必須となるなど、装置が大型になり、利用し易い方法とは言い難かった。
【0004】
一方、金属やガラス、石材や樹脂表面などを研磨する方法としては、サンドブラストはよく知られた方法であって、繊維強化プラスチックの表面を研磨する事例なども知られていたが(例えば、特許文献4参照)、繊維強化プラスチックへの具体的な穴あけ方法に言及したものはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−39810号公報
【特許文献2】特開2009−196015号公報
【特許文献3】特許4478251号公報
【特許文献4】特開平4−74868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、炭素繊維等を用いた繊維強化プラスチックの板材や円柱構造体に対して、円形、角形などの任意の形状で歩留まり良く穴あけすることができる穴あけ加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
下記に示す本発明により上記課題を解決できることを見出した。
[1]サンドブラスト耐性を有するレジスト層を繊維強化プラスチックに密着させ、レジスト層で覆われていない部分の繊維強化プラスチックをサンドブラストにより除去した後、レジスト層を剥離除去する繊維強化プラスチックの穴あけ加工方法、
[2]繊維強化プラスチックの強化繊維が炭素繊維である上記[1]記載の繊維強化プラスチックの穴あけ加工方法、
[3]上記[1]又は[2]の穴あけ加工方法で加工されてなる繊維強化プラスチック加工品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、炭素繊維等を用いた繊維強化プラスチックの板材や円柱構造体を円形、角形などの任意の形状で穴あけ加工することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、サンドブラスト耐性を有するレジスト層を利用する。サンドブラストとは、ショット・ブラストの一種で、圧力空気と共に、表面に各種微粉末の研磨材を吹き付けることによって、表面を研磨、切削する加工法のことである。研磨剤としては、アルミナ、炭化珪素、ジルコニア、ガーネット、ガラス、けい砂などのセラミック系微粒子や、鉄粉など、更には樹脂系材料などが知られているが、特に炭化珪素は硬度が高く、粒度も各種揃えることができるので、優れた研磨剤である。炭化珪素を用いたサンドブラストは、ガラス、石材、金属のような硬い表面の研磨には、非常に有効であるが、例えばゴムや熱可塑性プラスチックのように柔らかくて、研磨剤の衝撃力を吸収してしまう表面の研磨には適さない。このように、硬い表面と柔らかい表面に対する、サンドブラストの研磨能の差を利用すると、サンドブラスト用のレジスト層が形成できる。
【0010】
このような性能を有するレジスト層は印刷や塗布によって形成させることができるが、ゴム的な性能を有するフィルム状物を貼り合わせることによっても形成できる。フィルム状物の場合には、予めカットなどの方法で形状作製し、繊維強化プラスチックの表面貼り付けることで非被覆部分を出し、サンドブラストにより穴あけ加工を施せる。また、位置決めなどの精度をより高めるために、予めフィルム状物を貼り合わせたのち、レーザーカット法などによりフィルムをカットして、非被覆部分を出せば、サンドブラストにより穴あけ加工を施せる。
【0011】
サンドブラスト加工時に、繊維強化プラスチックの切削速度は重要で、あまり遅いとレジスト層側が加熱し、融着する可能性があり、また、研磨剤の粒径を大きくして、切削速度を速めると貫通孔側面の平滑性が失われ易くなるので、好ましい切削速度は、繊維強化プラスチックの厚みに対して0.1秒/mmから10秒/mmが好ましく、更に好ましくは0.2秒/mmから2秒/mm程度である。
【0012】
このようなフィルム状物としては、天然ゴム、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、シリコンゴムフィルム、ナイロン、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の熱可塑性樹脂フィルムが利用できる。繊維強化プラスチックと貼り合わせる際には、フィルム状物の片面に粘着加工が施されていることが望ましい。
【0013】
穴サイズが小さくなり、形状が複雑で非常に多数になった場合には、フィルム状物に感光性を付与し、感光性ドライフィルムとして、光による硬化・未硬化部分を利用して、非被覆部分を形成してもよい。感光性ドライフィルムとは、ポリエステルフィルムなどの基材フィルムに、サンドブラスト耐性を有する感光性樹脂組成物を層状に塗布乾燥成膜し、この上にポリエステルフィルムやポリビニルアルコールフィルムなどの保護フィルムを積層した、主に三層構造体のフィルムであって、一方(基材あるいは保護)のフィルムを剥離して、層状の感光性樹脂組成物を繊維強化プラスチックに密着貼り合わせ、パターンマスクによって、紫外線を照射して、もう一方のフィルムを除き、現像を行うことによって、サンドブラスト耐性を有するレジスト層とこの非被覆部分を形成することができる。生成した非被覆部分をサンドブラストにより研磨して、穴あけ加工を行う。
【0014】
このような感光性樹脂組成物として、アクリルウレタン系材料がよく知られている。アクリルウレタン系とは、ラジカル反応性を有するアクリル部分とエラストマーの働きをするウレタン部分より成る材料であって、繊維強化プラスチックとの密着性や、現像時の剥離性にも優れている。アクリルウレタン系材料を用いて感光性樹脂組成物を設計した際、紫外線照射部分が架橋して耐現像性を有するために、繊維強化プラスチックに於けるサンドブラスト耐性を有するレジスト膜の非被覆部分は、紫外線非照射部分となり、これをネガ型と呼ぶが、勿論、ポジ型の感光性樹脂組成物であっても、不都合はない。
【0015】
本発明に於ける、繊維強化プラスチックとは、炭素繊維、ガラス繊維などの高弾性率体と組み合わせて、プラスチックの弾性率の低さを補った材料であって、これらの繊維の他に、アラミド繊維や超高強度ポリエチレンなどの繊維も用いられる。炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系とピッチ(PITCH)系材料が知られているが、本発明では、双方とも用いることができる。
【0016】
プラスチックへの繊維の混入方法としては、細かく切断した繊維(短繊維)を樹脂中に混練する方法と、繊維に方向性を持たせたまま(長繊維の状態)で織物(カーボンクロス等)などを作製し、その後プラスチックを含浸させる方法がある。後者の場合では、繊維の配向によって強度に異方性がでるので、通常は板状の繊維の層を、繊維方向が異なるように複数枚重ねて用いられる。しかし、このような単純積層では層間剥離などの問題が発生するために、繊維層同士の繊維をニードルパンチによって絡める方法や、ステッチングにより層間をつなぐ繊維を貫通させる方法、更に、繊維そのものを三次元で配列させる方法を用いて、カーボンクロスを作製することもできる。
【0017】
カーボンクロスに含浸する樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ビニルエステル樹脂などの熱硬化性樹脂が用いられる。このような熱可塑性樹脂を用いる場合には、硬化前の樹脂を混練或いは含浸して、柔軟性のある成形体を作製し、これをオートクレープ中で加圧加熱して、強固な繊維強化プラスチックを得る。炭素繊維を強化繊維として用いた場合、この強固な強化繊維プラスチックを「ドライカーボン」という。カーボンクロス等の織物に硬化前の樹脂を含浸させたものは「プリプレグ」と呼ばれる。一方、加圧加熱を伴わずに、カーボンクロスに直接樹脂を含浸すると、「ウエットカーボン」と呼ばれる繊維強化プラスチックを得る。何れの繊維強化プラスチックも本発明に用いることができる。
【0018】
サンドブラスト加工に適した繊維強化プラスチックの形状は、板状ではあるが、サンドブラストノズルの方向を調整することによって、曲面や円柱構造体でも穴あけが可能である。更に、二方向から穴あけ加工を行うことよって、径の異なる貫通孔の作製も可能である。
【実施例】
【0019】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。特に記載のない場合には「部」及び「%」は、「質量部」及び「質量%」を表す。
【0020】
(実施例1)
厚み3mmで大きさ15cm×15cmのピッチ系炭素繊維による板状ドライカーボンを作製した。この片面に粘着加工を施した0.5mm厚のEPDMシートをレジスト層として貼り付けた。シートにはカッティングによって、ドライカーボンの角端から1cmのところに、径1cmの4つの円形孔(端から円の外周までは5mm)が開けられている。次に100メッシュの炭化珪素を用いて、サンドブラストで切削速度1秒/mmとなるように、ドライカーボンの穴あけ加工を行った。次に、EPDMシートを剥がして、4点の穴あけ加工を施した、3mm厚のドライカーボンを得た。同様のドライカーボン板を5枚作製したが、何れの貫通孔周辺も良好な状態であった。
【0021】
(実施例2)
実施例1と同様な穴あけ加工を、180メッシュの炭化珪素を用いて、サンドブラスト加工を行った。切削速度は5秒/mmであった。この場合、貫通孔周辺は良好な状態であったが、5枚の内1枚が、EPDMシートがドライカーボンに融着して剥離が難しかった。
【0022】
(実施例3)
厚み10mmの内径100mm、長さ300mmのピッチ系炭素繊維による円柱構造体のドライカーボンを作製した。片面に粘着加工を施した厚み0.5mm、大きさ150mm角のシリコンゴムシートを準備し、カッティングマシンで20mm角の穴を開け、円柱状ドライカーボンに貼り付けた。次に、100メッシュの炭化珪素を用い切削速度1秒/mmで貫通孔を作製した。20mm角の貫通孔の四辺及び頂点でのドライカーボンの亀裂は検出できなかった。
【0023】
(比較例)
実施例1で用いたドライカーボンに、同様な穴あけ加工を径1cmのドリルで行った。この結果、5枚計20点の貫通孔の内、6点の貫通孔で周辺に亀裂が入り、亀裂はドライカーボン端まで達してしまった。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、炭素繊維を用いた繊維強化プラスチック(繊維強化プラスチック)の板材や円柱構造体を円形、角形などの任意の形状で歩留まり良く穴あけ加工方法を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンドブラスト耐性を有するレジスト層を繊維強化プラスチックに密着させ、レジスト層で覆われていない部分の繊維強化プラスチックをサンドブラストにより除去した後、レジスト層を剥離除去する繊維強化プラスチックの穴あけ加工方法。
【請求項2】
繊維強化プラスチックの強化繊維が炭素繊維である請求項1記載の繊維強化プラスチックの穴あけ加工方法。
【請求項3】
請求項1又は2の穴あけ加工方法で加工されてなる繊維強化プラスチック加工品。

【公開番号】特開2012−196751(P2012−196751A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64091(P2011−64091)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)