説明

繊維構造物

【課題】繊維構造物が本来保有している空気層を阻害することなく、新たな空気層を付与した保温性、制電性、耐久性に優れた繊維構造物を提供する。
【解決手段】繊維表面に、重合性単量体を繊維上で重合させた樹脂被膜が形成されており、該樹脂被膜が中空微粒子を含有することを特徴とする保温性および制電性を有する繊維構造物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた保温性と制電性および吸水性に優れた繊維構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、衣料に関する保温素材としては、水分子を吸着して発熱する吸湿発熱を利用したものが多数提案されており、吸湿発熱繊維を用いたもの(例えば、特許文献1参照)や繊維に吸湿発熱樹脂を付与したもの(例えば、特許文献2参照)などがある。しかしながら、これらの発熱効果は繊維などに吸着する水分量に依存しているため、衣料、衣服として使用した場合、安静時の不感蒸泄だけでは十分な発熱効果は得られず、運動などによる発汗での水分発生が必要となる。
【0003】
また、断熱効果の高い空気層を付与する目的で中空微粒子を付与した布帛が提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、これらはいずれもウレタン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂などをバインダーとして使用し、パッディング・乾燥したり、コーティングしたりして中空微粒子を付与しており、かかる樹脂によって布帛が本来保持している繊維束の内部にある空気層を逆に減らすものであって、中空微粒子で付与した空気層よりもバインダー樹脂によって封鎖された空気層の方が多く、布帛としての保温性は逆に低下してしまうという問題があった。
【0004】
さらに、保温性を要求される季節は冬であり、気温、湿度ともに低く、静電気が非常に発生しやすい時期である。保温性を付与する目的で上記ウレタン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂などのバインダーを使用すると静電気の発生を抑えることは困難であり、冬用衣料、繊維構造物としては適さないものであった。
【特許文献1】特公平7−59762号公報
【特許文献2】特開平14−212880号公報
【特許文献3】特開平11−217770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、かかる従来技術の背景に鑑み、繊維構造物が本来保有している空気層を阻害することなく、新たな空気層を付与した保温性、制電性に優れた繊維構造物を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、
(1)繊維表面に、重合性単量体を繊維上で重合させた樹脂被膜が形成されており、該樹脂被膜が中空微粒子を含有することを特徴とする繊維構造物。
【0007】
(2)前記樹脂被膜が、ポリアルキレンオキサイドセグメントを含む主鎖の両末端または一方の末端あるいは主鎖の側鎖として少なくとも2個以上のアクリル基および/またはメタクリル基を有する重合性単量体を重合せしめてなる樹脂被膜であることを特徴とする前記(1)に記載の繊維構造物。
【0008】
(3)前記中空微粒子が、繊維構造物に対し0.2〜4、0重量%付着していることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の繊維構造物。
【0009】
(4)繊維構造物が、肌着、インナー、ブラウス、ドレスシャツ、スカート、スラックス、裏地、布団側地、カーテン、手袋、帽子から選ばれた1種であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の繊維構造物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、繊維構造物が本来保有している空気層を阻害することなく、新たな空気層を付与した保温性、制電性、耐久性に優れた繊維構造物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、前記課題、つまり繊維構造物が本来保有している空気層を阻害することなく、新たな空気層を付与することにより優れた保温性、制電性を有する繊維構造物について鋭意検討した結果、繊維構造物を構成する単繊維の表面に中空微粒子を含有した樹脂被膜を形成することにより、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0012】
すなわち、繊維構造物を形成する単繊維の繊維上で、重合性単量体を重合させた樹脂被膜を形成し、さらにかかる被膜内に中空微粒子を含有させたところ、得られた繊維構造物は優れた保温性と制電性を有するものであった。
【0013】
本発明の樹脂被膜は、重合性樹脂であれば特に限定されるものではなく、繊維表面で重合被膜化させることができるものであれば良い。
【0014】
上記の樹脂被膜は、制電性を得るために特に好ましくは、ポリアルキレンオキサイドセグメントを含む主鎖の両末端または一方の末端あるいは主鎖の側鎖として少なくとも2個以上、好ましくは2〜6個のアクリルおよび/またはメタクリル基を有する重合性単量体を重合せしめてなる樹脂被膜である。
【0015】
本発明におけるポリアルキレンオキサイドセグメントを含む主鎖の両末端または一方の末端あるいは主鎖の側鎖として少なくとも2個以上のアクリル基および/またはメタクリル基を有する単量体としては、例えば、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールジアクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物ジメタクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物ジアクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物ジメタクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物ジアクリレートなどを、単独あるいは2種以上の混合物として使用することができる。
【0016】
また、本発明はかかる樹脂被膜に中空微粒子を含有するものである。
【0017】
上記の中空微粒子は特に限定されるものではなく、水系塗料組成物あるいは紙被覆用組成物などの用途に隠蔽剤や不透明度向上剤として広く用いられている粒子などであり、既に空隙を有する中空微粒子やマイクロカプセルのように粒子内に閉じ込められた溶剤などの揮散成分が繊維構造物を処理する際の熱処理によって膨張揮散して、結果として塗膜中に適度の大きさの微小気泡が形成される熱膨張性の中空微粒子などが挙げられる。
【0018】
中空微粒子としては、無機材料系微粒子であっても有機樹脂系微粒子であってもよいが、好ましくは、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂やこれらの共重合樹脂などが好ましい。
【0019】
かかる中空微粒子の粒径は、特に限定されるものではないが繊維構造物の風合いを硬化させないことや白化現象を起こさないためには、数平均粒径が0.05以上100μm以下であることが好ましく、さらには0.05以上60μm以下であることがより好ましい。かかる粒径範囲外の粒径のものが、例えば0重量%を超え、10重量%程度まで含まれることはさしつかえない。
【0020】
また、中空微粒子の空隙率は優れた保温性を得るために、20%以上であることが好ましく、特に好ましくは40〜60%が保温効果を高めるために好ましい。60%を越えると粒子の耐久性が劣り、衣服として着用中に壊れる可能性がある。空隙は、中心部に球状の空洞が1つ存在ある場合や、球状の空洞が複数個存在する場合等がある。
【0021】
本発明における中空微粒子の平均粒径および空洞部の平均直径は透過型電子顕微鏡(日本電子工業(株)製)を用い、電子顕微鏡写真によって測定することができる。その場合、繊維構造物の縦断面写真をランダムに100枚撮影し、電子顕微鏡によって確認される粒径、空洞部の直径についての平均値とする。
【0022】
かかる中空微粒子は、粉体でもよく水系で分散されていてもよい。
【0023】
本発明は繊維上で重合された樹脂被膜にかかる中空微粒子を含有させるものである。
【0024】
かかる中空微粒子は、繊維構造物全体に対し0.2〜4.0重量%付着していることが好ましい。0.2重量%より少ないと十分な保温効果が得られず、また4.0重量%より多いと繊維構造物に付着させた場合に風合いが硬くなる上に、白化現象を起こし品位が低下する傾向がある。
【0025】
繊維上で重合させた樹脂被膜に中空微粒子を含有させる方法としては、かかる重合性単量体および中空微粒子および重合性単量体を重合するための重合開始剤を使用するものである。重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリ、アゾビスイソブチロニトリル、硫酸アンモニウムなど、一般的なビニル重合開始剤を使用することができる。かかる重合性単量体および中空微粒子および重合開始剤の混合液に繊維構造物を含浸させ、マングルを用い一定圧力で絞った後、80〜160℃の飽和水蒸気または過飽和水蒸気雰囲気中で0.5〜10分間の処理をすることにより、単繊維表面に中空微粒子を含有した連続または非連続的樹脂被膜を形成させることができる。また、混合液を付与した後、100〜130℃で乾燥した後に、上記水蒸気処理する方法も採用することもできる。かかる被膜形成加工をした後に、本発明の効果を阻害しない範囲で、帯電防止剤、吸水剤、吸湿剤、撥水剤、撥油剤、防汚剤などで処理してもかまわない。
【0026】
かかる樹脂被膜の厚みは重合性樹脂の付着量によってコントロールすることができる。すなわち、重合性単量体および中空微粒子および重合触媒の混合液を作成する際の有効成分濃度と繊維構造物を樹脂液に含浸させてマングルで絞る際の絞り率、すなわちマングルの加圧圧力を適宜調整することにより、樹脂付着量つまり被膜の膜厚をコントロールすることができる。一般的には、一定圧力で絞り樹脂有効成分濃度を変更することによりコントロールするものであり、樹脂有効成分濃度を低くする、または絞り率を高くすれば被膜の厚みは薄くなる傾向にある。
【0027】
本発明は、繊維構造物が本来保有している空気層を阻害しないという目的から、樹脂被膜の厚みは100nm以下であることが好ましい。また、中空微粒子を耐久性よく固着させるため、5nm以上であることが好ましい。中空微粒子は、かかる樹脂被膜の膜厚内に完全に埋もれている必要はなく、樹脂皮膜の上に中空微粒子が露出したものであってもよく、樹脂被膜に中空微粒子が含有されていればよい。
【0028】
かかる樹脂被膜の厚みは、繊維構造物の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で100000倍に拡大し観察して測定したものである。
【0029】
かかる中空微粒子を含有した樹脂被膜を単繊維表面に被覆させることにより、繊維構造物が本来保有している空気層を阻害することなく、新たな空気層を付与した保温性、制電性、耐久性に優れた繊維構造物が得られるものである。
【0030】
本発明の繊維構造物としては、織物、編物、不織布などの布帛、およびこれらの製品などが該当する。
【0031】
本発明の繊維構造物を構成する繊維としては、特に限定されないが、ポリエステル系繊維、ポリエチレン系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリアミド系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維などの合成繊維、レーヨン、アセテートなどの半合成繊維、木綿、麻、絹、羊毛などの天然繊維を使用することができ、これらを単独または2種以上混合して使用することができる。また、長繊維でも短繊維でも良く、これらを混合して使用しても良い。
【0032】
本発明の繊維構造物は、保温性、制電性が高いということから、肌着、インナー、ブラウス、ドレスシャツ、スカート、スラックス、裏地、布団側地などの寝装具、カーテンなどのインテリア用具、手袋、帽子などの用途に好適に使用されるものである。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、実施例中の品質評価は次の方法で実施した。
(保温性)
20℃×65%RHの環境中で24時間調湿した試験布帛を、KES型保温性試験器(カトーテック株製サーモラボII型KEX−F7)を用い、熱板温度40℃±0.1℃に設定されたSm2(0.01m2)の熱板上に静置し、1分経過後の安定した状態で熱板から試験布帛を通して環境中に放散する熱損失量を熱板面積(Sm2)と消費電力(Ew)とから求める。この時、風速 約6.5cm/sec(微風)とした。測定回数はN=5で行い、平均値を測定値とした。
【0034】
布帛を載せない熱板からの放熱量は環境との温度差に比例するから、人体の平均皮膚温度33℃からして、温度差20℃での上記実験は環境温度13℃で安静状態の人体における保温性をシミュレートしたものである。
上記実験で得られた熱損失量の値は、次式によりclo値に換算される。
clo=(1/0.155)×(20×S/E)(m2hr℃/kJ)
clo値が大きいほど、保温性が高いことを示す。
(制電性)
JIS L 1094B法(摩擦耐電圧測定法)に規定される方法で、20℃×30%RHの雰囲気中で、対象布を木綿として摩擦帯電圧を測定し、(kV)で表示した。数値が大きいほど、制電性が悪いことを示す。
(洗濯耐久性)
自動反転渦巻き電気洗濯機に、JIS K 337に規定される弱アルカリ性合成洗剤を0.2%の濃度になるように溶解し、浴比1:50で、40±2℃の温度で、強条件で25分間洗濯し、次いで排水、脱水後にオーバーフローで水洗を10分間行なう。次いで排水、脱水後に再度オーバーフローで水洗を10分間行なう。この工程を繰り返し洗濯5回分とし、この作業を2回繰り返し、洗濯10回とする。
【0035】
実施例1〜3、比較例1、2
110dtex、48フィラメントのポリエチレンテレフタレート仮撚り加工糸をタテ糸とヨコ糸に使用して平織物を製織し、常法により95℃の温度で精練し、130℃の温度で乾燥し、180℃の温度でヒートセットし、次いで分散染料で紺色に染色し、常法により還元洗浄、湯洗い、水洗いして染色織物とした(タテ糸/ヨコ糸密度 100/80本/2.54cm)。得られた織物を、下記に示す方法で処理し、性能を評価した結果を表1に示した。
<重合性単量体 A>
ポリアルキレンオキサイドセグメントが分子量1000であるポリエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学(株)製 NKエステル23G 有効成分100重量%)を使用した。
<中空微粒子>
a.Nipol MH5055(数平均粒径0.5μm、空隙率:約55%)(日本ゼオン(株)製、有効成分30重量%)
b.マツモトマイクロスフェアーF−30E(数平均粒径30〜60μm、空隙率:約20%)(松本油脂製薬(株)製、粉体)
c.AE851Y(数平均粒径1μm、空隙率:約30%)(JSR(株)製、有効成分26%)
<処理液の調整>
[実施例1]
重合性単量体 A 40g/l
中空微粒子 a 100g/l
過硫酸アンモニウム 2g/l
[実施例2]
重合性単量体 A 40g/l
中空微粒子 b 10g/l
過硫酸アンモニウム 2g/l
[実施例3]
重合性単量体 A 40g/l
中空微粒子 c 20g/l
過硫酸アンモニウム 2g/l
[比較例1]
重合性単量体 A 40g/l
過硫酸アンモニウム 2g/l
[比較例2]
KT7014(シリコーン樹脂、高松油脂(株)製、有効成分40%) 100g/l
中空微粒子 a 100g/l
[比較例3]
染色のみ。
<処理条件>
実施例1〜3,比較例1の処理液に染色布を浸漬して、マングルで絞り、絞り率が100重量%になるように調整した後、106℃の飽和水蒸気雰囲気中にて3分間の処理を行った。
【0036】
次いで、非イオン界面活性剤1g/L、炭酸ナトリウム1g/Lとした60℃の水溶液中で1分洗浄し、水洗し、130℃で乾燥、160℃でピンテンターセットした。
【0037】
比較例2の処理液に染色布を浸積して、マングルで絞り、絞り率が100重量%になるように調整した後、ピンテンターを用い130℃で乾燥、160℃で熱処理を行った。
【0038】
比較例3は、染色後乾燥し、160℃で乾熱セットを行った。
得られた布帛の保温性、制電性を測定した結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1から明らかなように、比較例に比して、実施例のものは、保温性、制電性を兼ね備え洗濯耐久性にも優れることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維表面に、重合性単量体を繊維上で重合させた樹脂被膜が形成されており、該樹脂被膜が中空微粒子を含有することを特徴とする繊維構造物。
【請求項2】
前記樹脂被膜が、ポリアルキレンオキサイドセグメントを含む主鎖の両末端または一方の末端あるいは主鎖の側鎖として少なくとも2個以上のアクリル基および/またはメタクリル基を有する重合性単量体を重合せしめてなる樹脂被膜であることを特徴とする請求項1に記載の繊維構造物。
【請求項3】
前記中空微粒子が、繊維構造物に対し0.2〜4、0重量%付着していることを特徴とする請求項1または2に記載の繊維構造物。
【請求項4】
繊維構造物が、肌着、インナー、ブラウス、ドレスシャツ、スカート、スラックス、裏地、布団側地、カーテン、手袋、帽子から選ばれた1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の繊維構造物。

【公開番号】特開2008−202187(P2008−202187A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−42081(P2007−42081)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】