説明

繊維状粒子配向塗膜および繊維状粒子配向塗膜の塗工方法

【課題】繊維状粒子が配向率80%以上で配向した繊維状粒子配向塗膜と繊維状粒子配向塗膜の塗工方法を提供するものであって、繊維状粒子を規則的に配向させることによって電磁波吸収特性および導電性等において有利な繊維状粒子配向塗膜を提供する。
【解決手段】バーコート法によって繊維状粒子配向塗膜を形成するに際し、円柱状の塗工バーの円周上全体に均等に溝を設け、該溝の幅Wがφ≦W≦3000×φ(φ:繊維状粒子の短軸の長さ)である塗工バーを使用することにより、規則的に配向した繊維状粒子配向塗膜が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状粒子が規則的に配向した繊維状粒子配向塗膜および繊維状粒子配向塗膜の塗工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、繊維状粒子の配向制御技術の確立が求められている。配向制御の要求は、例えば、電磁波シールド材料で異方性の電磁波吸収体の例があり、電場をかけて配向させたり、延伸して配向させたりする方法があるが、繊維状粒子の破断が起こりやすく、また配向度が低いという問題があった(特許文献1)。また、電磁波シールド材料では、繊維状粒子を練りこんだシートなどが増えてきているが、練りこみの場合は電波の振動方向とシートの誘電率の方向が一致しない問題がある。
【0003】
電磁波シールド材料のほかにも、繊維状粒子を一定方向に配向させることによって繊維状粒子の新たな特性の発見が期待されており、繊維状粒子の特性によらず配向可能な配向制御技術の確立が求められている。
【特許文献1】特開昭59−139141号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、繊維状粒子が配向率80%以上で配向した繊維状粒子配向塗膜と繊維状粒子配向塗膜の塗工方法を提供するものであって、繊維状粒子を規則的に配向させることによって波長吸収特性および導電性等において有利な繊維状粒子配向塗膜を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、以下の繊維状粒子配向塗膜と繊維状粒子配向塗膜の塗工方法に関する。すなわち、本発明は、以下の構成による繊維状粒子配向塗膜を提供するものである。
(1)基材上に設けられる繊維状粒子配向塗膜であって、繊維状粒子の長軸の長さLが0.5μm以上、短軸の長さφが0.1〜300μmであって、配向率が80%以上であることを特徴とする繊維状粒子配向塗膜。
【0006】
また、本発明には、以下の構成からなる繊維状粒子配向塗膜の塗工方法を提供するものである。
(2)繊維状粒子配向塗膜の塗工方法であって、バーコート法で繊維状粒子を含有する塗工液を基材上に塗工するに際し、円柱状の塗工バーの円周上全体に均等に溝を設け、該溝の幅Wがφ≦W≦3000×φ(φ:繊維状粒子の短軸の長さ)である塗工バーを使用することを特徴とする長軸の長さLが0.5μm以上、短軸の長さφが0.1〜300μmであって、配向率が80%以上である繊維状粒子配向塗膜の塗工方法。
(3)塗工バーと基材との接触長さPが、P≧150×L(L:繊維状粒子の長軸長さ)であることを特徴とする(2)に記載の繊維状粒子配向塗膜の塗工方法。
【発明の効果】
【0007】
本願発明の繊維状粒子配向薄膜は、繊維状粒子が配向率80%以上で配列されているので、導電性や光学特性を向上させるうえで有利であり、導電性塗膜やその他の導電性材料、あるいは特定波長を吸収する光学フィルター膜やその他の光学材料として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0009】
本発明の繊維状粒子配向塗膜は、繊維状粒子が配向率80%以上で配列している。本発明において、「配向率」とは、繊維状粒子の平均配向方向に対して、各々の繊維状粒子の劣角が±15度の範囲内に配位する繊維状粒子の割合である。また、ここで言う平均配向方向とは、各々の繊維状粒子の軸線との劣角の和が最小になるような方向のことを指す。
【0010】
本明細書中で使用される「繊維状」とは、アスペクト比(長軸の長さL/短軸の長さφ)が5より大きい形状を意味するものであり、長軸の長さLが0.5μm以上で、短軸の長さφが0.1〜300μmの繊維状粒子であり、好ましくは長軸の長さLが5μm以上のものである。なお、繊維状粒子の長さに関しては、繊維状粒子を含有する溶液をポリエステルフィルムにキャストし、溶剤分を乾燥除去した後、JEOL社6700F電子顕微鏡で加速電圧15KV、3000倍の反射電子像を撮影し、繊維状粒子を観察して、任意の100個の繊維状粒子を選択し、各々の長手方向の長さと粒子径を測長し、長手方向の長さの数平均値を長軸の長さL、粒子径の数平均値を短軸の長さφと定義した。
【0011】
繊維状粒子は、上記アスペクト比が5より大きい粒子であれば特に粒子の種は限定されないが、具体的にはステンレス、炭素銅、銅などの金属繊維、アラミド、ビニロン、ポリアクリロニトリルなどの有機繊維、グラスウール、シリカ、アルミナ、チタン酸カリウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、炭化ケイ素などのセラミック繊維および炭素繊維などが挙げられる。
【0012】
本発明の繊維状粒子は、そのままでも、表面処理されていてもよい。表面処理する場合は、吸着部位にシリコン原子または/および硫黄原子または/および窒素原子を有するアルキル鎖の数が1〜20の有機化合物で表面処理されたものが好ましい。具体的な表面処理剤としては、上記シリコン原子を含有するものとしてはアクリロキシエチルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、硫黄原子を含有するものとしては、例えば、エタンチオール、ブタンチオール、ヘキサンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、テトラデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオールなどが挙げられる。また、窒素原子を含有するものとしては、例えば、エチルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミンなどが挙げられる。上記表面処理剤で表面処理された繊維状粒子は、後述する塗工液中において分散性が良く、基材上に塗布した場合、規則的な配列を整えるうえで好ましい。
【0013】
本発明の繊維状粒子配向塗膜は、上記繊維状粒子を溶媒中に分散させた塗工液を基材に塗工して得られる。
【0014】
溶媒としては、繊維状粒子の種類や用途により適宜選択すればよく、具体的には、水や、メタノール、エタノール、プロパノール、ヘキサノール、エチレングリコール等のアルコール類、キシレンやトルエン等の芳香族炭化水素、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチルや酢酸ブチル等のエステル類、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類、あるいはこれらの混合物が代表的なものとして挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0015】
塗工液には、バインダーを含有してもよい。バインダーとしては、通常塗料用や成形用に利用されている可視光線から近赤外光領域の光に対して透過性を有する各種樹脂を特に制限無く使用できる。例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、等の各種有機樹脂や、ラジカル重合性のオリゴマーやモノマー(場合により硬化剤やラジカル重合開始剤と併用する)等が代表的なものとして挙げられる。
【0016】
塗工液には場合によって、分散剤を含有してもよく、具体的にはポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドンなどのポリアミド、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシドなどのポリアルキレンオキシドなどを使うことが出来る。さらに、塗工液には、溶媒、バインダー、分散剤に加え、必要に応じて他の添加剤を含むことができる。例えば、染料、顔料などを添加することができる。
【0017】
本発明において、基材上に繊維状粒子配向塗膜を形成する方法として、円柱状の円周方向に溝を設けた塗工バーを用いたバーコート法が好ましい。溝を設けた塗工バーとしては、一定の径を有するワイヤーを塗工バーの表面に密に巻きつけたもの(以下、「ワイヤーバー」とする)、或いは塗工バー自体の表面に一定の幅、深さを有する溝を一定ピッチで設けたもの(以下、「メイヤーバー」とする)が用いられる。なお、ワイヤーバーについては、隣接するワイヤーの間隙が溝となる。
上記溝は、溝の幅Wがφ≦W≦3000×φ(W:溝の幅、φ:繊維状粒子の短軸の長さ)になるように設定する。φ>Wであると、溝の幅Wよりも繊維状粒子の短軸の長さφが大きくなって、繊維状粒子が溝に入らないため配向できない。また、W>3000×φであると、繊維状粒子が配向しにくくなる。溝の幅Wが上記条件を満たすと、各溝において繊維状粒子塗工液に剪断流が起こって、繊維状粒子が塗工方向に配向するものと本発明者は推察する。また、溝の深さについては、繊維状粒子の短軸の長さφよりも大きければ特に限定されない。
【0018】
本件発明において、塗工バーと基材との接触長さPは、P≧150×L(L:繊維状粒子の長軸の長さ)の条件を満たすように設定する。接触長さPが上記条件を満たさないと、充分に剪断流が起こらず、繊維状粒子を配向率80%以上で配向させることが難しい。
【0019】
上記接触長さPは、使用する塗工バーの直径Rに応じて、抱き角θを調整することにより、上記条件を満たせるよう設定する。つまり、πR×θ/360≧150×Lを満たすように、各々調整すればよい。
【0020】
塗工バーの直径Rは15〜200mmであることが好ましい。塗工バーの直径を15mmより細くすると、基材の曲げ弾性の影響で塗工バーと基材との密着が不良となりやすい。また、200mm以上であると、塗工バーが重くなり、塗工機のモーターに負荷がかかるため好ましくない。
【0021】
抱き角θについては、πR×θ/360≧150×Lを満たせるならば、特に限定されず、塗工装置等に合わせて適宜決定されればよい。
【0022】
本発明の繊維状粒子配向塗膜の基材としては特に制限されず、繊維、紙、合成樹脂、金属、皮革等を素材とするフィルム、シート、ネット、板材、布地等、任意のものを基材として用いることができるが、中でも、合成樹脂フィルムが好ましい。
【0023】
本発明は基材上に繊維状粒子配向薄膜を設けた二層構造を基本とするが、使用する用途に応じてさらに部材を積層したり、薄膜上にトップコート等をしても構わない。例えば、透明基材の表面に本発明の繊維状粒子配向塗膜を有するものは可視光線・近赤外光吸収フィルター、あるいは導電性被膜などの機能材料として利用することができる。また、本発明の繊維状粒子配向塗膜上にさらに透明材料等を積層したものも、可視光線・近赤外光吸収フィルター材料などに利用することができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
直径12μmのステンレス繊維をはさみで長さ0.5mmに切断したもの10mgを2gの酢酸/メタノール=2/8の混合溶媒に0.5gのポリビニルピロリドンを溶かした溶液に分散し、この溶液をポリエステルフィルム上に滴下し、直径2インチのステンレス棒の周囲に太さ2.6mmのアルミ針金を隙間無く巻いたワイヤーバーで、フィルムの抱き角を30度にして塗工し、室温で1分乾燥後、目視でステンレス繊維の配向状況を観察した。配向率は80%で良好に配向した塗膜が得られた。
(実施例2)
直径12μmのステンレス繊維をはさみで長さ0.5mmに切断したもの30mgを2gの酢酸/メタノール=3/7の混合溶媒に0.6gのポリビニルピロリドンを溶かした溶液に分散し、この溶液をポリエステルフィルム上に滴下し、直径2インチのステンレス棒の周囲に太さ2.6mmのアルミ針金を隙間無く巻いたワイヤーバーで、フィルムの抱き角を30度にして塗工し、室温で1分乾燥後、目視でステンレス繊維の配向状況を観察した。配向率は81%で良好に配向した塗膜が得られた。
(比較例1)
直径12μmのステンレス繊維をはさみで長さ0.5mmに切断したもの10mgを2gの酢酸/メタノール=2/8の混合溶媒に0.5gのポリビニルピロリドンを溶かした溶液に分散し、この溶液をポリエステルフィルム上に滴下し、直径2インチの表面が平滑なステンレスの塗工バーで、フィルムの抱き角を30度にして塗工し、室温で1分乾燥後、目視でステンレス繊維の配向状況を観察した。配向方向は明確な方向性を持たなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に設けられる繊維状粒子配向塗膜であって、繊維状粒子の長軸の長さLが0.5μm以上、短軸の長さφが0.1〜300μmであって、配向率が80%以上であることを特徴とする繊維状粒子配向塗膜。
【請求項2】
繊維状粒子配向塗膜の塗工方法であって、バーコート法で繊維状粒子を含有する塗工液を基材上に塗工するに際し、円柱状の塗工バーの円周上全体に均等に溝を設け、該溝の幅Wがφ≦W≦3000×φ(φ:繊維状粒子の短軸の長さ)である塗工バーを使用することを特徴とする長軸の長さLが0.5μm以上、短軸の長さφが0.1〜300μmであって、配向率が80%以上である繊維状粒子配向塗膜の塗工方法。
【請求項3】
塗工バーと基材との接触長さPが、P≧150×L(L:繊維状粒子の長軸長さ)であることを特徴とする請求項2に記載の繊維状粒子配向塗膜の塗工方法。