説明

美白剤

【課題】メラニン生成抑制作用に優れた美白剤の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物。


(式中、Aは、周期律表の7族及び8族の元素の1種を、Jは、ハロゲン元素、NO3、OH、又はH2Oを、R1は、H、Cl、CH3、NO2、又は1位で結合したピロリジンを、R2は、H、OCH2COOC25、又はOCH3を、R3は、H又はCH3を示し、且つ、R1、R2及びR3のうちの少なくとも2種がHである。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、美白剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、美白剤としては、様々なものが知られており、例えば、皮膚細胞におけるメラニンの生成を抑制し、皮膚のシミの発生を抑制し得るものなどが知られている。
【0003】
この種の美白剤としては、具体的には例えば、ハイドロキノンにD−グルコースがβ−結合したハイドロキノン−β−D−グルコピラノシド(アルブチン)を含むものが提案されている(特許文献1)。斯かる美白剤は、例えば皮膚外用剤の構成成分として配合されて用いられる。
【0004】
しかしながら、斯かる美白剤は、メラニン生成を抑制する作用が必ずしも十分なものではないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−056912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題点等に鑑み、メラニン生成抑制作用に優れた美白剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明に係る美白剤は、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩を含むことを特徴とするものである。
【0008】
【化1】

(式中、Aは、周期律表の7族及び8族の元素のうちの1種を示し、Jは、ハロゲン元素、NO3、OH、又はH2Oを示し、R1は、H、Cl、CH3、NO2、又は1位で結合したピロリジンを示し、R2は、H、OCH2COOC25、又はOCH3を示し、R3は、H又はCH3を示し、且つ、R1、R2及びR3のうちの少なくとも2種がHである。)
【0009】
本発明に係る美白剤においては、前記式(1)におけるR1、R2及びR3がいずれもHであることが好ましい。また、前記式(1)におけるAが、前記7族の元素としてのMn、又は、前記8族の元素としてのFeであることが好ましい。
また、本発明に係る美白剤は、前記式(1)におけるJが、前記ハロゲン元素としてのClであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の美白剤は、メラニン生成抑制作用に優れているという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】メラニン生成の抑制試験の結果を表すグラフ。
【図2】α−MSH存在下におけるメラニン生成の抑制試験の結果を表すグラフ。
【図3】エンドセリン−1産生抑制試験の結果を表すグラフ。
【図4】培養皮膚モデルを用いた美白効果試験の結果を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る美白剤の実施形態について説明する。
【0013】
本実施形態の美白剤は、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩を含むものである。
【0014】
【化2】

(式中、Aは、周期律表の7族及び8族の元素のうちの1種を示し、Jは、ハロゲン元素、NO3、OH、又はH2Oを示し、R1は、H、Cl、CH3、NO2、又は1位で結合したピロリジンを示し、R2は、H、OCH2COOC25、又はOCH3を示し、R3は、H又はCH3を示し、且つ、R1、R2及びR3のうちの少なくとも2種がHである。)
【0015】
前記式(1)におけるAは、周期律表の7族及び8族の元素のうちの1種である。
前記7族の元素としては、Mn(マンガン)、Re(レニウム)等が挙げられる。
前記8族の元素としては、Fe(鉄)、Ru(ルテニウム)、Os(オスミウム)等が挙げられる。
【0016】
前記式(1)におけるAとしては、美白剤のメラニン生成抑制作用がより優れたものになるという点で、Mn(マンガン)、又は、Fe(鉄)が好ましい。
【0017】
前記式(1)におけるMn(マンガン)の価数としては、例えば、2価、4価などが挙げられ、美白剤のメラニン生成抑制作用がより優れたものになり得るという点で、2価が好ましい。
【0018】
前記式(1)におけるFe(鉄)の価数としては、例えば、2価、3価などが挙げられ、美白剤のメラニン生成抑制作用がより優れたものになり得るという点で、3価が好ましい。
【0019】
前記式(1)におけるJは、ハロゲン元素、NO3、OH、又はH2Oを示す。
前記ハロゲン元素としては、F(フッ素)、Cl(塩素)、Br(臭素)、I(ヨウ素)などが挙げられる。
【0020】
前記式(1)におけるJとしては、美白剤のメラニン生成抑制作用がより優れたものになり得るという点、また、式(1)で表される化合物の合成がより簡便となり、該化合物の収率に優れるという点で、Cl(塩素)が好ましい。
【0021】
前記美白剤は、前記式(1)の化合物を塩の態様で含んでいてもよい。斯かる塩としては、具体的には例えば、塩化物イオンなどのハロゲン化物イオンを含む塩、酢酸イオンなどの有機酸イオンを含む塩などが挙げられる。
【0022】
なお、前記式(1)において、AとJとの間の結合様式は、特に限定されるものではなく、該結合様式としては、例えば、共有結合、イオン結合、配位結合などが挙げられる。
具体的には、例えば、Aが3価の鉄(Fe)であり、JがClである式(1)の化合物においては、AとJとの間は、主にイオン結合となる。そして、式(1)の化合物が陰イオンと共存して塩の態様となり得る。
また、例えば、JがH2Oである式(1)の化合物においては、Aの元素にH2Oが配位し得る。
【0023】
前記美白剤に含まれる式(1)の化合物は、式(1)におけるR1、R2及びR3のうちの少なくとも2種がHである化合物であり、該化合物としては、具体的には、下記式(2)〜(4)に示す化合物が例示される。
【0024】
【化3】

(式中、Aは、周期律表の7族及び8族の元素のうちの1種を示し、Jは、ハロゲン元素、NO3、OH、又はH2Oを示し、R1は、H、Cl、CH3、NO2、又は、1位で結合したピロリジンを示す。)
【0025】
【化4】

(式中、Aは、周期律表の7族及び8族の元素のうちの1種を示し、Jは、ハロゲン元素、NO3、OH、又はH2Oを示し、R2は、H、OCH2COOC25、又はOCH3を示す。)
【0026】
【化5】

(式中、Aは、周期律表の7族及び8族の元素のうちの1種を示し、Jは、ハロゲン元素、NO3、OH、又はH2Oを示し、R3は、H又はCH3を示す。)
【0027】
より具体的には、上記式(2)に示す化合物としては、R1が1位で結合したピロリジンである、下記式(5)に示す化合物が挙げられる。
【0028】
【化6】

(式中、Aは、周期律表の7族及び8族の元素のうちの1種を示し、Jは、ハロゲン元素、NO3、OH、又はH2Oを示す。)
【0029】
また、上記式(3)に示す化合物としては、例えば、下記式(6)又は、式(7)に示す化合物が挙げられる。
【0030】
【化7】

(式中、Aは、周期律表の7族及び8族の元素のうちの1種を示し、Jは、ハロゲン元素、NO3、OH、又はH2Oを示す。)
【0031】
【化8】

(式中、Aは、周期律表の7族及び8族の元素のうちの1種を示し、Jは、ハロゲン元素、NO3、OH、又はH2Oを示す。)
【0032】
また、上記式(4)に示す化合物としては、例えば、下記式(8)に示す化合物が挙げられる。
【0033】
【化9】

(式中、Aは、周期律表の7族及び8族の元素のうちの1種を示し、Jは、ハロゲン元素、NO3、OH、又はH2Oを示す。)
【0034】
前記美白剤に含まれる式(1)の化合物としては、美白剤のメラニン生成抑制作用がより優れたものになり得るという点で、式(1)におけるR1、R2及びR3がいずれもHである下記式(9)に示す化合物が好ましい。
【0035】
【化10】

(式中、Aは、周期律表の7族及び8族の元素のうちの1種を示し、Jは、ハロゲン元素、NO3、OH、又はH2Oを示す。)
【0036】
また、式(9)に示す化合物又はその塩としては、下記式(10)又は式(11)に示すものがより好ましい。
【0037】
【化11】

【0038】
【化12】

【0039】
前記美白剤における前記式(1)に示す化合物の含有量としては、特に限定されず、例えば、0.0001〜10質量%が挙げられる。
【0040】
前記美白剤は、前記式(1)に示す化合物の他に、水やエタノールなどの溶媒、防腐剤、界面活性剤、油剤、増粘剤、pH調整剤、又は香料などを含んでいてもよい。
【0041】
次に、前記美白剤の製造方法について説明する。
【0042】
前記美白剤の製造方法は、特に限定されるものではなく、前記美白剤は、例えば、上記式(1)に示す化合物を一般的な方法によって合成することによって製造することができる。
【0043】
具体的には、前記美白剤は、例えば、上記式(1)の化合物の原料となる中間体を合成し、該中間体を用いて合成することにより製造できる。
より具体的には、前記美白剤は、例えば、炭酸ナトリウムなどのアルカリ性無機塩の存在下、溶媒中にて8−アミノキノリンとブロモ酢酸ブロミドとを反応させたうえで、さらに2,2’−ジピコリルアミンを反応させることによって中間体{2−[ビス(2−ピリジニルメチル)アミノ]−N−8−キノリニルアセトアミド}を合成し、そして、N−エチルジイソプロピルアミンなどのヒューニッヒ塩基の存在下で、該中間体にハロゲン化無機金属塩(式(1)におけるA及びJを含むハロゲン化無機金属塩)を反応させて、上記式(9)の化合物を合成することにより製造できる。
なお、中間体の原料として、例えば、8−アミノキノリンに代えて8−アミノ−6−メトキシキノリンを用いて上記と同様な操作をすることにより上記式(7)の化合物を合成することができる。また、例えば、8−アミノキノリンに代えて8−アミノ−2−メチルキノリンを用いて上記と同様な操作をすることにより上記式(8)の化合物を合成することができる。
【0044】
前記美白剤の製造においては、従来公知の一般的な器具又は装置を用いることができる。また、各反応過程における反応生成物を精製すべく、蒸留、抽出、濃縮、ろ過などの従来公知の一般的な精製方法を採用することができる。
【0045】
前記美白剤は、様々な剤型の構成成分として配合され用いられ得る。斯かる剤型としては、具体的には例えば、液剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、カプセル剤、貼付剤、軟膏剤などが挙げられる。
また、前記美白剤は、例えば、剤型に応じ、オイル、色素、界面活性剤、香料、顔料等と組み合わせて皮膚外用組成物などに配合され、医薬品、医薬部外品、又は化粧品の用途において使用することができる。
【0046】
前記美白剤は、例えば、前記式(1)に示す化合物が0.0001〜10質量%となるように、上記のごとき剤型に配合されて使用される。
【0047】
本発明は、上記例示の美白剤に限定されるものではない。また、本発明では、一般の美白剤において採用される種々の形態を、本発明の効果を損ねない範囲で採用することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明の美白剤についてさらに詳細に説明する。
【0049】
まず、上述した一般式(1)の化合物を製造すべく、その化合物の中間体(以下、H−dpaqともいう)を合成した。
【0050】
(中間体 H−dpaqの合成)
以下のようにして、中間体 H−dpaq{2−[ビス(2−ピリジニルメチル)アミノ]−N−8−キノリニルアセトアミド}を合成した。
即ち、100mL反応容器に炭酸ナトリウム1.10g(10.4mmol)と、8−アミノキノリン1.00g(6.94mmol)とを入れ窒素置換した後、脱水アセトニトリル40mLを加えた。撹拌しつつ、0℃においてブロモ酢酸ブロミド0.66mL(7.63mmol)を10分かけて徐々に加えた。1時間撹拌した後、濾別用珪藻土(製品名「Celite 500」)を用いて、白色不溶物を濾別した。そして、ロータリーエバポエーターを用いて濾液を減圧濃縮及び真空乾燥し、淡桃白色の固体を得た。
さらに、炭酸ナトリウム1.10g(10.4mmol)を加え窒素置換した後に、脱水アセトニトリル40mLを加え、撹拌しつつ、0℃において2,2’−ジピコリルアミン1.52mL(7.63mmol)を加えた。一晩撹拌した後、濾別用珪藻土(製品名「Celite 500」)を用いて、白色不溶物を濾別した。そして、ロータリーエバポエーターを用いて濾液を減圧濃縮及び真空乾燥し、淡桃白色の固体を得た。
最後に、アルミナカラム(展開溶媒 酢酸エチル:ヘキサン=1:1,Rf=0.2)によって分取精製、真空乾燥し、白色固体2.08g(收率78.3%)を得た。
【0051】
<NMRによる分析>
製造した中間体(H−dpaq)について、測定用溶媒としてCDCl3を用いて常法に従い、TMSを標準物質として、1H−NMR及び13C−NMR分析を行った。以下に中間体(H−dpaq)のNMRスペクトルデータを示す。
【0052】
1H NMR (500 MHz,CDCl3)による結果:δ(ppm)
3.53 (s, -CH2CO-, 2H) ,
4.01 (s, -CH2Py, 4H) ,
7.14 (dd, J = 4.9 Hz, J = 7.2 Hz, Py5, 2H) ,
7.55-7.50 (m, Qu3, Qu5, Qu7, 3H) ,
7.64 (ddd, J = 1.5 Hz, J = 7.5 Hz, Py4, 2H),
11.6 (s, -NHQu, 1H) ,
7.97 (d, J = 8.0 Hz, Py3, 2H) ,
8.19 (dd, J = 1.2 Hz, J = 8.6 Hz, Qu4, 1H),
8.51 (d, J = 5.1 Hz, Py6, 2H),
8.76 (dd, J = 2.6 Hz, J = 6.0 Hz, Qu6, 1H),
8.93 (dd, J = 1.4 Hz, J = 4.3 Hz, Qu2, 1H),
11.6 (s, -CONH, 1H).
【0053】
13C NMR (125.8 MHz,CDCl3)による結果:δ(ppm)
59.6 (-CH2CO-),
61.3 (-CH2Py),
116.8 (Qu6),
121.8 (Qu3),
121.9 (Qu5 or Qu7),
122.6 (Py5),
123.6 (Py3),
127.7 (Qu5 or Qu7),
134.7 (Qu8),
136.6 (Qu4),
136.8 (Py4),
139.1 (Qu9),
148.3 (Qu2),
149.4 (Py6),
158.5 (Py2),
169.8 (C=O).
【0054】
さらに、合成した化合物について、全自動元素分析装置(Perkin-Elmer社製 製品名「2400 II」)を用いて、炭素、水素、窒素の含有量を定量した。
【0055】
分析結果の評価:
理論値(C23215O)− C,72.04; H,5.52; N,18.26.
実測値− C,72.25; H,5.45; N,18.36.
【0056】
(実施例1)
上記のごとく合成した中間体(H−dpaq)を用いて、上記式(10)に示す化合物{(2−[ビス(2−ピリジニルメチル)アミノ]−N−8−キノリニルアセトイミダート)マンガン(II)クロリド、以下[Mn(dpaq)Cl]とも記す}を製造した。
即ち、H−dpaqの100mg(0.26mmol)をメタノール1.1mLに溶解した後、N−エチルジイソプロピルアミン47μL(0.27mmol)を加えた。さらに、塩化マンガン(II)四水和物55mg(0.28mmol)のメタノール溶液0.5mLを加えると、溶液は濃いオレンジ色となった。24時間撹拌した後、生成した錯体結晶を濾取し、オレンジ色の固体を119mg(収率95%)得た。そして、ジクロロメタン/ヘキサンにより再結晶操作を行った。
【0057】
(実施例2)
上記のごとく合成した中間体(H−dpaq)を用いて、上記式(11)に示す化合物{(2−[ビス(2−ピリジニルメチル)アミノ]−N−8−キノリニルアセトイミダート)鉄(III)クロリド]クロリド、以下[FeIII(dpaq)Cl]Clとも記す}を製造した。
即ち、H−dpaqの100mg(0.26mmol)をメタノール1.1mLに溶解した後、N−エチルジイソプロピルアミン47μL(0.27mmol)を加えた。さらに、塩化鉄(III)六水和物84mg(0.31mmol)のメタノール溶液0.5mLを加えると、溶液は濃緑色になった。24時間撹拌した後、生成した錯体結晶を濾取し、光沢を帯びた暗緑色の固体を120mg(収率86%)得た。そして、ジクロロメタン/ヘキサンにより再結晶操作を行った。
【0058】
<エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI−MS)による分析>
実施例1及び2において調製したものをESI−MSによって下記の条件で分析した。
質量分析装置:イオンスプレーTOF(JEOL社製 「JMS−T100CS」)
イオン化方式:イオンスプレー
イオン化モード:Positive mode
MS分析範囲:m/z 250-2000
【0059】
実施例1において調製したものをESI−MSによって分析したところ、下記の結果が得られた。斯かる結果及び上記の中間体のNMR分析による結果から、実施例1で得られた化合物が、上記の式(10)に示す化合物であることが同定された。
[MnII(dpaq)]+ 437.
理論値(C2324ClMnN53 (Mn(dpaq)Cl)・2H2O):
C,54.29; H,4.75; N,13.76.
実測値:C,45.52; H,4.13; N,10.91.
【0060】
また、実施例2において調製したものを同様に分析したところ、下記の結果が得られた。斯かる結果及び上記の中間体のNMR分析による結果から、実施例2で得られた化合物が、上記の式(11)に示す化合物であることが同定された。
[FeIII(dpaq)Cl]+ 473.
理論値(C2426Cl4FeN53 [Fe(dpaq)Cl]Cl・CH2Cl2・2H2O):
C,45.74; H,4.16; N,11.11.
実測値:C,45.52; H,4.13; N,10.91.
【0061】
試験サンプルとして各実施例の化合物を所定濃度となるように添加したもの、また、比較サンプルとしてグラブリジン、EUK−134(エチルビスイミノメチルグアヤコールマンガンクロリド)を添加したもの、及び無添加のもの(control)を用いて、以下のようにして様々な試験によりメラニン生成抑制作用を評価した。
なお、グラブリジンは、チロシナーゼ活性阻害作用を有するものとして知られており、EUK−134は、抗酸化作用を有するものとして知られているものである。
【0062】
<メラニン生成の抑制試験(in vitro)>
B16マウスメラノーマ細胞を6wellプレートに2.5×104cells/mlずつ播種し、10%の牛胎児血清(FBS)及び1%のペニシリン・ストレプトマイシンを含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)を用いて24時間培養した。
一方、試験サンプル、比較サンプルのそれぞれを所定濃度含むように調整した試験用培地を準備した。
上記のごとく24時間培養した後、培地を上記の試験用培地に交換し、さらに72時間培養を続けた。
斯かる培養の後、培地を除去し、3N水酸化ナトリウムを用いて細胞を溶解させ、メラニン量を定量すべく、溶解液の405nmにおける吸光度を測定した。
メラニンの定量においては、標準品として合成メラニン(SIGMA社製)を用いて作成した検量線により、細胞当たりのメラニン量を算出した。
細胞数の測定は、WST−8法に準じて行った。即ち、細胞増殖測定用試薬[製品名「Cell Counting Kit-8」(同仁化学研究所製)]を用いて、生細胞中のミトコンドリア脱水素酵素によるテトラゾリウム塩のホルマザン色素への変換を指標にして測定した。
斯かる試験結果を無添加のもの(control)に対する相対値としてグラフ化して表したものを図1に示す。なお、グラブリジンの1.25μg/mL濃度は、約3.85μM濃度に相当する。
【0063】
<α−MSH存在下におけるメラニン生成の抑制試験(in vitro)>
紫外線などの刺激により、αメラニン細胞刺激ホルモン(α−MSH)などのメラノサイト刺激因子がケラチノサイトから産生され、例えばα−MSHがメラノコルチン1受容体(MC1R)に結合することによりメラニン生成が進行していくことが知られている。そこで、α−MSHがMC1Rへ結合することを阻害する効果を、各試験サンプル及び比較サンプルがどの程度有するかを確認すべく、α−MSH存在下において、上記のメラニン生成の抑制試験と同様な試験を行った。
詳しくは、B16マウスメラノーマ細胞を6wellプレートに2.5×104cells/mlずつ播種し、10%の牛胎児血清(FBS)及び1%のペニシリン・ストレプトマイシンを含むDMEMを用いて24時間培養した。
一方、試験サンプル、比較サンプルのそれぞれを所定濃度含むように調整した試験用培地を準備した。
上記のごとく24時間培養した後、培地を上記の試験用培地に交換し、さらに24時間培養を続け、その後、α−MSHをそれぞれ1nMずつ添加した。
さらに48時間培養後、培地を除去し、3N水酸化ナトリウムを用いて細胞を溶解させ、メラニン量を定量すべく、溶解液の405nmにおける吸光度を測定した。
そして、上記のメラニン生成の抑制試験と同様にして、細胞当たりのメラニン量を算出した。
斯かる試験結果を無添加のもの(control)に対する相対値としてグラフ化して表したものを図2に示す。
【0064】
<エンドセリン−1(ET−1)産生抑制試験>
ケラチノサイトから産生される、エンドセリン−1(ET−1)などのメラノサイト刺激因子によってメラノサイトが活性化され、メラニンの生成が促進されることが知られている。そこで、ET−1の産生を抑制する効果を各試験サンプル及び比較サンプルがどの程度有するかを確認すべく、各試験サンプル及び比較サンプルを用いて、ET−1産生抑制試験を行った。
詳しくは、ヒト表皮角化細胞を96wellプレートに3×104cells/mlずつ播種し、10%の牛胎児血清(FBS)及び1%のペニシリン・ストレプトマイシンを含むDMEMを用いて24時間培養した。
一方、試験サンプル、比較サンプルのそれぞれを所定濃度含むように調整した試験用培地を準備した。
上記のごとく24時間培養した後、培地をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に置換し、15mJ/cm2のUVBを照射した。UVB照射後、培地を上記の試験用培地に交換し、さらに72時間培養した。
そして、培地中に放出されたET−1の量を、測定機器「多目的マイクロプレートリーダー 製品名(Power scan HT)大日本住友製薬社製」)を用いてELISA法により測定し、検量線を作成することにより、細胞当たりのET−1量を算出した。なお、細胞数の測定は、上述の試験における方法と同様の方法により行った。
斯かる試験結果を無添加のもの(control)に対する相対値としてグラフ化して表したものを図3に示す。なお、ET−1産生量が低いほどメラニンの生成が抑制され得る。
【0065】
<培養皮膚モデルを用いた美白効果試験>
培養皮膚モデルとして製品名「MEL-300 asian donor」(クラボウ社製)を用い、培養培地としてEPI−100長期維持培地(クラボウ社製)を用い、試験を行った。
予め、試験サンプル、比較サンプルのそれぞれを所定濃度含むように調整した水溶液を準備しておいた。
上記の培養皮膚モデルを1日培養した後、各サンプルを含む上記水溶液をそれぞれ100μLずつ皮膚組織上に添加し、2週間後、皮膚組織の様子をデジタル画像として取り込み、ソフトウェア(製品名「Adobe Photoshop」)を用いてそれぞれの輝度を測定した。
斯かる試験結果を無添加のもの(control)に対する相対値としてグラフ化して表したものを図4に示す。なお、図4においては、輝度が高いほど美白効果が高い。
【0066】
B16マウスメラノーマ細胞を用いたメラニン生成の抑制試験から、実施例1及び2で製造した化合物が濃度依存的なメラニン生成抑制効果を有していることが認められる。
また、上記細胞を用いてα−MSH存在下において同様に行った試験も参照すると、特に実施例1で製造した化合物のメラニン生成抑制効果は、α−MSHを添加しない場合よりα−MSHを添加した場合の方が高い。このことから、実施例1で製造した化合物は、MC1Rの発現阻害作用もしくは拮抗作用を有していることが考えられる。
さらに、上記のET−1産生抑制試験から、実施例1及び2で製造した化合物が濃度依存的なET−1産生抑制効果を有していることが認められる。その効果は、実施例2で製造した化合物の方が高いと考えられる。
また、培養皮膚モデルを用いた美白効果試験から、実施例1及び2で製造した化合物は、アルブチンより低濃度でほぼ同等の効果を示した。なお、アルブチンの0.25質量%濃度は、約9.2mM濃度に相当する。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の美白剤は、例えば、皮膚外用剤の構成成分として配合されて好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物又はその塩を含むことを特徴とする美白剤。

(式中、Aは、周期律表の7族及び8族の元素のうちの1種を示し、Jは、ハロゲン元素、NO3、OH、又はH2Oを示し、R1は、H、Cl、CH3、NO2、又は1位で結合したピロリジンを示し、R2は、H、OCH2COOC25、又はOCH3を示し、R3は、H又はCH3を示し、且つ、R1、R2及びR3のうちの少なくとも2種がHである。)
【請求項2】
前記式(1)のR1、R2及びR3がいずれもHである請求項1記載の美白剤。
【請求項3】
前記式(1)のAが、前記7族の元素としてのMn、又は、前記8族の元素としてのFeである請求項1又は2記載の美白剤。
【請求項4】
前記式(1)のJが、前記ハロゲン元素としてのClである請求項1〜3のいずれか1項に記載の美白剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−23474(P2013−23474A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160111(P2011−160111)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000112266)ピアス株式会社 (49)
【Fターム(参考)】