説明

耐プラズマ性部材

【課題】強度及び熱伝導率に優れた耐プラズマ性部材を提供する。
【解決手段】 一態様の耐プラズマ性部材は、少なくとも2相以上のセラミックスであり、イットリウム、ジルコニウムと第3の元素の中から選ばれる1種以上の酸化物を含み、前記イットリウム、前記ジルコニウムと前記第3の元素は、それぞれ酸化物換算で40mol%以上60mol%以下、5mol%以上20mol%以下、35mol%以上50mol%以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐プラズマ性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体または液晶製造のためのドライエッチング工程、CVD成膜工程、レジストを除去するアッシング工程などの各プロセスにおいては、低圧高密度プラズマ源として、反応性の高いフッ素や塩素などのハロゲン系腐食性ガスが多用されている。
【0003】
低圧高密度プラズマは、電子温度及びイオン衝撃エネルギーが高いため、前記腐食性ガス及びプラズマに直接曝される部材には、高い耐プラズマ性が要求される。
このため、上記のような工程で、ハロゲンプラズマに曝される部材には、高純度アルミナ、窒化アルミニウム、イットリア、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(以下。YAGと記載)などのセラミックスが用いられている。
【0004】
これらの中でも、ハロゲンガス等の腐食性ガスやプラズマに対する耐食性の高い材料として、特に、イットリアやYAGなどのセラミックスが、プラズマ処理装置に用いられていた。イットリアセラミックスは、焼結体としても用いられるが、原料が高価であり、大型品や緻密質の焼結体の作製が困難であり、プラズマ処理装置に用いられる際、気孔部分からエッチングされやすく、ダストが発生しやすいという課題を有していた。また、イットリアセラミックス素材自体の強度が低く、使用できる装置部材として制限があり、製造歩留の低下にもつながっている。
【0005】
これらの問題に対して、イットリアセラミックスに高強度素材であるジルコニウムや酸化アルミニウム等を添加して、高強度かつ耐食性に優れる提案がされている(特許文献1参照)。
【0006】
また、イットリア焼結体は、機械的強度や破壊靱性値が低いため、例えば、アルミニウムなどの金属基材表面に溶射等により薄膜を形成した部材がエッチャー内の部材などに使用されている(特許文献2参照)。
【0007】
イットリアは、フッ素系ガスと反応して主にYF(融点1152℃)を生成し、また、塩素系ガスと反応して、YCl(融点680℃)を生成する。これらのハロゲン化合物は、従来から半導体製造装置部材に用いられている材質である石英ガラス、アルミナ、窒化アルミニウム等との反応により生成されるSiF(融点−90℃)、SiCl(融点−70℃)、AlF(融点1040℃)、AlCl(融点178℃)等のハロゲン化合物よりも融点が高い。このため、イットリアはハロゲン系腐食性ガスやそのプラズマに曝された場合であっても安定した高い耐食性を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−273823号公報
【特許文献2】特開2002−080954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載されているイットリアセラミックスでは、耐プラズマ性や強度には優れるものの、熱伝導率が極めて低く、高温装置での使用ができない。さらに、装置稼働中に熱衝撃によりイットリアセラミックスが破損し、破片がパーティクルとなり、コンタミを発生させる危惧がある。また、焼結方法を水素焼成としており、非常に大掛かりな装備が必要となるため、製造コストが高くなる。
【0010】
特許文献2に記載されているようなイットリア溶射膜は、気孔が多く、プラズマに曝された場合、ウェーハ−上のパーティクルの発生につながる。更に基材まで貫通する気孔が存在する場合は、保護膜として機能しないものとなる。また、添加物を添加することにより、イットリアのもつ高いプラズマ性に優れた性質を劣化させる危惧がある。
【0011】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、強度及び熱伝導率に優れた耐プラズマ性部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一態様の耐プラズマ性部材は、少なくとも2相以上のセラミックスであり、イットリウム、ジルコニウムと第3の元素の中から選ばれる1種以上の酸化物を含み、前記イットリウム、前記ジルコニウムと前記第3の元素は、それぞれ酸化物換算で、40mol%以上60mol%以下、5mol%以上20mol%以下、35mol%以上50mol%以下であることを特徴とする。
【0013】
一態様の耐プラズマ性部材の第3の元素は、アルミニウム、スカンジウム、ニオブ、サマリウム、イッテルビウム、エルビウム、ハフニウムとセリウムの中から選ばれる1種以上の元素であることが望ましい。
【0014】
一態様の耐プラズマ性部材は、酸化イットリウムと、酸化イットリウムと第3の元素のうちのアルミニウム、スカンジウム、ニオブ、サマリウム、イッテルビウムとエルビウムのいずれか1種以上の酸化物との第1の固溶体と、酸化イットリウムと酸化ジルコニウムとの第2の固溶体と、酸化イットリウムと酸化ジルコニウムと第3の元素のうちのハフニウムとセリウムの一方または両方の酸化物との第3の固溶体の中から選ばれる少なくとも2種の化合物が含まれることが望ましい。
【0015】
一態様の耐プラズマ性部材は、40mol%以上60mol%以下の前記酸化イットリウムと、5mol%以上20mol%以下の前記酸化ジルコニウムと、35mol%以上50mol%以下の酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化スカンジウム、酸化ネオジウム、酸化ニオブ、酸化サマリウム、酸化イッテルビウム、酸化エルビウムと酸化セリウムの中から選ばれる1種以上の前記化合物とを含む造粒粉を大気雰囲気または還元性雰囲気で焼成したものであることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、耐プラズマ性に優れ、かつ高強度であり、熱伝導性を失わない耐プラズマ性部材を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る一態様の耐プラズマ性部材は、イットリウム、ジルコニウムと第三の元素を含み、少なくとも2相以上のセラミックスである。イットリウム、ジルコニウムと第3の元素X(イットリウム:ジルコニウム:第三の元素)は、それぞれ酸化物換算で40mol%以上60mol%以下5mol%以上20mol%以下35mol%以上50mol%以下である。第3の元素Xとしては、アルミニウム、スカンジウム、ニオブ、サマリウム、イッテルビウム、エルビウム、ハフニウムとセリウムの中から選ばれる1種以上が挙げられる。この耐プラズマ性部材は、耐プラズマ性に優れ、かつ高強度であり、更に熱伝導性の高い特徴を持つ。
【0018】
酸化イットリウムは耐プラズマ性に優れるが、曲げ強度、破壊靱性や熱伝導率等の特性があまり高くない。そこで、酸化イットリウムに、酸化ジルコニウムや、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化スカンジウム、酸化ネオジウム、酸化ニオブ、酸化サマリウム、酸化イッテルビウム、酸化エルビウムと酸化セリウムの中から選ばれる1種以上の酸化物である第3の元素の酸化物を添加した原料を特定の組成比になるように調整した物を焼成しセラミックスを得る。
【0019】
一態様の耐プラズマ性部材に含まれる相は、耐プラズマ性部材の原料の酸化物の種類と比率にもよるが、酸化イットリウムと、酸化イットリウムと第3の元素のうちのアルミニウム、スカンジウム、ニオブ、サマリウム、イッテルビウムとエルビウムのいずれか1種以上の酸化物との第1の固溶体と、酸化イットリウムと酸化ジルコニウムとの第2の固溶体であるイットリウム安定化ジルコニアと、酸化イットリウムと酸化ジルコニウムと第3の元素のうちのハフニウムとセリウムの一方または両方の酸化物との第3の固溶体の中から選ばれる少なくとも2種の化合物が挙げられる。
【0020】
耐プラズマ性部材に含まれる相は、X線回折測定により調べることができる。耐プラズマ性部材に含まれる組成は、ICP発光分光分析または、誘導結合プラズマ質量分析によって測定し、酸化物換算で算出する。
【0021】
第3の元素Xにアルミニウムを用いた場合、一態様の耐プラズマ性部材には第1の固溶体として、YAl12とYAlOとが少なくとも含まれ、第1の固溶体は一態様の耐プラズマ性部材の50mol%以上となる。第3の元素Xに、アルミニウム、スカンジウム、ニオブ、サマリウム、イッテルビウムとエルビウムのいずれか1種以上を用いた場合、一態様の耐プラズマ性部材にはY12とYXOとが少なくとも含まれ、これらは一態様の耐プラズマ性部材の50mol%以上となる。第3の元素Xにハフニウムとセリウムのいずれか一方または両方を用いた場合、一態様の耐プラズマ性部材には第3の固溶体として50mol%以上が少なくとも含まれる。
【0022】
一態様の耐プラズマ性部材は、下記比較例9に示す100%酸化イットリウムからなる耐プラズマ性部材を100Wのプラズマソース電力で生成したCF/CHFプラズマに露出した際のエッチレート(単位時間あたりの侵食深度)を1.0とした際に、前記エッチレートが1.1以下である。エッチレートが1.1以下であれば、100%酸化イットリウムの優れた耐プラズマ性を失わないため、プロセス対象物の汚染を防ぐ観点から好ましい。エッチレートが1.0以下であれば、100%酸化イットリウム以上の耐プラズマ性であることが好ましい。
【0023】
一態様の耐プラズマ性部材は、曲げ強度が150MPa以上である。曲げ強度が150MPa未満であると、強度の観点から、使用可能な部材として制限があることがあり、半導体装置等の製造プロセス中に、破損の可能性があることが好ましくない。なお、本発明における曲げ強度は、JIS R1601で定められる4点曲げ強度である。曲げ強度が200MPa以上であると、破損の可能性をより小さくすることができることが好ましい。
【0024】
一態様の耐プラズマ性部材は、熱伝導率(W/mK)が5.0W/mK以上である。熱伝導率が5.0以上であると、プロセス条件の制限が少なくなり、熱衝撃耐性も優れることが好ましい。なお、本発明における熱伝導率は、JIS R1611で定められる値である。熱伝導率が5.5W/mK以上であると、プロセス処理時間が低減し、コストダウンにつながる。また部材の温度ムラが生じず、局所的にエッチングされる恐れがない。
【0025】
一態様の耐プラズマ性部材は、開気孔率が1.0以下であることが好ましい。開気孔率が1.0以下であると、耐プラズマ性部材はより緻密でありエッチレートに優れることがより好ましい。開気孔率は、200倍〜500倍の倍率の顕微鏡写真から断面画像解析法により求めた値である。
【0026】
一態様の耐プラズマ性部材の原料に含まれる酸化イットリウムは、原料の40mol%以上60mol%以下である。酸化イットリウムが原料の40mol%より少ないと、第3の成分の含有率に関係なく耐プラズマ性が著しく低下する。一方、酸化イットリウムが原料の60mol%より多いと、熱伝導率が低下する。一態様の耐プラズマ性部材の原料に含まれる酸化イットリウムは、原料の50mol%以上55mol%以下であると、耐プラズマ性、曲げ強度及び熱伝導率に優れた部材を得ることができるため好ましい。
【0027】
一態様の耐プラズマ性部材の原料に含まれる酸化ジルコニウムは、原料の5mol%以上20mol%以下である。酸化ジルコニウムが原料の5mol%より少ないと、酸化イットリウムと第3の成分の含有率に関係なく耐プラズマ性と熱伝導率が低下する。一方、酸化ジルコニウムが原料の20mol%より多いと、曲げ強度が低下する。一態様の耐プラズマ性部材の原料に含まれる酸化ジルコニウムは、原料の10mol%以上20mol%以下であると、耐プラズマ性、曲げ強度及び熱伝導率に優れた部材を得ることができるため好ましい。
【0028】
一態様の耐プラズマ性部材の原料に含まれる第3の元素の酸化物は、原料の35mol%以上50mol%以下である。第3の元素の酸化物が原料の35mol%より少ないと、曲げ強度と熱伝導率が低下する。一方、第3の元素の酸化物が原料の50mol%より多いと、耐プラズマ性と熱伝導率が低下する。一態様の耐プラズマ性部材の原料に含まれる酸化イットリウムは、原料の35mol%以上40mol%以下であると、耐プラズマ性、曲げ強度及び熱伝導率に優れた部材を得ることができるため好ましい。
【0029】
一態様の耐プラズマ性部材のイットリウム:第3の元素は1:0.67〜1.25であると、融点が低下し、より緻密化するという利点がある。
また、イットリウム:ジルコニウムは、95:5〜80:20であると、融点が下がり緻密化し、強度、耐プラズマ性ともに向上するという利点がある。
【0030】
次に、一態様の耐プラズマ性部材の製造方法について説明する。
一態様の耐プラズマ性部材は、40mol%以上60mol%以下の前記酸化イットリウムと、5mol%以上20mol%以下の前記酸化ジルコニウムと、35mol%以上50mol%以下の酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化スカンジウム、酸化ネオジウム、酸化ニオブ、酸化サマリウム、酸化イッテルビウム、酸化エルビウムと酸化セリウムの中から選ばれる1種以上の前記化合物とを含む原料を必要に応じてボールミルなどで粉砕混合し、均一に分散させてスラリーを得る。より好ましい原料は、50mol%以上55mol%以下の前記酸化イットリウムと、5mol%以上10mol%以下の前記酸化ジルコニウムと、35mol%以上40mol%以下の酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化スカンジウム、酸化ネオジウム、酸化ニオブ、酸化サマリウム、酸化イッテルビウム、酸化エルビウムと酸化セリウムの中から選ばれる1種以上の前記化合物とを含む混合物である。
【0031】
得られたスラリーをスプレードライヤにて乾燥造粒することにより、例えば、平均粒径が10μm以上50μm以下の造粒粉を得る。例えば、得られた造粒粉を1ton/cmの圧力でCIP成形(冷間静水等方圧プレス成形)により成形体を得る。必要に応じて成形体を加工しても良い。
【0032】
次に、成形体を大気雰囲気または還元性雰囲気で焼成する。焼成温度はいずれの雰囲気であっても1600℃以上1800℃以下であることが好ましい。還元性雰囲気は、水素ガスまたは不活性ガスを含む水素ガス雰囲気が好ましい。大気雰囲気で焼成した場合、耐プラズマ性部材の開気孔率は、2.0以下とすることができる。還元性雰囲気で焼成した場合、開気孔率は1.0以下とすることができる。
【実施例】
【0033】
表1に示す材料を、樹脂入りのボールミルで5時間以上混合し、均一に分散させてスラリーを得る。得られたスラリーをスプレードライヤにて乾燥造粒することにより、平均粒径が10μm以上50μm以下の造粒粉を得る。得られた造粒粉を1.5ton/cmの圧力でCIP成形により成形体を得る。成形体を100mm×100mm×10mmの板状に加工する。加工された成形体を水素雰囲気で、1750℃で、5時間焼成する。
【0034】
得られた焼成体の、エッチレート、曲げ強度と熱伝導率を上述の方法で測定する。結果を表1にまとめる。
【0035】
【表1】

【0036】
表1に示すように、3成分含まれていても組成比が範囲外であると熱伝導率が低下する。また、3成分のうち1つでも範囲外があると、エッチレート、曲げ強度、熱伝導率のいずれかに低下が見られる。従って、同一材質であっても本発明の組成比がエッチングレート、強度、伝導率を決定する大きな要因となっていることが理解できる。

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、耐プラズマ性半導体部材として好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2相のセラミックスであり、
イットリウム、ジルコニウムと第3の元素の中から選ばれる1種以上の酸化物を含み、
前記イットリウム、前記ジルコニウムと前記第3の元素は、それぞれ酸化物換算で40mol%以上60mol%以下、5mol%以上20mol%以下、35mol%以上50mol%以下であることを特徴とする耐プラズマ性部材。
【請求項2】
前記第3の元素は、アルミニウム、スカンジウム、ニオブ、サマリウム、イッテルビウム、エルビウム、ハフニウムとセリウムの中から選ばれる1種以上の元素であることを特徴とする耐プラズマ性部材。
【請求項3】
酸化イットリウムと、酸化イットリウムと第3の元素のうちのアルミニウム、スカンジウム、ニオブ、サマリウム、イッテルビウムとエルビウムのいずれか1種以上の酸化物との第1の固溶体と、酸化イットリウムと酸化ジルコニウムとの第2の固溶体と、酸化イットリウムと酸化ジルコニウムと第3の元素のうちのハフニウムとセリウムの一方または両方の酸化物との第3の固溶体の中から選ばれる少なくとも2種の化合物が含まれることを特徴とする請求項1または2に記載の耐プラズマ性部材。
【請求項4】
40mol%以上60mol%以下の前記酸化イットリウムと、5mol%以上20mol%以下の前記酸化ジルコニウムと、35mol%以上50mol%以下の酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化スカンジウム、酸化ネオジウム、酸化ニオブ、酸化サマリウム、酸化イッテルビウム、酸化エルビウムと酸化セリウムの中から選ばれる1種以上の前記化合物とを含む造粒粉を大気雰囲気または還元性雰囲気で焼成したものであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の耐プラズマ性部材。


【公開番号】特開2013−79155(P2013−79155A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218488(P2011−218488)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】