説明

耐火物屑からのMgO−Cレンガ屑の分別回収方法

【課題】 取鍋などのMgO−Cレンガ屑とその他の種類のレンガ屑や付着した地金等から構成される耐火物屑からMgO−Cレンガ屑の分別回収において、手選よりも簡単で、さらに手選よりも粒度の細かいものまで分別回収する方法を提供する。
【解決手段】 取鍋などの耐火物レンガであるMgO−Cレンガ屑とその他の種類のレンガ屑や付着した地金等から構成される耐火物屑に対して、0.2〜1.5MPaの加圧蒸気を5〜10時間接触させることによってMgO−Cレンガ屑のみを粉化させる粉化処理を行い、該粉化処理した耐火物屑を目開き1〜5mmのふるいにかけて、ふるい下産物のMgO−Cレンガ屑を分別回収する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気炉や製鋼用取鍋等の耐火物として使用されたMgO−Cレンガ屑をリサイクルするために、これらのMgO−Cレンガ屑とその他の種類のレンガ屑やレンガ屑に付着した地金等から構成される耐火物屑からMgO−Cレンガ屑を分別回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所内において、MgO−Cレンガは、電気炉や製鋼用取鍋等の耐火物として大量に使用されている。これらの耐火物レンガは、溶鋼やスラグが直接接触して損傷するため、定期的に張り替えが行われる。その際、大量のMgO−Cレンガ屑が発生する。現在、MgO−Cレンガ屑は、埋立処分されるか、あるいは耐火物原料や製鋼副原料等としてリサイクルされている。
【0003】
例えば、MgO−Cレンガ屑を耐火物原料としてリサイクルする例は、MgO−Cレンガ屑から再生耐火レンガを製造する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。さらにMgO−Cレンガ屑等カーボン含有耐火物屑から吹き付け補修材を製造する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。また、MgO−Cレンガ屑を製鋼副原料としてリサイクルする例として、特許文献3にMgO−Cレンガ屑を耐火物の溶損防止のために投入される軽焼ドロマイトの代替として使用する例が開示されている。
【0004】
ところで、電気炉や製鋼用取鍋等の耐火物には、MgO−Cレンガの他、High−Al23レンガ、Al23−MgO−Cレンガ、SiO2−Al23レンガなど、様々な種類の耐火物が使用されている。このため、電気炉や取鍋等の耐火物の張り替え時に発生する耐火物屑には、MgO−Cレンガ屑以外の耐火物屑が混在しており、また、一部地金が付着しているものもある。したがって、MgO−Cレンガ屑を上記の例のようにリサイクルするには、種々の耐火物屑や付着した地金が混在した耐火物屑からMgO−Cレンガ屑のみを分別回収する必要がある。
【0005】
従来の、取鍋から発生した耐火物屑からのMgO−Cレンガ屑の分別フローを図2に示す。従来、図2に見られるように、取鍋耐火物張り替え時の耐火物屑からのMgO−Cレンガ屑の分別は、発生した耐火物屑全量を回収し、手選によって約50mmを超える塊状のMgO−Cレンガ屑を分別回収してリサイクルしていた。すなわち、破砕処理や磁選による付着した地金除去などの処理を経て、上記した例のように、様々な方法でレンガをリサイクルしている。しかし、手選による分別では、耐火物屑の1つ1つを手に取って選別するため、大変時間がかかり、また、5〜50mm程度に細かく砕けた屑状の耐火物までは分別できていなかった。
【0006】
【特許文献1】特開平08−319154号公報
【特許文献2】特開平09−278548号公報
【特許文献3】特開平10−317040号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明では、MgO−Cレンガ屑とその他の種類のレンガ屑や付着した地金等から構成される耐火物屑からのMgO−Cレンガ屑の分別回収において、時間と労力削減のために、手選よりも簡単で、さらに手選よりも粒度の細かいものまで分別できる方法を開発することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
電気炉や取鍋などの耐火物である耐火レンガ等の使用済みのレンガ屑である、MgO−Cレンガ屑と、その他のレンガ屑や付着した地金等から構成される耐火物屑に対して、0.2〜1.5MPaの加圧蒸気を5〜10時間接触させることによって、MgO−Cレンガ屑のみを粉化させる粉化処理をした後、この粉化処理した耐火物屑を目開き1〜5mmのふるいにかけて、ふるい下産物を回収するふるい分け処理を行い、ふるい下産物であるMgO−Cレンガ屑の粉末を分別回収する。
【0009】
この場合、MgO−Cレンガ屑を含む耐火物屑に対して、上記の条件で加圧蒸気を接触させることによって、MgO−Cレンガ屑の主成分であるMgOが水和反応を起こすため、MgO−Cレンガ屑は体積が膨張し粉化する。すなわち、
MgO+H2O→Mg(OH)2…(1)
により水和反応して粉化する。
【0010】
一方、High−Al23レンガ屑、SiO2−Al23レンガ屑や付着した地金などMgOをほとんど含有していないものは、加圧蒸気を接触させても粉化しない。また、加圧蒸気の圧力や接触時間が上記の範囲内であれば、MgOの含有率がMgO−Cレンガ屑よりも低いAl23−MgO−Cレンガも、ひびが入る程度となるが、粉化するにはいたらない。このため、加圧蒸気に接触させた後の耐火物屑を目開き1〜5mmのふるいにかけ、ふるい下産物を回収することによって、ほぼMgO−Cレンガ屑のみを回収する。
【0011】
さらに、上記の方法で耐火物屑に加圧蒸気を接触させる前に、耐火物屑をふるい分け処理する時に使用するものと同じ目開き1〜5mmのふるいにかけてふるい下を除去して耐火物屑の発生時から存在するMgO−Cレンガ屑以外の微粉の混入を防止した後、ふるい上の耐火物屑に0.2〜1.5MPaの加圧蒸気を5〜10時間接触させることによって、MgO−Cレンガ屑のみを粉化させる粉化処理をした後、この粉化処理した耐火物屑を目開き1〜5mmのふるいにかけて、ふるい下産物を回収することによって、より精度の高いMgO−Cレンガ屑の分別回収を実施する。
【0012】
加圧蒸気の圧力を0.2〜1.5MPaに定めた理由は、次の理由による。加圧蒸気の圧力が0.2MPa未満では、MgO−Cレンガ屑の一部は崩壊するものの、粉化は不十分で、粉化処理後の耐火物屑をふるいにかけると、ふるい下産物すなわちMgO−Cレンガ屑の回収量が少なくなる。また、耐火物屑にAl23−MgO−Cレンガ屑を含む場合、加圧蒸気の圧力が1.5MPaを超えると、Al23−MgO−Cレンガ屑の一部が粉化し、ふるい下産物として回収されるため、MgO−Cレンガ屑のみの分別ができないことによる。
【0013】
加圧蒸気との接触時間を5〜10時間とした理由は、次の理由による。加圧蒸気との接触時間が5時間未満では、MgO−Cレンガ屑が十分に粉化せず、粉化処理後の耐火物屑をふるいにかけると、ふるい下産物すなわちMgO−Cレンガ屑の回収量が少なくなる。また、加圧蒸気との接触時間10時間でほとんど粉化が完了するため、これ以上時間をかけても粉化はほとんど進行しないことによる。
【0014】
ふるいの目開きを1〜5mmとした理由は、次の理由による。ふるいの目開きが1mm未満ではふるい下産物すなわちMgO−Cレンガ屑の回収量が少なくなる。また、目開き5mmを超えるふるいでは、予備処理をしない場合はMgO−Cレンガ屑以外の混入割合が多くなり、予備処理をする場合は予備処理によって除去されるMgO−Cレンガ屑が多くなり、MgO−Cレンガ屑の回収量が少なくなることによる。
【0015】
本発明における取鍋から発生した耐火物屑からのMgO−Cレンガ屑の分別フローを図1に示す。取鍋耐火物を張り替える際に、耐火物屑全量を回収し、この回収した全量を予備処理し、目開き1〜5mmのふるいによるふるい上に対し、MgO−Cレンガ屑の粉化処理を実施し、ふるい分け処理して、ふるい下産物を回収してリサイクルする方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の手段としたことで、MgO−Cレンガ屑と、その他の種類のレンガ屑や付着した地金等から構成される耐火物屑からMgO−Cレンガ屑の分別回収においては、手選に頼らないため、時間及び労力の削減が期待できる。また、手選では50mmを超える塊状のレンガ屑しか選別できないが、本発明では5〜50mm程度の粒度の細かい屑状のレンガも選別可能であり、MgO−Cレンガ屑の回収量を増加することができる。さらに、予備処理で予め1〜5mmの目開きのふるいを用いてふるい下を除去しておくことで、よりMgO−Cレンガ屑の分別回収の精度を高めることができる。本発明によって得られたMgO−Cレンガ屑は、耐火物の原料や、製鋼副原料等としてリサイクルすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明を実施するための最良の形態について説明する。図1に示すように取鍋耐火物張り替えにおいて、MgO−Cレンガ屑、High−Al23レンガ屑、Al23−MgO−Cレンガ屑、SiO2−Al23レンガ屑、レンガ屑に付着した地金が混在した取鍋の耐火物屑からMgO−Cレンガ屑を分別回収し、その実施例および比較例を表1により示す。なお、表1および表2の予備処理の項の「無し」は予備処理のふるい分けを実施しない例を示す。
【0018】
【表1】

【0019】
表1において、MgO−Cレンガ屑の回収率は、ふるい下産物の重量割合で評価した。表1の実施例および比較例では、処理前の耐火物屑中のMgO−Cレンガ屑の重量割合が5割程度であったため、結果の欄のMgO−Cレンガ屑回収率において、ふるい下産物の重量割合が40〜60%の場合を◎、30〜40%の場合を○、30%未満の場合を×で評価した。さらに、表1において、MgO−Cレンガ屑の成分はMgOとCで90%程度を占めている。MgO−Cレンガ屑以外のレンガが混入すると、Al、Si、Ca、Fe、Cr等の成分が上昇するため、得られた産物の成分分析を行い、表1の結果の欄のMgO−Cレンガ屑以外の混入において、Al+Si+Ca+Fe+Cr<10%であれば◎、10〜20%であれば〇、20%以上であれば×と評価した。実施例1〜6では、MgO−Cレンガ屑のみが十分に粉化したため、MgO−Cレンガ屑の回収率が良く、他の種類のレンガ屑等の混入も少なく、良好な結果が得られた。
【0020】
これに対し、比較例7では、蒸気との接触時間が本発明の下限の5時間より短いため、MgO−Cレンガ屑が十分に粉化せず、MgO−Cレンガ屑の回収率が悪かった。比較例8では、蒸気圧力が本発明の下限の0.2MPaより低いため、MgO−Cレンガ屑が十分に粉化せず、MgO−Cレンガ屑の回収率が悪かった。比較例9では、蒸気圧力が本発明の上限の1.5MPaより高いため、Al23−MgO−Cレンガ屑の粉化が見られ、ふるい下産物にAl23−MgO−Cレンガ屑が多く混入した。比較例10では、ふるいの目開きが本発明の下限の1mmより小さいため、MgO−Cレンガ屑の回収率が悪かった。比較例11では、ふるいの目開きが本発明の上限の5mmより大きい10mmであるため、予備処理時に10mm未満のレンガ屑が除去され、MgO−Cレンガ屑の回収率が悪かった。
【0021】
さらに図1に示すように、取鍋耐火物張り替えにおいて、MgO−Cレンガ屑、High−Al23レンガ屑、付着した地金が混在した耐火物屑からMgO−Cレンガ屑を分別回収した実施例12、実施例13、実施例14と、それらの比較例15、比較例16、比較例17と比較例18とを表2に示す。
【0022】
【表2】

【0023】
表2において、MgO−Cレンガ屑の回収率は、表1と同じく、ふるい下産物の重量割合で評価した。この表2の例では、処理前の耐火物屑中のMgO−Cレンガ屑の重量割合が6割程度であったため、表2の結果の欄のMgO−Cレンガ屑回収率において、ふるい下産物の重量割合が50〜70%の場合を◎、40〜50%の場合を○、40%未満の場合を×で評価した。実施例12、実施例13、実施例14では、MgO−Cレンガ屑のみが十分に粉化したためMgO−Cレンガ屑の回収率が良く、他のレンガ屑の混入も少なく良好な結果であった。比較例15は、蒸気圧力が本発明の下限の0.2MPaより低いため、MgO−Cレンガ屑の粉化が不十分で、MgO−Cレンガ屑の回収率が悪かった。比較例16は、ふるいの目開きが本発明の上限の5mmより大きい10mmであるため、予備処理時に10mm未満のレンガ屑が除去され、MgO−Cレンガ屑の回収率が悪かった。比較例17では、予備処理を行わず、ふるいの目開きが本発明の上限の5mmより大きかったため、表2の結果の欄のMgO−Cレンガ屑以外の混入において、MgO−Cレンガ屑以外が多く混入し×で評価した。また、比較例18では、予備処理で2mm未満のMgO−Cレンガ屑以外のレンガ屑を除去しても、ふるい分け処理時のふるいの目開きが10mmであるため、2〜10mmのMgO−Cレンガ屑以外のレンガ屑が混入し、表2の結果の欄のMgO−Cレンガ屑以外の混入において×で評価した。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の取鍋から発生した耐火物屑からのMgO−Cレンガ屑の分別フローを示す。
【図2】従来の取鍋から発生した耐火物屑からのMgO−Cレンガ屑の分別フローを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MgO−Cレンガ屑とその他の種類のレンガ屑や付着した地金等から構成される耐火物屑に対して、0.2〜1.5MPaの加圧蒸気を5〜10時間接触させることによってMgO−Cレンガ屑のみを粉化させる粉化処理を行い、該粉化処理した耐火物屑を目開き1〜5mmのふるいにかけて、ふるい下産物を回収することを特徴とする耐火物屑からMgO−Cレンガ屑を分別回収する方法。
【請求項2】
MgO−Cレンガ屑とその他の種類のレンガ屑や付着した地金等から構成される耐火物屑を目開き1〜5mmのふるいにかけて予めふるい下を除去したのち、該ふるい上の耐火物屑に対して、0.2〜1.5MPaの加圧蒸気を5〜10時間接触させることによってMgO−Cレンガ屑のみを粉化させる粉化処理を行い、該粉化処理した耐火物屑を目開き1〜5mmのふるいにかけて、ふるい下産物を回収することを特徴とする耐火物屑からMgO−Cレンガ屑を分別回収する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−279353(P2008−279353A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125309(P2007−125309)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】