説明

耐脱亜鉛腐食性に優れた金型鋳造用銅基合金

【課題】Snの添加量を多くし、耐食性の改善を図っても金型鋳造時に凝固割れを起こさない金型鋳造用銅基合金及びその鋳造材の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】耐脱亜鉛性及び金型鋳造性に優れていて、質量%において、Cu:61〜65%、Pb:0.5〜3.0%、Al:0.2〜0.5%、Mn:0.2〜0.5%、Si:0.2〜0.7%、Fe:0.06〜0.2%、Sn:0.05〜3.0%と、Sb、As及びPのいずれか1種又は2種以上の合計:0.05〜0.3%及び残部がZnと不純物からなる銅基合金を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐脱亜鉛腐食性に優れた銅基合金に関し、特に水栓やバルブなどに最適な、耐食性に優れた金型鋳造用銅基合金及び金型鋳造材の製造方法に係る。
【背景技術】
【0002】
耐食性に優れ、金型鋳造にて鋳造割れを抑えた銅基合金として、特許3461081に、組成がSn,Sb,As,P,Pb,Al,Fe,Zn,及びCuである金型鋳造用合金において、各組成分の配合比が、Sn0.05〜0.2重量%、Sb,As又はPのいずれか1種又は2種以上0.05〜0.3重量%、Zn=1、Sn=2、Pb=1、Al=6、Fe=0.9のGuilletの係数により算出される亜鉛当量が35.7〜41.0重量%、残部がCuからなり、β相の面積占有比率を15%以下とした、凝固温度範囲17℃以下であることを特徴とする金型鋳造用合金が開示されている。
【0003】
しかし、同公報に開示する銅基合金では、Snが0.2重量%以上で、(凝固温度範囲が17℃を越えると)金型鋳造した場合に凝固割れを起こすと明記されている。
ところで、黄銅材の製造には一般的にバージン材のみならず、リサイクル原料も使用されているが、一般快削黄銅のリサイクル原料中にはSnが最大で0.8%程度含有している場合がある。
従って、同公報に開示する銅基合金では、リサイクル原料を少量しか使えず、電気銅や電気亜鉛などのバージン材料の使用比率が高くなる結果、コストアップになる。
また、Sn成分は耐エロージョン・コロージョン性も改善する作用があることから、Snの高い金型鋳造用合金の開発が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3461081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、Snの添加量を多くしても金型鋳造時に凝固割れを起こさない耐食性金型鋳造用銅基合金及びその鋳造材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による銅基合金は、耐脱亜鉛腐食性及び金型鋳造性に優れていて、Pb系の銅基合金とBi系の銅基合金の2つのタイプがあり、まず、Pb系の銅基合金としては、質量%において、Cu:61〜65%、Pb:0.5〜3.0%、Al:0.2〜0.5%、Mn:0.2〜0.5%、Si:0.2〜0.7%、Fe:0.06〜0.2%、Sn:0.05〜3.0%と、Sb、As及びPのいずれか1種又は2種以上の合計:0.05〜0.3%及び残部がZnと不純物からなる銅基合金を特徴とする。
本発明の特徴は銅基合金(黄銅)において,Sn成分の添加により耐食性を改善しつつ、Fe成分やSi成分の組み合せの最適化により鋳造性を改善した点にある。
【0007】
また、本発明に係る金型鋳造用銅基合金は、質量%において、Cu:61〜65%、Pb:0.5〜3.0%、Al:0.2〜0.5%、Mn:0.2〜0.5%、Si:0.2〜0.7%、Fe:0.06〜0.2%、Sn:0.05〜3.0%と、Sb、As及びPのいずれか1種又は2種以上の合計:0.05〜0.3%更に、Te:0.01〜0.45%、Se:0.02〜0.45%のうち、少なくとも1種の元素を含有し、残部がZnと不純物からなることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る金型鋳造用銅基合金は、質量%において、Cu:61〜65%、Pb:0.5〜3.0%、Al:0.2〜0.5%、Mn:0.2〜0.5%、Si:0.2〜0.5%、Fe:0.06〜0.2%、Sn:0.05〜3.0%と、Sb、As,又はPのいずれか1種又は2種以上の合計:0.05〜0.3%更に、Te:0.01〜0.45%、Se:0.02〜0.45%のうち、少なくとも1種の元素又は/及び、Mg:0.001〜0.2%、Zr:0.005〜0.2%のうち、少なくとも1種の元素を含有し、残部がZnと不純物からなることを特徴とする。
【0009】
次に、本発明に係るBi系の銅基合金としては、質量%において、Cu:61〜65%、Bi:0.5〜2.0%、Al:0.2〜0.7%、Mn:0.2〜0.5%、Si:0.2〜0.7%、Fe:0.06〜0.2%、Sn:0.05〜3.0%と、Sb、As及びPのいずれか1種又は2種以上の合計:0.05〜0.3%及び残部がZnと不純物からなることを特徴とする。
【0010】
また、質量%において、Cu:61〜65%、Bi:0.5〜2.0%、Al:0.2〜0.7%、Mn:0.2〜0.5%、Si:0.2〜0.7%、Fe:0.06〜0.2%、Sn:0.05〜3.0%と、Sb、As及びPのいずれか1種又は2種以上の合計:0.05〜0.3%、更に、Te:0.01〜0.45%、Se:0.02〜0.45%のうち、少なくとも1種の元素又は/及び、Mg:0.001〜0.2%、Zr:0.005〜0.2%のうち、少なくとも1種の元素を含有し、残部がZnと不純物からなることを特徴とする。
【0011】
本発明において上記合金はさらにB成分を3〜15ppm添加されているのが好ましい。
また、本合金を用いて金型鋳造後に450〜550℃で30分以上3時間以内保持して、β相の面積占有比率を15%以下にするのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る銅基合金は、金型鋳造にて鋳造割れの発生を抑えることができ、耐脱亜鉛腐食性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】評価に用いた銅基合金の成分表を示す。
【図2】銅基合金の金型鋳造材の評価結果を示す。
【図3】割れ性の評価に用いた金型構造を示す。
【図4】本発明に係る金型鋳造材の熱処理条件と脱亜鉛腐食試験結果を示す。
【図5】Sn成分量と脱亜鉛腐食試験結果を示す。
【図6】Bi系銅基合金の成分表を示す。
【図7】Bi系銅基合金の評価結果を示す。
【図8】Bi系銅基合金の耐食性試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明における銅基合金の成分について説明する。
Cu成分は、61〜65%の範囲が好ましい。
Cu成分が61%未満ではβ相が増え、耐食性が低下する。
Cu成分を増やすと耐脱亜鉛腐食性等の耐食性は向上するが高価になるために好ましくは61〜65%の範囲である。
【0015】
Pbは被削性を向上させるための添加元素であり、本発明においては必要に応じて、0.5%以上を添加するが、3.0%を超えると、伸び、衝撃値が低下するので、3.0%以下とする。
また、被削性向上の観点からはPbの替わりにBiを0.5〜2.0%添加してもよい。
【0016】
Sn成分は、前述したように鋳造時に凝固割れを起こしやすい。銅基合金を金型鋳造に使用する場合は、一般にSn成分を0.2%以下に設定しなければならないとされていた。
本発明では、Sn:0.05〜3.0%の範囲にて鋳造割れを防止でき、特にSn:0.21〜3.0%の範囲でも充分に鋳造性を確保できる。
【0017】
Fe成分は、結晶の微細化を促進し、鋳造時の割れを抑え、鋳造性が向上する。
Fe成分は、0.06〜0.2%の範囲がよい。
Fe成分をこの範囲に制御するとSnの添加による鋳造割れを抑える。
特にFe:0.06〜0.1%の範囲ではSnを3.0%まで多くしても鋳造割れが起きない。
【0018】
Al成分は、湯流れ性を向上させるが、多いと耐脱亜鉛腐食性が低下するので、0.2〜0.7%の範囲、好ましくは、0.2〜0.5%の範囲がよい。
【0019】
Si成分も鋳造性の改善に寄与し、結晶の微細化を促進し、鋳造時の凝固割れを抑え、鋳造性が向上する。
特に、Siを0.2%以上添加すると、その効果が大きく、Sn:0.05〜3.0%の範囲にて鋳造割れを防止できることが明らかになった。
特に、従来はSnの添加量を0.20%以下に抑えるのが好ましいと言われていたのに本発明では、Sn:0.21〜3.0%の範囲でも充分に鋳造性を確保できる。
ただし、Siは亜鉛当量が10と大きく、量が多いとβ相が多くなって耐脱亜鉛腐食性を損ねるので、Siの上限は0.7%とした。
【0020】
Mn成分は、マトリックスを強化するがFeと結びついて硬い金属間化合物を生成し、被削性を損なうので、0.2〜0.5%の範囲とした。
【0021】
Sb成分は耐食性を向上させるため0.05%以上添加するとよいが、0.2%を超えても耐食性が顕著に向上しないので、経済性を考慮して0.2%以下とした。
なお、Sbの代わりにSbと同様な作用をするAs又はPを0.05〜0.2%添加してもよいし、これらを組み合わせて添加してもよい。
組み合せて添加する場合には合計の上限は0.3%である。
【0022】
Te成分は、切削性が向上するが、0.01%以上で効果があり、添加量相応の効果を得る点、及び経済性の点から0.45%を上限とした。
【0023】
Se成分は、切削性が向上するが、材料単価が高価であるため、極力抑える。
また、熱間加工性が悪くなるので0.45%以下が望ましい。
Se成分を添加する場合は、0.02〜0.45%の範囲が好ましい。
【0024】
Mg成分は、結晶微細化による強度向上、湯流れ性向上、脱酸・脱硫効果がある。
溶湯に0.001%以上のMgを含有させると、溶湯中のS成分がMgSの形で除去される。
また、Mgが0.2%を超えると酸化して、溶湯の粘性が高められ、酸化物の巻き込みなどの鋳造欠陥を生じる恐れがある。
よって、Mg成分は0.001〜0.2%の範囲にて効果が認められる。
【0025】
Zr成分は、結晶粒の微細化作用がある。
0.005%以上の添加で効果が現れる。
また、Zrは酸素との親和力が強く、0.2%を超えると酸化して、溶湯の粘性が高められ、酸化物の巻き込みなどの鋳造欠陥を生じる恐れがある。
【0026】
次に熱処理について説明する。
本発明合金は、鋳放し状態では、α+βの2相組織となるが、450〜550℃の熱処理によって、β相が縮小し、耐食性が増加する。
また、熱処理時間は、30分未満ではβ相が減少しにくいため30分以上保持する必要がある。
また、3時間を越えても熱処理効果が変わらないため、30分以上、3時間以内とする。
【実施例1】
【0027】
Pb系の銅基合金として、図1に示すような各種合金組成の溶湯を調整し、下記のような評価試験を実施した。
その結果を図2の表を示す。
<評価試験>
(1)鋳造割れ試験
鋳造割れ性を両端拘束試験法により評価した。
使用した金型の形状を図3に示す。
金型の材質としてはベリリウム銅合金を用いた。
図3において中央部に断熱材1を設けて、中央部の冷却が両端拘束部2より遅れるようにした。
拘束距離Lは100mmで断熱材1の長さは70mmとした。
試験は、拘束部が急冷されて両端が拘束され、発生した凝固収縮力により、最終凝固部となる試験片中央部で割れが生じるかどうか調べることにより判定した。
評価としては、中央部に割れが生じないものを○、部分的に割れが認められたが破断しなかったものを△、中央部で破断したものを×とした。
(2)耐脱亜鉛試験
ISO法に準拠して、試験材を75±3℃のCuCl・2HOの12.7g/l溶液に24時間浸漬し、脱亜鉛腐食深さを測定し、以下の基準により評価した。
脱亜鉛深さ100μm以下のものは合格(○)、脱亜鉛深さが100μmを超えるものは不合格(×)とした。
【0028】
<考察>
発明合金No.6を用いて金型鋳造材を製造し、鋳造後の熱処理による組成変化を図4に示す。
この結果、550℃を超えると残存β相が多くなる傾向が認められた。
このことから、熱処理条件は450〜550℃の範囲がよい。
合金No.6とNo.8とNo.11とNo.12とについての耐食性試験後の顕微鏡写真を図5に示す。
525℃で熱処理した合金No.6はSn:0.1%で脱亜鉛深さは約30μm「図5(a)」であり、No.8はSnが0.4%であるのに脱亜鉛深さは50μm程度であった「図5(b)」。
さらにSnが0.7%のNo.11「図5(c)」とSnが1.1%のNo.12「図5(d)」は、470℃で熱処理した結果、それぞれ35μmと65μmであった。
これに対して、比較例No.23は、Sn:3.1%であったために、鋳造性のみならず、耐食性も悪かった。
このことから、少なくともSnは3.0%以下が良く、本発明においてはSn:0.05〜3.0%の範囲としたことにより鋳造割れを起こすことなく、鋳造後に熱処理を施すことにより耐脱亜鉛腐食性もよい。
なお、より鋳造割れを防止するには、Sn:0.05〜2.0%の範囲が好ましく、Sn:0.21〜2.0%の範囲はSnの添加効果が特に出現する。
また、比較例No.21はCu:65.3%と65.0%よりも多く、比較例No.22はSi:0.19%と0.20%より少なく、比較例No.24はFe:0.21%と0.20%を超えていたので、いずれも鋳造性に問題があった。
【0029】
次にBi系の銅基合金として図6に示すような組成の合金溶湯を試作し、先のPb系銅基合金と同様に鋳造割れ試験と耐脱鉛試験を実施した結果を図7の表に示し、例として発明合金17の耐食性試験結果の写真を図8に示す。
その結果、合金No.17:Bi 0.88%,合金No.18:Bi 1.34%,合金No.19:Bi 1.62%のいずれにおいても良好な鋳造性と耐食性を示した。
また、Bi系銅基合金において不純物として含まれるPbの量は0.12%の合金No.18でも問題がなかったことから、不純物としてのPbは約0.15%以下であればBi系銅基合金において問題がないと言える。
【符号の説明】
【0030】
1 断熱材
2 両端拘束部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%において、Cu:61〜65%、Pb:0.5〜3.0%、Al:0.2〜0.5%、Mn:0.2〜0.5%、Si:0.2〜0.7%、Fe:0.06〜0.2%、Sn:0.05〜3.0%と、Sb、As及びPのいずれか1種又は2種以上の合計:0.05〜0.3%及び残部がZnと不純物からなる銅基合金。
【請求項2】
質量%において、Cu:61〜65%、Pb:0.5〜3.0%、Al:0.2〜0.5%、Mn:0.2〜0.5%、Si:0.2〜0.7%、Fe:0.06〜0.2%、Sn:0.05〜3.0%と、Sb、As及び又はPのいずれか1種又は2種以上の合計:0.05〜0.3%、更に、Te:0.01〜0.45%、Se:0.02〜0.45%のうち、少なくとも1種の元素を含有し、残部がZnと不純物からなることを特徴とする銅基合金。
【請求項3】
質量%において、Cu:61〜65%、Pb:0.5〜3.0%、Al:0.2〜0.5%、Mn:0.2〜0.5%、Si:0.2〜0.7%、Fe:0.06〜0.2%、Sn:0.05〜3.0%と、Sb、As及びPのいずれか1種又は2種以上の合計:0.05〜0.3%、更に、Te:0.01〜0.45%、Se:0.02〜0.45%のうち、少なくとも1種の元素又は/及び、Mg:0.001〜0.2%、Zr:0.005〜0.2%のうち、少なくとも1種の元素を含有し、残部がZnと不純物からなることを特徴とする銅基合金。
【請求項4】
質量%において、Cu:61〜65%、Bi:0.5〜2.0%、Al:0.2〜0.7%、Mn:0.2〜0.5%、Si:0.2〜0.7%、Fe:0.06〜0.2%、Sn:0.05〜3.0%と、Sb、As及びPのいずれか1種又は2種以上の合計:0.05〜0.3%及び残部がZnと不純物からなることを特徴とする銅基合金。
【請求項5】
質量%において、Cu:61〜65%、Bi:0.5〜2.0%、Al:0.2〜0.7%、Mn:0.2〜0.5%、Si:0.2〜0.7%、Fe:0.06〜0.2%、Sn:0.05〜3.0%と、Sb、As及びPのいずれか1種又は2種以上の合計:0.05〜0.3%、更に、Te:0.01〜0.45%、Se:0.02〜0.45%のうち、少なくとも1種の元素又は/及び、Mg:0.001〜0.2%、Zr:0.005〜0.2%のうち、少なくとも1種の元素を含有し、残部がZnと不純物からなることを特徴とする銅基合金。
【請求項6】
更にBを3〜15ppm添加したことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の銅基合金。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の銅基合金を用いて金型鋳造し、その後に450〜550℃×30分以上熱処理することを特徴とする銅基合金からなる金型鋳造材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−219857(P2011−219857A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254334(P2010−254334)
【出願日】平成22年11月13日(2010.11.13)
【出願人】(301073392)サンエツ金属株式会社 (9)