説明

耐震ラッチ装置

【課題】振動が収まった後に係止部と被係止部とが係止状態となっていても、この係止状態を容易に解除して引出しを移動させることができる耐震ラッチ装置を提供すること。
【解決手段】家具本体1の振動により係止部16が非係止位置から係止位置に移動して係止部16に被係止部26が係止されることで、引出し2の前方への移動が規制される耐震ラッチ装置6であって、被係止部26が設けられた家具本体1または引出し2は、引出し2の移動により係止部16に当接して係止部16を係止位置から非係止位置まで移動させる当接部27を備え、当接部27は、引出し2が家具本体1に収納された状態において、被係止部26よりも前方位置に配置されていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家具の振動時に被係止部が係止部に係止されることで、家具からの引出しの飛び出しを防止する耐震ラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の耐震ラッチ装置として、例えば家具本体の側板の内面に設けられ、揺動可能に軸支された第1のラッチ体(係止部)及び第2のラッチ体(係止部)を有するケース体と、家具本体内に引出し可能に収納された引出し体(引出し)の側板に設けられ、第1のラッチ体及び第2のラッチ体に係止する係止縁部(被係止部)を有するラッチ受け具と、ケース体内に設けられ、地震時に姿勢変化する第1の感震体及び第2の感震体と、から構成され、第1の感震体の姿勢変化によって第1ラッチ体が、また第2の感震体の姿勢変化によって第2のラッチ体がそれぞれラッチ受け具に向けて突出し、第1ラッチ体または第2のラッチ体の係合面がラッチ受け具の係止縁部(被係止部)に係合することによって係止されることで、振動による家具本体からの引出し本体の飛び出しを防止するものがある。
【0003】
この耐震ラッチ装置は、地震による振動が収まった後、家具本体の歪み等何らかの影響により第1ラッチ体及び第2のラッチ体が突出したまま固定された状態を解除できなくなる虞があるため、係止縁部を有するラッチ受け具を引出し体から取り外し可能とすることで、引出しを引出し可能としたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2006−200214号公報(第18頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の耐震ラッチ装置にあっては、ラッチ受け具を引出し本体から取り外すことで、ラッチ体と係止縁部との係合状態を解除することができるものの、係合状態でラッチ受け具を取り外すのは困難であるばかりか、引出しの家具本体からの飛び出し防止を再度実現するためには、ラッチ受け具を引出しに取り付けねばならないため、ラッチ受け具の着脱作業が非常に手間であるという問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、振動が収まった後に係止部と被係止部とが係止状態となっていても、この係止状態を容易に解除して引出しを移動させることができる耐震ラッチ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載の耐震ラッチ装置は、
家具本体または該家具本体に対して前方に引出し自在に設けられた引出しのうち一方に設けられ、非係止位置と係止位置との間で移動自在な係止部と、
前記家具本体または前記引出しのうち他方に設けられ、前記係止部に係止される被係止部と、
を備え、
前記家具本体の振動により前記係止部が前記非係止位置から前記係止位置に移動して該係止部に前記被係止部が係止されることで、前記引出しの前方への移動が規制される耐震ラッチ装置であって、
前記被係止部が設けられた前記家具本体または前記引出しは、前記引出しの移動により前記係止部に当接して該係止部を前記係止位置から前記非係止位置まで移動させる当接部を備え、
前記当接部は、前記引出しが前記家具本体に収納された状態において、前記被係止部よりも前方位置に配置されていることを特徴としている。
この特徴によれば、地震等により家具本体が振動すると、係止部が非係止位置から係止位置に移動して被係止部が係止可能となり、振動による引出しの前方向への移動が規制されるが、係止部に被係止部が係止された状態において当接部は係止部よりも前方に位置することになる。従って、例えば地震等が収まった後に係止部が係止位置に位置していても、引出しを収納方向に押し込むまたは引き出すだけで、当接部が係止部に当接して該係止部を係止位置から非係止位置に移動させるため、簡単な操作で、かつ確実に係止状態を解除することができる。
【0008】
本発明の請求項2に記載の耐震ラッチ装置は、請求項1に記載の耐震ラッチ装置であって、
前記当接部は、前記引出しが前方へ移動する際に前記係止部と当接する前方当接面を有し、該前方当接面は、前記引出しの移動方向に対して傾斜する傾斜状に形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、引出しが前方へ移動する際において当接部が係止部に引っ掛かかりにくくなり、係止部をスムーズに非係止位置に向けて移動させるため、引出しを引出せなくなる虞がない。
【0009】
本発明の請求項3に記載の耐震ラッチ装置は、請求項1または2に記載の耐震ラッチ装置であって、
前記係止部における前記当接部が当接される被当接部は、前記係止部の頂部よりも内側に形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、当接部との当接深さが係止部よりも被当接部の方が浅くなるので、振動により引出しが前方へ移動する際において当接部が係止部に引っ掛かりにくくなるばかりか、被当接部に当接部が当接している状態でも、係止部に被係止部を係止可能とすることができるため、係止部に被係止部を確実に係止させることができる。
また、被当接部と係止部の頂部との間に段差が形成されるため、引出しの前部を上昇または下降させることで当接部が段差に当接し、これにより係止部をより非係止位置に向けて押し込むことができるため、確実に係止状態を解除することができる。
【0010】
本発明の請求項4に記載の耐震ラッチ装置は、請求項1ないし3のいずれかに記載の耐震ラッチ装置であって、
前記当接部は、前記係止部に向けて突出する球面状の突起であることを特徴としている。
この特徴によれば、引出しの出し入れの際に当接部が係止部に引っ掛かかりにくくなり、係止部をスムーズに非係止位置に向けて移動させるため、引出しを引出せなくなる虞がない。
【0011】
本発明の請求項5に記載の耐震ラッチ装置は、請求項1ないし4のいずれかに記載の耐震ラッチ装置であって、
前記当接部は、前記被係止部の頂部と同位置または該前記被係止部の頂部よりも低く形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、当接部が係止部を必要以上に非係止位置に向けて移動させることがないので、係止部が被係止部に当接しなくなる誤作動を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る耐震ラッチ装置を実施するための最良の形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0013】
本発明の実施例を図面に基づいて説明すると、先ず図1は、本発明の耐震ラッチ装置が設けられたキャビネットを示す斜視図であり、図2は、耐震ラッチ装置を示す要部横断平面図であり、図3は、(a)は(b)のA−A断面図であり、(b)は耐震ラッチ装置を示す側面図であり、図4は、(a)は係止位置に配置された係止部と当接部が当接している状態を示す概念図であり、(b)は係止部が被係止部に当接する状態を示す概念図であり、図5は、(a)は当接部が係止部材を押圧する状態を示す概念図であり、(b)は係止部が非係止位置に配置された状態を示す概念図であり、図6は、(a)は変形例としての耐震ラッチ装置を示す概念図であり、(b)は変形例としての耐震ラッチ装置を示す概念図である。以下、図2、図4(a)、図4(b)、図5(a)、図5(b)、図6(a)、図6(b)の紙面下方側を耐震ラッチ装置の正面側(前方側)とし、図3(b)の紙面右側を耐震ラッチ装置の正面側(前方側)とし、図3(a)の紙面手前側を耐震ラッチ装置の正面側(前方側)として説明する。
【0014】
図1の符号1は、本発明の耐震ラッチ装置6が適用された、引出し2を複数段有する本実施例における家具としてのキャビネットであり、この耐震ラッチ装置6により引出し2の前方への移動が規制されることによって、地震等の発生による振動によってキャビネット1内に収納された引出し2が飛び出すことが防止されている。
【0015】
以下、引出し2をキャビネット1から引き出す引き出し方向を正面側(前方側)とし、引出し2をキャビネット1内に押し込んで収納する収納方向を背面側(後方側)とする。そして、キャビネット1の正面視右側を本実施例における右側とし、キャビネット1の正面視左側を本実施例における左側として説明する。
【0016】
このキャビネット1は、天板3と、引出し2の左右側方に設けられる側板4とから構成されており、側板4,4間には上下方向に複数段(本実施例では3段)の引出し2が収納されている。これら引出し2は、上方に向けて開口する略直方体状の箱体であり、左右の側板5,5をキャビネット1の側板4,4に設けられた図示しないスライドレールによって左右を支持されることで、キャビネット1の本体内部に収納される収納位置と、正面側に引き出された引出し位置と、の間で移動自在に設けられている。
【0017】
図1に示すように、引出し2の右側の側板5の右側面前端部には、合成樹脂材からなるラッチ受け具7が設けられているとともに、図2に示すように、キャビネット1の側板4の左側面前端部には、左側に向かって開口する埋設凹部8が形成されており、この埋設凹部8内には合成樹脂材からなるラッチ本体9が埋設されている。
【0018】
これらラッチ受け具7とラッチ本体9とは、引出し2が収納位置に収納された状態において互いに対向するように配置され、本発明における耐震ラッチ装置6を構成している。尚、この耐震ラッチ装置6は図1に示す全ての引出し2と、キャビネット1本体の側板4と、の間に設けられているが、同一構成につき本実施例では最上部の引出し2とキャビネット1の側板4間に設けられた耐震ラッチ装置6について説明する。更に、本実施例では、耐震ラッチ装置6は引出し2の右側の側板5と、キャビネット1の右側の側板4と、の間に設けられているものとして説明するが、耐震ラッチ装置6は、引出し2の左右両側にそれぞれ設けられていてもよい。
【0019】
図2及び図3に示すように、耐震ラッチ装置6を構成するラッチ本体9は、埋設凹部8に埋設されるケース体10を有している。このケース体10には、左側に向かって開口する収納凹部11が形成されている。図3(b)に示すように、収納凹部11は側面視略長方形状に形成されており、収納凹部11の下面後方には、上下方向を向く軸支孔12が形成されている。また、収納凹部11の上面及び下面の前端部には、ケース体10を上下方向に貫通する枢支孔13,13が形成されている。
【0020】
これら軸支孔12と枢支孔13,13のうち、軸支孔12には、地震時の振動に伴い揺動する感振体14が挿通される。具体的には、感振体14は、上部に重心が位置するように側面視略逆三角形状に形成された錘体であり、下部からは軸部15が下向きに突設されている。この軸部15を軸支孔12に挿入することによって感振体14は収納凹部11に収納される。感振体14の軸部15の直径は軸支孔12の直径よりも小さく形成されているため、感振体14は、収納凹部11内において、軸部15を中心として上部が前後左右に揺動可能となっている。
【0021】
尚、感振体14が収納された収納凹部11には、後端部が後述する被係止部26に当接する係止部16を構成するとともに、外形が収納凹部11の補形に形成された係止部材17が収納されている。この係止部材17の前端部には、上下方向に貫通する貫通孔18が形成されている。そして、この貫通孔18に挿通されるピン19の上下端が上下の枢支孔13,13に枢支されることにより、係止部材17は、係止部16の非係止位置である収納凹部11内(図2中実線位置で示す位置)と、本実施例における係止部16の係止位置である収納凹部11外(図2中2点鎖線で示す位置)と、の間で、上下方向を向くピン19を中心軸として後端部側が左右方向に揺動可能となっている。
【0022】
更に、図2に示すように、係止部材17の右側面は、左側に湾曲して形成された揺動受部20に形成されており、この揺動受部20と収納凹部11とで感振体14を挟み込むように形成されている。この揺動受部20は、前方に向けて左側に湾曲する後端部側の湾曲面21と、前方から後方に左側に傾斜する前端部側の傾斜面22と、を有している。このため、キャビネット1が地震等の発生によって振動すると、感振体14が前後方向に揺動することによって湾曲面21と傾斜面22とを交互に押圧することで、係止部材17が非係止位置から押し出されて係止位置まで揺動(移動)するようになっている。
【0023】
尚、図3(a)及び図3(b)に示すように、係止部材17の左側面23は、引出し2の移動方向である前後方向に延びる帯状の非当接面23a及び被当接面23bから構成されている。被当接面23bは、非当接面23aの下方位置であり、かつ係止部16から前方に向けて非当接面23aと平行に延設されるとともに、前側から後側に向けて非当接面23aに対して漸次内側、つまり右側に凹むように凹設され(図4参照)、これにより非当接面23aと被当接面23bとの間には段部23cが形成され、後述する突起27が当接するようになっている。
【0024】
次に、図2に示すように、耐震ラッチ装置6を構成するラッチ受け具7は、前後方向に長い合成樹脂製の受け板24を有している。受け板24の右側面、つまり係止部材17との対向面前端部には、受け板24を引出し2の側板5に係止する係止ネジ25が設けられており、この係止ネジ25を側板5に対して回動させることでラッチ受け具7が側板5に対して取り付けられている。
【0025】
また、図2及び図3(a)に示すように、受け板24の右側面後端部には、受け板24の上下幅方向に延びる被係止部26が、係止部16に向けて突設されている。この被係止部26は、係止部16の上下長さよりも若干長寸に形成され、係止位置に配置された係止部材17の係止部16に当接されるようになっており、係止部16による被係止部26の係止によって、ラッチ受け具7が設けられた引出し2の前方への移動が規制される。
【0026】
受け板24の右側面下部における係止ネジ25と被係止部26との間には、前述した被当接面23bに当接する当接部としての突起27が設けられている。この突起27は、受け板24の右側面から係止部16に向かって突出する球面状に形成されている。
【0027】
つまりこの球面状の突起27は、引出し2が前方に引き出される際に被当接面23bと当接する(図4(a)参照)前方当接面28と、引出しがキャビネット1内に収納される際に被当接面23bと当接する(図5(a)参照)後方当接面29と、を有している。より詳しくは、前方当接面28は、前方から後方に向けて被当接面23b側に向けて漸次傾斜する湾曲状の傾斜面であり、後方当接面29は、後方から前方に向けて被当接面23b側に向けて漸次傾斜する湾曲状の傾斜面である。すなわち、引出し2の移動方向(前後方向)に対して左右に傾斜する傾斜状に形成されている。
【0028】
図2に示すように、突起27は、引出し2がキャビネット1内に収納される収納位置にある状態において、受け板24の右側面における係止部16の後側近傍位置、つまり、被係止部26よりも前方位置で、かつ、係止部材17の係止部16よりも後方位置に配置されている。また、上下方向には、図3(a)及び図3(b)に示すように、係止部材17に形成された被当接面23bと略同一高さ位置に配置され、引出し2の前後移動により、被当接面23bに沿って移動するようになっている。
【0029】
また、図3(a)に示すように、突起27の受け板24の右側面からの突出長さは、被係止部26の受け板24の右側面からの突出長さ寸法Lとほぼ同一長さに形成されている。
【0030】
尚、本実施例では、突起27は、引出し2が収納位置にある状態において、係止部16の後側近傍位置に配置されていたが、被係止部26よりも前方位置で、かつ、被当接面23bに当接して係止部16を非係止位置に向けて移動させることが可能な当接位置または該当接位置よりも後方位置であれば、必ずしも係止部16の後側近傍位置に配置されていなくてもよい。つまり、本実施例のように係止部16を非係止位置に移動させるための被当接面23bが係止部16よりも前方位置に形成されている場合、引出し2が収納位置にある状態において突起27が係止部16よりも前方に配置されていてもよい。
【0031】
また、係止部16が非係止位置にある状態において、突起27の頂部と被当接面23bとは所定距離離間されていることで、後述するように地震の発生時において突起27が係止部16及び被当接面23bを通過する際においても係止部材17が若干係止位置に向けて揺動できるようになるため、突起27が前方に通過した直後に係止部16が係止位置まで瞬時に移動できるようになっている。
【0032】
このように耐震ラッチ装置6は、引出し2が収納位置にある状態において、被係止部26は、係止部16から所定距離離間した後方位置に配置されていることで、振動の発生により引出し2が前方に移動して被係止部26が係止部16を通過する前に、係止部16が非係止位置から係止位置まで移動して確実に係止できるようになっている。
【0033】
次に、本発明の実施例における耐震ラッチ装置6の作用を、図4及び図5を用いて説明する。
【0034】
先ず、地震等が発生していない通常時(非地震時)においては、図5(b)に示されるように、係止部材17は非係止位置に退避されているため、引出し2を引き出す際に、被係止部26に係止部16が係止して引き出し移動が規制されることがない。
【0035】
次に、地震等の発生によりキャビネット1に振動が生じた場合、前述したように感振体14が前後左右方向に揺動することにより、係止部材17が非係止位置と係止位置との間で往復動するとともに、前後の揺れにより引出し2が前方に移動される(図4(a)参照)。
【0036】
そして、引出し2の前方移動により突起27が前方に移動して係止部16に到達したとき、図4(a)に示すように、係止位置に位置する係止部材17の被当接面23bの後端に突起27の前方当接面28が当接する。このとき、引出し2の前方移動に応じて、感振体14による係止位置方向への付勢力に抗して、被当接面23bが前方当接面28により非係止位置に向けてスムーズに押し戻されるため、引出し2の前方移動が規制されることはない。つまり係止部材17は、突起27が被当接面23bの対向位置に位置して当接することで係止位置まで移動することができなくなり、左右方向の揺動幅が小さくなる。
【0037】
この状態から引出し2とともに突起27がさらに前方に移動するにつれて、係止部材17と被当接面23bとの離間幅が漸次大きくなることにより係止部材17の揺動幅が次第に大きくなり、被係止部26が係止部16に到達するまでに、係止部16は再び係止位置まで移動できるようになる。よって、被係止部26が係止部16に到達したときに、係止位置に位置した係止部16に被係止部26が係止されることで引出し2の前方移動が規制され(図4(b)参照)、引出し2が飛び出すことが防止されるため、安全である。
【0038】
尚、図4(b)に示されるように、係止位置に位置した係止部16に被係止部26が係止されて引出し2の前方移動が規制される係止状態において、突起27は、上方の非当接面23aに対して凹設された被当接面23bに対向するようになっていることで、被当接面23aには当接せずに僅かに離間し、該突起27が係止部材17に干渉することがないので、係止部16を確実に係止位置まで移動させて被係止部26を係止させることができる。
【0039】
引出し2の前方への引出しが規制された後、地震等による振動が収まって通常使用する場合、引出し2の規制を解除する必要があるため、図5(a)に示すように、引出し2をキャビネット1内に収納するように、後方に向かって押し込む。この操作により、係止部16よりも前方に移動していた突起27が再び後方に移動し、後方当接面29が被当接面23bに当接して押圧することで、係止部材17が非係止位置に向けて移動してケース体10内に収容される(図5(b)参照)。
【0040】
このとき、引出し2を後方に向かって付勢しながら押し込むことによって、突起27が被当接面23bに衝突(当接)し、係止部材17を非係止位置に向けて弾き飛ばすため、突起27が被当接面23bに当接したまま非係止位置まで完全に押し込まなくても、係止部材17がケース体10内の非係止位置に確実に収容される。
【0041】
このように、引出し2をキャビネット1内へ収納するだけの簡単な操作により、係止部材17が突起27に当接し押圧されて非係止位置に戻ることで、係止部16が被係止部26に対して当接しなくなるので、引出し2をキャビネット1本体に対して出し入れ自在な状態とすることができる。
【0042】
尚、例えば微弱な地震が発生した場合や、地震等が発生していない通常時において何らかの要因で係止部材17が係止位置側に僅かに揺動してしまったものの、引出し2が収納位置からほとんど動かず、突起27が係止部16よりも後方位置に位置したままとなることがある(図4(a)参照)。この場合、引出し2を前方に引き出すことによって、係止部16よりも後方に配置されている突起27の前方当接面28が、係止部材17を被当接面23bに摺接しながら非係止位置に向かって押圧することで、係止部16が被係止部26に当接することが回避されるため、引出し2を引き出すことができる。
【0043】
以上説明したように、本発明が適用された実施例としてのキャビネット1は、地震等によりキャビネット1が振動すると、係止部16が非係止位置から係止位置に移動して被係止部26が係止可能となり、振動による引出し2の前方向への移動が規制されるが、係止部16に被係止部26が係止された係止状態において、突起27は係止部16よりも前方に位置することになる。従って、例えば地震等が収まった後に係止部16が係止位置に位置していても、引出し2を収納方向に押し込むまたは引き出すだけで、突起27が係止部16に当接して係止部16を係止位置から非係止位置に移動させるため、簡単な操作で、かつ確実に係止状態を解除することができる。
【0044】
また、突起27は、引出し2が前方へ移動する際に係止部16と当接する前方当接面28を有し、前方当接面28は、引出し2の移動方向に対して傾斜する傾斜状に形成されているので、図4(a)に示されるように引出し2が前方へ移動する際において突起27が係止部16に引っ掛かかりにくくなり、係止部16をスムーズに非係止位置に向けて移動させるため、引出し2を引出せなくなる虞がない。
【0045】
また、係止部16における突起27が当接される被当接面23bは、係止部16の頂部を構成する非当接面23aよりも内側(右側)に凹設されていることで、突起27との当接深さが係止部16よりも被当接面23bの方が浅くなるので、振動により引出し2が前方へ移動する際において突起27が係止部16に引っ掛かりにくくなるばかりか、被当接面23bに突起27が当接している状態でも、係止部16に被係止部26が係止可能とすることができるため、係止部16に被係止部26を確実に係止させることができる。
【0046】
また、被当接面23bと係止部16の非当接面23aとの間に段差23cが形成されるため、引出し2の前部を上昇させることで突起27が段差23cに当接し、これにより係止部16をより非係止位置に向けて押し込むことができるため、確実に係止状態を解除することができる。
【0047】
また、突起27は、係止部16に向けて突出する球面状の突起であるので、引出し2の出し入れの際に突起27が係止部16に引っ掛かかりにくくなり、係止部16をスムーズに非係止位置に向けて移動させるため、引出し2を引出せなくなる虞がない。
【0048】
また、突起27は、被係止部26の頂部(先端)とほぼ同位置(または被係止部26の頂部(先端)よりも低く)形成されているので、突起27が係止部16を必要以上に非係止位置に向けて移動させることがないので、係止部16が被係止部26に当接しなくなる誤作動を防止することができる。
【0049】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0050】
例えば、前記実施例では、被係止部26を有するラッチ受け具7が引出し2の側板5に設けられ、係止部16を有するラッチ本体9がキャビネット1の側板4に設けられていたが、図6に示す変形例のように、ラッチ本体9を引出し2の側板5に設け、ラッチ受け具7をキャビネット1の側板4に設けてもよい。具体的には、引出し2の側板5の右側面に、係止部材17がケース体10の収納凹部11内の後端部でピン19によって左右方向に揺動可能に軸支されるようにし、キャビネット1の側板4の左側面に、被係止部26が前端部に配置されるように受け板24を設ける。このようにしても、前記実施例の耐震ラッチ装置と同様の作用・効果を得ることができる。
【0051】
また、前記実施例では、当接部として突起27が適用されていたが、突起27の形状は球面状のものに限定されるものではなく、種々に変形可能である。つまり前方当接面や後方当接面は球面状のものに限定されるものではなく、傾斜状に形成されていれば平坦状であってもよい。また、突起27は予め受け板24の右側面所定箇所に突設されていなくてもよく、例えばボタン操作等により、係止部16を非係止位置に移動させたい場合のみ、係止部16に係止可能に突出させることができるようになっていてもよい。
【0052】
また、前記実施例では、ラッチ本体9に設けられた感振体14が揺動することで、係止部材17を非係止位置と係止位置との間で揺動可能としたが、係止部材17が非係止位置と係止位置との間で移動可能であり、振動の発生により係止位置に移動するようになっていれば、必ずしも感振体14を用いることはなく、例えば、振動の発生を検知可能な感振手段等(図紙略)により振動を検知したことに基づいて、電磁ソレノイド等の駆動手段(図紙略)により係止部材17を非係止位置から係止位置に移動(突出)させるものであってもよい。
【0053】
また、前記実施例では、引出し2の側板5とキャビネット1の側板4との間に耐震ラッチ装置6を設けて地震時の引出し2の前方への移動を規制したが、設置場所は上記箇所に限定されるものではなく、例えばラッチ本体9をキャビネット1の天板3の下面に設け、ラッチ受け具7を引出し2の側板5の上端面に設けてもよい。
【0054】
また、前記実施例では、係止部16を有する係止部材17を、引出し2の移動方向に対して直交する方向(上下方向)を向くピン19を中心として、非係止位置と係止位置との間で揺動可能に設けたが、係止部16は、引出し2の側板5内面から左右方向に向けて出退自在に繰り返すものとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の耐震ラッチ装置が設けられたキャビネットを示す斜視図である。
【図2】耐震ラッチ装置を示す要部横断平面図である。
【図3】(a)は(b)のA−A断面図であり、(b)は耐震ラッチ装置を示す側面図である。
【図4】(a)は係止位置に配置された係止部と当接部が当接している状態を示す概念図であり、(b)は係止部が被係止部に当接する状態を示す概念図である。
【図5】(a)は当接部が係止部材を押圧する状態を示す概念図であり、(b)は係止部が非係止位置に配置された状態を示す概念図である。
【図6】(a)は変形例としての耐震ラッチ装置を示す概念図であり、(b)は変形例としての耐震ラッチ装置を示す概念図である。
【符号の説明】
【0056】
1 キャビネット(家具、家具本体)
2 引出し(家具)
6 耐震ラッチ装置
7 ラッチ受け具
9 ラッチ本体
14 感振体
16 係止部
17 係止部材
23b 被当接面(被当接部)
24 受け板
26 被係止部
27 突起(当接部)
28 前方当接面
29 後方当接面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
家具本体または該家具本体に対して前方に引出し自在に設けられた引出しのうち一方に設けられ、非係止位置と係止位置との間で移動自在な係止部と、
前記家具本体または前記引出しのうち他方に設けられ、前記係止部に係止される被係止部と、
を備え、
前記家具本体の振動により前記係止部が前記非係止位置から前記係止位置に移動して該係止部に前記被係止部が係止されることで、前記引出しの前方への移動が規制される耐震ラッチ装置であって、
前記被係止部が設けられた前記家具本体または前記引出しは、前記引出しの移動により前記係止部に当接して該係止部を前記係止位置から前記非係止位置まで移動させる当接部を備え、
前記当接部は、前記引出しが前記家具本体に収納された状態において、前記被係止部よりも前方位置に配置されていることを特徴とする耐震ラッチ装置。
【請求項2】
前記当接部は、前記引出しが前方へ移動する際に前記係止部と当接する前方当接面を有し、該前方当接面は、前記引出しの移動方向に対して傾斜する傾斜状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の耐震ラッチ装置。
【請求項3】
前記係止部における前記当接部が当接される被当接部は、前記係止部の頂部よりも内側に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の耐震ラッチ装置。
【請求項4】
前記当接部は、前記係止部に向けて突出する球面状の突起であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の耐震ラッチ装置。
【請求項5】
前記当接部は、前記被係止部の頂部と同位置または該前記被係止部の頂部よりも低く形成されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の耐震ラッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−275446(P2009−275446A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−129237(P2008−129237)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000002222)サンウエーブ工業株式会社 (196)