説明

脱穀装置

【課題】穀粒の脱ぷを抑えながら確実に脱穀処理でき、従来の脱穀装置に比べて脱穀処理に要するエネルギーの少ない脱穀装置を提供する。
【解決手段】供給される穀稈の穂先部またはその近傍部位に、稈身に交差する方向から衝突して脱粒作用を与える第一脱粒装置(1)を設け、穀粒が該第一脱粒装置(1)の作用を受けて弾き跳ばされる方向の下手側の位置に、この弾き跳ばされた穀粒等が衝突する第二脱粒装置(2)を設け、該第二脱粒装置(2)には、衝突した穀粒の通過を許す程度のスリット(3)を備えた衝突面(4)を形成し、該第二脱粒装置(2)の下手側には、前記スリット(3)を通過した穀粒等を案内する案内板(5)を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、脱穀装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から稲等の脱穀装置は、穀稈の株元側から穂先側に向けて、回転する扱歯を作用させて穀稈に着粒している穀粒を脱粒する脱穀装置が広く普及している。
この種の脱穀装置は、既に広く知られているが、扱室に軸架している胴の外周に、一定の基準に基づき配列した扱歯を固着し、一方、扱ぎ口には穀稈の株元を挟持して搬送するフィードチェーンを沿わせて構成している。そして、脱穀装置は、フィードチェーンに株元を挟持させた穀稈を搬送しながら穂部を扱室内の前記扱胴に当てて脱穀する構成になっている。
【0003】
更に、最近の新しい脱穀方法と装置は、本件と同一の出願人が出願した特開2006−34231号公開特許公報が公開されている。該公報に記載した公知技術は、穀稈の穂部における穀粒の着粒部、乃至その近傍部位に対して衝撃的に曲げ荷重を与えて脱粒する方法と、その装置を要旨とした技術である。
【特許文献1】特開2006−34231号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
まず、従来、一般に、広く普及し最も多く使用されている前述した扱歯を植設した扱胴式の脱穀装置は、基部をフィードチェーンで挟持して搬送する過程で、穂部の着粒部に対して扱歯が稈身方向に作用し、引っ張って脱粒するから穂切れや藁屑の発生が多くなり、枝梗付き穀粒も多く発生する課題がある。そして、扱胴式の脱穀装置は、脱粒後の穀粒が、回転している扱胴によって未処理物に混入して持ち回られ、扱室に滞留する時間が長くなるから、消費馬力も増大し、脱ぷ率が高くなる課題があった。
【0005】
更に、特許文献1に示した脱穀方法、及び装置は、穀稈に対して衝突させる脱粒体が、一度、衝撃を与えるだけであるから、充分な脱粒作用が期待できない課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記課題を解決するために、次のような技術的手段を講じる。
即ち、請求項1に記載した発明は、供給される穀稈の穂先部またはその近傍部位に、稈身に交差する方向から衝突して脱粒作用を与える第一脱粒装置(1)を設け、穀粒が該第一脱粒装置(1)の作用を受けて弾き跳ばされる方向の下手側の位置に、この弾き跳ばされた穀粒等が衝突する第二脱粒装置(2)を設け、該第二脱粒装置(2)には、衝突した穀粒の通過を許す程度のスリット(3)を備えた衝突面(4)を形成し、該第二脱粒装置(2)の下手側には、前記スリット(3)を通過した穀粒等を案内する案内板(5)を配置したことを特徴とする脱穀装置としたものである。
【0007】
穀稈に着粒している穀粒は、第一脱粒装置1が稈身に交差する方向から衝突したときに脱粒しながら弾き跳ばされて第二脱粒装置2に衝突する構成としている。したがって、穀稈の穂部は、第一脱粒装置1によって衝撃を受けたときと、更に、第二脱粒装置2に衝突したときに脱粒されるから、脱穀が確実に行われ、扱胴等で持ち回られる事がないから、脱ぷの発生もきわめて少なくなる。
【0008】
つぎに、請求項2に記載した発明は、前記第二脱粒装置(2)は、複数の細杆(6)を間隔をおいて配列し、その間隔部に穀粒が通過できる程度のスリット(3)を形成し、該複数の細杆(6)の上下を上部支持杆(7)と下部支持杆(8)とに取り付け、前記第一脱粒装置(1)の作用を受けた穀粒が弾き跳ばされる方向の下手側の位置において、前記上部支持杆(7)を上側機枠(9)に着脱自由に取付け、前記下部支持杆(8)を下側機枠(10)に前後方向に調節自由に取付け、該第二脱粒装置(2)を角度変更可能な構成としたことを特徴とする請求項1記載の脱穀装置としたものである。
【0009】
第二脱粒装置2は、予め、複数の細杆6を、上部支持杆7と下部支持杆8とに取付けてサブ組みしておき、それを機枠9,10に着脱するから、取付けが容易にできる利点がある。
【0010】
そして、第二脱粒装置2は、弾き跳ばされて衝突する穀粒等に対して、角度の変更調節ができる構成にしているから、脱粒率に応じて調節できる利点もある。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載した発明によると、供給された穀稈が第一脱粒装置1によって稈身に対して交差した方向から衝撃を受けて脱粒され、その衝撃により弾き跳ばされて第二脱粒装置2に衝突して、未脱粒部位が脱粒作用を受け、結局、二度の脱粒作用によって、確実に脱粒処理することができる。そして、脱粒処理物が扱胴等で持ち回られる工程がないから、穀粒に対する脱ぷがほとんど発生しない。また、従来の脱穀装置に比べて脱穀処理に要するエネルギーが小さくてすみ、例えばこの脱穀装置をコンバインに搭載した場合には、エンジンの馬力損失を少なくして刈取脱穀作業の能率を高めることができる。
【0012】
つぎに、請求項2に記載した発明によると、上記請求項1に記載した発明と同様の効果を有するものでありながら、第二脱粒装置2を、予め、サブ組みしておき、それを機枠9,10に着脱するから、着脱作業が容易にできる。そして、弾き跳ばされて衝突する穀粒等に対して、第二脱粒装置2の角度を変更調節できるから、衝突角度を調節しながら脱粒効率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明の実施例を図面に基づいて具体的に説明する。
まず、穀稈搬送コンベヤ15は、図1に示すように、広幅の搬送ベルト15a上に穀稈を搬送方向に対して横向きの状態に載置して搬送し、搬送下手側に装備した第一脱粒装置1の回転範囲内に横向きのまま落下させて供給できる構成としている。13は駆動転輪、14は従動転輪を示す。そして、第一脱粒装置1は、図面に示すように、脱粒駆動軸16に軸着した回転胴17の外周面に複数の脱粒具18を配列して穀稈(供給される穀稈の先端部分、主として穂部の近傍部位)に衝突して脱粒作用を与える構成としている。
【0014】
具体的に述べると、脱粒具18は、図2、及び図3に示すように、線杆19を扱歯状に形成し、取付板20上に所定間隔ごとに配列してその両端部分を固着し、その取付板20を前記回転胴17の外周面に配列して全周面に取付けて構成している。この場合、第一脱粒装置1は、前記穀稈搬送コンベヤ15の搬送終端部から横向きのまま落下して供給された穀稈に対して、稈身に交差する方向から前記脱粒具18が衝突して脱粒作用を行う構成としている。
【0015】
そして、穀粒等の移動通路22は、図1、及び図6に示すように、細杆23を所定間隔ごとに長手方向に配列して、その間にスリット24を設けて構成した底案内枠25を、下面に配置して構成している。そして、下向案内枠26は、図1、及び図7に示すように、前記底案内枠25と同様に細杆27を一定間隔ごとに配列して形成し、前記底案内枠25の終端部に上部を連続し、斜め下向きに延長して設けた構成としている。この場合、下向案内枠26は、図1に示すように、下部を下部機枠10上の円弧状長孔29に、前後調節自由に取付けている。
【0016】
つぎに、第二脱粒装置2は、図1に示すように、前記第一脱粒装置1の脱粒具18によって衝撃を受け、弾き跳ばされる方向の前方位置に、側面視で傾斜させて装置し、跳ばされて来た穀粒等が衝突する構成としている。そして、第二脱粒装置2は、図1、図4、及び図5に示すように、複数の細杆6を、その間に穀粒等が通過できる程度のスリット3を形成して配列し、上部を上部支持杆7に、下部を下部支持杆8にそれぞれ固着して構成している。このように構成した第二脱粒装置2は、第一脱粒装置1の作用を受けた穀粒等が、弾き跳ばされる方向の前方位置において、上部支持杆7を上側機枠9に着脱自由に取付けると共に、下部支持杆8を下側機枠10に形成した前後方向の長孔28に前後調節自由に取付けて角度を変更できる構成としている。
【0017】
そして、第二脱粒装置2は、図1に示すように、下方に延長した部分が、前記下向案内枠26と略平行に配置して、前記スリット3を通過しなかった例えば枝梗付き穀粒等が落下する落下通路30を形成している。
【0018】
そして、案内板5は、図面に示すように、前記第二脱粒装置2のスリット3を通過して跳ばされて来た穀粒が衝突し、下方に案内できるように約45度の傾斜角を持たせて取付けて構成している。
【0019】
以上のように構成して、回転各部を伝動しながら、穀粒搬送コンベヤ15の搬送ベルト15a上に、搬送方向に対して横向きに穀稈を載置すると、穀稈は、そのまま搬送終端部まで送られて、回転している回転胴17の脱粒具18の回転圏内に落下してくる。そして、脱粒具18は、落下してくる穀稈に衝突して衝撃を与えることになるが、そのとき、穀稈の稈身方向に対して交差方向(垂直方向)から衝突して衝撃を与え、弾き跳ばすと同時に脱粒作用を行う。
【0020】
このようにして、第一脱粒装置1によって脱粒された穀粒は、若干跳ばされながら重力が働いて底案内枠25のスリット24を通過してそのまま下方に落下して収集される。
一方、未脱粒状態の穀粒等は、前方側に弾き跳ばされて、第二脱粒装置2の細杆6からなる衝突面4に当たり、再度、脱粒作用を受け、単粒のものは、スリット3を通過して案内板5に達する。
【0021】
このように、第一脱粒装置1は、搬送ベルト15aの終端部から供給された穀稈を、稈身に対して交差した方向から衝撃を与えて脱粒し、その衝撃により弾き跳ばされて第二脱粒装置(2)に衝突して、未脱粒部位が脱粒作用を受け、結局、二度の脱粒作用によって、確実に脱粒処理が行われる。
【0022】
そして、上記の脱穀工程中には、従来のように、脱粒処理物が扱胴等で持ち回られる工程がないから、穀粒に対する脱ぷがほとんど発生せず、脱ぷの低減ができる点でも優れている。
【0023】
そして、第一脱粒装置1は、図面に示して説明したように、脱粒具18を線杆19から扱歯状に形成して取付板20上に所定間隔ごとに配列し取付けた後、その取付板20を前記回転胴17の外周面に配列して全周面に取付けて構成するものであるから、脱粒具18を1本、1本回転胴17に取付ける構成に比較して、着脱がはるかに楽にできる特徴もある。
【0024】
また、第二脱粒装置2についても、既に説明したように、予め、図4、及び図5に示すように、複数の細杆6を、その間に穀粒等が通過できる程度のスリット3を形成して配列し、上部を上部支持杆7に、下部を下部支持杆8にそれぞれ固着して製作し、これを前方位置に、上部支持杆7を上側機枠9に着脱自由に取付けると共に、下部支持杆8を下側機枠10に形成した前後方向の長孔28に調節自由に取付けて角度を調節できる構成としているから、着脱が簡単であり、角度調節も簡単にできる利点がある。
【0025】
つぎに、図8に基づいて他の実施例を説明する。
実施例は、既に説明した第一脱粒装置1、及び第二脱粒装置2の脱粒作用を受けても、まだ脱粒しない未処理物が、落下通路30を経由して下側に流下するが、その未処理物を、再度、第一脱粒装置1の脱粒具18の回転圏内に誘導して再度脱粒作用を与える構成にしている。
【0026】
そして、案内装置33は、既に説明した底案内枠25(図6参照)、又は下向案内枠26(図7参照)のように、細杆27を穀粒が通過できる程度の間隔を隔てて配列して取付機枠34に固定し、下部機枠10の中間部位に取付けて構成している。実施例の場合、案内装置33は、図8に示すように、基部の取付機枠34を前記下部機枠10に設けた上下方向の長孔35にボルト・ナットで着脱自由に取付けて設け、落下通路30に臨ませて下向きに傾斜させて先端部を、前記脱粒具18の回転圏に接近させて構成している。そして、実施例の案内装置33は、前記長孔35とボルト・ナット緩め、締め付け操作で、高さと傾斜角度の両方が調節できる構成にしている。
【0027】
以上のように構成した実施例は、第一脱粒装置1と第二脱粒装置2とによって、脱粒作用を受けると、通常なら、ほとんど大部分が脱粒されて案内板5側に達するが、それでも脱粒せずに落下通路30を落下してくる未脱粒物を、案内装置33が受け止めて、再度、第一脱粒装置1に案内することができる。この場合、案内装置33は、第二脱粒装置2のスリット3を通過できずに落下通路30を落下してくる未脱粒物を、傾斜面で受け止めながら回転している脱粒具18の回転圏内に誘導し、供給して脱粒することができる。
【0028】
このようにして、実施例は、脱粒できない未処理物の量をできるだけ減らすことができる特徴がある。
そして、上記案内装置33は、未脱粒物が多い場合には、停滞量を減らすために傾斜調節によって急勾配にして供給したり、上下方向に高さ位置の調節をして第一脱粒装置1に供給する位置を変更できる利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】新脱穀装置の側面図
【図2】脱粒具の平面図
【図3】脱粒具の側面図
【図4】第二脱粒装置の正面図
【図5】第二脱粒装置の側面図
【図6】底案内枠の平面図
【図7】下向案内枠の平面図
【図8】別実施例の側面図
【符号の説明】
【0030】
1 第一脱粒装置
2 第二脱粒装置
3 スリット
5 案内板
6 細杆
7 上部支持杆
8 下部支持杆
9 上部機枠
10 下部機枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給される穀稈の穂先部またはその近傍部位に、稈身に交差する方向から衝突して脱粒作用を与える第一脱粒装置(1)を設け、穀粒が該第一脱粒装置(1)の作用を受けて弾き跳ばされる方向の下手側の位置に、この弾き跳ばされた穀粒等が衝突する第二脱粒装置(2)を設け、該第二脱粒装置(2)には、衝突した穀粒の通過を許す程度のスリット(3)を備えた衝突面(4)を形成し、該第二脱粒装置(2)の下手側には、前記スリット(3)を通過した穀粒等を案内する案内板(5)を配置したことを特徴とする脱穀装置。
【請求項2】
前記第二脱粒装置(2)は、複数の細杆(6)を間隔をおいて配列し、その間隔部に穀粒が通過できる程度のスリット(3)を形成し、該複数の細杆(6)の上下を上部支持杆(7)と下部支持杆(8)とに取り付け、前記第一脱粒装置(1)の作用を受けた穀粒が弾き跳ばされる方向の下手側の位置において、前記上部支持杆(7)を上側機枠(9)に着脱自由に取付け、前記下部支持杆(8)を下側機枠(10)に前後方向に調節自由に取付け、該第二脱粒装置(2)を角度変更可能な構成としたことを特徴とする請求項1記載の脱穀装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−232760(P2009−232760A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83710(P2008−83710)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】