脱粒方法および脱粒装置
【課題】従来から広く普及している扱胴式脱穀装置は、穀稈基部をフィードチエンで挟持して搬送する過程で、穂部を扱歯に作用させて、稈身方向に引っ張って脱粒する構成で、穂切れや藁屑の発生が多く、枝梗付き穀粒も発生し、消費馬力が増大して選別に伴う機外損出が増加し、脱ぷ率が高い課題があった。
【解決手段】この発明は、穀稈の穂部における穀粒の着粒部、乃至その近傍部位に衝撃的に曲げ荷重を与えることによって穀粒を脱粒させることを特徴とする脱粒方法としている。また、穀稈の穂部における穀粒の着粒部、乃至その近傍部位に脱粒体側を衝突させて衝撃的に曲げ荷重を与えて穀粒を脱粒させることを特徴とする脱粒装置としている。
【解決手段】この発明は、穀稈の穂部における穀粒の着粒部、乃至その近傍部位に衝撃的に曲げ荷重を与えることによって穀粒を脱粒させることを特徴とする脱粒方法としている。また、穀稈の穂部における穀粒の着粒部、乃至その近傍部位に脱粒体側を衝突させて衝撃的に曲げ荷重を与えて穀粒を脱粒させることを特徴とする脱粒装置としている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、穀稈の穂部における穀粒と枝梗との境界、乃至その近傍部位に衝撃的に曲げ荷重を与えて穀粒を脱粒する脱粒方法および脱粒装置に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来から稲等の脱粒方法は、穀稈の株元側から穂先側のいわゆる稈身方向にかけて力を作用させて穀粒を脱粒させていた。そして、脱粒装置は、一般的で、広く普及している構成として、外周に扱歯を植設した扱胴を、扱室に内装軸架して設け、扱口に沿わせて配置したフィードチエンによって株元を挟持した穀稈を、搬送しながらその穂先部を扱室に挿入して移送する過程で脱穀する構成の装置が知られている。
【0003】
そして、別の脱粒方法としては、例えば、公開特許公報として出願公開されている特開平1−120222号公報(特許文献1参照)に記載された方法、すなわち、同公報によれば、穀稈の穂部に対して金属、樹脂等からなるペレットを、回収循環可能に噴射衝突させて脱粒させる方法が公開されている。
【0004】
更に、別の脱粒装置として、特開2000−4653号公報(特許文献2参照)には、刈取穀稈の穂先着粒部を上下方向から挟み込む上下一対の脱粒ベルトを備え、両ベルトの速度差を利用して脱穀する装置が示されている。
【0005】
そして、前者の脱粒方法は、添付図面の第1図から解るように、穂先の穀粒に対して株元側から前記ペレットを噴射衝突させて脱粒する方法が示されており、後者の脱穀装置は、穂部を上下から挟んだ脱粒ベルトの速度差を利用して、正転する方向への捻り力と逆転する方向への捻り力とが繰り返されて穀稈から穀粒を分離する構成が図面と共に記載されている。
【特許文献1】特開平1−120222号公報
【特許文献2】特開2000−4653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
まず、従来、一般に、広く普及して最も多く使用されている前述した扱歯を植設した扱胴式の脱穀装置は、基部をフィードチエンで挟持して搬送する過程で、穂部の着粒部に対して扱歯が稈身方向(株元側から穂先側の長手方向)に作用して、引っ張って脱粒するから、穂切れや藁屑の発生が多く、枝梗付き穀粒が発生し、消費馬力も増大して選別に伴う機外損出が増加し、脱ぷ率が高い課題がある。
【0007】
また、特許文献1に示した脱粒方法は、金属等で形成されたペレットが、勢いよく噴射されて穀粒に衝突する率が高いため、損傷粒の発生が多く、実用には供し難い課題があり、未だに製品化が見込まれていない方法である。
【0008】
また、特許文献2に示した脱穀装置は、上下一対の脱穀ベルトで挟み込んで穀稈の穂部着粒部分を圧接しながら両者の速度差を利用して揉むために、穂切れや藁屑の発生が多く、砕米の発生も多い課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、上記課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、穀稈の穂部における穀粒の着粒部、乃至その近傍部位に衝撃的に曲げ荷重を与えることによって穀粒を脱粒させることを特徴とする脱粒方法であって従来の扱胴式脱穀装置に比較すれば、小さい力(消費馬力)で適確に脱粒できる。この発明は、穀稈の穂部における穀粒と枝梗との境界部位、乃至その近傍部位に衝撃的に曲げ荷重を与えることによって穀粒を脱粒するから、穂切れや藁屑の発生が少なく安定した脱粒ができる。
【0010】
つぎに、請求項2に記載した発明は、穀稈の穂部における穀粒の着粒部、乃至その近傍部位に脱粒体側を衝突させて衝撃的に曲げ荷重を与えて穀粒を脱粒させることを特徴とする脱粒装置であって、静止状態に保持した穀稈の穂部(穀稈の穂部における穀粒と枝梗との境界部位、乃至その近傍部位)に、脱粒体を衝突させるから、穂切れや藁屑の発生がほとんどなく、安定した脱粒ができる。
【0011】
つぎに、請求項3に記載した発明は、穀稈の穂部における穀粒の着粒部、乃至その近傍部位に衝撃的な曲げ荷重を与える脱粒体に対して、穀稈の穂部を衝突させて穀粒を脱粒させることを特徴とする脱粒装置であって、前記請求項2の構成では、脱粒体を移動させるのに対して、請求項3のこの発明は、穀稈を移動させて脱粒体に衝突させる構成であって、上記請求項2と同様に、穂切れや藁屑の発生が少なく、安定した脱粒ができる。
【0012】
特に、この発明は、穀稈の穂部を移動させる場合、空気の抵抗を大きく受ける葉部に対して、空気抵抗の少ない穂部が先行して移動し葉部に邪魔されることなく先に脱粒体に衝突して単粒化作用を受けるから脱粒しやすく、且つ、葉等の屑の混入が少なくなる。
【0013】
つぎに、請求項4に記載した発明は、穀稈の穂部における穀粒の着粒部、乃至その近傍部位に衝撃的な曲げ荷重を与える脱粒体と穀稈とを互いに接近する方向に移動させて衝突させることで、穀粒を脱粒させることを特徴とする脱粒装置であって、両者個々の移動速度は小さい消費馬力によって遅くても、衝突時には、両者の速度が合成されて大きな衝撃が発生し、脱粒に必要な充分な曲げ荷重を発生することができる。
【0014】
つぎに、請求項5に記載した発明は、前記脱粒体は、穀稈の穂部における穀粒の着粒部、乃至その近傍部位に、前記穀稈の稈身方向に対して交差させるように衝突させて穀粒を脱粒させることを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の脱粒装置であって、穀稈の穂部における穀粒と枝梗との境界部位、乃至その近傍部位に曲げ荷重を効果的に発生させることができて、脱粒性が向上する。
【0015】
つぎに、請求項6に記載した発明は、前記脱粒体は、網に形成した衝突面、又は凹凸状の板に形成した衝突面を有することを特徴とする請求項2乃至5のいずれかに記載の脱粒装置であって、網、或いは凹凸状の板からなる衝突面に形成すれば、穀稈の穂部に衝突する面積(脱粒面)が広く形成でき、後者の凹凸状板は、衝突時に穀粒が後ろ側に抜け落ちるのがなくなり、脱粒作用と事後の回収が効果的にできる。
【発明の効果】
【0016】
まず、請求項1に記載した発明は、従来の扱胴式脱穀装置に比較すれば、穀稈の穂部における穀粒と枝梗との境界部位、乃至その近傍部位に衝撃的に曲げ荷重を与えて脱粒すると、小さな力で脱粒できる利点があり、消費馬力が大幅に少ない脱粒方法である特徴がある。そして、この発明は、穀粒と枝梗との境界部位に衝撃を与えて穀粒を脱粒するから、脱粒時の穂切れや藁屑の発生を少なくすることが可能であって、枝梗付着粒が減少し、機外損出も大幅に減少した効果がある。
【0017】
そして、請求項2に記載した発明は、静止状態に保持した穀稈の上部にある穂部における穀粒と枝梗との境界部位(又はその近傍部位)に、脱粒体を衝突させるから、穀粒と枝梗との境界部位に正確に衝突させることが可能であって、穂切れや藁屑の発生が少なく安定した脱粒ができる特徴がある。そして、この発明は、請求項1が有する効果と同等の効果を奏することができる。
【0018】
そして、請求項3に記載した発明は、静止させた脱粒体に穂部側を衝突させるものであるから、質量の小さい穀稈穂部を小さい力で移動させることが可能であって、消費馬力が小さい装置となる特徴がある。そして、この発明は、穀稈の穂部側を高速で移動させる場合、空気抵抗を大きく受ける葉部に対して、空気抵抗の少ない穂部が先行して移動し、葉部に邪魔されることなく、先に脱粒体に衝突して曲げ応力が発生して単粒化され、葉屑の混入が少なく優れた特徴がある。
【0019】
しかも、この発明は、脱粒効果としては、請求項1の発明と同様の効果が期待できる。
そして、請求項4に記載した発明は、脱粒体と穀稈との両方を、互いに衝突する方向に移動させて衝突させることで、脱粒する構成であるから、衝突時には、両速度の合計に基づく衝撃により脱粒され、実速度が遅くても衝突速度が大きくなって強く衝突できる利点があり、実際の移動速度よりはるかに効果的な脱粒作用が期待できる優れた特徴がある。
【0020】
そして、請求項5に記載した発明は、穀粒の接続部位に対して交差する方向から脱粒体を衝突させるから、穀粒と枝梗との接続部分に交差する方向から衝突衝撃が働いて曲げ荷重を与え、効果的に脱粒できる特徴がある。
【0021】
そして、請求項6に記載した発明は、脱粒体を網、又は凹凸状の板の衝突面に形成したものであるから、穂部の接続部位に衝突する衝突面を広くすることが可能となり、穀稈の穂部全体に対応できる面積の衝突面を作り、脱粒効率を高める特徴がある。そして、この発明は、衝突面を、実施例で示すように、表面を凹凸状の板面にすれば、網と違って衝突して脱粒後の穀粒が後方に抜け落ちることがなくなり、回収が容易になると共に枝梗や止め葉が刺さる(網目に)ことがない特徴がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
この発明は、穀稈の穂部の各穀粒の付け根部分、即ち、穀粒と枝梗との境界部位、乃至その近傍位置に衝撃的に曲げ荷重を発生させて穀粒を脱粒する脱粒方法である。
さらに、この発明は、脱粒体1を稈身方向に対して交差する方向から穀粒と枝梗との境界部位に衝突させることによって穀粒と枝梗との境界部位に曲げ荷重を発生させて穂部を脱粒化する脱粒装置で、従来の課題を一挙に解消したものである。
【0023】
以下、この発明に係る実施例を図面に基づいて具体的に説明する。
まず、脱粒体1は、図4に示す実施例のように、線状部材2を縦横に編んだ方形状の平らな面の網3aからなる衝突面1aとするか、又は図6(a)、(b)に示す実施例のように、穀粒に衝突する表面を凹凸状の板3bに形成した衝突面1aとした構成としている。そして、脱粒体1は、図4、及び図5に示すように、下側を下部取付枠4によって支持装置5の前部に取り付けて構成している。この実施例の場合、衝突面1aは、略垂直状に立った状態に保持されている。そして、脱粒体1の衝突面1aは、図面から解るように、後面の上下中間位置の左右両側において、上記支持装置5の後部両側から上方、前方に延長した取付支持杆6、6を連結して支持した構成としている。
【0024】
そして、支持装置5は、図面に示すように、前部の上記下部取付枠4と、後部の前記左右の取付支持杆6、6との間に形成した枠体であって、上記脱粒体1の左右中心位置において、後述する機台7の中央位置に設けた支持レール8に嵌合して前後に摺動自由に移動できる摺動案内筒9を設けた構成としている。
【0025】
そして、支持装置5は、図4に示すように、前記した左右両側の取付支持杆6、6の下部に案内孔10、10を設けて、上記機台7の左右の案内レール11、11に摺動自由に貫通させて案内する構成としている。この場合、支持装置5は、図2、及び図3から解るように、中央位置の摺動案内筒9が支持レール8に挿通して支持され、左右両側の案内孔10,10が案内レール11,11に挿通して支持、案内され、機台7上を長手方向に摺動できる構成となっている。
【0026】
そして、推進板12は、図4、及び図5に示すように、上記支持装置5の中央位置の下面に下方へ突出させて前後方向に延長して設け、両側から推進力を受ける面状に形成し、後述する推進装置13に圧着されて推進力を受ける構成としている。
【0027】
以上のように構成された脱粒体1は、図1に示すように、垂直状に立った状態に構成するが、図7に示すように、衝突面1aが進行方向に対して上部を後退させた角度を付けた構成にすることが可能である。このように前後傾斜をつけた構成すると、衝突面1aは、垂直状態にならずに傾斜状に保持されている穀稈に対して適確に衝突して脱粒することができる。
【0028】
そして、脱粒体1は、図8、及び図9に示すように、穀粒に衝突する面、すなわち、衝突面1aを進行方向側が平面視で円弧形状に形成した実施例も有効である。この実施例は、図9の作用図に示すように、円弧の内面に衝突すると、脱粒後、前方側に飛散する穀粒が円弧形状の中心点Pに向かって集まる方向に飛んで、平板の場合のように広範囲に飛散することが防止できて、穀粒の回収が容易となる。したがって、脱粒装置は、実施例の原理に基づいて、横幅の狭い小型の装置に構成できる特徴がある。
【0029】
そして、脱粒体1は、図10、及び図11に示すように、衝突面1aを仮想の鉛直軸Aを基準にして、進行側に角度αを持たせた構成としている。この実施例は、図11の作用図に示すように、衝突面1aが穀粒に衝突した瞬間、角度αのために粒に対して回転力を付与し、枝梗が捻じれて曲げ作用が倍加され、脱粒が促進される。したがって、実施例に係る脱粒体1は、脱粒率が大幅に向上するため、衝突速度を可能な限り下げることができ、脱粒装置の消費馬力を小さくできる特徴がある。
【0030】
そして、脱粒体1は、図12に示す実施例のように、線状部材2の先端部(衝突縁)を鋭利な刃物状に形成すると、穂部の着粒部に衝突したとき曲げ荷重のみでなく穀粒と枝梗との接続部分を切断することができるため、衝突速度が遅くても充分な脱粒効果を得ることができる。
【0031】
つぎに、機台7について、図面に基づき説明する。
まず、機台7は、図1、乃至図3に示すように、上記脱粒体1を長手方向に移動自由に支持し、一定距離の移動空間を有する長い台に構成している。そして、機台7は、図面に示し、既に説明したように、長手方向に沿わせて中央位置に支持レール8を架渡し、その支持レール8を挟んで左右両側に間隔を保って案内レール11,11を配置して架渡して設け、前記脱粒体1を摺動しながら移動可能に支持する構成としている。
【0032】
そして、推進装置13は、柔軟なゴム素材によってタイヤの如く円形状に形成した左右一対の推進輪13a,13bを、前記機台7の一方の端部に装置し、前記推進板12を左右両側から圧接状態に挟んで脱粒体1を機台7の中央方向に強力に発射できる構成としている。そして、上記推進輪13a,13bは、図面には示すように、下側から支えている箱体14に内装した電動モーター15によって駆動する構成としている。
【0033】
そして、支持枠16は、図面に示すように、機台7の外側に配置して設け、穂部のついた穀稈を逆さまに吊持ち支持してその穂部を前記脱粒体1の通過する通路上に垂下できる構成としている。
【0034】
以上のように構成した脱粒装置は、上記支持枠16に穀稈を垂下支持した状態(図1、及び図2参照)で電動モーター15のスイッチをON操作して駆動すると、左右一対の推進輪13a,13bが推進板12を両側から挟んだ状態で駆動される。すると、脱粒体1は、推進装置13から推進板12が受ける推進力によって前方側に高速で発射され、3本のレール8,11,11上を移動して前方の穂部(穀粒)に衝突する。
【0035】
すると、穀稈の穂部は、各穀粒と枝梗との接続部分に、図13に示すように、脱粒体1の線状部材2が衝突して曲げ荷重を受けて分離し、単粒化される。このようにして、穀稈の穂部は穂切れや藁屑を発生させないまま脱穀作用が行われる。
【0036】
図17と図18には、前記脱粒体1を穀粒の穂部に対して衝突させた場合の実験結果を示している。この実験においては、脱粒体1を図4に示す実施例のように、線状部材2を縦横に編んだ方形状の平らな面の網3aからなる衝突面1aで構成している。
【0037】
図17の実験結果は、線状部材2を縦横に編んだ方形状の平らな面の網3aの目合いと、脱粒率との関係を示している。また、線状部材2の線径は2.0mmである。また、単にアルミの板を衝突させた場合の脱粒率も併記している。
【0038】
この結果から、単にアルミの板を衝突させた場合に対して、線状部材2を衝突させた場合の方が、明らかに脱粒率が高くなるという結果が得られた。また、同じ線状部材2の中でも、目合いが12mm近傍と25mm近傍で脱粒率が高くなるという結果が得られた。
【0039】
図18の実験結果は、線状部材2の移動速度と脱粒率との関係を示している。このときの条件としては、線状部材2の線径は2.0mmであり、目合いは12mmである。
この結果から、線状部材2の移動速度(衝突速度)が増加するにしたがい、脱粒率が向上するという結果が得られた。
【0040】
これらの実験結果から、線状部材2を穀稈に衝突させて、穀稈の穂部における穀粒と枝梗との境界部位、乃至その近傍部位に衝撃的に曲げ荷重を与えることによって穀粒を脱粒させる脱粒方法が有効であるということが判明した。
【0041】
つぎに、穂部シューター18とその作用について説明する。
まず、穂部シューター18は、前述した推進装置13に類似の構成であって、左右一対の推進輪13a,13bと同様に、図14に示すように、ゴムタイヤのように構成した左右一対の円形状の輪体18a,18bによって、穀稈穂部を左右両側から挟んで高速で回転しながら穂部を脱粒体1に向けて発射できる構成としている。この場合、前記輪体18a,18bは、外周表面に柔軟な素材を使用して穀粒に損傷を与えない工夫がされている。そして、輪体18a,18bは、下側の支持箱19の内部には電動モーター20を装置して高速駆動ができる構成としている。
【0042】
以上のように構成した穂部シューター18は、図14、及び図15に示すように、輪体18a,18bを電動モーター20のスイッチ操作で駆動しておき、穀稈穂部を供給すると、高速で発射して脱粒体1の衝突面1aに衝突させることができる。このようにして新脱粒装置は、定位置に固定した脱粒体1に対して、軽い穀稈穂部を高速で移動して衝突させれば脱粒体1を移動させる場合と同様の脱粒作用ができるものでありながら、脱粒体1に比較して質量が小さいために、小馬力で目的を達することができる特徴がある。更に、この場合、葉部の付いた穂部は、空中の移動中に空気抵抗を受けるが、粒よりも面積の広い葉部が大きな空気抵抗を受けて飛行が遅れ、後ろ側に回って移動し、先行する穀粒が葉部に邪魔されることなく衝突面1aに衝突する特徴がある。そのため、各穀粒は、枝梗との接続部位曲げ荷重が発生して折れ脱粒されると共に、葉屑の混入も極端に少ない効果がある。
【0043】
以上のような構成、作用を奏する穂部シューター18と、既に説明した脱粒体1との双方を両端から中央に向けて高速で移動すると、図16に示すように、中間位置で両者を衝突させて脱粒作用ができる。この場合、脱粒作用は、両者の速度の総和に基づいて発生する衝突時の衝撃によって行われるものであるから、実速度が遅くても充分に目的を達成することが可能である。したがって、推進装置13、及び穂部シューター18は、共に小さい馬力の消耗で、充分に目的の達成が可能であり、全体としてコスト、効率の面で有効な装置である。
【0044】
以上の通り、この発明に係る各実施例は、従来の脱粒装置に比較して、枝梗と粒との接続部位に曲げ荷重を作用させて脱粒すると、小さな力で脱粒ができる利点があり、消費馬力を大幅に少なくできる脱粒装置を提供できるものである。そして、この発明の実施例は、脱粒時の穂切れや藁屑の発生が少なく、枝梗付着粒が減少し、機外損出も大幅に減少できる点でも優れている。
【0045】
そして、この発明の実施例で述べたように、静止させた脱粒体1に対して穂部側を高速で衝突させる構成では、質量の小さい穀稈穂部側を小さい力で移動させることが可能であって、小さい消費馬力で目的を達することができる特徴がある。しかも、この実施例の場合、付着している葉部が空気抵抗を受けるため、移動が遅れ、穀粒が先行して葉部に邪魔されずに衝突するから、適確に脱粒され上述した実施例と同様の効果が期待できる。
【0046】
そして、脱粒体1と穀稈穂部との両方を中央に向けて移動させて両者の中間位置で衝突させる実施例は、衝突時には、両者の速度の総和による衝撃で脱粒されるから、実速度が遅くても衝突速度が大きくなって強く衝突できる利点があり、実際の移動速度よりはるかに効果的な脱粒作用が期待できる優れたものとなっている。
【0047】
そして、これらの発明に係る実施例は、穀稈穂部の接続部位に対して交差する方向から脱粒体1を衝突させるから、穀粒と枝梗との接続部位に横側から衝突衝撃が働いて曲げ荷重を与えるもので単粒化が促進され、効果的に脱粒できる。
【0048】
そして、脱粒体1は、実施例の場合、衝突面1aを網3a(図4参照)に形成した実施態様、又は凹凸状(図6(a)(b) 参照)に形成した板3bの実施態様との2つが選択できて、穂部の接続部位に衝突する脱粒面1aを広くすることが可能となっており、穂部全体に対応できる充分な脱粒面積を確保できるもので、脱粒の確実性を高めるものとなっている。また、前記脱粒体1実施態様以外の構成においても、脱粒が可能な構成であればなんでもよい。また、前記脱粒体1の各実施態様の材質については、樹脂性や金属性等なんでもよい。
【0049】
そして、凹凸状板の衝突面1aは、網面と違い脱粒後の穀粒が後ろ側に飛散せず、前側にのみ集めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】脱粒装置の側面図
【図2】脱粒装置の平面図
【図3】脱粒装置の背面図
【図4】脱粒体の背面図
【図5】脱粒体の側面図
【図6】(a)、(b) 衝突面の斜面図
【図7】変形した実施例の側面図
【図8】変形した実施例の平面図
【図9】変形した実施例の作用平面図
【図10】変形した実施例の平面図
【図11】変形した実施例の作用平面図
【図12】衝突面の変形した実施例の平面図
【図13】脱粒時の作用側面図
【図14】穂部シューターを装置した側面図
【図15】上記〔図14〕の作用側面図
【図16】脱粒装置と穂部シューターとを組み合わせた脱粒時の作用側面図
【図17】線状部材の目合いと脱粒率との関係を示す図
【図18】線状部材の移動速度(衝突速度)と脱粒率との関係を示す図
【符号の説明】
【0051】
1 脱粒体
1a 衝突面
2 線状部材
3 網
4 下部取付枠
5 支持装置
6、6 取付支持杆
7 機台
8 支持レール
9 摺動案内筒
10、10 案内孔
11、11 案内レール
12 推進板
13 推進装置
13a,13b 推進輪
14 箱体
15 電動モーター
16 支持枠
18 穂部シューター
19 支持箱
20 電動モーター。
【技術分野】
【0001】
この発明は、穀稈の穂部における穀粒と枝梗との境界、乃至その近傍部位に衝撃的に曲げ荷重を与えて穀粒を脱粒する脱粒方法および脱粒装置に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来から稲等の脱粒方法は、穀稈の株元側から穂先側のいわゆる稈身方向にかけて力を作用させて穀粒を脱粒させていた。そして、脱粒装置は、一般的で、広く普及している構成として、外周に扱歯を植設した扱胴を、扱室に内装軸架して設け、扱口に沿わせて配置したフィードチエンによって株元を挟持した穀稈を、搬送しながらその穂先部を扱室に挿入して移送する過程で脱穀する構成の装置が知られている。
【0003】
そして、別の脱粒方法としては、例えば、公開特許公報として出願公開されている特開平1−120222号公報(特許文献1参照)に記載された方法、すなわち、同公報によれば、穀稈の穂部に対して金属、樹脂等からなるペレットを、回収循環可能に噴射衝突させて脱粒させる方法が公開されている。
【0004】
更に、別の脱粒装置として、特開2000−4653号公報(特許文献2参照)には、刈取穀稈の穂先着粒部を上下方向から挟み込む上下一対の脱粒ベルトを備え、両ベルトの速度差を利用して脱穀する装置が示されている。
【0005】
そして、前者の脱粒方法は、添付図面の第1図から解るように、穂先の穀粒に対して株元側から前記ペレットを噴射衝突させて脱粒する方法が示されており、後者の脱穀装置は、穂部を上下から挟んだ脱粒ベルトの速度差を利用して、正転する方向への捻り力と逆転する方向への捻り力とが繰り返されて穀稈から穀粒を分離する構成が図面と共に記載されている。
【特許文献1】特開平1−120222号公報
【特許文献2】特開2000−4653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
まず、従来、一般に、広く普及して最も多く使用されている前述した扱歯を植設した扱胴式の脱穀装置は、基部をフィードチエンで挟持して搬送する過程で、穂部の着粒部に対して扱歯が稈身方向(株元側から穂先側の長手方向)に作用して、引っ張って脱粒するから、穂切れや藁屑の発生が多く、枝梗付き穀粒が発生し、消費馬力も増大して選別に伴う機外損出が増加し、脱ぷ率が高い課題がある。
【0007】
また、特許文献1に示した脱粒方法は、金属等で形成されたペレットが、勢いよく噴射されて穀粒に衝突する率が高いため、損傷粒の発生が多く、実用には供し難い課題があり、未だに製品化が見込まれていない方法である。
【0008】
また、特許文献2に示した脱穀装置は、上下一対の脱穀ベルトで挟み込んで穀稈の穂部着粒部分を圧接しながら両者の速度差を利用して揉むために、穂切れや藁屑の発生が多く、砕米の発生も多い課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、上記課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、穀稈の穂部における穀粒の着粒部、乃至その近傍部位に衝撃的に曲げ荷重を与えることによって穀粒を脱粒させることを特徴とする脱粒方法であって従来の扱胴式脱穀装置に比較すれば、小さい力(消費馬力)で適確に脱粒できる。この発明は、穀稈の穂部における穀粒と枝梗との境界部位、乃至その近傍部位に衝撃的に曲げ荷重を与えることによって穀粒を脱粒するから、穂切れや藁屑の発生が少なく安定した脱粒ができる。
【0010】
つぎに、請求項2に記載した発明は、穀稈の穂部における穀粒の着粒部、乃至その近傍部位に脱粒体側を衝突させて衝撃的に曲げ荷重を与えて穀粒を脱粒させることを特徴とする脱粒装置であって、静止状態に保持した穀稈の穂部(穀稈の穂部における穀粒と枝梗との境界部位、乃至その近傍部位)に、脱粒体を衝突させるから、穂切れや藁屑の発生がほとんどなく、安定した脱粒ができる。
【0011】
つぎに、請求項3に記載した発明は、穀稈の穂部における穀粒の着粒部、乃至その近傍部位に衝撃的な曲げ荷重を与える脱粒体に対して、穀稈の穂部を衝突させて穀粒を脱粒させることを特徴とする脱粒装置であって、前記請求項2の構成では、脱粒体を移動させるのに対して、請求項3のこの発明は、穀稈を移動させて脱粒体に衝突させる構成であって、上記請求項2と同様に、穂切れや藁屑の発生が少なく、安定した脱粒ができる。
【0012】
特に、この発明は、穀稈の穂部を移動させる場合、空気の抵抗を大きく受ける葉部に対して、空気抵抗の少ない穂部が先行して移動し葉部に邪魔されることなく先に脱粒体に衝突して単粒化作用を受けるから脱粒しやすく、且つ、葉等の屑の混入が少なくなる。
【0013】
つぎに、請求項4に記載した発明は、穀稈の穂部における穀粒の着粒部、乃至その近傍部位に衝撃的な曲げ荷重を与える脱粒体と穀稈とを互いに接近する方向に移動させて衝突させることで、穀粒を脱粒させることを特徴とする脱粒装置であって、両者個々の移動速度は小さい消費馬力によって遅くても、衝突時には、両者の速度が合成されて大きな衝撃が発生し、脱粒に必要な充分な曲げ荷重を発生することができる。
【0014】
つぎに、請求項5に記載した発明は、前記脱粒体は、穀稈の穂部における穀粒の着粒部、乃至その近傍部位に、前記穀稈の稈身方向に対して交差させるように衝突させて穀粒を脱粒させることを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の脱粒装置であって、穀稈の穂部における穀粒と枝梗との境界部位、乃至その近傍部位に曲げ荷重を効果的に発生させることができて、脱粒性が向上する。
【0015】
つぎに、請求項6に記載した発明は、前記脱粒体は、網に形成した衝突面、又は凹凸状の板に形成した衝突面を有することを特徴とする請求項2乃至5のいずれかに記載の脱粒装置であって、網、或いは凹凸状の板からなる衝突面に形成すれば、穀稈の穂部に衝突する面積(脱粒面)が広く形成でき、後者の凹凸状板は、衝突時に穀粒が後ろ側に抜け落ちるのがなくなり、脱粒作用と事後の回収が効果的にできる。
【発明の効果】
【0016】
まず、請求項1に記載した発明は、従来の扱胴式脱穀装置に比較すれば、穀稈の穂部における穀粒と枝梗との境界部位、乃至その近傍部位に衝撃的に曲げ荷重を与えて脱粒すると、小さな力で脱粒できる利点があり、消費馬力が大幅に少ない脱粒方法である特徴がある。そして、この発明は、穀粒と枝梗との境界部位に衝撃を与えて穀粒を脱粒するから、脱粒時の穂切れや藁屑の発生を少なくすることが可能であって、枝梗付着粒が減少し、機外損出も大幅に減少した効果がある。
【0017】
そして、請求項2に記載した発明は、静止状態に保持した穀稈の上部にある穂部における穀粒と枝梗との境界部位(又はその近傍部位)に、脱粒体を衝突させるから、穀粒と枝梗との境界部位に正確に衝突させることが可能であって、穂切れや藁屑の発生が少なく安定した脱粒ができる特徴がある。そして、この発明は、請求項1が有する効果と同等の効果を奏することができる。
【0018】
そして、請求項3に記載した発明は、静止させた脱粒体に穂部側を衝突させるものであるから、質量の小さい穀稈穂部を小さい力で移動させることが可能であって、消費馬力が小さい装置となる特徴がある。そして、この発明は、穀稈の穂部側を高速で移動させる場合、空気抵抗を大きく受ける葉部に対して、空気抵抗の少ない穂部が先行して移動し、葉部に邪魔されることなく、先に脱粒体に衝突して曲げ応力が発生して単粒化され、葉屑の混入が少なく優れた特徴がある。
【0019】
しかも、この発明は、脱粒効果としては、請求項1の発明と同様の効果が期待できる。
そして、請求項4に記載した発明は、脱粒体と穀稈との両方を、互いに衝突する方向に移動させて衝突させることで、脱粒する構成であるから、衝突時には、両速度の合計に基づく衝撃により脱粒され、実速度が遅くても衝突速度が大きくなって強く衝突できる利点があり、実際の移動速度よりはるかに効果的な脱粒作用が期待できる優れた特徴がある。
【0020】
そして、請求項5に記載した発明は、穀粒の接続部位に対して交差する方向から脱粒体を衝突させるから、穀粒と枝梗との接続部分に交差する方向から衝突衝撃が働いて曲げ荷重を与え、効果的に脱粒できる特徴がある。
【0021】
そして、請求項6に記載した発明は、脱粒体を網、又は凹凸状の板の衝突面に形成したものであるから、穂部の接続部位に衝突する衝突面を広くすることが可能となり、穀稈の穂部全体に対応できる面積の衝突面を作り、脱粒効率を高める特徴がある。そして、この発明は、衝突面を、実施例で示すように、表面を凹凸状の板面にすれば、網と違って衝突して脱粒後の穀粒が後方に抜け落ちることがなくなり、回収が容易になると共に枝梗や止め葉が刺さる(網目に)ことがない特徴がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
この発明は、穀稈の穂部の各穀粒の付け根部分、即ち、穀粒と枝梗との境界部位、乃至その近傍位置に衝撃的に曲げ荷重を発生させて穀粒を脱粒する脱粒方法である。
さらに、この発明は、脱粒体1を稈身方向に対して交差する方向から穀粒と枝梗との境界部位に衝突させることによって穀粒と枝梗との境界部位に曲げ荷重を発生させて穂部を脱粒化する脱粒装置で、従来の課題を一挙に解消したものである。
【0023】
以下、この発明に係る実施例を図面に基づいて具体的に説明する。
まず、脱粒体1は、図4に示す実施例のように、線状部材2を縦横に編んだ方形状の平らな面の網3aからなる衝突面1aとするか、又は図6(a)、(b)に示す実施例のように、穀粒に衝突する表面を凹凸状の板3bに形成した衝突面1aとした構成としている。そして、脱粒体1は、図4、及び図5に示すように、下側を下部取付枠4によって支持装置5の前部に取り付けて構成している。この実施例の場合、衝突面1aは、略垂直状に立った状態に保持されている。そして、脱粒体1の衝突面1aは、図面から解るように、後面の上下中間位置の左右両側において、上記支持装置5の後部両側から上方、前方に延長した取付支持杆6、6を連結して支持した構成としている。
【0024】
そして、支持装置5は、図面に示すように、前部の上記下部取付枠4と、後部の前記左右の取付支持杆6、6との間に形成した枠体であって、上記脱粒体1の左右中心位置において、後述する機台7の中央位置に設けた支持レール8に嵌合して前後に摺動自由に移動できる摺動案内筒9を設けた構成としている。
【0025】
そして、支持装置5は、図4に示すように、前記した左右両側の取付支持杆6、6の下部に案内孔10、10を設けて、上記機台7の左右の案内レール11、11に摺動自由に貫通させて案内する構成としている。この場合、支持装置5は、図2、及び図3から解るように、中央位置の摺動案内筒9が支持レール8に挿通して支持され、左右両側の案内孔10,10が案内レール11,11に挿通して支持、案内され、機台7上を長手方向に摺動できる構成となっている。
【0026】
そして、推進板12は、図4、及び図5に示すように、上記支持装置5の中央位置の下面に下方へ突出させて前後方向に延長して設け、両側から推進力を受ける面状に形成し、後述する推進装置13に圧着されて推進力を受ける構成としている。
【0027】
以上のように構成された脱粒体1は、図1に示すように、垂直状に立った状態に構成するが、図7に示すように、衝突面1aが進行方向に対して上部を後退させた角度を付けた構成にすることが可能である。このように前後傾斜をつけた構成すると、衝突面1aは、垂直状態にならずに傾斜状に保持されている穀稈に対して適確に衝突して脱粒することができる。
【0028】
そして、脱粒体1は、図8、及び図9に示すように、穀粒に衝突する面、すなわち、衝突面1aを進行方向側が平面視で円弧形状に形成した実施例も有効である。この実施例は、図9の作用図に示すように、円弧の内面に衝突すると、脱粒後、前方側に飛散する穀粒が円弧形状の中心点Pに向かって集まる方向に飛んで、平板の場合のように広範囲に飛散することが防止できて、穀粒の回収が容易となる。したがって、脱粒装置は、実施例の原理に基づいて、横幅の狭い小型の装置に構成できる特徴がある。
【0029】
そして、脱粒体1は、図10、及び図11に示すように、衝突面1aを仮想の鉛直軸Aを基準にして、進行側に角度αを持たせた構成としている。この実施例は、図11の作用図に示すように、衝突面1aが穀粒に衝突した瞬間、角度αのために粒に対して回転力を付与し、枝梗が捻じれて曲げ作用が倍加され、脱粒が促進される。したがって、実施例に係る脱粒体1は、脱粒率が大幅に向上するため、衝突速度を可能な限り下げることができ、脱粒装置の消費馬力を小さくできる特徴がある。
【0030】
そして、脱粒体1は、図12に示す実施例のように、線状部材2の先端部(衝突縁)を鋭利な刃物状に形成すると、穂部の着粒部に衝突したとき曲げ荷重のみでなく穀粒と枝梗との接続部分を切断することができるため、衝突速度が遅くても充分な脱粒効果を得ることができる。
【0031】
つぎに、機台7について、図面に基づき説明する。
まず、機台7は、図1、乃至図3に示すように、上記脱粒体1を長手方向に移動自由に支持し、一定距離の移動空間を有する長い台に構成している。そして、機台7は、図面に示し、既に説明したように、長手方向に沿わせて中央位置に支持レール8を架渡し、その支持レール8を挟んで左右両側に間隔を保って案内レール11,11を配置して架渡して設け、前記脱粒体1を摺動しながら移動可能に支持する構成としている。
【0032】
そして、推進装置13は、柔軟なゴム素材によってタイヤの如く円形状に形成した左右一対の推進輪13a,13bを、前記機台7の一方の端部に装置し、前記推進板12を左右両側から圧接状態に挟んで脱粒体1を機台7の中央方向に強力に発射できる構成としている。そして、上記推進輪13a,13bは、図面には示すように、下側から支えている箱体14に内装した電動モーター15によって駆動する構成としている。
【0033】
そして、支持枠16は、図面に示すように、機台7の外側に配置して設け、穂部のついた穀稈を逆さまに吊持ち支持してその穂部を前記脱粒体1の通過する通路上に垂下できる構成としている。
【0034】
以上のように構成した脱粒装置は、上記支持枠16に穀稈を垂下支持した状態(図1、及び図2参照)で電動モーター15のスイッチをON操作して駆動すると、左右一対の推進輪13a,13bが推進板12を両側から挟んだ状態で駆動される。すると、脱粒体1は、推進装置13から推進板12が受ける推進力によって前方側に高速で発射され、3本のレール8,11,11上を移動して前方の穂部(穀粒)に衝突する。
【0035】
すると、穀稈の穂部は、各穀粒と枝梗との接続部分に、図13に示すように、脱粒体1の線状部材2が衝突して曲げ荷重を受けて分離し、単粒化される。このようにして、穀稈の穂部は穂切れや藁屑を発生させないまま脱穀作用が行われる。
【0036】
図17と図18には、前記脱粒体1を穀粒の穂部に対して衝突させた場合の実験結果を示している。この実験においては、脱粒体1を図4に示す実施例のように、線状部材2を縦横に編んだ方形状の平らな面の網3aからなる衝突面1aで構成している。
【0037】
図17の実験結果は、線状部材2を縦横に編んだ方形状の平らな面の網3aの目合いと、脱粒率との関係を示している。また、線状部材2の線径は2.0mmである。また、単にアルミの板を衝突させた場合の脱粒率も併記している。
【0038】
この結果から、単にアルミの板を衝突させた場合に対して、線状部材2を衝突させた場合の方が、明らかに脱粒率が高くなるという結果が得られた。また、同じ線状部材2の中でも、目合いが12mm近傍と25mm近傍で脱粒率が高くなるという結果が得られた。
【0039】
図18の実験結果は、線状部材2の移動速度と脱粒率との関係を示している。このときの条件としては、線状部材2の線径は2.0mmであり、目合いは12mmである。
この結果から、線状部材2の移動速度(衝突速度)が増加するにしたがい、脱粒率が向上するという結果が得られた。
【0040】
これらの実験結果から、線状部材2を穀稈に衝突させて、穀稈の穂部における穀粒と枝梗との境界部位、乃至その近傍部位に衝撃的に曲げ荷重を与えることによって穀粒を脱粒させる脱粒方法が有効であるということが判明した。
【0041】
つぎに、穂部シューター18とその作用について説明する。
まず、穂部シューター18は、前述した推進装置13に類似の構成であって、左右一対の推進輪13a,13bと同様に、図14に示すように、ゴムタイヤのように構成した左右一対の円形状の輪体18a,18bによって、穀稈穂部を左右両側から挟んで高速で回転しながら穂部を脱粒体1に向けて発射できる構成としている。この場合、前記輪体18a,18bは、外周表面に柔軟な素材を使用して穀粒に損傷を与えない工夫がされている。そして、輪体18a,18bは、下側の支持箱19の内部には電動モーター20を装置して高速駆動ができる構成としている。
【0042】
以上のように構成した穂部シューター18は、図14、及び図15に示すように、輪体18a,18bを電動モーター20のスイッチ操作で駆動しておき、穀稈穂部を供給すると、高速で発射して脱粒体1の衝突面1aに衝突させることができる。このようにして新脱粒装置は、定位置に固定した脱粒体1に対して、軽い穀稈穂部を高速で移動して衝突させれば脱粒体1を移動させる場合と同様の脱粒作用ができるものでありながら、脱粒体1に比較して質量が小さいために、小馬力で目的を達することができる特徴がある。更に、この場合、葉部の付いた穂部は、空中の移動中に空気抵抗を受けるが、粒よりも面積の広い葉部が大きな空気抵抗を受けて飛行が遅れ、後ろ側に回って移動し、先行する穀粒が葉部に邪魔されることなく衝突面1aに衝突する特徴がある。そのため、各穀粒は、枝梗との接続部位曲げ荷重が発生して折れ脱粒されると共に、葉屑の混入も極端に少ない効果がある。
【0043】
以上のような構成、作用を奏する穂部シューター18と、既に説明した脱粒体1との双方を両端から中央に向けて高速で移動すると、図16に示すように、中間位置で両者を衝突させて脱粒作用ができる。この場合、脱粒作用は、両者の速度の総和に基づいて発生する衝突時の衝撃によって行われるものであるから、実速度が遅くても充分に目的を達成することが可能である。したがって、推進装置13、及び穂部シューター18は、共に小さい馬力の消耗で、充分に目的の達成が可能であり、全体としてコスト、効率の面で有効な装置である。
【0044】
以上の通り、この発明に係る各実施例は、従来の脱粒装置に比較して、枝梗と粒との接続部位に曲げ荷重を作用させて脱粒すると、小さな力で脱粒ができる利点があり、消費馬力を大幅に少なくできる脱粒装置を提供できるものである。そして、この発明の実施例は、脱粒時の穂切れや藁屑の発生が少なく、枝梗付着粒が減少し、機外損出も大幅に減少できる点でも優れている。
【0045】
そして、この発明の実施例で述べたように、静止させた脱粒体1に対して穂部側を高速で衝突させる構成では、質量の小さい穀稈穂部側を小さい力で移動させることが可能であって、小さい消費馬力で目的を達することができる特徴がある。しかも、この実施例の場合、付着している葉部が空気抵抗を受けるため、移動が遅れ、穀粒が先行して葉部に邪魔されずに衝突するから、適確に脱粒され上述した実施例と同様の効果が期待できる。
【0046】
そして、脱粒体1と穀稈穂部との両方を中央に向けて移動させて両者の中間位置で衝突させる実施例は、衝突時には、両者の速度の総和による衝撃で脱粒されるから、実速度が遅くても衝突速度が大きくなって強く衝突できる利点があり、実際の移動速度よりはるかに効果的な脱粒作用が期待できる優れたものとなっている。
【0047】
そして、これらの発明に係る実施例は、穀稈穂部の接続部位に対して交差する方向から脱粒体1を衝突させるから、穀粒と枝梗との接続部位に横側から衝突衝撃が働いて曲げ荷重を与えるもので単粒化が促進され、効果的に脱粒できる。
【0048】
そして、脱粒体1は、実施例の場合、衝突面1aを網3a(図4参照)に形成した実施態様、又は凹凸状(図6(a)(b) 参照)に形成した板3bの実施態様との2つが選択できて、穂部の接続部位に衝突する脱粒面1aを広くすることが可能となっており、穂部全体に対応できる充分な脱粒面積を確保できるもので、脱粒の確実性を高めるものとなっている。また、前記脱粒体1実施態様以外の構成においても、脱粒が可能な構成であればなんでもよい。また、前記脱粒体1の各実施態様の材質については、樹脂性や金属性等なんでもよい。
【0049】
そして、凹凸状板の衝突面1aは、網面と違い脱粒後の穀粒が後ろ側に飛散せず、前側にのみ集めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】脱粒装置の側面図
【図2】脱粒装置の平面図
【図3】脱粒装置の背面図
【図4】脱粒体の背面図
【図5】脱粒体の側面図
【図6】(a)、(b) 衝突面の斜面図
【図7】変形した実施例の側面図
【図8】変形した実施例の平面図
【図9】変形した実施例の作用平面図
【図10】変形した実施例の平面図
【図11】変形した実施例の作用平面図
【図12】衝突面の変形した実施例の平面図
【図13】脱粒時の作用側面図
【図14】穂部シューターを装置した側面図
【図15】上記〔図14〕の作用側面図
【図16】脱粒装置と穂部シューターとを組み合わせた脱粒時の作用側面図
【図17】線状部材の目合いと脱粒率との関係を示す図
【図18】線状部材の移動速度(衝突速度)と脱粒率との関係を示す図
【符号の説明】
【0051】
1 脱粒体
1a 衝突面
2 線状部材
3 網
4 下部取付枠
5 支持装置
6、6 取付支持杆
7 機台
8 支持レール
9 摺動案内筒
10、10 案内孔
11、11 案内レール
12 推進板
13 推進装置
13a,13b 推進輪
14 箱体
15 電動モーター
16 支持枠
18 穂部シューター
19 支持箱
20 電動モーター。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀稈の穂部における穀粒の着粒部、乃至その近傍部位に衝撃的に曲げ荷重を与えることによって穀粒を脱粒させることを特徴とする脱粒方法。
【請求項2】
穀稈の穂部における穀粒の着粒部、乃至その近傍部位に脱粒体側を衝突させて衝撃的に曲げ荷重を与えて穀粒を脱粒させることを特徴とする脱粒装置。
【請求項3】
穀稈の穂部における穀粒の着粒部、乃至その近傍部位に衝撃的な曲げ荷重を与える脱粒体に対して、穀稈の穂部を衝突させて穀粒を脱粒させることを特徴とする脱粒装置。
【請求項4】
穀稈の穂部における穀粒の着粒部、乃至その近傍部位に衝撃的な曲げ荷重を与える脱粒体と穀稈とを互いに接近する方向に移動させて衝突させることで、穀粒を脱粒させることを特徴とする脱粒装置。
【請求項5】
前記脱粒体は、穀稈の穂部における穀粒の着粒部、乃至その近傍部位に、前記穀稈の稈身方向に対して交差させるように衝突させて穀粒を脱粒させることを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の脱粒装置。
【請求項6】
前記脱粒体は、網に形成した衝突面、又は凹凸状の板に形成した衝突面を有することを特徴とする請求項2乃至5のいずれかに記載の脱粒装置。
【請求項1】
穀稈の穂部における穀粒の着粒部、乃至その近傍部位に衝撃的に曲げ荷重を与えることによって穀粒を脱粒させることを特徴とする脱粒方法。
【請求項2】
穀稈の穂部における穀粒の着粒部、乃至その近傍部位に脱粒体側を衝突させて衝撃的に曲げ荷重を与えて穀粒を脱粒させることを特徴とする脱粒装置。
【請求項3】
穀稈の穂部における穀粒の着粒部、乃至その近傍部位に衝撃的な曲げ荷重を与える脱粒体に対して、穀稈の穂部を衝突させて穀粒を脱粒させることを特徴とする脱粒装置。
【請求項4】
穀稈の穂部における穀粒の着粒部、乃至その近傍部位に衝撃的な曲げ荷重を与える脱粒体と穀稈とを互いに接近する方向に移動させて衝突させることで、穀粒を脱粒させることを特徴とする脱粒装置。
【請求項5】
前記脱粒体は、穀稈の穂部における穀粒の着粒部、乃至その近傍部位に、前記穀稈の稈身方向に対して交差させるように衝突させて穀粒を脱粒させることを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の脱粒装置。
【請求項6】
前記脱粒体は、網に形成した衝突面、又は凹凸状の板に形成した衝突面を有することを特徴とする請求項2乃至5のいずれかに記載の脱粒装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2006−34231(P2006−34231A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−222021(P2004−222021)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】
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