説明

脳梗塞の改善又は発症防止薬

【課題】急性期脳梗塞に対する新たな治療薬を提供することにある。
【解決手段】ヒト由来の細胞から精製されたHSP27タンパク質を有効成分とする脳梗塞の改善及び/又は発症防止薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳梗塞改善薬及び/又は脳梗塞発症防止薬に関する。
【背景技術】
【0002】
脳梗塞は、脳血管が閉塞又は狭窄することにより、脳虚血を来たし、脳組織が壊死した状態をいう。脳梗塞の原因は、主に血栓性、塞栓性及び血行力学性に分けられ、具体的にはアテローム血栓性脳梗塞、心原性脳梗塞、ラクナ梗塞、その他に分けられる。いずれの場合も、閉塞又は狭窄した脳血管の下流の細胞が壊死するため、麻痺、言語障害、失明、めまい、失調、意識障害、高次脳機能障害を生じ、死に至ることも多い。
【0003】
脳梗塞部位では、炎症関連物質や酸化ストレス、小胞体ストレス等により神経細胞やグリア細胞が障害され、脳梗塞巣が広範囲に伸展する。脳梗塞は、中枢神経機能障害を主徴とする神経変性疾患であり、神経細胞の変性・壊死に続く梗塞巣形成にいたる急性期脳梗塞と、梗塞巣形成から中枢神経障害の固定にいたる亜慢性期・慢性期脳梗塞とに病理学的・組織学的に分類される。急性期脳梗塞治療として現在有効性が確立しているものは、発症3時間以内を限度とする組織プラスミノーゲン活性化因子(t−PA)による血栓除去と、発症24時間を限度とするエダラボンによるラジカル消去とがあるのみである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、急性期脳梗塞に対する新たな治療薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者は、ラットの脳梗塞モデルを用いて急性期脳梗塞巣の形成、拡大を防止できる薬剤のスクリーニングをしてきたところ、ヒト由来の細胞から精製されたHSP27タンパク質の投与により、脳梗塞の形成、拡大が抑制され、神経障害が軽減できることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、ヒト由来の細胞から精製されたHSP27タンパク質を有効成分とする脳梗塞の改善及び/又は発症防止薬を提供することにある。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、急性期脳梗塞に投与することにより、脳梗塞巣の拡大を防止できる結果、麻痺、言語障害、記憶障害等の中枢神経系障害を改善することができる。また、その発症防止も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】HSP投与群の脳梗塞部の染色像を示す。点線部が梗塞巣である。
【図2】HSP非投与群の脳梗塞巣の染色像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の脳梗塞改善薬及び/又は発症防止薬の有効成分は、ヒト由来の細胞から精製されたHSPタンパク質である。HSP27タンパク質は、細胞が熱等のストレス条件下にさらされた際に発現が上昇して細胞を保護するタンパク質の一種であり、分子量20〜30万のものである。HSP27は、分子シャペロン機能を有しており、抗酸化ストレス、抗アポトーシス等の作用を有することが知られている。
【0010】
本発明で用いるHSP27は、ヒト由来の細胞から精製されたものであり、合成HSP27に比べて脳梗塞改善効果が顕著に高い。本発明で用いるヒト由来の細胞としては、ヒト血球及びヒト由来培養細胞が挙げられる。ヒト血球としては、リンパ球等が用いられる。またヒト由来培養細胞としては、神経芽腫細胞であるSH−SY5Y、単核細胞(骨髄由来)等が挙げられる。
【0011】
ヒト由来細胞からHSP27タンパク質を採取するには、抗HSP抗体を用いたアフィニティーカラムにより精製採取するのが好ましい。アフィニティーカラムに充填することができる抗HSP抗体としては、ラット、ウサギ等の哺乳動物由来の抗体が用いられる。
【0012】
得られるHSP27タンパク質の確認は、SDS−PAGE等により行うことができる。
【0013】
ヒト組織由来の精製HSP27タンパク質は、後記の実施例に示すように、ラットの虚血・再還流脳梗塞モデルにおいて、脳梗塞巣の形成、拡大を顕著に防止し、種々の神経障害スコアを減少させる作用を有する。従って、ヒト由来の精製HSP27タンパク質は、抗アポトーシス作用、抗酸化ストレス作用などにより神経細胞死を抑制し、急性期脳梗塞における梗塞巣の拡大を防止し、運動麻痺、感覚障害、言語障害、視力障害、めまい、構音障害、失調、意識障害、高次機能障害等の症状を改善するための医薬として有用である。また脳梗塞発症防止薬としても有用である。
【0014】
本発明の医薬は、HSPタンパク質をそのまま、又は薬学的に許容される担体とともに、非経口的に投与するための製剤とすることができる。
【0015】
非経口投与用製剤としては、注射剤、坐剤、吸入剤等が挙げられる。
注射剤の調製には、HSP27タンパク質に塩酸、水酸化ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のpH調節剤;塩化ナトリウム、ブドウ糖等の等張化剤;及び注射用蒸留水等を使用することができる。注射用剤には、静脈内投与用及び動脈内投与用注射剤が含まれる。
【0016】
本発明の医薬は、対象疾患、年令、体重等により異なるが、一般に10mg〜200mgを1日1回又は数回に分けて投与することができる。
【実施例】
【0017】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
【0018】
実施例1
(HSP27の精製法)
HSP27はヒト血球、SH−SY5Y培養細胞より抗HSP27抗体(ウサギ)アフィニティ−カラムを用いて精製した。この方法により合成HSP27よりも生理的活性が高いHSP27を精製した。より具体的には抗HSP27抗体をSepharose CL−6Bに固定化しカラムに充填した。ヒト血球、SH−SY5Y培養細胞ホモジェネートをカラムに注入し、過剰量の抗原を含んだ溶液でHSP27を溶出した。精製したHSP27の純度はSodium dedecyl sulfate−polyacrylamide gel electrophoresis(SDS−PAGE)で確認した。電気泳動後のゲルの染色はクーマシーブリリアントブルーで実施した。本方法で90−95%の純度のHSP27が得られ、使用するまでマイナス80℃で保存した。
【0019】
実施例2
(1)マウス中大脳動脈閉塞/再灌流モデル(マウス一過性局所脳虚血モデル)は次のように作成した。即ち、8週齢、雄性の野生型マウスであるC57BL/6(C57BL6 Wt mice)、体重は20−22gのものを用い、麻酔下で直腸温を37±0.5℃に維持しつつ、頸部を切開し左頸動脈の分岐部を露出、内外頸動脈を剥離した。その後、総頸動脈より(全体的に)シリコンコートで固めた8−0ナイロン糸を挿入し、内頸動脈を通じ中大脳動脈(MCA)起始部に到達・固定することで左側中大脳動脈領域の血流を遮断し、虚血を負荷した。虚血1時間後、ナイロン糸を中大脳動脈血管外に引き抜くことで再灌流を施した。
【0020】
(2)脳梗塞巣領域、脳浮腫の測定
マウス中大脳動脈1時間閉塞/再灌流モデルに対し、再灌流24時間後にsacrificeを行った(MCAO(60)24h)。PBSおよび4%PFAで灌流し、脳を摘出した。摘出した脳を4%パラホルムアルデヒドにつけて24時間fixし、その後30%sucroseに48時間程度つけて置換した。凍結後、クリオスタット(CM−1900,Leica)にて20μmずつスライスし、20切片ごとにスライドグラスに貼り付けを行った。各切片の左側に認めるクレジールバイオレット染色の脱落した箇所を梗塞領域とし、測定した各梗塞領域の面積を積算し脳梗塞巣のvolumeを算出した。
【0021】
全脳または大脳皮質の梗塞体積 (%)
=〔全脳または大脳皮質の梗塞体積/全脳体積〕×100
【0022】
(3)脳機能障害(Neurological Dysfunctions)の判定
MCAO処置を施し再灌流24時間後に、次に示すスコアに従って脳機能障害を評価した。
【0023】
【表1】

【0024】
脳梗塞領域の染色像を図1(HSP27投与)及び図2(HSP非投与)に示した。
図1及び図2から明らかなように、HSP27投与により、脳梗塞巣が顕著に縮少していることがわかる。
【0025】
さらに、HSP投与により、脳機能障害スコアが6点から1点と顕著に改善された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト由来の細胞から精製されたHSP27タンパク質を有効成分とする脳梗塞の改善及び/又は発症防止薬。
【請求項2】
ヒト由来の細胞が、ヒト血球又はヒト由来の培養細胞である請求項1記載の脳梗塞の改善及び/又は発症防止薬。

【図1】
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【図2】
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