説明

脳機能を検査するシステム、方法及びプログラム

【課題】利き手の手指巧緻動作機能を検査することにより、痴呆の判定、更には脳機能の老化度合いの判定をより正確に行うことのできる脳機能検査方法及びその装置を提供する。
【解決手段】本システムでは、被検者選択手段101において、検査実施が初めての場合と2回目以降の場合の選択を行う。初回の場合は、被検者情報入力手段102において被検者情報を入力する。新規検査者及び2回目以降の検査者共に新規計測データ入力手段103において検査を実施する。また、演算手段106において健常者の能力との比較が行われ、結果はメモリ107に保存される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、中枢神経系(CNS)の発達起源の評価ではなく、高齢者におけるCNSの加齢および認知症により誘発された認知機能障害の評価のためのシステムおよび方法の分野に関する。より詳細には、本発明は、人が、認知症により誘発された認知機能障害に苦しみ、またはその危険にさらされているかどうかを手指巧緻動作(Fingers Dexterity)で分析することによって、脳機能の老化度や認知症に対するリスクを年代毎に%で示すためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脳は、加齢するCNSによって多くの様々な様式で損傷する可能性があり、CNSの変化は、そのような何十年にもわたる変化の臨床的根拠に先行し得るものである。CNSの変化は、たとえば、軽度認知機能障害(MCI)、小さなまたは大きな血管の疾患、血液脳関門の損傷、アテローム硬化症などで確認することができ、進行中の脳損傷過程の臨床症候は、そのような過程の進展の特定の点に達するまで明らかにならない可能性がある。
【0003】
そのような過程が加速し、臨床的に明らかになった疾患には、たとえば、認知症、アルツハイマー病(AD)、などが挙げられるが、その他の多くのCNS疾患も含まれる。
【0004】
多くの人が、そのような疾患に冒されている。認知症および認知症に関連する疾患は、実際に、心臓病、癌、および脳卒中についで、全世界のうちの先進工業国で多い死因の4位になっている。人口が12700万人の日本のみでも、人口の1.9%にあたる約240万人が認知症に苦しんでいる。全人口に対する高齢者の割合は、平均寿命が延びるために増加し、厚生労働省の統計では、2002年に154万人、2005年に238万人、2010年に320万人となり、2020年に446万人、2030年に545万人と時間とともに急激に増加が予測されている。したがって、適切な治療を提供できるようにするために、認知症を進展させる危険にさらされている人、または特定の度合いの認知症を有する人をできるだけ早く識別する必要がある。
【0005】
従来、認知症の確定診断手法は確立されておらず、様々な検査結果を考慮して総合的に診断を行っている。認知症の補助的評価法として画像診断がある。コンピューター断層撮影(CTスキャン)およびMRI(磁気共鳴画像装置)は、今日広く脳疾患の臨床評価に用いられている。また、SPECT(単一光子放射型断層撮影)が日常の臨床検査場面で使用され、NIRS(光トポグラフィ)やPET(機能的MRI)などの他の技術が、脳血流、脳代謝過程、および神経伝達物質の機能を評価する検査目的に使用されている。
【0006】
認知症の検査方法の一つには、被験者に対して問診や問答を行う神経心理学検査があり、特別な検査器具が不要で簡単に行えるため、広く用いられている。例えば日本語による神経心理学検査としては改訂長谷川式知能評価スケール(HDS−R)、国立精研式痴呆スクリーニングテスト、N式精神機能検査、かなひろいテスト、ミニメンタルステイトエグザミネイション(MMSE)などの知能評価方法があり、英語によるものではMMSE(mini mental state examination)やADAS(Alzheimer’s Disease Assessment Scale Cognitive Subscale)などがある。また、行動評価を加味したCDR(Clinical Dementia Rating)などを用いることによって、認知症の有無やその重症度の診断を行うこともできる。
【0007】
また、人間の瞳孔対光反応や発語、触覚等を利用して認知検査を実施する自動化システムが開発されてきた。たとえば特開2002−034920号公報または特表2011−502564号公報に開示されている。特開2002−034920号公報では、被験者の瞳孔対光反応により脳機能の老化度合いや、自律神経系疾患や痴呆症さらにアルツハイマー病などの脳疾患の検査ができるような脳機能検査装置が開示されている。また、特表2011−502564号公報では、人の発語(speech)を分析することによって脳機能障害の発生および脳機能障害の段階を診断するための脳機能検査装置が開示されている。そのほかに、触覚による診断方法(非特許文献1)も開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−034920号公報
【特許文献2】特表2011−502564号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Jiajia Yang,Takashi Ogasa,Yasuyuki Ohta,Koji Abe,Jinglong Wu:Decline of Human Tactile Angle Discrimination in patients with Mild Cognitive Impairment and Alzheimer’s Disease,Journal of Alzheimer’s Disease 22(1):225−34,2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
CTやMRI、SPECTなどの画像診断は、検査を行うのに高額な検査機器や医療従事者が必要であることや、実施時間が長いことや、病気以外では検査費用が高額になることなど多くの問題を抱えている。
【0011】
また、神経心理学検査は簡単に行えるため、多大な費用と時間を要する精密検査の前に行うスクリーニング検査に向いており、また医療従事者以外の検査者でも行えるという利点がある。しかしながら、上述した神経心理学検査では、被験者の協力が不可欠であり、その取り組み方によって検査結果が左右される虞があり、また検査者の被験者に対する質問の仕方によって検査結果が変わることもあり、主観的な検査方法であることに起因して検査結果に偏りが生じる虞もある。
【0012】
従来より、アルツハイマー型認知症患者と健常者との間で、非侵襲的計測が可能な対象である利き手巧緻動作運動などで有意差があることが研究論文などで報告されており、この有意差を利用して従来診断が困難であったアルツハイマー型認知症の検査が行えることも示唆されている。また、加齢と巧緻動作に関する研究は、今までにも多く行われ、巧緻動作能力は幼児より成長に伴い発達し、老化に伴い低下するという変化が知られている。
【0013】
しかしながら、従来の巧緻動作検査では、各年齢別の巧緻動作の指標が示されておらず、そのまま使用して検査を行う場合は、検査の精度に制限があると予想される、認知症の判定、更には脳機能の老化度合いを判定するのは難しいと考えられる。
【0014】
本発明は上記問題点に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、簡単な方法で精度良く脳機能の検査を行える脳機能検査方法とその装置、脳機能検査システム、脳機能検査サービス方法及びそのプログラムと装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、特許第4431729「手指の巧緻動作能力を検査するシステム、方法及びプログラム」の6つのサブテストうち、中ペグの返し動作を用いた被検者の脳機能を検査するシステムであって、両端部の色が異なる9本のペグと、当該ペグが着脱可能であって、縦に3個ずつ3列に9個の孔が縦横等間隔に配列するボードとを用い、当該ボードの片側3列に差し込まれたペグを、利き手のみの操作で1本ずつ抜いたのち、上下を逆にして差し込む返し動作の時間を計測し、計測値を入力する計測値入力手段と、前記計測値と、予め健常者を対象に求めた健常者基準値および、同年代の認知症者を対象として求めた認知症者基準値とを基に、年代毎の認知症のリスクを示す脳機能を算出する能力算出手段を備えることを特徴とする。
【0016】
また、被検者の認知症に対するリスクを示す脳機能を検査するシステムであって、前記計測値が2回の同じ動作の時間の平均値であることを特徴とする。
【0017】
また、コンピュータを用いて構築された被検者の認知症に対するリスクを示す脳機能を検査する方法であって、前記コンピュータが備える計測値入力手段が、両端部の色が異なる9本のペグと、当該ペグが着脱可能であって、縦に3個ずつ3列に9個の孔が縦横等間隔に配列するボードとを用い、当該ボードの片側3列に差し込まれたペグを、利き手のみの操作で1本ずつ抜いたのち、上下を逆にして差し込む返し動作の時間を計測し、計測値を入力するステップと、次いで、前記コンピュータが備える能力算出手段が、前記計測値と、予め健常者を対象に求めた健常者基準値および、同年代の認知症者を対象として求めた認知症者基準値とを基に、年代毎の認知症のリスクを示す脳機能を算出するステップを実行することを特徴とする。
【0018】
また、被検者の認知症に対するリスクを示す脳機能を検査する方法であって、両端部の色が異なる9本のペグと、当該ペグが着脱可能であって、縦に3個ずつ3列に9個の孔が縦横等間隔に配列するボードとを用い、1本ずつ抜いたのち、上下を逆にして差し込む返し動作の時間を計測し、計測値を求める工程と、次いで、前記計測値と、予め健常者を対象に求めた健常者基準値および、同年代の認知症者を対象として求めた認知症者基準値とを基に、年代毎の認知症のリスクを示す脳機能を算出する工程を含むことを特徴とする。
【0019】
また、コンピュータを、被検者の認知症に対するリスクを示す認知機能を検査する手段として機能させるためのプログラムであって、前記コンピュータを、両端部の色が異なる9本のペグと、当該ペグが着脱可能であって、縦に3個ずつ3列に9個の孔が縦横等間隔に配列するボードとを用い、当該ボードの片側3列に差し込まれたペグを、1本ずつ抜いたのち、上下を逆にして差し込む返し動作の時間を計測し、計測値を入力する計測値入力手段として機能させ、次いで、前記コンピュータを、前記計測値と、予め健常者を対象に求めた健常者基準値および、同年代の認知症者を対象として求めた認知症者基準値とを基に、年代毎の認知症のリスクを示す脳機能を算出する能力算出手段として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
このように構成した本発明によれば、被検者の利き手の手指巧緻動作能力を測定することで、脳機能を検査するシステムであり、予め健常者を対象に求めた健常者基準値および、同年代の認知症者を対象として求めた認知症者基準値とを基に、年代毎の認知症のリスクを示す脳機能を算出するために、加齢による脳機能の低下も加味したより正確な結果を示すことが可能になる。このシステムでは、検査者を必要とせず、画面に示された指示に基づいて検査を行うことで、検査結果が自動的に表示され、結果に基づく内容の説明が自動的に行われる。
【0021】
また、失語症などの言語障害がある場合、HDS−Rなどの質問紙による認知機能検査は困難となる。しかし、巧緻動作運動などの動作性検査では言語障害などの有する対象者に対しても検査が可能となる。また、質問紙による検査は、医療従事者による検査者が必要になるが、本発明では必ずしも医療従事者が検査を行う必要はなく、早期発見のため被験者自身が検査するセルフケアへの応用も期待される。
【0022】
また、検査方法としては、9本のペグをボード上の同じ穴にひっくり返して差し込む「返し動作」を行う結果で健常者との解析が可能である。また、実施制限時間を60秒間とし、その時間内に9本のペグの「返し動作」が出来ない場合は、実施できたペグの本数で解析が可能であるために、検査時間が非常に短い。
【0023】
また、画面に表示された指示に従って年齢を入力し検査を実施すると、自動的に同年齢健常者の脳機能との比較が%で示され、年代毎の認知症のリスクを示す脳機能の結果が表示され、結果に基づく内容の説明が行われるために、検査に専門的知識を要しない。
【0024】
以上説明したように、本発明の脳機能検査システムは検査が容易であり、失語症などの言語障害があっても検査が可能であり、簡便に持ち運びができ、検査者を必要とせず自動的に同年齢健常者の脳機能に比べ何%の能力があるかが示され、同年齢健常者の平均より低い県あの場合は年代毎の認知症のリスクを示す脳機能の結果が表示され、結果に基づく内容の説明が行われるために、認知症に対するリスクを評価・判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の基本的構成である。
【図2】検査初期の流れ図である。
【図3】検査における新規計測過程の流れ図である。
【図4】検査データ編集過程の流れ図である。
【図5】検査結果表示過程の流れ図である。
【図6】脳機能検査システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0027】
図1は脳機能検査システムの基本的構成を表したものである。この脳機能検査システムは、手指の障害を持った患者の検査結果の解析・評価を自動的に行うシステムで、脳機能検査装置100から構成されている。
【0028】
対象者の脳機能を検査する脳機能検査装置100では、ペグの直径が3cm、長さが8cmの大ペグ、ペグの直径が1.5cm、長さが5cmのペグを用いる。これらのペグを差し込む脳機能検査器具には、縦に3つの穴が横3列に等間隔で並んでおり、合計9穴ある。脳機能検査器具の大きさは、縦28cm×横18cmであり、持ち運びなどの運搬しやすい大きさである。検査は、病や障害を持った対象者の身体的・心理的耐久性を配慮し、高齢者などにも理解しやすいように、9本のペグを用いて行うことで完結するように構成されている。
【0029】
脳機能検査装置100には、画面上に被検者に対して検査を行う手順を示し、被検者がそれに従って被検者情報の入力、検査測定の実施、結果の入力を行うことで情報の保存と解析・評価し、結果の評価について画面上で被検者に示すことが出来る。
[巧緻動作と認知機能の関連]
【0030】
我々が開発した特許第4431729「手指の巧緻動作能力を検査するシステム、方法及びプログラム」を用い商品化したIPUT巧緻動作検査(IPUT)を巧緻動作の指標として、多くの医療場面で用いられている改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS−R)を認知機能の指標として身体的・認知的に問題なく日常生活を行っている20歳から94歳の健常者563名に対して実施した。その結果を20歳から5歳ごとの年代で区分し、被検者属性と人数および左右の手で行う6のサブテスト毎にIPUTとHDS−Rの相関を示したものである。対象とした被検者は、IPUTの6サブテストについて両手各2回ずつ計12動作を実施し作成した。
【0031】
【表1】

【0032】
20歳から94歳の健常者563名で、IPUTの12のサブテストとHDS−Rの間で相関係数−0.41〜−0.52と有意で高いマイナスの負の相関関係が示された(脳機能検査で用いた中ペグの返し動作では、相関係数は−0.5と高い有意な負の相関係数を示した)。また、12のサブテストとHDS−R間で大きな相関関係の違いが見られなかった。健常者においては、巧緻動作能力と認知機能との密接な負の関係が示唆された。
【0033】
IPUTを巧緻動作の指標として、HDS−Rを認知機能の指標として認知症患者172名に対して実施した。認知症者は55〜100歳まで5歳ごとに分類した場合、対象者が10人以下の年代となる55〜69歳、95〜100歳の認知症者を削除した162名を対象に、70〜94歳まで5つの年代に分類しおこなった。また、利き手の影響を考え、解析に当たり左利きの対象者については、左手のデータを右手に、右手のデータを左手に補正した。その結果を対象人数が少ない55歳から69歳の他は70歳から5歳ごとの年代で区分し、被検者属性と人数および12のサブテスト毎にIPUTとHDS−Rの相関を示したものである。対象とした被検者は、IPUTの6サブテストについて両手各2回ずつ計12動作を実施し作成した。
【0034】
【表2】

【0035】
認知症者に対するHDS−Rと年齢・IPUT各サブテスト相関係数は負相閧し、年齢と返中左の2つのサブテストを除いて−0.16〜−0.34と有意であった(脳機能検査で用いた中ペグの返し動作では、相関係数は−0.20と有意な負の相関係数を示した)。認知症者においては、巧緻動作能力と認知機能との負の関係が示唆された。
【0036】
[脳機能検査の年代別基準値の作成]
表3は、脳機能検査基準値作成のための被検者属性と人数を表したものである。基準値は、身体的・認知的に問題なく日常生活を行っている方5歳〜94歳まで1607名にIPUTの6サブテストについて両手各2回ずつ計12動作を実施し作成した。
【0037】
【表3】

【0038】
表3の1607名のIPUTの6サブテストについて両手各2回ずつ計12動作の平均値、および20歳から94歳の健常者563名に対して実施したHDS−R平均値を棒グラフにしたものが図1である。
【0039】

【0040】
IPUTの6つのサブテストは左右の手で同様に、5歳より巧緻動作機能が向上し、ほぼ15〜24歳から55〜64歳歳までピークになり、その後加齢により巧緻動作機能が低下するUカーブを描いた。反面、認知機能の指標としたHDS−Rでは20歳代から50〜54歳代まではほぼ変化がないが、55歳以後加齢と共に徐々に低下することが示された。このことは、55歳以後加齢と共に巧緻動作機能・認知機能が低下することを示した。
【0041】
これらの結果から、巧緻動作能力が認知機能を反映する脳機能の指標として用いることが可能であると考えられる。また、IPUTの12のサブテストがほぼ同様の結果を示した。認知機能を反映する脳機能検査としてはPUTの12のサブテストの一つをすることで示されることが考えられる。
脳機能検査を実施する高齢者は、白内障などの視覚障害を有することの多い。そのため、視覚の影響を多く受ける移し動作ではなく返し動作を脳機能検査とした。使用するペグは、視覚障害を揺する高齢者に見にくい小ペグや持ち運びには大きすぎる大ペグではなく、持ち運びやすく高齢者にも扱いやすい大きさの中ペグを用いた。また、学習したものが失われてゆく認知症患者では、これまでの研究において非利き手に比べ、利き手の巧緻動作と認知機能の高い関係が示されている。これらのことより、脳機能検査では中ペグ移し動作を利き手で行うこととした。
【0040】
表4は、1607名の健常者におけるIPUTの中ペグの返し動作の結果(表3)を用いた脳機能検査の健常者平均値と認知症患者の172名におけるIPUTの中ペグの返し動作の結果(表2)を用いた脳機能検査の認知症者平均値である。認知症者平均値は、70歳以下の認知症者の平均値・SD(標準偏差)は、70−74歳の平均値・SD(標準偏差)を基にした。健康な人100人の内68人が入る範囲、統計的に言えば平均値±SD(標準偏差)の範囲(全測定者の68.3%を含む)を健常者基準範囲、認知症患者100人の内68人が入る範囲を認知症者基準範囲とした。健常者基準範囲の最低値となる平均値+SDまでを「正常レベル」、認知症者基準範囲の最高値となる平均値−SD以下を「危険レベル」、「正常レベル」と「危険レベル」の間を「注意レベル」とし各年代で算出した。
健常者・認知症者の平均値を基準値とし、認知症者の基準値を危険値とし健常者基準値に対する認知症者基準値の割合(健常者の基準値×100÷認知症者の基準値)を危険率として示したものである。
【0041】
【表4】

【0042】
各年代の「正常レベル」は、おおよそ90%以上であり、「危険レベル」は60%から90%以下と年齢と共に割合があがっている。また、「注意レベル」はそれに伴い、若い年齢ほど幅が広く高齢になるほど範囲が少なくなっている。
【0043】
この基準値を基に下記の数式1に当てはめて、同年代健常者の脳機能に対する被検者の脳機能を%で示すことが可能となる。なお、数式1を用いるのは、サブテストが60秒以内に完了した場合である。
【0044】
[数式1] 100×基準値(秒)÷測定値(秒)
【0045】
60秒間の規定の時間に完了できなかった場合は、60秒間に実施できたペグの本数により、表5を用いて脳機能を判定する。表5は、同年代健常者の脳機能に対する被検者の脳機能を%で表している。各値は下記の数式2に基づいて算出されている。
【0046】
【表5】

【0047】
[数式2] 100×基準値÷(540÷〔60秒以内に実施したペグ本数〕)
【0048】
図2は、脳機能検査の過程を示した流れ図である。検査システムを作動し画面の指示に従って、年齢、性別を入力する。次に、脳機能検査装置の画面の指示に従い、脳機能検査は9本のペグの返し動作操作を60秒間で行う。60秒以内で可能であった場合は、実施した時間(秒数)を、60秒間で9本のペグ操作が実施できなかった場合は、実施できたペグ数が測定される。
次に、被検者情報である年齢を入力する。既存被検者と被検者情報を入力した新規被検者は9本のペグの返し動作を計測する(処理1)。測定値データの編集を行う場合は処理2に移る。また、結果を表示する場合は処理3に移る。
【0049】
図3は、手指巧緻動作能力検査システムの内、新規計測の過程を示した流れ図である。新規計測を行う時、画面上の指示に従って行う場合と独自に手入力する方法に分かれる。画面上の指示に従う場合、練習動作を行う。次に、練習動作ができた場合測定を開始する。
脳機能検査は9本のペグ操作を60秒間で行う。60秒以内で可能であった場合は、実施した時間(秒数)を、60秒間で9本のペグ操作が実施できなかった場合は、実施できたペグ数を入力する。
計測日とあらかじめ入力されている被験者の生年月日より計測時の年齢を自動的に計算する。
画面上の指示に従って行う場合と独自に手入力するどちらの場合も同年代健常者を対象に求めた基準値を比較して、同年代健常者の基準値を基に脳機能を算出する結果と、同年代健常者の基準値を基にした脳機能が100%を下回る場合は、同年代認知症者の基準値を危険値とし同年代健常者基準値に対する危険率「認知症者基準値の割合(健常者の基準値×100÷認知症者の基準値)」を算出する結果の保存を行う。また、危険率について「正常レベル」、「注意レベル」、「危険レベル」の判別ともに、それぞれの結果の意味を画面上で表示する。
【0050】
図4は、脳機能検査システムの内、データの編集の過程を示した流れ図である。脳機能検査システムの画面に従い、被検者の過去のデータを呼び出し、脳機能検査を実施し60秒間で9本のペグ操作が実施出来た場合はその測定時間(秒)を、60秒間で9本のペグ操作が実施出来なかった場合は実施できた本数が自動的に入力される。同年代健常者を対象に求めた基準値を比較して、同年代健常者の基準値を基に脳機能を算出する結果と、同年代健常者の基準値を基にした脳機能が100%を下回る場合は、同年代認知症者の基準値を危険値とし同年代健常者基準値に対する危険率「認知症者基準値の割合(健常者の基準値×100÷認知症者の基準値)」を算出する結果の保存を行う。また、危険率について「正常レベル」、「注意レベル」、「危険レベル」の判別ともに、それぞれの結果の意味を画面上で表示する。
【0051】
図5は、手指巧緻動作能力検査システムの内、結果表示の過程を示した流れ図である。処理1(新規計測の過程)もしくは処理2(データの編集の過程)で保存された結果を基に、測定結果の抽出・選択、結果の評価、測定結果及び評価結果の表示を行う。
【0052】
図6は、本システムのブロック図である。脳機能検査システムでは、被検者選択手段101において、検査実施が初めての場合と2回目以降の場合の選択を行う。初回の場合は、被検者情報入力手段102において被検者情報を入力する。新規検査者及び2回目以降の検査者共に新規計測データ入力手段103において左右の手それぞれで6つのサブテストの中から必要な検査を選んで実施した結果を入力する。新規及び既存データの修正は、既存データ編集手段104において実施する。これら新規計測データ入力手段103及び既存データ編集手段104を経たデータは、演算手段106にて健常者の能力との比較(能力算出)が行われ、結果はメモリ107に保存される。演算手段106及びメモリ107からの情報は結果表示手段105において、同年代健常者の基準値を基にした脳機能が100%を下回る場合は、同年代認知症者の基準値を危険値とし同年代健常者基準値に対する危険率「認知症者基準値の割合(健常者の基準値×100÷認知症者の基準値)」を算出する結果の保存を行う。また、危険率について「正常レベル」、「注意レベル」、「危険レベル」の判別ともに、それぞれの結果の意味を画面上で表示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の手指巧緻動作能力を検査するシステムであって、両端部の色が異なる9本のペグと、当該ペグが着脱可能であって、縦に3個ずつ3列に9個の孔が縦横等間隔に配列するボードとを用い、1本ずつ抜いたのち、上下を逆にして差し込む返し動作の時間を計測し、計測値を入力する計測値入力手段と、前記計測値と、予め健常者を対象に求めた基準値を比較して、同年代健常者の基準値を基に脳機能を算出するステップと、同年代認知症者の基準値を危険値とし同年代健常者基準値に対する危険率「認知症者基準値の割合(健常者の基準値×100÷認知症者の基準値)」を算出する能力算出手段を備えることを特徴とするシステム。
【請求項2】
コンピュータを用いて構築された被検者の手指巧緻動作能力を検査する方法であって、前記コンピュータが備える計測値入力手段が、両端部の色が異なる9本のペグと、当該ペグが着脱可能であって、縦に3個ずつ3列に9個の孔が縦横等間隔に配列するボードとを用い、1本ずつ抜いたのち、上下を逆にして差し込む返し動作の時間を計測し、計測値を入力するステップと、次いで、前記コンピュータが備える能力算出手段が、前記計測値と、予め健常者を対象に求めた基準値とを比較して、同年代健常者の基準値を基に脳機能を算出するステップと、同年代認知症者の基準値を危険値とし同年代健常者基準値に対する危険率「認知症者基準値の割合(健常者の基準値×100÷認知症者の基準値)」を算出することを実行することを特徴とする方法。
【請求項3】
被検者の脳機能を検査する方法であって、両端部の色が異なる9本のペグと、当該ペグが着脱可能であって、縦に3個ずつ3列に9個の孔が縦横等間隔に配列するボードとを用い、1本ずつ抜いたのち、上下を逆にして差し込む返し動作の時間を計測し、計測値を求める工程と、次いで、前記計測値と、予め健常者を対象に求めた基準値を比較して、同年代健常者の基準値を基に脳機能を算出するステップと、同年代認知症者の基準値を危険値とし同年代健常者基準値に対する危険率「認知症者基準値の割合(健常者の基準値×100÷認知症者の基準値)」を算出する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
コンピュータを、被検者の手指巧緻動作能力を検査する手段として機能させるためのプログラムであって、前記コンピュータを、両端部の色が異なる9本のペグと、当該ペグが着脱可能であって、縦に3個ずつ3列に9個の孔が縦横等間隔に配列するボードとを用い、1本ずつ抜いたのち、上下を逆にして差し込む返し動作の時間を計測し、計測値を入力する計測値入力手段として機能させ、次いで、前記コンピュータを、前記計測値と、予め健常者を対象に求めた基準値とを比較して、同年代健常者の基準値を基に脳機能を算出するステップと、同年代認知症者の基準値を危険値とし同年代健常者基準値に対する危険率「認知症者基準値の割合(健常者の基準値×100÷認知症者の基準値)」を算出する能力算出手段として機能させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−78552(P2013−78552A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232244(P2011−232244)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(591106462)茨城県 (45)