説明

腸内ビフィズス菌増殖促進剤および腸管バリア機能改善剤

【課題】 安全性の高い腸内ビフィズス菌増殖促進剤および腸管バリア機能改善剤を提供すること。
【解決手段】 ポリ−γ−グルタミン酸を腸内ビフィズス菌増殖促進剤および腸管バリア機能改善剤の成分として作用させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ−γ−グルタミン酸(以下「γ−PGA」とも呼ぶ。)を有効成分として含有する腸内ビフィズス菌増殖促進剤および腸管バリア機能改善剤及びそれらの医薬又は飲食品への用途に関する。
【背景技術】
【0002】
Bifidobacterium属細菌(ビフィズス菌)のもたらすヒトへの健康効果に関しては、下痢、便秘、感染症、発ガン、炎症性腸疾患、高コレステロール血症、免疫異常等に対する予防・改善効果が報告されており(非特許文献1)、ビフィズス菌は現代人の健康維持において極めて重要な腸内細菌の一種であることが広く認知されている。また、近年では、我国のみならず先進各国の肥満の増加が顕在化し、深刻な社会問題へと発展しているため、肥満や延いてはそれに伴うインスリン抵抗性や2型糖尿病の予防・改善のためにビフィズス菌の機能を活用することが期待されている(非特許文献2)。
【0003】
肥満による脂肪細胞の増大は、脂肪組織からのIL−6、TNF−α等の炎症性サイトカイン分泌を促進しそれらの血中レベルを上昇させる。これらの炎症性サイトカインは、肝臓や骨格筋におけるインスリン抵抗性を引き起こし、血糖値の上昇および血中インスリンレベルを上昇させる(非特許文献3)。腸管上皮細胞間の細胞間隙は、ZO−1、Occludin、Claudin等複数のタイトジャンクションタンパク(TJP)によって通常は強固に密着しているが、IL−6、TNF−α、インスリン等の影響によりTJPの発現が減少し、腸管バリア機能の破綻が引き起こされる(非特許文献4)。ここで言う腸管バリア機能とは、腸管上皮細胞間の細胞間隙を介して腸管内に存在する高分子量物質が生体内へ吸収される腸管透過性のことを指す。これにより、通常はほとんど吸収されることの無い腸内細菌由来エンドトキシンが細胞間隙から生体内へと吸収され易くなり、血中のエンドトキシンレベルが上昇する。近年では、この現象はメタボリックエンドトキシン血症と呼ばれ、更なる炎症性サイトカインレベルの上昇を誘発し骨格筋のインスリン抵抗性、肝臓におけるインスリン抵抗性、非アルコール性脂肪肝(NASH)の重症化を招くと考えられている(非特許文献5)。従って、腸管バリア機能を強固に保つことは、インスリン抵抗性を基点とするメタボリックシンドロームの発症を抑制するために極めて重要な戦略の一つである。
【0004】
炎症性腸疾患(IBD)は、潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病(CD)に分類され、それぞれ大腸または大腸及び小腸に認められる難治性の慢性腸炎である。症状としては、下血を伴う激しい下痢と腹痛を繰り返し、治療後も再発するケースが多い。このため、治療後の日常の食生活における寛解維持が強く求められている。IBDの原因は何れも完全には解明されていないものの、腸内細菌の影響、自己免疫異常、食生活、遺伝的要因が考えられている。これらの要因によって、腸管上皮におけるIFN−γおよびTNF−αの様な炎症性サイトカインの発現が亢進し、これによりTJPの発現低下が引き起こされる(非特許文献6)。その結果、腸管バリア機能の破綻が生じ更なる炎症を惹起すると共に、重篤な場合は、エンドトキシン血症あるいは敗血症へと進展する危険性があるため、IBDにおける腸管バリア機能を維持することは、IBDの予防・改善のために極めて重要である。
【0005】
破綻した腸管バリア機能を改善させる方法としては、プレバイオティクスであるフラクトオリゴ糖の摂取や(非特許文献5)、プロバイオティクスである乳酸菌Lactobacillus rhamnosus OLL2838(特許文献1)やIBD治療薬の一つである乳酸菌製剤VSL#3(Bifidobacterium属細菌、Lactobacillus属細菌、Streptococcus属細菌の混合物)の摂取(非特許文献7)が報告されていることから、腸内における乳酸菌やビフィズス菌存在量の増加が腸管バリア機能の改善にとって有効であることが考えられている。腸内ビフィズス菌を増加させる方法としては、プレバイオティクスの摂取が一般的である。ここで言うプレバイオティクスとは、(1)消化管上部で加水分解、吸収されない、(2)大腸に共生する一種または限定された数の有益な細菌の選択的な基質であり、それらの細菌の増殖を促進し、または代謝を活性化する、(3)大腸の腸内フローラを健康的な構成に都合の良いように改変できる、(4)宿主の健康に有益な全身的な効果を誘導する食品成分であると定義されている(非特許文献8)。現在までに、上記プレバイオティクスの定義を満たす物質としては、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、乳糖オリゴ糖、キシロオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ラフィノース、マンノオリゴ糖などが挙げられるが、何れも難消化性オリゴ糖を主とした糖質であり甘味成分に限られている(非特許文献8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−212006
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J Appl Microbiol. 2005; 98(6): 1303-1315.
【非特許文献2】Pathol Biol. 2008; 56(5): 305-309.
【非特許文献3】Nature. 2006; 444(7121): 860-867
【非特許文献4】Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol. 2000; 279(5): G851-857.
【非特許文献5】Gut. 2009; 58(8): 1091-1103.
【非特許文献6】World J Gastroenterol. 2008; 14(3): 401-407.
【非特許文献7】Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol. 2009; 296(5): G1140-1149.
【非特許文献8】プロバイオティクス・プレバイオティクス・バイオジェニックス、光岡知足、日本ビフィズス菌センター、2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の通り、日常の健康維持のために腸内ビフィズス菌量を増やすことや、肥満によるインスリン抵抗性の発症やIBDにおける腸炎の進展を予防・改善するために腸管バリア機能を維持することは極めて有効な戦略である。そこで本発明においては、日常の食生活において簡便かつ継続的に摂取可能で安全なポリ−γ−グルタミン酸を用いて腸内ビフィズス菌の増殖を促進させると共に腸管バリア機能を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、納豆のネバネバ成分の一種でD−グルタミン酸とL−グルタミン酸が混在するアミノ酸のポリマーであるγ−PGAに注目した。我々日本人にとってこの成分は、古来より納豆の摂取によって日々摂取されているため確固たる安全性を持つ。このγ−PGA精製物のマウスへの投与によって、腸内ビフィズス菌量を増加させ更に腸管バリア機能の指標である腸管透過性を抑制することを見出した。さらに、この腸管透過性の抑制効果は、肥満モデルマウスおよびIBDモデルマウスにおいても有意に認められた。従って、本発明は、γ−PGAを主成分として、腸内ビフィズス菌の増殖を促進し、かつ腸管バリア機能の破綻を予防・改善するための食品・医薬品組成物を提供する。
【0010】
なお、γ−PGAの整腸作用について既に見出されているが(「便通改善剤及び便通改善食品」特開2007−22982)、整腸作用の全てが腸内ビフィズス菌増殖の効果によるものではない。また、便通が良くなることと腸管バリア機能が改善されることの因果関係は明らかになっていない。さらに、一般的に納豆の整腸作用は知られているが、腸内ビフィズス菌が増殖することは明らかになっていない。納豆が腸内ビフィズス菌を増殖させたとしても、その効果は大豆中に含まれる大豆オリゴ糖や食物繊維、あるいはネバネバ成分の一種であるフルクタンなど複数の成分の影響が考えられるためγ−PGAという特定成分のみの効果を見出したのは本発明が初めてである。また、一般的に納豆は食の嗜好性が強く現れる食品であるため、腸内ビフィズス菌を増殖させるために摂取する形態としては適当ではない。
【0011】
本発明とは対称的に、γ−PGAの腸管透過性を上昇させる効果が既に見出されているが(「透過吸収促進剤」特開2006−36721)、これは培養細胞系を用いて、低分子量物質(分子量1,000以下)の透過性を短期的に評価した報告であるため、高分子量物質(分子量4,000)の動物での腸管透過性とγ−PGAの関係については明らかになっていなかった。
【0012】
γ−PGAの製造方法およびその製造に用いられる微生物については既に明らかとなっているため(「ポリ−γ−グルタミン酸の製造法及びその製造法に用いられる微生物」特開2006−109793)、γ−PGA単独での効果を見出した本発明の工業的な意義は大きい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の腸内ビフィズス菌増殖促進剤および腸管バリア機能改善剤は、医薬品又は飲食品組成物として使用することにより、腸内ビフィズス菌量が増加することによる健康効果(例えば、発ガン、糖尿病、高血圧症、高脂血症、高コレステロール血症、インスリン抵抗性、アレルギー、感染症等に対する予防・改善効果)が期待できる。更に、肥満やIBDのみならず腸管バリア機能の破綻に起因する種々の疾病・健康被害の予防・改善効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】正常なC57BL/6Jマウスにγ−PGAを4週間摂取させた後の糞中のビフィズス菌量。データは平均値±標準誤差で示した(n=6、***:p<0.001(対照群との比較))。
【図2】正常なC57BL/6Jマウスにγ−PGAを4週間摂取させた後の腸管透過性の評価。データは平均値±標準誤差で示した(n=6、*:p<0.05(対照群との比較))。
【図3】4週間のγ−PGA摂取によって最優勢化したBfpを1週間経口投与した後の正常なC57BL/6Jマウスの腸管透過性の評価。データは平均値±標準誤差で示した(n=5、*:p<0.05(対照群との比較))。
【図4】db/dbマウスにγ−PGAを3週間摂取させた後の腸管透過性の評価。データは平均値±標準誤差で示した(n=6、**:p<0.01(対照群との比較))。
【図5】db/dbマウスにγ−PGAを3週間摂取させた後の空腹時血糖値。データは平均値±標準誤差で示した(n=6、*:p<0.05(対照群との比較))。
【図6】γ−PGAを4週間摂取させたC57BL/6JをDSS処理した後の腸管透過性の評価。データは平均値±標準誤差で示した(n=5、*:p<0.05(対照群との比較))。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に用いられるγ−PGAは納豆の粘質物中のγ−PGAを抽出、精製して用いてもよく、納豆菌等のバチルス属の菌体外に分泌するγ−PGAを抽出、精製して用いてもよい。また、純度が高いものでもよいが、必ずしも純度が高い必要はなく、納豆の粘質物中の、あるいは納豆菌の分泌物であるレバン等の他の物質を含んでいても何ら支障がない。
【0016】
本発明に用いられるγ−PGAの平均分子量には、その有効性の観点からは特に制限はなく、通常納豆あるいは納豆菌から分離した場合の重量平均分子量3000〜300万の範囲のγ−PGAを用いることができる。なお、分子量が低いと溶液保存中に分解されやすく、また分子量が高すぎると水溶液の粘度が高すぎて取り扱いが困難となる。従って、医薬組成物や飲食品組成物としての取り扱いの観点から1万〜100万のγ−PGAを用いるのが好ましい。なお、γ−PGAの重量平均分子量は、例えば、光散乱法により測定される。このとき、例えば測定波長633nm、上記波長におけるdn/dc(屈折率の濃度増分、溶媒100mMトリス塩酸(pH8.6)及び0.3MのNaCl)は、0.191である。
【0017】
γ−PGAを構成するグルタミン酸は一般的にD体とL体の両方を含み、菌体あるいは培地の組成により、そのD/L比は変動すると言われている。例えば、特開平3−47087号公報に示されるγ−PGAはL体のグルタミン酸が90%以上占めるとされている。本発明に用いられるγ−PGAのD/L比には制限がなく、どのD/L比のγ−PGAも使用することが出来る。なお、納豆に含まれるγ−PGAは約80%のD体を含むといわれている。
【0018】
特定の分子量のγ−PGAを生成するには、当該分子量より大きいγ−PGAを酸あるいはγ結合を分解する細菌あるいは臓器由来の酵素により低分子化する方法と、納豆菌等の培養により当該分子量のγ−PGAを分泌させる方法があるが、そのどちらのγ−PGAを用いてもよい。
【0019】
γ−PGAは一般にナトリウム塩として得られるが、他の医薬的に許容可能か、若しくは可食性の塩、又は遊離のγ−PGAを用いても何ら影響しない。
【0020】
本発明のγ−PGAを有効成分とする腸内ビフィズス菌増殖促進剤および腸管バリア機能改善剤は、これを含有する組成物とすることで、腸内ビフィズス菌量が増加することに係る健康効果を発揮し、さらに腸管バリア機能の破綻に起因する種々の疾病・健康被害に対する予防及び/又は改善のための医薬用、動物薬用または飲食用組成物として利用することができる。また、それらの形態は限定されず、例えば、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)、健康食品、栄養補助食品などの飲食品、あるいはOTCなど容易に入手可能な医薬品又は医薬部外品、動物薬品などとして利用できる。本明細書において腸管バリア機能の「予防」とは、腸管バリア機能を強化し破綻を部分的又は完全に防ぐことであり、「改善」とは、破綻した腸管バリア機能やこれに起因する悪影響の部分的又は完全な治療を含む。
【0021】
本発明のγ−PGAを有効成分とする腸内ビフィズス菌増殖促進剤および腸管バリア機能改善剤あるいはこれを含有する組成物は、そのまま直接摂取することもできる。また、公知の担体や助剤などの添加剤を使用して、カプセル剤、錠剤、顆粒剤など服用しやすい形態に成型して摂取することもできる。また、栄養強化を目的として、ビタミンA、C、D、Eなどの各種ビタミン類やカルシウム、鉄、亜鉛などのミネラルを添加、併用して用いることもできる。更に、健康機能の強化を目的として、プロバイオティクス、プレバイオティクス、アミノ酸などの健康食品素材を添加、併用して用いることもできる。
【0022】
これらの成型剤における本発明の腸内ビフィズス菌増殖促進剤および腸管バリア機能改善剤の含有量は、好ましくは0.1〜100重量%、より好ましくは10〜90重量%である。さらに、飲食物材料に混合して、チューインガム、チョコレート、キャンディー、ゼリー、ビスケット、クラッカーなどの菓子類;アイスクリーム、氷菓などの冷菓類;茶、清涼飲料、栄養ドリンク、美容ドリンクなどの飲料;うどん、中華麺、スパゲティー、即席麺などの麺類;蒲鉾、竹輪、はんぺんなどの練り製品;ドレッシング、マヨネーズ、ソースなどの調味料;マーガリン、バター、サラダ油などの油脂類;パン、ハム、スープ、レトルト食品、冷凍食品など、すべての飲食物に使用することができる。
【0023】
医薬品として用いる場合は、その剤形は特に限定されず、例えば、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、注射剤、座薬、貼付剤などが挙げられる。製剤化においては、医薬的に許容される他の担体、例えば、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、酸化防止剤、着色剤、凝集防止剤、吸収促進剤、溶解補助剤、安定化剤などを適宜添加して調製することができる。医薬部外品として用いる場合は、必要に応じて他の添加剤などを添加して、例えば、軟膏、リニメント剤、エアゾール剤、クリーム、石鹸、洗顔料、全身洗浄料、化粧水、ローション、入浴剤などに使用することができ、局所的に用いることもできる。
【0024】
本発明の腸内ビフィズス菌増殖促進剤および腸管バリア機能改善剤の投与方法は、その効果を有効に発揮することを目的として、ヒトにおいて一日につき、γ−PGAの量に換算して10mgから5gの投与量となるように、投与することを特徴とする。好ましくは一日に100mgから1gである。10mg以下のγ−PGA投与では十分な腸内ビフィズス菌増殖促進作用および腸管バリア機能改善作用を示すことができず好ましくない。また、5g以上のγ−PGAを摂取するのは、摂取量が大量であるため摂取することが負担となり、クオリティオブライフを低下させることに繋がるため好ましくない。また、本発明の腸内ビフィズス菌増殖促進剤および腸管バリア機能改善剤の摂取方法は、食事前、食事中、あるいは、食事後に実施しても構わない。
【実施例】
【0025】
[実施例1]正常マウスへのγ−PGAの飲水投与試験
日本チャールズリバーより搬入された7週齢の雄性C57BL/6Jを1週間予備飼育した後、対照群とγ−PGA群の2群(各群6匹)に分けた。餌はオリエンタル酵母社製のCRF−1を与え、対照群には水を、γ−PGA群には2.5%γ−PGAを自由飲水摂取させ、4週間飼育した。腸内ビフィズス菌の定量は、4週間後に各個体から新鮮な糞を回収し、糞便中のDNAをテンプレートとしたビフィズス菌特異的定量PCRによって行なった。腸管透過性抑制効果の評価は、4週間後に絶食後、Sigma社製のFITC標識Dextran(DX−FITC、分子量4,000)を500mg/kg経口投与し、1.5hr毎に血漿中のFITCの蛍光(Ex: 485 nm / Em: 535 nm)を測定することによって行なった。各群間の有意差検定はStudent's t-test法により行い、有意水準は危険率5%以下とした。
【0026】
図1に示した様に、γ−PGAを飲水で与えた群は、腸内ビフィズス菌数が有意に増加することが分かった。なお、ここで検出されたビフィズス菌で最優勢であったのは、Bifidobacterium pseudolongum(Bfp)であった。さらに図2に示した様に、γ−PGAを飲水で与えた群は、血漿中のDX−FITC濃度が有意に低いことが分かった。これらのことから、γ−PGAの摂取によって腸内ビフィズス菌の増殖が促進されることと、腸内バリア機能が強化されることが示された。
【0027】
[実施例2]正常マウスへのビフィズス菌投与試験
実施例1の試験において、γ−PGA摂取によって腸内で増殖したビフィズス菌の内、最優勢種であったBifidobacterium pseudolongum(Bfp)をγ−PGA群のマウス糞便より分離・培養し、遠心分離によってBfp菌体を得た。この菌体をPBSで洗浄後、凍結乾燥によって菌体粉末を得た。以下、この菌体粉末を用いた。
【0028】
日本チャールズリバーより搬入された7週齢の雄性C57BL/6Jを1週間予備飼育した後、対照群とBfp菌体群の2群(各群5匹)に分けた。餌はオリエンタル酵母社製のCRF−1を与え、対照群にはPBSを、Bfp群には20 mg/200μlのBfp菌体のPBS懸濁液を1日1回経口投与し、1週間飼育した。腸管透過性抑制効果の評価は、1週間後に絶食後、Sigma社製のFITC標識Dextran(DX−FITC、分子量4,000)を500mg/kg経口投与し、1.5hr毎に血漿中のFITCの蛍光(Ex: 485 nm / Em: 535 nm)を測定することによって行なった。各群間の有意差検定はStudent's t-test法により行い、有意水準は危険率5%以下とした。
【0029】
図3に示した様に、Bfp菌体の経口投与によって腸管透過性の抑制効果が認められ、腸管透過性の抑制がビフィズス菌の増殖によるものであることがわかる。
【0030】
[実施例3]肥満モデルマウスへのγ−PGAの飲水投与試験
日本チャールズリバーより搬入された5週齢の雄性BKS.Cg-Dock7m+/+Leprdb/J (db/db)を1週間予備飼育した後、対照群とγ−PGA群の2群(各群6匹)に分けた。餌はオリエンタル酵母社製のCRF−1を与え、対照群には水を、γ−PGA群には2.5%γ−PGAを自由飲水摂取させ、4週間飼育した。腸内ビフィズス菌の定量は、4週間後に各個体から新鮮な糞を回収し、糞便中のDNAをテンプレートとしたビフィズス菌特異的定量PCRによって行なった。腸管透過性抑制効果の評価は、4週間後に絶食後、Sigma社製のFITC標識Dextran(DX−FITC、分子量4,000)を500mg/kg経口投与し、1.5hr毎に血漿中のFITCの蛍光(Ex: 485 nm / Em: 535 nm)を測定することによって行なった。各群間の有意差検定はStudent's t-test法により行い、有意水準は危険率5%以下とした。
【0031】
図4に示した様に、γ−PGAを飲水で与えた群は、血漿中のDX−FITC濃度が有意に低かった。また、図5に示した様に、γ−PGAを飲水で与えた群のその時の空腹時血糖値は、対照群よりも有意に低かった。これらのことから、腸管バリア機能の改善によって血糖値の上昇が抑制されたことが考えられる。
【0032】
[実施例4]IBDモデルマウスへのγ−PGAの飲水投与試験
日本チャールズリバーより搬入された7週齢の雄性C57BL/6Jを1週間予備飼育した後、対照群とγ−PGA群の2群(各群5匹)に分けた。餌はオリエンタル酵母社製のCRF−1を与え、対照群には水を、γ−PGA群には2.5%γ−PGAを自由飲水摂取させ、4週間飼育した。その後、MP biomedicals社製の3% デキストラン硫酸ナトリウム(DSS;分子量36,000〜50,000)を飲水にて5日間投与し大腸炎を誘導させた。腸管透過性抑制効果の評価は、5日間のDSS飲水投与後に絶食後、Sigma社製のFITC標識Dextran(DX−FITC、分子量4,000)を500mg/kg経口投与し、1.5hr毎に血中のFITCの蛍光(Ex: 485 nm / Em: 535 nm)を測定することによって行なった。各群間の有意差検定はStudent's t-test法により行い、有意水準は危険率5%以下とした。
【0033】
図6に示した様に、4週間のγ−PGAの摂取によって、DSS投与による腸管透過性の上昇が抑制された。このことから、γ−PGAの摂取にIBDのような大腸炎による腸管バリア機能の破綻を予防する効果のあることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の腸内ビフィズス菌増殖促進剤および腸管バリア機能改善剤は、安全性が高く、優れた腸内ビフィズス菌の増殖促進効果および腸管バリア機能の改善効果を有している。従って、腸内ビフィズス菌が増加することによって得られる種々の健康機能を訴求した健康食品や保健機能食品などの飲食品、又は医薬品への使用に有効である。また、腸管バリア機能の破綻に起因する種々の疾患・健康被害に対する予防・改善のための健康食品や保健機能食品などの飲食品、又は医薬品への使用に有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ−γ−グルタミン酸を有効成分として含有することを特徴とする腸内ビフィズス菌増殖促進剤。
【請求項2】
ポリ−γ−グルタミン酸を有効成分として含有することを特徴とする腸内ビフィズス菌増殖促進用組成物。
【請求項3】
ポリ−γ−グルタミン酸を有効成分として含有することを特徴とする腸管バリア機能改善剤。
【請求項4】
ポリ−γ−グルタミン酸を有効成分として含有することを特徴とする腸管バリア機能改善組成物。
【請求項5】
ポリ−γ−グルタミン酸を10mg〜5g含有することを特徴とする請求項1ないし4記載の剤または組成物。
【請求項6】
腸管バリア機能の破綻に起因する疾病の治療用又は予防用であることを特徴とする請求項3に記載の腸管バリア機能改善剤。
【請求項7】
腸管バリア機能の破綻に起因する疾病が糖尿病であることを特徴とする請求項6に記載の腸管バリア機能改善剤。
【請求項8】
腸管バリア機能の破綻に起因する疾病が炎症性腸疾患であることを特徴とする請求項6に記載の腸管バリア機能改善剤。
【請求項9】
医薬的に許容可能な担体を含有することを特徴とする請求項3に記載の腸管バリア機能改善剤

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−178764(P2011−178764A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47310(P2010−47310)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】