説明

自励式非接触電力伝送装置

【課題】結合係数を改善するために磁性体を用いた場合でも、自励発振回路の発振状態を安定させることができる自励式非接触電力伝送装置を提供することを目的とする。
【解決手段】送電コイル11と自励発振のための帰還コイル15を備え、送電コイル11の受電コイル41と対向する面の反対側の面に孔部14を備える磁性体13を配置し、帰還コイル15を孔部14に配置する。これにより、帰還コイル15の自己インダクタンスの変化が抑えられ、自励発振動作を安定させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発振状態を安定して維持することができる自励式非接触電力伝送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やデジタルカメラ、ノートパソコンなどの電子機器に対して非接触で電力を伝送する方式が普及してきている。送電装置に内蔵される送電コイルから発生する交流磁場により、電子機器に内蔵される受電コイルに電力を伝送する。送電コイルに対しては交流電圧を印加する必要があり、そのための電源回路が必要となる。スイッチング電源の駆動方式として、自励式または他励式の発振回路がある。自励式の発振回路は、他励式の発振回路と比べて部品点数が少なく回路構成が簡単であるため、コストを抑えることができる。
【0003】
特許文献1には、自励式の発振回路を用いた非接触電力伝送装置が記載されている。自励式の発振回路に用いられる送電コイルおよび受電コイルの断面図を図4に示す。送電コイル51と受電コイル61は対向して配置されている。送電コイル51および自励発振のための帰還コイル55はそれぞれT型のフェライトコア53の中央脚に巻回されている。受電コイル61の送電コイル51に対向する面の反対側にはフェライトコア63が配置されている。これにより、送電コイル51と受電コイル61間の結合係数を改善している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−94843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自励式の発振回路を用いた非接触電力伝送装置においては、送電コイル51の他に自励発振のための帰還コイル55が必要になる。図4に示したようにフェライトコア53、63を配置することで、送受電コイル間の電力伝送効率を改善することができる。しかし、送受電コイルを対向させた場合、送電コイル51だけでなく帰還コイル55の自己インダクタンスも大きく変化してしまうため、電源回路の発振状態が不安定になってしまうことがあった。
【0006】
本発明はこのような問題を考慮してなされたものであり、結合係数を改善するために磁性体を用いた場合でも、自励発振回路の発振状態を安定させることができる自励式非接触電力伝送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はこのような目的を達成するため、送電コイルと自励発振のための帰還コイルを備え、該送電コイルから受電コイルに対して電磁誘導により電力の供給を行う自励式非接触電力伝送装置において、該送電コイルの該受電コイルと対向する面の反対側の面に孔部を備える磁性体を配置し、該帰還コイルが該孔部に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、自励発振回路に用いられる帰還コイルの自己インダクタンスの変化が抑えられ、自励発振回路の動作を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1の実施例に係る送電コイルおよび受電コイル
【図2】本発明に用いる非接触電力伝送回路の一例
【図3】本発明の第2の実施例に係る送電コイルおよび受電コイル
【図4】従来の送電コイルおよび受電コイル
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に本発明の第1の実施例に係る送電コイルおよび受電コイルを示す。図1(a)は送電コイルおよび受電コイルの断面図、図1(b)は送電コイルの分解斜視図である。送電コイル11と受電コイル41が対向する面の反対側の面には、それぞれ磁性シート13、43が設けられている。これにより、インダクション係数を上げて各コイルの巻数を減少させて効率を上げるのと同時に不要輻射を抑制している。各磁性シート13、43の大きさは、それぞれ送電コイル11、受電コイル41と同じ大きさかそれ以上のものが用いられる。また、磁性シート13の中央には孔部14が設けられている。孔部14は円形状であり、磁性シート13の表裏面を貫通するように構成されている。自励発振のための帰還コイル15は孔部14内に配置されている。帰還コイル15と送電コイル11の巻回面は、略平行になるようにする。
【0011】
帰還コイル15の外径は、孔部14の孔径より小さくなるように形成されている。また、帰還コイル15の厚さは、磁性シート13の厚さと同じか薄くなるように形成されている。そのため、帰還コイル15は磁性シート13の孔部14内に配置できるようになっている。送電コイル11の背面の大部分には磁性シート13が配置される一方、帰還コイル15の背面には磁性シート13が配置されない構造となる。
【0012】
背面に磁性シート43を設けられた受電コイル41が送電コイル11に近接すると、送電コイル11および帰還コイル15の自己インダクタンスが上昇する。送電コイル11は、背面の大部分に磁性シート13が配置されているため、自己インダクタンスが10〜15%程度上昇する。他方、帰還コイル15は、磁性シート13の孔部14に配置されているため、自己インダクタンス上昇が3%程度に抑えられる。帰還コイル15の外周に磁性シート13を配置することで、磁性シート13、43によって帰還コイル15の自己インダクタンスが変化するのを抑制することができる。それと同時に、送電コイル11の背面の大部分には磁性シート13が配置されているため、送受電コイル間の結合係数を上げることができる。
【0013】
次に、図2に本発明に用いる非接触電力伝送回路の一例を示す。送電装置10は、送電コイル11、自励発振のための帰還コイル15、NPN型トランジスタ21、バイアス回路22、コンデンサ23、ベース抵抗24、起動抵抗25および共振用コンデンサ26を備える。送電コイル11と帰還コイル15は、互いに磁気的に結合している。図中の点(・)は各コイルの極性を示す。送電コイル11は、トランジスタ21のコレクタと直流電源Vinの正電圧端子間に接続されている。トランジスタ21のエミッタは、バイアス回路22を介して直流電源VinのGND端子に接続されている。また、帰還コイル15は、コンデンサ23およびベース抵抗24を介してトランジスタ21のベースと直流電源VinのGND端子間に接続されている。また、起動抵抗25は、ベース抵抗24を介してトランジスタ21のベースと直流電源Vinの正電圧端子間に接続されている。また、共振用コンデンサ26は、ベース抵抗24を介してトランジスタ21のベース−コレクタ間に接続されている。
【0014】
携帯機器である受電装置40は、電磁誘導作用により送電コイル11から電力を受電する受電コイル41と、受電コイル41に誘導される交流電力を整流する整流平滑回路47を備える。整流平滑回路41の出力Voutは、二次電池などの負荷に供給される。受電コイル41の巻線面は送電コイル11の巻線面と対向するように配置される。
【0015】
次に、非接触電力伝送回路の動作について説明する。直流電源Vinより直流電圧がコンデンサ23、起動抵抗25を介して帰還コイル15に印加される。すると、トランジスタ21のベース−エミッタ間の電圧が上昇し、トランジスタ21がオンに切り替わり、送電コイル11に流れる電流が徐々に増加する。これにより、帰還コイル15に電圧が発生し、トランジスタ21のコレクタの電流は更に増加しようとする。その後、帰還コイル15の電圧が逆転すると、トランジスタ21がオフに切り替わる。その後、帰還コイル15の電圧の極性が再度逆転すると再びトランジスタ21がオンに切り替わり、同様な動作を繰り返す。このようにして送電コイル11に交流電力が供給される。
【0016】
もし、帰還コイル15の自己インダクタンスが大きく変化してしまう構造であると、送受電コイルを対向させたときにトランジスタ21のスイッチング動作が安定せず、発振動作が不安定になってしまう。また、受電装置40の負荷変動により、帰還動作が不安定になりやすくなってしまう。本願発明のように、帰還コイル15を磁性シート13の孔部14内に配置することで、帰還コイル15の自己インダクタンスの変化を抑えられる。これにより、自励発振回路の発振動作の安定性を向上させることができる。また、帰還コイル15と磁性シート13を同一平面内に配置することで、送電コイル11、磁性シート13および帰還コイル15で構成される送電部の薄型化が可能となる。
【0017】
図3に本発明の第2の実施例に係る送電コイルおよび受電コイルを示す。図3(a)は送電コイルおよび受電コイルの断面図、図3(b)は送電コイルの分解斜視図である。以下、第1の実施例と同じ機能を有する部位には同じ符号を付し、説明は省略する。
【0018】
磁性シート33の中央には孔部34が設けられている。孔部34は円形状であり、磁性シート33の表裏面を貫通するように構成されている。磁性シート33の孔部34の孔径は、送電コイル31の巻軸径と略同一になるように形成されている。また、磁性シート33は、磁性シート33の孔部34の孔径と送電コイル31の巻軸径の大きさが合うように形成されている。自励発振のための帰還コイル35は、磁性シート33の孔部34と送電コイル31の内径部32にまたがり配置されている。帰還コイル35と送電コイル31の巻回面は、略平行になるようにする。
【0019】
帰還コイル35の外径は、孔部34の孔径より小さくなるように形成されている。また、帰還コイル35の厚さは、送電コイル31と磁性シート33の厚さの合計より薄くなるように形成されている。そのため、帰還コイル35は磁性シート33の孔部34と送電コイル31の内径部32にまたがり配置できるようになっている。送電コイル31の背面には磁性シート33が配置される一方、帰還コイル35の背面には磁性シート33が配置されない構造となる。帰還コイル35と受電コイル41間の結合を低く抑え、自励発振回路の動作を安定させるために、帰還コイル35と受電コイル41との間に間隔を設けることが好ましい。
【0020】
このように帰還コイル35を配置することで、送電コイル31の内径部32のスペースを有効に利用することができる。また、第1の実施例と同様に帰還コイル35の自己インダクタンスの上昇を送電コイル31の自己インダクタンスの上昇に対して低くなるように抑えることができる。これにより、自励発振回路の発振状態が不安定になるのを抑えることができる。また、帰還コイル35の外径を受電コイル41の巻軸径より小さくすることで、帰還コイル35と受電コイル41間の結合を弱めることができ、発振動作が不安定になりにくくなる。
【0021】
なお、送電コイル11に交流電力を供給するための電源回路としてコレクタ同調形の自励発振回路を用いたが、RCC共振回路やコレクタ共振回路などの自励発振回路を用いてもよい。また、磁性シート13、33、43はそれぞれ磁性体であれば何を用いてもよい。例えば、フェライトコア、アモルファスコアなどを用いてもよい。また、磁性シート13、33、43は複数に分割された磁性シートを組み合わせて構成してもよい。また、磁性シート13、33の孔部14、34の形状は円形に限定されるものではなく、正角形などの多角形状にしてもよい。
【符号の説明】
【0022】
10 送電装置
11、31 送電コイル
13、33 磁性シート
14、34 孔部
15、35 帰還コイル
21 NPN型トランジスタ
22 バイアス回路
23 コンデンサ
24 ベース抵抗
25 起動抵抗
26 共振用コンデンサ
32 内径部
40 受電装置
41 受電コイル
43 磁性シート
47 整流平滑回路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電コイルと自励発振のための帰還コイルを備え、該送電コイルから受電コイルに対して電磁誘導により電力の供給を行う自励式非接触電力伝送装置において、
該送電コイルの該受電コイルと対向する面の反対側の面に孔部を備える磁性体を配置し、
該帰還コイルが該孔部に配置される自励式非接触電力伝送装置。
【請求項2】
前記孔部が略円形の貫通孔である請求項1に記載の自励式非接触電力伝送装置。
【請求項3】
前記送電コイルと前記帰還コイルの巻回面が略平行である請求項1または2に記載の自励式非接触電力伝送装置。
【請求項4】
前記帰還コイルが前記孔部と前記送電コイルの内径部にまたがり配置される請求項3に記載の自励式非接触電力伝送装置。
【請求項5】
前記磁性体が磁性シート、アモルファスコアもしくはフェライトコアである請求項1〜4のいずれか一項に記載の自励式非接触電力伝送装置。
【請求項6】
前記磁性体が複数に分割されている請求項1〜5のいずれか一項に記載の自励式非接触電力伝送装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate