説明

自動変速機の油圧制御装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、自動変速機の油圧制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、自動車の自動変速機には、トルクコンバータとプラネタリギヤシステムとが設けられ、トルクコンバータはエンジン出力軸のトルクをオイルを介してタービンシャフトに伝達し、プラネタリギヤシステムはタービンシャフトのトルクを変速して変速機出力軸に伝達するようになっている。ここで、プラネタリギヤシステムは、その内部でのトルク伝達経路を切り替えることによって変速比が切り替えられるようになっている。そして、プラネタリギヤシステムには、トルク伝達経路を切り替えるために、複数の油圧式クラッチと油圧式ブレーキとが設けられる。かかる自動変速機においては、トルクコンバータにオイルを供給し、かつプラネタリギヤシステムのクラッチとブレーキとに油圧をかけまたはこれをリリースするために油圧制御装置が設けられる。
【0003】かかる油圧制御装置において、クラッチないしブレーキでのトルク伝達量に対して作動油圧(ライン圧)が高すぎると、これらが急激にオン・オフされ、変速ショックが生じるといった問題がある。また、逆に作動油圧が低すぎると、クラッチあるいはブレーキの摺接部に過度なすべりが生じ、変速に要する時間が長くなり、かつクラッチあるいはブレーキが早期に摩耗するといった問題がある。
【0004】そこで、油圧制御装置の作動油圧を、エンジン負荷に応じて、すなわち、ほぼクラッチないしブレーキでのトルク伝達量に応じて設定するようにし、変速ショックの発生を防止しつつ、変速時間の短縮と摺接部の摩耗の低減とを図るようにした自動変速機の油圧制御装置が提案されている(例えば、特公昭61−48021号公報参照)。そして、かかる油圧制御装置においては、1速〜2速、2速〜3速等の変速の種類に応じて、夫々作動油圧のエンジン負荷に対する特性が異なるマップが設けられ、このマップに従って運転状態に応じて適正な作動油圧が設定されるようになっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところで、一般にエンジン負荷の検出にはスロットル開度センサが用いられるが、かかるスロットル開度センサは、スロットル弁の開度が小さい領域では、その検出精度が悪くなるといった問題がある。このため、スロットル開度(エンジン負荷)に応じて作動油圧を設定するようにした上記従来の油圧制御装置では、スロットル開度が小さい領域での作動油圧の制御が不安定となるといった問題がある。
【0006】これを改善するため、スロットル開度センサの検出値が、これ以下ではスロットル開度センサの信頼性が低下するような限界値(切替値)より小さいときには、作動油圧を一定値に固定し、スロットル開度が小さい領域での作動油圧制御の安定化を図るようにした油圧制御装置が提案されている。しかしながら、スロットル開度が上記限界値より小さいような低負荷領域でも変速が行なわれることがあるので(例えば、スロットル弁全閉時でもバックアウト変速等の変速が行なわれる)、スロットル開度が限界値より小さいときには作動油圧を固定するようにした上記従来の油圧制御装置では、スロットル開度が限界値より小さいときに変速ショックが発生するといった問題がある。
【0007】本発明は、上記従来の問題点を解決するためになされたものであって、基本的にはエンジン負荷に応じて作動油圧を設定するようにした自動変速機の油圧制御装置において、エンジン負荷が低い領域でも、作動油圧の制御を安定化することができ、かつ変速ショックの発生、変速の遅延、摺接部の摩耗等を有効に防止することできる油圧制御装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達するため、第1の発明は、エンジン負荷を検出するエンジン負荷検出手段と、該エンジン負荷検出手段によって検出されるエンジン負荷検出値に応じて油圧装置の作動油圧を設定する作動油圧制御手段と、上記エンジン負荷検出値が予め設定される切替値より小さいときには、該エンジン負荷検出値に対する関係においては、油圧装置の作動油圧を一定の低負荷時用油圧に固定する作動油圧固定手段とが設けられた自動変速機の油圧制御装置において、エンジンがアイドル状態にあるか否かを検出するアイドル状態検出手段と、変速時において上記アイドル状態検出手段によってエンジンがアイドル状態にあることが検出されたときには、上記低負荷時用油圧を低下させる低負荷時用油圧変更手段とが設けられていることを特徴とする自動変速機の油圧制御装置を提供する。
【0009】第2の発明は、第1の発明にかかる自動変速機の油圧制御装置において、低負荷時用油圧変更手段が、車速に応じて低負荷時用油圧を変更するようになっていることを特徴とする自動変速機の油圧制御装置を提供する。
【0010】第3の発明は、第1の発明にかかる自動変速機の油圧制御装置において、エンジン負荷検出値に対する作動油圧特性が、変速時と非変速時とに対して個別的に、かつ低負荷時には非変速時の作動油圧が変速時の作動油圧より低くなるように設定されていて、変速時において、アイドル状態検出手段によってエンジンがアイドル状態にあることが検出されたときには、低負荷時用油圧変更手段が非変速時用の作動油圧特性に従って作動油圧を設定するようになっていることを特徴とする自動変速機の油圧制御装置を提供する。
【0011】
【実施例】以下、本発明の実施例を具体的に説明する。図1に示すように、自動車用パワープラントPには、エンジン1と自動変速機2とが設けられている。ここで、エンジン1には、エアクリーナ3と吸気通路4と吸気マニホールド5とを介して吸気が供給されるようになっており、この吸気量は、吸気通路4に介設されたスロットル弁6によって絞られるようになっている。
【0012】自動変速機2にはトルクコンバータ7と機械式変速部8とが設けられている。そして、自動変速機2は、エンジン出力軸(図示せず)のトルクを、トルクコンバータ7で変速してタービンシャフト(図示せず)に伝達し、このタービンシャフトのトルクをさらに機械式変速部8で変速して変速機出力軸9に伝達するようになっている。ここで、機械式変速部8は、プラネタリギヤシステムで構成される普通の機械式変速機であって、図示していないが、複数の油圧式クラッチと油圧式ブレーキとを備え、これらのクラッチとブレーキのオン・オフの組み合わせを変えることによってトルク伝達経路を切り替え、これによって変速比を切り替えるようになっている。
【0013】そして、トルクコンバータ7にオイルを供給するとともに、ロックアップクラッチ(図示せず)あるいは機械式変速部8の各種クラッチ、ブレーキ等(図示せず)に油圧を供給しまたは油圧をリリースするために油圧装置11が設けられ、この油圧装置11には、ライン圧制御用ソレノイドバルブ12と、複数の変速用ソレノイドバルブ13とが設けられている。これらのライン圧制御用ソレノイドバルブ12と変速用ソレノイドバルブ13とは、夫々、コントロールユニット14からの信号に従って作動するようになっている。ここで、ライン圧制御用ソレノイドバルブ12は、後で説明するように、車両の運転状態に応じて油圧装置11のライン圧(作動油圧)を制御し、一方変速用ソレノイドバルブ13は、車両の運転状態に応じて各種シフトバルブ(図示せず)を切り替えてクラッチおよびブレーキのオン・オフの組み合わせを変え、機械式変速部8の変速比を切り替えるようになっている。なお、コントロールユニット14には、スロットル弁6に対して設けられたスロットル開度センサ15によって検出されるスロットル開度、車速センサ16によって検出される車速、アイドルスイッチ17によって検出されるアイドル信号等が制御情報として入力されるようになっている。
【0014】図2に示すように、油圧装置11においては、オイルパン21内のオイルが、オイルポンプ22によってオイル供給通路23に吐出され、このオイルが油圧装置11の各部(例えば、マニュアルバルブ)、あるいは自動変速機2(図1参照)の各部に供給されるようになっているが、オイルポンプ22の吐出圧はエンジン回転数に伴って変化するので、オイル供給通路23内の油圧すなわちライン圧を適正値に保持するためにライン圧制御機構20が設けられている。
【0015】ライン圧制御機構20にはライン圧制御バルブ24が設けられ、このライン圧制御バルブ24は、後で説明するように、基本的にはコントロールユニット14の指示に従って供給されるパイロット圧にほぼ比例するライン圧を、オイル供給通路23に形成させるとともに、トルコン油路25を介してトルクコンバータ7(図1参照)にトルク伝達用のオイルを供給するようになっている。
【0016】ライン圧制御バルブ24に供給される上記パイロット圧は、減圧弁27と、スロットルモジュレータバルブ28と、アキュムレータ29と、コントロールユニット14からの信号に従って作動するライン圧制御用ソレノイドバルブ12とによって、次のような機構で形成されるようになっている。すなわち、オイル供給通路23内の油圧(ライン圧)が、油圧導入通路26を介して減圧弁27に導入され、この減圧弁27によって減圧された後、減圧油路31を介してスロットルモジュレータバルブ28の入力ポート28a,28bに入力される。また、減圧油路31の油圧は、減圧油路31から分岐するデューティ圧通路33を介してスロットルモジュレータバルブ28のコントロールポート28cにも導入される。ここで、デューティ圧通路33内の油圧、すなわちコントロールポート28cにかかる油圧は、コントロールユニット14から入力されるデューティ比に応じて開閉されるライン圧制御用ソレノイドバルブ12によって制御される。なお、このデューティ比は、後で説明するように、コントロールユニット14によって、スロットル開度、車速、アイドル信号等に応じて所定の方法で設定される。
【0017】そして、コントロールポート28cにかけられた油圧に対応する油圧が、パイロット圧としてスロットルモジュレータバルブ28からパイロット圧通路32に出力される。ここで、パイロット圧通路32に臨んでアキュムレータ29が設けられ、このアキュムレータ29によってパイロット圧通路32内の油圧振動ないし脈動が吸収され、パイロット圧が安定化される。なお、アキュムレータ29はドレンポート34と排圧ポート35とを備え、リリーフバルブとしても機能するようになっている。
【0018】このようにして形成されたパイロット圧通路32内の油圧すなわちパイロット圧が、ライン圧制御バルブ24に供給され、前記したとおり、ライン圧制御バルブ24によって、このパイロット圧に比例するライン圧がオイル供給通路23に形成される。
【0019】図3に示すように、ライン圧制御バルブ24は、実質的に、バルブボディ41と、このバルブボディ41に形成されたスプール穴42と、このスプール穴42内に軸線方向に摺動可能に収容されたスプール43と、スプール穴42とスプール43との間に介設されたスリーブ44とで構成されている。そして、スプール穴42には複数の大径部が形成される一方、これらの大径部と対応する位置において、スプール43に細軸部が形成され、これらの対応する大径部内周面と細軸部外周面との間に、夫々、パイロット圧通路32が配置された方の端部側(図3では左側)から順に、第1〜第8油室45〜52が形成されている。以下では、便宜上、スプール43の軸線方向(図3では左右方向)にみて、パイロット圧通路32側(図3では左側)をといい、これと反対側をという。
【0020】第1油室45はパイロット圧通路32と連通し、この第1油室45にはパイロット圧が導入されるようになっている。このパイロット圧によってスプール43には右向きの力が作用する。第2油室46は、他端がオイルパン21(図2参照)に通じる第1ドレン油路53と連通している。第3油室47は、他端がマニュアルバルブ(図示せず)のリバースポートに接続されるリバース油路54と連通している。第4油室48は、他端がオイルパン21(図2参照)に通じる第2ドレン油路55と連通している。第5油室49は、他端がトルクコンバータ7(図1参照)に接続されるトルコン油路25と連通している。第6油室50は、他端がオイル供給通路23(図2参照)に接続される第1ライン油路57と連通している。第7油室51は、他端がオイルパン21(図2参照)に通じるメインドレン油路58と連通している。第8油室52は、他端がオイル供給通路23(図2参照)に接続される第2ライン油路59と連通している。なお、この第2ライン油路59には、第8油室52内の油圧振動を打ち消すためにオリフィス60が介設されている。
【0021】ここで、第8油室52内のオイルと接する部分において、スプール43の左側の受圧面63は比較的大きく、一方右側の受圧面64は非常に小さいので、この受圧面積の差によって、スプール23には、第8油室52内の油圧すなわちライン圧に比例して左向きの力が作用する。この左向きの力は、ライン圧制御におけるライン圧のフィードバック要素となる。また、スプール43はスプリング62によって常時右向きに付勢されている。上記構成において、スプール43には、実質的に、第1油室45内の油圧(パイロット圧)による右向きの力と、スプリング62による右向きの力と、第8油室52内の油圧(ライン圧)による左向きの力とが作用することになり、スプール43は、これらの力が釣り合うような位置に保持されることになる。なお、リバースシフト時に第3油室47に油圧が導入されたときには、この油圧によってスプール43には若干右向きの力が作用する。
【0022】ここで、パイロット圧が低い場合には、スプール43が左向きに移動し、これに伴ってランド65が仮想線で示すA1位置にきて、第1ライン油路57とメインドレン油路58との連通部の開口面積が大きくなり、矢印Rで示すように第1ライン油路57内のオイルすなわちオイル供給通路23(図2参照)内のオイルがメインドレン油路58にリリースされ、オイル供給通路23内の油圧すなわちライン圧が低くなる。逆に、パイロット圧が上昇すると、スプール43が右向きに移動し、ランド65が実線で示す位置にきて、第1ライン油路57とメインドレン油路58との連通部の開口面積が小さくなり、オイルのリリース量が減少してオイル供給通路23内の油圧すなわちライン圧が上昇する。このようにして、パイロット圧にほぼ比例するライン圧が得られるようになっている。ここで、前記したとおり、第8油室52に導入されるライン圧がフィードバック機能を有するので、ライン圧はパイロット圧に対応するようにフィードバック制御されることになる。なお、エンジン運転中においては、スプール43が比較的左側に位置し、第1ライン油路57とトルコン油路25とが連通するので、オイル供給通路23(図2参照)内のオイルがトルコン油路25を介してトルクコンバータ7(図1参照)に供給される。なお、エンジン停止時にはランド66が仮想線A2位置にくるので、第1ライン油路57とトルコン油路25とが遮断される。
【0023】前記したとおり、パイロット圧はコントロールユニット14からライン圧制御用ソレノイドバルブ12に印加されるデューティ比に対応して形成され、一方ライン圧はパイロット圧にほぼ比例して形成されるので、結局ライン圧はコントロールユニット14によって設定されるデューティ比に対応して形成されることになる。ここで、ライン圧のデューティ比に対する特性は、例えば図5のように設定される。
【0024】ところで、コントロールユニット14は、マイクロコンピュータで構成され、スロットル開度、車速、アイドル信号等を制御情報として、車両の運転状態に応じて、油圧装置11の油圧制御(ライン圧制御)を行なうようになっているが、以下、図4に示すフローチャートに従って、適宜図1〜図3を参照しつつ、油圧制御の制御方法を説明する。
【0025】制御が開始されると、ステップ#1でスロットル開度センサ15によって検出されるスロットル開度TVθが読み込まれ、ステップ#2で車速センサ16によって検出される車速が読み込まれ、ステップ#3でアイドルスイッチ17によって検出されるアイドルスイッチ信号が読み込まれる。
【0026】次に、ステップ#4で車両が変速すべき運転状態にあるか否かが比較・判定される。コントロールユニット14のROMには、例えば図6に示すように、スロットル開度TVθと車速Vとを元とする変速マップが記憶されており、前回の運転状態と今回の運転状態とをかかる変速マップに照らし合わせて、変速すべき運転状態にあるか否かを判定するようになっている。
【0027】ステップ#4で、変速すべき運転状態にないと判定されれば(NO)、ステップ#5で通常時用油圧マップ(非変速時用マップ)に従って、油圧装置11の作動油圧(ライン圧)が設定される。なお、ライン圧の設定ないし制御は、前記したとおり、コントロールユニット14からライン圧制御用ソレノイドバルブ12に印加するデューティ比を制御することによって行なわれる。図7R>7に示すように、かかる通常時用油圧マップG1においては、基本的には、ライン圧がスロットル開度TVθの関数として設定され、スロットル開度が大きいときほどライン圧が高められ、機械式変速部8のクラッチあるいはブレーキでのトルク伝達容量に応じた適正なライン圧が得られるようになっている。しかしながら、前記したとおり、スロットル開度センサ15は、スロットル開度TVθが小さい領域(低負荷領域)では、検出値にばらつきが生じ、その検出精度が低下する。このため、かかる領域でスロットル開度TVθに対応させてライン圧を設定するとライン圧制御が乱れてしまうので、スロットル開度TVθが切替値θmより小さい領域では、ライン圧を一定値P1に固定してライン圧制御の安定化を図るようにしている。ここで、切替値θmは、これ以下ではスロットル開度センサ15の信頼性が十分に得られないような限界値に設定されている。この後、制御はステップ#1に復帰する。
【0028】他方、ステップ#4で変速すべき運転状態にあると判定されれば(YES)、ステップ#6でアイドルスイッチ信号がオンであるか否かが比較・判定される。ここで、アイドルスイッチ信号がオフであると判定されれば(NO)、ステップ#7で変速の種類、すなわち1速〜2速、2速〜3速、3速〜4速のいずれの変速であるかが判定され、続いて、テップ#8で、変速の種類に応じて、変速時用油圧マップに従って油圧装置11の油圧(ライン圧)が設定される。なお、変速時用油圧マップが、変速の種類毎に設定されているのはもちろんである。
【0029】図7に一例を示すように、変速時用油圧マップG2も、通常時用油圧マップG1と同様に、基本的にはスロットル開度TVθが大きいときほどライン圧が高くなるような特性に設定され、かつスロットル開度TVθが切替値θmより小さい領域では、ライン圧が一定値P2に固定され、ライン圧制御の安定化が図られている。
【0030】ここで、通常時用油圧マップG1においては、スロットル開度TVθが比較的小さい領域すなわち低負荷領域では、ライン圧が、変速時用油圧マップG2の場合より低い値に設定されている。これは、通常時(非変速時)において、低負荷領域では機械式変速部8のクラッチないしブレーキでのトルク伝達量が非常に小さくなるので、かかるトルク伝達量に応じたライン圧は、変速時に必要とされるライン圧よりも小さくなるからである。これに伴って、通常時用油圧マップG1の固定油圧P1も、変速時用油圧マップG2の固定油圧P2より低い値に設定されている。
【0031】これに対して、スロットル開度TVθが比較的大きい領域すなわち高負荷領域では、通常時用油圧マップG1のライン圧が、変速時用油圧マップG2のライン圧よりも高い値に設定されている。これは、通常時において、高負荷領域では機械式変速部8のクラッチないしブレーキでのトルク伝達量が大きくなるので、クラッチないしブレーキのすべりを防止するためにライン圧を高める必要があるからである。逆に、変速時においては、クラッチないしブレーキに適度なすべりが生じる方が、クラッチないしブレーキの接続が円滑化され、変速ショックの発生が防止されるので、ライン圧が比較的低く設定されている。
【0032】次に、ステップ#9で変速操作が終了したか否かが比較・判定され、変速操作が終了していないと判定されれば(NO)、変速操作が終了するまでこのステップ#9が繰り返し実行される。変速操作が終了していると判定されれば(YES)、ステップ#1に復帰する。
【0033】前記のステップ#6で、アイドルスイッチ信号がオンであると判定されれば(YES)、ステップ#10で変速の種類が判定され、続いてステップ#11で変速の種類に応じて、アイドル時用のライン圧制御が行なわれる。前記したとおり、変速時においては、基本的には、変速時用油圧マップG2に従って油圧制御が行なわれるようになっているが、この場合スロットル開度TVθがθmより小さい領域では、ライン圧制御の安定化を図るために、ライン圧が一定値P2に固定される。しかしながら、このようにすると、TVθ<θmとなる領域において、スロットル開度TVθが比較的大きい場合にはライン圧が適正値に保持されるものの、スロットル開度TVθが比較的小さい場合には、機械式変速部8のクラッチないしブレーキでのトルク伝達量に比較して、ライン圧が高くなりすぎ、シフトアップ変速時に変速ショックが発生することになる(例えば、加速状態からアクセルを全閉するバックアウト変速時)。そこで、アイドルスイッチ信号がオンとなった場合、すなわちスロットル弁6がほぼ全閉される領域では、通常時用油圧マップG1に従ってライン圧を設定し(固定油圧P1)、非アイドル状態における変速時(固定油圧P2)よりライン圧を低下させ、変速ショックの発生を防止するようにしている。例えば、スロットル開度TVθがθiのときにアイドルスイッチ信号がオンされるとすれば、変速時におけるライン圧のスロットル開度TVθに対する特性は、実質的に図7中のG3のような特性となる。この場合、アイドルスイッチ17がオンされたときに、油圧マップを変速時用油圧マップG2から通常時用油圧マップG1に切り替えるだけでよく、新たにROMに制御情報を記憶する必要がない。このため、コントロールユニット14の容量の増加を招かない。
【0034】なお、このように、アイドル状態における変速時に、油圧マップを変速時用油圧マップG2から通常時用油圧マップG1に切り替えるのではなく、固定油圧を、新たにP2より低い所定値に設定するようにしてもよい。この場合には、例えば図8に示すように、車速Vが速いときほど固定油圧を高めるようにするのが好ましい。すなわち、アイドル状態における変速例えばバックアウト変速は、低速から高速までの広い車速領域にまたがっているが、アイドル状態における変速時において、ライン圧を一定値に保持した場合、高速時にはイナーシャにより機械式変速部8のクラッチないしブレーキの容量不足が生じ、すべり感が発生するなどといったシフトフィーリングの悪化を招き、かつクラッチ焼けが発生するおそれがある。逆に、低速時にはクラッチないしブレーキが容量過多となり、変速ショックが生じるおそれがある。そこで、前記したように、アイドル状態における変速時のライン圧を車速に応じて変えるようにすれば、このような不具合の発生が防止され、変速ショックの発生が防止されるとともに、変速に要する時間が一定化され、クラッチないしブレーキの摺接部の過度なすべりの発生が防止され、摺接部の耐久性が高められることになる。
【0035】この後、ステップ#9で、変速操作が終了したか否かが比較・判定され、変速操作が終了していないと判定されれば(NO)、変速操作が終了するまでこのステップ#9が繰り返し実行される。変速操作が終了していると判定されれば(YES)、ステップ#1に復帰する。以上、本発明によれば、油圧装置11のライン圧が、車両の運転状態に応じて設定され、変速ショックの発生が防止されるとともに、変速時間が一定化され、機械式変速部8のクラッチないしブレーキの耐久性が高められる。
【0036】
【発明の作用・効果】第1の発明によれば、エンジン負荷が切替値以上の場合には、ライン圧がエンジン負荷に応じて設定されるので、クラッチないしブレーキでのトルク伝達量に応じたライン圧が得られ、変速ショックの発生が防止される。また、エンジン負荷が切替値より小さい場合には、ライン圧が固定されるので、エンジン負荷検出手段の検出精度が低くなる低負荷領域でのライン圧制御の安定化が図られる。そして、アイドルスイッチオン時における変速時には、作動油圧が下げられるので、ライン圧制御の安定性を保持しつつ変速ショックの発生が防止される。
【0037】第2の発明によれば、基本的には第1の発明と同様の作用・効果が得られる。さらに、アイドルスイッチオン時においる変速時には、作動油圧が車速に応じて設定されるので、ライン圧がイナーシャに応じて設定され、変速ショックの発生が防止されるとともに、変速に要する時間が一定化され、クラッチ、ブレーキ等の摺接部の過度のすべりの発生が防止され、クラッチないしブレーキの耐久性が高められる。
【0038】第3の発明によれば、基本的には第1の発明と同様の作用・効果が得られる。さらに、アイドルスイッチオン時における変速時には、油圧マップを変速時用油圧マップから通常時用油圧マップに切り替えることによって、作動油圧を下げるようにしているので、制御機構の複雑化あるいは容量増加を招かない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる油圧制御装置を備えた自動変速機と、エンジンとからなるパワープラントの側面立面説明図である。
【図2】油圧装置のライン圧制御機構の系統図である。
【図3】ライン圧制御バルブの側面断面説明図である。
【図4】油圧制御の制御方法を示すフローチャートである。
【図5】油圧(ライン圧)のデューティ比に対する特性を示す図である。
【図6】自動変速機の機械式変速部の変速特性を示す図である。
【図7】通常時と変速時とにおける、ライン圧のスロットル開度に対する特性を示す図である。
【図8】アイドルスイッチオン時における変速時の、ライン圧の車速に対する特性を示す図である。
【符号の説明】
P…パワープラント
1…エンジン
2…自動変速機
6…スロットル弁
11…油圧装置
14…コントロールユニット
15…スロットル開度センサ
16…車速センサ
17…アイドルスイッチ
20…油圧制御機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】 エンジン負荷を検出するエンジン負荷検出手段と、該エンジン負荷検出手段によって検出されるエンジン負荷検出値に応じて油圧装置の作動油圧を設定する作動油圧制御手段と、上記エンジン負荷検出値が予め設定される切替値より小さいときには、該エンジン負荷検出値に対する関係においては、油圧装置の作動油圧を一定の低負荷時用油圧に固定する作動油圧固定手段とが設けられた自動変速機の油圧制御装置において、エンジンがアイドル状態にあるか否かを検出するアイドル状態検出手段と、変速時において上記アイドル状態検出手段によってエンジンがアイドル状態にあることが検出されたときには、上記低負荷時用油圧を低下させる低負荷時用油圧変更手段とが設けられていることを特徴とする自動変速機の油圧制御装置。
【請求項2】 請求項1に記載された自動変速機の油圧制御装置において低負荷時用油圧変更手段が、車速に応じて低負荷時用油圧を変更するようになっていることを特徴とする自動変速機の油圧制御装置。
【請求項3】 請求項1に記載された自動変速機の油圧制御装置において、エンジン負荷検出値に対する作動油圧特性が、変速時と非変速時とに対して個別的に、かつ低負荷時には非変速時の作動油圧が変速時の作動油圧より低くなるように設定されていて、変速時において、アイドル状態検出手段によってエンジンがアイドル状態にあることが検出されたときには、低負荷時用油圧変更手段が非変速時用の作動油圧特性に従って作動油圧を設定するようになっていることを特徴とする自動変速機の油圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図7】
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【特許番号】第2888662号
【登録日】平成11年(1999)2月19日
【発行日】平成11年(1999)5月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−88889
【出願日】平成3年(1991)4月20日
【公開番号】特開平4−321867
【公開日】平成4年(1992)11月11日
【審査請求日】平成10年(1998)2月25日
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【参考文献】
【文献】特開 平1−275939(JP,A)
【文献】特開 平2−42263(JP,A)
【文献】特開 平3−14960(JP,A)
【文献】特開 昭62−132063(JP,A)
【文献】特開 昭49−38047(JP,A)
【文献】特開 昭60−4659(JP,A)
【文献】実開 昭62−12038(JP,U)
【文献】特公 昭61−48021(JP,B2)