説明

自動車用シート装置

【課題】 身障者等が乗り降りするのを容易にした自動車用シート装置において、構造及び操作を簡単にする。
【解決手段】 支持フレーム10上に支持されたシートクッションAを、左右方向に延びる分割面Acに沿って前部シートクッションAaと後部シートクッションAbとに分離し、後部シートクッションは支持フレーム上に固定し、前部シートクッションは横スライドトラック20を介して分割面に沿って往復移動可能に支持フレーム上に支持する。外向きに移動してドア開口から外に出した乗り降り位置で前部シートクッション上に着座者は座り、後部シートクッションの真前の乗車位置に戻すことにより乗車する。分割面は車体外側斜め後方に延びるものとし、また、前部シートクッションを乗車位置と乗り降り位置でロックするロック装置35を設けるのがよい。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、お年寄りまたは身体に障害のある人(以下単に身障者等という)が自動車に乗り降りするのを容易にするようにした自動車用のシート装置に関する。
【0002】
【従来の技術】助手席のような自動車用のシートに乗り降りすることは身障者等にとって必ずしも容易ではない。このような問題を解決するものとしては、例えば実開昭63−141538号公報に示すように、シートを前後左右に摺動可能かつ回転可能としたものがある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】このような従来のシート装置は構造が複雑になり、また乗り降りを容易にするために、相当な前後幅のあるシートの一部をセンタピラーなどと当たらないようにしてドアの開口から外に出すには、事前にシートを前後方向において適当な位置としておく必要があるので操作も複雑になるという問題がある。本発明は、シートクッションを前後に分割し、前部シートクッションだけを左右方向に移動するようにして、このような各問題を解決することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明による自動車用シート装置は、支持フレーム上に支持されたシートクッションとその後部より上方に立ち上がるシートバックを備えてなる自動車用シート装置に関するものであり、シートクッションを左右方向に延びる分割面に沿って前部シートクッションと後部シートクッションとに分離し、後部シートクッションは支持フレーム上に固定し、前部シートクッションは横スライドトラックを介して分割面に沿って往復移動可能に支持フレーム上に支持したものである。前部シートクッションを横スライドトラックにより車体に対し外向きに移動して少なくともその一部をドア開口から外に出した乗り降り位置で着座者は前部シートクッション上に座り、介添者がこの前部シートクッションを後部シートクッションの真前の乗車位置に戻すことによりシート上に着座する。降車はこれと逆の手順で行う。
【0005】分割面はシートクッションの車体内側となる端縁から車体外側斜め後方に延びる平面とするのがよい。このようにすれば乗り降り位置において前部シートクッションはドア開口に対して後方に移動する。
【0006】前部シートクッションを支持する横スライドトラックは前後に間をおいて2組設け、各横スライドトラックは、支持フレーム上に分割面と平行に固定された第1レールと、この第1レールに対し長手方向にのみ摺動可能に案内支持された第2レールと、この第2レールに対し長手方向にのみ摺動可能に案内支持されて前部シートクッションが固定された第3レールよりなるものとするのがよい。このように横スライドトラックを3つのレールにより構成すれば、その作動ストロークが大きくなる。
【0007】また前部シートクッションが後部シートクッションの真前となる乗車位置と、最も車体外側となる乗り降り位置とにおいて、支持フレームに対し前部シートクッションを離脱可能に係止するロック装置を設けるのがよい。
【0008】前部シートクッションの前側下部には、前方に引き出し可能なフットレストを設けることが望ましい。
【0009】
【発明の実施の形態】図1〜図5は、本発明を自動車の助手席に適用した場合の実施の形態を示す。図5に示すように、車体のサイドメンバのフロントドアE下側に位置する強度部材であるロッカパネルDと車体中心に位置するコンソールボックスFの間となるフロアC上に、本発明による自動車用シート装置が設けられている。このシート装置のシートはシートクッションAとシートバックBよりなり、何れも支持フレーム10により支持されている。シートクッションAは、その車体内側となる端縁から車体左外側斜め後方に延びる平面状の分割面Acにより前部シートクッションAaと後部シートクッションAbに分割され、後部シートクッションAbは支持フレーム10に固定されているが、前部シートクッションAaは分割面Acと平行に往復移動可能に支持フレーム10に支持されている。
【0010】図1〜図3に示すように、支持フレーム10は左右のシートアジャスタ11を2本の補強部材12により連結固定したものであり、左右のシートトラック13により前後方向位置調節可能にフロアC上に支持されている。各シートトラック13は、ブラケット14a,14bを介してフロアC上に固定されたロアレール13aと、このロアレール13aに対し転動ボールを介して前後方向移動可能に案内支持されたアッパレール13bよりなり、各アッパレール13bには各シートアジャスタ11が溶接固定されている。これにより支持フレーム10は前後方向移動可能にフロアCに案内支持され、その位置は前後位置ロックハンドル(図示省略)を操作することにより調節される。
【0011】後部シートクッションAbは、その底部のクッションフレーム30bをブラケット16a,16bを介してシートアジャスタ11の後部に取り付けることにより、支持フレーム10の後部に固定されている。シートバックBは、シートアジャスタ11の後部に、リクライニング機構(図示省略)を介して傾斜角度調整可能に支持されている。
【0012】前部シートクッションAaは、後部シートクッションAbの真前となる乗車位置と、車体の最も左外側となる乗り降り位置との間で、分割面Acに沿って移動可能となるように、前後各1組の横スライドトラック20を介して支持フレーム10に支持されている。各横スライドトラック20は、図1、図3及び図4に示すように、両外側となる第1及び第3レール21,23と、その間に位置してこの両レール21,23と長手方向にのみ摺動可能に係合された第2レール22を有している。図4に示すように、第1及び第3レール21,23はその上下内縁に沿って1対の断面円弧状の内向き溝21a,23aが形成され、第2レール22は各レール21,23内となる2つの部分が背中合わせに溶接固定され、各内向き溝21a,23aと対応する各1対の断面円弧状の外向き溝22aが各部分の上下外縁に沿って形成されている。第1レール21と第2レール22は対応する内向き溝21aと外向き溝22aの間に多数の転動ボール24を介在させることにより長手方向にのみ摺動可能に係合され、また第2レール22と第3レール23は対応する外向き溝22aと内向き溝23aの間に多数の転動ボール24を介在させることにより長手方向にのみ摺動可能に係合される。
【0013】図1、図2及び図4に示すように、各横スライドトラック20の第1レール21は、ブラケット25a,25b、ブラケット25c,25d及びボルト15を介して、支持フレーム10の補強部材12に、前後方向に間をおいて分割面Acと平行に固定されている。各横スライドトラック20の第3レール23は、ブラケット26a,26b及びボルト31を介して、前部シートクッションAa底部のクッションフレーム30aを支持している。これにより前部シートクッションAaは、後部シートクッションAbの真前となる乗車位置と、車体の最も左外側となる乗り降り位置との間で、分割面Acに沿って移動可能となるように、支持フレーム10に支持される。横スライドトラック20、特にその第3レール23はロッカパネルDの上を通って移動可能な高さに配置される。
【0014】前部シートクッションAaのフロントドアE側である左側面には、これを左右に移動させるための移動ハンドルGが固定されている。また主として図2及び図3に示すように、前部シートクッションAa底部の前部シートクッションフレーム30aの前部上面に固定した左右1対のスリーブ32には、コ字状に折曲して連結材33aにより補強したパイプよりなるフットレスト33の両脚部が、前側に引き出し可能に挿入支持されている。
【0015】次に前部シートクッションAaを乗車位置と乗り降り位置で離脱可能に係止するロック装置35の説明をする。図1〜図3に示すように、前部シートクッションAa底部の前部シートクッションフレーム30aの下側には、左右方向に間をおいて固定した1対のブラケット37a,37bを介して、ロックバー36が横スライドトラック20と平行にかつ回転のみ可能に支持されている。ロックバー36は、先端には引掛け部36aが直角に折り曲げ形成され、これとほゞ平行に折り曲げられた他端部の先端には操作ハンドル36bが形成され、捩りばね(図示省略)により引掛け部36aが下向きとなるように付勢されている。図1の実線で示す乗車位置(ただし前部シートクッションAaは二点鎖線で示す)では、支持フレーム10のシートアジャスタ11に溶接固定した第1ストッパ39の一部分39bにブラケット37bが当接して停止され、下向きに付勢されたロックバー36の引掛け部36aが、支持フレーム10の補強部材12に固定した第2ストッパ38のU形切欠き38aに係合されて前部シートクッションAaは係止される。また図1の二点鎖線で示す乗り降り位置では、第1ストッパ39の一部分39bにブラケット37aが当接して停止され、ロックバー36の引掛け部36aが、第1ストッパ39のU形切欠き39aに係合されて前部シートクッションAaは二点鎖線Aa1の位置に係止される。
【0016】次に上述した実施の形態の作動の説明をする。図5(a) に示すように、前部シートクッションAaが後部シートクッションAbの真前となる乗車位置にある状態では、図1の実線に示すように横スライドトラック20は、各レール21,22,23が重なって最も短くなっており、ロック装置35のロックバー36は引掛け部36aが第2ストッパ38のU形切欠き38aに係合されて、前部シートクッションAaは移動しないように係止されている。そしてフロントドアEを開き、操作ハンドル36bに手を掛けて捩りばねに抗して持ち上げれば、引掛け部36aも上向きに回動してU形切欠き38aから外れてロック装置35が解除され、前部シートクッションAaは分割面Acに沿って斜め左後方に移動可能となる。
【0017】この状態で移動ハンドルGに手を掛けて外向きに引っ張れば、前部シートクッションAaはロッカパネルDの上を通って図5(b) に示す乗り降り位置(図1R>1では二点鎖線Aa1で示す)まで移動する。この移動の際に各第3レール23は前部シートクッションAaと共に移動して、ブラケット37aが第1ストッパ39の一部分39bと当接して停止される乗り降り位置では二点鎖線23Aに示す位置となり、各第2レール22はその半分の速度で移動して乗り降り位置では二点鎖線22Aで示す位置となる。乗り降り位置で操作ハンドル36bより手を外せば、引掛け部36aは捩りばねにより下向きに戻り、第1ストッパ39のU形切欠き39aと係合してロック装置35は作動し、前部シートクッションAaはその位置に係止される。この乗り降り位置では前部シートクッションAaの半分程度が開かれたドア開口から外側に突出する。そして符号33Aに示すように、フットレスト33をスリーブ32から引き出す。
【0018】このように乗り降り位置に移動された前部シートクッションAa上に、介添者に付き添われた着座者が座り、フットレスト32上に足を乗せて姿勢を安定させてから、介添者は前述と同様にしてロック装置35を解除して、前部シートクッションAaを図5(a) に示す乗車位置まで戻し、前述と同様にしてロック装置35を作動させて前部シートクッションAaを係止する。この状態で着座者はフットレスト32からフロアC上に足を降ろし、フットレスト32は収納位置に押し込まれる。以上は身障者等が乗車する場合の説明であるが、降車する場合にはこれと逆の手順で行えばよい。
【0019】上述した実施の形態では、前部シートクッションAaを横スライドトラック20により左右方向に移動するだけであるので構造が簡単となる。また横スライドトラック20により左右方向に移動するのは前部シートクッションAaだけであり、この移動部分は前後幅が小さいので、事前にシートの前後方向位置を決めておかなくてもセンタピラーHなどに当たって前部シートクッションAaが、図5(b) で示す乗り降り位置まで移動できなくなるおそれはない。
【0020】この実施の形態では、横スライドトラック20による前部シートクッションAaの移動方向を左斜め後方ととしたので、外向きに移動した乗り降り位置では前部シートクッションAaはドア開口に対し後方に移動し、フロントドアEとの距離が広くあくので、前部シートクッションAaに対する乗り降りが容易になる。
【0021】また横スライドトラック20を、支持フレーム10に固定された第1レール21と、この第1レール21に対し長手方向にのみ摺動可能に案内支持された第2レール22と、この第2レール22に対し長手方向にのみ摺動可能に案内支持されて前部シートクッションAaが固定された第3レール23により構成したので、横スライドトラック20の作動ストロークが大きくなり前部シートクッションAaを充分車体外方まで移動させることができるので、前部シートクッションAaに対する乗り降りが容易になる。
【0022】またロック装置35を設けて、乗車位置と乗り降り位置とにおいて前部シートクッションAaを支持フレーム10に係止しているので、前部シートクッションAaが動いて乗車位置で安定が失われたり、乗り降り位置で身障者等が乗り降りする際に不安を感じたりすることもない。更に、前部シートクッションAaの前側下部に引き出し可能なフットレスト33を設けたので前部シートクッションAaに対する乗り降りが容易になり、また前部シートクッションAaの移動時にこのフットレスト33に足を載せることにより姿勢を安定させることができる。
【0023】なお上記実施の形態では、シートクッションAを前部と後部に分離する分割面Acを斜め後方に延びる平面とし、各横スライドトラック20は分割面Acと平行にしたが、分割面を前側に突出した大きな半径の円弧状とし、各横スライドトラックはこの分割面と同心の円弧状としてもよい。このようにすれば外側となる乗り降り位置とした状態において、前部シートクッションAaは多少外向きになるので、乗降を一層容易にすることができる。
【0024】
【発明の効果】本発明によれば、シートを回転可能に支持する機構が不要であるので、構造が簡単となり、製造コストを低下させることができる。また横スライドトラックにより車体に対し外向きに移動するのは前部シートクッションだけであり、移動部分の前後幅が小さいので、事前にシートを前後方向において適当な位置としておく必要が少なく、操作も容易になる。
【0025】分割面をシートクッションの車体内側となる端縁から車体外側斜め後方に延びる平面としたものによれば、外向きに移動した乗り降り位置では前部シートクッションはドア開口に対し後方に移動することによりその前側が広くあくので、前部シートクッションに対する乗り降りが容易になる。
【0026】横スライドトラックを、支持フレームに固定された第1レールと、この第1レールに対し長手方向にのみ摺動可能に案内支持された第2レールと、この第2レールに対し長手方向にのみ摺動可能に案内支持されて前部シートクッションが固定された第3レールにより構成したものによれば、横スライドトラックの作動ストロークが大きくなり前部シートクッションを充分車体外方まで移動させることができるので、前部シートクッションに対する乗り降りが容易になる。
【0027】またロック装置を設けたものによれば、前部シートクッションは乗車位置と乗り降り位置とにおいて支持フレームに係止されるので、前部シートクッションが動いて乗車位置で安定が失われたり、乗り降り位置で身障者等が不安を感じたりすることもない。
【0028】前部シートクッションの前側下部に引き出し可能なフットレストを設ければ、これを使用することにより前部シートクッションに対する乗り降りが容易になり、また前部シートクッションの移動時にこのフットレストに足を載せることにより姿勢を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明による自動車用シート装置のひとつの実施形態を示す、シート部分を取り外した状態の全体平面図である。
【図2】 図1の2−2断面図である。
【図3】 図1の3−3断面図である。
【図4】 図2のX部分の拡大図である。
【図5】 図1に示す実施形態の作動を説明する概略平面図である。
【符号の説明】
10…支持フレーム、20…横スライドトラック、21…第1レール、22…第2レール、23…第3レール、33…フットレスト、35…ロック装置、A…シートクッション、Aa…前部シートクッション、Ab…後部シートクッション、Ac…分割面、B…シートバックB。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 支持フレーム上に支持されたシートクッションとその後部より上方に立ち上がるシートバックを備えてなる自動車用シート装置において、前記シートクッションを左右方向に延びる分割面に沿って前部シートクッションと後部シートクッションとに分離し、前記後部シートクッションは前記支持フレーム上に固定し、前記前部シートクッションは横スライドトラックを介して前記分割面に沿って往復移動可能に前記支持フレーム上に支持したことを特徴とする自動車用シート装置。
【請求項2】 前記分割面は前記シートクッションの車体内側となる端縁から車体外側斜め後方に延びる平面である請求項1に記載の自動車用シート装置。
【請求項3】 前記横スライドトラックは前後に間をおいて2組設け、各横スライドトラックは、前記支持フレーム上に前記分割面と平行に固定された第1レールと、この第1レールに対し長手方向にのみ摺動可能に案内支持された第2レールと、この第2レールに対し長手方向にのみ摺動可能に案内支持されて前記前部シートクッションが固定された第3レールよりなる請求項1または請求項2に記載の自動車用シート装置。
【請求項4】 前記前部シートクッションが前記後部シートクッションの真前となる乗車位置と、最も車体外側となる乗り降り位置とにおいて、前記支持フレームに対し前記前部シートクッションを離脱可能に係止するロック装置を備えてなる請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の自動車用シート装置。
【請求項5】 前記前部シートクッションの前側下部に、前方に引き出し可能なフットレストを設けてなる請求項1〜請求項2の何れか1項に記載の自動車用シート装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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