説明

自動車用変速機

【課題】アッパカバー内部のスライディングレバー及びその周囲の潤滑を十分に行う。
【解決手段】自動車用変速機10は、係合するスライディングレバー35により自動車の前後方向に移動可能なシフターロッド14〜17の前部がクラッチハウジング13に形成された有底の穴13aに摺動可能に挿入される。シフターロッド14〜17の前端縁から軸芯に沿って少なくともスライディングレバー35に対向する位置まで中心穴14a〜17aが形成され、シフターロッド14〜17のスライディングレバー35に対向する位置に中心穴14a〜17aに連通する油孔14b〜17bがスライディングレバー35に向けて形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シフターロッドの前部が有底の穴に摺動可能に挿入された自動車用変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車に使われる変速機では、そのギアケースの内部にオイルが収容されており、ギアケース内部で高速回転する歯車群によって、そのオイルがギアの噛合い部やシフトフォークやそのシフトフォークを移動させるシフターロッド、あるいはシンクロ部などの摺動部に跳ねかかることにより、各部の潤滑と冷却がなされるようになっている。歯車郡の組み合わせはシフターロッドと共に移動するシフトフォークにより行われ、シフターロッドはギアケースの内部で自動車の前後方向に延びて、自動車の前後方向に摺動可能に設けられる。
【0003】
一方、ギアケースの上部にはアッパカバーが設けられ、このアッパカバーの内部に、シフターロッドを軸方向に移動させるギアシフトコントロールが設けられる。このギアシフトコントロールは、所望のシフターロッドに係合するスライディングレバーと、そのスライディングレバーに先端部が係合するセレクトレバーを備える。そのセレクトレバーの基端はアッパカバーに枢支されたセレクトレバー軸に取付けられ、セレクトレバー軸を回転中心としてセレクトレバーを回動させることにより、スライディングレバーが所望のシフターロッドに係合するようになっている。
【0004】
ここで、セレクトレバー軸は、アッパカバーを上下方向に貫通しており、その貫通箇所にオイルシールが設けられ、これにより、セレクトレバー軸周囲における油漏れ対策としている。
【0005】
しかし、オイルの状態や歯車群の回転状態によっては、オイルが勢いよくセレクトレバー軸の下面に跳ねかかる場合もある。このため、オイルシールによる密封が不十分であったり、経年劣化等によってオイルシールが密着不良等を生じていると、そのオイルシールの挿入部などからオイルが外部に漏れ、セレクトレバー軸の周囲がオイルで汚れるといった問題を生じることがあった。
【0006】
この点を解消するために、アッパカバーとギアケースとの間に遮蔽カバーを設けることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。このような遮蔽カバーを有する自動車用変速機では、変速機内部の歯車群が回転して、変速機内部のオイルが跳ね上げられることにより、各部にオイルが供給され、掻き上げられたオイルの一部はセレクトレバー軸の方向にも跳ね上がるけれども、セレクトレバー軸の下方にオイル遮蔽カバーが横切っているため、オイルが直接セレクトレバー軸に跳ねかかることが回避され、跳ねかかることに起因するオイル漏れを防止し得るとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平5−83528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、オイル遮蔽カバーをアッパカバーとギアケースの間に設けると、跳ね上げられたオイルがアッパカバー内部に入り難くなり、潤滑が必要な部位の潤滑が不十分になる不具合があった。即ち、アッパカバー内部にはセレクトレバーとともにスライディングレバーが設けられる。アッパカバーには、上方からの平面視でシフタレバーに直交するギアシフト軸が設けられ、スライディングレバーはこのギアシフト軸にスプライン嵌合されてそのギアシフト軸の軸方向に移動可能に構成される。このスプライン嵌合により、セレクトレバーを回動させると、ギアシフト軸の軸方向にスライディングレバーが移動して所望のシフターロッドに係合するようになっている。このスライディングレバーの移動を滑らかにするため、このスライディングレバーとギアシフト軸との間の潤滑を確保する必要があるけれども、オイル遮蔽カバーを設けると、跳ね上げられたオイルがスライディングレバー周囲に達することが困難になり、その潤滑が不十分になる不具合があった。
【0009】
本発明の目的は、アッパカバー内部のスライディングレバー及びその周囲の潤滑を十分に行い得る自動車用変速機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、係合するスライディングレバーにより自動車の前後方向に移動可能なシフターロッドの前部がクラッチハウジングに形成された有底の穴に摺動可能に挿入された自動車用変速機の改良である。
【0011】
その特徴ある構成は、シフターロッドの前端縁から軸芯に沿って少なくともスライディングレバーに対向する位置まで中心穴が形成され、そのシフターロッドのスライディングレバーに対向する位置に中心穴に連通する油孔がスライディングレバーに向けて形成されたところにある。
【発明の効果】
【0012】
本発明の自動車用変速機では、スライディングレバーによりシフターロッドが、例えば自動車の後方向に移動すると、クラッチハウジングに形成されてそのシフターロッドの前部が挿入された穴の内部は負圧になる。すると、シフターロッドの形成された中心穴も負圧になり、油穴周囲のシフターロッドに付着したオイル又は掻き上げられたオイルを含む空気をその油穴を介して中心穴に吸引する。
【0013】
一方、シフターロッドが、例えば自動車の前方向に移動すると、クラッチハウジングに形成されてそのシフターロッドの前部が挿入された穴の内部の空気がシフターロッドの前端から中心穴に圧入されることになる。すると、その中心穴及び油孔に溜まったオイル又はそのオイルと共に空気が油孔を介してスライディングレバーに向けて吹き出される。そのスライディングレバーに向けて吹き出されるオイルは、アッパカバー内部のスライディングレバー及びその周囲に付着してそれらを潤滑する。また、そのスライディングレバーに向けて吹き出される空気は、その周囲にある空気、即ち、シフターロッド周囲に掻き上げられたオイルを含む空気と共にアッパカバーの内部にまで入り込み、その空気と共に入り込んだオイルがアッパカバー内部のスライディングレバー及びその周囲の潤滑を行う。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明実施形態の自動車用変速機の上部における縦断面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】そのシフターロッドとスライディングレバーとの関係を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1に示すように、本発明の自動車用変速機10は、そのギアケース11の内部にメインシャフト12が自動車の前後方向に延びて配置され、図の左側が自動車の前側である。メインシャフトは入力軸12aと出力軸12bを備え、このメインシャフト12には低速段から高速段およびリバース用のパワートレインを構成する歯車群20が設けられる。そして、図では歯車群20の図示左側に入力軸12aがあり、図示右側に出力軸12bがある場合を示す。
【0017】
ギアケース11の前端はクラッチハウジング13に図示しないボルトによって接続され、ギアケース11の上部には複数のシフターロッド14〜17が前後方向に延びて設けられる。図2及び図3では4本のシフターロッド14〜17を示し、図1ではその4本のシフターロッド14〜16が重なり合っている状態を示す。クラッチハウジング13にはそのシフターロッド14〜17を支持する有底の穴13aがシフターロッド14〜17の数だけ形成され、前後方向に延びるシフターロッド14〜17の前部がこの穴13aに摺動可能に挿入される。一方、シフターロッド14〜17の後部は、ギアケース11に摺動自在に支持される。そして、これら複数のシフターロッド14〜17に、シフトフォーク21〜23がそれぞれ取付けられる。図2ではシフターロッド15に設けられたシフトフォーク22を代表して示し、図1ではその内の3本のシフターロッド14〜16に設けられたシフトフォーク21〜23を示す。そして、そのシフトフォーク21〜23がシフターロッド14〜17と共に移動することにより、歯車郡の噛合を変えて図示しないエンジンのトルクを図示しない駆動輪に伝えるように構成される。
【0018】
一方、ギアケース11の上部にはアッパカバー29が設けられる。このギアケース11及びアッパカバー29は鋳造品であって、そのアッパカバー29は、図示しないボルトによってギアケース11に固定される。そして、周知の歯車群20を収容するギアケース11の内部には、トランスミッションオイルが所定の油面高さまで収容されている。アッパカバー29には、上方からの平面視でシフターロッド14〜17に直交するギアシフト軸33が設けられ、このギアシフト軸33にスライディングレバー35がスプライン嵌合されて、このスライディングレバー35はそのギアシフト軸33の軸方向に移動可能に構成される。
【0019】
図1〜図3に示すように、各シフターロッド14〜17には、それぞれシフターロッドジョー25〜28が取付けられ、それらのシフターロッドジョー25〜28には、スライディングレバー35のシフト用突起35aを前後方向から挟む一対の挟持片25a〜28aがそれぞれ突設される。そして、スライディングレバー35がギアシフト軸33の軸線方向に移動して、スライディングレバー35のシフト用突起35aがシフターロッド14〜17のいずれか1つのシフターロッドジョー25〜28に対向すると、これらの挟持片25a〜28aにシフト用突起35aが選択的に挟持され、これにより、スライディングレバー35はシフターロッド14〜17に選択的に係合するように構成される。
【0020】
アッパカバー29には、後方又は前方から見た状態でギアシフト軸33に直交するセレクトレバー軸41が枢支され、そのセレクトレバー軸41の下端部にセレクトレバー42の基端が取付けられる。一方、スライディングレバー35の外周面には円周方向に延びる凹溝35b(図2及び図3)が形成され、この凹溝35bに係合する係合部42aがセレクトレバー42の先端に形成される。そして、セレクトレバー軸41の外端には、ギアセレクト操作アーム46が取付けられる。このため、ギアセレクト操作を行って、セレクト操作アーム46がセレクトレバー軸41を中心に回転すると、これと一体にセレクトレバー42が回動することになる。すると、その先端の係合部42aが凹溝35bに係合するスライディングレバー35がギアシフト軸33に沿って移動し、そのシフト用突起35aが所望のシフターロッドジョー25〜28に係合するように構成される。この状態でギアシフト軸33がスライディングレバー35とともに回動することにより、その回動方向に応じてシフト用突起35aが係合するシフターロッドジョー25〜28がシフターロッド14〜17のいずれかと一体的に軸線方向に移動し、例えば、ギアシフト軸33が図1の時計回りに回動すると、シフターロッド14〜17とシフトフォーク21〜23が前進することにより、所望のシフト操作がなされることになる。
【0021】
ここで、アッパカバー29には、セレクトレバー軸41の貫通箇所にオイルシール44が設けられ、図示しない空気抜き用のブリーザが更に設けられる。また、アッパカバー29とギアケース11の間であって、セレクトレバー軸41がアッパカバー29を貫通する箇所の下方には、オイル遮蔽カバー51が設けられる。オイル遮蔽カバー51はほぼ水平方向に延びており、スライディングレバー35を挿通させるスリット51aが形成される。そして、このスリット51aを通ってオイル遮蔽カバー51の上面側のアッパカバー29内部に浸入したオイルを下方のギアケース11の内部に戻すため、オイル遮蔽カバー51の一部にオイル戻し孔51bが形成される。
【0022】
このため、この自動車用変速機10では、機関の回転によって歯車群20が回転すると、その歯車群20によりギアケース11内部のオイルが跳ね上げられることになり、歯車群20の各部にオイルが供給されて潤滑および冷却がなされる。そして、オイルの一部はアッパカバー29に届く高さまで跳ね上がる。しかし、セレクトレバー軸41の貫通箇所の下側にオイル遮蔽カバー51が設けられているため、オイルが勢いよく跳ね上がっても、セレクトレバー軸41の貫通箇所にオイルが直接跳ねかかることは回避され、その貫通箇所における油漏れを防止するように構成される。
【0023】
本発明の特徴ある構成は、シフターロッド14〜17の前端縁から軸芯に沿って少なくともスライディングレバー35に対向する位置、即ち、シフターロッドジョー25〜28が設けられた位置まで、潤滑用の中心穴14a〜17aが形成され、そのシフターロッド14〜17のスライディングレバー35に対向する位置に中心穴14a〜17aに連通する油孔14b〜17bがスライディングレバー35に向けて形成されたところにある。この中心穴14a〜17a及び油孔14b〜17bはシフターロッド14〜17を加工することにより形成され、図2に示すように、その中心穴14a〜17aに連通する油孔14b〜17bはシフターロッドジョー25〜28を貫通してスライディングレバー35に向けて形成される。なお、図2では、両端のシフターロッド14,17に形成された油孔14a,17aはスライディングレバー35に向けて僅かに斜めに形成される例を示すけれども、この油孔14b〜17bは傾斜させさせなくても良い。
【0024】
次に、このように構成された自動車用変速機の動作を説明する。
【0025】
この自動車用変速機10では、シフト操作において、セレクトレバー軸41が回動すると、それとともにセレクトレバー42が回動し、その先端の係合部42aが凹溝35bに係合するスライディングレバー35が移動して、そのシフト用突起35aが所望のシフターロッドジョー25〜28に係合する。この状態でギアシフト軸33がスライディングレバー35とともに回動することにより、その回動方向に応じてシフト用突起35aが係合するシフターロッドジョー25〜28がシフターロッド14〜17と一体的に軸線方向に移動する。これにより、所望のシフト操作がなされる。そして、スライディングレバー35によりシフターロッド14〜17が、例えば自動車の後方向に移動すると、クラッチハウジング13に形成されてそのシフターロッド14〜17の前部が挿入された穴13aからそのシフターロッド14〜17が引き抜かれる方向に移動するので、その穴13aの内部は負圧になる。すると、シフターロッド14〜17の形成された中心穴14a〜17aも負圧になり、油穴13a周囲のシフターロッド14〜17に付着したオイル又は掻き上げられたオイルを含む空気をその油穴13aを介して中心穴14a〜17aに吸引することになる。
【0026】
一方、スライディングレバー35によりシフターロッド14〜17が、例えば自動車の前方向に移動すると、クラッチハウジング13に形成されてそのシフターロッド14〜17の前部が挿入された有底の穴13aにシフターロッド14〜17の前部が前方に更に進入するので、その穴13aの内部の空気がシフターロッド14〜17の前端から中心穴14a〜17aに圧入されることになる。すると、その中心穴14a〜17a及び油孔14b〜17bに溜まったオイル又はそのオイルと共に空気が油孔14b〜17bを介して吹き出されることになる。
【0027】
ここで、油孔14b〜17bはスライディングレバー35に向けて形成されているので、そのスライディングレバー35に向けて吹き出されるオイルは、スリット51aを介してアッパカバー29内部に進入し、スライディングレバー35及びその周囲に付着してそれらを潤滑する。また、そのスライディングレバー35に向けて吹き出される空気は、その周囲にある空気、即ち、シフターロッド14〜17周囲に掻き上げられたオイルを含む空気と共にスリット51aを介してアッパカバー29の内部にまで入り込み、その空気と共に入り込んだオイルがアッパカバー29内部のスライディングレバー35及びその周囲の潤滑を十分に行う。よって、本発明では、アッパカバー29内部のスライディングレバー35及びその周囲の潤滑を十分に行うことができることになる。
【0028】
また、従来では、クラッチハウジング13に形成されてそのシフターロッド14〜17の前部が挿入された有底の穴13aにおける空気をその穴13aの外部に導くスリットや切り欠きをその穴13aの周壁に形成するようなことを必要としていたけれども、本発明では、クラッチハウジング13に形成された穴13aにおける空気を中心穴14a〜17a及び油孔14b〜17bを介して外部に導くことができるので、従来必要とされたスリットや切り欠きをその穴13aの周壁に形成するようなことが不要になり、このようなスリットや切り欠きを形成する手間を省くことができる。
【0029】
なお、上述した実施の形態では、シフターロッドが4本の場合を例示したが、これは一例であって、シフターロッドは、2本、3本又は5本以上であっても良い。
【符号の説明】
【0030】
10 自動車用変速機
13 クラッチハウジング
13a 穴
14〜17 シフターロッド
14a〜17a 中心穴
14b〜17b 油孔
35 スライディングレバー



【特許請求の範囲】
【請求項1】
係合するスライディングレバー(35)により自動車の前後方向に移動可能なシフターロッド(14〜17)の前部がクラッチハウジング(13)に形成された有底の穴(13a)に摺動可能に挿入された自動車用変速機において、
前記シフターロッド(14〜17)の前端縁から軸芯に沿って少なくとも前記スライディングレバー(35)に対向する位置まで中心穴(14a〜17a)が形成され、
前記シフターロッド(14〜17)の前記スライディングレバー(35)に対向する位置に前記中心穴(14a〜17a)に連通する油孔(14b〜17b)が前記スライディングレバー(35)に向けて形成された
ことを特徴とする自動車用変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−92198(P2013−92198A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234481(P2011−234481)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】