説明

航空機

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は着陸時の制動及び衝撃緩和を、機体斜め前方下向きに吹き出す高圧空気の吹出しによって補助する航空機に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の航空機のうち旅客機の着陸時における制動は、スポイラーを立て、スポイラーに生じる空力抵抗、或いは、エンジンの逆噴射による推力、或いは、車輪のブレーキによる摩擦抵抗を利用して行っている。図11は、従来の旅客機の斜視図で、離着陸の高揚力装置として、機体1の左片側で代表的に説明すると、前縁フラップ16、後縁内側フラップ17、同外側フラップ18があり、着陸時にはこのうち、後縁内側フラップ17をスポイラーとして上方に上げ、空力抵抗を増加させ、減速すると同時に揚力も後縁内側フラップ17をスポイラーとして使用することに伴い、減少した状態で着陸するようにしている。図12は、これらの後縁内側フラップ17及び外側フラップ18近傍を拡大して示す斜視図である。また、着陸時には、図13に示すように、エンジン19に装着されたスラストリバーサ20を作動させ、機体1の後方に向けて噴射して推進力を発生させているエンジン19の噴射流を前方側へ偏向させて、この偏向流で発生する機体1を後方に向けて推進させる推力で、機体1の減速をおこなうようにしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記従来の航空機の着陸時における制動には、解決すべき次の課題があった。即ち、航空機の離着陸時の地上滑走中における車輪には、非常に大きな荷重が作用する。特に、着陸時、地面へのタッチダウンした瞬間には、着陸以前に航空機の飛行限界の速度まで飛行速度を減速しているために、揚力が大幅に減少して降下速度が大きくなっており、衝撃的な荷重が車輪部に働くことになる。また、着陸時の地上滑走中の制動は、エンジンの逆噴射装置(スラストリバーサ)とスポイラーを作用させるとともに、車輪そのものにブレーキを効かせて行っている。このため、旅客機に比較して高速で着陸する戦闘機の様な機体では、これ等の制動装置の他に、胴体の上端に設けた抵抗板を立てたり、ドラッグシュートを用いたりして制動力を大きくして着陸するようにしているが、これらの制動装置は、大きな負の加速度が発生する等の理由により、一般旅客機には適さないという問題がある。
【0004】また、旅客機の着陸時の事故で最も多いのは、タッチダウン時に衝撃的な荷重が働くことに伴う車輪の故障もしくはタイヤのパンクによるものである。従って、上記のような車輪への過酷な荷重を少しでも軽減させ、車輪のより一層の安全性を確保することが必須の急務として求められている。
【0005】この発明は、従来の航空機が有する以上の様な問題点を解消させ、着陸時における安定性を向上させた航空機を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は上記課題の解決手段として、胴体と、胴体に設けられた翼と、胴体及び翼からなる機体の下方に設けられた車輪と、胴体前後の下方左右の外板に開口させて胴体の内部に設けられ、斜め前方下向きに高圧空気を吹き出す空気吹出し口と、胴体の前方左右から導入した空気を圧縮した高圧空気を空気吹出し口に吐出する圧縮機と、空気吹出し口と圧縮機の吐出口との間に介装され、圧縮機から空気吹出し口に供給される高圧空気の流量を調整する調圧弁と、機体の着陸時に、圧縮機を起動させるとともに、調圧弁の開度を制御して空気吹出し口に供給する高圧空気の流量を調節する制御手段とを具備してなることを特徴とする航空機を提供しようとするものである。
【0007】
【作用】本発明は、上記のように構成されるので次の作用を有する。即ち、発明によれば、航空機の着陸時に胴体の前方左右に設けた空気取入口等より導入した空気を制御手段により起動させた圧縮機で高圧に圧縮し、その高圧空気を、制御手段により開閉度が調整された調圧弁により流量を調節して、機体前後下部の左右の胴体外板に開口を設け、胴体内部を設置された空気吹出し口より地上に向け、機体の前方斜め下方に向けて吹き出すことができるので、この高圧空気の吹き出した方向のベクトル成分として着陸時に機体を減速する制動力と高揚力を必要とする着陸時に、高揚力装置としての後縁フラップを制動力を発生させるスポイラーとして使用するために、不足することのある揚力を得ることが出来る。また、吹き出し口を胴体の前方左右内部に配置することに加え、胴体の後方左右内部に配置したので、吹き出し空気の調圧弁による流量の制御により、特に、着陸時に必要とする正常な機体の姿勢(ピッチ、ロール、ヨー)の安定性を保持し易くすることができる。
【0008】
【実施例】本発明の第1〜第3実施例を図1〜図10により説明する。なお、先に説明した実施例と同一の部材を設けた後に説明する実施例の部材には同符号を付し、必要な場合以外説明を省略する。
【0009】先ず、第1実施例を図1〜図4により説明する。図1は、本実施例を示す図で、図1(a)は側面図、図1(b)は前方より見た正面図、図2は図1(b)の模式的平断面図、図3は機体1の前方左右に設けた空気取入口近傍の側断面図、図4は機体1の下方左右に設けた空気吹出し口近傍の機体横断面図である。これらの図において、機体1の下部には前方両側に空気取入口4が、そして導管6を介して、その直後、及び後方両側にそれぞれ空気吹出し口2,3が設けられ、かつ、空気取入口4直後には圧縮機5が、空気吹出し口2及び3の直前には調圧弁8がそれぞれ介装されている。空気取入口4より導入された空気は、圧縮機5によって、高圧に圧縮され、その高圧空気は導管6により機体1の前後、左右下方に設けられた空気吹き出し口2,3に導かれる。そして、各空気吹出し口2,3の手前で、調圧弁8によりそれぞれ高圧空気の流量を調節され、各空気吹き出し口2,3から機体1の斜め前方下向きに向けて吹き出される。
【0010】空気取入口4及び空気吹出し口2,3には、それぞれ扉10及び11が設けられており、航空機が着陸態勢に入り、地上に接地する直前に、または接地と同時に前方の空気取入口4の扉10が、図3に2点鎖線で示すように開き、圧縮機5に通じる空気導入孔に空気を導入し、同時に圧縮機5が作動し導入された空気を高圧空気にする。圧縮機5から吐出された高圧空気は、導管6によって、機体1前後左右の下方に配置された空気吹出し口2,3に供給され、斜め前方下向きに向けて吹き出す。その際、図4に示すように、空気吹出し口2,3を開閉する扉11は、空気取入口4の扉10の開放と同時に開くようにしている。すなわち、空気取入口4及び空気吹出し口2,3については、通常飛行状態では抵抗になるため、扉10及び11によって閉じた状態にされている。
【0011】このように、空気吹出し口2,3より斜め前方下向きに高圧空気を吹出すことにより、機体1が制動され、機体1が減速されると同時に、この高圧空気の吹き出すことにより、機体1には揚力が発生するので、滑走距離が短くなると同時に、飛行速度の低下に伴う揚力の低下による下降速度が小さくなるので、車輪を含む脚に過大な力がかかる状態が回避される。
【0012】次に、第2実施例を図5及び図6により説明する。第1実施例では、空気吹出し口2,3は固定されているのに対し、本実施例では、この吹出し口2,3を方向可変のノズルタイプにしたものである。その他の構成は、第1実施例と同様であり、図5の平断面図に示すように、空気吹出し部位には、空気吹出し口としての空気吹出しノズル12が設けられ、前後方向に変角可変にされている。図6は、その空気吹き出しノズル12を上下方向に変角可変としたものを示す。この空気吹き出しノズル12の吹き出し方向を制御することにより、減速、揚力、姿勢制御を最も効率良く行うことが出来る。なお、車輪が接地したことを検知する手段としては、図7R>7に示すように、車輪に取り付けられた検知器13が使用され、検知器13より出力された信号をもとに、制御手段としての計算機が全ての制御信号を出し、上記第1、第2実施例の構成を作動させる。空気取入口4、空気吹出し口2,3の扉10,11開閉の機構例を図8に示す。油圧アクチュエータ14は、その先に構成されたリンク機構15を作動し、扉10,11を開閉する。なお、油圧アクチュエータ14、リンク機構15は、空気の取入れや吹き出しに影響のない扉10,11の両端に設置される。
【0013】図9、図10は上記第1、第2実施例にかかる操作のブロック図である。図9に示すブロック図は、パイロットの手動操作時のものを示すブロック図で、着陸時にパイロットの判断により、空気取入口4、空気吹出し口2,3にそれぞれ設けた扉10.11を関け、次いで圧縮機5を始動させ、圧縮機5から空気吹出し口2,3に吐出される高圧空気の流量の調整を行う調圧弁8の開閉を制御手段で行うようにしたものを示している。なお、この制御手段における調圧弁8の開閉はパイロット自身が行うか、または計算機によるか、いずれかにするようにしても良いものである。また、図10に示すブロック図は、前述した扉10,11の開閉、圧縮機5の始動および調圧弁8の開閉による高圧空気の空気吹出し口2,3への供給流量を全自動の制御手段による操作で行うようにしたもので、この制御手段においては、図7に示す検知機13の作動によって操作信号が出力され、作動する。なお、第1、第2実施例の操作に手動、自動の何れの制御手段を用いるかは自由である。
【0014】以上の通り、第1、第2実施例によれば、空気取入口4より取入れた空気を圧縮機5により高圧空気にして、機体1の着地時に空気吹出し口2,3から斜め前方下向きに吹き付けるので、その高圧空気の吹き出しの反動による機体1の制動作用と、浮揚作用が同時に発生し、滑走距離が短かくなると共に、機体1の着地時の車輪への着地荷重が減ってパンク等の事故がなくなるという利点がある。
【0015】
【発明の効果】本発明は、上記のように構成されるので、次の効果を有する。即ち、この発明によれば、航空機の機体下部から高圧空気吹き出しにより着陸時の車輪に対する負担を軽減すると共に、着陸時の安全性を向上する事が出来る。また車輪の負担軽減に伴い、車輪の寿命が大幅に延び維持費用が低減する。
【0016】また、制御手段に全自動操作システムを採用するようにすれば、パイロットミスが防止でき、かつパイロットの作業負担を軽減して、航空機をより安全に運用することができるようになる。一方、着陸時の滑走距離の短縮も可能となることから、短い滑走路しかない小規模の飛行場の利用可能性が大幅に拡大する。さらに、短い滑走距離で着陸できるので、飛行場の規模に拘わらず空港周囲の人々に対する騒音公害を軽減することにも寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例に係る航空機の図で、(a)は側面図、(b)は前から見た図。
【図2】図1(b)の模式的平断面図。
【図3】図1の空気取入口4の拡大側断面図。
【図4】図1(b)の空気吹出し口2(及び3)の拡大断面図。
【図5】本発明の第2実施例に係る空気吹出し口としての空気吹き出しノズルの平断面図。
【図6】図5を機体の前後方向に見た断面図。
【図7】第1、第2実施例に係る車輪接地検知器の取付け状態図で、機体の前後方向に見た図(但し、片側)。
【図8】第1、第2実施例に係る扉開閉機構図。
【図9】第1、第2実施例に係る手動操作による制御手段を示すブロック図。
【図10】第1、第2実施例に係る自動操作による制御手段を示すブロック図。
【図11】従来の旅客機の全体斜視図。
【図12】図11の後縁内側フラップ17近傍の拡大図。
【図13】図11のエンジン19逆噴射のスラストリバーサ作動図を示す拡大図である。
【符号の説明】
1 機体
2,3 空気吹出し口
4 空気取入口
5 圧縮機
6 導管
8 調圧弁
10,11 扉
12 空気吹き出しノズル
13 検知器
14 油圧アクチュエータ
15 リンク機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】 胴体と、前記胴体に設けられた翼と、前記胴体及び前記翼からなる機体の下方に設けられた車輪と、前記胴体前後の下方左右の外板に開口させて前記胴体の内部に設けられ、斜め前方下向きに高圧空気を吹き出す空気吹出し口と、前記胴体の前方左右から導入した空気を圧縮した前記高圧空気を前記空気吹出し口に吐出する圧縮機と、前記空気吹出し口と前記圧縮機の吐出口との間に介装され、前記圧縮機から前記空気吹出し口に供給される前記高圧空気の流量を調整する調圧弁と、前記機体の着陸時に、前記圧縮機を起動させるとともに、前記調圧弁の開度を制御して前記空気吹出し口に供給する前記高圧空気の流量を調節する制御手段とを具備してなることを特徴とする航空機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図13】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【特許番号】第2948325号
【登録日】平成11年(1999)7月2日
【発行日】平成11年(1999)9月13日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−400362
【出願日】平成2年(1990)12月4日
【公開番号】特開平4−208692
【公開日】平成4年(1992)7月30日
【審査請求日】平成8年(1996)3月29日
【前置審査】 前置審査
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【参考文献】
【文献】実開 昭63−111395(JP,U)
【文献】特公 昭50−11159(JP,B2)
【文献】特公 昭48−11745(JP,B1)
【文献】米国特許4445653(US,A)
【文献】米国特許4004755(US,A)