説明

船外機

【課題】簡素でコンパクトな構成により、ドライブシャフトに軸装した中間減速装置を良好に潤滑する。
【解決手段】オイル供給装置65は、プロペラシャフト15bに形成した軸心オイル通路67および交差オイル通路70と、ドライブシャフト13bに形成した軸心オイル通路68および交差オイル通路71と、オイル誘導通路77とを備える。交差オイル通路70,71は、シャフト回転に伴う遠心力により軸心オイル通路67,68内部のオイルをシャフト直径方向に噴出させ、このオイルがオイル誘導通路77を経て中間減速装置25に供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライブシャフトの中間部に設けられた中間減速装置を潤滑する船外機のオイル供給装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されているように、ケーシングの上部に縦置きに搭載されたエンジンのクランクシャフト下端に駆動ギヤを設ける一方、ケーシング内部を下方に延びるドライブシャフトの上端に被駆動ギヤを設け、これら駆動ギヤと被駆動ギヤとを噛み合せてクランクシャフトの回転をドライブシャフトに伝達するように構成された船外機がある。
【0003】
この場合、駆動ギヤの歯数よりも被駆動ギヤの歯数を多くすれば、中間減速装置としてクランクシャフトの回転を減速し、ドライブシャフトに伝達することができる。
【0004】
特許文献1のギヤ伝達機構駆動(中間減速装置)はエンジンの直下位置に設置されているため、エンジン潤滑用のオイルにより容易に潤滑できる。
【特許文献1】特許第WO 2007/007707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、船外機の内部レイアウトによっては、上述のような中間減速装置をエンジンの直下位置に配置できない場合があり、このような場合には中間減速装置をドライブシャフトの途中に配置することが考えられるが、この場所ではエンジンオイルによる潤滑が望めないため、ドライブシャフトの途中に中間減速装置を配置することができなかった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、簡素でコンパクトな構成により、ドライブシャフトに軸装した中間減速装置を良好に潤滑することのできる船外機のオイル供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するために、本発明の請求項1に記載の発明は、ケーシングの上部にクランクシャフトを縦向きにしてエンジンが搭載され、前記クランクシャフトの回転が、前記ケーシングの内部に縦向きに軸支されたドライブシャフトを経て前記ケーシングの下部に軸支されたプロペラシャフトに伝達され、前記ドライブシャフトに中間減速装置が設けられた船外機において、前記プロペラシャフト周りを潤滑するオイルを前記中間減速装置に供給するオイル供給手段を備えた船外機のオイル供給装置としたことを特徴とする。
【0008】
本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記ケーシングがプロペラシャフトを支持するロアーケースと前記ロアーケースの上部に接続されるアッパーケースとで構成され、前記中間減速装置は前記ロアーケースの上部に配置され、前記オイル供給手段が前記中間減速装置の内部と前記ロアーケースのプロペラシャフト周りとを連通するオイル誘導通路を含む船外機のオイル供給装置としたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の構成に加え、前記オイル供給手段は、前記ドライブシャフト及び前記プロペラシャフトの少なくとも一方の軸心部に形成された軸心オイル通路を含む船外機のオイル供給装置としたことを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明の請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の構成に加え、前記オイル供給手段が、前記ドライブシャフト及び前記プロペラシャフトの少なくとも一方の前記軸心オイル通路に交差して形成された交差オイル通路を含む船外機のオイル供給装置としたことを特徴とする。
【0011】
そして、本発明の請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の構成に加え、前記プロペラシャフトの回転により前記プロペラシャフトに形成された前記交差オイル通路が鉛直方向を向いた時に、この交差オイル通路の軸心延長線が前記ドライブシャフトに形成された前記軸心オイル通路の軸心延長線と略一致する船外機のオイル供給装置としたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項6に記載の発明は、請求項4又は5に記載の構成に加え、前記オイル誘導通路を、その下端部が前記ドライブシャフトを囲むドライブシャフト保持孔内に上下に延びるように形成し、該オイル誘導通路の下端開口部を、前記ドライブシャフトに形成した前記交差オイル通路の吐出口に対向させた船外機のオイル供給装置としたことを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明の請求項7に記載の発明は、請求項2に記載の構成に加え、前記中間減速装置を、ハウジングの内部中心に位置するインナーギヤと、このインナーギヤの周囲に設けられたアウターギヤと、前記インナーギヤおよび前記アウターギヤの間に設けられる複数の中間ギヤと、前記中間ギヤを保持するギヤキャリアを備えた遊星ギヤ装置とし、前記中間ギヤの周辺にオイルが誘導されるように前記オイル誘導通路を前記ハウジングに連通させた船外機のオイル供給装置としたことを特徴とする。
【0014】
そして、本発明の請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の構成に加え、前記オイル供給手段が、前記ハウジングの内部と前記ロアーケース内のオイル貯留部との間を連通させるオイル戻り通路を含む船外機のオイル供給装置としたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の構成に加え、前記オイル戻り通路を前記ハウジングに形成し、該オイル戻り通路の上部に着脱可能なドレンプラグを設けた船外機のオイル供給装置としたことを特徴とする。
【0016】
さらに、本発明の請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の構成に加え、前記ドレンプラグを前記ドライブシャフトに対して進行方向前方側に配置した船外機のオイル供給装置としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明によれば、プロペラシャフト周りを潤滑するオイルで、ドライブシャフトに軸装した中間減速装置を良好に潤滑することができる。
【0018】
請求項2乃至6に係る発明によれば、既存の部品を用いてプロペラシャフト周りを潤滑するオイルを中間減速装置に供給できるため、非常に簡素でコンパクトな構成にすることができる。
【0019】
請求項7に係る発明によれば、全体的に回転する遊星ギヤ式の中間減速装置の中心部に供給されたオイルが遠心力により中間減速装置の外周部まで満遍なく行き渡るため、簡素な構成により中間減速装置を良好に潤滑することができる。
【0020】
請求項8に係る発明によれば、中間減速装置に供給されたオイルがオイル戻り通路を経て確実にケーシングの底部に還流するため、中間減速装置を良好に潤滑することができる。
【0021】
請求項9に係る発明によれば、オイルの補充の際にドレンプラグを開栓することにより、中間減速装置内部のエアをオイル戻り通路から確実に抜くことができる。
【0022】
請求項10に係る発明によれば、船外機をチルトさせてドレンプラグを開栓した状態でオイルを補充すれば、余剰なオイルがエアと共にオイル戻り通路から流れ出ても、船外機の外面にオイルが付着しにくくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図1乃至図4に基づいて説明する。
【0024】
図1は、本発明に係る船外機の実施の形態を示す右側面図であり、図面に向かって右側が前方である。この船外機1は、アッパーケース2の下部にロアーケース3が設けられてなるケーシング4を備えており、ケーシング4の上部に略平板状のマウントプレート5を介してエンジン6が搭載されている。エンジン6は、例えばV型のシリンダ配置を持つ6気筒の水冷式エンジンであり、そのクランクシャフト7を縦向きにしてマウントプレート5上に載置されている。エンジン6周りは着脱可能なアッパーカバー8とロアーカバー9とにより覆われ、アッパーケース2の左右側面は同じく着脱可能なサイドカバー10により覆われる。
【0025】
ケーシング4の内部にはドライブシャフト13が鉛直に軸支されている。このドライブシャフト13は軸方向に亘って複数段に分割されており、その最上端部がエンジン6のクランクシャフト7下端部にスプライン嵌合により連結され、最下端部が図2にも示すようにロアーケース3の内部に達し、ベベルギヤ機構14を介してロアーケース3内部に水平に軸支されたプロペラシャフト15に連携する。
【0026】
プロペラシャフト15はアウターシャフト15aとインナーシャフト15bとが同軸に組み合わされた二重回転軸であり、ベベルギヤ機構14のドライブベベルギヤ14aがドライブシャフト13(13b)に一体回転し、ドリブンベベルギヤ14bがアウターシャフト15aに一体回転し、ドリブンベベルギヤ14cがインナーシャフト15bに一体回転する。なお、ドライブベベルギヤ14aの歯数はドリブンベベルギヤ14b,14cの歯数よりも小さいため、ドライブシャフト13の回転が減速されてプロペラシャフト15に伝達される。
【0027】
アウターシャフト15aには第1プロペラ17aが固定され、インナーシャフト15bには第2プロペラ17bが固定され、これらにより二重反転プロペラ機構18が構成されている。なお、第1プロペラ17aと第2プロペラ17bの軸心部には排気通路19が形成される。
【0028】
ケーシング4(アッパーケース2)の内部にはトランスミッション装置21が設けられている。このトランスミッション装置21はドライブシャフト13に軸装されており、その外殻を構成するミッションケース22の内部に、変速用遊星歯車機構23および前後進切替装置24が収容された構成である。また、トランスミッション装置21の直下かつロアーケース3の上部に中間減速装置25が設けられている。なお、部材26はウォーターポンプである。
【0029】
ケーシング4の前部にはクランプブラケット29がステアリングシャフト30を介して設けられ、このクランプブラケット29が舟艇の船尾板(トランサム)31に固定される。船外機1はステアリングシャフト30を軸に左右に回動して舟艇の操舵を行うことができ、また舟艇の繋留時等にはクランプブラケット29の上前端に設けられたチルト軸32を軸に船外機1全体を上方に回動させて水面よりも上方にチルトアップさせることができる。
【0030】
エンジン6が作動すると、クランクシャフト7の回転がドライブシャフト13に伝達され、ドライブシャフト13の回転がトランスミッション装置21により変速されるとともに回転方向を正逆方向に切り替えられ、さらに中間減速装置25とベベルギヤ機構14により減速されてプロペラシャフト15に伝達される。そして、プロペラシャフト15のアウターシャフト15aおよび第1プロペラ17aと、インナーシャフト15bおよび第2プロペラ17bとが、互いに逆方向に回転して高い推進力を発揮する。
【0031】
図3及び図4に示すように、中間減速装置25は、その外殻をなすハウジング34と、このハウジング34の内部に収容される、インナーギヤ35、アウターギヤ36、ギヤキャリア37、中間ギヤ38等の部品を備えた遊星ギヤ装置である。また、ドライブシャフト13は中間減速装置25の内部で分断されており、上側がアッパードライブシャフト13a、下側がロアードライブシャフト13bとなっている。
【0032】
ハウジング34は下方に開口する椀形状であり、ロアーケース3の上面に例えば4本のボルト40で液密に固定され、その頂部中央に上方に延びる筒状の軸受スリーブ34aが形成されている。
【0033】
インナーギヤ35は外歯歯車であり、ハウジング34の内部中心に固定され、このインナーギヤ35の下端に一体形成された円板状のフランジ部35aがハウジング34の底板ともなっている。インナーギヤ35の中心部には上方に延びる筒状の支持スリーブ35bが形成され、この支持スリーブ35bの外周面にギヤ歯が形成されている。なお、フランジ部35aの下面にはロアーケース33側に密に嵌合する嵌合スリーブ35cが形成されている。
【0034】
アウターギヤ36はインナーギヤ35の周囲を囲む内歯歯車であり、下方に開口する椀形状に形成されてその外周壁36aの内側にギヤ歯が形成されている。アウターギヤ36の頂部中心に形成された円筒状のボス部36bの外周とハウジング34の軸受スリーブ34aの内周との間にニードルベアリング41とオイルシール42が介装され、ボス部36bの内周がアッパードライブシャフト13aの下端とスプライン嵌合により連結されている。
【0035】
ギヤキャリア37は、その中心に形成されている円筒状のボス部37aの内周がロアードライブシャフト13bの上端とスプライン嵌合により連結され、ボス部37aの外周とインナーギヤ35の支持スリーブ35bの内周との間にニードルベアリング43が介装されている。また、ギヤキャリア37の上面とアウターギヤ36との間にスラストベアリング44が介装されている。
【0036】
ギヤキャリア37には例えば4本のギヤサポートアーム37bが形成されており、これらのギヤサポートアーム37bに鉛直に架設されたギヤシャフト45に4つの中間ギヤ38が回転自在に軸支され、これらの中間ギヤ38の外周歯がインナーギヤ35の外周歯とアウターギヤ36の内周歯とに噛合している。ギヤシャフト45は中空軸であり、その中空部45aに給油孔45bが穿設されている。
【0037】
このように構成された中間減速装置25において、アッパードライブシャフト13aが回転すると、アウターギヤ36が一体に回転し、回転するアウターギヤ36の内周歯と固定されているインナーギヤ35の外周歯との間で4つの中間ギヤ38が回転しながらインナーギヤ35の周囲を公転し、これによりギヤキャリア37が回転駆動されてロアードライブシャフト13bが回転する。ロアードライブシャフト13bの回転方向はアッパードライブシャフト13aの回転方向と同一であり、その回転速度はアッパードライブシャフト13aの二分の一に減速される。
【0038】
ロアードライブシャフト13bは、ロアーケース3の内部に縦方向に形成されたドライブシャフト保持孔48に挿入され、ドライブシャフト保持孔48の上端部に嵌入された一対の円錐ころベアリング49,50と、ドライブシャフト保持孔48の下端部に嵌入されたニードルベアリング51とにより回転自在に支持される。図4中の部材52は円錐ころベアリング50のロックナットである。なお、ドライブシャフト保持孔48の前後には、それぞれ冷却水用の外水を吸入する取水通路53と最終排気膨張室54とが画成されている(図2参照)。
【0039】
一方、プロペラシャフト15は、ドリブンベベルギヤ14bおよびドリブンベベルギヤ14cと共に、ロアーケース3内部に横方向に形成されたプロペラシャフト保持孔57に挿入され、プロペラシャフト保持孔57の前端付近および中間部に嵌入された3つの円錐ころベアリング58,59,60と、プロペラシャフト保持孔57の後端部に嵌入されたニードルベアリング61とにより回転自在に支持されている。
【0040】
プロペラシャフト保持孔57の内部には潤滑用のオイルが貯留され、二重回転軸であるプロペラシャフト15の周りおよびベベルギヤ機構14が潤滑される。ロアーケース3の前底部付近には、プロペラシャフト保持孔57の内部にオイルを注入したり、排出するためのオイル注入孔62が設けられている。
【0041】
そして、プロペラシャフト保持孔57内に貯留されたオイルを中間減速装置25に供給するオイル供給装置65が設けられている。オイル供給装置65は以下のように構成されている。
【0042】
まず、プロペラシャフト15を構成するインナーシャフト15bと、ドライブシャフト13を構成するロアードライブシャフト13bには、それぞれ軸心オイル通路67,68(オイル供給手段)と、交差オイル通路70,71(オイル供給手段)とが形成されている。
【0043】
軸心オイル通路67は、インナーシャフト15bの前端から軸心に沿って後方に延び、ドリブンベベルギヤ14bとドリブンベベルギヤ14cとの対向部中心位置、即ちロアードライブシャフト13bの中心軸が直交する位置まで形成され、この軸心オイル通路67の後端部付近に直交するように交差オイル通路70が形成され、軸心オイル通路67と交差オイル通路70とが略T字形状をなしている。
【0044】
また、軸心オイル通路68は、ロアードライブシャフト13bの下端から軸心に沿って上方に延び、中間減速装置25の近傍、例えば円錐ころベアリング49の直下の高さまで形成され、この軸心オイル通路68の上端部付近に直交するように交差オイル通路71が形成され、軸心オイル通路68と交差オイル通路71とが同じく略T字形状をなしている。
【0045】
軸心オイル通路68と交差オイル通路70の位置関係は、インナーシャフト15bの回転により交差オイル通路70が鉛直方向を向いた時に(図2の状態)、交差オイル通路70の軸心延長線が軸心オイル通路68の軸心延長線と一致し、なおかつ交差オイル通路70の開口と軸心オイル通路68の開口とが数ミリ程度の位置まで近接して対向するように設定されている。なお、交差オイル通路70の軸心延長線と軸心オイル通路68の軸心延長線は必ずしも完全に一致していなくてもよく、数ミリ程度のずれがあっても構わない。後述するように交差オイル通路70から噴出するオイルが軸心オイル通路68に流れ込めればよい。
【0046】
一方、ロアーケース3のドライブシャフト保持孔48にはオイル誘導溝74が併設されている。このオイル誘導溝74は、円錐ころベアリング49,50の周囲の一箇所に縦溝状に形成されてドライブシャフト保持孔48内を上下に延び、その下端開口部が円錐ころベアリング49の直下、かつロアードライブシャフト13bに形成された交差オイル通路71の吐出口に対向する高さでドライブシャフト保持孔48内に開口し、上端がアッパーケース2との合わせ面に開口している。
【0047】
図4に示すように、中間減速装置25のインナーギヤ35下面の嵌合スリーブ35cがドライブシャフト保持孔48の上端開口部に密に嵌合するが、この嵌合スリーブ35cの下端と円錐ころベアリング50の上面との間に小さな隙間通路75が形成され、この隙間通路75が嵌合スリーブ35cの内周の空間35dに通じ、さらにインナーギヤ35(35b)とギヤキャリア37(37a)との間にオイル通路76が形成されている。オイル通路76はニードルベアリング43付近に連通している。
【0048】
上記オイル誘導溝74と、隙間通路75と、空間35dと、オイル通路76とにより、オイル誘導通路77(オイル供給手段)が構成されている。オイル誘導通路77は中間減速装置25の内部とロアーケース3のプロペラシャフト15周りの空間(プロペラシャフト保持孔57)とを連通させる。
【0049】
他方、中間減速装置25のハウジング34にオイル戻り通路80(オイル供給手段)が併設されている。オイル戻り通路80は、例えばドライブシャフト13に対し進行方向前方側となるハウジング34の左前部に形成された縦通路80aと、この縦通路80aの中間部からハウジング34の内部に連通する横通路80bとから構成されている。縦通路80aの上端開口部はドレンプラグ80cにより液密に閉塞される。よってドレンプラグ80cもドライブシャフト13に対して進行方向前方側に配置される。
【0050】
縦通路80aはロアーケース3内部の縦坑81を介してオイル貯留部であるプロペラシャフト保持孔57に通じている。このため、ハウジング34の内部がオイル戻り通路80と縦坑81とを経てプロペラシャフト保持孔57に連通している。なお、ハウジング34の軸受スリーブ34aには、ハウジング34内部のオイルをニードルベアリング41に供給するオイル通路82が形成されている。
【0051】
オイル供給装置65は、軸心オイル通路67,68と、交差オイル通路70,71と、オイル誘導通路77と、オイル戻り通路80とを備えて構成されている。
【0052】
船外機1のエンジン6が作動してドライブシャフト13のロアードライブシャフト13bが回転すると、オイル供給装置65により、プロペラシャフト保持孔57内に貯留されたオイルが中間減速装置25に供給される。
【0053】
即ち、プロペラシャフト15のインナーシャフト15bに形成された軸心オイル通路67にはプロペラシャフト保持孔57内に貯留されたオイルが自然流入し、インナーシャフト15bが回転すると、この軸心オイル通路67内部のオイルが遠心力により交差オイル通路70から噴出する。噴出したオイルはインナーシャフト15bの直径方向に飛散し、軸心オイル通路67内には引き続きプロペラシャフト保持孔57内のオイルが流入する。
【0054】
交差オイル通路70の近傍にはロアードライブシャフト13bの軸心オイル通路68が位置し、交差オイル通路70が鉛直方向を向いた時には交差オイル通路70と軸心オイル通路68とが一直線上に並び、かつ交差オイル通路70の開口と軸心オイル通路68の開口とが対向して近接配置されているため、交差オイル通路70から噴出したオイルの一部が軸心オイル通路68に流れ込む。
【0055】
軸心オイル通路68に流れ込んだオイルは軸心オイル通路68を上昇し、回転しているロアードライブシャフト13bの遠心力により交差オイル通路71の開口から噴出し、交差オイル通路71の開口と同じ高さに配置されたオイル誘導溝74(オイル誘導通路77)の下端開口に流入する。オイル誘導溝74は、ロアードライブシャフト13bの上部軸受けである円錐ころベアリング49、50を迂回するようにロアーケース3の壁に形成される。以後、オイルは円錐ころベアリング49、50の上方に設けられた隙間通路75からロアードライブシャフト13bの周囲の空間35dを経てロアーケース3内部と中間減速装置25内部とを連通するオイル通路76の順に流れ、さらにニードルベアリング43のローラー間を経て中間減速装置25の内部に導かれる。
【0056】
オイル誘導通路77を構成するオイル通路76が中間減速装置25の中心部にあるニードルベアリング43付近に連通しているため、中間減速装置25の内部に導かれたオイルは遠心力により中間ギヤ38の周辺に散布され、中間減速装置25の外周部まで満遍なく行き渡って内部全体を良好に潤滑する。また、中間ギヤ38が軸支されるギヤシャフト45の中空部45aと給油孔45bからもオイルが出て中間ギヤ38の軸支部と歯先を潤滑する。
【0057】
中間減速装置25の内部を潤滑し終えたオイルは、オイル戻り通路80の横通路80bおよび縦通路80aと縦孔81とを経て確実にプロペラシャフト保持孔57に還流するため、中間減速装置25を安定的に潤滑することができる。横通路80bは縦通路80a側開口(出口)が中間減速装置25内部側開口(入口)よりも高い位置となるように傾斜して形成されている。したがって横通路80bの孔加工が容易であり、また通路径と傾斜角度で中間減速装置25内部に保留する油量を調整することができる。
【0058】
本実施形態のオイル供給装置65によれば、新規の部品を付加することなく、ドライブシャフト13やプロペラシャフト15のような既存の部品のみを用いて、簡素でコンパクトな構成により、プロペラシャフト15周りを潤滑するオイルを中間減速装置25に供給し、中間減速装置25を良好に潤滑することができる。
【0059】
プロペラシャフト保持孔57に貯留されたオイルの排出および補充は、ロアーケース3前底部付近に設けられたオイル注入孔62から行われるが、その際に縦通路80aのドレンプラグ80cを開栓すれば、オイルの排出時には排出性を向上させることができ、オイルの注入時には中間減速装置25のエアを縦通路80aから確実に抜くことができる。
【0060】
縦通路80aとドレンプラグ80cはドライブシャフト13に対して進行方向前方側に配置されているため、オイルの注入時には船外機1をチルトさせてドレンプラグ80cを開栓した状態でオイル注入孔62からオイルを補充すれば、余剰なオイルがエアと共に縦通路80aから流れ出ても、ロアーケース3の外面等にオイルが付着しにくくなる。
【0061】
ところで、この船外機1ではロアードライブシャフト13bの回転がベベルギヤ機構14により減速されてからインナーシャフト15bに伝達されるため、ロアードライブシャフト13bとインナーシャフト15bとの回転速度の関係が13b>15bであり、故に各々の交差オイル通路70,71に掛かる遠心力の大きさが71>70となる。従って、両シャフト13b,15bがオイルを吸入して噴出する力の関係も13b>15bとなり(各オイル通路径が同じ場合)、本実施形態においてはロアードライブシャフト13bの方がインナーシャフト15bよりも高所にオイルを供給しなければならないため、有利な構成となっている。
【0062】
また、本実施形態のオイル供給装置65では、交差オイル通路70と71とが、それぞれロアードライブシャフト13bとインナーシャフト15bの外径の大きい部分に形成されているため、交差オイル通路70,71の長さを長くして交差オイル通路70,71内のオイルに加わる遠心力を大きくし、オイル噴出量(噴出圧力)を増大させて潤滑性能を向上させることができる。
【0063】
なお、本実施形態のオイル供給装置65では、交差オイル通路70,71が軸心オイル通路67,68に対して直交する角度(90°)で形成されているが、例えば軸心オイル通路67,68に対し任意の角度で形成することもできる。また、1本の軸心オイル通路67,68に対して交差オイル通路70,71を複数本形成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施の形態に係る船外機を示す右側面図である。
【図2】同実施の形態に係る図1のII部を拡大した縦断面図である。
【図3】同実施の形態に係る図2のIII-III矢視による平面図である。
【図4】同実施の形態に係る図2のIV部を拡大した縦断面図である。
【符号の説明】
【0065】
1 船外機
2 アッパーケース
3 ロアーケース
4 ケーシング
6 エンジン
7 クランクシャフト
13 ドライブシャフト
15 プロペラシャフト
25 中間減速装置
34 ハウジング
35 インナーギヤ
36 アウターギヤ
37 ギヤキャリア
38 中間ギヤ
62 オイル注入孔
65 オイル供給装置
67,68 オイル供給手段である軸心オイル通路
70,71 オイル供給手段である交差オイル通路
77 オイル供給手段であるオイル誘導通路
80 オイル供給手段であるオイル戻り通路
80c ドレンプラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングの上部にクランクシャフトを縦向きにしてエンジンが搭載され、前記クランクシャフトの回転が、前記ケーシングの内部に縦向きに軸支されたドライブシャフトを経て前記ケーシングの下部に軸支されたプロペラシャフトに伝達され、前記ドライブシャフトに中間減速装置が設けられた船外機において、前記プロペラシャフト周りを潤滑するオイルを前記中間減速装置に供給するオイル供給手段を備えたことを特徴とする船外機のオイル供給装置。
【請求項2】
前記ケーシングがプロペラシャフトを支持するロアーケースと前記ロアーケースの上部に接続されるアッパーケースとで構成され、前記中間減速装置は前記ロアーケースの上部に配置され、前記オイル供給手段が前記中間減速装置の内部と前記ロアーケースのプロペラシャフト周りとを連通するオイル誘導通路を含むことを特徴とする請求項1に記載の船外機のオイル供給装置。
【請求項3】
前記オイル供給手段は、前記ドライブシャフト及び前記プロペラシャフトの少なくとも一方の軸心部に形成された軸心オイル通路を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の船外機のオイル供給装置。
【請求項4】
前記オイル供給手段は、前記ドライブシャフト及び前記プロペラシャフトの少なくとも一方の前記軸心オイル通路に交差して形成された交差オイル通路を含むことを特徴とする請求項3に記載の船外機のオイル供給装置。
【請求項5】
前記プロペラシャフトの回転により前記プロペラシャフトに形成された前記交差オイル通路が鉛直方向を向いた時に、この交差オイル通路の軸心延長線が前記ドライブシャフトに形成された前記軸心オイル通路の軸心延長線と略一致することを特徴とする請求項4に記載の船外機のオイル供給装置。
【請求項6】
前記オイル誘導通路を、その下端部が前記ドライブシャフトを囲むドライブシャフト保持孔内に上下に延びるように形成し、該オイル誘導通路の下端開口部を、前記ドライブシャフトに形成した前記交差オイル通路の吐出口に対向させたことを特徴とする請求項4又は5に記載の船外機のオイル供給装置。
【請求項7】
前記中間減速装置を、ハウジングの内部中心に位置するインナーギヤと、このインナーギヤの周囲に設けられたアウターギヤと、前記インナーギヤおよび前記アウターギヤの間に設けられる複数の中間ギヤと、前記中間ギヤを保持するギヤキャリアを備えた遊星ギヤ装置とし、前記中間ギヤの周辺にオイルが誘導されるように前記オイル誘導通路を前記ハウジングに連通させたことを特徴とする請求項2に記載の船外機のオイル供給装置。
【請求項8】
前記オイル供給手段は、前記ハウジングの内部と前記ロアーケース内のオイル貯留部との間を連通させるオイル戻り通路を含むことを特徴とする請求項7に記載の船外機のオイル供給装置。
【請求項9】
前記オイル戻り通路を前記ハウジングに形成し、該オイル戻り通路の上部に着脱可能なドレンプラグを設けたことを特徴とする請求項8に記載の船外機のオイル供給装置。
【請求項10】
前記ドレンプラグを前記ドライブシャフトに対して進行方向前方側に配置したことを特徴とする請求項9に記載の船外機のオイル供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−166534(P2009−166534A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3974(P2008−3974)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)