説明

船用電線

【課題】鉄編組アジロを必ずしも必要とせずこれを省略して軽量・低コスト化し、さらに錆び付きの問題を解消する船用電線を提供する。
【手段】導体に絶縁体が被覆してなる被覆電線の周辺に配置した介在物、及び該介在物の外側に配置したシース並びにこれを覆う樹脂がい装を少なくも有する船舶用電線であって、前記樹脂がい装は、重合度800〜2000のポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し、可塑剤30〜100質量部を含有させた樹脂混和物で構成され、
前記介在物は、ポリオレフィンを主成分とし、該ポリオレフィン100質量部に対して特定の無機化合物フィラーを5〜400質量部含有する船用電線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電力や信号などを伝達するために用いられる船舶用途に特に適した電線に関する。
【背景技術】
【0002】
船用電線は特に高い耐外傷性が要求される。これに応えるため、従来、絶縁層やその上に被せる保護層の更にその上に鉄などの金属線を編組状に編み込んで構成した金属編組あじろがい装(以下、「あじろがい装」を「アジロ」と略称することがある。)を設けたものが用いられてきた(図3参照)。一例を挙げると、LAN用のケーブルに適用するものとして、アジロとシースとの間に緩衝層を設けたものが開示されている(特許文献1参照)。これにより局所的な曲げやねじれ箇所に生じるおそれのある特性変化を抑制することができるとされる。
一方、一般的な電線の耐火性・難燃性を向上させたものとして、介在物に炭酸カルシウムを混入させたものが開示されている(特許文献2参照)。しかしながら、この被覆電線により、船用の電線に求められる高い耐摩耗性と耐溶接スパッタ特性とを満足できるかは分からなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−008458号公報
【特許文献2】実開S61−199812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のようなアジロの材料としては、安価で耐外傷性が高い鉄線が広く用いられる。しかし、鉄線は錆び付いてしまう。とりわけ船舶用途においてはその使用環境から、これを防止することが難しい。その対策として、鉄線にメッキを施したり、錆止め塗装を施したりすることも行われているが、そのための工数や手間がかかってしまう。またメッキや塗装を施した部分に外傷を受けると、これが剥がれてしまい、結局錆びを抑制ないし防止することはできない。また鉄編組アジロは重くかつ端末加工性が低く、製造効率を向上させることが難しいためその製造加工費用がかさみ、高コストとなりがちである。
また、船舶において、万が一火災が発生した場合に、電線にその火が移りそこを伝わって火元が伝播してしまうと、その被害を拡大してしまうこととなりかねない。鉄片組アジロはその点でもそれなりの効果を有する。金属に代え樹脂を用いるとどうしても難燃性は低下する方向となる。これに対し、本発明者らは、一般的な難燃性について金属を上回ることは難しくても、特に船舶では垂直支持された電線の火の伝播性が問題となることに着目し、その特性を改良することを考えた。すなわち、一度電線が着火したとしても水平配線されたものではその火の伝播は然程に早くなく、一方、垂直支持された電線は炎にあぶられ、樹脂が軟化ないし液状化しながら一気に燃え広がることがある。このときの耐延焼性を高めることで、船舶においての難燃性に関する要求を満たし、鉄編組みアジロに代替する樹脂電線とすることを課題とした。
【0005】
本発明は、鉄編組アジロを必要とせず、耐延焼性に優れ、軽量・低コスト化し、さらに鉄編組アジロの錆び付きや末端加工性の問題を解消する船用電線の提供を目的とする。また本発明は、船舶用の電線に適合する諸特性を有し、とくに鉄編組アジロによらずに十分な耐摩耗性と耐溶接スパッタ性とを発揮する船用電線の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題は下記の手段によって解決された。
(1)導体に絶縁体が被覆してなる被覆電線の周辺に配置した介在物、及び該介在物の外側に配置したシース並びにこれを覆う樹脂がい装を少なくも有する船舶用電線であって、
前記樹脂がい装は、重合度800〜2000のポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し、可塑剤30〜100質量部を含有させた樹脂混和物で構成され、
前記介在物は、ポリオレフィンを主成分とし、該ポリオレフィン100質量部に対して特定の無機化合物フィラーを5〜400質量部含有することを特徴とする船用電線。
(2)前記樹脂混和物に、無機化合物充填剤をポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して0質量部超25質量部未満で含有させることを特徴とする(1)に記載の船用電線。
(3)前記無機化合物充填剤として、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、又は三酸化二アンチモンを含有することを特徴とする(1)または(2)に記載の船用電線。
(4)前記無機化合物フィラーとして炭酸カルシウムを用いることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の船用電線。
(5)前記樹脂がい装を構成する材料のJISK7210条件コードMにおけるメルトマスフローレイトが100g/10min以下である(1)〜(4)のいずれか1項に記載の船用電線。
(6)前記シースがポリオレフィン、ポリウレタンエラストマー、又はポリ塩化ビニルからなることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の船用電線。
【発明の効果】
【0007】
本発明の船用電線は、鉄編組アジロを必要とせず、耐延焼性に優れ、軽量・低コスト化し、さらに鉄編組アジロの錆び付きや末端加工性の問題を解消する。また本発明の船用電線は、船舶用の電線に適合する諸特性を有し、とくに鉄編組アジロによらずに十分な耐摩耗性及び耐溶接スパッタ性を発揮するという優れた作用効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の船用電線の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【図2】IEC60332−3試験に用いられる装置の例を示す斜視図である。
【図3】従来の船用電線の一実施形態を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の船用電線は、導体を絶縁体が被覆してなる被覆電線、介在物、及び該介在物を介して前記被覆電線を覆う樹脂がい装を少なくも有する船用電線であって、樹脂がい装と介在物との間には特定のシースが介在されており、かつ、前記樹脂がい装に特定のポリ塩化ビニル樹脂混和物を採用し、かつ前記介在物に特定のフィラーを含有するポリオレフィン樹脂を適用することを特徴とする。これにより垂直支持時の耐延焼性が大幅に向上する理由については未解明の点もあるが、単に介在にフィラーを適用したことによる難燃性の良化だけでは説明することができない。上記のようなシースを介在した構成において特定の材料を適切に採用することによって、難燃性が向上することとともに、特に介在物の降温時における流動性が抑えられ、これらが相俟って極めて高い耐延焼性が実現されたと考えられる。以下、本発明についてその船用電線の好ましい実施形態を示した図面に基づき、詳細に説明する。
【0010】
図1は本発明の船用電線の一実施形態を模式的に示す断面図である。本実施形態の電線は、撚り導体1を3芯備えた、例えば電力用ケーブルに好適に使用しうるものである。銅などの金属からなる撚り導体1には全長に渡ってゴムやポリオレフィンなどからなる絶縁体2が被せられて絶縁電線11が構成されている。この絶縁電線3本を、形を整えるための介在物3とともに撚り合わせる。本実施形態においては、この上に絶縁電線11と介在物3の撚りが巻き崩れるのを防ぐための押さえ巻きテープ4が巻かれている。ただし、この巻テープは省略してもよい。本実施形態においては、ここまでの構成(導体1、絶縁体2、介在物3、押さえ巻きテープ4)をコア12と呼ぶ。本実施形態の船用電線10においては、このコア12の上にシース5が施され、さらにその外側に樹脂がい装6が設けられている。以下、この電線を構成する材料について順に説明する。
【0011】
[樹脂がい装]
本実施形態においては、電線の絶縁層、保護層の上に、金属編組アジロの代わりに耐外傷性の高い樹脂製保護層(樹脂がい装)が設けられている。この材料としては、加工性及び耐摩耗性に優れ、比較的安価な特定のポリ塩化ビニル樹脂混和物が採用されている。
【0012】
・ポリ塩化ビニル樹脂
具体的に本実施形態においては、ポリ塩化ビニルに可塑剤、安定剤、難燃剤等を添加したポリ塩化ビニル混和物が好適である。このポリ塩化ビニル樹脂混和物のベース樹脂となるポリ塩化ビニル樹脂は重合度800〜2000のものが用いられ、その中でも電線被覆に用いるのには価格面、押出加工性より重合度1000〜2000のものが好ましい。重合度が高くなると溶融粘度が高くなり電線被覆が厳しくなる。なお、本発明において重合度の測定には特に断らない限りゲルパーミエーションクロマトグラフを用いる。具体的には、溶離液はTHFでPLカラムMIXEC−C×3本+ガードカラムを用いて分子量分布を測定し、ポリ塩化ビニルの標準試料と比較することにより重合度を求めた値を用いる。
ポリ塩化ビニル樹脂については市販のものを用いることができ、例えば、新第一塩ビ社製ZEST 1000Z(商品名)、信越化学社製TK1400(商品名)、信越化学社製TK1700E(商品名)、信越化学社製TK2000(商品名)、大洋塩ビ社製TH1300(商品名)などが挙げられる。
【0013】
・可塑剤
本実施形態の樹脂がい装をなす樹脂混和物には、ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対し可塑剤が30〜100質量部含有されており、40〜100質量部であることが好ましく、40〜60質量部であることがより好ましい。これにより電線の引張伸度と引張強度を保持することができる。前記下限値以上であると引張伸度が例えば150%以上となるため、シースおよび絶縁の規格をみたさず船用電線として十分となる。一方、上記上限値以下であると、例えば引張強度が12.5MPaを超え、シースおよび絶縁の規格を満たし船用電線として十分となる。
可塑剤としては、塩化ビニル系樹脂に用いられるものであれば特に制限されるものでなく、フタル酸エステル系可塑剤ではフタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸−ジ−フタル酸ウンデシル、フタル酸ジペンチル等、アジピン酸系可塑剤は、例えばアジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)(DOA)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)、アジピン酸ジイソデシル(DIDA)等トリメット酸エステル系可塑剤では、トリメット酸トリ2―エチルヘキシル、トリメット酸トリオクチル(TOTM)、リン酸エステル系可塑剤は、リン酸トリクレシル(TCP)、が挙げられる。その他、ジオクチルセバケート(DOS、ジー(2−エチルヘキシル)セバケートを含む。)、ジオクチルアゼレート(DOZ、ジー(2−エチルヘキシル)アゼレートを含む。)、アセチルトリブチルシトレート(ATBC)などがある。
可塑剤については市販のものを用いることができ、例えば、花王社製 ビニサイザー150(商品名)、花王社製トリメックス T−10(商品名)、シージーエスター社製 DINP (商品名)、ジェイ・プラス社製DIDP(商品名)、シェルケミカルズ社製DL−911P(商品名)などが挙げられる。
【0014】
・無機化合物充填剤
本実施形態の樹脂がい装をなす樹脂混和物には、ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対し任意の充填剤が0質量部超25質量部未満で配合されていることが好ましく、0質量部超15質量部以下であることがより好ましく、0質量部超5質量部以下であることが特に好ましい。上記の範囲で配合されていると、床や電線どうしと擦れた場合にも、がい装被覆が破れにくくまたは白化しにくく商品としての価値を損なわず好ましい。または耐摩耗性も著しく低下することがなく好ましい。
無機化合物充填剤としては、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物、窒素系難燃剤、硼酸亜鉛、酸化アンチモン、炭酸カルシウム、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、赤リンやリン酸エステルなどのリン系難燃剤、タルクやクレーなどの天然無機鉱物、黒鉛、ガラス微粒子、シリカ類、スズ酸亜鉛などが挙げられる。なかでも、本発明においては、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、又は三酸化二アンチモンが好ましい。
充填剤は典型的にはTHF(テトラヒドロフラン)不溶物の量で評価することができる。具体的には、沈殿管中にポリ塩化ビニル樹脂混和物とTHFを加え超音波洗浄機など適当な機械を用いて溶解させ、遠心分離後上澄みを捨て再度遠心分離にかける作業を数回行い管中の沈殿物をTHF不溶物とし、その量が充填剤の量とみなされる。この範囲内であることにより、高い磨耗性を発揮することができ好ましい。充填剤は1種又は2種以上を適宜選定して用いることができる。充填材については市販のものを用いることができ、価格の安さから炭酸カルシウム、タルク、クレーも良好である。更に難燃性能を向上させうるリン化合物を含有する難燃剤(リン系難燃剤)、窒素化合物を含有する難燃剤(窒素系難燃剤)、金属水酸化物等の難燃剤を使用することも好適である。
【0015】
本実施形態の電線においては、溶接スパッタを受けた場合樹脂がい装が貫通するようなダメージを受けない性質を有することが好ましい。溶接スパッタとは、主に鉄などの金属を溶接する際に発生する火花で、非常に高温の溶融金属の粒である。このスパッタを受けても耐えるためには樹脂がい装材料の溶融粘度を所定の程度にまで高くすることが好ましい。溶融粘度の指標として樹脂材料のメルトマスフローレイトを好適化することが挙げられる。条件としてはJISK7210条件コードM(230℃、荷重2.16kg)でメルトマスフローレイトが200g/min以下であることが好ましい。下限は特に制限されないが、上記条件下において0.1g/10min以上であることが実際的である。上記のメルトフローレイトの調節の方法は特に限定されないが、例えばこれを高めるために、重合度が高めのポリ塩化ビニルを選定することや、充填材の種類と量を調整することが有効である。また本発明においては、耐延焼性の点でもメルトフローレイトを上記の範囲に調節することが好ましく、この燃焼温度よりも低温での流動性が調節されたことにより、上述した垂直支持時の耐延焼性が一層高まる点で好ましい。
【0016】
樹脂がい装の厚さは特に限定されないが、0.1〜5mmであることが好ましく、0.2〜3mmであることがより好ましい。この範囲内とすることにより、十分な耐摩耗性と仕上がり外径の細さを両立ことができ好ましい。なお、樹脂がい装は1層であっても、2層以上であってもよく、別の層を介在しながら複数の層が設けられていてもよい。また、必要に応じて、さらに外側に別の層を設けてもよい。
【0017】
[シース]
本実施形態においては、上記樹脂がい装の下(内方)にシースが配設されている。シースに用いられる材料は特に限定されず、ポリオレフィン、ポリウレタンエラストマーやポリ塩化ビニルなどを用いることができる。
ポリオレフィンとしては、高度に難燃化されたポリオレフィンを挙げることができる。 ポリ塩化ビニルとしては、上記樹脂がい装と同じポリ塩化ビニルが挙げられ、その好ましい重合度は800〜2000であり、1000〜2000であることがより好ましい。
ポリウレタンエラストマーとしては、価格面と耐加水分解性のバランス、さらには樹脂がい装として優れた性質を発揮する観点からポリエーテル構造部をもつポリウレタンエラストマー(ポリエーテル系ポリウレタンエラストマー)又はポリカーボネート構造部をもつポリウレタンエラストマー(ポリカーボネート系ポリウレタンエラストマー)が好適である。
ポリエーテル系ポリウレタンエラストマーとしては市販のもの等適宜選定して採用することができる。好ましいポリエーテル系ポリウレタンエラストマーとしては、例えば、ルーブリゾール社製 エステン(商品名)、BASF社製 エラストラン(商品名)、ハンツマン社製 イログラン(商品名)等が挙げられる。
ポリカーボネート系ポリウレタンエラストマーとしては市販のもの等適宜選定して採用することができる。好ましいポリカーボネート系ポリウレタンエラストマーとしては、例えば、大日精化工業社製 レザミン(商品名)が挙げられる。
【0018】
本実施形態においてシース形成する樹脂混和物に含有させるハロゲンフリー難燃剤としてはリン化合物を含有する難燃剤(リン系難燃剤)又は窒素化合物を含有する難燃剤(窒素系難燃剤)が挙げられる。リン系難燃剤としては赤リン、リン酸エステル系やリン酸メラミン系、イントメッセント系などがある。窒素系難燃剤としてはメラミンシアヌレートなどがある。また金属水酸化物もハロゲンフリー難燃剤として好適である。金属水酸化物としては水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムが挙げられる。更に、膨張黒鉛も接炎時に断熱効果の高いチャーを形成するため有用である。この他にも三酸化二アンチモンや臭素系難燃剤、塩素系難燃剤も難燃化効果が高く有効である。またこれらの難燃剤を併用してもよい。
難燃剤の含有量は特に限定されないが、シースを構成する樹脂混和物100質量部に対して、リン系、窒素系難燃剤と膨張黒鉛の場合は5〜100質量部であることが好ましく、5〜50質量部であることがより好ましい。一方、金属水酸化物の場合は30〜250質量部であることが好ましく、50〜200質量部であることがより好ましい。この範囲内であることにより、耐摩耗性を損なうことなく十分な難燃性能を得ることができ好ましい。難燃剤は1種又は2種以上を適宜選定して用いることができる。
【0019】
本実施形態において、シースを適用することにより被覆電線の垂直支持時の耐燃焼性が改善される理由については解明されていない点があるが、その効果は、シースを用いない樹脂がい装のみの形態では得がたく、高度に難燃化したシースを介在させることにより初めて発現される。その作用機序は上述のとおり未明の点を含むが、シースの機能に着目して推定を含めて言えば、シースの難燃性能の高さがほとんど難燃化されていない樹脂がい装を補った結果、十分な難燃性能が得られたと考えられる。
【0020】
コストや難燃化のしやすさの点で、ポリ塩化ビニルが好適である。シースの厚さは特に限定されないが、0.5〜5mmであることが好ましく、0.5〜3mmであることが特に好ましい。この範囲とすることにより上記本実施形態に特有の作用を好適に発現しうる点で好ましい。
【0021】
[介在物]
本実施形態において前記介在物は、ポリオレフィンを主成分とし、該ポリオレフィン100質量部に対して無機化合物フィラー(好ましくは炭酸カルシウム)を5〜400質量部含有する。特に船用電線は海水や水に晒されることを考慮し、端末部より水が浸透していくことを防ぐ為に、水を弾く介在物であることが好ましい。水弾きがよく安価な介在物としては、ポリエチレンなどのポリオレフィン介在物が挙げられ、本実施形態に採用される。しかし、ポリオレフィンのみからなる介在物では火災等により高温に晒されると、介在が流動化して流れ出してしまい、燃焼部へ燃料として供給されてしまったり、中空化して煙熱を伝播したりすることがある。そこで、本実施形態においては、炭酸カルシウムをフィラーとして5〜400質量部配合したものを用いる。フィラーとしては吸水性が著しく高くないものであれば何でも良いのだが、既に添加されたポリオレフィンヒモが工業的に量産されているため入手しやすい点から炭酸カルシウムが好適である。上記の範囲であれば配合量は特に制限されないが、典型的な送電用電線を考慮すると、5〜200質量部であることが好ましく、入手性を考慮すると50〜200質量部であることがより好ましい。このような形態にしたポリオレフィン介在物を採用すると、吸水しにくく、しかも溶融時にも流動化せず、コストも安いため好適である。
【0022】
無機化合物フィラー(例えば炭酸カルシウム)配合量を上記下限値以上とすることで、燃焼時に介在物が流れ落ちにくく好ましい。一方、上記上限値以下とすることで、介在物の伸度が十分となり、電線を曲げた時に内部で破断などの不具合を生じさせず好ましい。他の安価な介在物としてはジュートや紙があるが、吸水し絶縁不良を起こすことがある。
【0023】
介在物の形状は特に限定されないが、紐状のものを用いることが好ましい。なお、介在物には、本発明の効果を奏する範囲でその他の成分を含有させて適宜物性を調節してもよい。
【0024】
[押さえ巻きテープ]
コア12の組み付け状態を維持するための押さえ巻きテープの材料はどのようなものでもよいが、コスト面ではポリエステルやポリオレフィンのフィルムがよく、また難燃性能上はガラスマイカテープやマイカテープが優れており好ましい。押さえ巻きテープの厚さは特に限定されないが、厚さ0.005〜1mmが好ましく、厚さ0.01〜0.1mmがより好ましい。
【0025】
[絶縁電線]
・導体
絶縁電線11に適用される導体1は特に限定されず、本実施形態においては銅線が用いられている。この導体は送電を行うものでは通常低電気抵抗の金属導体が適用されるが、本発明においてはこれに限らず、通信用のものにおいて導体に光ファイバーを適用したものであってもよい。導体の断面直径は特に限定されず、例えば、0.5〜500mm程度とすることが実際的である。断面形状については特に限定されず、円形のものであっても、その他の形状に適宜形成・加工したものを用いてもよい。導体は単線であっても、本実施形態のような撚り線であってもよい。
【0026】
・絶縁体
前記導体1を被覆する絶縁体2としては特に限定されず、この種の電線に用いられる一般的なものを適用することができる。例えば、ポリオレフィン樹脂、樹脂がい装と同様のポリ塩化ビニル樹脂、エチレンプロピレンゴムなどが挙げられる。絶縁体1の被覆層の厚さは特に限定されないが、0.2〜3mmであることが好ましく、0.5〜3mmであることがより好ましい。
【0027】
本発明の船用電線は船舶に適用する電線に特に適した構造を有していれば上記の実施形態に限定されず、例えば、コアの導体断面積を適宜変更したり、芯数を3芯ではなく1芯にしたり10芯にしたりしてもよい。また、船用電線として所定の構造に組み立てる方法は特に限定されず、この種の電線に適用される製造方法を適宜採用すればよい。
【実施例】
【0028】
実施例に基づき、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明がこれに限定して解釈されるものではない。
(実施例1〜7)
図1に示した構造の船用電線を作製した。導体には断面の面積2.5平方mmにした撚り線(銅線)を用いた。これを被覆する絶縁体樹脂(厚さ1.0mm)にはエチレンプロピレンゴムを用いた。さらに、介在物は表1に記載のものを用い、これらを組み付けたものを押さえ巻きテープ(PETフィルム)で巻きつけてコア(断面直径約10mm)とした。さらに、シース(厚さ1.2mm)により前記コアを覆った。シースのベース樹脂としてはベース樹脂100質量部に対して100質量部の水酸化アルミニウムと10質量部の赤リンを添加することによって高度に難燃化したポリエチレンを用いた。その外側に表1に記載の樹脂がい装(厚さ1.0mm)を適用して船用電線試験体とした。このとき樹脂がい装に適用するポリ塩化ビニル樹脂として信越化学製高重合度シリーズ(商品名)を用いた。また、難燃剤についても表中に記載のものをそこに記載された含有率になるよう配合した。調製した難燃化された樹脂のメルトマスフローレイトを測定した結果を表1に記載した。
【0029】
[性能評価]
・ビーズ針摩耗試験:被評価電線に外径0.41mmのビーズ針を電線と針の長さ方向が垂直位置になるように当て、サンプルに針の側面を荷重2kgfで押しつけながらストローク10mm、速度60往復/分の条件でこすりつけ、サンプルに破れや貫通孔が発生するまでの回数を計数する。1500回(往復)を上限とした。金属編組アジロと同等以下である1000回未満を×、同等以上である1000回以上1500回未満を○、上限の1500回を超える場合を◎とした。
【0030】
・砥石回転摩耗試験:JIS C 3327 単芯 公称断面積3.5mm以下 おもり1kgに準拠する。500回転を上限とした。金属編組アジロと同等以下である100回未満を×、同等以上である100回以上500回未満を○、上限の500回を超える場合を◎とした。
【0031】
・耐溶接スパッタ性:被評価電線の直上1mの位置にて鉄の電気溶接を30秒間行い、スパッタが電線に当たった部分について観察を行う。スパッタががい装を貫通してしまった場合を×、ややめり込んで容易には取り去れない状態なら○、がい装表面に乗っているだけで容易に振り落とせる場合は◎とした。
【0032】
・メルトマスフローレイト:JISK 7210の条件コード名M(230℃ 荷重2.16kg)に準拠する。
【0033】
・Cat.A試験:IEC60332−3 Cat.A(燃焼時間40分、非金属部分体積 7 l/m、公称断面積35mm以下)に準拠する。この試験の結果により、垂直支持時の耐延焼性を評価することができる。試験条件及びその手順の概要を述べておくと、本試験においては添付図2のような大きな囲いを使用する。規定本数の電線をはしご上の垂直に設置されたトレイに規定の方法で敷設し、バーナーによりトレイ下方よりケーブルを燃焼させ、上方への延焼性を評価する。試験の合否基準は、バーナーより上部に250cm以上炭化しないこととする。
【0034】
・引張試験:JISC3410(JIS3号ダンベル、引張速度500mm/min) に準拠する。
【0035】
(実施例8〜12)
シースを構成する材料を下表Aのとおりに変えた以外、実施例1と同様にして船用電線の試験体を作製した。上記と同様の項目について評価試験を行った結果、いずれの項目においても実用上の要求レベルを満足するものであった。特に、いずれの電線試験体をもCat.A試験の要求レベルを十分に満たし合格するものであった。
【表A】

【0036】
(比較例1)
比較例1は従来用いられている鉄編組アジロをがい装として施した船用電線である(図3参照)。温水や海水に触れると錆びてしまい外観不良となる。これと同時に重く、端末加工性が低いものであった。また、金属アジロを用いたものは上記耐溶接スパッタ特性評価指標において相対的に「×」という結果となった。すなわち、本発明の樹脂がい装を適用した電線は、金属アジロを用いたものより高い耐溶接スパッタ特性を示すことが分かる。
【0037】
(比較例2)
比較例2は高重合度レジンを使用した場合である。押出時の溶融粘度が高く押出機械への負荷が大きくなってしまい、加工性が悪く電線被覆が不可となってしまった。
【0038】
(比較例3)
比較例3は可塑剤を少なくした場合である。可塑剤が少ない為、引張伸度が150%より下回り船用電線として不可である。
【0039】
(比較例4)
比較例4は可塑剤を多量に添加した場合である。引張伸度は150%以上あるが、引張強度が12.5MPaより小さくなったため船用電線として不可である。
【0040】
(比較例5)
比較例5は介在に炭酸カルシウムを400重両部以上配合されたポリプロピレン製ヒモを使用した場合である。炭酸カルシウムが多量に配合されている為、介在の伸度が不十分なため電線を屈曲されると介在が破断し、形くずれを起こした。
【0041】
(比較例6)
比較例6は介在に炭酸カルシウムが5重量部未満配合されたポリプロピレン製ヒモを使用した場合である。燃焼中介在が溶けて落下する現象が見られた為、ケーブルが2.5m以上燃焼しCat.A試験が不合格となった。
【0042】
(比較例7)
実施例1の船用電線に対して、シースを用いず、ほぼその分樹脂がい装の厚さを厚くした試験体を作製した。上述のものと同様に試験を行った結果、Cat.A試験において、不合格の結果となった。
【0043】
(参考例1、2)
参考例1、2は充填剤を25部以上配合した場合である。添加量を多量に配合している為、摩耗試験時に難燃剤がビーズ針や砥石に引っかかって削り取られる量が非常に多くなってしまい、その結果耐摩耗性が低い値に留まってしまう現象が見られた。
【0044】
その他、樹脂がい装のメルトマスフローレートが著しく高い(200)もので耐スパッタ性が劣ることを確認した。
【0045】


【表1】

【表1−1】

【符号の説明】
【0046】
1 導体
2 絶縁体
3 介在物
4 押さえ巻きテープ
5 シース
6 樹脂がい装
7 鉄編組アジロがい装
10、30
11 絶縁電線
12 コア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体に絶縁体が被覆してなる被覆電線の周辺に配置した介在物、及び該介在物の外側に配置したシース並びにこれを覆う樹脂がい装を少なくも有する船舶用電線であって、
前記樹脂がい装は、重合度800〜2000のポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し、可塑剤30〜100質量部を含有させた樹脂混和物で構成され、
前記介在物は、ポリオレフィンを主成分とし、該ポリオレフィン100質量部に対して特定の無機化合物フィラーを5〜400質量部含有することを特徴とする船用電線。
【請求項2】
前記樹脂混和物に、無機化合物充填剤をポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して0質量部超25質量部未満で含有させることを特徴とする請求項1に記載の船用電線。
【請求項3】
前記無機化合物充填剤として、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、又は三酸化二アンチモンを含有することを特徴とする請求項1または2に記載の船用電線。
【請求項4】
前記無機化合物フィラーとして炭酸カルシウムを用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の船用電線。
【請求項5】
前記樹脂がい装を構成する材料のJISK7210条件コードMにおけるメルトマスフローレイトが100g/10min以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の船用電線。
【請求項6】
前記シースがポリオレフィン、ポリウレタンエラストマー、又はポリ塩化ビニルからなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の船用電線。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−225109(P2011−225109A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96908(P2010−96908)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】