説明

船舶におけるロウスツール建造法

【課題】強度上、波形隔壁ブロック下部にフルぺネ溶接をする必要がなく、隅肉溶接にて溶接作業を行うことが可能で、溶接品質の向上および現場の作業効率アップする船舶におけるロウスツール建造法を提供する。
【解決手段】波形隔壁ブロック120の下部スツール垂直側の山部又は谷部の壁の全長に渡って所定長の長さに切欠きした切欠き部4が形成され、対応するスツールブロック122の垂直側上部が前記の所定長に対応する長さに延長された突出壁3が形成され、予め大組立工程において、前記波形隔壁ブロックの下部に形成された前記切欠き部と前記スツールブロック上部に形成された前記突出壁とを隅肉溶接で接合した一体型波形隔壁スツールブロック1を形成した後、該波形隔壁スツールブロックを船台にてタンクトップ121上に搭載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶におけるロウスツール建造法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶における貨物倉内に荷物を積載した場合にスムーズに貨物倉に荷物が流れるようにする傾斜形状のガセットプレートが設けられるスツール構造が知られている。
【0003】
この種のガセットプレートが設けられる構造に類する構造としては、例えば、実開昭52−67186号公報に開示のものが知られている。当該実開昭52−67186号公報に開示のものは、考案名称「船艙壁」に係り、「一旦空間に侵入した液状物を極めて簡単な構成をもつて排液することのできる船艙壁構造を提供する」を目的として(同公報明細書3頁2〜4行参照)、「縦方向に長い複数個の凹入溝105・・を、船艙の側壁板103に横方向に並設すると共に、前記凹入溝105・・内から積荷を濟流下排出するための傾斜案内板106・・を、その背面側に密閉空間B・・が形成される状態で、前記凹入溝105・・夫々の下端側に設けた船艙壁104であつて、前記密閉空間B・・夫々から液状物を壁体内部空間を通して排出する排液路Cを設けてある」ことにより(同公報明細書実用新案登録請求の範囲の記載参照)、「クラツクを通して空間に侵入した液状物を、そのまま放置しておくことなく、これを排液路を通して排出することにより、侵入した液状物が再度船艙に戻ることをなくすことができたもので、これによつて液状物揚荷後の積載積荷を汚損する恐れがなくなり、かつ殊に油揚荷後に粉炭を積載する場合であつても、爆発事故を未然に回避することができた」等の効果を奏するものである(同公報明細書6頁6〜13行参照)(なお、実開昭52−67186号公報においては、1〜12の符号で示しているが、便宜上101〜112等の符号で示した。以下同じ。)。
【0004】
図6は、上記実開昭52−67186号公報に第3図として開示される排液構造を示す船艙壁下部の部分斜視図である。図6において、符号101は、支持台、102は上部構造、103は、側壁板、104は、船艙壁、105は、凹入溝、106は、傾斜案内板、107は、連通口、111は、前記船艙壁104の幅方向中央部の凹入溝105、105間に形成されたトランク、112は、蒸気供給管、Aは、前記支持台101内の空間、Bは、密閉空間、Cは、排液路である。図6に示される船艙壁104により、「傾斜案内板106・・の取付け溶接箇所にクラツクが発生し、前記空間Bが非密閉状態となつて、この空間B・・内に船艙に積載した油が侵入したとしても、この侵入油は、船艙内の油を揚荷して後に弁110を操作することにより、支持台101の傾斜支持面に沿つてかつ空間B・・及び連通口107・・による一連の排液路Cを通して自然流下により貯液槽109に回収することができる」とするものである(同公報明細書4頁17行〜第5頁5行参照)。
【0005】
図3ないし図5は、従来の船舶におけるロウスツール建造法を示すものであり、図3は、従来の船舶のスツールトップにガセットプレートが設けられるロウスツール建造法の概略を示す図であり、図4は、同スツールのトッププレートが水平の場合の図3に示すA部のA−A断面図、図5は、スツールトッププレートは斜めの場合の図3に示すA部のA−A断面図である。
【0006】
図3ないし図5において、符号120は、波形隔壁、121は、タンクトップ、122は、スツール、123は、ガセットプレート、124は、船底、125は、スツールトッププレートである。また、図3において、波形隔壁120下部の波線は、当該部分を透視したときに、前記タンクトップ121上に表れる前記ガセットプレート123の接合面を示す。そして、図4及び図5における(イ)〜(ハ)は、これらをブロックとして組み立てる場合のブロック搭載順を示す。すなわち、船舶の建造時には、前記スツール122および前記波形隔壁120は、それぞれ別々のブロックとして、独立に組立てられ、最初にタンクトップ121のブロックが搭載され、次に、スツール122のブロックがその上に搭載され、最後に波形隔壁120のブロックがその上に搭載される(以下、符号122は、「スツール」又は「スツールブロック」として示し、符号120についても、「波形隔壁」又は「波形隔壁ブロック」として表示する)。つまり、ブロック搭載としては、スツールブロック122上部に波形隔壁ブロック120が搭載され、スツールブロック122と波形隔壁ブロック120の接合溶接作業を船台上で行っていた。
【0007】
波形隔壁ブロック120とスツールブロック122との接合部は溶接強度が要求されるため、波形隔壁ブロック120下部に開先溶接およびフルペネ溶接(完全溶け込み溶接)を行う必要があるが、図3に示されるように、この部分(図3に「A」で示した)は、非常に狭いため、該A部にてフルペネ溶接(完全溶け込み溶接)作業を行うことは難しく、溶接の品質の確保が難しいという問題があった。
また、作業性の面でも、この溶接は、波形隔壁ブロック120の足元での作業となり、溶接作業が非常に危険であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開昭52−067186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑み、強度上、波形隔壁ブロック下部にフルぺネ溶接をする必要がなく、隅肉溶接にて溶接作業を行うことが可能で、溶接品質の向上および現場の作業効率アップする船舶におけるロウスツール建造法を提供することを目的とする。また、スツールと波形隔壁の接合を、船台工程ではなく、大組立工程にて溶接をすることが可能で、現場の安全性の向上する船舶におけるロウスツール建造法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的に鑑み、本願請求項1に係る発明は、船舶におけるロウスツール建造法において、波形隔壁ブロックの下部スツール垂直側の山部又は谷部の壁の全長に渡って所定長の長さに切欠きした切欠き部が形成され、対応するスツールブロックの垂直側上部が前記の所定長に対応する長さに延長された突出壁が形成され、予め大組立工程において、前記波形隔壁ブロックの下部に形成された前記切欠き部と前記スツールブロック上部に形成された前記突出壁とを隅肉溶接で接合した一体型波形隔壁スツールブロックを形成した後、該波形隔壁スツールブロックを船台にてタンクトップ上に搭載することを特徴とする。
また、本願請求項2に係る発明は、前記請求項1に係る船舶におけるロウスツール建造法において、前記スツール垂直側上部が前記の所定長に対応する長さに延長された突出壁が形成されたスツールブロックのスツールトッププレートが水平に形成されたものであることを特徴とする。
さらに、本願請求項3に係る発明は、前記請求項1に係る船舶におけるロウスツール建造法において、前記スツール垂直側上部が前記の所定長に対応する長さに延長された突出壁が形成されたスツールブロックのスツールトッププレートが傾斜して形成されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、上述のとおり構成されているので、次に記載する効果を奏する。
(1)一部を突出させることにより、強度上、波形隔壁ブロック下部にフルぺネ溶接をする必要がなく、隅肉溶接にて溶接作業を行うことが可能となり、溶接品質の向上および現場の作業効率アップという効果を有する。
(2)また、スツールと波形隔壁の接合を、船台工程ではなく、大組立工程にて溶接をすることが可能となり、現場の安全性の向上という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1(a)は、本発明に係る船舶におけるロウスツール建造法を実施するための形態の一実施例であるロウスツール建造法の実施例1を示す図であり、前述するようにスツールトッププレートが水平の場合(図4に相当)を示す図であり、図1(b)は、前記波形隔壁とスツールトップとの接合部の概略拡大図、
【図2】図2(a)は、本発明に係る船舶におけるロウスツール建造法を実施するための形態の一実施例であるロウスツール建造法の実施例2を示す図であり、前述するようにスツールトッププレートが傾斜する場合(図5に相当)を示す図であり、図2(b)は、前記波形隔壁とスツールトップとの接合部の概略拡大図、
【図3】図3は、従来の船舶のスツールトップにガセットプレートが設けられるロウスツール建造法の概略を示す図、
【図4】図4は、同スツールのトッププレートが水平の場合の図3に示すA部のA−A断面図、
【図5】図5は、スツールトッププレートは斜めの場合の図3に示すA部のA−A断面図、
【図6】図6は、実開昭52-67186号公報に第3図として開示される排液構造を示す船艙壁下部の部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る船舶におけるロウスツール建造法を実施するための形態の一実施例を図面に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0014】
図1(a)は、本発明に係る船舶におけるロウスツール建造法を実施するための形態の一実施例であるロウスツール建造法の実施例1を示す図であり、前述するようにスツールトッププレートが水平の場合(図4に相当)を示す図であり、図1(b)は、前記波形隔壁とスツールトップとの接合部の概略拡大図である。図1(a)(b)において、符号1は、波形隔壁スツールブロック、2は、スツール122の垂直側の壁、3は、同スツール垂直側の壁2から上方に突出した突出壁、4は、前記波形隔壁120の下部の切欠き部、5は、前記突出壁3と当該切欠き部4との接合部、6は、前記スツールトッププレート125の船尾側の接合部であり、その余の符号120〜125は、図3〜図5に示した同一の部材を示す。また、符号(イ)(ロ)は、本実施例1に係る船舶のロウスツール建造法における各ブロックの搭載順を示す。
【0015】
本実施例1に係る船舶におけるロウスツール建造法は、船台工程ではなく大組立工程にて前記スツールブロック122と波形隔壁ブロック120を一体型として予め一つのブロックである波形隔壁スツールブロック1として大組立工程にて組み上げ、該一体となったスツール122と波形隔壁120からなる波形隔壁スツールブロック1を船台にてタンクトップ121上に搭載する。
【0016】
なお、大組立工程にて、スツール122と波形隔壁120からなる一体型の波形隔壁スツールブロック1とする際には、前記スツール122の垂直側の壁2をスツール122上部で切断せずに、前記壁2を全長に渡ってそのまま延長して、前記スツールブロック122上部より,若干長突出させた突出壁3を形成することとしたものである。また、全長に渡ってとは、スツール垂直側の壁2に接合される壁の全長(波形隔壁の山部又は谷部の壁全長)に渡っての意であり、波形隔壁の船体長さ方向の傾斜壁を含まない。
【0017】
そして、この突出壁3に対応させて、前記波形隔壁ブロック120の下部には、前記突出壁3の突出長さ分だけを切欠きした前記切欠き部4を形成しておき、前記スツールブロック122の上に前記波形隔壁ブロック120を載置し、前記接合部5、6を接合することにより一体化された波形隔壁スツールブロック1を形成する。
【0018】
このように予め大組立工程において、一体化された波形隔壁スツールブロック1を形成するので、作業としても容易で作業効率が向上することに加えて、前記スツール122の垂直側の壁2を前記スツールブロック122上部より延長して突出した突出壁3を設け、さらに、この突出壁3に対応させた前記波形隔壁ブロック120の下部の切欠き部4に接合させることにより、前記波形隔壁ブロック120下部がフルぺネ溶接ではなく、隅肉溶接(溶接強度はフルペネ溶接の約半分程度)にて溶接作業を行うことが可能となり、壁の強度も向上する。
そして、一体化された波形隔壁スツールブロック1を船台上で前記タンクトップ121上の所定位置に搭載する。
【実施例2】
【0019】
図2(a)は、本発明に係る船舶におけるロウスツール建造法を実施するための形態の一実施例であるロウスツール建造法の実施例2を示す図であり、前述するようにスツールトッププレートが傾斜する場合(図5に相当)を示す図であり、図2(b)は、前記波形隔壁とスツールトップとの接合部の概略拡大図である。図2(a)(b)において、図1(a)(b)で説明した部材と同一の部材は同一の符号で説明する。また、符号(イ)(ロ)は、本実施例1に係る船舶のロウスツール建造法における各ブロックの搭載順を示す。
【0020】
本実施例2に係る船舶におけるロウスツール建造法も、前述した実施例1に係る船舶のロウスツール構造法と同様に、船台工程ではなく大組立工程にて前記スツールブロック122と波形隔壁ブロック120を一体型として予め一つのブロックである波形隔壁スツールブロック1として大組立工程にて組み上げ、該一体となったスツール122と波形隔壁120からなる波形隔壁スツールブロック1を船台にてタンクトップ121上に搭載する建造方法である。
【0021】
そして、上述する実施例1に係る船舶におけるロウスツール建造法と同様に、大組立工程にて、前記スツールブロック122と前記波形隔壁ブロック120からなる一体型の波形隔壁スツールブロック1を形成する。この場合において、前述同様、前記スツールブロック122の垂直側の壁2を全長に渡ってそのまま延長して、前記スツールブロック122上部より,若干長突出させた突出壁3を形成することとしたものである。なお、全長に渡ってとは、スツール垂直側の波形隔壁の船体長さ方向の傾斜壁を含まないことは前述同様である。
【0022】
そして、当該スツールブロック122の突出壁3に対応させて、前記波形隔壁ブロック120の下部には、前記突出壁3の突出長さ分だけを切欠きした前記切欠き部4を形成しておき、前記スツールブロック122の上に前記波形隔壁ブロック120を載置し、前記接合部5、6を接合することにより一体化された波形隔壁スツールブロック1を形成することも前述同様である。
【0023】
このように本実施例2に係る船舶のロウスツール構造法も前述した実施例1に係る船舶におけるロウスツール構造法と同様に、予め大組立工程において、一体化された波形隔壁スツールブロック1を形成するので、作業としても容易で作業効率が向上することに加えて、前記スツール122の垂直側の壁2を前記スツールブロック122上部より延長して突出した突出壁3を設け、さらに、この突出壁3に対応させた前記波形隔壁ブロック120の下部の切欠き部4に接合させることにより、前記波形隔壁ブロック120下部がフルぺネ溶接ではなく、隅肉溶接(溶接強度はフルペネ溶接の約半分程度)にて溶接作業を行うことが可能となり、壁の強度も向上する。
【0024】
そして、前述する実施例1に係る船舶のロウスツール建造法と同様に、一体化された波形隔壁スツールブロック1を船台上に運び、前記タンクトップ121上の所定位置に搭載する。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、船舶におけるロウスツール建造法に利用できる。
【符号の説明】
【0026】
1 波形隔壁スツールブロック
2 スツール垂直側の壁
3 突出壁
4 切欠き部
5、6 接合部
101 支持台
103 側壁板
104 船艙壁
105 凹入溝
106 傾斜案内板
107 連通口
109 貯液槽
110 弁
111 トランク
112 蒸気供給管
120 波形隔壁(波形隔壁ブロック)
121 タンクトップ
122 スツール(スツールブロック)
123 ガセットプレート
124 船底
125 スツールトッププレート
A A部
B 密閉空間
C 排液路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
波形隔壁ブロックの下部スツール垂直側の山部又は谷部の壁の全長に渡って所定長の長さに切欠きした切欠き部が形成され、対応するスツールブロックの垂直側上部が前記の所定長に対応する長さに延長された突出壁が形成され、予め大組立工程において、前記波形隔壁ブロックの下部に形成された前記切欠き部と前記スツールブロック上部に形成された前記突出壁とを隅肉溶接で接合した一体型波形隔壁スツールブロックを形成した後、該波形隔壁スツールブロックを船台にてタンクトップ上に搭載することを特徴とする船舶におけるロウスツール建造法。
【請求項2】
前記スツール垂直側上部が前記の所定長に対応する長さに延長された突出壁が形成されたスツールブロックのスツールトッププレートが水平に形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の船舶におけるロウスツール建造法。
【請求項3】
前記スツール垂直側上部が前記の所定長に対応する長さに延長された突出壁が形成されたスツールブロックのスツールトッププレートが傾斜して形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の船舶におけるロウスツール建造法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−179934(P2012−179934A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42218(P2011−42218)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000146814)株式会社新来島どっく (101)