説明

船舶バラスト水の処理方法

【課題】 コンパクトで多量の電気を必要とせず、殺菌剤の濃度制御が容易な船舶バラスト水の処理システムを提供する。
【解決手段】 船舶バラスト水の処理システムは、原水Wの取水部1と、この取水部1に接続した原水Wを送給するメインライン2と、その末端に設けられたバラストタンク3とを備える。メインライン2の途中には送水手段としての第一の送液ポンプ4が設けられている。メインライン2の第一の送液ポンプ4より下流側にバイパスライン5Aが付設されている。このバイパスライン5Aには、ジクロロイソシアヌル酸Sが充填された殺菌剤溶解槽6が設けられている。この殺菌剤溶解槽6にはバイパスライン5Bが接続されていて、その末端には殺菌剤溶液貯槽7が設けられている。この殺菌剤溶液貯槽7には、バイパスライン5Cが接続されていて、このバイパスライン5Cがメインライン2に合流している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶のバラストタンクに積み込まれるバラスト水に含まれる細菌類およびプランクトンなどの微小水生生物の殺滅を行う船舶バラスト水の処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に船舶、特に貨物船は、積載貨物などの重量を含めて設計されているため、空荷または積荷が少ない状態の船舶は、プロペラ没水深度の確保、空荷時における安全航行の確保等の必要性から、出港前に港において海水を取水して船舶のバランスを取るが、このバラストとして用いられる水のことをバラスト水とよぶ。このバラスト水は、無積載で出港するとき、その出港地で港の海水などをバラストタンクに積み込む一方、逆に港内で積荷をするときには、バラスト水の排水を行う。
【0003】
ところで、環境の異なる荷積み港と荷下し港との間を往復する船舶によってバラスト水の注排水が行われると、荷積み港と荷下し港におけるバラスト水に含まれる微生物の差異により沿岸生態系に悪影響を及ぼすことが懸念されている。そこで、船舶のバラスト水管理に関する国際会議において2004年2月に船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管理のための国際条約が採択され、バラスト水の処理が義務付けられることとなった。
【0004】
バラスト水の処理基準として国際海事機構(IMO)が定める基準は、船舶から排出されるバラスト水に含まれる50μm以上の生物(主に動物プランクトン)の数が1m中に10個未満、10μm以上50μm未満の生物(主に植物プランクトン)の数が1ml中に10個未満、コレラ菌の数が100ml中に1cfu未満、大腸菌の数が100ml中に250cfu未満、腸球菌の数が100ml中に100cfu未満となっている。
【0005】
このようなバラスト水の処理基準を満たすために、バラストタンクへ注水する海水中の微生物等を殺菌する処理システムが種々提案されている。例えば、特許文献1には、原水をろ過した後、紫外線(UV)を照射することにより微生物等を殺菌する装置が開示されている。また、特許文献2には、バラスト水中にオゾンを注入することにより微生物等を殺菌する装置が開示されている。特許文献3には、電解装置により電解塩素を発生させて、微生物等を殺菌するバラスト水の処理システムが開示されている。特許文献4には、バラスト水に次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸カルシウムなどの塩素系の殺菌剤を添加して、滞留時間を確保することにより微生物等を殺菌するバラスト水の処理システムが開示されている。さらに、塩素酸塩、過酸化水素及び硫酸から酸化物としての二酸化塩素を生成させて殺菌剤とする技術、過酸化水素と酢酸とから過酢酸を生成させ、余剰の過酸化水素と過酢酸とにより殺菌する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−207796号公報
【特許文献2】特開2010−13098号公報
【特許文献3】特表2010−536540号公報
【特許文献4】特開2009−297610号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されたバラスト水処理装置では、紫外線を発生するための装置が必要であるばかりでなく、多量の電気が必要であり、発電機を設けなければならない場合が多い。さらに、UVランプの定期的な洗浄が必要で手間がかかり実用的でない、という問題点がある。
【0008】
また、特許文献2に記載されているように酸化性ガスとしてのオゾンガスを殺菌剤として用いるバラスト水の処理装置では、オゾン発生のための装置と多量の電気が必要であり、発電機を設けなければならない場合が多い。さらに、高価なオゾン溶解槽が必要な上に廃オゾンの処理が必要となるという問題点がある。
【0009】
また、電解装置により電解塩素を発生させて、微生物等を殺菌するバラスト水の処理方法が特許文献3に開示されているが、電解装置は高価でその制御も煩雑であり、多量の電気が必要で発電機を設けなければならない場合が多いうえに、塩分濃度の低い水を被処理水(原水)とする際には、処理時の電圧が上昇し消費電力が増加してしまう、という問題がある。
【0010】
そこで、特許文献4に記載されているように、次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸カルシウムなどの塩素系の殺菌剤を用いることにより、多量の電力や装置的な負担を軽減してプランクトンや細菌を殺滅することが一般に行われているが、次亜塩素酸ナトリウムは有効塩素濃度が13%程度しかないので、多量の薬剤を船舶に積載する必要があり、また、次亜塩素酸ナトリウムは、高温では不安定で分解してしまうため、冷却装置を設けて30℃以下に保持する必要があり、管理が面倒である、という問題点がある。一方、次亜塩素酸カルシウムは、海水に溶解すると硫酸カルシウムが析出し、スケールとなるため、淡水化のための装置を設けるか、スケールの除去が必要となる、という問題点がある。さらに、これらの塩素系の殺菌剤は海水中含まれている有機物と塩素が反応してトリハロメタン等の有機ハロゲン化物が生成し、排出環境を悪化させる虞がある、という問題がある。
【0011】
そこで、この対策として、単位重量当りの塩素濃度が高い固形の薬剤を用いることが考えられるが、次亜塩素酸カルシウムのような固形薬剤をそのままバラスト水に添加する際には、固体をバラスト水配管に注入する専用設備が必要となり、設置スペースを確保する必要がある、という問題がある。
【0012】
さらに、バラスト水は、荷積み港においては、ほぼ全量が環境中に排出されるため、毒物である殺菌能のある活性物質の濃度が高すぎると環境に排出された後、環境破壊の原因となりうるため、必要最低限に近いレベルに制御する必要がある。その一方で、殺菌能のある活性物質が低いとバラスト水中の有害微生物の殺滅が不十分となる。このため、殺菌剤の濃度は有害微生物の殺滅に必要十分な濃度に厳密に制御するのが好ましい。
【0013】
実際にはバラスト水に対しては、殺菌剤が所定の濃度となるように殺菌剤を添加するが、バラスト水の取水流量は、船舶の喫水、バラストタンク内のバラスト水のレベル、バラスト水を供給するポンプの能力などにより大きく変動するため、この大きな流量変動に対応して、殺菌剤の濃度をほぼ一定のレベルに制御するのは極めて困難であった。特に固形の薬剤を使用した場合には、濃度の制御が難しい。これは、通常は粉末の薬剤を溶解槽に添加・溶解するため、粉末の添加量を制御することで濃度をコントロールする必要がある。しかしながら、粉末の添加量を制御する場合には、薬剤濃度の制御範囲は±50%程度であり、バラスト水の処理には、さらに制御精度を向上させる必要があるが、従来これらの制御を十分に満足するバラスト水処理システムはなかった。
【0014】
本発明は、かかる課題を解決して、コンパクトで多量の電気を必要とせず、殺菌剤の濃度制御が容易な船舶バラスト水の処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明は、船舶のバラストタンクに注水する水に殺菌剤を供給してプランクトンや有害細菌を殺滅して、バラストタンクに貯留する船舶バラスト水の処理システムであって、原水の取水部と、この取水部に接続した原水をバラストタンクに送給するメインラインとを備え、前記メインラインの途中にバイパスラインが付設されており、前記バイパスラインの途中にはジクロロイソシアヌル酸が充填された殺菌剤溶解槽が設けられていて、前記バイパスラインから前記殺菌剤溶解槽に存するジクロロイソシアヌル酸の飽和溶解度における水量よりも少ない量の水を供給してジクロロイソシアヌル酸溶液を調製し、前記殺菌剤溶解槽から前記バイパスラインを経由して前記バラストタンクに前記ジクロロイソシアヌル酸溶液を連続的もしくは断続的に供給可能となっていることを特徴とする船舶バラスト水の処理システムを提供する(発明1)。
【0016】
かかる発明(発明1)によれば、取水部からメインラインに原水を供給し、このメインラインからバイパスラインに原水を分取して、該バイパスラインの途中に設けられた殺菌剤溶解槽を経由させて、殺菌剤溶解槽から排出されるジクロロイソシアヌル酸溶液を原水が所定の塩素濃度となるようにバラストタンクに連続的もしくは断続的に供給可能することで、原水(バラスト水)に含まれる細菌類およびプランクトンなどの微細水生生物を殺滅することができる。このとき、殺菌剤溶解槽にジクロロイソシアヌル酸の飽和溶解度における水量よりも少ない量の水を供給することで飽和濃度、もしくはこれに近似する濃度のジクロロイソシアヌル酸溶液を得ることができるので、メインラインの流量に応じてジクロロイソシアヌル酸溶液のバラストタンクへの供給量を調整するだけで、原水(バラスト水)の塩素濃度を制御することができる。これによりジクロロイソシアヌル酸を有効利用するとともに安定した殺菌性能を維持することができる。
【0017】
上記発明(発明1)においては、前記殺菌剤溶解槽にはジクロロイソシアヌル酸の供給機構が連通していて、前記殺菌剤溶解槽内にジクロロイソシアヌル酸を補給可能となっているのが好ましい(発明2)。特に上記発明(発明2)においては、前記殺菌剤溶解槽に殺菌剤センサが設けられていて、該殺菌剤センサの出力に応じて、前記供給機構から前記殺菌剤溶解槽にジクロロイソシアヌル酸を供給可能となっているのが好ましい(発明3)。
【0018】
かかる発明(発明2,3)によれば、飽和濃度、もしくはこれに近似する濃度のジクロロイソシアヌル酸溶液を長期間連続的もしくは断続的に供給することができる。
【0019】
上記発明(発明1〜3)においては、前記バイパスラインの前記殺菌剤溶解槽の下流側には殺菌剤溶液貯槽が設けられているのが好ましい(発明4)。
【0020】
かかる発明(発明4)によれば、殺菌剤溶解槽で調製した飽和濃度、もしくはこれに近似する濃度のジクロロイソシアヌル酸溶液を殺菌剤溶液貯槽で貯留しておくことで、ジクロロイソシアヌル酸溶液をバラストタンクへ安定的に供給することができる。
【0021】
上記発明(発明4)においては、前記殺菌剤溶液貯槽には、殺菌剤センサが設けられているとともに、前記バイパスラインの前記殺菌剤溶液貯槽より下流側には流量調整手段を備え、前記メインライン及び前記バイパスラインの前記殺菌剤溶液貯槽より下流側にはそれぞれ流量計が設けられて、これら殺菌剤センサ、流量調整手段及び流量計は、制御手段に接続しており、前記殺菌剤センサ及び前記メインラインの流量計の出力に応じて前記流量調整手段を制御することで、前記ジクロロイソシアヌル酸溶液の供給量を調整可能となっているのが好ましい(発明5)。
【0022】
かかる発明(発明5)によれば、メインラインの流量と、殺菌剤センサの出力とに応じて、殺菌剤溶液貯槽からの流量を流量調整手段で制御することで、バラストタンクに供給するジクロロイソシアヌル酸溶液の供給量を効率良く制御することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の船舶バラスト水の処理システムによれば、取水部からメインラインに原水を供給し、このメインラインからバイパスラインに原水を分取して、該バイパスラインの途中に設けられた殺菌剤溶解槽を経由させて、ジクロロイソシアヌル酸溶液を原水が所定の塩素濃度となるようにバラストタンクに連続的もしくは断続的に供給可能し、原水(バラスト水)に含まれる細菌類およびプランクトンなどの微細水生生物を殺滅する。このとき、殺菌剤溶解槽にジクロロイソシアヌル酸の飽和溶解度となるよりも少ない量の水を供給することで、飽和濃度、もしくはこれに近似する濃度のジクロロイソシアヌル酸溶液を得ることができるので、メインラインの流量に応じてジクロロイソシアヌル酸溶液のバラストタンクへの供給量を調製するだけで、殺菌剤溶液貯槽中の殺菌剤溶液の塩素濃度を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施の形態に係る船舶バラスト水の処理システムを示すフロー図である。
【図2】実施例1の船舶バラスト水の処理システムにおけるジクロロイソシアヌル酸溶液の塩素濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図1を参照して本実施形態の船舶バラスト水の処理システムについて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る船舶バラスト水の処理システムを示すフロー図である。
【0026】
図1において、本実施の形態に係る船舶バラスト水の処理システムは、バラスト水としての原水Wの取水部1と、この取水部1に接続した原水Wを送給するメインライン2と、このメインライン2の末端に設けられたバラストタンク3とを備え、メインライン2の途中には送水手段としての第一の送液ポンプ4が設けられている。メインライン2の第一の送液ポンプ4より下流側にバイパスライン5Aが付設されている。このバイパスライン5Aの末端には、ジクロロイソシアヌル酸Dが充填された殺菌剤溶解槽6が設けられていて、この殺菌剤溶解槽6にはバイパスライン5Bが接続されていて、このバイパスライン5Bの末端には殺菌剤溶液貯槽7が設けられている。この殺菌剤溶液貯槽7には、バイパスライン5Cが接続されていて、このバイパスライン5Cがメインライン2に合流している。
【0027】
そして、バイパスライン5A、5B、5Cには、送水手段としての第二の送液ポンプ8、第三の送液ポンプ9及び第四の送液ポンプ10がそれぞれ設けられているとともに、バイパスライン5Cには流量調整手段としての流量調整弁11が設けられている。また、殺菌剤溶解槽6には、ジクロロイソシアヌル酸の供給機構12が連通していて殺菌剤溶解槽6内にジクロロイソシアヌル酸を補給可能となっている。
【0028】
上述したようなシステム構成において、殺菌剤溶解槽6には、殺菌剤センサとしての第一の塩素濃度センサ13が設けられていて、この第一の塩素濃度センサ13と供給機構12とは図示しない制御機構に接続していて、第一の塩素濃度センサ13の塩素濃度出力が所定の値を下回ったら、供給機構12から殺菌剤溶解槽6にジクロロイソシアヌル酸Dを補給可能となっている。
【0029】
さらに、殺菌剤溶液貯槽7には、殺菌剤センサとしての第二の塩素濃度センサ14が設けられているとともに、メインライン2及びバイパスライン5Cにはそれぞれ第一の流量計15及び第二の流量計16が設けられて、これら第二の塩素濃度センサ14、流量調整弁11、第一の流量計15及び第二の流量計16は、制御手段としての演算装置17に接続している。そして、第二の塩素濃度センサ14、第一の流量計15及び第二の流量計16の出力に応じて、流量調整手段としての流量調整弁11を制御することでジクロロイソシアヌル酸溶液Sのバラストタンク3への供給量が調整可能となっている。
【0030】
本実施形態において、ジクロロイソシアヌル酸Dとしては、特に制限はなく、タブレット状、顆粒状又は微小錠剤などの固形状物が好ましい。
【0031】
次に、図1に示された船舶バラスト水処理装置を用いて、バラスト水の積込み時に細菌類やプランクトンの死滅処理を行うバラスト水の処理方法について以下説明する。
【0032】
まず、原水(バラスト水)Wの積込み時には、取水部1を開放し、原水Wを取水部1からメインライン2を通過してバラストタンク3に流入させる。このとき、初期状態においては、原水Wの水面とバラストタンク3の水位(底部)との水頭差が大きいので、第一の送液ポンプ4を駆動しないか、もしくは軽微な動力で駆動するだけでよい。
【0033】
一方、殺菌剤溶解槽6にあらかじめ十分な量のジクロロイソシアヌル酸Dを貯留しておく。そして第二の送液ポンプ8を駆動して、メインライン2からバイパスライン5A側に原水Wを分岐して、ジクロロイソシアヌル酸の飽和溶解度における水量よりも少ない量の原水Wを殺菌剤溶解槽6に供給する。なお、殺菌剤溶解槽6の下部には、ディストリビュータなどの攪拌装置6Aにより殺菌剤溶解槽6内を攪拌することで、ジクロロイソシアヌル酸Dを均一に溶解するのが好ましい。
【0034】
そして、第三の送液ポンプ9を駆動して殺菌剤溶解槽6の上澄み液をジクロロイソシアヌル酸溶液(殺菌剤溶液)Sとして排出し、バイパスライン5Bを経由して一旦殺菌剤溶液貯槽7に貯留した後、第四の送液ポンプ10を駆動してバイパスライン5Cからメインライン2に合流させることで、ジクロロイソシアヌル酸溶液Sをバラストタンク3に供給することができる。
【0035】
上述したようなプロセスにおいて、バラストタンク3内における殺菌性能を維持するためにバラストタンク3に流入する原水Wにおけるジクロロイソシアヌル酸溶液Sの濃度は所定の範囲内(例えば、1〜100mg/L(塩素換算))に維持する必要がある。
【0036】
しかしながら、バラストタンク3に原水Wが満たされていくに伴い、原水Wの水面とバラストタンク3内の水面との水頭差が縮小するので、第一の送液ポンプ4の駆動力を増大させる必要があり、これに伴いメインライン2を通過する原水Wの流量が変動する。そこで、ジクロロイソシアヌル酸溶液Sの供給量も変動させる必要があるが、その制御は煩雑となってしまう。
【0037】
そこで、本実施形態においては、殺菌剤溶解槽6に殺菌剤センサとしての第一の塩素濃度センサ13を設け、殺菌剤溶解槽6内のジクロロイソシアヌル酸Dが減少して、ジクロロイソシアヌル酸溶液Sの塩素濃度が低下してきたら、供給機構12を駆動してジクロロイソシアヌル酸Dを殺菌剤溶解槽6に補給することで、ジクロロイソシアヌル酸溶液Sの塩素濃度を飽和濃度もしくはそれに近い濃度に維持する。具体的には、ジクロロイソシアヌル酸Dの常温での飽和濃度における塩素濃度は約13重量%であるので、例えば、第一の塩素濃度センサ13の塩素濃度が12.5重量%となったら、ジクロロイソシアヌル酸溶液Sを補給することで、ジクロロイソシアヌル酸溶液Sの溶解量を塩素濃度換算で12重量%以上、特に12.5重量%以上に維持する。
【0038】
上述したように殺菌剤溶解槽6へのジクロロイソシアヌル酸Dの補給を制御することにより、ジクロロイソシアヌル酸溶液Sをほぼ一定の塩素濃度とすることができる。
【0039】
このとき、第二の送液ポンプ8によるバイパスライン5Aへの原水Wの供給量は、メインライン2の全流量の1/10〜1/10000、特に1/10〜1/1000の水量の範囲となるのが好ましい。バイパスライン5Aへの分岐流量がメインライン2の全流量の1/10より多いと、ジクロロイソシアヌル酸溶液Sを飽和溶解度もしくはこれに近似する濃度に維持するのが困難となる一方、1/10000より少ないと、バラストタンク3に供給するジクロロイソシアヌル酸溶液Sの量自体が少なくなり、十分な殺菌効果が得られなくなるため好ましくない。
【0040】
そして、演算装置17により、第一の流量計15で計測したメインライン2の流量と、殺菌剤溶解槽6に設置した第二の塩素濃度センサ14とから、メインライン2に合流させるジクロロイソシアヌル酸溶液Sの量を算出し、第二の流量計16で計測したバイパスライン5Cの流量に応じて流量調整弁11を制御して、バイパスライン5Cを流通するジクロロイソシアヌル酸溶液Sの量を調整することで、バラストタンク3に供給するジクロロイソシアヌル酸溶液Sの供給量を効率良く制御することができるようになっている。
【0041】
このようにしてバラストタンク3にジクロロイソシアヌル酸Dを供給することでジクロロイソシアヌル酸Dから発生する有効塩素により、原水W中のプランクトンや細菌類を死滅させることができる。特に、殺菌剤溶解槽6からのジクロロイソシアヌル酸溶液Sを飽和溶解度もしくはこれに近似する濃度に維持することで、原水Wに対する塩素濃度を制御することができ、原水Wがどのような水質であっても確実かつ安価にIMOが定めるバラスト水基準を満たすバラスト水の処理が実現できる。
【0042】
なお、バラスト水の排出時は、バイパスライン5Cを閉鎖して、メインライン2を開放して、第一の送液ポンプ4を排出側に駆動する。これにより、バラストタンク3内のバラスト水Wを、メインライン2を経由して排出すればよい。
【0043】
このとき、図示しない還元剤供給機構により排バラスト水に還元剤を供給して残存する塩素を還元し、残留塩素濃度を目標残留塩素濃度にまで低減し、目標残留塩素濃度にまで低減した上で外部環境に排水する。この還元剤供給機構から供給される還元剤としては、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム(亜硫酸水素ナトリウム)、チオ硫酸ナトリウムなどを用いることができる。特にチオ硫酸ナトリウムを用いるのが好ましい。
【0044】
以上、本発明について添付図面を参照して説明してきたが、本発明は前記実施形態に限定されず、種々の変形実施が可能である。例えば、攪拌装置6Aとしては、ディストリビュータに限らず、攪拌ポンプ、回転式攪拌機などを用いることができる。また、殺菌剤溶液貯槽7は必ずしも必要ではなく、殺菌剤溶液貯槽7を用いない場合には、第一の塩素濃度センサ13の出力に基づいて、バイパスライン5Cの流量調整弁11を制御すればよい。さらに、殺菌剤溶解槽6に設ける殺菌剤センサとしては、殺菌剤溶解槽6内のジクロロイソシアヌル酸の残存量を知ることができればよく、殺菌剤溶解槽6内のジクロロイソシアヌル酸のスラリーの残量を直接計測する界面計などを用いてもよい。
【実施例】
【0045】
以下の具体的実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
〔実施例1〕
【0046】
塩類濃度4重量%の人工海水を調製し、この人工海水を模擬原水Wとした。図1に示す試験用処理システムにおいて、殺菌剤溶解槽6に1.2Lの原水Wと20〜600gのジクロロイソシアヌル酸が残存するように供給機構12からジクロロイソシアヌル酸Dを補充するとともに、殺菌剤溶液貯槽7に300mLのジクロロイソシアヌル酸溶液Sを貯留して、原水Wの流量を4m/h、バイパスライン5Aへの供給量1.2L/hとして処理を行った。
【0047】
このような処理工程において、第一の塩素濃度センサ13により計測された塩素濃度、すなわちジクロロイソシアヌル酸溶液Sの塩素濃度を測定した。結果を図2に示す。
【0048】
図2から明らかなとおり、実施例1の処理システムによりジクロロイソシアヌル酸溶液Sの塩素濃度12.5重量%以上に維持することができ、飽和濃度に近い溶液を安定的に供給することができることがわかった。また、得られたバラスト水のジクロロイソシアヌル酸の濃度は、平均25mg/L(塩素濃度換算)、最大30mg/L(塩素濃度換算)であり、十分な殺菌性能を有するものであった。これらのことから実施例1の船舶バラスト水の処理システムの有効性を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の船舶のバラストの処理システムは、各種船舶、特に大型の船舶のバラスト水の処理に好適に使用できる。
【符号の説明】
【0050】
1…取水部
2…メインライン
3…バラストタンク
5A…バイパスライン
5B…バイパスライン
5C…バイパスライン
6…殺菌剤溶解槽
7…殺菌剤溶液貯槽
11…流量調整弁(流量調整手段)
12…供給機構
13…第一の塩素濃度センサ(殺菌剤センサ)
14…第二の塩素濃度センサ
15…第一の流量計
16…第二の流量計
W…原水
D…ジクロロイソシアヌル酸
S…ジクロロイソシアヌル酸溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶のバラストタンクに注水する水に殺菌剤を供給してプランクトンや有害細菌を殺滅して、バラストタンクに貯留する船舶バラスト水の処理システムであって、
原水の取水部と、この取水部に接続した原水をバラストタンクに送給するメインラインとを備え、
前記メインラインの途中にバイパスラインが付設されており、
前記バイパスラインの途中にはジクロロイソシアヌル酸が充填された殺菌剤溶解槽が設けられていて、
前記バイパスラインから前記殺菌剤溶解槽に存するジクロロイソシアヌル酸の飽和溶解度における水量よりも少ない量の水を供給してジクロロイソシアヌル酸溶液を調製し、
前記殺菌剤溶解槽から前記バイパスラインを経由して前記バラストタンクに前記ジクロロイソシアヌル酸溶液を連続的もしくは断続的に供給可能となっている
ことを特徴とする船舶バラスト水の処理システム。
【請求項2】
前記殺菌剤溶解槽にはジクロロイソシアヌル酸の供給機構が連通していて、前記殺菌剤溶解槽内にジクロロイソシアヌル酸を補給可能となっていることを特徴とする請求項1に記載の船舶バラスト水の処理システム。
【請求項3】
前記殺菌剤溶解槽に殺菌剤センサが設けられていて、該殺菌剤センサの出力に応じて、前記供給機構から前記殺菌剤溶解槽にジクロロイソシアヌル酸を供給可能となっていることを特徴とする請求項2に記載の船舶バラスト水の処理システム。
【請求項4】
前記バイパスラインの前記殺菌剤溶解槽の下流側には殺菌剤溶液貯槽が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の船舶バラスト水の処理システム。
【請求項5】
前記殺菌剤溶液貯槽には、殺菌剤センサが設けられているとともに、前記バイパスラインの前記殺菌剤溶液貯槽より下流側には流量調整手段を備え、前記メインライン及び前記バイパスラインの前記殺菌剤溶液貯槽より下流側にはそれぞれ流量計が設けられて、これら殺菌剤センサ、流量調整手段及び流量計は、制御手段に接続しており、前記殺菌剤センサ及び前記メインラインの流量計の出力に応じて前記流量調整手段を制御することで、前記ジクロロイソシアヌル酸溶液の供給量を調整可能となっていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の船舶バラスト水の処理システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−75250(P2013−75250A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215537(P2011−215537)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)