説明

船舶用エンジン緊急停止装置及び船舶用事故判定装置

【課題】船舶の衝突事故の発生及び転覆事故の発生を的確に検出して、衝突事故または転覆事故の発生時にエンジンを緊急停止する船舶用エンジン緊急停止装置を提供する。
【解決手段】船体2と船外機3とを備えた船舶の事故時にエンジンを停止させるエンジン緊急停止装置である。船体2の前後方向に働く加速度Gxと、上下方向に働く加速度Gyとを検出し得る加速度検出器318を設け、加速度Gxが判定値を超えたときに衝突事故が発生したと判定し、加速度Gyから演算した船舶のロール角が判定値を超えたときに転覆事故が発生したと判定する。衝突事故または転覆事故が発生したとの判定が行われたときにエンジンヘンの燃料の供給を停止してエンジンを停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船体とエンジンを駆動源とした推進装置とを備えた船舶の事故時に乗員の安全を図るためにエンジンを停止させるエンジン緊急停止装置、及び船舶に事故が発生したことの情報をエンジン緊急停止装置に与えるために用いる船舶用事故判定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船外機を推進装置として用いた船舶等の安全装置として、特許文献1や特許文献2に示されているように、操船者が落水したときにエンジンを停止させるようにしたエンジン緊急停止装置がある。この種の装置は、エンジン緊急停止スイッチと、エンジン緊急停止スイッチの操作部に引き外し可能な状態で取り付けられてスイッチを不動作状態に保持するスイッチ操作部材と、スイッチ操作部材を操船者の身体の一部に接続するロープ等を備えていて、操船者が落水したときにスイッチ操作部材を緊急停止スイッチから引き外すことにより、エンジンを停止させるようにしている。
【特許文献1】実公平5−48344号公報
【特許文献2】特開平2−221637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のように、従来の船舶用エンジン緊急停止装置は、操船者が落水したときにエンジンを停止させる手段を備えていたが、船体が何かに衝突したり、転覆したりしたときにエンジンを停止させる手段は持たなかった。
【0004】
そのため、従来の船舶では、船体が何かに衝突したり、転覆したりする事故が生じたときに、操船者が怪我をするなどして操船を行うことができない状態になったままで船内にとどまっていると、エンジンを停止させることができなかった。そのため、衝突時または転覆時に操船者以外の乗員が水上に放り出されると、回転しているプロペラに触れて怪我をしたり死亡したりするおそれがあり、危険であった。
【0005】
また従来の船舶では、衝突した後も推進力が働くため、船体が思わぬ方向に暴走するおそれがあり、二次的な事故を招くおそれがあった。
【0006】
更に、従来の船舶では、衝突事故や転覆事故の発生時にエンジンを停止させる手段を備えておらず、事故発生後もエンジンに燃料が供給され続けるため、エンジンで火災が発生するおそれがあった。
【0007】
船舶の衝突事故や転覆事故が起こったときにエンジンを停止させる等の保安措置を講じるためには、衝突事故や転覆事故の発生を確実に検出して、事故が生じたことの情報を保安装置に与えることができるようにしておくことが必要であるが、船舶の衝突事故や転覆事故を確実に検出する手段は未だ開発されていない。
【0008】
本発明の目的は、船舶が衝突事故や転覆事故を起こしたことを確実に検出して、衝突事故や転覆事故が生じたときに直ちにエンジンを停止させることができるようにして安全性を高めた船舶用エンジン緊急停止装置を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、船舶が衝突事故や転覆事故を起こしたことを確実に検出して、船舶の衝突事故や転覆事故が起こったことの情報をエンジン緊急停止装置などの保安装置に確実に与えることができる船舶用事故判定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、船体と、エンジンを駆動源とした推進装置とを備えた船舶の事故時にエンジンを停止させるエンジン緊急停止装置に係わるものである。
【0011】
本発明においては、船体に働く加速度を検出し得るように設けられた加速度検出器と、船体が何かと衝突したこと及び(または)転覆したことを判定の対象とする事故として、加速度検出器の出力から事故の発生の有無を判定する事故判定装置と、事故判定装置により事故が発生したと判定されたときにエンジンを停止させる事故時エンジン停止手段とが設けられる。
【0012】
船舶の衝突事故や転覆事故が発生したときには、船体に働く加速度が正常時とは異なる変化を示すため、上記のように、船体に働く加速度を検出する加速度検出器を設けておくと、その出力に基づいて衝突事故や転覆事故の発生の有無を判定することができ、事故が発生したと判定されたときにエンジンの点火動作を停止したり、エンジンへの燃料の供給を停止させることにより、エンジンを停止させることができる。
【0013】
このように、本発明よれば、衝突事故や転覆事故が発生したときにエンジンを停止させるようにしたので、衝突時または転覆時に操船者以外の乗員が水上に放り出された場合に、回転しているプロペラに触れて怪我をしたり死亡したりするおそれをなくすことができる。
【0014】
また衝突事故が発生したときにエンジンが停止するため、事故により操船者が怪我をするなどして操船を行うことができなくなったときに、船体が思わぬ方向に暴走するおそれをなくすことができる。
【0015】
本発明の好ましい態様では、上記加速度検出器が、少なくとも船舶の前後方向に働く加速度Gxを検出し得るように設けられる。この場合事故判定装置は、船舶の加速時または減速時に船舶の前後方向に働く加速度Gxの大きさが判定値を超えたときに船体が何かに衝突したと判定するように構成される。
【0016】
本発明の他の好ましい態様では、上記加速度検出器が、少なくとも船舶の上下方向に働く加速度Gyを検出し得るように設けられる。この場合事故判定装置は、船舶の上下方向に働く加速度Gyのアークコサイン値cos−1Gyから船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに船舶が転覆したと判定するように構成される。
【0017】
本発明の更に他の好ましい態様では、上記加速度検出器が、少なくとも船舶の横方向に働く加速度Gzを検出し得るように設けられる。この場合事故判定装置は、船舶の横方向に働く加速度Gzのアークサイン値sin−1Gzから船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに船舶が転覆したと判定するように構成される。
【0018】
本発明の更に他の好ましい態様では、上記加速度検出器が、船舶の前後方向に働く加速度Gxと上下方向に働く加速度Gyとを検出し得るように設けられる。この場合事故判定装置は、船舶の加速時または減速時に船舶の前後方向に働く加速度Gxの大きさが判定値を超えたときに船体が何かに衝突したと判定し、船舶の上下方向に働く加速度Gyのアークコサイン値cos−1Gyから船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに船舶が転覆したと判定するように構成される。
【0019】
本発明の更に他の好ましい態様では、上記加速度検出器が、船舶の前後方向に働く加速度Gxと横方向に働く加速度Gzとを検出し得るように設けられる。この場合事故判定装置は、船舶の加速時または減速時に船舶の前後方向に働く加速度Gxの大きさが判定値を超えたときに船体が何かに衝突したと判定し、船舶の横方向に働く加速度Gzのアークサイン値sin−1Gzから船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに船舶が転覆したと判定するように構成される。
【0020】
本発明の更に他の好ましい態様では、上記加速度検出器が、船舶の横方向に働く加速度Gzと上下方向に働く加速度Gyとを検出し得るように設けられる。この場合事故判定装置は、船舶の横方向に働く加速度Gzと上下方向に働く加速度Gyとの比(Gz/Gy)のアークタンジェント値tan−1(Gz/Gy)から船舶のロール角を求めて、求めたロール角が設定された判定値を超えたときに船舶が転覆したと判定するように構成される。
【0021】
本発明の更に他の好ましい態様では、上記加速度検出器が、船舶の前後方向に働く加速度Gxと上下方向に働く加速度Gyと横方向に働く加速度Gzとを検出し得るように設けられる。この場合事故判定装置は、船舶の加速時または減速時に前記船舶の前後方向に働く加速度Gxの大きさが判定値を超えたときに船体が何かに衝突したと判定し、船舶の横方向に働く加速度Gzと上下方向に働く加速度Gyとの比(Gz/Gy)のアークタンジェント値tan−1(Gz/Gy)から船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに船舶が転覆したと判定するように構成される。
【0022】
上記推進装置が船外機であって、船外機内に該船外機のトリム角の制御とエンジンの制御と上記事故判定装置を構成するための処理とを行うコントローラが設けられている場合には、上記加速度検出器をコントローラ内に設けるのが好ましい。
【0023】
このように構成すると、船外機を船体に取付ける際に船体に加速度検出器を取付ける必要がなく、また加速度検出器とコントローラとを接続するためのワイヤハーネスを長く引き回す必要がないため、船外機の取付作業を容易にすることができる。また船外機内に加速度検出器を取付けると、該加速度検出器が少なくとも上下方向に働く加速度Gyを検出し得るようにしておくことにより、該加速度検出器の出力から船外機の鉛直方向に対する傾斜角を検出することができるため、船外機のトリム角の制御に船外機の鉛直方向に対する傾斜角の情報を用いる場合に、その情報を得るための検出器として上記加速度検出器を利用することができる。
【0024】
船外機のエンジンが、インジェクタと該インジェクタに燃料を供給する燃料ポンプとを有する燃料噴射装置により燃料が供給されるように構成されている場合には、事故時エンジン停止手段を、事故判定装置により事故が発生したと判定されたときに燃料ポンプまたはインジェクタの少なくとも一方の駆動を停止することによりエンジンへの燃料の供給を停止してエンジンを停止させるように構成することができる。
【0025】
上記のように、事故判定装置により事故が発生したと判定されたときにエンジンへの燃料の供給を停止することによりエンジンを停止させるように構成しておくと、衝突事故や転覆事故の発生時にエンジンへの燃料の供給が停止するため、エンジンで火災が発生するおそれをなくすことができる。
【0026】
上記のように、エンジンが、インジェクタと該インジェクタに燃料を供給する燃料ポンプとを有する燃料噴射装置により燃料が供給されるように構成されている場合、事故時エンジン停止手段は、事故判定装置により事故が発生したと判定されたときに燃料ポンプまたはインジェクタの少なくとも一方の駆動を停止することによりエンジンへの燃料の供給を停止する燃料供給停止手段と、事故判定装置により事故が発生したと判定されたときにエンジンの点火動作を停止させる点火動作停止手段とにより構成することもできる。
【0027】
事故時に火災が発生するのを防ぐためには、上記のように、事故時にエンジンへの燃料の供給を停止させるのが好ましいが、事故時エンジン停止手段の構成は上記のものに限定されるものではなく、事故判定装置により事故が発生したと判定されたときにエンジンの点火動作を停止させる点火動作停止手段のみにより事故時エンジン停止手段を構成してもよい。
【0028】
本発明によればまた、船体とエンジンを駆動源とした推進装置とを備えた船舶に事故が発生したか否かを判定する船舶用事故判定装置が提供される。本発明に係わる事故判定装置においては、少なくとも船舶の前後方向に働く加速度Gxを検出し得るように設けられた加速度検出器と、船舶の加速時または減速時に船舶の前後方向に働く加速度Gxの大きさが判定値を超えたときに船体が何かに衝突したと判定する事故判定手段とが設けられる。
【0029】
本発明の好ましい態様では、船舶用事故判定装置が、少なくとも船舶の上下方向に働く加速度Gyを検出し得るように設けられた加速度検出器と、船舶の上下方向に働く加速度Gyのアークコサイン値cos−1Gyから船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに船舶が転覆したと判定する事故判定手段とにより構成される。
【0030】
本発明の他の好ましい態様では、船舶用事故判定装置が、少なくとも船舶の横方向に働く加速度Gzを検出し得るように設けられた加速度検出器と、船舶の横方向に働く加速度Gzのアークサイン値sin−1Gzから船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに船舶が転覆したと判定する事故判定手段とにより構成される。
【0031】
本発明の更に他の好ましい態様では、船舶用事故判定装置が、船舶の前後方向に働く加速度Gxと上下方向に働く加速度Gyとを検出し得るように設けられた加速度検出器と、船舶の加速時または減速時に前記船舶の前後方向に働く加速度Gxの大きさが判定値を超えたときに前記船体が何かに衝突したと判定し、船舶の上下方向に働く加速度Gyのアークコサイン値cos−1Gyから前記船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに前記船舶が転覆したと判定する事故判定手段とにより構成される。
【0032】
本発明の更に他の好ましい態様では、船舶用事故判定装置が、船舶の前後方向に働く加速度Gxと横方向に働く加速度Gzとを検出し得るように設けられた加速度検出器と、船舶の加速時または減速時に船舶の前後方向に働く加速度Gxの大きさが判定値を超えたときに船体が何かに衝突したと判定し、船舶の横方向に働く加速度Gzのアークサイン値sin−1Gzから船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに船舶が転覆したと判定する事故判定手段とにより構成される。
【0033】
本発明の更に他の好ましい態様では、船舶用事故判定装置が、船舶の横方向に働く加速度Gzと上下方向に働く加速度Gyとを検出し得るように設けられた加速度検出器と、船舶の横方向に働く加速度Gzと上下方向に働く加速度Gyとの比(Gz/Gy)のアークタンジェント値tan−1(Gz/Gy)から船舶のロール角を求めて、求めたロール角が設定された判定値を超えたときに船舶が転覆したと判定する事故判定手段とにより構成される。
【0034】
本発明の更に他の好ましい態様では、船舶用事故判定装置が、船舶の前後方向に働く加速度Gxと上下方向に働く加速度Gyと横方向に働く加速度Gzとを検出し得るように設けられた加速度検出器と、加速度検出器の出力を入力として、船舶の加速時または減速時に船舶の前後方向に働く加速度Gxの大きさが判定値を超えたときに船体が何かに衝突したと判定し、船舶の横方向に働く加速度Gzと上下方向に働く加速度Gyとの比(Gz/Gy)のアークタンジェント値tan−1(Gz/Gy)から船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに船舶が転覆したと判定する事故判定手段とにより構成される。
【発明の効果】
【0035】
以上のように、本発明によれば、船体に働く加速度を検出する加速度検出器を設けて、その出力に基づいて衝突事故や転覆事故の発生の有無を判定し、事故が発生したと判定されたときにエンジンへの燃料の供給を停止してエンジンを停止させるようにしたので、衝突時または転覆時に操船者以外の乗員が水上に放り出された場合に、回転しているプロペラに触れて怪我をしたり死亡したりするおそれをなくすことができる。
【0036】
また本発明によれば、衝突事故が発生したときにエンジンを停止させることができるため、事故により操船者が怪我をするなどして操船を行うことができなくなったときに、船体が思わぬ方向に暴走するおそれをなくすことができる。
【0037】
本発明によればまた、衝突事故や転覆事故の発生時にエンジンへの燃料の供給を停止するようにしたため、エンジンで火災が発生するおそれをなくすことができる。
【0038】
また本発明に係わる船舶用事故判定装置によれば、船舶が何かに衝突したり、転覆したりしたときにそれを的確に検出することができるため、事故発生の情報をエンジン緊急停止装置に与えて、エンジン緊急停止装置の動作を確実に行わせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
本発明は、船体とエンジンを駆動源とした推進装置とを備えた船舶に広く適用することができるが、本実施形態では、図1に示すように、推進装置として船外機を用いる船舶1に本発明を適用するものとする。図1において2は操舵用のステアリングホイール2a、スロットルレバー2b、運転席2cなどを有する船体、3は船外機である。
【0040】
船外機3は、エンジン301と該エンジンにより駆動されるプロペラ302とを備えた船外機本体303と、船外機本体の前部の左右に設けられたブラケット304とを備えていて、ブラケット304を介して船体2のトランザム(船尾)2dに取付けられている。左右のブラケット304の間には、モータや流体圧シリンダを駆動源として、ブラケット304に設けられた回動軸305の回りに船外機本体303を回動させるパワートリム装置が設けられている。
【0041】
図2は、船外機のエンジンの制御を行う制御装置と、パワートリム装置の制御装置と、本発明に係わるエンジン緊急停止装置とを構成する制御部のハードウェアの構成例を示したものである。同図において、3は船外機、4は船体2の運転席2cの近傍に取り付けられたリモートコントロールユニット(リモコンユニット)を示している。
【0042】
図2において310は船外機に設けられたパワートリム装置(PTTユニット)、311はパワートリムコントローラ(PTTコントローラ)、312はエンジンコントローラである。パワートリム装置310は、パワートリムモータ(PTTモータ)315と、PTTモータを動力源として船外機本体303の船体2に対する傾斜角を調節するトリム機構と、船外機本体303の船体2に対する傾斜角を検出するトリム角センサ316とを備えている。
【0043】
PTTコントローラ311は、CPUを有するマイクロプロセッサ317と、加速度検出器318と、PTTモータ315に駆動電流を供給するモータドライブ回路319とを備えている。
【0044】
図2には図示してないが、エンジンコントローラ312にもマイクロプロセッサが設けられている。エンジンコントローラ312は、そのマイクロプロセッサに所定のプログラムを実行させることにより、エンジンの点火時期の制御と、エンジンヘの燃料の供給の制御とを行う。
【0045】
リモコンユニット4には、動作モードを自動制御モードとするか、マニュアルモードとするかを選択するために運転者により操作されるモード選択スイッチ401と、マニュアルモードが選択されているときに船外機をトリムアップ方向及びトリムダウン方向にそれぞれ動かすために運転者により操作されるPTTスイッチ402と、現在のトリム角と動作モードとを表示する表示器403とが設けられている。
【0046】
本実施形態では、PTTコントローラ302に設けられたマイクロプロセッサを利用して、本発明に係わるエンジン緊急停止装置を構成するために必要な処理を行う。図3は、本実施形態のエンジン緊急停止装置に係わる部分の構成を示したブロック図で、同図において2は船体、3は船外機本体303と、パワートリム装置310とを備えた船外機である。
【0047】
本実施形態では、船外機本体のエンジンに燃料を供給する装置として、燃料噴射装置320が用いられている。燃料噴射装置320は、エンジンの吸気管内などの燃料噴射空間に燃料を噴射するように取付けられたインジェクタと、該インジェクタに燃料を供給する燃料ポンプと、インジェクタから所定量の燃料を噴射させるようにインジェクタが燃料を噴射する時間を制御するインジェクタ制御部とを備えた周知のものである。
【0048】
本発明に係わるエンジン緊急停止装置は、加速度検出器318と、加速度検出器318の出力から事故の判定に必要なパラメータを求める演算処理部21と、演算処理部21により求められたパラメータを用いて事故の発生の有無を判定する事故判定手段24と、事故判定手段24により事故が発生したとの判定が行なわれたときにエンジンを停止させる事故時エンジン停止手段25とにより構成される。
【0049】
事故判定手段24は、船体2が何かと衝突したこと及び(または)転覆したことを判定の対象とする事故として、加速度検出器318の出力から事故の発生の有無を判定する。本実施形態では、加速度検出器318が、船体2の前後方向に働く加速度Gxと上下方向に働く加速度Gyとを検出し得るように設けられた2軸加速度センサからなり、事故判定手段24は、船舶の加速時または減速時に船舶の前後方向に働く加速度Gxの大きさが判定値を超えたときに船体2が何かに衝突したと判定し、船舶の上下方向に働く加速度Gyのアークコサイン値から船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに船舶が転覆したと判定するように構成されている。
【0050】
本明細書においては、船外機3のプロペラ302の中心軸線を含む平面のうち、船体2が静止水面に浮いて静止しているときに鉛直方向に沿う状態になる一つの平面を基準平面とし、基準平面上で船体2の喫水線に沿う方向を船舶の長手方向とする。基準平面は、図1の紙面と平行な面であり、船舶の長手方向は、図1の直線Lに沿う方向である。そして、船外機が設定された最小トリム位置にあるとき(トリム角が零のとき)に基準平面上で船舶の長手方向に対して一定の取付角度θIをなして船外機3に沿う一つの直線O−Oを船外機の基準軸線とし,基準平面上で船外機の基準軸線O−Oが鉛直方向に対してなす角を船外機の傾斜角θoとし、船外機の基準軸線が基準平面上で船舶の長手方向に対してなす角度から取付角度θIを減じた角度を船外機のトリム角θtとする。また船外機の基準軸線O−Oを含み、前記基準平面と直交する平面上での船体の傾き角を船舶のロール角θrとする。
【0051】
本実施形態では、加速度センサ318を船外機に設けられたPTTコントローラ311内に設けるため、便宜上、図4に示すように基準軸線O−Oに沿う方向を船舶の上下方向(Y軸方向)とし、基準平面上で基準軸線に対して直角な方向を船舶の前後方向(X軸方向)とする。このように船舶の前後方向及び上下方向を定義すると、船舶の前後方向及び上下方向が船外機のトリム角によって変わることになるが、事故を検出する上では、支障を来さない。
【0052】
本実施形態で用いる加速度検出器318は、図4に示すように、船外機3の基準軸線O−Oに沿う方向(Y軸方向)に働く加速度及び基準平面上で基準軸線O−Oに対して直角な方向(X軸方向)に働く加速度をそれぞれ船舶の上下方向に働く加速度Gy及び前後方向に働く加速度Gxとして検出する。
【0053】
この場合演算処理部21は、加速度検出器318の出力から前後方向に働く加速度Gxを読み込む前後方向加速度読み込み手段22と、船舶のロール角θrを演算するロール角演算手段23とにより構成される。
【0054】
加速度検出器318が検出する前後方向加速度Gxは、通常の航行時に船舶が加速したきに図5の曲線aのような変化を示し、減速したときに図5の曲線bのような変化を示す。図5の横軸は経過時間tを示している。
【0055】
ここで、船舶に後方から別の船が衝突(追突)したとすると、前後方向加速度Gxは図5の曲線cのように、通常の航行時に船舶が加速した際の加速度よりも大きな変化を示す。また船舶が何かに衝突したときには、図5の曲線dのように、前後方向加速度−Gxが通常の航行時に船舶が減速した際の加速度よりも大きな変化を示す。従って、適当な衝突判定値Gdを設定しておけば、加速時の前後方向加速度Gxの大きさが衝突判定値Gdを超えたときに船舶に何かが追突したと判定することができ、減速時の前後方向加速度−Gxの大きさが衝突判定値Gdを超えたときに船舶が何かに衝突したと判定することができる。
【0056】
船舶の上下方向に働く加速度Gyを検出することができると、重力の加速度Gg(=1)と、上下方向の加速度Gyとから、船舶のロール角θrを、演算式θo=cos−1(Gy/Gg)=cos−1Gy により演算することができる。図3に示したロール角演算手段23は、加速度検出器318により検出された加速度Gyのアークコサイン値を求めることにより、船舶のロール角を演算して、その演算値を事故判定手段24に与える。
【0057】
この場合事故判定手段24は、船舶の減速時に前後方向に働く加速度−Gxの大きさが衝突判定値Gdを超えたときに船舶がその前面で何かに衝突したと判定し、船舶の加速時に前後方向に働く加速度Gxの大きさが判定値Gdを超えたときに船舶に後ろから何かが衝突したと判定する。また、船舶のロール角θrが設定された判定値θrsを超えたときに船舶が転覆したと判定する。
【0058】
事故判定手段24により、衝突事故または転覆事故が発生したとの判定が行われると、事故時エンジン停止手段25がエンジンを停止させる。本実施形態のように、エンジンが、インジェクタと該インジェクタに燃料を供給する燃料ポンプとを有する燃料噴射装置320により燃料が供給されるように構成されている場合には、事故時エンジン停止手段25を、事故判定手段24により事故が発生したと判定されたときに燃料ポンプまたはインジェクタの少なくとも一方の駆動を停止することによりエンジンへの燃料の供給を停止してエンジンを停止させるように構成することができる。
【0059】
また、エンジンが、燃料噴射装置320により燃料が供給されるように構成されている場合には、事故時エンジン停止手段25を、事故判定手段24により事故が発生したと判定されたときに燃料ポンプまたはインジェクタの少なくとも一方の駆動を停止することによりエンジンへの燃料の供給を停止する燃料供給停止手段と、事故判定手段24により事故が発生したと判定されたときにエンジンの点火動作を停止させる点火動作停止手段とにより構成することもできる。
【0060】
また事故時エンジン停止手段25は、事故判定手段24により事故が発生したと判定されたときにエンジンの点火動作を停止させる点火動作停止手段のみにより構成することもできる。
【0061】
この例では、加速度検出器318と、演算処理部21と、事故判定手段24とにより、船舶用事故判定装置が構成され、この事故判定装置と事故時エンジン停止手段25とにより、エンジン緊急停止装置が構成されている。
【0062】
なお加速度検出器が検出する上下方向の加速度Gyは、船舶のロール角の変化だけでなく、ピッチ角の変化にも反応して変化する。従って、上記ロール角(実際にはピッチ角の場合もある)θoと比較する転覆判定値θrsは、定常航行時の船舶のロール角及びピッチ角の限界値よりも十分大きい値(船舶が転覆する場合以外はあり得ない値、例えば90°以上の値)に設定しておく。
【0063】
上記の説明では、船舶に後ろから何かが衝突した事故と、船舶が前面側で何かに衝突した事故とを区別して判定するようにしているが、衝突を判定対象事故とする場合、事故判定手段は、船舶と何かとが衝突したことを事故として判定するように構成すればよく、加速度Gxの絶対値を衝突判定値Gdと比較することにより、衝突事故と追突事故とを区別することなく事故として判定するように構成することもできる。
【0064】
図6ないし図7は本発明の第2の実施形態を示したものである。この実施形態では、図6及び図7に示したように、加速度検出器318として、前後方向に働く加速度Gxと、上下方向(船外機の基準軸線O−Oに沿う方向)に働く加速度Gyと、横方向(前後方向及び上下方向に対して直角な方向)に働く加速度Gzとの3軸方向の加速度を検出することができる3軸加速度センサが用いられている。
【0065】
本実施形態において、船舶を停止させた状態で、船舶のロール運動のみを行わせた場合に検出されるx,y,zの3軸方向の加速度Gx,Gy及びGzは図9に示すようになる。即ち船舶が前後方向には停止しているので前後方向に働く加速度Gxは常にゼロであり、上下方向に働く加速度Gyの変化を示す波形及び横方向に働く加速度Gzの変化を示す波形はそれぞれcos波形及びsin波形になる。
【0066】
このような加速度検出器を用いた場合には、前後方向に働く加速度Gxの検出値を衝突判定値Gdと比較することにより、船舶と何かとの衝突事故が発生したか否かの判定を行うことができる。また横方向に働く加速度Gzの検出値と上下方向に働く加速度Gyの検出値との比(Gz/Gy)のアークコタンジェント値tan−1(Gz/Gy)を求めることにより船舶のロール角θr(図8参照)を演算して、演算されたロール角θrが判定値θrsを超えたときに転覆事故が発生したと判定することができる。
【0067】
また、上記のように、加速度検出器318として、3軸加速度センサを用いる場合、ロール角θrは、上下方向に働く加速度Gyのアークコサイン値cos−1Gyまたは、横方向に働く加速度Gzのアークサイン値sin−1 Gz により求めることもできる。
【0068】
上記のように、上下方向に働く加速度Gy及び横方向に働く加速度Gzを検出することができる場合には、上下方向に働く加速度Gyのアークコサイン値cos−1Gyまたは、横方向に働く加速度Gzのアークサイン値sin−1Gz により船舶のロール角θrを求めることができるが、船舶の転覆事故の発生の有無を正確に判定するためには、船体のロール角θrが転覆寸前の角度付近(90°付近の角度)にあるときに、船体のロール角の変化に対する演算値の変化割合が大きいことが望ましい。そのため、上記の場合、ロール角θrは上下方向に働く加速度Gyのアークコサイン値cos−1Gyから求めるようにするのが好ましい。
【0069】
上記の実施形態では、2軸加速度センサまた3軸加速度センサを加速度検出器318として用いるようにしているが、衝突事故のみを検出したときにエンジンへの燃料の供給を停止する場合には、前後方向に働く加速度Gxのみを検出するように加速度検出器318を設けるすればよい。
【0070】
また船舶の転覆のみを検出して、転覆事故の発生時にエンジンへの燃料の供給を停止する場合には、上下方向に働く加速度Gy及び横方向に働く加速度Gzの少なくとも一方を検出して、θr=cos−1Gy またはθr=sin−1Gz により、ロール角θrを演算し、その演算値を転覆判定値と比較するようにすればよい。
【0071】
なお衝突事故と転覆事故との双方を検出する場合、2軸加速度センサを用いる代わりに、2つの1軸加速度センサを組み合わせて用いたり、3軸加速度センサを用いる代わりに2軸の加速度センサと一つの1軸加速度センサとを組み合わせて用いたりすることができる。
【0072】
加速度検出器318は、上記の実施形態のようにPTTコントローラ311内に設けることが好ましいが、本発明はこれに限定されるものではなく、船体2側に(例えばリモートコントロールユニット4内に)加速度検出器を取付けるようにしてもよい。
【0073】
船舶のロール角を与える関数は三角関数となるが、ロール角を演算するに当たっては、演算を迅速に行わせるために、加速度とロール角との関係を与えるロール角演算用マップを作成しておいて、求められた加速度に対してこのマップを検索し、補間演算を行うことにより、ロール角を演算するようにするのが好ましい。
【0074】
上記に各実施形態では、船外機を推進装置とする船舶を例にとったが、船外機以外の推進装置を用いる船舶にも本発明を適用することができる。
【0075】
ここで、本発明に係わる船舶用船舶用エンジン緊急停止装置の種々の実施形態の構成を整理して下記に挙げておく。
(1)加速度検出器318は、少なくとも船舶1の前後方向に働く加速度Gxを検出し得るように設ける。事故判定装置は、船舶の加速時または減速時に船舶の前後方向に働く加速度Gxの大きさが判定値を超えたときに船体が何かに衝突したと判定するように構成される。事故判定装置により事故が発生したと判定されたときにエンジンへの燃料の供給を停止する事故時燃料供給停止手段25を設ける。
(2)加速度検出器318は、少なくとも船舶1の上下方向に働く加速度Gyを検出し得るように設ける。事故判定装置は、船舶の上下方向に働く加速度Gyのアークコサイン値cos−1Gyから船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに船舶が転覆したと判定するように構成される。事故判定装置により転覆事故が発生したと判定されたときにエンジンへの燃料の供給を停止する事故時燃料供給停止手段25を設ける。
(3)加速度検出器318は、少なくとも船舶1の横方向に働く加速度Gzを検出し得るように設ける。事故判定装置は、船舶の横方向に働く加速度Gzのアークサイン値sin−1Gzから船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに船舶が転覆したと判定するように構成される。事故判定装置により転覆事故が発生したと判定されたときにエンジンへの燃料の供給を停止する事故時燃料供給停止手段25を設ける。
(4)加速度検出器318は、船舶1の前後方向に働く加速度Gxと上下方向に働く加速度Gyとを検出し得るように設ける。事故判定装置は、船舶の加速時または減速時に船舶の前後方向に働く加速度Gxの大きさが判定値を超えたときに船体が何かに衝突したと判定し、船舶の上下方向に働く加速度Gyのアークコサイン値cos−1Gyから船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに船舶が転覆したと判定するように構成される。事故判定装置により事故が発生したと判定されたときにエンジンへの燃料の供給を停止する事故時燃料供給停止手段25を設ける。
(5)加速度検出器318は、船舶1の前後方向に働く加速度Gxと横方向に働く加速度Gzとを検出し得るように設ける。事故判定装置は、船舶の加速時または減速時に船舶の前後方向に働く加速度Gxの大きさが判定値を超えたときに船体が何かに衝突したと判定し、船舶の横方向に働く加速度Gzのアークサイン値sin−1Gzから船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに船舶が転覆したと判定するように構成される。事故判定装置により事故が発生したと判定されたときにエンジンへの燃料の供給を停止する事故時燃料供給停止手段25を設ける。
(6)加速度検出器318は、船舶1の横方向に働く加速度Gzと上下方向に働く加速度Gyとを検出し得るように設ける。事故判定装置は、船舶の横方向に働く加速度Gzと上下方向に働く加速度Gyとの比(Gz/Gy)のアークタンジェント値tan−1(Gz/Gy)から船舶のロール角を求めて、求めたロール角が設定された判定値を超えたときに船舶が転覆したと判定するように構成される。事故判定装置により事故が発生したと判定されたときにエンジンへの燃料の供給を停止する事故時燃料供給停止手段25を設ける。
(7)加速度検出器318は、船舶1の前後方向に働く加速度Gxと上下方向に働く加速度Gyと横方向に働く加速度Gzとを検出し得るように設ける。事故判定装置は、船舶の加速時または減速時に船舶の前後方向に働く加速度Gxの大きさが判定値を超えたときに船体が何かに衝突したと判定し、船舶の横方向に働く加速度Gzと上下方向に働く加速度Gyとの比(Gz/Gy)のアークタンジェント値tan−1(Gz/Gy)から船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに船舶が転覆したと判定するように構成される。事故判定装置により事故が発生したと判定されたときにエンジンへの燃料の供給を停止する事故時燃料供給停止手段25を設ける。
(8)上記(1)ないし(7)の各構成において、船舶の推進装置は船外機であって、船外機内に該船外機のトリム角の制御とエンジンの制御と前記事故判定装置を構成するための処理とを行うコントローラが設けられている。この場合、加速度検出器318は、コントローラ内に設けられる。
(9)エンジンが、インジェクタと該インジェクタに燃料を供給する燃料ポンプとを有する燃料噴射装置320により燃料が供給されるように構成されている場合、事故時エンジン停止手段25は、事故判定装置により事故が発生したと判定されたときに燃料ポンプまたはインジェクタの少なくとも一方の駆動を停止することによりエンジンへの燃料の供給を停止してエンジンを停止させるように構成するか、または、事故判定装置により事故が発生したと判定されたときに燃料ポンプまたはインジェクタの少なくとも一方の駆動を停止することによりエンジンへの燃料の供給を停止する燃料供給停止手段と、事故判定装置により事故が発生したと判定されたときにエンジンの点火動作を停止させる点火動作停止手段とにより構成することができる。
(10)事故時エンジン停止手段25はまた、事故判定装置により事故が発生したと判定されたときにエンジンの点火動作を停止させる点火動作停止手段により構成することもできる。
【0076】
また本発明に係わる船舶用事故判定装置は、船体とエンジンを駆動源とした推進装置とを備えた船舶に事故が発生したか否かを判定する装置であって、以下に示すように構成し得る。
(a)少なくとも船舶1の前後方向に働く加速度Gxを検出し得る加速度検出器318と、この加速度検出器の出力を読み込んで船舶の加速時または減速時に船舶の前後方向に働く加速度Gxの大きさが判定値を超えたときに船体が何かに衝突したと判定する事故判定手段24とを設ける。
(b)少なくとも船舶1の上下方向に働く加速度Gyを検出し得る加速度検出器318と、この加速度検出器の出力を読み込んで船舶の上下方向に働く加速度Gyのアークコサイン値cos−1Gyから船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに船舶が転覆したと判定する事故判定手段とを設ける。
(c)少なくとも船舶の横方向に働く加速度Gzを検出し得る加速度検出器318と、この加速度検出器の出力を読み込んで船舶の横方向に働く加速度Gzのアークサイン値sin−1Gzから船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに船舶が転覆したと判定する事故判定手段24とを設ける。
(d)船舶の前後方向に働く加速度Gxと上下方向に働く加速度Gyとを検出し得る加速度検出器318と、この加速度検出器の出力を読み込んで、船舶の加速時または減速時に船舶の前後方向に働く加速度Gxの大きさが判定値を超えたときに船体が何かに衝突したと判定し、船舶の上下方向に働く加速度Gyのアークコサイン値cos−1Gyから船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに船舶が転覆したと判定する事故判定手段24とを設ける。
(e)船舶の前後方向に働く加速度Gxと横方向に働く加速度Gzとを検出し得る加速度検出器318と、船舶の加速時または減速時に船舶の前後方向に働く加速度Gxの大きさが判定値を超えたときに船体が何かに衝突したと判定し、船舶の横方向に働く加速度Gzのアークサイン値sin−1Gzから船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに船舶が転覆したと判定する事故判定手段とを設ける。
(f)船舶の横方向に働く加速度Gzと上下方向に働く加速度Gyとを検出し得る加速度検出器318と、船舶の横方向に働く加速度Gzと上下方向に働く加速度Gyとの比(Gz/Gy)のアークタンジェント値tan−1(Gz/Gy)から船舶のロール角を求めて、求めたロール角が設定された判定値を超えたときに船舶が転覆したと判定する事故判定手段24とを設ける。
(g)船舶の前後方向に働く加速度Gxと上下方向に働く加速度Gyと横方向に働く加速度Gzとを検出し得る加速度検出器318と、船舶の加速時または減速時に船舶の前後方向に働く加速度Gxの大きさが判定値を超えたときに船体が何かに衝突したと判定し、船舶の横方向に働く加速度Gzと上下方向に働く加速度Gyとの比(Gz/Gy)のアークタンジェント値tan−1(Gz/Gy)から船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに船舶が転覆したと判定する事故判定手段とを設ける。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明を適用する船舶の一例を一部断面して概略的に示した側面図である。
【図2】本発明の実施形態のハードウェアの構成を概略的に示した構成図である。
【図3】本発明の実施形態においてマイクロプロセッサにより構成される手段を含む装置の要部の全体的な構成を示したブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施形態において、船外機に取付けられた加速度検出器と該加速度検出器が検出する加速度とを示した要部の側面図である。
【図5】図4に示された加速度検出器により検出された加速度の変化の一例を示したグラフである。
【図6】本発明の第2の実施形態において船外機に取付けられた加速度検出器と該加速度検出器が検出する加速度とを示した要部の正面図である。
【図7】図6に示した船外機の側面図である。
【図8】図6及び図7に示された船外機を備えた船舶がロールしたときの船外機の状態を示した正面図である。
【図9】図6ないし図8に示された例において、船舶を停止状態に保持して船体のロール角のみを変化させたときに加速度検出器から得られる加速度Gx,Gy及びGzの変化を示したグラフである。
【符号の説明】
【0078】
1 船舶
2 船体
3 船外機
303 船外機本体
310 パワートリム装置
311 PTTコントローラ
315 PTTモータ
316 トリム角センサ
318 加速度検出器
320 燃料噴射装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体とエンジンを駆動源とした推進装置とを備えた船舶の事故時に前記エンジンを停止させるエンジン緊急停止装置であって、
前記船体に働く加速度を検出し得るように設けられた加速度検出器と、
前記船体が何かと衝突したこと及び(または)転覆したことを判定の対象とする事故として、前記加速度検出器の出力から前記事故の発生の有無を判定する事故判定装置と、
前記事故判定装置により事故が発生したと判定されたときに前記エンジンを停止させる事故時エンジン停止手段と、
を具備してなる船舶用エンジン緊急停止装置。
【請求項2】
前記加速度検出器は、少なくとも前記船舶の前後方向に働く加速度Gxを検出し得るように設けられ、
前記事故判定装置は、前記船舶の加速時または減速時に前記船舶の前後方向に働く加速度Gxの大きさが判定値を超えたときに前記船体が何かに衝突したと判定するように構成されている請求項1に記載の船舶用エンジン緊急停止装置。
【請求項3】
前記加速度検出器は、少なくとも前記船舶の上下方向に働く加速度Gyを検出し得るように設けられ、
前記事故判定装置は、前記船舶の上下方向に働く加速度Gyのアークコサイン値cos−1Gyから前記船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに前記船舶が転覆したと判定するように構成されている請求項1に記載の船舶用エンジン緊急停止装置。
【請求項4】
前記加速度検出器は、少なくとも前記船舶の横方向に働く加速度Gzを検出し得るように設けられ、
前記事故判定装置は、前記船舶の横方向に働く加速度Gzのアークサイン値sin−1Gzから前記船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに前記船舶が転覆したと判定するように構成されている請求項1に記載の船舶用エンジン緊急停止装置。
【請求項5】
前記加速度検出器は、前記船舶の前後方向に働く加速度Gxと上下方向に働く加速度Gyとを検出し得るように設けられ、
前記事故判定装置は、前記船舶の加速時または減速時に前記船舶の前後方向に働く加速度Gxの大きさが判定値を超えたときに前記船体が何かに衝突したと判定し、前記船舶の上下方向に働く加速度Gyのアークコサイン値cos−1Gyから前記船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに前記船舶が転覆したと判定するように構成されている請求項1に記載の船舶用エンジン緊急停止装置。
【請求項6】
前記加速度検出器は、前記船舶の前後方向に働く加速度Gxと横方向に働く加速度Gzとを検出し得るように設けられ、
前記事故判定装置は、前記船舶の加速時または減速時に前記船舶の前後方向に働く加速度Gxの大きさが判定値を超えたときに前記船体が何かに衝突したと判定し、前記船舶の横方向に働く加速度Gzのアークサイン値sin−1Gzから前記船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに前記船舶が転覆したと判定するように構成されている請求項1に記載の船舶用エンジン緊急停止装置。
【請求項7】
前記加速度検出器は、前記船舶の横方向に働く加速度Gzと上下方向に働く加速度Gyとを検出し得るように設けられ、
前記事故判定装置は、前記船舶の横方向に働く加速度Gzと上下方向に働く加速度Gyとの比(Gz/Gy)のアークタンジェント値tan−1(Gz/Gy)から前記船舶のロール角を求めて、求めたロール角が設定された判定値を超えたときに前記船舶が転覆したと判定するように構成されている請求項1に記載の船舶用エンジン緊急停止装置。
【請求項8】
前記加速度検出器は、前記船舶の前後方向に働く加速度Gxと上下方向に働く加速度Gyと横方向に働く加速度Gzとを検出し得るように設けられ、
前記事故判定装置は、前記船舶の加速時または減速時に前記船舶の前後方向に働く加速度Gxの大きさが判定値を超えたときに前記船体が何かに衝突したと判定し、前記船舶の横方向に働く加速度Gzと上下方向に働く加速度Gyとの比(Gz/Gy)のアークタンジェント値tan−1(Gz/Gy)から前記船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに前記船舶が転覆したと判定するように構成されている請求項1に記載の船舶用エンジン緊急停止装置。
【請求項9】
前記推進装置は船外機であって、前記船外機内に該船外機のトリム角の制御と前記エンジンの制御と前記事故判定装置を構成するための処理とを行うを行うコントローラが設けられ、
前記加速度検出器は、前記コントローラ内に設けられている請求項1ないし8のいずれか一つに記載の船舶用エンジン緊急停止装置。
【請求項10】
前記エンジンは、インジェクタと該インジェクタに燃料を供給する燃料ポンプとを有する燃料噴射装置により燃料が供給されるように構成され、
前記事故時エンジン停止手段は、前記事故判定装置により事故が発生したと判定されたときに前記燃料ポンプまたはインジェクタの少なくとも一方の駆動を停止することにより前記エンジンへの燃料の供給を停止して前記エンジンを停止させるように構成されている請求項1ないし9のいずれか一つに記載の船舶用エンジン緊急停止装置。
【請求項11】
前記エンジンは、インジェクタと該インジェクタに燃料を供給する燃料ポンプとを有する燃料噴射装置により燃料が供給されるように構成され、
前記事故時エンジン停止手段は、前記事故判定装置により事故が発生したと判定されたときに前記燃料ポンプまたはインジェクタの少なくとも一方の駆動を停止することにより前記エンジンへの燃料の供給を停止する燃料供給停止手段と、前記事故判定装置により事故が発生したと判定されたときに前記エンジンの点火動作を停止させる点火動作停止手段とにより構成されている請求項1ないし9のいずれか一つに記載の船舶用エンジン緊急停止装置。
【請求項12】
前記事故時エンジン停止手段は、前記事故判定装置により事故が発生したと判定されたときに前記エンジンの点火動作を停止させる点火動作停止手段により構成されている請求項1ないし9のいずれか一つに記載の船舶用エンジン緊急停止装置。
【請求項13】
船体とエンジンを駆動源とした推進装置とを備えた船舶に事故が発生したか否かを判定する船舶用事故判定装置であって、
少なくとも前記船舶の前後方向に働く加速度Gxを検出し得るように設けられた加速度検出器と、
前記船舶の加速時または減速時に前記船舶の前後方向に働く加速度Gxの大きさが判定値を超えたときに前記船体が何かに衝突したと判定する事故判定手段と、
を備えた船舶用事故判定装置。
【請求項14】
船体とエンジンを駆動源とした推進装置とを備えた船舶に事故が発生したか否かを判定する船舶用事故判定装置であって、
少なくとも前記船舶の上下方向に働く加速度Gyを検出し得るように設けられた加速度検出器と、
前記船舶の上下方向に働く加速度Gyのアークコサイン値cos−1Gyから前記船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに前記船舶が転覆したと判定する事故判定手段と、
を備えた船舶用事故判定装置。
【請求項15】
船体とエンジンを駆動源とした推進装置とを備えた船舶に事故が発生したか否かを判定する船舶用事故判定装置であって、
少なくとも前記船舶の横方向に働く加速度Gzを検出し得るように設けられた加速度検出器と、
前記船舶の横方向に働く加速度Gzのアークサイン値sin−1Gzから前記船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに前記船舶が転覆したと判定する事故判定手段と、
を備えた船舶用事故判定装置。
【請求項16】
船体とエンジンを駆動源とした推進装置とを備えた船舶に事故が発生したか否かを判定する船舶用事故判定装置であって、
前記船舶の前後方向に働く加速度Gxと上下方向に働く加速度Gyとを検出し得るように設けられた加速度検出器と、
前記船舶の加速時または減速時に前記船舶の前後方向に働く加速度Gxの大きさが判定値を超えたときに前記船体が何かに衝突したと判定し、前記船舶の上下方向に働く加速度Gyのアークコサイン値cos−1Gyから前記船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに前記船舶が転覆したと判定する事故判定手段と、
を備えた船舶用事故判定装置。
【請求項17】
船体とエンジンを駆動源とした推進装置とを備えた船舶に事故が発生したか否かを判定する船舶用事故判定装置であって、
前記船舶の前後方向に働く加速度Gxと横方向に働く加速度Gzとを検出し得るように設けられた加速度検出器と、
前記船舶の加速時または減速時に前記船舶の前後方向に働く加速度Gxの大きさが判定値を超えたときに前記船体が何かに衝突したと判定し、前記船舶の横方向に働く加速度Gzのアークサイン値sin−1Gzから前記船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに前記船舶が転覆したと判定する事故判定手段と、
を備えた船舶用事故判定装置。
【請求項18】
船体とエンジンを駆動源とした推進装置とを備えた船舶に事故が発生したか否かを判定する船舶用事故判定装置であって、
前記船舶の横方向に働く加速度Gzと上下方向に働く加速度Gyとを検出し得るように設けられた加速度検出器と、
前記船舶の横方向に働く加速度Gzと上下方向に働く加速度Gyとの比(Gz/Gy)のアークタンジェント値tan−1(Gz/Gy)から前記船舶のロール角を求めて、求めたロール角が設定された判定値を超えたときに前記船舶が転覆したと判定する事故判定手段と、
を備えた船舶用事故判定装置。
【請求項19】
船体とエンジンを駆動源とした推進装置とを備えた船舶に事故が発生したか否かを判定する船舶用事故判定装置であって、
前記船舶の前後方向に働く加速度Gxと上下方向に働く加速度Gyと横方向に働く加速度Gzとを検出し得るように設けられた加速度検出器と、
前記船舶の加速時または減速時に前記船舶の前後方向に働く加速度Gxの大きさが判定値を超えたときに前記船体が何かに衝突したと判定し、前記船舶の横方向に働く加速度Gzと上下方向に働く加速度Gyとの比(Gz/Gy)のアークタンジェント値tan−1(Gz/Gy)から前記船舶のロール角θrを求めて、求めたロール角θrが設定された判定値を超えたときに前記船舶が転覆したと判定する事故判定手段と、
を備えた船舶用事故判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−260413(P2008−260413A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−104708(P2007−104708)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(000001340)国産電機株式会社 (191)
【Fターム(参考)】