説明

船舶用推進装置

【課題】機械部品によらずに、ドライブシャフトとプロペラシャフトとの相対回転速度に起因する異音を低減できる船舶用推進装置を提供する。
【解決手段】船外機1は、エンジン10と、プロペラシャフト12と、エンジン10からの動力によって回転されるドライブシャフト11と、ドライブシャフト11の回転をプロペラシャフト12に伝達するドッグクラッチ20と、エンジン負荷発生ユニットとを含む。エンジン負荷発生ユニットは、エンジン10からの動力によって駆動されるフライホイールマグネトウ70と、フライホイールマグネトウ70の発電負荷を制御する電子制御ユニット(ECU)100とを含む。電子制御ユニット100は、ドライブシャフト11とプロペラシャフト12との間の相対回転速度を検知して、その検知された相対回転速度に対して逆位相となるエンジン負荷をフライホイールマグネトウ70から発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンの動力が、ドライブシャフトおよびドッグクラッチを介してプロペラシャフトに伝達される船舶用推進装置に関する。このような船舶用推進装置の例は、船外機および船内外機(スターンドライブ)を含む。
【背景技術】
【0002】
一つの先行技術に係る船外機は、特許文献1に開示されている。この船外機は、エンジンと、エンジンのクランクシャフトに上端が結合されたドライブシャフトと、ドライブシャフトの下端に連結された前後進切換機構と、前後進切換機構に結合されたプロペラシャフトと、プロペラシャフトに取り付けられたプロペラとを含む。前後進切換機構は、ドライブシャフトからの動力によって互いに反対方向に回転する一対の傘歯車と、プロペラシャフトにスプライン結合されたドッグギヤとを含むドッグクラッチを構成している。ドッグギヤがいずれかの傘歯車と噛合することによって、プロペラシャフトに駆動力が伝達される。ドライブシャフトの中途部には、エンジンのトルク変動による異音の発生を低減させるためのダンパ構造が設けられている。エンジンのトルク変動によって、ドッククラッチにおいて、傘車とドッグギヤとの相対回転が生じ、それらが当接したり離間したりする。その当接時の衝撃によって、歯打ち音が繰り返し発生し、いわゆるラトル音(rattling noise)が生じる。この歯打ち音がダンパ構造によって軽減される。エンジンの回転変動は、エンジン回転速度が低い場合(とくにアイドリング時)に生じ易い。しかも、エンジン回転速度が低いときにはエンジン音が小さいので、歯打ち音が際立って聞こえやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−183694号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
特許文献1は、ドライブシャフトの中途部に配置したダンパ構造によって歯打ち音を低減しようとしている。しかし、この解決策は、部品点数の増加が不可避であり、それに応じて組立工数も多くなり、コスト高をも招く。
そこで、この発明の一実施形態は、機械部品によらずに、ドライブシャフトとプロペラシャフトとの相対回転速度に起因する異音を低減できる船舶用推進装置を提供する。
【0005】
より具体的には、この発明の一実施形態は、エンジンと、プロペラシャフトと、前記エンジンからの動力によって回転されるドライブシャフトと、前記ドライブシャフトの回転を前記プロペラシャフトに伝達するドッグクラッチと、前記ドライブシャフトと前記プロペラシャフトとの間の相対回転速度を検知して、その検知された相対回転速度に対して逆位相(前記検知された相対回転を打ち消す位相)となるエンジン負荷を発生させるエンジン負荷発生手段とを含む、船舶用推進装置を提供する。
【0006】
この構成によれば、ドライブシャフトとプロペラシャフトとの相対回転速度が検知され、エンジン負荷発生手段は、その相対回転速度の逆位相となるエンジン負荷を発生させる。これにより、ドライブシャフトとプロペラシャフトとの相対回転速度がエンジン負荷によって打ち消されるので、ドッグクラッチ内におけるギヤが衝撃的に噛み合うことを抑制できる。これにより、歯打ち音を低減できる。こうして、ドライブシャフトとプロペラシャフトとの相対回転速度に起因する異音の発生を機械部品によらずに低減できるので、部品点数の増加、組立工数の増加、およびコストの増加といった、先行技術における課題を解決できる。
【0007】
この発明の一実施形態では、前記エンジン負荷発生手段は、前記エンジンからの動力によって駆動される発電装置と、前記発電装置の負荷を制御する制御手段とを含む。この構成により、発電装置の発電負荷を制御することによって、エンジンに与える負荷を制御できる。したがって、エンジンに負荷を与えるために専用の部品を備える必要がないので、構造が簡単であり、機械部品を追加することなく、異音の発生を抑制できる。
【0008】
この発明の一実施形態では、前記船舶用推進装置は、前記エンジンのクランクシャフトに結合されたフライホイールをさらに含み、前記エンジン負荷発生手段が、前記フライホイールの回転変動を検知して、前記フライホイールに対して前記検知された回転変動に対して逆位相の負荷を与えるように構成されている。この構成によれば、エンジンの回転を安定させるための部品であるフライホイールを利用して、エンジンの回転変動が検知される。エンジンの回転変動は、ドライブシャフトとプロペラシャフトとの相対回転速度の原因となる。そこで、検知されたフライホイールの回転変動を打ち消すようにエンジンに負荷を与えることにより、エンジンの回転を安定させ、それによって、ドライブシャフトとプロペラシャフトとの相対回転速度を低減できる。
【0009】
この発明の一実施形態では、前記エンジン負荷発生手段が、前記フライホイールの回転によって電力を生成する発電装置と、前記発電装置の負荷を制御する制御手段とを含む。この構成によれば、フライホイールの回転を利用した発電装置の負荷を制御することで、フライホイールの回転変動、すなわちエンジンの回転変動を抑制するための負荷をエンジンに与えることができる。これにより、専用の機械部品を備えることなく、エンジンの回転変動に起因するドライブシャフトとプロペラシャフトとの相対回転速度を低減できる。
【0010】
この発明の一実施形態では、前記エンジン負荷発生手段は、前記相対回転速度がエンジン負荷制御条件を満たすことを条件に、前記相対回転速度に対して逆位相となるエンジン負荷を発生させるように構成されている。すなわち、この実施形態では、相対回転速度を打ち消すためのエンジン負荷が常時発生されるわけではなく、エンジン負荷制御条件が満たされることを条件にエンジン負荷が制御される。したがって、無用な制御が行われることを回避でき、かつ、無用な負荷がエンジンに与えられることを回避できる。
【0011】
前記エンジン負荷制御条件は、前記相対回転速度の大きさに関する条件を含んでいてもよい。相対回転速度が小さければ目立った異音が発生しないから、相対回転速度が或る程度大きいときにエンジン負荷を制御することが効果的である。
より具体的には、前記相対回転速度の大きさに関する条件が、当該船舶用推進装置が発生すべき推進力指令値に対応する目標エンジン回転速度に対する前記エンジンの実際の回転速度の変動幅(エンジン回転速度偏差)に関する条件を含んでいてもよい。プロペラシャフトは、プロペラから伝達される水からの抵抗を受けながら回転するので、その回転には大きな変動は生じない。それに対して、エンジンは燃焼によって発生するトルクのばらつきに起因する回転変動が不可避であり、それに応じて、ドライブシャフトに不可避的な回転変動が生じる。つまり、エンジンの回転変動が、ドライブシャフトとプロペラシャフトとの間の相対回転速度の主要な原因である。そこで、目標エンジン回転速度に対する実際のエンジン回転速度の変動幅が大きくなったときに、エンジンに対する負荷を制御することとすれば、ドライブシャフトとプロペラシャフトとの相対回転速度を効果的に低減できる。
【0012】
この発明の一実施形態では、前記エンジン負荷発生手段は、エンジン負荷制御禁止条件が満たされるときには、前記相対回転速度に対して逆位相となるエンジン負荷を発生させないように構成されている。この構成によれば、エンジン負荷の制御が常に行われるわけではなく、エンジン負荷制御禁止条件が満たされると、その制御が行われない。これにより、適切な条件下で、エンジン負荷を制御できる。
【0013】
具体的には、前記エンジン負荷制御禁止条件は、前記船舶用推進装置の運転状態に関する運転状態条件を含むことが好ましい。たとえば、前記運転状態条件は、前記エンジンの回転速度が閾値(好ましくはアイドル回転以上の閾値)以上であることを含むことが好ましい。エンジン回転速度が高いときには、エンジンは大きな出力を発生しており、かつプロペラは大きな抵抗を水から受けているので、ドッグクラッチ内におけるギヤの噛合状態は安定している。加えて、エンジン音が大きいため、ドッグクラッチから生じる異音はエンジン音にかき消される。したがって、エンジン回転速度が高いときにエンジン負荷の制御を禁止することにより、無駄な制御を省くことができ、エンジンに対して不必要な負荷が与えられることを回避できる。
【0014】
また、前記運転状態条件は、当該船舶用推進装置が発生すべき推進力指令値が変化した後、当該推進力指令値に対応する目標エンジン回転速度に前記エンジンの実際の回転速度が未到達であることを含むことが好ましい。より具体的には、前記運転状態条件は、当該船舶用推進装置が発生すべき推進力指令値が変化した後、当該推進力指令値に対応する目標エンジン回転速度に前記エンジンの実際の回転速度が到達するのに要する時間が未経過であることを含むことが好ましい。この構成によれば、実際のエンジン回転速度が、推進力指令値に対応する目標エンジン回転速度に到達するまでは、エンジンに対する負荷の制御が行われないので、エンジン回転速度を速やかに目標エンジン回転速度に到達させて、指令に応じた推進力を発生させることができる。また、推進力指令値が変化してからエンジン回転速度が目標エンジン回転速度に到達するまでは、エンジンは加速状態または減速状態にあり、ドッグクラッチ内でのギヤの噛み合いは安定していて、歯打ち音が生じる可能性は低い。この観点からも、エンジン回転速度が目標エンジン回転速度に到達する以前の期間には、エンジンの負荷を制御する必要性は低い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、この発明の一実施形態に係る船舶用推進装置としての船外機の側面図である。
【図2】図2は、船外機のロワー部の断面図である。
【図3】図3は、エンジンカバー内の構成を説明するための断面図である。
【図4】図4は、図3の一部を拡大した拡大断面図であり、フライホイールマグネトウの近傍の構成が示されている。
【図5】図5は、船外機の主要部の電気的構成を説明するためのブロック図である。
【図6】図6は、電子制御ユニットが所定の制御周期毎に繰り返し実行する制御を説明するためのフローチャートである。
【図7】図7Aは、実エンジン回転速度の時間変化の一例を示す波形図であり、目標エンジン回転速度に対する変動が示されている。図7Bは、図7Aのようなエンジン回転速度変動が検出されたときに電子制御ユニットが実行するエンジン回転速度変動抑制制御の例であり、フライホイールマグネトウが発生する負荷トルクの時間変化が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係る船舶用推進装置としての船外機1の側面図である。船外機1、船体のトランサム2に取り付けられ、船体に対して推進力を与える。船外機1は、クランプブラケット3と、スイベルブラケット4と、ステアリングシャフト5とを介してトランサム2に取り付けられている。クランプブラケット3がトランサム2に固定されており、スイベルブラケット4は、クランプブラケット3に対して、水平軸線まわりに回動可能に結合されている。ステアリングシャフト5は、その軸線まわりに回動可能であるようにスイベルブラケット4に結合されている。ステアリングシャフト5は、船外機1と一体化されている。したがって、船外機1はステアリングシャフト5の軸線まわりに左右に回動可能であり、さらに、スイベルブラケット4とともに上下方向に回動可能である。
【0017】
また、船外機1は、動力を発生するエンジン10と、エンジン10によって一定の方向に回転駆動されるドライブシャフト11と、ドライブシャフト11の回転が伝達されるプロペラシャフト12とを含む。さらに、船外機1は、エンジン10を収容するエンジンカバー13と、エンジンカバー13の下方に配置されたケーシング14とを含む。ケーシング14は、アッパーケース15と、アッパーケース15の下方に配置されたロワーケース16とを含む。ドライブシャフト11は、アッパーケース15およびロワーケース16内で鉛直方向に延びている。ドライブシャフト11の上端部は、エンジン10のクランクシャフトに連結されており、ドライブシャフト11の下端部は、ドッグクラッチ20を介してプロペラシャフト12に連結されている。プロペラシャフト12は、ロワーケース16内で水平方向に延びている。プロペラシャフト12の後端部は、ロワーケース16から後方に突出しており、この後端部にプロペラ17が結合されている。プロペラ17は、エンジン10からの動力によって回転駆動される。ドッグクラッチ20は、前進結合状態と、後退結合状態と、切断状態とに切り換えることができるように構成されている。前進結合状態とは、ドッグクラッチ20が、ドライブシャフト11からの動力をプロペラシャフト12に伝達して当該プロペラシャフト12を前進回転方向に回転させる状態である。前進回転方向とは、プロペラ17が船体に対して前進方向の推進力を与える回転方向である。後退結合状態とは、ドッグクラッチ20が、ドライブシャフト11からの動力をプロペラシャフト12に伝達して当該プロペラシャフト12を後退回転方向に回転させる状態である。後退回転方向とは、プロペラ17が船体に対して後退方向の推進力を与える回転方向である。切断状態とは、ドッグクラッチ20が、ドライブシャフト11とプロペラシャフト12との間の駆動力伝達を遮断する状態である。プロペラ17は、プロペラシャフト12と共に前進回転方向または後退回転方向に回転する。
【0018】
図2は、船外機1のロワー部の断面図である。ドッグクラッチ20は、プロペラシャフト12まわりに回転自在な前進ギヤ21および後退ギヤ22と、前進ギヤ21および後退ギヤ22との間においてプロペラシャフト12にスプライン結合しているドッグギヤ23とを含む。ドライブシャフト11の下端には、傘歯車からなる駆動ギヤ18が固定されている。前進ギヤ21は、駆動ギヤ18に対して船外機1の前方側から噛合するように構成された傘歯車からなる。後退ギヤ22は、駆動ギヤ18に対して船外機1の後方側から噛合するように構成された傘歯車からなる。したがって、駆動ギヤ18が回転すると、前進ギヤ21および後退ギヤ22は、プロペラシャフト12まわりに、互いに反対方向に回転する。つまり、前進ギヤ21は前進回転方向に回転し、後退ギヤ22は後退回転方向に回転する。ドッグギヤ23は、プロペラシャフト12の軸方向に移動することにより、前進ギヤ21に噛合した前進位置、後退ギヤ22に噛合した後退位置、およびいずれのギヤ21,22とも噛合しない中立位置のうちのいずれかのシフト位置に配置可能である。ドッグクラッチ20は、ドッグギヤ23が前進位置にあるときに前進結合状態となり、ドッグギヤ23が後退位置にあるときに後退結合状態となり、ドッグギヤ23が中立位置にあるときに切断状態となる。
【0019】
前進ギヤ21および後退ギヤ22は、それぞれ、一方の側面の外周側に駆動ギヤ18から駆動力が入力される入力ギヤ21a,22aを有し、内周側にドッグギヤ23と噛合する噛合部21b,22bを有している。前進ギヤ21および後退ギヤ22は、プロペラシャフト12の周囲に当該プロペラシャフト12に接合されることなく配置されており、それぞれ、ロワーケース16に固定された軸受け24,25により回転自在に保持されている。そして、これらの前進ギヤ21および後退ギヤ22には、ドライブシャフト11の駆動ギヤ18が常に噛合されており、ドライブシャフト11の回転により、常時互いに反対方向に駆動されるようになっている。
【0020】
ドッグギヤ23は、プロペラシャフト12の外周面に形成されたスプライン歯12aにスプライン結合するスプライン歯を内周面に有する略円筒形状に形成されており、その両端面に、前進ギヤ21および後退ギヤ22とそれぞれ噛合可能な噛合部23a,23bを有している。ドッグギヤ23が前進位置にあるとき、噛合部23aが前進ギヤ21の噛合部21bに噛合し、ドッグギヤ23が後退位置にあるとき、噛合部23bが後退ギヤ22の噛合部22bに噛合する。ドッグギヤ23が中立位置にあるとき、噛合部23a,23bは、前進ギヤ21および後退ギヤ22のいずれとも噛合しない。
【0021】
船外機1は、ドッグギヤ23のシフト位置を切り替えるためのシフト機構30を含む。シフト機構30は、プロペラシャフト12前端部内に挿入されたスライダー31と、スライダー31とドッグギヤ23とを連結する連結ピン32と、スライダー31を前後方向に移動させるカム33と、カム33を回動させるシフトアクチュエータ34とを含む。スライダー31は、プロペラシャフト12に形成された挿入孔35に挿入されている。挿入孔35は、プロペラシャフト12の前端からプロペラシャフト12の中心軸線に沿って後方に延びている。スライダー31は、挿入孔35に沿って前後方向に移動可能である。スライダー31の前端部は、プロペラシャフト12の前端から前方に突出しており、スライダー31の後端部は、プロペラシャフト12に形成された貫通孔36内に配置されている。貫通孔36は、挿入孔35に直交しており、プロペラシャフト12をその軸方向と直交する方向に貫通し、かつ当該軸方向に延びた長孔である。
【0022】
連結ピン32は、プロペラシャフト12の内部、すなわち、挿入孔35と貫通孔36の交差位置でスライダー31に連結されている。連結ピン32は、プロペラシャフト12に直交しており、連結ピン32の両端部は、プロペラシャフト12の外周面から突出している。連結ピン32の両端部は、噛合部23a,23bの間においてドッグギヤ23に連結されている。すなわち、ドッグギヤ23およびスライダー31は、連結ピン32によって、プロペラシャフト12の軸方向に一体的に移動するように連結されている。貫通孔36は、プロペラシャフト12の軸方向に長い長孔である。したがって、ドッグギヤ23、スライダー31、および連結ピン32は、貫通孔36の長さの範囲内で前後方向に移動可能である。
【0023】
カム33は、鉛直方向に延びるロッド部33aおよびピン部33bを含む。ピン部33bは、ロッド部33aから下方に突出している。ピン部33bは、ロッド部33aの中心軸に対して偏心している。ピン部33bは、スライダー31の前端部に形成された溝37に挿入されている。シフトアクチュエータ34は、ロッド部33aの中心軸線まわりにカム33を回動させる。カム33の回動によって、ピン部33bは、ロッド部33aの中心軸線まわりに回動しながら前後方向(図2では左右方向)に移動する。したがって、スライダー31は、カム33の回動に伴って、連結ピン32およびドッグギヤ23と共に前後方向に移動する。こうして、ドッグギヤ23は、カム33の回動によって、前進位置、後退位置、中立位置のいずれかのシフト位置に配置される。
【0024】
スライダー31は、連結ピン32と連結され、軸方向に移動可能なシフトプランジャ38と、このシフトプランジャ38の前端部に結合されたシフト従動体39とを含む。シフトプランジャ38とシフト従動体39とは、プロペラシャフト12の回転軸線まわりに相対回転可能であるように互いに結合されている。シフト従動体39に、カム33のピン部33bが係合している。シフトプランジャ38には、2箇所に位置決め用ボール38a,38bがバネ部材40により直径方向に付勢された状態で配置されている。位置決め用ボール38aは、ドッグギヤ23が前進ギヤ21と噛合する位置で、プロペラシャフト12の被係止突部41の前方側に係合する。また、位置決め用ボール38aは、ドッグギヤ23が後退ギヤ22と噛合する位置で、被係止突部41の後方側に係合する。さらに、位置決め用ボール38bは、ドッグギヤ23が前進ギヤ21および後退ギヤ22のいずれとも噛合しない中間位置で、プロペラシャフト12の被係止凹部42に係合する。
【0025】
ドッグギヤ23の噛合部23aと前進ギヤ21の噛合部21bとが噛合しているとき、これらの間にはガタ(backlash)が生じている。同様に、ドッグギヤ23の噛合部23bと後退ギヤ22の噛合部22bとが噛合しているときには、これらの間にガタが生じている。したがって、ドライブシャフト11の回転速度とプロペラシャフト12の回転速度とに差があり、それらの間の相対回転速度が零でないときには、前記ガタの分だけドライブシャフト11とプロペラシャフト12との相対回転が許容される。つまり、ドッグギヤ23の噛合部23a,23bと前進ギヤ21または後退ギヤ22の噛合部21b,22bとが当接している状態から、それらが離間して、前記ガタの分の相対回転の後、それらは再び当接する。相対回転速度が大きいとき、再当接のときに衝撃音が発生する。これが歯打ち音である。アイドル回転速度から1500rpm辺りまでの低速回転域では、エンジン10の回転変動が大きいため、ドライブシャフト11の回転が不安定になり、それによって歯打ち音が生じ易くなる。
【0026】
図3は、エンジンカバー13内の構成を説明するための断面図である。ただし、図3では、断面を表すハッチングを省略している。
エンジン10は、クランクケース50と、シリンダボディ51と、シリンダヘッド52とを含む。さらに、エンジン10は、上下方向に延びるクランク軸線L1まわりに回転可能なクランクシャフト53を含む。シリンダボディ51およびクランクケース50は、クランクシャフト53をクランク軸線L1まわりに回転可能に保持している。クランクシャフト53の下端部にドライブシャフト11が結合されている。シリンダボディ51およびシリンダヘッド52は、複数のシリンダ54を形成している。エンジン10は、複数のシリンダが直線状に配列された直列エンジンであってもよいし、複数のシリンダがV字ラインに沿って配置されたV型エンジンであってもよいし、その他の形式のエンジンであってもよい。各シリンダ54は、水平方向に延びている。エンジン10は、シリンダ54内に配置された複数のピストン55と、ピストン55とクランクシャフト53とを連結する複数のコンロッド56とを含む。
【0027】
エンジン10は、さらに、吸気ポートを開閉する吸気バルブ60と、排気ポートを開閉する排気バルブと、吸気バルブ60および排気バルブを駆動するバルブ駆動機構61とを含む。バルブ駆動機構61は、クランク軸線L1と平行なカム軸線L2まわりに回転可能なカムシャフト62を含む。吸気バルブ60、排気バルブ、およびカムシャフト62は、シリンダヘッド52に保持されている。クランクシャフト53の回転は、カムシャフト62に伝達される。これにより、カムシャフト62がカム軸線L2まわりに回転駆動される。吸気バルブ60および排気バルブは、カムシャフト62の回転によって駆動される。
【0028】
エンジン10は、さらに、クランクシャフト53の回転をカムシャフト62に伝達する巻き掛け伝動装置63を含む。巻き掛け伝動装置63は、駆動車64と、従動車65と、駆動車64および従動車65に巻き掛けられた無端状の伝動部材66とを含む。駆動車64および従動車65は、プーリであってもよいし、スプロケットなどのギヤであってもよい。伝動部材66は、ベルトであってもよいし、チェーンであってもよい。駆動車64は、クランク軸線L1上に配置されており、クランクシャフト53と共にクランク軸線L1まわりに回転する。従動車65は、カム軸線L2上に配置されており、カムシャフト62と共にカム軸線L2まわりに回転する。駆動車64の回転は、伝動部材66によって従動車65に伝達される。これにより、クランクシャフト53の回転がカムシャフト62に伝達される。
【0029】
クランクシャフト53の上端部には、発電装置としてのフライホイールマグネトウ(flywheel magneto)70が結合されている。さらに、フライホイールマグネトウ70の側方には、スタータ80が配置されている。
図4は、図3の一部を拡大した拡大断面図であり、フライホイールマグネトウ70の近傍の構成が示されている。クランクシャフト53は、ジャーナル67よりも上方の軸部68に駆動車64を有しており、さらに、駆動車64よりも上方の上端に、フライホイール取付け用の円板部69を有している。クランクシャフト53においてジャーナル67よりも上方の部分は、クランクケース50およびシリンダボディ51の外に配置されている。
【0030】
フライホイールマグネトウ70は、マグネット71を含む筒状のロータ72と、コイル73を含む筒状のステータ74と、ロータ72に連結されたリングギヤ75と、ロータ72とクランクシャフト53とを連結する連結部材76とを備えている。ロータ72、リングギヤ75、および連結部材76は、回転力を蓄えてエンジン10の回転を安定化させるフライホイールとしても機能する。
【0031】
ロータ72は、マグネット71と、カップ状のホルダ77とを含む。ホルダ77は、クランクシャフト53と同軸の円筒部78と、円筒部78の上端から内方に延びる環状部79とを含む。円筒部78は、円板部69よりも大きな内径を有しており、円板部69を同軸的に取り囲んでいる。マグネット71は、円筒部78と円板部69との間に配置されている。マグネット71は、円筒部78の内周面に保持されている。リングギヤ75は、円筒部78の外周に嵌合されている。リングギヤ75の外周部には、スタータ80(図3参照)の駆動ギヤに噛み合うギヤ81が設けられている。
【0032】
連結部材76は、円柱状の連結部84と、連結部84の外周部から外方に延びる環状のフランジ85とを含む。連結部84は、環状部79内に挿入されている。連結部84は、環状部79から下方に突出している。連結部84とクランクシャフト53の上端の円板部69とは、ホルダ77の内部で上下に重ね合わされている。連結部84と円板部69とは、ノックピン86によって位置決めされている。さらに、連結部84は、複数のボルト87によって円板部69に連結されている。その一方で、フランジ85は、ホルダ77の環状部79の上方に配置されている。フランジ85は、複数のリベット88によって環状部79に連結されている。したがって、ロータ72は、連結部材76を介してクランクシャフト53に連結されている。ロータ72は、クランク軸線L1上に配置されており、クランクシャフト53と共にクランク軸線L1まわりに回転する。
【0033】
ステータ74は、コイル73と、コイル73が巻き付けられた筒状のステータコア91とを含む。ステータ74は、クランクシャフト53の上端の円板部69を同軸的に取り囲んでいる。ステータ74は、マグネット71の内方に配置されている。ステータ74は、ステータ74の径方向に間隔を空けてマグネット71に対向している。ステータ74は、ブラケット92,93を介してクランクケース50に連結されている。ステータ74は、クランクケース50に対して回転しない。したがって、クランクシャフト53がクランク軸線L1まわりに回転すると、ロータ72とステータ74とが相対回転する。これにより、クランクシャフト53の回転が電気エネルギに変換され、フライホイールマグネトウ70が発電する。
【0034】
ステータ74を保持している一つのブラケット93には、クランク角センサ95が保持されている。クランク角センサ95は、フライホイールマグネトウ70のロータ72に対向するように配置されている。より具体的には、ロータ72のホルダ77は、磁性体からなっており、その円筒部78には、周方向に等間隔に設定した複数の位置に複数の検出歯96が半径方向外方に突出してそれぞれ形成されている。ただし、前記複数の位置の一つは、検出歯96が形成されていない歯抜け位置とされている。ロータ72の回転によって、複数の検出歯96が次々とクランク角センサ95に対向する。クランク角センサ95と円筒部78との間の磁気抵抗は、検出歯96がクランク角センサ95に対向しているときには小さく、検出歯96がクランク角センサ95に対向していないときには大きくなる。この磁気抵抗の変化に応じたパルス信号がクランク角センサ95から出力される。パルス信号の時間間隔は、ロータ72の回転速度(すなわちエンジン回転速度)に反比例するから、その時間間隔を計測することによってエンジン回転速度を求めることができる。また、歯抜け位置ではパルス間隔が長くなるから、歯抜け位置を基準としてパルス数を計数することによってクランク角を求めることができる。こうして求められたクランク角を用いて、エンジンの点火制御や燃料噴射制御を行うことができる。
【0035】
図5は、船外機1の主要部の電気的構成を説明するためのブロック図である。船外機1は、エンジン10を制御するための電子制御ユニット(ECU)100を備えている。電子制御ユニット100には、クランク角センサ95と、スロットル開度センサ101と、可変電圧発電システム102とが接続されている。クランク角センサ95は、前述のとおり、エンジン回転速度に応じた間隔のパルス信号を生成し、電子制御ユニット100に入力するように構成されている。スロットル開度センサ101は、エンジン10のスロットル開度を検出し、その出力信号を電子制御ユニット100に入力するように構成されている。可変電圧発電システム102は、フライホイールマグネトウ70の発電電圧を可変制御するように構成されている。その制御させた電圧で、バッテリ105が充電される。バッテリ105は、たとえば、船体に搭載されて、船外機1の電装品に電力を供給する。電子制御ユニット100は、可変電圧発電システム102を制御することによって、フライホイールマグネトウ70の発電電圧を可変制御する。この発電電圧を変化させることによって、フライホイールマグネトウ70の発電負荷が変動する。すなわち、発電電圧が高いほど、フライホイールマグネトウ70の発電負荷が大きくなる。
【0036】
このように電子制御ユニット100および可変電圧発電システム102は、発電装置としてのフライホイールマグネトウ70の負荷を制御する制御手段を構成している。そして、この制御手段およびフライホイールマグネトウ70は、エンジン回転速度の変動を検知して、その検知された変動に対して逆位相となるエンジン負荷を発生させるエンジン負荷発生手段を構成している。
【0037】
図6は、電子制御ユニット100が所定の制御周期毎に繰り返し実行する制御を説明するためのフローチャートである。電子制御ユニット100は、クランク角センサ95の出力信号に基づいてエンジン回転速度を算出し、そのエンジン回転速度がアイドル回転速度から所定のエンジン回転速度閾値(たとえば1500rpm)までの値かどうかを判断する(ステップS1)。この条件は、エンジン負荷制御禁止条件の一例であり、船外機1の運転状態に関する運転状態条件の一例である。
【0038】
ステップS1での判断が肯定される場合、すなわちエンジン負荷制御禁止条件が満たされない場合には、電子制御ユニット100は、さらに、スロットル開度センサ101の出力信号を参照して、過去の所定時間内(たとえば1秒以内)にスロットル開度の変化があったかどうかを判断する(ステップS2)。この条件は、エンジン負荷制御禁止条件の他の例であり、船外機1の運転状態に関する運転状態条件の他の例である。すなわち、ステップS2では、スロットル開度が変化し、それに応じて目標エンジン回転速度が変化した後、当該目標エンジン回転速度に実エンジン回転速度が到達するのに要する時間(たとえば1秒)が未経過であるかどうかが判断される。
【0039】
スロットル開度の変化がなければ、ステップS2での判断が否定となり、エンジン負荷制御禁止条件が不満足となる。この場合、電子制御ユニット100は、クランク角センサ95の出力信号に基づいて算出される実エンジン回転速度と、スロットル開度に対応した目標エンジン回転速度との差(エンジン回転速度偏差)に関する判定を実行する(ステップS3)。実エンジン回転速度は、クランク角センサ95の出力パルス間隔に基づくエンジン回転速度演算結果の所定回数分(たとえば4回)の平均値であってもよい。また、電子制御ユニット100は、スロットル開度に対応する目標エンジン回転速度を格納したテーブルを参照することによって、目標エンジン回転速度を求めるように構成されていてもよい。
【0040】
エンジン回転速度偏差の絶対値が所定の閾値(たとえば20rpm)以上であれば(ステップS3:YES。エンジン負荷制御条件の一例)、電子制御ユニット100は、そのエンジン回転速度偏差の符号を判定する(ステップS4)。実エンジン回転速度が目標エンジン回転速度よりも大きければ、エンジン回転速度偏差は正となり、実エンジン回転速度が目標エンジン回転速度よりも小さければエンジン回転速度偏差は負となる。
【0041】
そこで、電子制御ユニット100は、エンジン回転速度偏差が正のときには、可変電圧発電システム102を制御して、フライホイールマグネトウ70の発電電圧を高めて(たとえば一定電圧幅だけ高めて)、発電負荷を高める(ステップS5)。これにより、フライホイールマグネトウ70がエンジン10に与える負荷トルクが大きくなるので、エンジン回転速度が抑制される(ステップS7)。その結果、実エンジン回転速度が目標エンジン回転速度に近づけられる。一方、エンジン回転速度偏差が負のときには、電子制御ユニット100は、可変電圧発電システム102を制御して、フライホイールマグネトウ70の発電電圧を低くし(たとえば一定電圧幅だけ低くし)、発電負荷を低下させる(ステップS6)。これにより、フライホイールマグネトウ70がエンジン10に与える負荷トルクが小さくなるので、エンジン回転速度が増加する(ステップS7)。その結果、実エンジン回転速度が目標エンジン回転速度に近づけられる。このようにして、電子制御ユニット100は、エンジン回転速度の変動(すなわちフライホイールの回転変動)に対して、逆位相の負荷を与えるように構成されている。
【0042】
エンジン回転速度がアイドル回転速度からエンジン回転速度閾値までの範囲外の値であれば(ステップS1:NO)、ステップS2〜S7)の処理は省かれて、通常の制御(ステップS8)が実行される。また、スロットル開度に変動があったときは(ステップS2:YES)、スロットル開度に応じたエンジン回転速度変化が速やかに生じるように、ステップS3〜S7の処理は省かれて、通常の制御(ステップS8)が実行される。また、エンジン回転速度偏差の絶対値が所定の閾値(たとえば20rmp)未満のときにも、ステップS4〜7の処理が省かれて、通常の制御(ステップS8)が実行される。
【0043】
このように、この実施形態では、アイドル回転速度からエンジン回転速度閾値までの低速回転域において、スロットル開度に変化が無いとき、エンジン回転速度偏差の絶対値が閾値(たとえば20rpm)以上であれば、エンジン10の回転変動が生じたと判断される。そして、エンジン10の回転変動を打ち消すように、フライホイールマグネトウ70の発電負荷が制御される。これにより、エンジン10の回転変動が抑制される。
【0044】
図7Aは、実エンジン回転速度の時間変化の一例を示す波形図であり、目標エンジン回転速度に対する変動が示されている。図7Bは、図7Aのようなエンジン回転速度変動が検出されたときに電子制御ユニット100が実行するエンジン負荷制御(図6参照)の例であり、フライホイールマグネトウ70が発生する負荷トルクの時間変化が示されている。フライホイールマグネトウ70からエンジン10に与えられる負荷トルクは、エンジン回転速度変動の逆位相となっている。これらが重ね合わされることにより、エンジン回転速度変動を抑制(たとえば20rpm以内に抑制)することができる。
【0045】
以上のように、この実施形態によれば、スロットル開度に対応した目標エンジン回転速度に対するエンジン回転速度の変動が検出され、その変動の逆位相となるエンジン負荷がフライホイールマグネトウ70から発生される。これにより、エンジン10の回転変動が低減されるので、エンジン10の回転変動に起因するドライブシャフト11とプロペラシャフト12との相対回転速度を低減できる。したがって、ドッグクラッチ20において、前進ギヤ21または後退ギヤ22とドッグギヤ23とが離間および当接を繰り返すことを回避できる。これにより、前進ギヤ21または後退ギヤ22とドッグギヤ23とが衝撃的に噛み合って歯打ち音(ラトル音)を生じることを回避できる。こうして、ドライブシャフト11とプロペラシャフト12との相対回転速度に起因する異音の発生を機械部品によらずに低減できる。よって、部品点数の増加、組立工数の増加、およびコストの増加を回避しながら、歯打ち音を抑制できる船外機1を提供できる。
【0046】
プロペラシャフト12は、水からの抵抗を受けながら回転するので、その回転には大きな変動は生じない。それに対して、ドライブシャフト11は、クランクシャフト53に結合されているので、エンジン10の燃焼のばらつきに起因するトルク変動の影響を受けて、不可避的に回転変動を生じる。つまり、エンジン10の回転変動が、ドライブシャフト11とプロペラシャフト12との間の相対回転速度の主要な原因である。そこで、この実施形態では、エンジン回転速度の変動を検出することによって、ドライブシャフト11とプロペラシャフト12との相対回転速度を間接的に検出し、目標エンジン回転速度に対する実エンジン回転速度の変動幅(エンジン回転速度偏差)が大きくなったときに、エンジン10に対する負荷を制御している。これにより、ドライブシャフト11とプロペラシャフト12との相対回転速度を効果的に低減して、歯打ち音を低減できる。
【0047】
また、この実施形態では、エンジン10からの動力によって駆動される発電装置としてのフライホイールマグネトウ70の発電負荷を電子制御ユニット100および可変電圧発電システム102によって制御する構成となっている。したがって、エンジン10に負荷を与えるために専用の部品を備える必要がないので、構造が簡単であり、機械部品を追加することなく、異音の発生を抑制できる。
【0048】
より具体的には、この実施形態では、エンジン10のクランクシャフト53に結合されたフライホイール(ロータ72等)の回転変動が検知され、その回転変動に対して逆位相の負荷がフライホイールマグネトウ70からクランクシャフト53に与えられるようになっている。この構成により、エンジン10の回転を安定させるための部品であるフライホイールを利用して、エンジン10の回転変動が検知され、発電装置としてのフライホイールマグネトウ70によってエンジン10に対して負荷を与えることができる。こうして、専用の機械部品を備えることなく、エンジンの回転変動に起因するドライブシャフトとプロペラシャフトとの相対回転速度を低減できる。
【0049】
また、この実施形態では、エンジン10の回転変動がエンジン負荷制御条件(図6のステップS3)を満たすことを条件に、エンジン回転速度の変動に対して逆位相となるエンジン負荷がフライホイールマグネトウ70から発生するように構成されている。すなわち、この実施形態では、ドライブシャフト11とプロペラシャフト12との相対回転速度を打ち消すためのエンジン負荷が常時発生されるわけではなく、エンジン負荷制御条件が満たされることを条件にエンジン負荷が制御される。したがって、無用な制御が行われることを回避でき、かつ、無用な負荷がエンジン10に与えられることを回避できる。より具体的には、エンジン回転速度偏差の絶対値が所定の閾値(たとえば20rpm)以上であることがエンジン負荷制御条件とされている。すなわち、船外機1が発生すべき推進力指令値であるスロットル開度に対応する目標エンジン回転速度に対する実エンジン回転速度の変動幅であるエンジン回転速度偏差に関する条件がエンジン負荷制御条件とされている。前述のとおり、プロペラシャフト12は水からの抵抗を受けながら回転するので、その回転には大きな変動は生じない。それに対して、エンジン10は燃焼によって発生するトルクのばらつきに起因する回転変動が不可避であり、エンジン10の回転変動が、ドライブシャフト11とプロペラシャフト12との間の相対回転速度の主要な原因である。そこで、エンジン回転速度偏差の絶対値が大きくなったときに、エンジン10に対する負荷を制御することとすれば、ドライブシャフト11とプロペラシャフト12との相対回転速度を効果的に低減できる。すなわち、エンジン回転速度偏差の絶対値が小さく、したがって、エンジン10の回転変動が小さい場合、すなわち、ドライブシャフト11とプロペラシャフト12との相対回転速度が小さい場合には、目立った異音(ドッグクラッチ20での歯打ち音)が発生しない。したがって、エンジン回転速度偏差の絶対値が大きいときにエンジン負荷を制御する本実施形態の構成により、歯打ち音を効果的に低減できる。
【0050】
また、この実施形態では、所定のエンジン負荷制御禁止条件が満たされるときには、エンジン回転速度偏差に対して逆位相となるエンジン負荷を発生させないように構成されている。より具体的には、エンジン回転速度がエンジン回転速度閾値を超えているときは(図6のステップS1:NO)、エンジン回転速度偏差を打ち消すためのエンジン負荷制御が実行されない。エンジン回転速度が高いときには、エンジン10は大きな出力を発生しており、かつプロペラ17は大きな抵抗を水から受けているので、ドッグクラッチ20内におけるギヤの噛合状態は安定している。加えて、エンジン音が大きいため、ドッグクラッチ20から生じる異音はエンジン音にかき消される。したがって、エンジン回転速度が高いときにエンジン負荷の制御を禁止することにより、無駄な制御を省くことができ、エンジン10に対して不必要な負荷が与えられることを回避できる。こうして、適切な条件下で、エンジン負荷を制御できる。
【0051】
また、この実施形態では、過去一定時間内にスロットル開度が変化したときには、エンジン回転速度偏差を打ち消すためのエンジン負荷制御が行われない(図6のステップS2:YES)。すなわち、推進力指令値としてのスロットル開度が変化した後、当該スロットル開度に対応する目標エンジン回転速度に実エンジン回転速度が未到達である一定時間内には、エンジン負荷制御が禁止される。これにより、スロットル開度が変化したときには、エンジン回転速度を速やかに目標エンジン回転速度に到達させて、スロットル開度に応じた推進力を発生させることができる。また、スロットル開度が変化してから実エンジン回転速度が目標エンジン回転速度に到達するまでは、エンジン10は加速状態または減速状態にあり、ドッグクラッチ20内でのギヤの噛み合いは安定していて、歯打ち音が生じる可能性は低い。この観点からも、実エンジン回転速度が目標エンジン回転速度に到達する以前の期間には、エンジンの負荷を制御する必要性は低い。
【0052】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明はさらに他の形態で実施することもできる。たとえば、エンジン10の回転変動を検出する代わりに、ドライブシャフト11とプロペラシャフト12との相対回転速度を直接的に検出する構成としてもよい。具体的には、プロペラシャフト12の回転速度を検出するプロペラシャフト回転センサを設け、クランク角センサ95の出力に基づいて求められるドライブシャフト11の回転速度と、プロペラシャフト回転センサの出力との差を相対回転速度として求めてもよい。そして、この相対回転速度を打ち消すように、フライホイールマグネトウ70からクランクシャフト53に対して負荷トルクを与えればよい。
【0053】
また、前述の実施形態では、エンジン10に負荷トルクを与える発電装置としてフライホイールマグネトウ70を例示したけれども、オルタネータのような他の形態の発電装置であっても、エンジン10に与える負荷トルクを変動させることができる。
さらに、前述の実施形態では、船舶用推進装置として船外機1を例示したけれども、この発明を適用可能な船舶用推進装置の例としては、他にも、スターンドライブを挙げることができる。
【0054】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 船外機
10 エンジン
11 ドライブシャフト
12 プロペラシャフト
17 プロペラ
18 駆動ギヤ
20 ドッグクラッチ
21 前進ギヤ
21a 入力ギヤ
21b 噛合部
22 後退ギヤ
22a 入力ギヤ
22b 噛合部
23 ドッグギヤ
23a 噛合部
23b 噛合部
30 シフト機構
50 クランクケース
51 シリンダボディ
52 シリンダヘッド
53 クランクシャフト
54 シリンダ
55 ピストン
56 コンロッド
70 フライホイールマグネトウ
71 マグネット
72 ロータ
73 コイル
74 ステータ
76 連結部材
77 ホルダ
78 円筒部
79 環状部
84 連結部
85 フランジ
91 ステータコア
92 ブラケット
93 ブラケット
95 クランク角センサ
96 検出歯
100 電子制御ユニット
101 スロットル開度センサ
102 可変電圧発電システム
105 バッテリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
プロペラシャフトと、
前記エンジンからの動力によって回転されるドライブシャフトと、
前記ドライブシャフトの回転を前記プロペラシャフトに伝達するドッグクラッチと、
前記ドライブシャフトと前記プロペラシャフトとの間の相対回転速度を検知して、その検知された相対回転速度に対して逆位相となるエンジン負荷を発生させるエンジン負荷発生手段とを含む、船舶用推進装置。
【請求項2】
前記エンジン負荷発生手段は、
前記エンジンからの動力によって駆動される発電装置と、
前記発電装置の負荷を制御する制御手段とを含む、請求項1に記載の船舶用推進装置。
【請求項3】
前記エンジンのクランクシャフトに結合されたフライホイールをさらに含み、
前記エンジン負荷発生手段が、前記フライホイールの回転変動を検知して、前記フライホイールに対して前記検知された回転変動に対して逆位相の負荷を与えるように構成されている、請求項1に記載の船舶用推進装置。
【請求項4】
前記エンジン負荷発生手段が、
前記フライホイールの回転によって電力を生成する発電装置と、
前記発電装置の負荷を制御する制御手段とを含む、請求項3に記載の船舶用推進装置。
【請求項5】
前記エンジン負荷発生手段は、前記相対回転速度がエンジン負荷制御条件を満たすことを条件に、前記相対回転速度に対して逆位相となるエンジン負荷を発生させるように構成されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の船舶用推進装置。
【請求項6】
前記エンジン負荷制御条件が、前記相対回転速度の大きさに関する条件を含む、請求項5に記載の船舶用推進装置。
【請求項7】
前記相対回転速度の大きさに関する条件が、当該船舶用推進装置が発生すべき推進力指令値に対応する目標エンジン回転速度に対する前記エンジンの実際の回転速度の変動幅に関する条件を含む、請求項6に記載の船舶用推進装置。
【請求項8】
前記エンジン負荷発生手段は、エンジン負荷制御禁止条件が満たされるときには、前記相対回転速度に対して逆位相となるエンジン負荷を発生させないように構成されている、請求項1〜7のいずれか一項に記載の船舶用推進装置。
【請求項9】
前記エンジン負荷制御禁止条件は、前記船舶用推進装置の運転状態に関する運転状態条件を含む、請求項8に記載の船舶用推進装置。
【請求項10】
前記運転状態条件は、前記エンジンの回転速度が閾値以上であることを含む、請求項9に記載の船舶用推進装置。
【請求項11】
前記運転状態条件が、当該船舶用推進装置が発生すべき推進力指令値が変化した後、当該推進力指令値に対応する目標エンジン回転速度に前記エンジンの実際の回転速度が未到達であることを含む、請求項9また10に記載の船舶用推進装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−91422(P2013−91422A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234779(P2011−234779)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)