説明

芽胞形成能を有する新規菌株Bacilluscoagulanslilac−01

【課題】 既存の標準株などの菌株と比較して、芽胞形成能、増殖至適温度、増殖能および芽胞の耐熱性が高く、L−アラビノース、リボース、D−キシロース、ラムノース、α−メチル−D−グルコシド、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシン、セロビオース、ラクトース、メリビオース、スクロース、D−ラフィノースおよびβゲンチオビオースを資化する一方で、マンニトールおよびD−アラビトールを資化しないといった特異な性質を有する、バチルスコアグランスの新規菌株Bacillus coagulans lilac−01およびそれを添加する工程を有する食品および飼料の製造方法を提供する。
【解決手段】 芽胞形成能を有する菌株Bacillus coagulans lilac−01(受託番号:NITE P−1102)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芽胞形成能を有する新規菌株Bacillus coagulans lilac−01およびそれを添加する工程を有する食品または飼料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌は、代謝により乳酸を生成する細菌の総称であり、整腸作用を有することや発酵食品の製造に寄与することが知られている。Bacillus coagulans(バチルスコアグランス)は、バチルス属に属する乳酸菌であり、芽胞を形成することから、有胞子性乳酸菌とも呼ばれている。
【0003】
芽胞は耐熱性や耐酸性に優れることから、バチルスコアグランスは、製品の加熱処理工程で死滅する虞が少ないこと、あるいは摂取すると胃酸や胆汁酸に耐えて生きた状態で生体の腸に届き、高い整腸作用を発揮することが期待される。そのため、これまでに種々のバチルスコアグランス菌株が発見かつ利用されており、例えば、バチルスコアグランスの一株であるラクボン菌が整腸剤に用いられている他、特許文献1には耐熱性に優れた芽胞を形成するバチルスコアグランスC101株が、特許文献2にはL(+)−ラクテート生産性を有するバチルスコアグランスSIM−7 DSM14043株がそれぞれ開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−075829号公報
【特許文献2】特表2004−519244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、後述の実施例で示すように、ラクボン菌はマンニトールおよびD−アラビトールを資化する点、増殖至適温度が低い点および増殖能が低い点で、バチルスコアグランスC101株はマンニトールを資化する点で、バチルスコアグランスSIM−7 DSM14043株はラクトースを資化しない点で、いずれの菌株もBacillus coagulans lilac−01とは異なる。
【0006】
本発明は、既存の標準株であるBacillus coagulans NBRC12583(アクセッション番号NR_041523.1)(以下、単に「標準株」という場合がある。)などの菌株と比較して、芽胞形成能、増殖至適温度、増殖能および芽胞の耐熱性が高く、L−アラビノース、リボース、D−キシロース、ラムノース、α−メチル−D−グルコシド、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシン、セロビオース、ラクトース、メリビオース、スクロース、D−ラフィノースおよびβゲンチオビオースを資化する一方で、マンニトールおよびD−アラビトールを資化しないといった特異な性質を有する、バチルスコアグランスの新規菌株Bacillus coagulans lilac−01およびそれを添加する工程を有する食品および飼料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、北海道旭川市に生育しているライラックの花から、既存の標準株などの菌株と比較して、芽胞形成能、増殖至適温度、増殖能および芽胞の耐熱性が高く、L−アラビノース、リボース、D−キシロース、ラムノース、α−メチル−D−グルコシド、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシン、セロビオース、ラクトース、メリビオース、スクロース、D−ラフィノースおよびβゲンチオビオースを資化する一方で、マンニトールおよびD−アラビトールを資化しないといった特異な性質を有する、バチルスコアグランスの新規菌株Bacillus coagulans lilac−01(以下、単に「lilac−01株」という場合がある。)を単離し、これを添加することにより、エネルギーや脂質、糖質を低減させるとともにビタミンBなどの機能成分を増加させた食品または飼料、あるいは多数の生きたlilac−01株が存在する食品または飼料を製造することができること、およびこれらの食品または飼料中に存在するlilac−01株は、生きた状態でヒトや動物の腸管に到達し、整腸効果を発揮することができることを見出し、下記の各発明を完成した。
【0008】
(1)芽胞形成能を有する菌株Bacillus coagulans lilac−01(受託番号:NITE P−1102)。
【0009】
(2)40℃で24時間以上培養後の芽胞数がBacillus coagulans標準株であるNBRC12583と比較して1000倍以上である、(1)に記載の菌株。
【0010】
(3)増殖至適温度cが50℃<c<60℃である、(1)または(2)に記載の菌株。
【0011】
(4)50℃で6時間以上培養した後の菌量が、Bacillus coagulans標準株であるNBRC12583を50℃で6時間以上培養した後の菌量と比較して大である、(1)から(3)のいずれかに記載の菌株。
【0012】
(5)100℃で30分間加熱後の菌株の生存率が4%以上である、(1)から(4)のいずれかに記載の菌株。
【0013】
(6)L−アラビノース、リボース、D−キシロース、ラムノース、α−メチル−D−グルコシド、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシン、セロビオース、ラクトース、メリビオース、スクロース、D−ラフィノースおよびβゲンチオビオースを資化し、かつマンニトールおよびD−アラビトールを資化しない、(1)から(5)のいずれかに記載の菌株。
【0014】
(7)食品または飼料の製造方法であって、(1)から(6)のいずれかに記載の菌株を添加する工程を有する前記方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るlilac−01株によれば、既存の標準株などの菌株と比較して芽胞形成能が高いことから、高温や低温、乾燥、酸性などの過酷な環境における生存率が高く、特に、摂取したヒトや動物の腸管に生きたまま到達することができる乳酸菌として利用することができる。また、本発明に係るlilac−01株によれば、増殖至適温度および増殖能が高いことから、食中毒菌などの雑菌が増殖する虞が小さい比較的高温において容易に大量増殖させることができる乳酸菌として利用することができる。また、本発明に係るlilac−01株によれば、芽胞形成能および芽胞の耐熱性が高く、30℃での培養においてほとんど発芽しない芽胞を形成することから、香辛料や漬物などの非加熱食品のみならず、パンや菓子などの高温加熱食品においても大量に存在することができる乳酸菌として利用することができる。また、本発明に係るlilac−01株によれば、整腸効果が高く、かつ大量に摂取しても安全な乳酸菌として利用することができる。さらに、本発明に係るlilac−01株およびそれを添加する工程を有する食品または飼料の製造方法によれば、エネルギーや脂質、糖質などの生活習慣病の誘因となる成分を低減させるとともにビタミンBなどの機能成分を増加させた、健康的で安全な食品または飼料、あるいはlilac−01株が多数存在して、整腸効果を有し、長期保存をすることができる安全な食品または飼料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1a】標準寒天培地における試験菌株(Bacillus coagulans lilac−01と命名され、平成23年5月25日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託される前のlilac−01株をいい、以下同じ。)のコロニーを示す図である。
【図1b】BCPを添加した標準寒天培地における試験菌株のコロニーを示す図である。
【図1c】試験菌株の菌の形態および芽胞を示す図である。
【図2】試験菌株と標準株の16S rDNA塩基配列相同性を示す図である。
【図3】45℃、50℃、55℃および60℃における試験菌株の増殖曲線を示す図である。
【図4】50℃および55℃における試験菌株、標準株およびラクボン菌の増殖曲線を示す図である。
【図5】5日間培養した場合の試験菌株および標準株の芽胞数を示す図である。
【図6】30℃での培養開始時および5時間培養後において、lilac−01株の芽胞を観察した結果を示す図である。
【図7】30℃で5時間培養した場合のlilac−01株の芽胞数を示す図である。
【図8】lilac−01株の菌液を70℃、80℃、85℃、90℃、95℃および100℃で30分間加熱した場合の芽胞数を示す図である。
【図9】lilac−01株を乾燥させた状態で100℃および120℃で30分間加熱した場合の芽胞数を示す図である。
【図10】lilac−01培養オカラ粉を10日間摂取したヒトの糞便中の生菌数を計測した際に出現したコロニーを示す図(左図)および当該コロニーについて、バチルスコアグランスの特異的PCRを行った結果を示す図(右図)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る新規の芽胞形成能を有する菌株lilac−01株およびそれを用いる食品または飼料の製造方法について詳細に説明する。lilac−01株は、後述の実施例に示すように、平成23年5月25日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託番号NITE P−1102として寄託したため、この機関より入手することができる。
【0018】
本発明において「芽胞形成能」とは、芽胞を形成する能力をいい、「芽胞形成能を有する」とは、任意の条件下において芽胞を形成することができる能力をいう。例えば、比較的に芽胞形成に適した条件として、生菌に適さない高温や乾燥環境、グルコースの欠乏、マンガンイオンの存在下、pH4.4以上、有酸素などの条件が知られている。なお、本発明において、「芽胞」は「(細菌の)胞子」や「内生胞子」と交換可能に用いられる場合がある。
【0019】
lilac−01株を40℃で24時間以上培養した後の芽胞数は、既存の標準株を同濃度かつ同条件で培養した後の芽胞数と比較して1000倍以上であることから、lilac−01株は既存の標準株と比較して芽胞形成能が高いことが分かる。なお、本発明において、菌株の芽胞形成能は、定法に従って確認することができ、そのような方法としては、例えば、上述の芽胞形成に適した条件下で菌株を一定時間培養した後、芽胞数を計測することにより行うことができる。また、芽胞は、定法に従い確認することができ、そのような方法としては、例えば、位相差顕微鏡を用いて輝点を確認する方法の他、Moeller法やWirtz法などの芽胞染色法を用いて行う方法を挙げることができる。また、芽胞数は、これらの方法により可視化した芽胞を数えることにより計測することができる。
【0020】
次に、lilac−01株の増殖至適温度は、50℃<c<60℃であり、既存の標準株の増殖至適温度である50℃(後述する実施例1参照)と比較して高いことが分かる。なお、本発明において、増殖至適温度は定法に従って求めることができ、例えば、菌株を様々な温度で培養して培養後の菌量を測定し、その菌量が最大となる温度を「増殖至適温度」とすることができる。また、菌量は、例えば、液体培地であれば波長600nmにおける吸光度(濁度)を、寒天培地であればコロニー数を、それぞれ計測することにより測定することができる。
【0021】
次に、lilac−01株は、既存の標準株の増殖至適温度である50℃において、6時間以上培養した後の菌量が、既存の標準株を同濃度かつ同条件で培養した後の菌量と比較して大であることから、lilac−01株は既存の標準株と比較して増殖能が高いことが分かる。
【0022】
また、lilac−01株は、100℃で30分間加熱後の菌株の生存率が4%以上であることから、芽胞の耐熱性が高いことが分かる。
【0023】
また、lilac−01株は、既存の標準株などの菌株とは異なり、下記(a)および(b)の資化性を有する;
(a)L−アラビノース、リボース、D−キシロース、ラムノース、α−メチル−D−グルコシド、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシン、セロビオース、ラクトース、メリビオース、スクロース、D−ラフィノースおよびβゲンチオビオースを資化する、
(b)マンニトールおよびD−アラビトールを資化しない。
【0024】
次に、本発明は、lilac−01株を添加する工程を有する食品または飼料の製造方法を提供する。本発明に係る食品または飼料の製造方法は、lilac−01株を添加する工程を有する。なお、本発明に係る食品または飼料の製造方法において、上述したlilac−01株と同等または相当する構成については再度の説明を省略する。
【0025】
lilac−01株を添加する工程において、lilac−01株を添加する段階(タイミング)はいずれでもよく、例えば、食品または飼料の原材料に添加してもよく、食品または飼料の製造途中や製造の最終段階において添加してもよい。
【0026】
本発明に係る食品または飼料の製造方法は、本発明に係る食品または飼料の製造方法の特徴を損なわない限り他の工程を有していてもよく、そのような工程としては、例えば、lilac−01株の前培養工程や培養工程、加熱工程、芽胞形成工程、攪拌工程、殺菌工程、滅菌工程、加熱工程、造粒工程などを挙げることができる。
【0027】
以下、本発明に係る芽胞形成能を有する新規菌株Bacillus coagulans lilac−01およびそれを用いる食品または飼料の製造方法について、実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例】
【0028】
<実施例1>菌株の単離および同定
(1)菌株の単離
北海道旭川市に生育しているライラックの花から、Bacillus coagulans(バチルスコアグランス)のコロニーおよび菌の形態を有する菌を単離し、これを試験菌株とした。具体的には、まず、ライラックの花を滅菌水に懸濁してライラック懸濁液を調製し、集積培養用培地に接種した後、55℃で2日間培養した。続いて、芽胞形成菌を選択するために、培養後の集積培養用培地を90℃で5分間加熱し、ブロモクレゾールパープル(BCP)を添加した標準寒天培地(日水製薬社)に前記加熱後の集積培養用培地を塗抹して、55℃で1日間培養した後、周囲が黄色を呈しているコロニーを選択して単離した。なお、BCPはpH5.2〜6.8の指示薬であり、pHが低下するにつれて、紫色から黄色へと呈色が変化することから、菌が酸を生成するか否かを確認することができる。
【0029】
試験菌株を、標準寒天培地(日水製薬社)において55℃で1日間培養した際のコロニーを図1aに、BCPを添加した標準寒天培地(日水製薬社)において55℃で1日間培養した際のコロニーを図1bにそれぞれ示す。また、菌の形態および芽胞の有無について、位相差顕微鏡を用いて400倍で観察した結果を図1cに示す。なお、芽胞は光に対する屈折性が分裂増殖型の細菌細胞である栄養細胞と異なり、位相差顕微鏡の暗視野において白く光る点や球状あるいは円形状のもの(輝点)として観察される。
【0030】
図1aに示すように、試験菌株のコロニーは小さな白い光沢のあるコロニーであった。培養時間が長くなると、コロニーの色調はクリーム色となった(図示しない)。また、図1bに示すように、試験菌株のコロニーの周囲は黄色を呈しており、試験菌株は、酸を生成していた。また、図1cに示すように、菌の形態は棍棒状であり、輝点が観察されたことから、試験菌株は桿菌であり、芽胞を形成することが明らかになった。
【0031】
すなわち、試験菌株が有するコロニーおよび菌の形態、ならびに酸生成能および芽胞形成能はバチルスコアグランスの性状と一致する(Logan A.ら、Bergey’s manual of systematic bacteriology Second edition、第3巻、第21〜128頁、2009年;Losada M.A.ら、Towards a healthier diet for the colon:the influence of fructooligosaccharides and lactobacilli on intestinal health.Nutr.Res.,第22巻、第71〜84頁、2002年;Wikipedia、http://en.Wikipedia.org/wiki/Bacillus_coagulans;中山大樹ら、日本農芸化学会誌、第26巻、第117〜120頁、1952年)ことから、試験菌株はバチルスコアグランスに属する菌であることが示唆された。
【0032】
(2)16S rDNA塩基配列解析
本実施例1(1)の試験菌株について、下記の試薬、装置およびプログラムを用いて、添付の仕様書に従い、16S rDNA塩基配列解析を行った。
【0033】
DNA抽出;DNeasy Blood&Tissue Kit(QIAGEN社)
使用プライマー;16S rDNAユニバーサルプライマー
フォワードプライマー;27F;5’−AGAGTTTGATCCTGGCTCAG−3’(配列番号1)
リバースプライマー ;1492R;5’−GGTTACCTTGTTACGACTT−3’(配列番号2)
PCRに用いたDNAポリメラーゼ;EX TaqHS(TaKaRa社)
PCR産物の精製;SUREC−PCR(TaKaRa社)
シークエンス;3100Genetic Analyzer(Applied Biosystems社)
相同性検索;Basic Local Alignment Search Tool(BLAST)(NCBI http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)
【0034】
BLASTによる相同性検索の結果、試験菌株の16S rDNA塩基配列(配列番号3)1461bpと100%一致するものはなかった。ただし、配列番号3の配列における5‘末端のCCCまたはCCCCは、試験菌株の16S rDNA由来の塩基配列ではない可能性があることを付言する。一方、バチルスコアグランスの標準株であるNBRC12583(アクセッション番号NR_041523.1)と1452bp中1441bp(スコア2621)の一致が見られた。その結果を図2に示す。以上の本実施例1(1)および(2)の結果から、試験菌株はバチルスコアグランスに属することが明らかになった。
【0035】
(3)糖の資化性の比較
市販の整腸薬であるパンラクミン錠(第一三共ヘルスケア社)から、バチルスコアグランスの一株であるラクボン菌を単離した。本実施例1(1)の試験菌株、ラクボン菌および標準株について、API50CH(bioMerieux社)を用いて各種の糖に対する資化性を確認して比較した。その結果を下記に示す。+は陽性を、−は陰性をそれぞれ示す。なお、試験菌株においては、下記に示すいずれの糖からもガスの産生は認められなかった。
【0036】
標準株 試験菌株 ラクボン菌
コントロール − − −
グリセロール + + +
エリスリトール − − −
D−アラビノース − − −
L−アラビノース − + +
リボース − + +
D−キシロース − + +
L−キシロース − − −
アドニトール − − −
βメチルキシロシド − − −
ガラクトース + + +
D−グルコース + + +
D−フルクトース + + +
D−マンノース + + +
L−ソルボース − − −
ラムノース − + +
ダルシトール − − −
イノシトール − − −
マンニトール − − +
ソルビトール − − −
α−メチル−D−マンノシド − − −
α−メチル−D−グルコシド − + +
N−アセチルグルコサミン + + +
アミグダリン − + +
アルブチン − + +
エスクリン − + +
サリシン − + +
セロビオース − + +
マルトース + + +
ラクトース − + +
メリビオース − + +
スクロース − + +
トレハロース + + +
イヌリン − − −
メレジトース − − −
D−ラフィノース − + +
スターチ + + +
グリコーゲン − − −
キシリトール − − −
βゲンチオビオース − + +
D−チュラノース − − −
D−リキソース − − −
D−タガトース − − −
D−フコース − − −
D−アラビトール − − +
L−アラビトール − − −
グルコネート + + +
2ケト−グルコネート − − −
5ケト−グルコネート − − −
【0037】
上記に示すように、試験菌株は、L−アラビノース、リボース、D−キシロース、ラムノース、α−メチル−D−グルコシド、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシン、セロビオース、ラクトース、メリビオース、スクロース、D−ラフィノースおよびβゲンチオビオースを資化する点で標準株と、マンニトールおよびD−アラビトールを資化しない点でラクボン菌と、マンニトールを資化しない点で特許文献1に記載のバチルスコアグランスC101株と、ラクトースを資化する点で特許文献2に記載のバチルスコアグランスSIM−7 DSM14043株とそれぞれ異なっていた。
【0038】
(4)培養可能温度、増殖至適温度および増殖能の比較
本実施例1(1)の試験菌株、本実施例1(3)のラクボン菌および標準株について、20℃〜70℃の間で5℃刻みの各温度において24時間培養した。培養条件は、試験用培地{ポリペプトン0.5%(w/w)、酵母エキス0.5%(w/w)、グルコース0.5%(w/w)、MgSO・7HO0.1%(w/w)}、好気条件下での静置培養とした。培養開始時、ならびに培養開始から2、4、6、8および24時間後に、分光光度計を用いて波長600nmにおける培地の吸光度(OD600)を測定した。測定した吸光度(濁度)を菌量の指標として増殖曲線のグラフを作成した。45℃、50℃、55℃および60℃における、培養開始から8時間後までの試験菌株の増殖曲線を図3に示す。また、50℃および55℃における増殖曲線を、試験菌株、ラクボン菌および標準株の間で比較した結果を図4に示す。
【0039】
その結果、いずれの菌株も、20℃以下および65℃以上ではOD600がほとんど上昇しなかったが、25℃以上60℃以下ではOD600が上昇した(図示しない)。この結果から、試験菌株、ラクボン菌および標準株のいずれも、培養可能温度は25℃〜60℃であることが明らかになった。
【0040】
また、ラクボン菌および標準株では、8時間以上培養した場合において、50℃におけるOD600が他の培養温度におけるOD600と比較して最も大きかった(図示しない)のに対し、図3に示すように、試験菌株では、2時間以上培養した場合において、55℃におけるOD600が最も大きかった。すなわち、ラクボン菌および標準株のいずれも、増殖至適温度は50℃であったのに対し、試験菌株の増殖至適温度cは50℃<c<60℃であった。これらの結果から、試験菌株は他の菌株と比較して、増殖至適温度が比較的高温であることが明らかになった。
【0041】
また、図4に示すように、ラクボン菌および標準株の増殖至適温度である50℃において6時間以上培養した場合、および試験菌株の増殖至適温度である55℃において4時間以上培養した場合のいずれにおいても、試験菌株のOD600は、ラクボン菌および標準株と比較して大きかった。この結果から、試験菌株は他の菌株と比較して比較的高温における増殖能が顕著に高いことが明らかになった。
【0042】
(5)芽胞形成能の比較
本実施例1(1)の試験菌株および本実施例1(3)の標準株について、芽胞形成能を比較した。具体的には、まず、試験菌株および標準株を、55℃、本実施例1(4)に記載の培養条件で前培養して前培養液を得た。また、本実施例1(4)の試験用培地にMnSOを終濃度5ppmとなるよう添加して芽胞用培地を調製した。次に、芽胞用培地に試験菌株および標準株の前培養液を、1%(v/v)となるようそれぞれ添加して、本培養として40℃で5日間振盪培養した。本培養の培養日数が1日間、2日間および5日間の時点で、一定量の液を取って芽胞計測用液とし、芽胞数の計測を行った。その結果を図5に示す。なお、芽胞数の計測は、芽胞計測用液を90℃で5分間加熱した後、滅菌生理食塩水を用いて希釈し、これを標準寒天培地(日水製薬社)で混釈して、好気条件下、55℃で1日間培養して、出現したコロニー数を計測することにより行った。
【0043】
図5に示すように、試験菌株の芽胞数は、本培養の培養日数が1日間では2.4×10cfu/mL、2日間では1.6×10cfu/mL、5日間では2.3×10cfu/mLであった。これに対し、標準株の芽胞数は、本培養の培養日数が1日間では1.9×10cfu/mL、2日間では4.0×10cfu/mL、5日間では4.0×10cfu/mLであった。
【0044】
すなわち、本培養の培養日数がいずれの時点においても、試験菌株は標準株と比較して、およそ1000倍以上多くの芽胞を形成していた。これらの結果から、試験菌株は他の菌株と比較して芽胞形成能が顕著に高いことが明らかになった。
【0045】
以上の(1)〜(5)の結果から、試験菌株は、他の菌株と比較して増殖至適温度が高く、高温における増殖能が高く、芽胞形成能が顕著に高いといった特徴を有する、バチルスコアグランスの新規菌株であることが明らかになった。そこで、試験菌株をBacillus coagulans lilac−01と命名し、平成23年5月25日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託番号NITE P−1102として寄託した。Bacillus coagulans lilac−01(以下「lilac−01株」という。)の、上記以外の菌学的性状を以下にまとめて示す。
【0046】
1.細胞形態 桿菌((0.8〜1.0)×(5.0〜9.0)μm)
2.運動性 あり
3.グラム染色 陽性
4.カタラーゼ 陽性
5.通性嫌気性
6.生育可能pH(最適pH) pH5.0〜9.0(pH5.0〜7.0)
【0047】
<実施例2>lilac−01株の芽胞についての試験
(1)芽胞の発芽性試験
lilac−01株を、55℃、実施例1(4)に記載の培養条件で前培養し、前培養液を得た後、標準寒天培地(日水製薬社)のプレートに塗抹し、37℃で2日間培養した。出現したコロニーを掻き取って、実施例1(4)の試験用培地に懸濁することにより、芽胞液を調製した。続いて、芽胞液500μLをエッペンドルフチューブに入れたものを2つ用意し、AおよびBとした。Aのみ、ブロックヒーターを用いて90℃で10分間加熱することにより、発芽活性化処理を行った。その後、AおよびBを、ブロックヒーターを用いて30℃で5時間培養した。培養開始時および30℃での培養中の1時間経過毎に、実施例1(5)に記載の方法により芽胞数を計測し、位相差顕微鏡を用いて400倍で芽胞の観察を行った。培養開始時(発芽活性化処理を行う前)および5時間培養後のAにおける芽胞の観察結果を図6に、芽胞数の計測結果を図7にそれぞれ示す。なお、一般に、芽胞の発芽は熱によって活性化されることが知られている(蜂須賀養悦、化学と生物、第7巻、第509〜516頁、1969年)。
【0048】
図6に代表して示すように、AおよびBにおいて、培養開始時および培養時間が1、2、3、4および5時間のいずれの時点においても、輝点が観察されたことから、芽胞が存在していたことが確認された。また、図7に示すように、Aの芽胞数は、培養時間が0時間(培養開始時)〜2時間の間におよそ3/4に減少したものの、2時間〜5時間の間はほとんど変化しなかった。一方、Bの芽胞数は、培養時間が0時間〜5時間を通じてほとんど変化しなかった。培養開始時の芽胞数が2.5×10cfu/mLであったのに対して、5時間培養後の芽胞数は、Aでは1.9×10cfu/mLであり、Bでは2.7×10cfu/mLであった。すなわち、AおよびBのいずれにおいても、芽胞はほとんど減少しなかった。これらの結果から、lilac−01株の芽胞は、発芽活性化処理の有無に関わらず、30℃で数時間培養してもほとんど発芽せず、その数がほとんど減少しないことが明らかになった。
【0049】
(2)芽胞の耐熱性試験
[2−1]液体中における耐熱性
lilac−01株を55℃、実施例1(4)に記載の培養条件で前培養して前培養液を得た。前培養液を実施例1(5)に記載の芽胞用培地に接種して、好気条件下で40℃で2日間振盪培養することにより菌液を調製し、芽胞数を計測した。この菌液をエッペンドルフチューブに100μLずつ入れたものを6つ用意し、ブロックヒーターを用いて70℃、80℃、85℃、90℃、95℃および100℃で、それぞれ30分間加熱した。加熱開始から10分後および30分後に一定量の菌液を取って芽胞数の計測を行った。なお、芽胞数の計測は、実施例1(5)に記載の方法により行った。その結果を図8に示す。
【0050】
図8に示すように、30分間加熱した後の芽胞数は、加熱前(加熱時間0分)と比較して、70℃および80℃で加熱した場合はほとんど変化がなく、85℃および90℃で加熱した場合はわずかに減少し、95℃および100℃で加熱した場合はおよそ1/10に減少した。加熱前の芽胞数が1.7×10cfu/mLであったのに対して、30分間加熱した後の芽胞数は、70℃では2.1×10cfu/mL(生存率100%)、80℃では1.7×10cfu/mL(生存率100%)、85℃では1.1×10cfu/mL(生存率65%)、90℃では8.5×10cfu/mL(生存率50%)、95℃では1.4×10cfu/mL(生存率8%)、100℃では6.5×10cfu/mL(生存率4%)であった。培養日数の短い未熟な芽胞は一般的に耐熱性が劣るが、lilac−01株の芽胞は、培養日数が2日間と短いにもかかわらず、液体中において100℃で30分間加熱しても芽胞の減少率が1/100程度に留まるほど耐熱性が高かった。これらの結果、および市販の株は100℃より高い温度で30分間加熱した場合に芽胞数が1/100000と大きく減少する(諏訪桃子、バイオインダストリー、第24巻、第17〜22頁、2007年)ことから、lilac−01株の芽胞は他の菌株と比較して耐熱性が高いことが明らかになった。
【0051】
[2−2]乾燥状態における耐熱性
普通寒天培地のプレートにlilac−01株を塗抹して、好気条件下、40℃で2日間培養した。プレート上のコロニーを掻き取って滅菌水に入れて懸濁することにより、菌懸濁液を調製した。この菌懸濁液50μLを小サイズのアルミケースに入れたものを10用意し、5つずつ2群に分けて、100℃群および120℃群とした。オーブン(アズワン社)を用いてこれらを60℃で30分間加熱することにより乾燥させた。その後、オーブンを用いて100℃群は100℃で、120℃群は120℃でそれぞれ30分間加熱した。100℃または120℃での加熱開始時、加熱開始から5分後、10分後、20分後および30分後に各群からアルミケースを1つずつ取り出し、その中に滅菌生理食塩水を入れて懸濁し、その全量を標準寒天培地(日水製薬社)で混釈し、好気条件下、55℃で1日間培養した後、コロニーの数を数えることにより生存した芽胞数を計測した。その結果を図9に示す。
【0052】
図9に示すように、100℃で加熱した場合の生存した芽胞数は、加熱開始時が3.3×10cfuであったのに対して、30分間加熱後は2.2×10cfu(生存率7%)であり、およそ1/10に減少した。また、120℃で加熱した場合の生存した芽胞数は、加熱開始時が2.2×10cfuであったのに対して、30分間加熱後は5.6×10cfu(生存率0.3%)であり、およそ1/1000に減少した。すなわち、lilac−01株の芽胞は、乾燥状態においては、100℃で30分間加熱しても芽胞の減少が1/10程度に留まり、120℃で30分間加熱しても相当量の芽胞が残存しているほど耐熱性が高かった。これらの結果から、lilac−01株の芽胞は耐熱性が高いことが明らかになった。
【0053】
(3)ヒトにおける摂取試験
[3−1]lilac−01培養オカラ粉の製造
造粒したオカラ900gを、ステンレス製カゴに入れてオートクレーブを用いて殺菌した。ここに、lilac−01株を3.6×10cfu/mLを含む培養液0.9mLを添加して、好気条件下、およそ50℃で26時間培養した後、乾燥機を用いて乾燥させ、粉末化して、これをlilac−01培養オカラ粉とした。lilac−01培養オカラ粉を一定量取って滅菌生理食塩水に希釈して希釈液とし、希釈液を標準寒天培地(日水製薬社)で混釈し、好気条件下、55℃で1日間培養した後、コロニーの数を数えることにより生菌数を計測したところ、3.0×10cfu/gであった。また、lilac−01培養オカラ粉の栄養分析を株式会社食環境衛生研究所に依頼して行った。lilac−01培養オカラ粉については得られた栄養分析値、オカラについては五訂増補日本食品標準成分表の値にそれぞれ基づいて、水分を0%とした値を算出して比較した。但し、イソフラボンの値はダイジン、グリシチン、ゲニスチンおよびそれらのアグリコン計6種類の総量の値とし、独立行政法人産業技術総合研究所北海道センターに依頼して得られた分析値に基づいた。その結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示すように、lilac−01培養オカラ粉では、オカラと比較して、脂質、糖質およびエネルギーが減少しており、ビタミンBが増加していた。これらの結果から、lilac−01株を添加することにより、エネルギー、脂質および糖質を低減させ、かつビタミンBといった機能成分を増加させたオカラ粉を製造することができることが明らかになった。
【0056】
[3−2]lilac−01培養オカラ粉の摂取および糞便中の菌数検査
健康な女性(49歳)に、本実施例2(3)[3−1]のlilac−01培養オカラ粉1g(lilac−01株の菌数3.0×10cfu)を、水と一緒に1日1回、10日間摂取してもらった。摂取前、摂取開始から10日間経過後(摂取10日後)および摂取終了から6日間経過後(摂取終了6日後)に糞便を採取した。なお、試験期間中、食事制限は行わなかった。
【0057】
採取した糞便の一定量を滅菌生理食塩水に希釈してサンプル液とし、このサンプル液について、本実施例2(3)[3−1]に記載の方法により生菌数を、実施例1(5)に記載の方法により芽胞数の計測を行った。一方、摂取10日後のサンプル液については、生菌数計測の際にプレート上に出現したコロニーの観察およびバチルスコアグランスの特異的PCRを行った。
【0058】
バチルスコアグランスについての特異的PCRは、次の手法により行った。まず、プレート上のコロニーを滅菌した爪楊枝で突き、100μLのTE緩衝液に懸濁した。これを95℃で10分間インキュベートした後、氷冷することによりDNAを熱抽出した。続いて、10000rpmで2分間遠心分離を行って上清を回収し、DNA液とした。このDNA液を鋳型として、既報(遠田昌人ら、Bacillus coagulansの16S−26S rDNA ITS領域の多型解析、東洋食品工業短大・東洋食品研究所 研究報告書、第22巻、第77〜83頁、2009年)に従い、下記のプライマー、PCR反応溶液組成およびPCR反応条件により、バチルスコアグランスの16SrDNAと23S rDNAとの間のinternal transcibed spacer(ITS)領域を増幅した。PCR産物は、1.5%(w/w)アガロースゲル、マーカーとしてGene ladder 100(Nippongene社)およびポジティブコントロールを用いて電気泳動を行った後、エチジウムブロマイドを用いて染色し、UVトランスイルミネーターを用いてバンドを確認した。なお、ポジティブコントロールは、lilac−01株から同様の方法によりDNAを抽出してバチルスコアグランスについての特異的PCRを行い、得られたPCR産物を用いた。
【0059】
フォワードプライマー;101−22F;5’−CGACTGAGATAAAGGAAACACG−3’(配列番号4)
リバースプライマー ;264−21R;5’−AAACTGAACAAAACGGAAACG−3’(配列番号5)
PCR反応溶液組成;フォワードプライマー(10pmol/μL) 2.5μL、リバースプライマー(10pmol/μL) 2.5μL、dNTP(各2.5mmol/L) 4μL、10×PCRバッファー 5μL、Ex Taq HS(5U/μL;TaKaRa社) 0.25μL、鋳型DNA液 1μL、dH0 34.75μL
PCR反応条件;94℃で5分の反応の後、94℃で1分、55℃で1分、72℃で1分の各反応を1サイクルとして30サイクル行い、その後72℃で2分の反応を行った。
【0060】
生菌数と芽胞数の計測の結果を表2に、コロニーの観察結果を図10左図に、特異的PCRの結果を図10右図にそれぞれ示す。
【0061】
【表2】

【0062】
表2に示すように、摂取前および摂取終了6日後は、生菌数および芽胞数のいずれも検出限界(10cfu/g)以下(ND)であったのに対し、摂取10日後は、生菌数が4.9×10cfu/gであり、芽胞数が2.0×10cfu/gであった。また、図10左図に示すように、摂取10日後のサンプル液のコロニーは白く小さな白い光沢のあるコロニーであり、図10右図に示すように、バチルスコアグランスのポジティブコントロールと同位置にバンドが検出された。これらの図10の結果から、生菌数計測の際にプレート上に出現したコロニーは、バチルスコアグランスに属すること、すなわちlilac−01株であることが確認された。
【0063】
すなわち、lilac−01培養オカラ粉を10日間摂取したヒトの糞便中には多数のlilac−01株が検出された一方で、摂取終了から6日間経過後は検出されなかった。これらの結果から、lilac−01株は生きた状態でヒトの腸管に到達すること、および摂取から6日間以上は腸内に残存しないことが明らかになった。また、1回の糞便量を200gとすると、糞便全量中の生菌数は4.9×10cfu×200g=9.4×10cfuとなり、1日の摂取菌量である3.8×10cfuよりも多いことから、lilac−01株はヒトの腸管において増殖することが示唆された。
【0064】
<実施例3>lilac−01入り食品の製造
(1)lilac−01入り豆乳
[1−1]lilac−01入り豆乳の製造
lilac−01株を実施例1(4)に記載の条件下で前培養して前培養液を得た。また、250mLの豆乳をバッフル付きフラスコに入れて、オートクレーブを用いて殺菌した。ここに、lilac−01株の前培養液を0.1%(v/v)となるよう添加して、40℃で2日間振盪培養することによりlilac−01入り豆乳を製造した。製造したlilac−01入り豆乳の栄養分析を財団法人日本食品分析センターに依頼して行った。その結果を表3に示す。また、lilac−01入り豆乳中の生菌数を実施例2(3)[3−1]に記載の方法により、芽胞数を実施例1(5)に記載の方法により、それぞれ計測したところ、生菌数が8.0×10cfu/mLであり、芽胞数が4.9×10cfu/mLであった。
【0065】
【表3】

【0066】
[1−2]急性毒性試験
本実施例3(1)[1−1]に記載の方法により製造したlilac−01入り豆乳について、限度試験による急性毒性試験を財団法人日本食品分析センターに依頼して行った。具体的には、lilac−01入り豆乳(生菌数1.4×10cfu/g、芽胞数8.6×10cfu/g)を投与量2000mg/kgでマウスに1回投与した後、14日間観察を行った。その結果、異常や死亡は認められなかったことから、lilac−01株入り豆乳は安全であることが確認された。
【0067】
(2)lilac−01入りオカラ粉
オカラを造粒した後、乾燥機を用いて乾燥させて、乾燥オカラとした。この乾燥オカラ200gに本実施例3(1)[1−1]のlilac−01入り豆乳50mLを添加して吸収させた後、乾燥機を用いて乾燥させ、粉末化して、これをlilac−01入りオカラ粉とした。lilac−01入りオカラ粉の栄養分析を財団法人日本食品分析センターに依頼して行った。その結果を表4に示す。
【0068】
【表4】

【0069】
(3)lilac−01入りカボチャオカラクッキー
ゆでたカボチャを水に入れて懸濁したものを、実施例2(3)[3−1]のlilac−01培養オカラ粉に吸収させてlilac−01カボチャオカラとした。続いて、乾燥機を用いて乾燥させて粉末化し、lilac−01カボチャオカラ粉とした。次に、薄力粉200g、ベーキングパウダー6g、lilac−01入りカボチャオカラ粉100g、無塩バター120g、砂糖100g、卵1個および塩少々を混ぜ合わせてlilac−01カボチャオカラクッキー生地を調製した後、成形して、予熱をしていたオーブンを用いて180℃で17分間焼成することによりlilac−01入りカボチャオカラクッキーを製造して検食した。製造途中において、lilac−01カボチャオカラ、lilac−01カボチャオカラ粉、lilac−01カボチャオカラクッキー生地およびlilac−01入りカボチャオカラクッキーのそれぞれから一定量を取って滅菌生理食塩水に希釈した後、生菌数を実施例2(3)[3−1]に記載の方法により計測した。また、lilac−01カボチャオカラ粉については、実施例1(5)に記載の方法により芽胞数も計測した。生菌数および芽胞数の計測結果を下記に示す。
【0070】
(cfu/g) 生菌数 芽胞数
lilac−01カボチャオカラ 1.1×10
lilac−01カボチャオカラ粉 6.6×10 1.8×10
lilac−01カボチャオカラクッキー生地 2.0×10
lilac−01入りカボチャオカラクッキー 4.7×10
【0071】
検食した結果、lilac−01入りカボチャオカラクッキーは、さくさくした食感であり、ほのかにカボチャの味がして美味しかった。また、生菌数を計測した結果、lilac−01入りカボチャオカラクッキーには、生きたlilac−01株が多数存在することが示された。これらの結果から、lilac−01株を添加することにより、整腸効果が期待できるクッキーを製造することができることが明らかになった。
【0072】
(4)lilac−01入りパンとlilac−01入りラスク
実施例2(3)[3−1]のlilac−01培養オカラ粉15g、強力粉135g、西京味噌12g、ベーキングパウダー5gおよびバター10gをフードプロセッサーに入れて混ぜ合わせた。続いて、混ぜながら120mLの水を少しずつ入れて、一塊になるまで混ぜることによりlilac−01パン生地を調製した。lilac−01パン生地を4等分して成形し、打ち粉をしてから切れ目を入れて、予熱をしていたオーブンを用いて180℃で20分間焼成することによりlilac−01入りパンを製造して検食した。焼成後のlilac−01入りパンの表面温度および内部温度を、放射温度計を用いて測定したところ、表面温度は105℃であり、内部温度は70℃であった。
【0073】
次に、lilac−01入りパンが冷えた後にスライスし、網にのせて、予熱をしていたオーブンを用いて180℃で30分間焼成することによりlilac−01入りラスクを製造した。焼成後のlilac−01入りラスクは内部まで乾燥しており、放射温度計を用いて表面温度を測定したところ、125℃であった。lilac−01入りパンおよびlilac−01入りラスクの製造途中において、lilac−01パン生地、lilac−01入りパンおよびlilac−01入りラスクのそれぞれから一定量を取って滅菌生理食塩水に希釈した後、生菌数を実施例2(3)[3−1]に記載の方法により、芽胞数を実施例1(5)に記載の方法によりそれぞれ計測した。その結果を下記に示す。
【0074】
(cfu/g) 生菌数 芽胞数
lilac−01パン生地 6.8×10 1.3×10
lilac−01入りパン 1.5×10 7.6×10
lilac−01入りラスク 5.0×10 6.6×10
【0075】
検食した結果、lilac−01入りパンは、膨らんでふわふわしており、通常のパンと同様の味と食感を呈していた。翌日も比較的柔らかい触感であった。また、生菌数および芽胞数を計測した結果、lilac−01入りパンおよびlilac−01入りラスクのいずれにも、生きたlilac−01株が多数存在することが示された。これらの結果から、lilac−01株を添加することにより、整腸効果が期待できるパンやラスクを製造することができることが明らかになった。
【0076】
(5)lilac−01入り豆乳パン
本実施例3(1)[1−1]に記載の方法によりlilac−01入り豆乳(生菌数7.1×10cfu/mL、芽胞数5.3×10cfu/mL)を調製し、水道水を用いて5倍に希釈した。これをパン生地に80ベーカーズ%の割合で添加して、定法に従いパンを製造し、lilac−01入り豆乳パンとした。なお、焼成時のパン生地の大きさはおよそ17cm×7cm×6cm、焼成条件は170℃で45分とした。この製造途中におけるパン生地、lilac−01入り豆乳パンの端部および中心部のそれぞれから一定量を取って滅菌生理食塩水に希釈した後、生菌数を実施例2(3)[3−1]に記載の方法により、芽胞数を実施例1(5)に記載の方法によりそれぞれ計測した。その結果を下記に示す。
【0077】
(cfu/g) 生菌数 芽胞数
パン生地 6.2×10 2.2×10
lilac−01入り豆乳パン(端部) 1.3×10 3.8×10
lilac−01入り豆乳パン(中心部) 1.1×10 7.8×10
【0078】
生菌数および芽胞数を計測した結果、lilac−01入り豆乳パンの端部および中心部のいずれにも、生きたlilac−01株が多数存在することが示された。これらの結果から、lilac−01株を添加することにより、整腸効果が期待できるパンを製造することができることが明らかになった。
【0079】
(6)lilac−01入り焼き菓子
本実施例3(1)[1−1]に記載の方法によりlilac−01入り豆乳(生菌数7.6×10cfu/mL、芽胞数6.0×10cfu/mL)を調製し、これを生地に2−3%(w/w)の割合で添加して、定法に従いオレンジパウンドケーキ、フルーツパウンドケーキ、バタークッキー、チョコクッキーおよびヘーゼルナッツクッキーを製造し、lilac−01入り焼き菓子とした。但し、バタークッキーのみ焼成前に50時間冷凍庫で保存した。lilac−01入り焼き菓子から一定量を取って滅菌生理食塩水に希釈した後、生菌数を実施例2(3)[3−1]に記載の方法により、芽胞数を実施例1(5)に記載の方法によりそれぞれ計測した。lilac−01入り焼き菓子の焼成条件、焼成時の大きさならびに生菌数および芽胞数の計測結果を表5に示す。
【0080】
【表5】

【0081】
生菌数および芽胞数を計測した結果、オレンジパウンドケーキ、フルーツパウンドケーキ、バタークッキー、チョコクッキーおよびヘーゼルナッツクッキーのいずれにも、生きたlilac−01株が多数存在することが示された。焼成時間が短いほど、また、焼成時の大きさが大きいほど生菌数および芽胞数が大きい傾向であった。これらの結果から、lilac−01を添加することにより、整腸効果が期待できる焼き菓子を製造することができることが明らかになった。また、lilac−01株は50時間の冷凍にも耐えて生存することが明らかになった。
【0082】
<実施例4>lilac−01入り飼料の製造および摂取試験
(1)lilac−01入り飼料の製造
日清丸紅印平牧米子豚、子豚育成用配合飼料{可消化養分総量(Total Digestible Nutrients;TDN)77%以上、抗生物質無添加;日清丸紅飼料社}に、実施例3(2)に記載の方法により製造したlilac−01入りオカラ粉(生菌数1.1×10cfu/g、芽胞数8.2×10cfu/g)を0.5%(w/w)となるよう添加することによりlilac−01入り飼料を製造した。また、コントロールとしてlilac−01入りオカラ粉を添加しない上記飼料を用意し、これを通常飼料とした。
【0083】
(2)豚における摂取試験
北海道夕張郡長沼町の養豚農家において、母豚がランドレース×ダイヨークシャーであり、父豚がバークシャーである三元交雑種の14〜16週齢の子豚1腹10頭を用意し、5頭ずつ2群に分けて試験群およびコントロール群とした。試験群には本実施例4(1)のlilac−01入り飼料を、コントロール群には本実施例4(1)の通常飼料を、それぞれ自由摂取させながら、2週間試験飼育を行った。試験飼育期間中の餌の摂取量は、試験群およびコントロール群のいずれも1頭あたりおよそ2kg/日であったことから、試験群におけるlilac−01株の芽胞摂取量は、1頭あたりおよそ10cfu/日であった。
【0084】
試験飼育後、試験群およびコントロール群の豚の糞便を採取して、一定量を滅菌生理食塩水に希釈してサンプル液とした。サンプル液について、実施例1(3)[3−2]に記載の方法により、生菌数および芽胞数の計測、コロニーの観察ならびにバチルスコアグランスの特異的PCRを行った。また、サンプル液をXM−G寒天培地(日水製薬社)に塗抹して37℃で20時間培養した後、出現した青色ないし青紫色のコロニーを大腸菌として菌数の計測を行った。さらに、サンプル液についてCompact pH meter AS−211(アズワン社)を用いてpHを測定した。芽胞数および大腸菌数の計測結果ならびにpHの測定結果について、群毎に平均値を算出した。
【0085】
その結果、生菌数および芽胞数は、コントロール群ではいずれも検出限界(10cfu/g)以下であったのに対し、試験群では、生菌数が平均1.1×10cfu/g、芽胞数が平均1.7×10cfu/gであった。なお、コロニーの観察およびチルスコアグランスの特異的PCRの結果から、生菌数計測の際にプレート上に出現したコロニーは、バチルスコアグランスに属すること、すなわちlilac−01株であることが確認された(図示しない)。また、大腸菌数は、コントロール群では平均1.7×10cfu/gであったのに対し、試験群では平均1.1×10cfu/gであった。また、サンプル液のpHは、コントロール群では平均pH6.0であったのに対し、試験群では平均pH5.5であった。
【0086】
すなわち、lilac−01入り飼料を2週間摂取した豚の糞便中には多数のlilac−01株が検出されたことから、lilac−01入り飼料に含まれるlilac−01株は生きた状態で飼育動物の腸管に到達することが明らかになった。また、本実施例4(2)を実施した時期における豚の排泄量は1日あたりおよそ1kgと推定されることから、1日の糞便全量中の芽胞数は1.7×10cfu×1kg=1.7×10cfuとなり、1日の摂取芽胞量であるおよそ10cfuとほぼ同数であったことから、摂取したlilac−01株は、ほぼ全量が生きた状態で飼育動物の腸管に到達すること、あるいは飼育動物の腸管において増殖することが示唆された。
【0087】
さらに、lilac−01入り飼料を2週間摂取した豚では、それを摂取しない豚と比較して、糞便のpHが低く、糞便中の大腸菌数が小さかったことから、lilac−01入り飼料を摂取させることにより、飼育動物の腸内のpHを低下させて大腸菌数を減少させることができることが明らかになった。これらの結果から、lilac−01株を添加することにより、悪玉菌の数を減少させるなどの整腸効果を有する飼料を製造することができることが明らかになった。
【0088】
<実施例5>食品残渣を原料としたlilac−01入り飼料の製造
(1)食品残渣を原料としたlilac−01入り飼料の製造
弁当製造工場から排出する新鮮な食品残渣1kgに対して、実施例2(3)[3−1]のlilac−01培養オカラ粉(生菌数1.1×10cfu/g、芽胞数8.2×10cfu/g)を0.5%(5g)、さらに無添加のオカラ粉9.5%(95g)を添加し、85℃、1分以上の熱処理を加えることによってlilac−01入り飼料を製造した。このようにして、実施例4と同等の整腸効果を有し、栄養価の高い飼料を作製することができた。また様々な食品残渣を原料とした飼料の製造を試みた結果、lilac−01培養オカラ粉を0.1から10%、無添加のオカラ粉を10から15%添加してよく粉砕混合することによって、同様に整腸効果を有し、栄養価の高い飼料を作製することが可能であることが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芽胞形成能を有する菌株Bacillus coagulans lilac−01(受託番号:NITE P−1102)。
【請求項2】
40℃で24時間以上培養後の芽胞数がBacillus coagulans標準株であるNBRC12583と比較して1000倍以上である、請求項1に記載の菌株。
【請求項3】
増殖至適温度cが50℃<c<60℃である、請求項1または請求項2に記載の菌株。
【請求項4】
50℃で6時間以上培養した後の菌量が、Bacillus coagulans標準株であるNBRC12583を50℃で6時間以上培養した後の菌量と比較して大である、請求項1から請求項3のいずれかに記載の菌株。
【請求項5】
100℃で30分間加熱後の菌株の生存率が4%以上である、請求項1から請求項4のいずれかに記載の菌株。
【請求項6】
L−アラビノース、リボース、D−キシロース、ラムノース、α−メチル−D−グルコシド、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシン、セロビオース、ラクトース、メリビオース、スクロース、D−ラフィノースおよびβゲンチオビオースを資化し、かつマンニトールおよびD−アラビトールを資化しない、請求項1から請求項5のいずれかに記載の菌株。
【請求項7】
食品または飼料の製造方法であって、請求項1から請求項6のいずれかに記載の菌株を添加する工程を有する前記方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図6】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−99300(P2013−99300A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245799(P2011−245799)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【特許番号】特許第5006986号(P5006986)
【特許公報発行日】平成24年8月22日(2012.8.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年7月1日、株式会社新聞共同運輸のホームページ(アドレス−http://www.arterio.co.jp/)にて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 株式会社物流産業新聞社発行、物流ウィークリー(平成23年7月11日付)、第7面にて発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度経済産業省、戦略的基盤技術高度化支援事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(511272082)株式会社新聞協同運輸 (1)
【Fターム(参考)】