説明

茸栽培用巻布

【課題】熱可塑性樹脂を含む繊維からなる不織布に接着剤に接着或いは糸縫いによることなく熱融着により面ファスナーを固定した茸栽培用巻布を提供すること。
【解決手段】長手方向の両端縁近傍をファスナー固定部として栽培瓶の瓶口に筒状に巻き付ける巻布と、前記ファスナー固定部に固定される面ファスナーとを有する茸栽培用巻布であって、前記巻布1は熱可塑性樹脂を含む繊維で形成されて、前記面ファスナー2a、2bは前記ファスナー固定部に固定される固定面が前記巻布の熱可塑性樹脂と同質の熱可塑性樹脂材で形成されて、これらの面ファスナー2a、2bが前記巻布1のファスナー固定部に熱溶着により固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、茸栽培用巻布に係り、詳しくはえのき茸の人工栽培に好適な茸栽培用巻布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
えのき茸の人工栽培は、上方に所定大きさの瓶口を設けた栽培瓶を用い、この栽培瓶に培地を詰めた後に、えのき茸菌を接種して所定の雰囲気で培養し、えのき茸を発芽・生育することによって行われている。この瓶栽培では、えのき茸がまっすぐに伸張するように瓶口に巻紙を筒状に巻き付けることが行われている。
【0003】
この巻紙は、瓶口を一周して端部が互いに若干重なり合う長さで全体が略扇形状をなし、瓶口に着脱自在に取付けできるようになっている。瓶口への取付けには、巻紙を瓶口に巻き付けて外側から輪ゴムを掛ける方法、この輪ゴム掛けに代えてクリップ或いはステープラーなどの止め具を用いて止める方法などがある。ところが、これらの取付け方法は、いずれも巻紙の取外し作業に加え、輪ゴム、クリップ及びステープラーの取外し作業が必要となり、その作業工数が多くなるとともにその作業が煩わしく、しかもこれらの輪ゴム、クリップなどの止め具の管理も必要となる。さらに、巻紙は湿度の高い栽培環境で使用されるので、クリップやステープラーが鉄材で形成されていると、水濡れにより錆びて瓶口から脱落し或いは錆がえのき茸に付着して品質の低下を招くなどの課題がある。
【0004】
そこで、最近は、これらの止め具に代えて面ファスナーを用い、この面ファスナーをろう紙に接着剤による接着或いは糸縫いした巻紙が開発されている。この面ファスナーを用いた巻紙は、他の方法に比べて巻紙の取付け及び取外しが簡単になる。しかしながら、面ファスナーを用いた巻紙は、概ね基材がろう紙で、しかも、このろう紙に面ファスナーが接着或いは糸縫いされるので、巻紙を取外す際に巻紙が強く引っ張られると、ろう紙が破損し或いは接着力の低下などで面ファスナーがろう紙から簡単に外れてしまうなどの課題がある。この課題を解決するために工夫された巻紙が下記特許文献1に開示されている。
【0005】
以下、図5を参照して、下記特許文献1に開示された巻紙を説明する。なお、図5は下記特許文献1に開示された巻紙を示し、図5(a)は巻紙に貫通孔を形成した状態の正面図、図5(b)は面ファスナー部材の平面図、図5(c)は面ファスナー部材の断面図である。
【0006】
茸栽培用巻紙20は、長手方向の両端部に面ファスナー16a、16bを固定する貫通孔22a、22bを設けた扇型の巻紙(基材)と、これらの貫通孔に固定される面ファスナー部材24a、24bを設けた接着支持用のシート体26とを有し、面ファスナーと接着支持用のシート体とは熱硬化性接着剤を介して熱圧着されるようになっている。面ファスナーの取付けは、一対の面ファスナー部材24a、24b(図5(c)参照)を用い、これらの面ファスナー部材24a、24bが巻紙の各貫通孔22a、22bに接着される。これらの接着は、まず、各面ファスナー部材24a、24bを線Aを挟んで二つ折りし、巻紙20の下端縁を跨ぐように折り曲げて巻紙20の表裏面に貼り合わされる。このとき、巻紙20の面ファスナー16a、16bを接着する部位には予め貫通孔22a、22bが設けられているので、面ファスナー部材24a、24bを巻紙20の表裏面から貼り合わすことによって、貫通孔22a、22bを形成した部位では、面ファスナー部材24a、24bのシート体26が表裏面にじかに接着される。図5(c)は、巻紙20で貫通孔22aを設けた部位に面ファスナー部材24aを取付けた状態を示している。すなわち、面ファスナー部材24aを二つ折りし、巻紙20の両面にシート体26を接着して面ファスナー16aが巻紙20に支持される。この取付けによれば、巻紙20に貫通孔22aを設け、貫通孔22aを設けた巻紙20の表裏面を面ファスナー部材24aのシート体26で挟むようにして面ファスナー16aが接着されるので、貫通孔22aを設けた部位では確実にシート体26が一体に接着され、これによって巻紙20から面ファスナー16aが剥離して脱落することがなくなる。
【0007】
また、巻紙は、瓶栽培においてえのき茸栽培の良否を左右するもので、その特性が重要になっている。使用する巻紙が例えば通気性が悪いものであると生育されるえのき茸が水きのこになり易く、反対に通気性が良いと乾燥し易くなって生育の支障となる。また、平滑性がないと巻紙に接する側枝の伸びが妨げられて同様の生育の支障を来たすことがある。そして、これまでの巻紙は、下記特許文献1の巻紙にみられるように、概ね通気性を有する紙材の表面にろう(蝋)を塗布したろう紙が使用されている。このろう紙は、蝋の塗布量を調節することによって、所定の通気性を持たせることができ、また、紙材が有する湿気性により水きのこになるのを防止できるとともに、水濡れを防止して繰り返しの使用が可能になる。近年、えのき茸の栽培は、白系のえのき茸栽培が盛んになってきている。この白系のえのき茸は、従来のえのき茸に比べて乾き易い性質があり、これまでのろう紙を使用すると、側枝の伸びが悪くなり、また茸の傘が大きく開いてしまうなどの課題がある。そこで、このような課題を解決するために工夫された巻紙が提案されている。
【0008】
例えば、下記特許文献2に開示された巻紙は、通気性遮断材料からなる扇形状のポリエチレンフィルムと、このポリエチレンフィルムの表裏面にそれぞれ配設した扇形状のろう紙とを用いて、これらを積層して一体的に密着・貼り合わせた構造となっている。この巻紙は、2枚の紙の中間にポリエチレンフィルムを挟み、熱圧着するとともに、ろう(蝋)を両面に塗布し、ろうを絞るようにして挟圧することによって製造されている。この巻紙によれば、中間にポリエチレンフィルムが挟まれているので、従来のろう紙を用いた巻紙に比べて通気性を低下させることができる。また、ポリエチレンフィルムの表裏面にろう紙が貼り合わされているので、ろう紙の吸湿性により水きのこになるのを防止できるとされている。また、下記特許文献3に開示された巻紙は、芯材として通気性および吸湿性のある紙材を使用し、その紙材の両表面にろう材を塗布することによって、濡れ防止と表面の円滑性が得られるようにするとともに、紙材の通気性を抑えるために紙材に防水処理を施したものである。この防水処理は、紙材に合成樹脂を薄くコートしてからろう材で表面をコートする方法、或いは防水材を含有したろう材で紙材をコートする方法によって行われている。この巻紙は、上記特許文献1の巻紙と同じ結果が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3481606号公報(段落〔0015〕〜〔0018〕、図2〜図5)
【特許文献2】特開平3−228622号公報(第2頁下段右欄、図2)
【特許文献3】特開平7−203762号公報(段落〔0010〕〜〔0013〕、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の巻紙のうち、ろう紙は、ある程度の通気性を持たせることができ、また、紙材の湿気性で水きのこになるのを防止でき、しかも水濡れを防止して繰り返しの使用が可能となっている。しかしながら、ろう紙は、紙材にろう(蝋)を塗布したものであることから、繰り返して使用するうちに磨耗してしまい耐久性に課題がある。この課題を解決するために、上記特許文献2ではポリエチレンフィルムを紙材で挟んだ巻紙が提案されているが、この巻紙は、その製造に特殊な製造技術や専用装置が必要となり、簡単に製造できないという課題が潜在している。そこで、上記特許文献3の巻紙は、上記特許文献2のものを改良したものとなっている。しかしながら、この特許文献3の巻紙も紙材を加工したものとなっているので、摩耗性、耐久性の課題は解決されていない。また、えのき茸の栽培現場では、不織布を使用した巻布、例えば旭・デュポンフラッシュスパンプロダクツ株式会社製の商品名「タイベック1082D」(登録商標)が使用されている。この巻布は、上記のろう紙などの巻紙と比べて耐久性は優れるが、通気性により改善の余地があるものとなっている。したがって、このような巻紙および巻布などは、その通気性がえのき茸の栽培に適合しないと、高品質にして且つ高収穫量の栽培ができない。一方、近年、販売の流通経路の多様化により、スーパーマーケットなどの店頭では、日持ちがより良く品質の高いえのき茸が求められているが、この要求にも対応できない。
【0011】
また、巻紙は、瓶口に着脱自在に取付けて使用されるが、この取付けに上記特許文献1の巻紙のように面ファスナーを用いたものは、これまでの輪ゴム、クリップなどの止め具を用いた巻紙に比べて、止め具の管理が不要になるとともに着脱作業が簡単になる。しかしながら、上記特許文献1の巻紙は、巻紙(基材)に貫通孔を形成する穿孔作業及びこの貫通孔への面ファスナー部材を設けた接着支持用のシート体の固定作業が必要となり、その固定作業が極めて面倒でコスト高の原因となる。なお、巻布に面ファスナーを用いたものが製品化されているが、基材の布への面ファスナーの固定は基材布に接着剤或いは糸縫いとなっている。この種の巻布は、接着剤の接着力が低下すると面ファスナーが基材布から簡単に外れてしまい、また、糸縫いしたものは、その糸縫い作業が工数の掛かる面倒なものとなっている。
【0012】
そこで、発明者らは、巻紙に関しては、これまでの巻紙などを検証して、巻紙の通気性が低過ぎると、収量は上がるものの水きのこになり易く日持ちも悪くなり、その一方、通気性が高過ぎると、水きのこになり難く茎の太さが太くなり日持ちがよくなるものの収量が下がってしまうとの知見を得て、紙材からなる巻紙に代えて不織布からなる巻布を使用し、この巻布の通気性を所定の範囲にすれば、収量及び品質のバランスがとれたものとなり、A品の収量を高くし、さらに高品質で日持ちのよいえのき茸を栽培することができることを見出し、また、瓶口への取付けに関しても、面ファスナーを用い、この面ファスナーの基材への固定をこれまでの接着剤や糸縫いによらないで固定できるようにして、本発明を完成させるに至ったものである。なお、A品とは不良品でないものを指し、茸栽培業界において、普通に使用されている品質表示となっている。
【0013】
本発明は、上記の従来技術の課題を解決すると共に上記の知見に基づいてなされたもので、本発明の目的は、熱可塑性樹脂を含む繊維からなる不織布に接着剤による接着或いは糸縫いによることなく熱融着により面ファスナーを固定した茸栽培用巻布を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、上記の目的を有するとともに、従来の巻紙および巻布などより通気性の優れた、すなわちガーレ形試験機を用いて計測して通気性が小さい不織布を用い、特にえのき茸栽培に好適な茸栽培用巻布を提供することにある。
【0015】
本発明のまた他の目的は、上記の目的を有するとともに、従来の巻紙および巻布などより通気性の優れた、すなわちフラジール形試験機を用いて計測して通気性が大きい不織布を用い、特にえのき茸栽培に好適な茸栽培用巻布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の栽培用巻布は、
長手方向の両端縁近傍をファスナー固定部として栽培瓶の瓶口に筒状に巻き付ける巻布と、前記ファスナー固定部に固定される面ファスナーとを有する茸栽培用巻布において、
前記巻布は熱可塑性樹脂を含む繊維からなる不織布で形成されて、前記面ファスナーは前記ファスナー固定部に固定される固定面が前記巻布の熱可塑性樹脂と同質の熱可塑性樹脂材で形成されて、これらの面ファスナーが前記巻布のファスナー固定部に熱溶着により固定されていることを特徴とする。
【0017】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載の茸栽培用巻布において、前記巻布は、ガーレ形試験機を用いて計測した通気性が0.2〜16.0秒(JISL1096)の範囲にある不織布で形成されていることを特徴とする。
【0018】
また、請求項3に係る発明は、請求項2に記載の茸栽培用巻布において、前記通気性は、1.9〜11.0秒の範囲にあることを特徴とする。
【0019】
また、請求項4に係る発明は、請求項2に記載の茸栽培用巻布において、前記巻布は、摩耗強さが外観変化の判定でA級(JISL1096)であることを特徴とする。
【0020】
また、請求項5に係る発明は、請求項1に記載の茸栽培用巻布において、前記巻布は、フラジール形試験機を用いて計測した通気性が0.46〜116cm/cm・s(JISL1096)の範囲にある不織布で形成されていることを特徴とする。
【0021】
また、請求項6に係る発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の茸栽培用巻布において、前記巻布は、ポリプロピレンを含むポリオレフィン系の樹脂から形成された不織布であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明は上記構成を備えることにより以下に示すような優れた効果を奏する。すなわち、請求項1の発明によれば、巻布は熱可塑性樹脂を含む繊維からなる不織布で形成され、一方、面ファスナーはファスナー固定部に固定される固定面が前記巻布の熱可塑性樹脂と同質の熱可塑性樹脂材で形成されるので、面ファスナーを巻布に熱溶着により簡単に堅固に固定できる。この堅固な固定により、接着している面ファスナー同士を剥がす際に、面ファスナーを巻布から剥がしてしまうことが防止できる。
【0023】
また、請求項2の発明によれば、茸栽培用巻布の通気性を、0.2〜16.0秒(JIS L1096:1999 8.27 B法)の範囲にすることにより、通気性がえのき茸の栽培に適したものとなるので、A品の収量を減らすことなく、高品質で日持ちのよいえのき茸を栽培することができるものとなる。また、不織布で形成されているので、これまでの紙材の巻紙に比べて耐久性が増し、長期間の再利用が可能になる。
【0024】
また、請求項3の発明によれば、通気性を1.9〜11.0秒(JIS L1096:1999 8.27 B法)の範囲にすることにより、通気性がえのき茸の栽培に更に適したもの、すなわち、収量及び品質のバランスが良いものとなり、請求項2の発明のものに比べて、A品の収量をさらに高くできるとともに、さらに高品質で日持ちのよいえのき茸を栽培することができるものとなる。
【0025】
また、請求項4の発明によれば、摩耗強さがA級、すなわち表面の平滑度が高く滑り易いため、えのき茸の栽培時に茎が巻布にくっつき難くなり、茎の成長が阻害されない。更に、劣化しにくいため、これまでの紙材の巻紙に比べて耐久性が高く、長期間の再利用が可能になると同時に、汚れも付着しにくいため、より衛生的である。
【0026】
また、請求項5の発明によれば、えのき茸栽培用巻布の通気性を、0.46〜116cm/cm・s(JIS L1096:1999 8.27 A法)の範囲にすることにより、えのき茸の栽培に適した通気性となり、高品質で日持ちのよいえのき茸を栽培することができるものとなる。全体の収量は若干少ないものの、A品での収量は実質的に同等で、かつ日持ちの向上に優れたものとなる。
【0027】
また、請求項6の発明によれば、巻布をポリプロピレンを含むポリオレフィン系の樹脂から形成された不織布で形成することにより、所望の通気性を有するものを簡単に作製できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は本発明の実施例に係る茸栽培用巻布を示し、図1(a)は茸栽培用巻布の平面図、図1(b)、(c)は図1(a)の茸栽培用巻布に固定される面ファスナーの側面図である。
【図2】図2は図1の茸栽培用巻布の変形例の平面図である。
【図3】図3は図1、図2の茸栽培用巻布を瓶口に取付けた状態の側面図である。
【図4】図4はえのき茸の栽培方法の工程図である。
【図5】図5は従来技術の巻紙を示し、図5(a)は巻紙に貫通孔を形成した状態の正面図、図5(b)は面ファスナー部材の平面図、図5(c)は面ファスナー部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。但し、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための茸栽培用巻布を例示するものであって、本発明を以下の実施形態に限定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも等しく適応し得るものである。
【0030】
まず、図4を参照して、えのき茸の一般的な栽培方法を説明する。なお、図4はえのき茸の栽培方法の工程図である。なお、この方法は本発明の実施例の茸栽培用巻布を使用した栽培法となっている。
【0031】
えのき茸の栽培は、図4に示すように、まず、オガコ又はコーンコブなどの基材に、米ぬか、粉ビートなどの添加材を所定の割合で混合するとともに、所定量の水を加水して水分率が所定の値になるよう調製をして、この調製した培地を所定大きさの瓶容器に詰める(S1、S2)。瓶容器に詰めた培地には、培地の上面から底部へ届く深さの接種孔を1本又は複数本を形成する(S3)。この接種孔は、種菌を培地底部まで落下させ、菌糸を培地内全体にスムーズに増殖させるとともに、培地内の空気の流動を良好にするために形成される。
【0032】
接種孔を形成した瓶容器は、殺菌室に搬送して培地を殺菌し、殺菌した培地に、えのきの種菌を接種して所定の雰囲気の培養室へ搬送して培養する(S4〜S6)。
【0033】
次の菌かき(S7)では、活力のある培地内の菌糸からえのき茸を発生させるために、老化した菌種の菌糸を取除く作業を行う。
【0034】
菌かき後、所定の雰囲気で芽出し管理(発生操作ともいう)(S8)を行い、続いて、芽が出たえのき茸の傘部分の肥大を促進させ、一方で茎の生長を抑制して生育を揃えるためにならしと抑制(生育前期ともいう)(S9)を行う。このならしと抑制は、芽出し後の子実体(きのこ)は傘が小さく茎も軟弱で、低温や乾燥に弱く、前工程で周囲温度を比較的高い温度(14〜15℃)にして芽出しを行い、そこからこの抑制工程で急に低温(4〜5℃)に遭わせると、子実体の傘が乾燥して生長しなくなるので、この低温に馴化させるため、その温度を略中間の温度(7〜8℃)にして、その後、この温度を下げて(3〜4℃)茎の生育を抑制する工程となっている。その後、巻紙(巻布)(S10)を経て温度を5〜7℃に維持し生育後期管理(S11)を行う。なお、巻布には、例えば旭・デュポンフラッシュスパンプロダクツ株式会社製の商品名「タイベック1082D」(登録商標)がある。
【0035】
紙巻(巻布)は、えのき茸栽培の独特の工程であって、えのき茸の周囲を巻紙で覆うことにより、二酸化炭素濃度を上昇させて、傘の生育を抑制し、茎の生長を促進させるために行われる。この紙巻により、野生のえのき茸より茎の長いものとなり、収量性が高まり、流通・販売面などで扱いやすいものとなる。反面、えのき茸の生育にとっては、環境が悪くなり、えのき茸の奇形や水きのこなどが発生し易くなる。そこで、巻紙には、通気性などが異なるものが提案されているが、えのき茸の生育環境に合った巻紙(巻布)を使用しなければ、前述したように、高品質なものにして且つ収量を増大させることはできず、また、日持ちのよいものが得られない。すなわち通気性が悪過ぎると、水きのこになりやすく、収量は上がるものの日持ちが悪くなる、一方、通気性が良過ぎると、二酸化炭素濃度上昇が不十分となり、収量が下がってしまう。
【実施例1】
【0036】
そこで、本発明の実施例1に係る茸栽培用巻布(以下、単に巻布ということがある)は、これまでの巻紙および巻布などに代えて、通気性を1.9〜11.0秒(JIS L1096:1999 8.27 B法)の範囲に選定した不織布で構成されている。この巻布により、収量と品質とがバランスのとれたものとなり、A品の収量をさらに高くするとともに、さらに高品質で日持ちのよいえのき茸を栽培することができる。えのき茸の栽培においては、室内のエアコントロールを行うが、このエアコントロールとあわせて、上記のJIS L1096:1999 8.27 B法に準拠したガーレ形試験機を用いて計測して通気性が小さい、すなわち通気性の良い不織布を巻布として用いることで上記の栽培効果を達成できる。また、この巻布は、摩耗強さをA級(JISL1096:1999 8.17 C法 外観変化の判定)にするのが好ましい。摩耗強さがA級、すなわち表面の平滑度が高く滑り易いため、えのき茸の栽培時に茎が巻布にくっつき難くなり、茎の成長が阻害されない。また、耐久性が高いので繰り返しの使用が可能になる。更に、汚れがつきにくいため衛生的になる。
【0037】
以下、この茸栽培用巻布の形状およびこの茸栽培用巻布の生地となる不織布の製造方法を説明する。この茸栽培用巻布1は、図1に示すように、円弧状の上下辺1a、1bと、略直線状の左右辺1c、1dとを有する扇形をなし、左右辺1c、1dの一部に着脱自在な取付け手段を設けた構成を有している。この取付け手段は、面ファスナー2a、2bで構成されている。この面ファスナーについては後述する。
【0038】
この茸栽培用巻布1は、不織布を加工して作成するが、以下に、この不織布の製造方法の一例を示す。この不織布は、紡糸直結タイプの不織布からなる原反を使用することによって製造する。すなわち、この紡糸直結タイプの不織布は、熱可塑性高分子材を溶融させ、連続した長繊維状に吐出しながら形成する方法であって、一般にスパンボンド法と呼ばれている。このスパンボンド法による不織布の製造は、原料のポリプロピレンのペレットを押出機へ供給して、ペレットに熱を掛けて溶かしながら次の紡糸・延伸工程へ送り込む。この紡糸・延伸工程では、溶けた原料を複数個(例えば10,000個のノズル(1個のノズル直径は例えば1mm以下))から押出して、この押出しと同時に、エジェクターで引っ張り、その間で冷却させて溶けた原料を固化させることによって、直径20μm以下の細い糸を形成する。次いで、エジェクターから出た糸をコレクターと呼ばれるネット状のコンベアに落として、次の融着工程へ搬送する。なお、コレクターに落ちた糸の状態は、ウェブと呼ばれ、綿状の繊維になっている。次いで、このウェブに、ヒートロールで熱を掛けて繊維間を融着する。ヒートロールには、通常、エンボス加工を施しており、繊維の所々を点融着させて布のような柔らかなシートを形成する。このシートをワインダーで巻取り、不織布原反を完成させる。その後、この不織布の原反に、所定温度のヒートロールを通過させることによって、上記の通気性および摩耗強さを調整し、シート材を完成させる。
【0039】
次に、上記シート材を加工して、茸栽培用巻布1を作成する方法の例について説明する。通気性などを調整したシート材から略扇形にした巻布を複数枚裁断して茸栽培用巻布1を作成する。この茸栽培用巻布1は、図3に示すように、栽培瓶3の瓶口に巻き付けたときに、上方が若干開いた筒形になるように上端縁と下端縁を僅かに円弧状にするとともに、両端部が一部重なって、瓶口の全周を覆う長さを形成する。すなわち、この巻布1は、図1に示すように、円弧状の上下辺1a、1bと、略直線状の左右辺1c、1dとを有する布片に形成する。この巻布1は、また、左右辺1c、1dの一部に着脱自在な取付け手段を設ける。
【0040】
この取付け手段には、面ファスナー2a,2bを使用する。一般的な面ファスナー、例えば市販のものは、一面にループ形状の雌型係合素子を多数本植毛した雌型面と、この雌型結合素子に絡み付くような形状、例えばフック形状やキノコ形状にした雄型係合素子を複数本植毛した雄型面とを有する一対のファスナー部材からなり、これらの係合素子を備えた一対のファスナー部材を結合するものとなっている。この面ファスナーは、雌型及び雄型結合素子にそれぞれ所定の弾力性及び剛性を必要とするために、素材は融点の高い樹脂材料、例えばナイロン、ポリエステルなどが使用されている。このような面ファスナーは、布などのシート材に固定して使用されるが、その固定はシート材によって異なり、通常、熱融着、糸縫い或いは接着剤などで固定されている。
【0041】
このような面ファスナーは、様々な用途、例えば衣料品やバックなどに多く使用されていることから、発明者らはこの面ファスナーを用いて巻布1へ熱融着を試みた。ところが、この面ファスナーは、巻布1に熱融着されるが、十分な熱融着がされずに少し強い力が掛かると簡単に外れてしまうことが判明した。その原因は、面ファスナー及び巻布を構成する素材の融点が異なることにあることが分かった。すなわち、市販の面ファスナーは、上記のように高融点の樹脂材料で形成されており、一方、巻布1の不織布は、ポリプロピレンを素材として、この素材は低融点の熱可塑性樹脂材料であり、これらの素材の有するそれぞれの融点が異なるので、熱融着を十分なものとすることができない。この理由から、これまではこのような面ファスナーを、熱可塑性樹脂からなるシート基材に融着することが行われていない。勿論、巻紙や巻布にこのような面ファスナーを熱融着したものは実用化されておらず、接着剤や糸縫いによる方法或いは上記特許文献1の固定方法などが採用されている。
【0042】
そこで、本発明の実施例1では、面ファスナーを巻布1の素材と同種の素材を用いて作製して、この面ファスナーを熱融着する。面ファスナーを巻布1の素材と同種(同質)の素材で形成することにより、両者の融点が同じになり堅固に固定できる。なお、この面ファスナーは、これまでの面ファスナーと性能、特に弾力性及び剛性が若干低下することがあるが、この程度の低下は、面ファスナーの大きさ或いは雌型及び雄型結合素子の形状を若干変更、例えば、雌型係合素子にあってはループ形状の大きさや密度を変更し、また、雄型係合素子にあっては、雌型係合素子の変更に伴い、これに絡み合うようにフック形状やキノコ形状の大きさや密度を変更することによって補うことができ、えのき茸の瓶栽培に用いても支障をきたすことがない。
【0043】
そこで、本発明の実施例1では、雌型及び雄型結合素子を有する一対の面ファスナーを巻布1の素材と同種の素材、すなわちポリプロピレンを含むポリオレフィン系の樹脂材料を用いて作製する。この作製は、従来の樹脂材(ナイロン、ポリエステルなど)を原料としたものと同じ製法で作製する。なお、この製法は、公知であるので説明を省略する。作製した面ファスナー2a、2bは、図1(a)、(b)に示すように、雌型及び雄型結合素子2a、2bを有するものとなっている。ポリオレフィン系の樹脂材で作製した雌型及び雄型結合素子2a、2bを有する一対の面ファスナー2a、2bをそれぞれ所定の大きさ(例えば、一辺1.5cm程度の四辺形)に切断して、それぞれの面ファスナー2a、2bを巻布1の左右辺1c、1d付近に熱融着により固定する。この面ファスナー2a、2bを用いると、面ファスナー2a、2bと巻布1とが同質となるので、融点が同じになり、熱融着により、堅固に固定される。
【0044】
なお、従来技術のように、接着剤や糸縫いによる方法或いは上記特許文献1の固定方法などの面倒な作業が不要になる。巻布1は、瓶口に巻き付けて使用するが、そのとき、一対の面ファスナーの面積が小さいと、結合領域が狭く、巻き付け量の調節ができなくなるので、図2に示す変形例ように、いずれか一方の面ファスナー2a'、2b'を大きくするのが好ましい。これにより、巻布1'は、結合領域が広くなり瓶口に巻き付ける際に調節して取付けができる。
【0045】
この実施例1では、面ファスナーを巻布1の素材と同質のもので作製したが、他の方法で熱融着するようにしてもよい。例えば、巻布1と同種の熱可塑性樹脂フィルムを裏打ちすることによって、従来技術の面ファスナーを使用することができる。また、従来技術の巻布であっても、面ファスナーをこの巻布と同種(同質)のもので作製することによって熱融着が可能になる。
【実施例2】
【0046】
実施例2に係る茸栽培用巻布は、シート材として用いる不織布を、磨耗強さをB級(JISL1096:1999 8.17 C法 外観変化の判定)に調整し、かつ通気性0.2以上1.9秒未満および11.0秒以上16.0秒未満(JIS L1096:1999 8.27 B法)の範囲のものから選定する他は、実施例1と同様に作成する。
【実施例3】
【0047】
実施例3に係る茸栽培用巻布は、不織布原反に対する温度制御を実施せず、即ちシート材に替えて原反を使用して、通気性が0.46〜116cm/cm・s(JIS L1096:1999 8.27.2 A法)の範囲から選定する他は、実施例1と同様に作成する。
【0048】
[比較例1、2]
比較例1、2の巻紙などは、公知のものであって、比較例1の巻布は不織布で形成されたもので、製造元により、ガーレ形試験機を用いて計測した通気性は目標値(99.7%の製品がこの範囲内に入ると期待される値)として17〜45秒であるとされている。比較例2は樹脂フィルムに複数個の小孔を設けた巻シートであり、この巻シートの通気性は構造上計測できなかった。なお、通気性の計測にあたっては、JIS L1096:1999 8.27 B法による計測値が0.2秒以下になるような通気性の良い素材については、JIS L1096:1999 8.27 B法では事実上計測することはできないため、代わってJIS L1096:1999 8.27 A法で計測されている。
【0049】
上記実施例1〜3並びに比較例1、2の巻紙を使用し、収量、茎の数、不良品率及び変色度に関して試験を行い表1〜4の結果を得た。試験方法は、16本の栽培瓶を収容するコンテナーを10個(すなわち、栽培瓶は160本となる)用意して、収量、茎の数、不良品率及び変色度などのデータを個々のコンテナー毎に採り、10コンテナーの平均値を算出した。
【0050】
表1は、収量を示している。
【表1】

この表1から、収量の平均値は、比較例2が271.2gで一番多く、続いて、比較例1の265.7g、実施例1の262.0g、実施例2の253.8g、実施例3の253.0gと続いている。そして、実施例1〜3は、比較例2に対して3〜10%少なくなっている。
【0051】
表2は、茎の数を示している。
【表2】

この表2から、茎数の平均値は、比較例2が811本と一番多くなっていたが、小さい芽が多く目立ち、足も細くなったものが多かった。これに対して、実施例1は693本、実施例2は690本、実施例3は677本で、比較例2の811本に対して最大で約17%程度少なくなっていたが、小さい芽が少なく、5cm以下のものも少なく、しかも足が太いものが多かった。比較例1は750本で本数がそれらの中間にあったが、細いものが目立っていた。
【0052】
表3は、不良品率を示し、後述する5つの基準に一つでもあてはまるものを不良品とする。不良品率とは16本ある瓶のうち、不良品である瓶の本数の割合(百分率を小数点第一位で四捨五入)を意味し、例えば1本の瓶が不良品の場合、そのコンテナーの不良品率は7となる。不良品の判定基準は、1.えのき茸の全長が13cmより短い又は15cmより長いこと、2.茎の太さで細いものが目立つこと、3.傘(茎頭)に病気などがあること、4.水きのこになっていること、5.茎などが平均的に成長してないこと、である。
【表3】

この表3から、この不良品率の平均値は、比較例2は11.6%、比較例1は5.5%であったのに対して、実施例1は2.1%、実施例2は、3.5%、実施例3は2.7%であり、各実施例が比較例に対して不良品の発生を抑制していることが分かる、比較例1に対しては、2割〜3割程度に、比較例2に対しては4割〜6割程度に低減している。特に、比較例2は、見た目に水っぽさがあり、全体的に小さいものとなっていた。
【0053】
表4は、日持ちを示している。この日持ち試験は、各瓶から無作為に10株を取り出し、包装した状態で常温(約8℃〜26℃)で3日間及び6日間放置し、変色度を判定した。変色度は、10、25、50、75の4段階のスコアで表した。見た目にほとんど変色していない場合が「10」、全体が色づき始めるが濃く変色していない場合が「25」、かなりの変色で食べられない状態である場合が「50」、さらに、全体に濃く変色し一部腐りかけている場合を「75」とする。
【表4】

この表4で、数字が大きい方が変色が激しくすなわち日持ちが悪いことを示している。変色度の平均値は3日間および6日間のいずれにおいても、各実施例1〜3の値が比較例1、2を下回り、比較例1、2に対して日持ちが良いことが分かる。特に変色度3日間の平均値は、比較例1は27、比較例2は40であるのに対して、実施例1、2はともに19、実施例3は16となり、各実施例1〜3は比較例2に対しては半分以下、比較例1に対しては3分2程度になっている。
【0054】
以上により、各実施例に係る巻布を用いたえのき茸栽培によれば、従来の巻紙および巻布と比べて、高品質で日持ちの良いえのき茸を栽培することができる。また、巻布は、この巻布と同質の素材で面ファスナーが形成されているので、熱融着により固定できて固定が簡単になると共に堅固な固定になり、使用中に外れることがない。
【符号の説明】
【0055】
1、1' 茸栽培用巻布
2a、2b、2a'、2b' 面ファスナー
3 栽培瓶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向の両端縁近傍をファスナー固定部として栽培瓶の瓶口に筒状に巻き付ける巻布と、前記ファスナー固定部に固定される面ファスナーとを有する茸栽培用巻布において、
前記巻布は熱可塑性樹脂を含む繊維からなる不織布で形成されて、前記面ファスナーは前記ファスナー固定部に固定される固定面が前記巻布の熱可塑性樹脂と同質の熱可塑性樹脂材で形成されて、これらの面ファスナーが前記巻布のファスナー固定部に熱溶着により固定されていることを特徴とする茸栽培用巻布。
【請求項2】
前記巻布は、ガーレ形試験機を用いて計測した通気性が0.2〜16.0秒(JISL1096)の範囲にある不織布で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の茸栽培用巻布。
【請求項3】
前記通気性は、1.9〜11.0秒の範囲にあることを特徴とする請求項2に記載の茸栽培用巻布。
【請求項4】
前記巻布は、摩耗強さが外観変化の判定でA級(JISL1096)であることを特徴とする請求項2に記載の茸栽培用巻布。
【請求項5】
前記巻布は、フラジール形試験機を用いて計測した通気性が0.46〜116cm/cm・s(JISL1096)の範囲にある不織布で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の茸栽培用巻布。
【請求項6】
前記巻布は、ポリプロピレンを含むポリオレフィン系の樹脂から形成された不織布であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の茸栽培用巻布。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−177149(P2011−177149A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47174(P2010−47174)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(504328152)株式会社サカト産業 (13)
【Fターム(参考)】