説明

荷電ビーム装置

【目的】 内部に移動機構を有する真空チャンバと試料チャンバとを有し、試料チャンバが超高真空雰囲気またはガス雰囲気に置かれ、移動機構に制約を与えずに作動する荷電ビーム装置を提供する。
【構成】 移動機構の試料チャンバに面する表面に平面が形成され、平坦な開口面を有するフランジが、該開口面を移動機構に制約を与えることなく真空排気を可能とする微小な間隙で前記平面に対向させて、真空チャンバと試料チャンバとの間に取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、電子ビーム、イオンビーム等の荷電ビームを用いて、被加工試料に微細なビーム加工を施したり半導体基板に微細なパターンを形成するリソグラフィ装置や、試料の分析・評価を行う試料分析装置などの荷電ビーム装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】半導体基板に微細な電子回路パターンを施したり、被加工試料に微細なビーム加工を施す、荷電ビームを利用したプロセス技術においては、高精度なビーム位置制御と、試料位置制御が可能な試料移動機構を組み込んだ荷電ビーム装置が、不可欠である。これらの荷電ビーム装置の高性能化、高機能化は、できあがった試料の特性を大きく左右するため、重要である。
【0003】従来、超高真空の試料チャンバを必要とする荷電ビーム装置では、高真空の荷電ビーム鏡体との境界に微細な穴径を有する絞りを取付け差動排気する手法が採られている。このような従来の装置では、超高真空チャンバ内に組み込む各種の機能装置の構造、材料、ガス放出特性、表面処理技術等によって、真空特性が異なる。従って、真空チャンバ内に組み込む複雑でかつ高精度な移動機構の高性能化と超高真空の達成とを両立することが難しい。
【0004】特に10-7Pa以下の超高真空を達成するには、チャンバ内の構造物やチャンバの内面の表面積を減らすこと、そのために、チャンバ内面や構造物表面の鏡面仕上げや表面処理を施すこと、チャンバ内の構造物やチャンバ内面をガス放出の少ない材料で構成すること、が不可欠である。
【0005】また、移動機構は、通常すべり案内や転がり案内を使用しているため、案内面には潤滑剤が不可欠である。しかし、潤滑剤は、真空下ではガス放出を伴うため問題が多く、超高真空に適用することが困難である。また、コーティング等による無潤滑の移動機構は、超高真空下でのスティックスリップが生じるため、高精度な駆動を困難になっている。さらに、超高真空の達成には、チャンバ内の構造物の表面に吸着した水分を蒸発させて排気するため、120〜200℃程度のベーキングが不可欠であり、そのため、高精度な移動機構を超高真空下で使用することを難しくしている。
【0006】特に、微細化、高精度化の要求が厳しい半導体リソグラフィー装置では、高安定で高精度なレーザー干渉測長系を組み込んで、試料位置や照射ビームの位置座標をリアルタイムに管理している。これらの装置で利用されている基準となるミラーや干渉計も固有の温度係数を持っており、温度変化に対して敏感な部品である。このため、環境温度を大きく変化させるベーキングは、測長精度の低下を招く大きな要因となっている。電子ビーム描画装置や集束イオンビーム装置には、高精度な試料移動を行うXYステージが組み込まれているが、このXYステージは、真空排気の上では、複雑な構造を有することによる表面積の増大が問題であり、また、転がり軸受け等に使用されている潤滑剤であるオイルによるガス放出が発生するため、これら装置の超高真空下の使用を困難にしている。
【0007】一方、荷電ビームによるガスアシストエッチングやデポジッションでは、活性な塩素系ガスや有機金属ガス等のガスをチャンバ内に導入するため、チャンバ内面およびその中に組み込む構造物の耐腐食性が、問題となる。
【0008】以上述べたように、従来技術を利用して、超高真空や腐食性ガスに耐性のある試料チャンバや鏡体を、通常の高真空部に近接して実現することは大変困難を伴うものである。
【0009】図1は、従来技術による荷電ビーム装置の一例である電子ビーム描画装置の構造を示したものである。図中、符号1は電子ビーム光学系を構成する電子光学鏡体である。11は高輝度な電子ビームを発生するための電子銃、12,13,14は電子ビームを所望する形状に集束するための電子レンズ、15は電子ビームのオン/オフ制御を行うブランキング系、16は電子ビームを偏向走査するための偏向器である。17,18は電子光学鏡体を真空に排気するためのポンプである。
【0010】また、図中、2は被加工基板を収納する試料チャンバである。21は試料を固定するためのホルダ、22は試料を所望の位置に移動するための試料移動機構、23は試料またはビーム位置を測定するための基準となるレーザ干渉用ミラー、24はレーザ干渉計、25は波長安定化レーザ、26はレーザ干渉測定用レシーバである。また、27は試料ステージを真空外から駆動するためのモータであり、28は試料チャンバの真空排気ポンプである。なお、本構造図には、試料交換用のチャンバの図示は省略してある。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】従来の有機レジストに微細パターンを描画し、マスクパターンを形成する電子ビーム描画技術に比べ、無機レジストへのパターン描画は、より微細化や清浄化処理が可能である。このような無機レジストへのパターン描画では、加工基板表面の酸化やガス吸着による汚染を防いだ清浄処理技術が、重要となる。このような新しい展開では、超高真空下のリソグラフィ技術の開発が重要である。また、荷電ビームによるガスアシストエッチングやデポジッションにおいても、清浄表面に活性な塩素系ガスや有機金属ガス等を導入してパターンを形成するには、チャンバおよびその中に組み込む構造物の耐腐食性対策を施した装置が、不可欠である。
【0012】本発明は、超高真空あるいはガス導入機構等が付帯したチャンバを有する荷電ビーム装置において、清浄環境内での処理や高度なガスプロセス等を行うためのチャンバと、高精度な試料移動機構およびこれに類する高度な機構を具備するチャンバとを、真空維持の上で分離することによって、実現が困難な超高真空の維持あるいはガス導入に伴うチャンバ内構造物の損傷の低減を実現する荷電ビーム装置を、提供することを特徴としている。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明の荷電ビーム装置は、真空度の異なるチャンバ間あるいは真空とガス導入チャンバ間を分割して差動排気を可能にするために、一方のチャンバ部に開口を有するフランジを取付け、このフランジ面に対向する他方のチャンバ内にある移動機構に移動範囲をカバーする平面を形成し、これによって、前記チャンバの開口フランジ部と移動機構平面間を微小な間隙に維持させ、この微小な間隙によって排気コンダクタンスを小さくして、真空度の異なるチャンバ間の排気と移動機構の駆動とを同時に実現することを特徴とする。
【0014】すなわち、本発明の荷電ビーム装置は、内部に移動機構を有する真空チャンバと、試料チャンバとを有し、前記試料チャンバ中の試料に荷電ビームを照射する荷電ビーム装置であって、前記移動機構の前記試料チャンバに面する表面に平面が形成され、平坦な開口面を有するフランジが、該開口面を前記移動機構に制約を与えることなく真空排気を可能とする微小な間隙で前記平面に対向させて、前記真空チャンバと試料チャンバとの間に取り付けられていることを特徴とする。
【0015】なお、前記試料チャンバが超高真空下に置かれる構成である場合と、ガス雰囲気下に置かれる構成である場合がある。
【0016】
【作用】隣接する2つの真空チャンバをそれぞれ異なった真空度に維持する差動排気系では、従来、真空チャンバ間に微小開口を有するオリフィスを介して接続することで、それぞれのチャンバの真空度を維持していた。この場合、高真空側のチャンバの真空度は、隣接する低真空側のチャンバの真空度とオレフィスの真空コンダクタンス、および高真空側の容積、ガス放出量、真空ポンプの排気能力、リーク量によって到達真空度が決まってしまう。
【0017】本発明では、隣接する荷電ビーム鏡体またはそれに付属するチャンバと、試料移動機構およびそれに類する可動機構を取付けた隣接するチャンバとの間に、平面を有する開口フランジと移動機構部の平面を微小な間隙で対向させて排気コンダクタンスを小さくし、2つのチャンバ間の差動排気を実現することによって、試料移動機構のように複雑な構造や、高精度を要するために加熱したり、超高真空やガス雰囲気に維持することが困難である構造物を、10-5Pa程度以上の通常の真空度のチャンバ内に設置することが可能となり、移動機構の精度や特性を損なうことがなくなる。
【0018】従来、移動機構と超高真空系との間をベローズを介して接続することで、真空維持上の問題と移動機構の性能維持の両立を図った装置もある。しかし、このような機構は、微細で高精度なパターン形成を目的となる半導体リソグラフィ装置や分解能が問題となる顕微鏡等の分析・評価装置では、ベローズの変形、振動等が移動機構の位置決め精度を低下させるため、適さない。
【0019】これに対し、本発明では、真空度の異なる2つのチャンバ間は微小間隙によって物理的に隔離されているため、ベローズのように変形による位置ズレや移動機構の駆動や外部振動による影響を回避することができる。また、本発明では、チャンバ内を排気する場合、真空チャンバ外から平面間の間隙を大きくすることによって真空排気口として利用することができるため、排気系の構造および制御を容易にすることもできる。
【0020】
【実施例】以下、図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。
【0021】図2は、本発明の一実施例である電子ビーム描画装置の構造を示したものである。この装置は、超高真空およびガス導入を可能とする試料チャンバを有する装置である。
【0022】図中、3は電子ビーム光学系を構成する電子光学鏡体である。31は高輝度な電子ビームを発生するための電子銃、32,33,34は電子ビームを所望する形状に集束するための電子レンズ、35は電子ビームのオン/オフ制御を行うブランキング系、36は電子ビームを偏向走査するための偏向器である。37,38は電子光学鏡体を真空に排気するためのポンプである。
【0023】また、4は被加工基板を収納する超高真空またはガス等を導入する試料チャンバであり、5は試料移動機構等の構造物を有するステージチャンバである。41は試料を固定するための試料ホルダ、42は前記試料ホルダ41を後出の試料移動機構(XYステージ)51に連動させるためのシャフトである。43は試料移動機構の上面と対向する平面を有する開口フランジである。44はベローズである。45は後出の微小間隙距離50を制御するためのモータ等のアクチュエータであり、46は前記アクチュエータ45による駆動量を真空中に伝える導入機構、47は駆動量を縮小して駆動位置へ伝える伝達機構、48は前記伝達機構47の動きを開口フランジ43に伝えるシャフトである。
【0024】前記ステージチャンバ5には、試料位置の検出とXYステージ51と電子ビームの相対位置検出とのためのレーザ干渉計として、レーザ干渉用ミラー52とレーザ干渉計53とを取付けてある。また、図中、54は波長安定化レーザ、55はレーザ干渉測定用レシーバである。56は開口フランジ43と対向して微小な間隙を形成するための試料移動機構51のフランジ面である。57は試料移動機構51を真空外から駆動するためのモータである。58はステージチャンバ5の排気用真空ポンプである。また、61は試料交換のためのサブチャンバ、62は試料チャンバ4とサブチャンバ61との間を隔離する仕切り弁、63は試料交換機構である。この構成図には、外部振動を減衰させるための徐振架台、制御用エレクトロニクス、試料チャンバや試料交換サブチャンバの真空排気ポンプ等は省略してある。
【0025】図3は、図2に示した実施例における試料ホルダ41のある試料チャンバ4と試料移動機構51を設置するステージチャンバ部を拡大した構成図を示したものである。
【0026】図3から明らかなように、試料チャンバ4とステージチャンバ5とは、真空排気上、開口フランジ43と試料移動機構51のフランジ56との間隙50によって隔てられている。開口フランジ43と試料チャンバ4とは、ベローズ44で接続することによって、前記フランジ面56の位置調整が可能となっている。本実施例には、この微小間隙距離50を真空外から調整するための機構を取付けてある。その機構は、前記した微小間隙距離50を制御するためのモータ等のアクチュエータ45と、このアクチュエータ45による駆動量を真空中に伝える導入機構46と、駆動量を縮小して駆動位置へ伝える伝達機構47と、前記伝達機構47の動きを開口フランジ43に伝えるシャフト48とからなる。フランジ面を下方に押し付けるバネ機構等は省略してある。
【0027】また、図3に示していないが、微小間隙50の距離は、通常使用されているギャップセンサ等によって直接的な測定および制御が可能である。また、微小間隙50の距離の調整機構を複数個取付けることによって高精度な間隙調整が可能である。前記調整機構が不要な場合は省略することが可能である。また、試料移動機構51のフランジ56は、本発明の構造を分かりやすくするために分離したものであり、試料移動機構51と一体構造をとることが可能なことは言うまでもない。
【0028】ところで、現在実用化されている従来の電子ビーム描画装置の試料ステージでは、6インチ程度の移動範囲での高さ方向の変位は10μm程度である。
【0029】そこで、図3に示したような本発明装置の系において、アクチュエータ45の試料移動のためのシャフト径をφ20mm、試料移動機構51の駆動範囲をX、Y軸方向ともに±1インチ(±25.4mm)とした場合、問題となるコンダクタンスを決める微小間隙50を0.15mm程度に調整することは可能である。ここで、微小間隙50の幅を10mmとすると、試料チャンバ4とステージチャンバ5の間を仕切る微小間隙50の排気コンダクタンスは、C=0.33 liter/sec程度となる。従って、試料移動機構51を取付けてあるステージチャンバ5の真空度を、4×10-5Pa程度に維持した状態で、試料チャンバ4を10-7Pa以下の超高真空からガス導入によって10-3Pa程度の範囲で使用することも可能である。開口フランジ43の形状は、移動機構51の移動範囲に依存するため、円形でも矩形でもよい。
【0030】以上の構成により、試料移動機構51には従来の電子ビームやイオンビーム装置で使用されている蒸気圧の低い耐真空用グリスやオイルの使用が可能となる。また、前記実施例のような構造をとることによって、試料ステージやレーザ干渉用ミラー部をベーキング時の高温にさらす必要がなくなり、高安定で高精度な測長が可能となる。本実施例のように、ベーキングやガス導入による影響を小さくするために、レーザ干渉計ミラーを熱絶縁した位置や微小間隙からのガス等による影響の少ない位置に取付けることが可能である。直接レーザ測長位置と試料位置の違いによるアッベの誤差は予め描画試料パターンの計測や高さ方向の変位の測定によって校正可能である。ベーキングが必要な試料ホルダ41やシャフト42の材料には、熱膨張係数の小さいアルミナ・セラミックや炭化硅素、石英または耐腐食性のあるチタン等を使用することができる。
【0031】図2に示した実施例では、電子ビーム描画装置の場合について説明したが、集束イオンビームによる微細加工またはマスクレスプロセス装置においても、図2の電子光学鏡体3の代わりにイオンビーム鏡体を取付けることによって同様に実施することができる。また、試料表面処理や超高真空下での分析・評価を必要とする走査電子顕微鏡(SEM)、走査オージェ電子顕微鏡(SAM)、イオンマイクロプローブ質量分析器(IMMA)、拡張X線吸収端微細構造解析装置(EXAFS)等についても同様に実施することができる。
【0032】顕微鏡装置では、試料移動機構の移動範囲が電子ビーム描画装置に比べ小さいため、開口フランジの開口寸法を小さくすることができ、そのため、装置を構造的に簡略化することも可能である。
【0033】
【発明の効果】以上、説明したように、本発明によれば、荷電ビームによる微細加工や半導体リソグラフィパターンの形成や分析評価を行うための荷電ビーム装置において、超高真空を要する、あるいはガス等を導入する試料チャンバと、超高真空に維持することやガスに被爆することが困難な真空チャンバとの間に、同心状の平面から構成される間隙を形成し、この間隙が作る小さな排気コンダクタンスによって、真空度の異なるそれぞれのチャンバを所望の真空度に維持すると共に、超高真空に維持することやガスに被爆することなく試料移動機構等の内蔵機構の高精度を要するまたは高度な機能を有する構造物の駆動を両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来技術による荷電ビーム装置である電子ビーム描画装置の断面構成図である。
【図2】この発明による実施例の一つである電子ビーム描画装置の断面構成図である。
【図3】図2に示した実施例装置のチャンバ間の微小間隙部周辺の拡大断面構成図である。
【符号の説明】
1 電子光学鏡体
2 試料チャンバ
3 電子光学鏡体
4 試料チャンバ
5 ステージチャンバ
11 電子銃
12,13,14 電子レンズ
15 ビームブランキング系
16 ビーム偏向器
17,18 真空ポンプ
21 試料ホルダ
22 試料移動機構
23 レーザ干渉ミラ
24 レーザ干渉計
25 レーザ発振器
26 レーザ干渉測定用レシーバ
27 試料移動機構駆動用モータ
28 真空ポンプ
31 電子銃
32,33,34 電子レンズ
35 ビームブランキング系
36 ビーム偏向器
37,38 真空ポンプ
41 試料ホルダ
42 シャフト
43 開口フランジ
44 ベローズ
45 アクチュエータ
46 真空導入機構
47 伝達機構
48 シャフト
50 微小間隙
51 試料移動機構
52 レーザ干渉ミラー
53 レーザ干渉計
54 レーザ発振器
55 レーザ干渉測定用レシーバ
56 移動機構フランジ
57 試料移動機構駆動用モータ
58 真空ポンプ
61 試料交換室
62 仕切り弁
63 試料交換機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】 内部に移動機構を有する真空チャンバと、試料チャンバとを有し、前記試料チャンバ中の試料に荷電ビームを照射する荷電ビーム装置であって、前記移動機構の前記試料チャンバに面する表面に平面が形成され、平坦な開口面を有するフランジが、該開口面を前記移動機構に制約を与えることなく真空排気を可能とする微小な間隙で前記平面に対向させて、前記真空チャンバと試料チャンバとの間に取り付けられていることを特徴とする荷電ビーム装置。
【請求項2】 前記試料チャンバが超高真空下に置かれる構成であることを特徴とする請求項1に記載の荷電ビーム装置。
【請求項3】 前記試料チャンバがガス雰囲気下に置かれる構成であることを特徴とする請求項1に記載の荷電ビーム装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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