説明

蒸気洗浄機用回転ブラシ

【課題】 機械部品などの蒸気洗浄機において、高温の蒸気噴流だけでなく、ブラッシングをすると洗浄効果が著しく向上することが知られているが、高温蒸気下では、蒸気が気体であるため、大きなトルクが得られないこと、高温であるため、熱膨張などの変形が生じ、減速装置が満足に作動しないという問題があった。
【解決手段】 2段式のテーパローラを用いた遊星減速方式とし、テーパローラにはツバの付いたものを用いて、太陽ローラの支持には軸受などのない簡単な構造とした。そして、蒸気タービンの軸方向の力や回転ブラシに作用する押付反力で、動力伝達に必要なローラの接触面圧を生じさせるようにした。
そして、蒸気タービンの排気を外部の空気と触れないように減速機内部を通って回転ブラシ部に導き、飽和温度の蒸気を洗浄に利用し、放熱によって生ずる蒸気ドレンも同時に洗浄に活用するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
蒸気洗浄機で、機械部品などを洗浄するとき、蒸気噴流だけでなく、ブラッシングをすることにより、能率が著しく向上することが知られている。このようなニーズに対し、蒸気洗浄機の蒸気の噴流を用いてタービンを回し、これを減速してトルクを増大し、回転ブラシに伝達し、ブラッシングができるようにする一方で、蒸気タービン排気をブラシ部に導き、蒸気による洗浄効果を活用する蒸気洗浄機用の回転ブラシに関するものである。
【背景技術】
【0001】
蒸気噴流を用いて洗浄する蒸気洗浄機は公知の事実である。また、ブラシを回転させ、洗浄対象物をブラッシングし、洗浄を行う回転ブラシについては、いろいろな形式のものが実用化されている。代表的なものとしては、床磨き用の電動回転ブラシがある。その他には、円筒状ブラシを回転させる高速洗車用のブラシなどがある。本発明に類似した回転ブラシとしては、歯車式減速機を組込み、洗浄水の圧力を利用して水車で駆動し、回転ブラシを旋回させるハンドタイプの洗車用の回転ブラシが公知である。
【0002】
しかし、蒸気洗浄機に用いるような蒸気を用いるときは、駆動流体が気体であるため、大きなトルクを発生することが困難な上に、高温であるため、回転装置内の温度差あるいは材質の線膨張係数の差のため、すきまが生じたり、過大な接触面圧が生じて、満足に機能させることが困難なため、実用化が困難で、実用例は紹介されていない。
【特許文献1】 特開2000−210126
【特許文献2】 実開平7−16693
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
蒸気洗浄機に用いる回転ブラシでは、蒸気タービンの回転数は非常に高いが、回転トルクが小さいため、大きな減速比の減速機を限られたスペースの中に入れる必要がある。また蒸気は温度が高いため、部材間の温度差や材料の違いによる熱膨張差のため、すきまが生じたりあるいは過大な力が作用したりするため、従来の水用の回転ブラシでは満足に作動させることが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
蒸気で蒸気タービンを駆動し、小さなトルクを2段減速し、大きな減速比を得られるようにし、トルクを大きくして回転ブラシに伝達する。減速はテーパローラを用いた遊星ローラ減速機とし、遊星ローラが転動するアウターレースは溝状とし、また太陽ローラはツバ付きとする。溝状のレース面に接して遊星ローラが転動するが、ツバや溝幅と遊星ローラの幅との間には、すきまを設け、この範囲で軸方向の移動を可能にすることにより、テーパローラのくさび効果で、ローラの転動面の接続面圧を変化させることができる構造にする。
【0005】
アウターレース部を溝状にし、3個の遊星ローラの相対関係位置を保持するようにローラ保持材を設けることにより、遊星ローラは、アウターレース溝に納まり、自転と公転をする。3つの遊星ローラの中央部に、ツバの付いた太陽ローラを取付け、このローラも半径方向や軸方向が拘束され、ローラの軸方向の長さで倒れを拘束し、太陽ローラは単独で自立する構造にする。このようにして、太陽ローラと蒸気タービンを締結し、蒸気を供給したとき、コマのように回転するようにする。
【0006】
第2段遊星ローラの保持材が、減速された出力回転体となるが、これにブラシを締結し、回転するようにする。そして、蒸気タービンの排気は、減速機の中部を通り、途中外気を巻き込むことなく、回転ブラシの中央部に導くことにより、飽和温度の蒸気を洗浄対象物であるワークに吹き付け、同時に回転ブラシでブラッシング運動を行うようにする。
【発明の効果】
【0007】
運転時には、蒸気タービンに蒸気圧による軸方向の力を作用させ、テーパローラのくすび作用で、ローラ転動面に動力伝達に必要な面圧を作用させる。第2段目の主軸ローラには、回転ブラシをワークに押し付けると、押付け力が軸方向に作用し、これもくさび効果で、伝達に必要なローラ面圧を生じさせる。このようにして、ローラ減速機の動力伝達に必要なローラ転動面の接触面圧を与えることができる。また、減速機部材間の温度差あるいは材質の違いによる熱膨張差など、寸法的な狂いによる過大な面圧やすきまの発生を防ぐことができる。
【0008】
蒸気タービンによる駆動装置と二段の遊星ローラ減速機を用いて、大きな減速比を得ることにより、蒸気タービンの小さなトルクを増大にし、回転ブラシを回転させる。これと同時に排気を外気に触れることなく、回転ブラシの洗浄対象材すなわちワークに吹き付けることにより、飽和温度の蒸気を用いて、蒸気洗浄とブラッシングを同時に行うことにより、大きな洗浄効果を得ることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明を実施するための形態について、図1、図2、図3にて説明する。図1に示す本発明の回転ブラシの横断面において、円筒状のホールダ9の上下方向ほぼ中央部内側に2本の円周溝を設ける。この溝は、それぞれ第1段アウターレース溝11、第2段アウターレース溝12で、底面が第1段ローラ4および第2段ローラ7の転動面となる。第1段アウターレース溝11と第2段アウターレース溝12の幅は、第1段ローラ4あるいは第2段ローラ7の幅よりやや大きくし、側面にすきまを設ける。第1段アウターレース溝11の中で、第1段ローラ4が旋回しながら転動しているとき、両者の軸方向位置が変化した場合は、接触面圧が変化することになる。3個の第1段ローラ4の中心部、太陽ローラの位置に第1段主軸ローラ3が取付けられている。第1段主軸ローラ3転動面の両側にツバが設けられている。ツバの間隔は、第1段ローラ4の幅より大きくし、すきまが設けられている。したがって、このすきまの範囲で第1段主軸ローラは、軸方向に移動可能である。しかし、第1段主軸ローラ3も第1段ローラ4もテーパが付いているため、軸方向移動によって、転動面の接触面圧が大きくなったり、あるいは、すきまが生じたりすることになる。
【0010】
第1段ローラ4のそれぞれのローラの中心部には、軸受とピンがあり、小さなすきまを介して嵌合されている。そしてピンは、第1段ローラ保持材5に固定されており、第1段ローラ4のピッチが保持される。そして、第1段ローラ4の公転が、第1段ローラ保持材5に伝えられる。第1段主軸ローラ3は高速回転するが、第1段ローラ保持材5は減速され、図1に示す例では、約1/6の減速比となる。
【0011】
第1段ローラ保持材5は、第2段主軸ローラ6とは直結されており、同じ回転数で回る。第2段主軸ローラ6と第2段ローラ7、および第2段アウターレース12の相対的な関係位置は、第1段主軸ローラ3、第1段ローラ4および第1段アウターレース11と同様であるが、第2段ローラ保持材8には、回転ブラシ14が締結されており、回転ブラシ14に作用する押付力の反力が作用し、反力が大きいときには、第2段ローラ7が第2段ローラ保持材8とともに、図で上方に移動したとき、第2段ローラ7が内側にわずかに寄り、第2段主軸ローラとの接触面圧が大きくなるように、第2段主軸ローラ6のツバの間隔と第2段ローラ7の幅および第2段アウターレース溝12の溝幅と第2段ローラ7の幅の差、すなわち、すきまがやや大き目に作られ、第2段ローラ7の回転中心のピンと軸受のすきまも大きく作られる。
【0012】
蒸気の通路は、蒸気供給口1から蒸気が供給され、蒸気タービン翼車2を通り、排気蒸気がホールダ9の内側に放出される。そして、第1段ローラ4、第1段ローラ保持材5、第2段ローラ7の空間を通って、蒸気噴出穴13に導かれる。蒸気の一部は、ホールダ9と円形の第2段ローラ保持材8の外径で構成されるすきまから漏れ出るので、ここのすきまはできるだけ小さくする。蒸気は、ホールダ9やホールダカバー10の中を通り、外部から空気などが混入しないようにする。また、ホールダ7やホールダカバー10からの放熱により蒸気が冷やされ、蒸気ドレンが発生するが、これらはローラ転動面の潤滑や冷却に活用され、排気蒸気といっしょに回転ブラシ14に設けられた蒸気噴出穴13より、回転ブラシ14の対象物に吹き付けられ、洗浄に利用される。
【0013】
高圧の蒸気が供給口1より供給されると、図3に示すような蒸気タービン翼車の中央の穴部に入り、ここからタービン翼車の蒸気溝15を通り、外周側に流れ、外周部でタービン翼車の蒸気溝が接線方向を向いているため、これの反動力でタービン翼車2が回転させられる。タービン翼車2は、第1段主軸ローラ3に締結されており、第1段主軸ローラ3には、ツバが付いているため、軸方向が拘束されている。そして、3個の第1段ローラ4に挟まれるように組込まれ、3ヶ所でライン接触しているので、半径方向にも拘束されている。したがって、蒸気タービン2に蒸気が供給されると、この位置で旋回する。高速回転すると、蒸気タービン2の慣性モーメントのため、ちょうどコマのように旋回する。このとき、第1段主軸ローラ3に接している第1段ローラ4が回される。その結果、第1段ローラ4は、第1段アウターレース溝11の中を転動し、自転と公転をすることになる。公転は、第1段ローラ4と連結されている第1段ローラ保持材5に伝達される。第1段ローラ保持材5は、第2段主軸ローラ6と締結されており、これが第1段ローラ減速装置の出力軸に相当するものである。第1段ローラ減速装置としての減速比は、第1段主軸ローラ3や第1段アウターレース11の直径の比によって決められるが、本実施例では約1/6である。
【0014】
第1段ローラ保持材5は、第2段主軸ローラ6と一体的に締結されており、同じ回転数で回転する。第2段主軸ローラ6も、第1段主軸ローラ3と同様に、3個の第2段ローラ7によって中心位置が拘束され、第2段主軸ローラ6のツバと第2段アウターレース溝12の側面で、軸方向が拘束されている。第2段主軸ロータ6の回転が第2段ローラ7に伝えられ、第2段ローラ7は、回転することにより、第2段アウターレース溝12の中を公転し、その回転は、第2段ローラ保持材8を介して、これに一体的に締結されている回転ブラシ14に伝えられ、回転ブラシ14が回転する。第2段ローラ保持材8の回転数は、第2段ローラ7の公転に等しく、第2段主軸ローラ6の回転数の約1/6である。したがって、第1段主軸ローラ3の回転数に対し、約1/36の減速比となる。
【0015】
このような減速装置において、第1段主軸ローラ3や第2段主軸ローラ6のレーサ面両側のツバと第1段ローラ4や第2段ローラ7の幅に対し、すきまを有していること、そして、第1段アウターレース溝11や第2段アウターレース溝12においても、溝幅に対し、第1段ローラ4や第2段ローラ7の幅はやや小さくすきまを保持しているため、これらのローラの半径方向の熱膨張の差による伸び、あるいは、ホールダ9と第1段主軸ローラ3や第2段主軸ローラ6の軸方向の伸び差により、ローラの転動面に作用する荷重が大きくなると、それぞれの部材の持っているテーパにより、軸方向の力が発生し、すきまの範囲で移動し、荷重を緩和する。また、転動面の荷重としては、タービン翼車2に作用する上方からの蒸気力で下方に押し付けられ、また、下部からはブラッシング時の力が回転ブラシ14に上向に作用するので、ローラのテーパにより、くさび効果で力が増大し、転動面に作用する。このような転動面の適切な荷重により、蒸気タービン翼車2の回転力が回転ブラシ14に伝えられる。
【0016】
蒸気は、蒸気供給口1より供給され、蒸気タービン翼車2の中央部に流れ、方向を変えて図3の蒸気溝15を通って、蒸気タービン翼車2の外周部に噴出される。蒸気噴出の方向が、円形をした蒸気タービン翼車2の接線方向になっているので、その反動で、蒸気タービン翼車2が旋回させられる。排気蒸気は、ほぼ大気圧に近いが、高い流速と高い温度を保持している。これが、第1段ローラ4、第1段ローラ保持材5、第2段ローラ7の空間を通って蒸気噴出穴13より噴出され、回転ブラシ14の洗浄面である図示されていないワークに吹き付けられる。蒸気は、ホールダ9の中では、空気を巻き込むことがないので、飽和温度(大気圧のとき100℃)のまま吹き出され、一部凝縮した水が、同時に噴き出される。
【0017】
蒸気洗浄においては、蒸気の高い温度と適度な水分が洗浄効果を左右するので、水分の多い蒸気と回転ブラシ14のブラッシング効果により、洗浄効果を高くすることができる。
【0018】
テーパローラを用いた本発明の回転ブラシは、水分の多い蒸気を活用した蒸気洗浄効果を高めることが目的であると同時に、蒸気噴流だけでは除去しにくい汚れをブラッシングによって短時間に除去することも目的のひとつである。回転ブラシ14を安定して回転させ、比較的大きなトルクを得ることが望まれる。このような要求に対し、2段の遊星ローラ減速機により、大きな減速比を得て、トルク増大を図っている。蒸気タービン駆動をし、その排気を洗浄に利用するため、減速機は高温蒸気にさらされるが、高温蒸気による第1段ローラ4や第2段ローラ7に対し、ホールダ6に設けられている第1段アウターレース溝11や第2段アウターレース溝12との間の温度差あるいは材質の違いによる熱膨張差が生じたときは、ローラの接触面圧が増加するが、それぞれのテーパローラのくさび効果のため、軸方向成分の力が発生し、これにより、第1段主軸ローラ3や第2段ローラ保持材8が軸方向に移動し、接触面圧を緩和する。
【0019】
以上のように、蒸気洗浄機用回転ブラシの減速機にテーパローラを用いること、第2段アウターレースや第1段主軸ローラの側面にすきまを配することによって、熱膨張差などの狙いによって生ずる接触面圧を自動調整し、安定したトルクと回転を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の回転ブラシの横断面図である。
【図2】 図1のA−A断面図である。
【図3】 図1のタービン翼車の矢視B−Bの上面図である。
【符号の説明】
図1、図2、図3共通で、符号と部材名称は下記のとおりである。
1 蒸気供給口
2 蒸気タービン翼車
3 第1段主軸ローラ
4 1段ローラ
5 第1段ローラ保持材
6 第2段主軸ローラ
7 第2段ローラ
8 第2段ローラ保持材
9 ホールダ
10 ホールダカバー
11 第1段アウターレーサ溝
12 第2段アウターレーサ溝
13 蒸気噴出口
14 回転ブラシ
15 タービン翼車の蒸気溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空円筒形をしたホールダに、密閉してホルダーカバーを取付け、この中央部に蒸気供給口を設け、該ホールダの内側に、テーパを有するリング状溝を設け、該リング状溝の底をアウターレースとする3個一組のテーパローラから構成される遊星ローラを2組、すなわち、第1段ローラと第2段ローラを上下2列に組み込み、それぞれのテーパローラを、そのピッチを拘束し、かつ自転自在となるようにピンを有するローラ保持材に取り付け、3個の第1段ローラに接して、これらのローラの中央部に、蒸気供給口より、蒸気が供給されたとき蒸気タービン翼車に設けられた蒸気溝により回転力が与えられる蒸気タービン翼車と一体になった第1段主軸ローラを組み込み、該第1段ローラ保持財と第2段主軸ローラを一体的に締結し、第1段ローラ保持材の回転、すなわち第1段ローラの公転を伝達される第2段主軸ローラの回転力を、摩擦により伝達し、第2段ローラとホールダに設けられたアウターレースを転動するローラの公転回転力を、第2段ローラの自転を自在に、かつピッチを拘束した第2段ローラ保持材に伝え、第2段ローラ保持材に一体的に締結された回転ブラシに回転力を伝える蒸気洗浄機用回転ブラシにおいて、3個一組の2段のテーパローラにより構成された遊星ローラの幅と該ローラが転動するホールダに設けられたアウターレースの溝の幅の間に、軸方向に移動可能な隙間を付与し、蒸気タービン翼車あるいは回転ブラシに作用する軸方向の力によって、軸方向に移動し、遊星ローラの半径方向の力が変化するようにしたことを特徴とする。
【請求項2】
請求項1の蒸気洗浄起用回転ブラシにおいて、第1段主軸ローラが転動するテーパ状のインナーレースの両側につばを設け、第1段ローラの幅と該つばの隙間を設け、限られた範囲で軸方向の移動を可能なように、隙間を付与するとともに、第1段ローラの転動面は、第1段主軸ローラに対し、3本の線接触により、第1段主軸ローラは、第1段ローラのみで、他の軸支持装置を介せず、半径方向および回転軸としての回転保持することを特徴とする。
【請求項3】
請求項1の蒸気洗浄機用回転ブラシにおいて、ホールダとホールダカバーで、減速装置を包みこみ、下部の回転ブラシ部のみに開口し、蒸気供給口より供給された蒸気が、外気と混合するような開口部のない構造にしたことを特徴とする。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−23510(P2008−23510A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−222755(P2006−222755)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(592150608)小椋鉄工株式会社 (11)
【Fターム(参考)】