説明

蓄光性積層体及び蓄光糸

【課題】層間剥離問題を生じず、また製造の手法も非常に簡潔なものとすることで、蓄光性と虹彩を呈するといった性質と長期にわたり使用が可能で、低コスト、入手性、利便性を高めることを可能とした蓄光性積層体及び蓄光糸を提供する。
【解決手段】波長350nm〜800nmの光線を選択反射してなる第1光輝性フィルムの表面に、接着性を備えた接着層を積層してなる第1積層体における接着層の表面に、別途用意した、離型基材フィルムの表面に蓄光性を備えた蓄光性顔料を含む樹脂を蓄光層として積層した蓄光層転写材から蓄光層のみを転写して得られる、蓄光性積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は日光や蛍光灯の光を吸収し、暗いところで光を放つ性質を有した蓄光性を有する積層体及びその積層体を用いて得られる蓄光糸に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より日常生活の中において、きらきらと虹色に輝く虹彩色を呈する素材を用いることで意匠性を高めることが行われている。例えば宣伝広告のための素材として、街頭に掲示するポスターの一部に虹彩色を呈するフィルム状の素材を用いることで道ゆく人の気をひいたり、虹彩色を呈するフィルム状の素材をマイクロスリットして得られる糸を衣服に用いることで美麗な印象を与える衣服とする、といったような使われ方がなされている。
【0003】
このような虹彩色を呈する素材は、従来高分子樹脂フィルムを加工することにより得られるのが一般的であった。例えば高分子樹脂フィルムの表面に透明樹脂による薄膜を設け、その上面及び下面で反射した光線が、位相差を伴って干渉することにより、全体としてきらきらと虹色に輝く虹彩色を呈する、といった構成によるものであったが、何れにせよ高分子樹脂フィルムを加工して虹彩色を呈するフィルム(以下単に「虹彩フィルム」とも言う。)とするものが主であった。
【0004】
しかし当然ながら、このような虹彩フィルムは自然光や照明などの人工光が照射されている間は効果的な虹彩色を呈するものの、それらの光源が消えた場合、何らの光線も虹彩フィルムに入射しないため、これらのフィルムは単なる高分子樹脂フィルムと何ら変わることがなくなり、上述したような効果を狙っていてもそれを発揮することができなかった。
【0005】
そこでこのような虹彩フィルムの表面に蓄光性を有した顔料を塗布することにより、暗闇でも虹彩を呈することを可能とした蓄光性虹彩フィルムが提案されるようになってきた。
【0006】
例えば特許文献1に記載の蓄光性虹彩フィルムでは、虹彩フィルムの表面にさらに蓄光性を有する顔料による蓄光顔料層を積層した構成としている。
【0007】
【特許文献1】特開昭62−124935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで上記に示した特許文献1に記載の発明における蓄光性を有する顔料とは、その顔料に混ぜられた物質が吸収したエネルギーを放光という形で放出する働きを有する物質であり、暗いところで光を放つ、という特徴を有するものである。即ち、明るいところでは光を蓄え暗いところでは光を放つ、という性質を有する層を積層することで、光が照射されている間は虹彩フィルム部分が自動的に虹彩を呈し、光が照射されなくなった場合には蓄光顔料層が放光することにより、やはり虹彩フィルムが虹彩を呈する、という蓄光性虹彩フィルムを得るのである。
【0009】
特許文献1に記載の発明であれば、蓄光性虹彩フィルムとしての原理は同じであるが、可撓性支持体が積層内に残るため積層膜厚が厚くなり、糸状にマイクロスリット加工する場合、支障があるばかりではなく、糸としての風合いが悪く、また、可撓性支持体と蓄光顔料層との層間剥離の問題が生じていた。つまり、特許文献1に記載のものであれば、可撓性支持体そのものが積層内に残るために問題が生じていた。
【0010】
本発明はこのような問題点に鑑みて為されたものであり、その目的は層間剥離といった問題も生じず、また製造の手法も非常に簡潔なものとすることで、蓄光性と虹彩を呈するといった性質とを長期にわたり維持可能とし、また製造に係るコストを引き下げ、かつ糸状にマイクロスリット加工する場合に支障がなく、ひいては糸としての風合いも優れた蓄光性積層体及び蓄光糸を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本願発明の請求項1に記載の発明は、波長350nm〜800nmの光線を選択反射してなる第1光輝性フィルムの表面に、接着性を備えた接着層を積層してなる第1積層体における前記接着層の表面に、別途用意した、離型基材フィルムの表面に蓄光性を備えた蓄光性顔料を含む樹脂を蓄光層として積層した蓄光層転写材から前記蓄光層のみを転写して得られること、を特徴とする。
【0012】
本願発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の蓄光性積層体であって、前記第1光輝性フィルムが、第1高分子樹脂よりなる第1高分子樹脂層と、第2高分子樹脂よりなる第2高分子樹脂層と、を交互に複数積層してなる第1多層選択反射フィルム、若しくは、エンボスホログラム加工、リップマンホログラム加工、又はレインボーホログラム加工の何れかのホログラム加工が施されてなる第1加工選択反射フィルム、の何れかであること、を特徴とする。
【0013】
本願発明の請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の蓄光性積層体であって、前記第1高分子樹脂又は前記第2高分子樹脂を構成する高分子樹脂が、ポリエステル系樹脂、又はポリアミド系樹脂、の何れかであって、前記第1高分子樹脂層と、前記第2高分子樹脂層と、の波長350〜800nmに対する反射率が相違すること、を特徴とする。
【0014】
本願発明の請求項4に記載の発明は、波長350nm〜800nmの光線を選択反射してなる第1光輝性フィルムの表面に、接着性を備えた接着層を積層してなる第1積層体における前記接着層の表面に、別途用意した、離型基材フィルムの表面に蓄光性を備えた蓄光性顔料を含む樹脂を蓄光層として積層した蓄光層転写材から前記蓄光層のみを転写してなり、さらに蓄光層の表面に、波長350nm〜800nmの光線を選択反射してなる第2光輝性フィルムの表面に、接着性を備えた接着層を積層してなる第2積層体における前記接着層を接することにより、前記蓄光層の両面側に前記第1積層体及び前記第2積層体がそれぞれ位置する構成となすこと、を特徴とする。
【0015】
本願発明の請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の蓄光性積層体であって、前記第1光輝性フィルムが、第1高分子樹脂よりなる第1高分子樹脂層と、第2高分子樹脂よりなる第2高分子樹脂層と、を交互に複数積層してなる第1多層選択反射フィルム、若しくは、エンボスホログラム加工、リップマンホログラム加工、又はレインボーホログラム加工の何れかのホログラム加工が施されてなる第1加工選択反射フィルム、の何れかであり、前記第2光輝性フィルムが、第3高分子樹脂よりなる第3高分子樹脂層と、第4高分子樹脂よりなる第4高分子樹脂層と、を交互に複数積層してなる第2多層選択反射フィルム、若しくは、エンボスホログラム加工、リップマンホログラム加工、又はレインボーホログラム加工の何れかのホログラム加工が施されてなる第2加工選択反射フィルム、の何れかであること、を特徴とする。
【0016】
本願発明の請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の蓄光性積層体であって、前記第1高分子樹脂ないし前記第4高分子樹脂を構成する高分子樹脂が、ポリエステル系樹脂、又はポリアミド系樹脂、の何れかであって、前記第1高分子樹脂層と、前記第2高分子樹脂層と、の波長350〜800nmに対する反射率が相違し、前記第3高分子樹脂層と、前記第4高分子樹脂層と、の波長350〜800nmに対する反射率が相違すること、を特徴とする。
【0017】
本願発明の請求項7に記載の発明は、請求項1ないし請求項6の何れか1項に記載の蓄光性積層体であって、前記蓄光性顔料が蛍光、又は燐光を発する無機顔料又は有機顔料であること、を特徴とする。
【0018】
本願発明の請求項8に記載の発明は、請求項1ないし請求項7の何れか1項に記載の蓄光性積層体をマイクロスリットして得られる蓄光糸であること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本願発明に係る蓄光性積層体であれば、元々光輝性を有する光輝性フィルムの表面に蓄光性を備えた蓄光性顔料を含む顔料層を積層するので、光がある場合は光輝性フィルム自身が発光し、また光のない暗い場所では蓄光性顔料層が放光することにより光輝性フィルムに光が照射されるので、本願発明に係る蓄光性積層体であれば外部の明るさに関係なく常にきらきらと輝く意匠的な効果を得ることができる。そして本願発明に係る蓄光性積層体では、光輝性を有するフィルムの表面に直接顔料を積層するのではなく、別途蓄光性顔料層を光輝性フィルムに転写できる転写箔を予め用意しておき、これを用いて蓄光性顔料層を光輝性フィルムの表面に転写することで積層する、という転写法を用いてなるので、直接蓄光性顔料層を基材に積層する場合は基材となる光輝性フィルムに対してある程度の負荷がかかるため基材が破損しない程度の厚みを確保する必要があるのに対し、本願発明の場合であれば転写法を用いることより基材自身に対して直接積層する場合に比して負荷がかからず、光輝性フィルムの厚みが薄くとも光輝性フィルムが破損することなく蓄光性積層体を得ることができる。即ち従来に比して全体の厚みがより薄い蓄光性積層体を得ることができる。
【0020】
また転写法により製造することで、製造方法そのものが簡潔なものとなり、さらには上述のように製造に際して基材となる光輝性フィルムの破損が生じず、特に両面に光輝性フィルムを備えたい場合、可撓性支持体が2層積層する必要もなく、厚みも薄くかつ製造コストについても押えることが可能となる。尚、蓄光顔料層を転写する転写箔において蓄光顔料層を必要充分な厚み、即ち15μm以上の厚みを確保しておけば、これを転写する際に必要となる光輝性フィルム表面の接着層に蓄光性を含ませる、等の何ら特殊な加工を予め施す必要もなく、従来公知の接着剤をごく自然にかつ普通に塗布して接着層とするだけでよいので、やはり製造が簡潔なものとなる。また転写箔を用いた転写法とするため、上述の顔料層の厚みも直接積層する場合に比して自在にかつ容易に設定できる。そしてかような積層体をマイクロスリットすれば、同様の効果を備えた糸とすることができるので、得られた糸を被服類や織編した布帛に用いれば、効果的な意匠とすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。尚、ここで示す実施の形態はあくまでも一例であって、必ずもこの実施の形態に限定されるものではない。
【0022】
(実施の形態1)
本願発明に係る蓄光性積層体につき、第1の実施の形態として説明する。
本実施の形態に係る蓄光性積層体は、波長350nm〜800nmの光線を選択反射してなる第1光輝性フィルムの表面に、接着性を備えた接着層を積層してなる第1積層体における前記接着層の表面に、別途用意した、離型基材フィルムの表面に蓄光性を備えた蓄光性顔料を含む樹脂を蓄光層として積層した蓄光層転写材から前記顔料層のみを転写して得られるものである。
【0023】
以下、具体的に順次説明をしていく。
まず最初に、基材とも言うべき第1光輝性フィルムについて説明すると、本実施の形態においてこの第1光輝性フィルムは、第1高分子樹脂よりなる第1高分子樹脂層と、第2高分子樹脂よりなる第2高分子樹脂層と、を交互に複数積層してなる第1多層選択反射フィルムを用いてなる。ここで、第1高分子樹脂層における波長350〜800nmに対する反射率と、第2高分子樹脂層波長350〜800nmに対する反射率とは相違することが重要である。即ち、隣り合う層の反射率が相違することが重要である。このように隣り合う各層の反射率を相違させることで、第1多層選択反射フィルム全体を見た時に、これに波長350nm〜800nmの光線が入射すると、各層で反射率が相違するために、各層間で構造的な光干渉が生じ、その結果各層の反射率を適宜設定することで、例えば第1多層選択反射フィルム全体の反射による光が玉虫色に見える真珠光沢を有する反射光を得ることも可能であり、またそれ以外にも特定波長の光を選択的に反射又は透過させることで第1多層選択反射フィルム全体の反射光が特定の色や印象を呈するようにすることも可能となるのである。
【0024】
そして第1高分子樹脂層及び第2高分子樹脂層を構成する樹脂としては、上述のような効果を生じることができればよく、例えばポリエステル系樹脂、又はポリアミド系樹脂、の何れかであればよい。そしてさらに述べると、第1高分子樹脂層と第2高分子樹脂層は例えばともにポリエステル系樹脂であってもよいが、全く同じ樹脂とすると互いに隣接する層の反射率が同一となってしまうため上述した効果が得られず、要すればともにポリエステル系樹脂であってもお互いが相違する樹脂であれば構わない。
【0025】
これら第1高分子樹脂層と第2高分子樹脂層との積層回数については特段限定するものではないが、強い反射性、及び効果を得るためには層数の総和が11以上であることが好ましく、かつその数を奇数としておけば、第1多層選択反射フィルムの表面と裏面との機械的及び熱的物性に差も出ず、また加工性にも問題は生じず、反射性にも差が生じないので好ましいと言える。
【0026】
また第1多層選択反射フィルムの厚みは任意に選定すればよいが、本実施の形態に係る蓄光性積層体全体の厚みを薄くするためには最大でも100μm程度、望ましくは50μm以下、とすることがよい。また後述のように、本実施の形態に係る蓄光性積層体に対しより一層のしなやかさが必要となれば、この厚みは25μm以下とするとよい。通常、特定の高分子樹脂フィルムの表面に対し何らかの物理的処理を施す場合であれば最低でも50μm以上の厚みが必要であること、また特定の高分子樹脂フィルムに直接何らかの樹脂を10μm以上、塗布するためには基材フィルムが加工し易いある程度の厚み、即ち最低でも50μm以上の厚みが必要であることは当業者であれば公知の事柄であるが、本実施の形態に係る蓄光性積層体は、後述の通り第1多層選択反射フィルムの表面に転写法により積層処理を施すため、本願発明者の研究により第1多層選択反射フィルムの厚みが25μm以下であっても充分加工に耐え、また本実施の形態に係る蓄光性積層体の風合やしなやかさを備えるためには25μm以下であるとよいことを見いだした。
【0027】
そして第1多層選択反射フィルム全体の厚みを所望の値とすれば、その厚みに収まるように第1高分子樹脂層と第2高分子樹脂層の厚みをそれぞれ決定すればよいが、各層ともに同様の厚みであってもよく、各層の厚みが異なってもよいことを付言しておく。
【0028】
次に、この第1多層選択反射フィルムの表面に接着性を備えた接着層を積層して第1積層体を得るが、この接着性を備えた接着層につき説明する。
【0029】
この接着層は特段特殊な加工を施したり、特殊なフィラー等を混合させる必要はなく、単に後述の転写箔を第1多層選択反射フィルムの表面に確実に貼着させるための層であり、例えばポリエステル系樹脂によるものであればその目的を充分に達することができる。またその積層方法も特段特殊なものである必要はなく、第1多層選択反射フィルムの表面に接着性を備えた樹脂等の素材を単純に塗布すればよい。そしてこのようにして第1多層選択反射フィルムの表面に接着層を備えた第1積層体を得るのである。
【0030】
そして本実施の形態に係る蓄光性積層体を得るために、前述した第1積層体とは別途に予め蓄光層転写材を用意しておくが、次にこの蓄光層転写材に関し説明をする。
【0031】
この蓄光層転写材は、離型基材フィルムとその表面に蓄光性を備えた蓄光性顔料を含む樹脂を蓄光層として積層した構成よりなるものである。
【0032】
まずこの蓄光層転写材に用いる離型基材フィルムであるが、重要なことは離型性を備えていることである。これは詳細に説明するまでもないが、転写材の基材となる高分子樹脂フィルムは、その表面に積層してなる層を、その層を転写し積層したい所望の箇所に転写する際に美麗に剥離しなければならず、そのために離型性を備えていることが好ましいのである。そして従来公知の高分子樹脂フィルム、例えばポリエチレンフィルムやポリプロピレンフィルムや離型紙等を用いる場合であれば、それだけでも転写材の離型基材フィルムとして利用しても構わないが、美麗に転写を行うのであればその表面に離型剤としてシリコーン樹脂やフッ素樹脂やワックス等を塗布しておくことが望ましい。この場合、離型剤はグラビアコーティングやリバースコーティング等のような通常公知の手法で積層すればよく、その厚みも0.01μm以上1μm以下としておけば離型剤が離型効果を適切に発揮するのでよい。また離型基材フィルムの厚みも従来公知の転写材に用いる離型基材フィルムの厚み程度であってよく、12μm以上100μm以下の厚みであると好適な転写材とすることができるのでよい。
【0033】
このように離型性を備えた基材フィルムを用意すると、その表面に蓄光層を積層する。
この蓄光層とは、蓄光性を備えた蓄光性顔料を含む樹脂によりなるものである。
蓄光性顔料とは、蓄光性を備えた顔料であって、光が照射されている時は特段変化はないものの、光が存在しない時は、先に光が照射された時に吸収したエネルギーを放光という形で発散させる、という性質を備えた顔料である。尚、この放光の状態については、蛍光であったり燐光であったり、様々な態様であって構わない。
【0034】
このような蓄光性を備えた顔料としては、無機顔料又は有機顔料であることが考えられ、例えばアルカリ土類アルミン酸塩を母体の結晶とし、かつユーロビウムを賦活剤とし、ネオジウムやジスプロシウムなどをその補助剤としたものであったり、アルミン酸ストロンチウムを主成分としたものを利用することが考えられる。これら蛍光体の他にも、ZnS:Cu、CaAl:Eu,Nd、CaS:Bi、SrAl:Eu,Dy等のような化学組成を有する物質を蓄光性を備えた顔料として用いることができる。
【0035】
そしてこの蓄光性顔料を、バインダーとしての熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂等、より具体的には、アミノ樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ロジン変性樹脂、ニトロセルローズ樹脂、等に含有させることにより、蓄光性顔料を含む樹脂を得ることができ、この素材を前述した離型性を備えた基材フィルムに積層することで、蓄光層転写材を得るのである。
【0036】
この蓄光層の厚みは、蓄光効果を充分に発揮するためには少なくとも10μm以上、より好ましくは20μm以上の厚みが必要である。10μm未満の場合は、どのような蓄光性顔料を選択しても充分な蓄光効果を発揮せず、仮に発揮したとしてもほんの数秒程度ですぐに効果が薄れてしまう、若しくは失われてしまうため、上記の厚みが必要なのである。
【0037】
このようにして、その表面に接着層を備えた第1積層体と、蓄光層転写材と、が準備できれば、第1積層体の接着層面に対し蓄光層転写材の蓄光層側を貼り合わせる。このようにして蓄光層が第1積層体の表面に転写され、本実施の形態に係る蓄光性積層体が得られるのである。 以上のようにして本実施の形態に係る蓄光性積層体を得ることより、従来であれば基材となるフィルムの表面に直接蓄光性を有する層をコーティングしたり、コーティングされたフィルム基材と貼り合わせしていたため、加工的な制約や層間剥離及び蓄光性積層体の厚みが厚くなってしまう問題があったところ、予め蓄光層を別途転写材にて準備するので、蓄光層の厚みを自在に設定でき、かつ均一な厚みの層として加工がし易くなるので、製造がはるかに容易なものとなり、また単に積層させていた従来法よりもはるかに自在に種々の効果を狙った設計をすることが容易となるのである。
【0038】
(実施の形態2)
先に説明した第1の実施の形態とは異なる構成を有する本願発明に係る蓄光性積層体につき、第2の実施の形態として説明する。
【0039】
第1の実施の形態において、蓄光層を積層すべき第1積層体を構成する第1光輝性フィルムが、2種類の反射率を有する2種類の高分子樹脂層を交互に積層することにより得られていたのに対し、本実施の形態においては、第1光輝性フィルムは単純な高分子樹脂フィルムであって、しかしその表面がエンボスホログラム加工、リップマンホログラム加工、又はレインボーホログラム加工、の何れかのホログラム加工が施されてなる第1加工選択反射フィルムを用いてなる。
【0040】
即ち、第1の実施の形態では、第1多層選択反射フィルムが光輝性を有する手段として、異なる反射率を用いて光学干渉を発生させることとしていたのに対し、本実施の形態ではその表面を均等ではない、いわゆるホログラム加工を施した第1加工選択反射フィルムを用いることで、その表面に干渉現象を発生させることで虹彩色を発生させるのである。
【0041】
このようなホログラム加工を施された第1加工選択反射フィルムの厚みは12μm以上100μm以下であることが望ましい。
【0042】
そしてこの第1加工選択反射フィルムの表面に、第1の実施の形態と同様に接着層を積層して第1積層体とするのであるが、この点に関しては第1の実施の形態と同様であってよいので、ここではその詳細な説明を省略する。
【0043】
また本実施の形態では、このように準備された第1積層体の表面に蓄光層転写材を用いて蓄光層を積層するのであるが、これもやはり第1の実施の形態と同様であってよいので、やはりその詳細な説明を省略する。
【0044】
このようにして得られた本実施の形態に係る蓄光性積層体であれば、第1の実施の形態とは異なりホログラム加工が施された面に蓄光層を積層するので、ホログラムによる効果が強調された、即ち第1の実施の形態とは異なった印象を与える意匠を得ることができるのであるが、従来に比して製造が容易になる点等の効果については第1の実施の形態と同様であることを付言しておく。
【0045】
(実施の形態3)
これまで説明した2つの実施の形態は、第1積層体の表面に蓄光層を転写により積層して得られる蓄光性積層体であったが、これら得られた蓄光性積層体の片面に露出している蓄光層のさらに表面に、再び別の、光輝性を備えたフィルムよりなる積層体を積層することで、より一層複雑な光輝性を得ることが考えられる。そこで次に第3の実施の形態として、かような構成を有する本願発明に係る蓄光性積層体につき説明する。
【0046】
本実施の形態に係る蓄光性積層体は、要すれば「第1積層体/蓄光層/第2積層体」という構成を有してなるものである。そして、「第1積層体/蓄光層」という構成を得るまでの手順は、すでに説明した第1及び第2の実施の形態と同様であるので、ここではその説明を省略する。
【0047】
「第1積層体/蓄光層」という構成を有する積層体を得たら、次にこれとは別途第2積層体を用意する。この第2積層体は、前述した第1積層体と同様の構成であればよい。即ち、第1の実施の形態において説明した、2種類の高分子樹脂層を交互に積層して得られる第1多層選択反射フィルムと同様に、第1多層選択反射フィルムを構成するのと同一又は異なった高分子樹脂を選択して得られる第2多層選択反射フィルム、若しくはその表面に何らかのホログラム加工が施された第1加工選択反射フィルムと同様の、又は異なるホログラム加工が施された第2加工選択反射フィルム、の何れかであって、さらにその表面に接着層が積層されて得られる積層体である。これらを構成するものは全てすでに説明したものと同一であってよく、さらに全く同一の素材で構成してあってもよく、異なる素材で但し同様の考え方で構成してあってもよいものであり、ここではその説明を省略する。
【0048】
そして第2積層体が用意されると、第2積層体の表面に位置する接着層と、第1積層体/蓄光層という構成を有する積層体の蓄光層と、を貼り合わせることにより、蓄光層のさらに表面に第2積層体を位置づける。
【0049】
このようにして本実施の形態に係る蓄光性積層体を得るのであるが、その構成をもう少し詳しく見ると、以下のような組み合わせが考えられる。即ち、第1多層選択反射フィルム/蓄光層/第2多層選択反射フィルム、第1多層選択反射フィルム/蓄光層/第2加工選択反射フィルム、第1加工選択反射フィルム/蓄光層/第2加工選択反射フィルム、の組み合わせが考えられる。尚、前述した通り、第1多層選択反射フィルムと第2多層選択反射フィルムとが全く同一であってもよく、また第1加工選択反射フィルムと第2加工選択反射フィルムとが全く同一であっても構わない。
【0050】
要すれば、本実施の形態に係る蓄光性積層体とすれば、蓄光層の両側に位置するフィルムの組み合わせにより、より一層複雑な光沢感を呈する意匠を提供することができるようになるのである。
【0051】
(実施の形態4)
第1〜第3の実施の形態においては、本願発明に係る蓄光性を有する積層体である蓄光性積層体の様々な構成、形態につき説明したが、これらより得られる積層体をマイクロスリットすることにより、蓄光性を有し、かつ特殊な光沢感や意匠を呈する糸とすることができる。この糸に関し、第4の実施の形態として簡単に説明しておく。
【0052】
この糸の、切幅は任意に決めることができるが、切幅が広いほど暗いところでの発光の認知性がし易くなる点からその幅を0.25mm以上にすることが望ましい。例えばその幅を0.38mmとなるように、第1〜第3の実施の形態により得られた蓄光性積層体を従来公知の手法によりマイクロスリットすることで、いわゆる平箔糸を得ることができる。この得られた平箔糸は、そのまま織物用の糸として利用可能であり、織物に用いれば蓄光性を有した糸が存在することにより独特の光沢感、意匠を呈する織物とすることができ、また得られた平箔糸を他の糸と撚糸して用いると、やはり独特の光沢感、意匠を呈する糸、織物、編物とすることができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明に係る蓄光性積層体につき、さらに実施例により説明する。
【0054】
(実施例1)
屈折率の異なる2種類のポリエステル樹脂を、第1高分子樹脂と第2高分子樹脂として、これらを交互に、かつこれらの合計が151層となるように積層して第1多層選択反射フィルムを得た。この第1多層選択反射フィルムの厚みは16μmである。その表面に接着層としてポリエステル樹脂の接着剤を厚みが2μmとなるように塗布し、第1積層体を得た。一方、離型基材フィルムとして厚みが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムにシリコーン樹脂を0.2μmコーティングしたものを用意し、このシリコーン樹脂の表面に、蓄光性顔料としてSrAl:Eu,Dyをポリエステル樹脂に練り込んだ塗料を厚み20μmになるようにコーティングして蓄光性転写材を得た。
【0055】
このようにして第1積層体と蓄光性転写材と、をそれぞれ用意した後に、第1積層体表面の接着層に蓄光性転写材の蓄光層側を貼着し、蓄光性転写材を構成する離型基材フィルムを剥離して、本願発明に係る蓄光性積層体を得た。
【0056】
得られた蓄光性積層体を1時間自然光に照射した後、暗室でその効果を30分間にわたり継続して確認したが、蓄光層からの放光は充分に持続するものであった。
【0057】
(実施例2)
実施例1と同様にして蓄光性積層体を得たが、蓄光層の厚みを30μmとした。得られた蓄光性積層体を実施例1と同様にして確認したが、やはり蓄光層からの放光は充分に持続するものであった。
【0058】
(実施例3)
その表面がエンボスホログラム加工を施された第1加工選択反射フィルムを用いた他は実施例1と同様にして蓄光性積層体を得た。得られた蓄光性積層体を実施例1と同様にして確認したが、やはり蓄光層からの放光は充分に持続するものであった。
【0059】
(実施例4)
第1多層選択反射フィルム/蓄光層/第2多層選択反射フィルム、という構成を有する蓄光性積層体を得た。尚、第1多層選択反射フィルムと第2多層選択反射フィルムとは、実施例1における第1多層選択反射フィルムと同様である。その他、蓄光層の積層手順や蓄光層の厚み等、実施例1と同様にした。得られた蓄光性積層体を実施例1と同様にして確認したが、やはり蓄光層からの放光は充分に持続するものであった。
【0060】
(比較例1)
実施例1と同様にして蓄光性積層体を得たが、蓄光層の厚みを5μmとした。得られた蓄光性積層体を実施例1と同様にして確認したが、蓄光層からの放光は弱々しいものであり、5分後には放光が消滅し目視で認識することができなかった。
【0061】
(比較例2)
実施例1と同様にして蓄光性積層体を得たが、第1多層選択反射フィルムの厚みを6μmとした。得られた蓄光性積層体を実施例1と同様にして確認したが、蓄光層から放光されているが目視で虹彩色が充分に認識することができなかった。
【0062】
以上の通り、本願発明における光輝性フィルムに該当する部分の厚みが好適な薄さであり、かつ蓄光層の厚みが充分であると、蓄光性も充分に発揮される蓄光性積層体とすることができるが、蓄光層の厚みが充分でないと蓄光効果が持続せず、また光輝性フィルムの厚みが薄すぎると蓄光層による発光があるが虹彩色が充分に得ることができないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長350nm〜800nmの光線を選択反射してなる第1光輝性フィルムの表面に、接着性を備えた接着層を積層してなる第1積層体における前記接着層の表面に、
別途用意した、離型基材フィルムの表面に蓄光性を備えた蓄光性顔料を含む樹脂を蓄光層として積層した蓄光層転写材から前記蓄光層のみを転写して得られること、
を特徴とする、蓄光性積層体。
【請求項2】
請求項1に記載の蓄光性積層体であって、
前記第1光輝性フィルムが、
第1高分子樹脂よりなる第1高分子樹脂層と、第2高分子樹脂よりなる第2高分子樹脂層と、を交互に複数積層してなる第1多層選択反射フィルム、
若しくは、
エンボスホログラム加工、リップマンホログラム加工、又はレインボーホログラム加工の何れかのホログラム加工が施されてなる第1加工選択反射フィルム、
の何れかであること、
を特徴とする、蓄光性積層体。
【請求項3】
請求項2に記載の蓄光性積層体であって、
前記第1高分子樹脂又は前記第2高分子樹脂を構成する高分子樹脂が、ポリエステル系樹脂、又はポリアミド系樹脂、の何れかであって、
前記第1高分子樹脂層と、前記第2高分子樹脂層と、の波長350〜800nmに対する反射率が相違すること、
を特徴とする、蓄光性積層体。
【請求項4】
波長350nm〜800nmの光線を選択反射してなる第1光輝性フィルムの表面に、接着性を備えた接着層を積層してなる第1積層体における前記接着層の表面に、
別途用意した、離型基材フィルムの表面に蓄光性を備えた蓄光性顔料を含む樹脂を蓄光層として積層した蓄光層転写材から前記蓄光層のみを転写してなり、
さらに前記蓄光層の表面に、
波長350nm〜800nmの光線を選択反射してなる第2光輝性フィルムの表面に、接着性を備えた接着層を積層してなる第2積層体における前記接着層を接することにより、前記蓄光層の両面側に前記第1積層体及び前記第2積層体がそれぞれ位置する構成となすこと、
を特徴とする、蓄光性積層体。
【請求項5】
請求項4に記載の蓄光性積層体であって、
前記第1光輝性フィルムが、
第1高分子樹脂よりなる第1高分子樹脂層と、第2高分子樹脂よりなる第2高分子樹脂層と、を交互に複数積層してなる第1多層選択反射フィルム、
若しくは、
エンボスホログラム加工、リップマンホログラム加工、又はレインボーホログラム加工の何れかのホログラム加工が施されてなる第1加工選択反射フィルム、
の何れかであり、
前記第2光輝性フィルムが、
第3高分子樹脂よりなる第3高分子樹脂層と、第4高分子樹脂よりなる第4高分子樹脂層と、を交互に複数積層してなる第2多層選択反射フィルム、
若しくは、
エンボスホログラム加工、リップマンホログラム加工、又はレインボーホログラム加工の何れかのホログラム加工が施されてなる第2加工選択反射フィルム、
の何れかであること、
を特徴とする、蓄光性積層体。
【請求項6】
請求項5に記載の蓄光性積層体であって、
前記第1高分子樹脂ないし前記第4高分子樹脂を構成する高分子樹脂が、ポリエステル系樹脂、又はポリアミド系樹脂、の何れかであって、
前記第1高分子樹脂層と、前記第2高分子樹脂層と、の波長350〜800nmに対する反射率が相違し、
前記第3高分子樹脂層と、前記第4高分子樹脂層と、の波長350〜800nmに対する反射率が相違すること、
を特徴とする、蓄光性積層体。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6の何れか1項に記載の蓄光性積層体であって、
前記蓄光性顔料が蛍光、又は燐光を発する無機顔料又は有機顔料であること、
を特徴とする、蓄光性積層体。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7の何れか1項に記載の蓄光性積層体をマイクロスリットして得られること、
を特徴とする、蓄光糸。

【公開番号】特開2008−155592(P2008−155592A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−350192(P2006−350192)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(301054830)尾池テック株式会社 (6)
【出願人】(390031808)根本特殊化学株式会社 (21)
【Fターム(参考)】