説明

蓄熱体及びその製造方法

【課題】加熱にかかる手間の低減を図ることができるとともに、可撓性を付与することができ、しかも繰返し変形させても容易に破損することのない蓄熱体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】蓄熱体10が強磁性金属の繊維を含む金属繊維群をシート状に成形してなることから、蓄熱体10が電磁誘導を用いた加熱器IHによって加熱可能である。また、蓄熱体10は金属繊維群をシート状に成形してなるので、蓄熱体10に可撓性を付与することができる。また、蓄熱体10は金属繊維群をシート状に成形してなり、金属繊維同士が相対的に移動して変形するようになっているので、繰返しの変形によって容易に破損することがなく、繰返しの変形によって液体等が漏れ出すこともない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食材の加熱や保温を行う食品加熱用皿の熱源、マットやクッションの熱源、衣類や履物の熱源、懐炉の熱源などに用いられる蓄熱体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の蓄熱体を備えた食品加熱用皿としては、食材が載置される金属製皿と、金属製皿の下面に接触するように設けられた金属製の蓄熱板と、蓄熱板の下面に設けられた断熱部材と、断熱部材を介して蓄熱板を保持するとともに金属製皿を保持する木製皿とを備え、予め加熱した蓄熱板を木製皿に載置した後に、蓄熱板の上に金属製皿を載置し、金属製皿に食材を載置して加熱調理するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、この種の蓄熱体を備えた懐炉としては、ポリエチレングリコール等の液状の蓄熱材と、蓄熱材を封入する可撓性の袋部材とを備え、電子レンジ等で蓄熱材を加熱して使用するようにしたものが知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】実開平7−27374号公報
【特許文献2】実開平8−038538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記食品加熱用皿では、蓄熱板が金属製皿の下面に接触して蓄熱板から金属製皿に熱を伝達するようになっているので、金属製皿と蓄熱板との間に隙間が生ずると、金属製皿の下面の全体に均一に熱を伝えることができない。即ち、金属製皿及び蓄熱板を精度良く成形する必要があるとともに、金属製皿及び蓄熱板の変形等を防止する必要があるので、製造コストが高くつくとともに取扱いに気を使うという問題点があった。
【0005】
また、前記食品加熱用皿では、予め加熱した蓄熱板を木製皿に載置した後に、木製皿の上に金属製皿を載置するようにしているので、加熱された蓄熱板を木製皿に載置する分だけ蓄熱板の加熱に手間がかかるという問題点があった。
【0006】
また、蓄熱板の代わりにポリエチレングリコールが封入された可撓性の袋部材によって蓄熱体を構成し、蓄熱体が載置された木製皿を電子レンジ内に配置して蓄熱体の加熱にかかる手間を低減することも可能であるが、この蓄熱体は液状のポリエチレングリコールが可撓性の袋部材に封入されていることから、金属製の蓄熱板に比べて耐久性に劣るという問題点があった。
【0007】
一方、前述の懐炉では、ポリエチレングリコール等の液状の蓄熱材が袋部材に封入されており、袋部材は可撓性を有するので、金属製の蓄熱板に比べて耐久性に劣るとともに、袋部材の破損によって蓄熱材が流れ出す場合があり、袋部材の修理及び再購入の分だけコストがかかるという問題点があった。
【0008】
また、蓄熱材の代わりに予め加熱してある金属製の蓄熱板を袋部材内に封入することも可能であるが、蓄熱板を予め加熱して袋部材に封入する分だけ蓄熱板の加熱に時間がかかるという問題点があった。また、懐炉は衣服の内側等に装着して使用するので、蓄熱板が可撓性を有していない分だけ懐炉の触感が硬くなるという問題点があった。
【0009】
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、加熱にかかる手間の低減を図ることができるとともに、可撓性を付与することができ、しかも繰返し変形させても容易に破損することのない蓄熱体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の蓄熱体は、強磁性金属の繊維を含む金属繊維群をシート状に成形してなる。
【0011】
これにより、蓄熱体が強磁性金属の繊維を含む金属繊維群をシート状に成形してなることから、蓄熱体が電磁誘導を用いた加熱手段によって加熱可能であり、例えば蓄熱体が木製皿と金属製皿との間に配置されている状態でも、蓄熱体を電磁誘導を用いた加熱手段によって加熱可能である。また、蓄熱体は金属繊維群をシート状に成形してなるので、蓄熱体に可撓性を付与することができる。さらに、蓄熱体は金属繊維群をシート状に成形してなり、金属繊維同士が相対的に移動して変形するようになっているので、繰返し変形させても容易に破損することがなく、繰返し変形させても液体等が漏れ出すこともない。
【0012】
また、本発明は、強磁性金属の繊維を含む金属繊維群をシート状に成形して蓄熱体を製造する蓄熱体の製造方法であって、強磁性金属の薄板を含む金属薄板が巻回されてなる金属板コイルを回転させながら、金属板コイルの軸方向端面を切削することにより、金属繊維群を成形する工程を含むようにしている。
【0013】
これにより、蓄熱体が強磁性金属の繊維を含む金属繊維群をシート状に成形してなることから、蓄熱体が電磁誘導を用いた加熱手段によって加熱可能であり、例えば蓄熱体が木製皿と金属製皿との間に配置されている状態でも、蓄熱体を電磁誘導を用いた加熱手段によって加熱可能である。また、蓄熱体は金属繊維群をシート状に成形してなるので、蓄熱体に可撓性を付与することができる。さらに、蓄熱体は金属繊維群をシート状に成形してなり、金属繊維同士が相対的に移動して変形するようになっているので、繰返し変形させても容易に破損することがなく、繰返し変形させても液体等が漏れ出すこともない。また、金属板コイルを回転させながら金属板コイルの軸方向端面を切削して金属繊維群を成形するようにしたので、金属繊維群を効率良く成形することができ、製造コストの低減を図る上で極めて有利である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、例えば蓄熱体が木製皿と金属製皿との間に配置された状態でも、蓄熱体を電磁誘導によって加熱することができるので、加熱にかかる手間の低減を図ることができる。また、蓄熱体に可撓性を付与することができるので、例えば、蓄熱体を金属製皿の下面に接触するように設ける場合は、蓄熱体が金属製皿の下面に沿って変形することにより、金属製皿の下面の全体に均一に熱を伝えることができ、蓄熱体を懐炉やクッション等の身体に触れる器具に使用する場合は、蓄熱体の可撓性によって前記器具の触感を軟らかくすることができる。さらに、繰返し変形させても容易に破損することがなく、繰返し変形させても液体等が漏れだすこともないので、蓄熱体の修理や再購入にかかるコストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1乃至図4は本発明の第1実施形態を示すもので、図1は蓄熱体の斜視図、図2はコイル切削用旋盤の斜視図、図3は心棒に巻き取られた金属繊維群を切断してシート状に成形する際の動作説明図、図4は食品加熱用皿の断面図である。
【0016】
本実施形態の蓄熱体10は金属繊維群をシート状に成形してなり、金属繊維群は、図2に示すように、金属薄板PLが巻回されてなる金属板コイルCLを回転させるとともに、金属板コイルCLの軸方向端面を切削することにより成形される。また、金属薄板PLは強磁性を有するステンレスからなるので、金属板コイルCLの軸方向端面を切削して成形される金属繊維は強磁性金属の繊維となる。
【0017】
図2に示すコイル切削用旋盤100は、金属板コイルCLが巻付けられる回転軸101と、回転軸101の一端を回転自在に支持する駆動装置102と、回転軸101の他端を回転可能に支持する支持部材103と、駆動装置102及び支持部材103を固定するベース104と、回転軸101に巻付けられた金属板コイルCLの軸方向に移動自在な切削刃105と、金属板コイルCLの端面切削によって成形された金属繊維群を巻取るための回転自在な心棒106とを備えている。
【0018】
コイル切削用旋盤100は、金属板コイルCLが巻付けられた回転軸101を所定速度で回転させながら、切削刃105を金属板コイルCLの軸方向に所定速度で移動させることにより、金属板コイルCLの軸方向端面を径方向内側から外側に亘って所定量ずつ切削する。これにより、金属板コイルCLの軸方向端面から金属繊維が複数本ずつ成形され、成形された各金属繊維は互いに絡み合って金属繊維群となり、成形された金属繊維群が順次心棒106に巻取られる。所定量の金属繊維群が巻取られた心棒106はコイル切削用旋盤100から取外され、心棒106に巻取られている金属繊維群の周方向の一部がカッター107によって心棒106の軸方向に切断される(図3参照)。また、カッター107によって切断された金属繊維群を平面上に広げることにより、図1に示すようなシート状の蓄熱体10が成形される。尚、金属繊維群を平面上に広げた後、図示しない金型等によって金属繊維群を所定形状にプレス加工することも可能であり、プレス加工を行う場合は蓄熱体10中の金属繊維の密度が高くなる。
【0019】
ここで、金属板コイルCLの端面から成形される金属繊維の太さは金属薄板PLの厚さ寸法及び切削刃105の移動速度によって設定することができ、金属繊維の断面形状は略矩形状になる。例えば、金属薄板PLの厚さ寸法を十数μmにするとともに、切削刃105によって金属板コイルCLの端面を十数μmずつ切削することにより、太さ十数μmの金属繊維が成形される。また、金属繊維は金属板コイルCLの軸方向端面を切削して成形されるので、成形される金属繊維が金属板コイルCLの形状に沿った方向に湾曲する。このため、金属繊維群は金属繊維同士が複雑に絡み合い、その金属繊維群から成形された蓄熱体10の機械的強度を向上する上で有利である。さらに、金属繊維は金属板コイルCLの軸方向端面を切削して形成されるので、金属繊維の一本ずつが長くなる。即ち、蓄熱体10からの金属繊維の脱落が防止され、蓄熱体10の機械的強度を向上する上でも有利である。
【0020】
以上のように成形された蓄熱体10は例えば図4に示す食品加熱用皿に用いられる。
【0021】
この食品加熱用皿は、蓄熱体10と、蓄熱体10の下面、側面の全周及び上面の外周面側を覆うように設けられたシート状の断熱部材11と、蓄熱体10を断熱部材11を介して下方、側方及び上方から保持する受け皿12と、蓄熱体10の上面に載置されるプレート13とを備えている。断熱部材11は、カーボン繊維等の耐熱性を有する繊維材料からなる断熱層11aと、断熱層11aの厚さ方向一端面を覆うように設けられたアルミニウム等の非磁性体の金属材料からなる反射層11bとを有する。断熱層11aは、カーボン繊維等のように低い熱伝導率を有し、且つ、所要の耐熱性を有するものであれば良いので、ガラス繊維、木、プラスチック、ゴム、セラミック等を用いることも可能である。断熱部材11は断熱層11aが反射層11bよりも蓄熱体10側に配置されている。受け皿12は非磁性体である木、プラスチック、ゴム、セラミック等からなる。プレート13はアルミニウム板の表面に陽極酸化皮膜を形成してなる遠赤外線の放射性に優れた板状部材や鉄鋼材料からなり、例えば、スカイアルミプロダクツ社製のスーパーレイ(登録商標)を用いるのが好ましい。
【0022】
以上のように構成された食品加熱用皿は、図4のように周知の電磁誘導を用いた加熱器IHに載置され、加熱器IHによって蓄熱体10が加熱される。受け皿12、断熱層11a及び反射層11bは非磁性体であり、蓄熱体10は強磁性金属の金属繊維群をシート状に成形してなるので、加熱器IHの電磁誘導によって蓄熱体10が加熱される。加熱器IHによって蓄熱体10に所定の加熱を行った後、食品加熱用皿を加熱器IHから取外すとともに、プレート13に食材を載置することにより、食材の加熱調理を行う。
【0023】
ここで、蓄熱体10は断熱部材11、受け皿12及びプレート13によって覆われているので、蓄熱体10が直接外気と接触する部分の面積が小さく、蓄熱体10の温度低下を抑制することができる。このため、加熱器IHによって蓄熱体10を加熱した後の食材を載置するまでの時間や外気温に拘らず、食材の加熱調理を常に安定した温度で行うことができ、食材の保温を長時間に亘って行うこともできる。
【0024】
また、蓄熱体10の下面、側面の全周及び上面の外周面側が断熱層11a及び反射層11bによって覆われているので、蓄熱体10から放射される熱の移動が断熱層11aによって遮られるとともに、蓄熱体10からの熱は断熱層11aを通過した場合でも反射層11bによって蓄熱体10側に反射するので、蓄熱体10の温度低下をより効果的に抑制することができる。
【0025】
このように、本実施形態によれば、蓄熱体10が強磁性金属の繊維を含む金属繊維群をシート状に成形してなることから、蓄熱体10が電磁誘導を用いた加熱器IHによって加熱可能であり、蓄熱体10が受け皿12とプレート13との間に配置されている状態でも、蓄熱体10を加熱器IHによって加熱可能であり、加熱にかかる手間の低減を図ることができる。
【0026】
また、蓄熱体10は金属繊維群をシート状に成形してなるので、蓄熱体10に可撓性を付与することができ、例えばプレート13の下面が平面状に成形されていない場合でも、蓄熱体10がプレート13の下面に沿って変形し、プレート13の下面の全体に均一に熱を伝えることができる。また、蓄熱体が金属製の板状部材からなり、受け皿12内の空間形状に応じて蓄熱体が精度良く成形されていない場合は、蓄熱体が受け皿12内で無用に移動し、蓄熱体の移動によって衝突音が生ずるが、本実施形態では蓄熱体10に可撓性を付与することができるので、蓄熱体10を受け皿12内の空間形状よりも少し大きく成形することにより、蓄熱体10の受け皿12内における移動を容易且つ確実に防止することができる。また、蓄熱体10は金属繊維群をシート状に成形してなるので、仮に蓄熱体10が受け皿12内で移動した場合でも、蓄熱体10の移動によって衝突音が生ずることがない。さらに、蓄熱体が金属製の板状部材からなり、蓄熱体が受け皿12内の空間形状に応じて精度良く成形されている場合は、蓄熱体の熱膨張係数と受け皿12の熱膨張係数との違いにより受け皿12に無用に力が加わるが、本実施形態の蓄熱体10は金属繊維群をシート状に成形してなるので、蓄熱体10の加熱によって受け皿12に無用な力が加わることがない。また、蓄熱体10は金属繊維群をシート状に成形してなり、蓄熱体10は電磁誘導を用いた加熱器IHによって加熱されるので、ポリエチレングリコール等の蓄熱材を袋部材に収容してなる蓄熱体と比べて高温まで加熱することができ、加熱調理を確実に行う上で有利であり、長時間の保温を行う上でも有利である。また、蓄熱体10は金属繊維群をシート状に成形してなるので、蓄熱体が金属製の板状部材からなる場合と比べて重量の低減を図ることができる。
【0027】
また、蓄熱体10は金属繊維群をシート状に成形してなり、金属繊維同士が相対的に移動して変形するようになっているので、繰返しの変形によって容易に破損することがなく、繰返しの変形によって液体等が漏れ出すこともない。従って、蓄熱体10の修理や再購入にかかるコストを低減することができる。
【0028】
また、金属板コイルCLを回転させながら金属板CLの軸方向端面を切削して金属繊維群を成形するようにしたので、金属繊維の一本ずつが長くなり、蓄熱体10からの金属繊維の脱落が防止されるとともに、蓄熱体10の機械的強度を向上することができる。また、金属板コイルCLを回転させながらその軸方向端面を切削して金属繊維群を成形するようにしたので、金属繊維群を効率良く成形することができ、製造コストの低減を図る上で極めて有利である。さらに、金属板コイルCLを回転させながらその軸方向端面を切削して金属繊維群を成形するようにしたので、金属薄板PLの厚さ寸法及び切削刃105の移動速度によって金属繊維の太さを容易且つ確実に設定することができる。
【0029】
尚、本実施形態では、金属板コイルCLを回転させながらその軸方向端面を切削して金属繊維群を成形するものを示したが、びびり振動切削法、収束伸線法、ワイヤ切削法などの周知の方法によって金属繊維を成形することも可能である。
【0030】
図5乃至図8は本発明の第2実施形態を示すもので、図5は蓄熱体の斜視図、図6は2枚のシート状金属繊維群を重ね合わせる際の動作説明図、図7はニードルパンチを行う際の動作説明図、図8は食品加熱用皿の断面図である。尚、第1の実施形態と同等の構成部分には同一の符号を付して示す。
【0031】
本実施形態の蓄熱体20は2枚のシート状金属繊維群21,22を重ね合わせて成形されている。
【0032】
各シート状金属繊維群21,22は、第1実施形態で蓄熱体10を成形する場合と同様に、金属薄板PLが巻回されてなる金属板コイルCLの軸方向端面を切削して金属繊維群を成形するとともに、その金属繊維群をシート状に成形してなる。ここで、一方のシート状金属繊維群21を成形する場合は金属薄板PLに強磁性を有するステンレスを用い、他方のシート状金属繊維群22を成形する場合は金属薄板PLに非磁性体であり且つステンレスよりも熱伝導率の高いアルミニウムを用いる。
【0033】
各シート状金属繊維群21,22は一方のシート状金属繊維群21が下側になるように重ね合わせられ(図6参照)、重ね合わせられた各シート状金属繊維群21,22には冶具30によってニードルパンチが行われる(図7参照)。冶具30は平板状に形成されて下面に複数のニードル31が設けられたものであり、ニードルパンチによって各シート状金属繊維群21,22が互いに絡み合うとともに、各シート状金属繊維群21,22が一体になる。各シート状金属繊維群21,22がニードルパンチによって一体になったものが本実施形態の蓄熱体20である(図5参照)。蓄熱体20は、下側が主に一方のシート状金属繊維群21で構成され、上側が他方のシート状金属繊維群22で構成されている。
【0034】
以上のように成形された蓄熱体20は例えば図8に示す食品加熱用皿に用いられる。
【0035】
この食品加熱用皿は、第1実施形態と同様に断熱部材11、受け皿12及びプレート13を有し、蓄熱体20は断熱部材11を介して受け皿12に保持されている。
【0036】
このように構成された食品加熱用皿は、図8のように周知の電磁誘導を用いた加熱器IHに載置され、加熱器IHによって蓄熱体20が加熱される。受け皿12、断熱層11a、反射層11b及び蓄熱体20の上側を構成する他方のシート状金属繊維群22は非磁性体であり、蓄熱体20の下側を構成する一方のシート状金属繊維群21は強磁性金属の金属繊維群をシート状に成形してなるので、加熱器IHの電磁誘導によって蓄熱体20の下側が加熱される。また、蓄熱体20の上側を構成する他方のシート状金属繊維群22は熱伝導率の高いアルミニウムからなるので、蓄熱体20の下側で発生した熱をプレート13の下面の全体に均一に伝達することができる。
【0037】
このように、本実施形態の蓄熱体20は強磁性金属の繊維を含む金属繊維群をシート状に成形してなることから、蓄熱体20は電磁誘導を用いた加熱器IHによって加熱可能であり、また、蓄熱体20は金属繊維群をシート状に成形してなり、蓄熱体20に可撓性を付与することができる。即ち、本実施形態の蓄熱体20は第1実施形態の蓄熱体10と同様の作用効果を有するととともに、蓄熱体20で発生した熱をプレート13の下面の全体により均一に伝達することができる。
【0038】
また、他方のシート状金属繊維群22は一方のシート状金属繊維群21よりも比重が小さいので、蓄熱体20の軽量化を図る上で極めて有利である。
【0039】
尚、本実施形態では、他方のシート状金属繊維群22がアルミニウムからなるものを示したが、アルミニウムの代わりに銅や亜鉛等の熱伝導率の高い非磁性金属を用いることも可能である。
【0040】
また、本実施形態では、各シート状金属繊維群21,22を繊維が略90°異なる方向を向くように重ね合わせたものを示したが、各シート状金属繊維群21,22を繊維の方向が等しくなるように重ね合わせることも可能である(図9参照)。
【0041】
尚、本実施形態では、蓄熱体20を受け皿12内に設けたものを示したが、図10に示すように、蓄熱体20を食品加熱容器の容器本体40内に設けることも可能である。この場合、容器本体40は、食品を収容するために凹状に形成された上側本体41と、容器本体40の下面側を構成し、上側本体41の下面側との間に蓄熱体20を収容する下側本体42とを有する。上側本体41及び下側本体42は非磁性体であるセラミックからなり、食品加熱容器は容器本体40を載置する木製のトレイ50を有する。容器本体40はトレイ50に載置された状態で電磁誘導を用いた加熱器IHによって加熱され(図10参照)、例えば石焼ビビンバの加熱調理に用いられる。また、加熱調理された後はトレイ50とともに客席に提供される。
【0042】
このように、蓄熱体20が電磁誘導を用いた加熱器IHによって加熱可能であることから、蓄熱体20と加熱器IHとの間にトレイ50及び下側本体42が配置されている状態でも、蓄熱体20を加熱器IHによって加熱することができ、加熱にかかる手間の低減を図ることができる。また、蓄熱体20に可撓性を付与することができるので、蓄熱体20が上側本体41の下面側に沿って変形し、上側本体41の下面側の全体に均一に熱を伝えることができる。さらに、蓄熱体が金属製の板状部材からなり、容器本体40内の空間形状に応じて蓄熱体が精度良く成形されていない場合は、蓄熱体が容器本体40内で無用に移動し、蓄熱体の移動によって衝突音が生ずるが、本実施形態では蓄熱体20に可撓性を付与することができるので、蓄熱体20を容器本体40内の空間形状よりも少し大きく成形することにより、蓄熱体20の容器本体40内における移動を容易且つ確実に防止することができる。また、蓄熱体20は金属繊維群をシート状に成形してなるので、仮に蓄熱体20が容器本体40内で移動した場合でも、蓄熱体20の移動によって衝突音が生ずることがない。さらに、蓄熱体が金属製の板状部材からなり、蓄熱体が容器本体40内の空間形状に応じて精度良く成形されている場合は、蓄熱体の熱膨張係数と容器本体40の熱膨張係数との違いにより容器本体40に無用に力が加わるが、本実施形態の蓄熱体20は金属繊維群をシート状に成形してなるので、蓄熱体20の加熱によって容器本体40に無用な力が加わることがない。
【0043】
尚、本実施形態では、蓄熱体20を受け皿12内に設けたものを示したが、図11に示すように、蓄熱体20をクッションの熱源として設けることも可能である。この場合のクッションは、蓄熱体20と、蓄熱体20の下面を覆うように設けられた第1断熱部材61と、蓄熱体20の側面を全周に亘って覆うように設けられた第2断熱部材62と、蓄熱体20の上面を覆うように設けられた第3断熱部材63と、第1断熱部材61の下面を覆うとともに第2断熱部材62の側面を全周に亘って覆うように設けられた反射部材64と、蓄熱体20、各断熱部材61,62,63及び反射部材64を覆うように設けられた袋部材65とを備えている。各断熱部材61,62,63はカーボン繊維等のように低い熱伝導率を有し、且つ、所要の耐熱性を有するものであれば良く、ガラス繊維、プラスチック、ゴム等を用いることが可能である。反射部材64はアルミニウム等の非磁性体の金属材料からなる。
【0044】
このように構成されたクッションは、図11に示すように電磁誘導を用いた加熱器IHに載置され、加熱器IHによって蓄熱体20が加熱される。このクッションは例えば屋外のスタジアムの観客に貸し出され、観客が座席に座る際に使用する。
【0045】
このように、蓄熱体20が電磁誘導を用いた加熱器IHによって加熱可能であることから、蓄熱体20と加熱器IHとの間に袋部材65、反射部材64及び第1断熱部材61が配置されている状態でも、蓄熱体20を加熱器IHによって加熱することができ、加熱にかかる手間の低減を図ることができる。また、蓄熱体20に可撓性を付与することができるので、蓄熱体20がクッションの変形に追随し、クッションの触感を軟らかくすることができる。さらに、蓄熱体20は金属繊維群をシート状に成形してなり、金属繊維同士が相対的に移動して変形するようになっているので、繰返し変形させても容易に破損することがなく、繰返し変形させても液体等が漏れ出すこともない。従って、蓄熱体20の修理や再購入にかかるコストを低減することができる。
【0046】
また、蓄熱体20は金属繊維群をシート状に成形してなり、蓄熱体20は電磁誘導を用いた加熱器IHによって加熱されるので、ポリエチレングリコール等の蓄熱材を袋部材に収容してなる蓄熱体と比べて高温まで加熱することができ、長時間に亘って蓄熱を行う上で有利である。
【0047】
また、第1断熱部材61の下面及び第2断熱部材62の側面が反射部材64によって覆われているので、蓄熱体20から放射されて各断熱部材61,62を通過した熱が蓄熱体20側に反射し、蓄熱体20の温度低下を効果的に抑制することができる。
【0048】
図12乃至図13は本発明の第3実施形態を示すもので、図12はコイル切削用旋盤の要部斜視図、図13は蓄熱体の斜視図である。尚、第1実施形態と同等の構成部分には同一の符号を付して示す。
【0049】
本実施形態では第1の金属薄板PL1と第2の金属薄板PL2が重ね合わせられて巻回された金属板コイルCLを用いて金属繊維群を成形する(図12参照)。ここで、金属板コイルCLは第1の金属薄板PL1と第2の金属薄板PL2とが径方向に交互に配置されている。また、第1の金属薄板PL1は強磁性を有するステンレスからなり、第2の金属薄板PL2は非磁性体であり且つステンレスよりも比重の小さいアルミニウムからなる。このため、金属板コイルCLの軸方向端面を切削すると、ステンレスからなる強磁性金属繊維とアルミニウムからなる非磁性金属繊維とが混合された金属繊維群が成形される。また、第1実施形態と同様に前述の金属繊維群をシート状に成形して蓄熱体70を成形することができる(図13参照)。
【0050】
本実施形態の蓄熱体70は強磁性金属繊維(ステンレス繊維)を含む金属繊維群をシート状に成形してなることから、蓄熱体70が電磁誘導を用いた加熱器によって加熱可能であり、例えば蓄熱体70が第1実施形態の蓄熱体10のように受け皿12とプレート13との間に配置されている状態でも、蓄熱体70を電磁誘導を用いた加熱器によって加熱可能であり、加熱にかかる手間の低減を図ることができる。また、蓄熱体70は強磁性金属繊維(ステンレス繊維)と強磁性金属繊維よりも比重の小さい非磁性金属繊維(アルミニウム繊維)とが混合された金属繊維群をシート状に成形してなることから、蓄熱体70の重量の低減を図ることができる。さらに、強磁性を有する第1の金属薄板PL1と非磁性体の金属薄板PL2とが重ね合わせられて巻回された金属板コイルCLを用いており、その金属板コイルCLの軸方向端面を切削して金属繊維群を成形するようにしたので、強磁性金属繊維と非磁性金属繊維とが自動的に混合される。即ち、強磁性金属繊維と非磁性金属繊維を別々に成形した場合は、強磁性金属繊維と非磁性金属繊維とを混合させる工程が必要になるが、金属繊維同士の混合は容易ではないので、強磁性金属繊維と非磁性金属繊維とが自動的に混合される本実施形態は極めて有利である。また、蓄熱体70は金属繊維群をシート状に成形してなり、蓄熱体70に可撓性を付与することができるので、第1実施形態と同様の作用効果も有する。
【0051】
尚、本実施形態では、強磁性を有する第1の金属薄板PL1と非磁性体の第2の金属薄板PL2の2枚の金属薄板が重ね合わせられた金属板コイルCLを用いたものを示したが、3枚以上の金属薄板が重ね合わせられた金属板コイルCLを用いることも可能である。即ち、重ね合わせる金属薄板の種類によって蓄熱体70中の強磁性金属繊維と非磁性金属繊維の比率を変更することができ、用途に応じて蓄熱体70の特性を任意に設定することができる。
【0052】
尚、本実施形態では、切削刃105によって金属板コイルCLの軸方向端面に通常の切削加工を施し、金属繊維の一本ずつが長くなるようにしたものを示したが、金属のブロックを切削刃の自励振動を利用するびびり切削法によって切削することにより、強磁性金属繊維及び非磁性金属繊維を成形し、その金属繊維を混合して蓄熱体70を成形することも可能である。この場合、金属繊維の一本ずつが短くなるので、金属繊維群に振動を加えながら金属繊維群をシート状に成形すると、非磁性金属繊維(アルミニウム繊維)よりも比重の大きい強磁性金属繊維(ステンレス繊維)が蓄熱体70の下側に集中し、電磁誘導を用いた加熱器によって蓄熱体70を下側から加熱する際の加熱効率を向上することができる。
【0053】
尚、本実施形態では、強磁性を有する金属材料としてステンレスを用いたものを示したが、ステンレスの代わりに鉄などの強磁性を有する金属材料を用いることも可能である。また、所定の温度に達すると磁性を失う鉄及びニッケルからなる周知の整磁合金を用いることも可能である。この場合、電磁誘導を用いた加熱器による蓄熱体の過加熱を防止することができる。
【0054】
また、前述の各実施形態では、強磁性金属繊維を含む金属繊維群をシート状に成形してなる蓄熱体10,20,70を電磁誘導を用いた加熱器によって加熱し、蓄熱体10,20,70を熱源として利用するようにしたものを示したが、蓄熱体10,20,70の一端面に金属板、粒状金属群、袋部材に収容された液状の蓄熱材などの他の蓄熱体を接触させ、蓄熱体10,20,70及び他の蓄熱体を熱源として利用することも可能である。また、蓄熱体20において、各シート状金属繊維群21,22の間に粒状金属群を充填し、各金属繊維群21,22及び粒状金属群を熱源として利用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の第1実施形態を示す蓄熱体の斜視図
【図2】コイル切削用旋盤の斜視図
【図3】心棒に巻き取られた金属繊維群を切断してシート状に成形する際の動作説明図
【図4】食品加熱用皿の断面図
【図5】本発明の第2実施形態を示す蓄熱体の斜視図
【図6】2枚のシート状金属繊維群を重ね合わせる際の動作説明図
【図7】ニードルパンチを行う際の動作説明図
【図8】食品加熱用皿の断面図
【図9】第2実施形態の変形例を示す蓄熱体の斜視図
【図10】第2実施形態の変形例を示す食品加熱容器の断面図
【図11】第2実施形態の変形例を示すクッション断面図
【図12】本発明の第3実施形態を示すコイル切削用旋盤の要部斜視図
【図13】蓄熱体の斜視図
【符号の説明】
【0056】
10…蓄熱体、11…断熱部材、11a…断熱層、11b…反射層、12…受け皿、13…プレート、20…蓄熱体、21…シート状金属繊維群、22…シート状金属繊維群、30…冶具、31…ニードル、40…容器本体、41…上側本体、42…下側本体、50…トレイ、61…第1断熱部材、62…第2断熱部材、63…第3断熱部材、64…反射部材、65…袋部材、70…蓄熱体、PL…金属薄板、PL1…第1の金属薄板、PL2…第2の金属薄板、CL…金属板コイル、IH…加熱器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性金属の繊維を含む金属繊維群をシート状に成形してなる
ことを特徴とする蓄熱体。
【請求項2】
強磁性金属の繊維を含む金属繊維群をシート状に成形して蓄熱体を製造する蓄熱体の製造方法であって、
強磁性金属の薄板を含む金属薄板が巻回されてなる金属板コイルを回転させながら、金属板コイルの軸方向端面を切削することにより、金属繊維群を成形する工程を含む
ことを特徴とする蓄熱体の製造方法。
【請求項3】
前記強磁性金属の薄板と非磁性金属の薄板が重ね合わせられるとともに巻回されてなる金属板コイルを用いる
ことを特徴とする請求項2記載の蓄熱体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−115486(P2008−115486A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−297795(P2006−297795)
【出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【出願人】(300054631)有限会社エフ・テイ・イノベーション (14)
【Fターム(参考)】