説明

蓄電池の劣化診断方法および劣化診断装置

【課題】MSE蓄電池などのシール型バッテリあっても、その劣化状態を精度よく判断することができる蓄電池の劣化診断方法および劣化診断装置を提供する。
【解決手段】蓄電池Batに対して交流電流を供給したときにおける電流値および電圧値に基づいて蓄電池Batのインピーダンスを測定し、このインピーダンスの値に基づいて蓄電池Batの劣化を診断する方法であって、蓄電池Batに供給する交流電流の周波数を変更し、各周波数におけるインピーダンスを測定してインピーダンスの周波数特性曲線fを形成し、この周波数特性曲線に基づいて虚数部が0となるインピーダンスの値を求め、該インピーダンスの値に基づいて蓄電池の劣化状態を判断する。インピーダンスの虚数部分であるリアクタンス部を蓄電池のインピーダンスから確実に除去することができるから、電極抵抗の変化を正確に把握でき、蓄電池の劣化状態を正確に判断することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池の劣化診断方法および劣化診断装置に関する。停電時における電力供給のバックアップは無停電電源装置(UPS)や非常用電源装置によってなされている。このような電源装置内には鉛蓄電池・アルカリ蓄電池など充電により繰返し使用可能な二次電池がバックアップ用バッテリとして組み込まれている。無停電電源装置や非常用電源装置のメンテナンスにおいて、バックアップ用バッテリの劣化判定を行いこれらを常に最良の状態にしておくことは大変重要である。従来の据置形バッテリのメンテナンスでは、充放電による容量試験の他、電解液面検査・各種栓体・パッキンの状態等の外観点検、充電電圧の測定・比重測定・液温測定等の機能点検、その他環境調査などから劣化状態を判断していた。近年では、バックアップ用バッテリとしてシール型バッテリであるMSE蓄電池の需要が拡大しているが、かかるMSE蓄電池の場合、電解液の状態を直接検査することができないので、従来の方法では劣化状態をチェックすることができない。したがって、現在、MSE蓄電池の劣化状態をチェックする方法が種々研究され開発されている。
本発明は、かかるMSE蓄電池等のシール型バッテリであっても劣化状態をチェックできる蓄電池の劣化診断方法および劣化診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MSE蓄電池等のシール型バッテリの劣化を判断する方法として、短時間放電電圧測定法や内部抵抗法等が開発されている。
【0003】
短時間放電電圧測定法は、バッテリーを短時間、比較的大電流(1C)で放電させ、そのときの電圧降下を測定するものであり、高精度で劣化を判断することができるという特徴がある。しかし、短時間放電電圧測定法の場合、大電流で放電させる必要があることから検査装置自体も大型になるし、装置も高価格になってしまう。また、大電流を放電させる場合、十分安全対策を取って実施する必要もありバッテリにも悪影響を与える可能性も否定できない。
【0004】
一方、内部抵抗法は、蓄電池の劣化が進行すると内部インピーダンスが増加するという特性を利用したものであり、蓄電池の初期状態のインピーダンスを、測定したインピーダンスと比較して蓄電池の劣化を判定する方法である。この方法の場合、電力の残量容量を数値で把握することはできないものの劣化状態を容易に把握できるという特徴があり、しかも、蓄電池に供給する電流が小さいので小形の測定器によって短時間で測定することができるという利点もある。
【0005】
しかし、内部抵抗法では、簡便かつ小型の装置で劣化判断できるものの、以下の問題が存在していた。
蓄電池の劣化は主として正極格子の腐食に起因し、正極格子の腐食に伴う電極抵抗の増加として現れるのであるが、内部抵抗法によって測定される蓄電池のインピーダンスには、電極抵抗だけでなく、蓄電池の劣化にほとんど関係しないリアクタンス部の影響も含まれている。そして、リアクタンス部の影響は劣化状態により大きく変化することから、測定の状態によってインピーダンスの値が大きく変動してしまい、劣化状態の判断精度が悪くなるという問題が存在していた。
【0006】
リアクタンス部の影響はインピーダンスの虚数部に表れるので、内部抵抗法の問題を解決する方法として、測定されたインピーダンスから虚数部を取り除き、蓄電池の劣化判定に重要な電極抵抗を現す実効抵抗のみを抽出して劣化判断する技術が非特許文献1に開示されている。
非特許文献1には、インピーダンスの実効抵抗を抽出する具体的な方法は記載されていないが、その記載から、以下のようにして虚数部分を取り除き、実効抵抗のみを抽出していると推測される。
【0007】
まず、図3に示すように、交流電源ACを蓄電池Batに接続して単一周波数の交流電流(周波数1kHz)を供給する。すると、電流計A、電圧計Vによって図3(B)に示すような電流の変動AC-A、および電圧の変動PC-Vが検出されるから、インピーダンスZは電流の測定値と電圧の測定値から求めることができる。
また、検出された電流の変動AC-Aと電圧の変動PC-Vとの間には、インピーダンスZに起因する位相差θが生じるのであるが、検出された電流の変動AC-Aおよび電圧の変動PC-Vを検波して方形波に変形すればこの位相差θを方形波の重なり(図3(B)の斜線部)から求めることができる。
そして、インピーダンスZと位相差θが把握できれば、図3(C)に示す式より、インピーダンスZの実効抵抗Rを求めることができるから、この実効抵抗Rと初期状態における実効抵抗とを比較すれば劣化状態を判断することができる。
【0008】
しかるに、非特許文献1の技術は、単一周波数の電流を印加したときにおける電流の変動AC-Aと電圧の変動PC-Vとの間の位相差θを求めることによってインピーダンスZの実効抵抗を抽出しているのであるが、検出される電流値や電圧値にはノイズが含まれている。
また、バックアップ用電源として使用される蓄電池には、蓄電池を充電するために使用される整流器を備えている場合が一般的であり、インピーダンスZは、この整流器の存在に起因して発生する高調波の影響を受ける。
すると、電流の変動AC-Aおよび電圧の変動PC-Vを検波した方形波から位相差θを求めても、求められた位相差θにノイズや高調波の影響が現れてくる。蓄電池の劣化による電極抵抗の変化は非常に小さいので、ノイズや高調波の影響による位相差θの誤差が生じれば、実際の実効抵抗に対する算出された実効抵抗の誤差は相対的に大きくなり、劣化状態の判断精度が悪くなってしまう。このため、非特許文献1の技術を採用しても、劣化状態の判断精度を向上させることは難しい。
【0009】
【非特許文献1】小林健二他、日置技報 VOL.18 1997 No.1、3頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑み、MSE蓄電池などのシール型バッテリあっても、その劣化状態を精度よく判断することができる蓄電池の劣化診断方法および劣化診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明の蓄電池の劣化診断方法は、蓄電池に対して交流電流を供給したときにおける電流値および電圧値に基づいて蓄電池のインピーダンスを測定し、このインピーダンスの値に基づいて蓄電池の劣化を診断する方法であって、蓄電池に供給する交流電流の周波数を変化させて、各周波数におけるインピーダンスを測定してインピーダンスの周波数特性曲線を形成し、この周波数特性曲線に基づいて虚数部が0となるインピーダンスの値を求め、該インピーダンスの値に基づいて蓄電池の劣化状態を判断することを特徴とする。
第2発明の蓄電池の劣化診断方法は、第1発明において、蓄電池に供給する交流電流の周波数を変化させる周波数変化範囲を、10〜500Hzとすることを特徴とする。
第3発明の蓄電池の劣化診断方法は、第1発明において、蓄電池に供給する交流電流の周波数を変化させる周波数変化範囲が、加速劣化試験結果に基づいて決定されたものであることを特徴とする。
第4発明の蓄電池の劣化診断装置は、蓄電池に対して交流電流を供給する電流供給部と、蓄電池に供給される電流値を測定する電流計と、蓄電池に電流を供給したときにおける蓄電池の端子間電圧を測定する電圧計と、前記電流計が検出した電流値と、前記電圧計が検出した電圧値とに基づいて、蓄電池のインピーダンスを算出する演算機能を備えた演算制御部とを備えており、前記電流供給部は、蓄電池に供給する交流電流の周波数を変化させることが可能なものであり、前記演算制御部は、前記電流供給部から蓄電池に供給する交流電流の周波数を制御する機能と、交流電流の各周波数におけるインピーダンスに基づいて、インピーダンスの周波数特性曲線を形成し、この周波数特性曲線において虚数部が0となるインピーダンスの値に基づいて蓄電池の劣化状態を判断する劣化判断機能と備えていることを特徴とする。
第5発明の蓄電池の劣化診断装置は、第4発明において、蓄電池に供給する交流電流の周波数を変化させる周波数変化範囲が、10〜500Hzであることを特徴とする。
第6発明の蓄電池の劣化診断装置は、第4発明において、蓄電池に供給する交流電流の周波数を変化させる周波数変化範囲が、加速劣化試験結果に基づいて決定されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1発明によれば、周波数特性曲線から虚数部が0となるインピーダンスの値を求めているので、蓄電池の劣化にほとんど関係しないインピーダンスの虚数部分を、蓄電池のインピーダンスから確実に除去することができる。すると、インピーダンスの実数成分に相当する電極抵抗の変化を正確に把握できるから、蓄電池の劣化状態を正確に判断することができる。また、周波数特性曲線に基づいて電極抵抗を求めているので、蓄電池に整流器が設けられている場合であっても、整流器が存在することに起因する高調波の影響を除去することができる。
第2発明によれば、限定された周波数でインピーダンスを求めているので、インピーダンス測定の際に、測定した信号から周波数変化範囲外の信号をノイズとして除去することができる。すると、ノイズがインピーダンスの測定結果に与える影響を小さくすることができ、インピーダンスの実数成分を正確に算出することができる。
第3発明によれば、周波数変化範囲を加速劣化試験結果に基づいて決定しているので、確実に虚数部が0となる周波数を含む範囲で検査を行うことができる。
第4発明によれば、周波数特性曲線から虚数部が0となるインピーダンスの値を求めているので、蓄電池の劣化にほとんど関係しないインピーダンスの虚数部分を、蓄電池のインピーダンスから確実に除去することができる。すると、インピーダンスの実数成分に相当する電極抵抗の変化を正確に把握できるから、蓄電池の劣化状態を正確に判断することができる。また、周波数特性曲線に基づいて電極抵抗を求めているので、蓄電池に整流器が設けられている場合であっても、整流器が存在することに起因する高調波の影響を除去することができる。
第5発明によれば、限定された周波数でインピーダンスを求めているので、インピーダンス測定の際に、測定した信号から周波数変化範囲外の信号をノイズとして除去することができる。すると、ノイズがインピーダンスの測定結果に与える影響を小さくすることができ、インピーダンスの実数成分を正確に算出することができる。
第6発明によれば、周波数変化範囲を加速劣化試験結果に基づいて決定しているので、確実に虚数部が0となる周波数を含む範囲で検査を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図2(A)は蓄電池Batにおけるインピーダンスの周波数特性曲線の説明図であり、(B)は本実施形態の劣化診断装置10のブロック図である。同図(B)に示すように、本実施形態の劣化診断装置10は、劣化を測定する対象となる蓄電池Batに電流を供給する電流供給部11と、電流値や電圧値を測定する測定部15と、演算制御部20とを備えている。
【0014】
まず、電流供給部11は、所定の周波数に調整された交流電流を蓄電池Batに対して供給するものである。この電流供給部11は、出力する交流電流の周波数を所定の周波数変化範囲内で変更可能である。そして、電流供給部11から蓄電池Batに対して供給する交流電流の周波数や電流値、電流供給時間は、演算制御部20によって制御されている。
この電流供給部11は、例えば所定の周波数の交流電圧を出力可能なオシロスコープ等と、このオシロスコープ等が出力した交流電圧をV−I変換する変換器とから構成することが可能である。なお、電流供給部11は、蓄電池Batに対して所定の周波数に調整された交流電流を供給することができ、出力する交流電流の周波数を所定の周波数変化範囲内で変更可能であり、また、蓄電池Bat供給する電流値や電流供給時間が変更可能なものであればよい。
【0015】
測定部15は、電流供給部11から蓄電池Batに供給される交流電流を測定する公知の電流計Aを有している。また、蓄電池Batに交流電流を供給したときに、蓄電池Batの電極間の電圧値を測定する公知の電圧計Vも備えている。
【0016】
なお、蓄電池Batと電圧計Vとの間にDCカットフィルタ16を設けてもよい。蓄電池Batには起電力が発生するため、電流を流すと、直流2V〜12Vに対して交流1mV程度の微小電圧が重畳されている。よって、DCカットフィルタ16を設けておけば、直流電圧をカットし交流成分だけを取り出すことができるから、演算制御部20によるインピーダンスの測定精度が向上するので、好適である。
さらになお、電流供給部11から蓄電池Batに対して供給する周波数範囲が限定されている場合には、電流計Aや電圧計Vにこの周波数範囲外の信号をノイズとして除去するフィルタ回路を設けておけば、蓄電池Batに接続されている電源などから侵入するノイズがインピーダンス値に与える影響を小さくすることができるので好適である。フィルタ回路を設けた場合、周波数により信号の位相が変化する可能性があるが、周波数変化範囲内の周波数を有する信号については位相を変化させないフィルタ回路を設ければ、かかる問題も防ぐことができる。
【0017】
演算制御部20は、一般的なパーソナルコンピュータ等であり、供給部11の作動を制御する制御機能21と、測定部15から送信される信号を演算処理する演算機能22と、演算機能22によって算出された電極抵抗値に基づいて蓄電池Batの劣化判断を行う劣化判断機能23とを備えている。
【0018】
まず、制御機能21とは、電流供給部11に対し、蓄電池Batに供給する交流電流の周波数を指示する信号を発信して、電流供給部11の作動を制御する機能である。制御機能21から電流供給部11に対して発信する信号には、所定の周波数変化範囲内の周波数を蓄電池Batに供給させる指示が含まれている。具体的には、測定する蓄電池BatがMSE100やMSE200、MSE300等のMSE型蓄電池であれば周波数変化範囲は10〜500Hzに設定され、この周波数変化範囲内の交流電流の周波数を蓄電池Batに供給するように指示する。この場合、蓄電池Batに整流器が設けられている場合であっても、整流器が存在することに起因して発生する高調波が500Hz以上、つまり周波数変化範囲外の周波数であれば、インピーダンスの測定結果が高調波によって影響を受けることを防ぐことができる。
【0019】
なお、周波数変化範囲は、MSE型蓄電池であれば上記範囲に設定すればよいが、上記の範囲に限定されない。つまり、周波数変化範囲はインピーダンスの虚数部分が0となる周波数を含む範囲に設定されるのであるが、蓄電池Batが変化すれば、インピーダンスの虚数部分が0となる周波数は変化するので、検査対象となる蓄電池Batに適した範囲に設定すればよい。各蓄電池Batに適した周波数変化範囲は、実験やシミュレーション等でにより決定することができる。例えば、加速劣化試験の結果に基づいて、周波数を変化させる範囲を決定すれば、より確実に虚数部が0となる周波数を含む範囲で検査を行うことができる。加速劣化試験とは、蓄電池Batを加熱することによって劣化を加速してその性質の変化を確認する試験であり、蓄電池Batの温度を10℃上昇させると、ほぼ2倍の加速係数を得ることができる。例えば、室温が25℃であれば、35℃に加熱すればほぼ2倍、45℃に加熱すればほぼ4倍に劣化速度を加速することができるのである。
【0020】
つぎに、演算機能22は、測定部15の電流計A、電圧計Vから送信される電流値と電圧値を含む信号に基づいてインピーダンスの値を算出し、算出されたインピーダンスの値に基づいて、交流インピーダンス法によりインピーダンスの実数部を算出する機能である。つまり、演算機能22は、前記電流供給部11から蓄電池Batに供給される交流電流の周波数を変化させたときにおける各周波数のインピーダンスから周波数特性曲線を形成し、この周波数特性曲線に基づいて虚数部が0となるインピーダンスの値を求め、このインピーダンスの値から電極抵抗を算出するのである。
【0021】
具体的には、交流電流の周波数を変化させたときにおける各周波数のインピーダンスの実数部と虚数部を算出し、そのインピーダンスの実数部と虚数部を周波数毎にメモリ等に記憶しておく。ついで、記憶されたインピーダンスに基づいて、複素座標上に周波数特性曲線f2を形成して、この周波数特性曲線f2が実軸Reと交わる交点のインピーダンスの値、つまり、虚数部が0となるインピーダンスの値を求めれば、電極抵抗値R2を算出することができるのである(図2(A)参照)。
【0022】
また、劣化判断機能23は、演算機能22で算出された電極抵抗値R2(図2(A)参照)に基づいて蓄電池Batの劣化を判断する機能、例えば、蓄電池Batの容量や蓄電池Batの寿命等を判断する機能である。
蓄電池Batの容量は、測定する蓄電池Batと同一の蓄電池Batにおいて、以前に測定された経年測定データや、実験室における蓄電池Batの容量と電極抵抗との関係を調べたデータと、測定された電極抵抗R2(図2(A)参照)を比較すれば、測定された電極抵抗R2の状態における蓄電池Batの容量が、新品時の蓄電池Batの概ね何%程度であるかを推測することができる。
また、蓄電池Batの寿命は、測定する蓄電池Batにおける新品時の蓄電池Batの電極抵抗R1(図2(A)参照)と測定された電極抵抗R2を比較して、測定された経年測定データに基づき電極抵抗R2が電極抵抗R1の2倍になる時点を蓄電池Batの交換時期と判断することができる。なお、電極抵抗R2が電極抵抗R1の2倍になる時点を交換時期とするのは、その時点では、一般的な蓄電池において交換が推奨される、蓄電池Batの容量が新品時の概ね80%程度になっていると推測されるからである。なお、蓄電池Batの交換時期は蓄電池Batのユーザー側で自由に決定することができ、電極抵抗R2が電極抵抗R1の2倍となる時点に限られないのはいうまでもない。
【0023】
つぎに、本実施形態の劣化診断装置10を使用して、蓄電池Batの劣化診断を行う方法を説明する。なお、以下では、MSE蓄電池の劣化診断を行った場合を例示するので、周波数変化範囲は、10〜500Hzとしている。
図1は(A)は本実施形態の劣化診断装置10によるインピーダンス測定のフローチャートであり、(B)は本実施形態の劣化診断装置10による電極抵抗を求めるフローチャートである。
【0024】
同図に示すように、まず本実施形態の劣化診断装置10を測定すべき蓄電池Batに接続する。
ついで、蓄電池Batに供給する交流周波数の周波数を変化させる周波数変化範囲が設定される。MSE蓄電池であれば、周波数変化範囲として、10〜500Hzが設定される。
【0025】
周波数変化範囲が設定されると、供給すべき交流電流の周波数を指示する測定開始信号が演算制御部20から電流供給部11に発信される。例えば、周波数500Hz、電流値3Ap(アンペアピーク)の交流電流を発信するように、演算制御部20から電流供給部11に発信される。
この信号を電流供給部11が受信すると、電流供給部11から蓄電池Batに対して上記のごとき交流電流が供給され、測定部15の電流計A,電圧計Vによって電流値、電圧値が測定される。このとき、交流電流は、演算制御部20の演算機能22により、その周波数におけるインピーダンスの測定が終了するまで供給される。
【0026】
なお、蓄電池Batに供給する電流値は3Apに限られず、0.1〜10Ap程度あればよい。あまり電流値が大きいと、蓄電池Batの静的な電極抵抗の測定が難しくなり、また、蓄電池Batの充放電が始まってしまう可能性がある。一方、電流値が小さすぎると、交流電流を印加したときに蓄電池Batの端子電極間に発生する電圧値が小さくなりノイズ等の誤差の影響が大きくなる。したがって、蓄電池Batに供給する電流値は、0.1〜10Ap程度が好ましく、2〜4Ap程度がさらに好ましい。
【0027】
すると、演算制御部20には電流計A、電圧計Vから測定された電流値、電圧値を含む信号が入力され、演算機能22によってインピーダンスが算出され、記憶される。このとき周波数が設定された周波数変化範囲内であれば、演算制御部20から電流供給部11に測定状態に関する信号である測定継続信号が送られる。
【0028】
測定継続信号には、電流供給部11から蓄電池Batに供給すべき交流電流の情報が含まれており、例えば、前回供給した交流電流に対して周波数を0.5〜1Hz程度低下させた交流電流を発信するように指示する信号が含まれている。
なお、周波数を変化させる割合は、上記範囲に限られず、また常に一定の割合で変化させなくてもよい。とくに、周波数特性曲線と実軸とが交差する周波数近傍において、測定する周波数の間隔が小さくなるようにしておけば、交点のインピーダンス値を精度良く求めることができるので好適である。
【0029】
測定継続信号を受信すると、電流供給部11は指示された周波数の交流電流が蓄電池Batに供給されるので、再び測定部15の電流計A,電圧計Vによって電流値、電圧値が測定される。すると、演算制御部20には電流計A、電圧計Vから測定された電流値、電圧値を含む信号が入力され、演算機能22によってインピーダンスが算出され、記憶される。このとき、蓄電池Batに供給される周波数が設定されている周波数変化範囲内であれば、演算部分21から電流供給部11に測定状態に関する信号である測定継続信号が送られる。
【0030】
上記作業が繰り返され、前回の周波数から変化させた交流電流の周波数が、設定されている周波数変化範囲から外れると、演算制御部20から電流供給部11に測定終了信号が発信され、測定が終了する。
【0031】
測定が終了すると、図1(B)に示すように、演算制御部20では記憶されているインピーダンスの値を複素平面上にプロットし、プロットされた値に基づいて実軸近傍に近似曲線、つまり周波数特性曲線を形成される。すると、周波数特性曲線と実軸の交点が求まるので、この交点のインピーダンスの値が電極抵抗となり、この電極抵抗に基づいて、劣化判断が行われる。
【0032】
なお、上述したように、蓄電池Batに供給する電流値は、せいぜい2〜4Ap、大きくても10Ap程度でよいので、電流供給部11を小型化できる。よって、本実施形態の劣化診断装置10をコンパクトにすることができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】(A)は本実施形態の劣化診断装置10によるインピーダンス測定のフローチャートであり、(B)は本実施形態の劣化診断装置10による電極抵抗を求めるフローチャートである。
【図2】(A)は蓄電池Batにおけるインピーダンスの周波数特性曲線の説明図であり、(B)は本実施形態の劣化診断装置10のブロック図である。
【図3】従来の劣化診断の概略説明図である。
【符号の説明】
【0034】
10 劣化診断装置
11 電流供給部
20 演算制御部
V 電圧計
A 電流計
Bat 蓄電地
f 周波数特性曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池に対して交流電流を供給したときにおける電流値および電圧値に基づいて蓄電池のインピーダンスを測定し、このインピーダンスの値に基づいて蓄電池の劣化を診断する方法であって、
蓄電池に供給する交流電流の周波数を変化させて、各周波数におけるインピーダンスを測定してインピーダンスの周波数特性曲線を形成し、
この周波数特性曲線に基づいて虚数部が0となるインピーダンスの値を求め、該インピーダンスの値に基づいて蓄電池の劣化状態を判断する
ことを特徴とする蓄電池の劣化診断方法。
【請求項2】
蓄電池に供給する交流電流の周波数を変化させる周波数変化範囲を、10〜500Hzとする
ことを特徴とする蓄電池の劣化診断方法。
【請求項3】
蓄電池に供給する交流電流の周波数を変化させる周波数変化範囲が、加速劣化試験結果に基づいて決定されたものである
ことを特徴とする請求項1記載の蓄電池の劣化診断方法。
【請求項4】
蓄電池に対して交流電流を供給する電流供給部と、
蓄電池に供給される電流値を測定する電流計と、
蓄電池に電流を供給したときにおける蓄電池の端子間電圧を測定する電圧計と、
前記電流計が検出した電流値と、前記電圧計が検出した電圧値とに基づいて、蓄電池のインピーダンスを算出する演算機能を備えた演算制御部とを備えており、
前記電流供給部は、蓄電池に供給する交流電流の周波数を変化させることが可能なものであり、
前記演算制御部は、
前記電流供給部から蓄電池に供給する交流電流の周波数を制御する機能と、
交流電流の各周波数におけるインピーダンスに基づいて、インピーダンスの周波数特性曲線を形成し、この周波数特性曲線において虚数部が0となるインピーダンスの値に基づいて蓄電池の劣化状態を判断する劣化判断機能と備えている
ことを特徴とする蓄電池の劣化診断装置。
【請求項5】
蓄電池に供給する交流電流の周波数を変化させる周波数変化範囲が、10〜500Hzである
ことを特徴とする蓄電池の劣化診断装置。
【請求項6】
蓄電池に供給する交流電流の周波数を変化させる周波数変化範囲が、加速劣化試験結果に基づいて決定されたものである
ことを特徴とする請求項1記載の蓄電池の劣化診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−333494(P2007−333494A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164115(P2006−164115)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000180368)四国電力株式会社 (95)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【Fターム(参考)】